【神乱】ドラゴンフライ
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/27 19:40



■オープニング本文

 天儀暦1009年12月末に蜂起したコンラート・ヴァイツァウ率いる反乱軍は、オリジナルアーマーの存在もあって、ジルベリア南部の広い地域を支配下に置いていた。
 しかし、首都ジェレゾの大帝の居城スィーラ城に届く報告は、味方の劣勢を伝えるものばかりではなかった。だが、それが帝国にとって有意義な報告かと言えば‥‥
 この一月、反乱軍と討伐軍は大きな戦闘を行っていない。だからその結果の不利はないが、大帝カラドルフの元にグレフスカス辺境伯が届ける報告には、南部のアヤカシ被害の前例ない増加も含まれていた。しかもこれらの被害はコンラートの支配地域に多く、合わせて入ってくる間諜からの報告には、コンラートの対処が場当たり的で被害を拡大させていることも添えられている。
 常なら大帝自ら大軍を率いて出陣するところだが、流石に荒天続きのこの厳寒の季節に軍勢を整えるのは並大抵のことではなく、未だ辺境伯が討伐軍の指揮官だ。
「対策の責任者はこの通りに。必要な人員は、それぞれの裁量で手配せよ」
 いつ自ら動くかは明らかにせず、大帝が署名入りの書類を文官達に手渡した。
 討伐軍への援軍手配、物資輸送、反乱軍の情報収集に、もちろんアヤカシ退治。それらの責任者とされた人々が、動き出すのもすぐのことだろう。

 ジルベリアの空に、悠々と舞う空アヤカシ達。その大部分は本隊を迎撃する為であり、迎え撃つ志体持ちも多い。だが、アヤカシはそれが全てではなかった。
 中心部から、少しばかり離れた沿岸の町。騒乱も遠いその村は、大帝の威光よりも、村の伝統が優先される村だった。
「遠い親より近くの親戚と言いますしなぁ」
「困っている人を見捨てないと言うのが、じーさまの教えだし‥‥」
 一応、村でも何がしかの対策をしておくべきだろうと言う事で、話し合った結果、隣人には親切にすると言う昔ながらの慣習法に則り、反乱軍だろうがなんだろうが、怪我人や避難民は、村の客人として温かく迎え入れてあげようじゃないかと決まった。
「あの集会所なら、掃除すれば10人くらいは泊まれるでしょうか」
「もし使わなくても、掃除は悪い事じゃねぇべ」
 何かあったら困るので、村の外れにある普段は使っていない寄り合い所を、臨時の受け入れ施設として解放する事にする村人達。使わなくても、それはそれだ。事件が起きたのは、掃除をしていた最中だった。
「気をつけろよ。だいぶ痛んでそうだから‥‥おわっ」
 傷んだ祭壇を直していた村人が、その床を踏み抜いてしまう。踏み抜いたと言うよりは、外れたと言った方が適切だろう。わずかにずれた足元から、ひゅうひゅうと風の抜ける音が聞こえる。
「これ、なんだろうな?」
 明かりをかざして見てみれば、だいぶ奥まで繋がっているようだ。何かあると困るので、床板を外してみれば、ひと一人が通れそうな穴が広がっている。風は、その奥から吹き上げていた。そっと灯りを降ろしてみると、どうやら村の外まで繋がっているようだ。
 ところが。

 きししししし‥‥。

 風の音に混ざって、何かが牙を軋ませるような声が聞こえて来た。不気味な音に、顔を見合わせる村人。嫌な予感がしたのもつかの間、ぬっと顔を出したのは、巨大な蜻蛉の顔だった。
「うわぁぁぁ。アヤカシだぁぁぁ!!」
「逃げろ!」
 回れ右。

「えらい事になった‥‥」
 逃げてきた村人から事情を聞いた村長が頭を抱えている。どうやら、穴は村の外の崖に繋がっており、そこから巨大蜻蛉‥‥この辺りではドラゴンフライと呼ぶ‥‥が入り込んできたようだ。
 家ほどもある大きなアヤカシだった。戦乱からまぎれてきたのだろう。手傷を負っている。怪我人を受け入れるとは決めたものの、アヤカシは例外だ。受け入れたらこっちが食べられてしまう。ドラゴンフライ達は、逃げた村人を探してか、蜻蛉の動きそのままで、あちこちを跳びまわっている。しかし、どういうわけか人々よりも違う何かを探しているようだった。
「もしかして、宝珠なんじゃ‥‥」
「えぇ!? あれただの首飾りだろ!?」
 実は、その村には代々伝わる首飾りがあった。村の年中行事等で、村長が身につけ、精霊に祈りを捧げるシンボルのようなものである。言い伝えでは、風にまつわる宝珠とかで、伝説を聞いた近隣の若者が、現物を拝みに来る事も多かったのだが。
「と、とにかく首飾りを隠そうっ」
 掃除の都合、村長の館にいた村人がばたばたとあわただしく首飾りを隠そうとする。しかし、アヤカシはその動きを察知したのか、館めがけてぶっ飛んできた。
「こ、これ。どこか違うところに持っていかないと、あのドラゴンフライずっといますよ!?」
「うううむ。仕方がない。これも村の為じゃ‥‥。一時預けるとしようっ」
 村の中に置いておくと、アヤカシが居座ってしまう。そう判断した村長は、ギルドにヘルプを出した。一台しかない風神器を通じ、彼らはこう訴える。

『村にドラゴンフライが現れました。どうやら村の大切な首飾りを狙っているようです。退治するのも勿論ですが、この首飾りを、戦乱が収まるまで、アヤカシ達に壊されない場所で預かってください』

 なお、数は6匹だそうである。


■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
ひろし(ib0697
22歳・男・騎


■リプレイ本文

 一行は、大蜻蛉を退治して村の宝珠を護る為、龍に跨り、件の村へと向っていた。ぐるぐると蜻蛉そのままの動きでもって、ひっそりした村の中を周回する大トンボ達。思わずこんな歌がよぎる。
「とんぼの眼鏡はぐるぐる眼鏡〜♪」
 鼻歌交じりの緊張感で、ぶんぶんと跳びまわる蜻蛉を確かめている斉藤晃(ia3071)。
「・・・何を食べたらあんなに大きく育っちゃうんでしょうね」
 ため息をつく菊池・志郎(ia5584)。青いお空を見てたらでかくなったわけではないのだが、いるだけでも、その辺の空の桶がばたばたと薙ぎ倒されている。
「なんとも季節はずれなアヤカシどすなぁ。蜻蛉は秋の季語どす。風流もないどすわ」
 芸を嗜む者としては、季節感と言うものは大事にしたい華御院・鬨(ia0351)。しかし、アヤカシに季節は関係ない模様で、ぶんぶんとうるさい羽音を響かせては、何やら探し回っている。
「まったく、人同士の争いの隙間を狙って妖魔どもが騒ぎやがる。…たまらんな」
 巴・渓(ia1334)の脳裏によぎったのは、いっそ人間の暴走を抑える為に、世界がアヤカシを生み出したのでは? との思いだったが、それはきっとこの間読んだ絵草子の影響だろう。
「宝珠に引き寄せられるアヤカシ、ですか……。アヤカシの性質としてはいささか引っかかる点ではございますが……現に危険に見舞われている人が居る以上、解明よりもまずは退治せねばなりませんね」
「人を浚ったりこの辺のアヤカシは何か奇妙な感じがしますわ。今回の反乱ももっと大きな陰謀の掌のことなのかも知れないですわね」
 高遠・竣嶽(ia0295)もアレーナ・オレアリス(ib0405)も、宝珠を狙うアヤカシに、何らかの黒幕の存在を感じているようだ。
「私は国には仕えていません。今はただ、民の為に戦っています」
 しかし、今は姿の見えない敵よりも、目の前の蜻蛉から人々を護る方が目的だ。そう言いたげなシエラ・ダグラス(ia4429)、元々は帝国軍人だそうである。
「そうだね。アヤカシに苦しめられている人たちのため頑張るよ」
 今回が初陣だと言っていたひろし(ib0697)が、力強く宣言していた。と、その片隅で斉藤が「よーし、でけたっ」とばかりに、何やら白いねばねばが付いた棒のようなものを立てている。
「ところで、さっきから斉藤の旦那は何を作ってるの?」
「蜻蛉を捕まえるならこれが定番やろ。あと、この紐を引っ張ると蓋がしまる。どや?」
 その足元には、巨大な虫かごがあった。んで、木の棒には紐が結わえられており、引っ張るとかごの蓋が落ちる。自信満々でにやーりと笑うが、見る限りどう見ても大蜻蛉が入りそうにない。
「とっ捕まえるのは良いが、えさがないぞ?」
 しかも、虫かごはからっぽだ。その事を巴が指摘すると、斉藤の旦那は「あるやろ、村長ン家に」と、宝珠を示していた。
「なるほどな。じゃ、宝珠の確保に行くか。他の奴は、自前の宝珠で頼む」
 もっとも、そこまではまだ距離があり、蜻蛉がヴンヴンと唸っている。まだ探しているのだろう、あちこちの家々にぶつかるようにして、村の中を跳び待っていた。
「私も行きましょう。何かあったら困りますし」
「では、上空から護衛しておきます。付いたら合図をお願いします」
 防御に自信のあるらしい高遠が同行し、アレーナが龍で舞い上がる。他の面々は、それぞれ宝珠のついた武具を手に、蜻蛉の引き受け役だ。
「よし。ひきつけられると良いんだが、反応するかやってみよう。散開!」
 巴の合図に、ぱっとそれぞれの役を全うするべく、それぞれの場所へ向う開拓者達。一番人数の多い宝珠を持っての囮組に、蜻蛉達がきちきちと鳴き声を上げて反応している。しかしそれは、踏み込まれたからの騒ぎで、攻撃意欲を示しているに過ぎない。
「反応せんねやったら、その箱に入れておけばいけるかもな」
 斉藤が、先ほどの虫かごを投げて寄越す。それを受け取ったのを確かめると、くるりと周り右して、町の大通りへと足を踏み入れる。沿道とは言え、周囲には家々があり、村人の姿が垣間見える
「村人が何人かいるどすなぁ」
 華御院が心眼を使い、人々の姿を確かめている。その大半は、家の中に引きこもっているが、やはり外の様子は気になるようで、窓を小さく開けていたりする。
「近寄ると危険やから一時避難をお願いするわ」
 そのまま言えから出てくんなや! と叫ぶ斉藤。扉を硬く閉め、つっかい棒をするよう告げる。驚いた村人が、ぴしゃりと窓を閉めた刹那、ドラゴンフライがその牙を鳴らしていた。
「わかった。さぁ、こっちだこっち!」
 獲物を奪われたと思ったのか、ドラゴンフライ達がまっすぐ村長の館へと向ってくる。だが、その前には珠刀を振り回した志郎が立ちはだかった。ぶぅんと風を切る音と共に、がきょんっと手ごたえがあった。重鎧を切りつけたようなそれは、手に痺れとなって伝わってくる。
「敵が下りてきた? やっぱり宝珠に引っかかってるのかな」
 されど、その一撃で蜻蛉の動きが鈍った。宝珠の方を向いているわけではない。だが、攻撃された事と、志郎が持つ珠刀が強化されていた事で、蜻蛉の注意を引く事に成功したようだ。
「試して見ましょうかえ」
 一方、華御院はそう言うと、たたっと舞踊を踏むように、塀の上へ駆け上がる。そして、一段高い場所に上ると、軽くアヤカシの前で刀をぐるぐると回してみた。
「無理だと思いますよっと」
 ひろしがツッコミがわりの一撃を、追いかけた蜻蛉に振り下ろした。さすがに、蜻蛉とは言えアヤカシなので、ぐるぐる攻撃に引っかかる事はなさそうだ。
「以外と素早いっ」
 しかし、その刃は空をきり、逆にその爪で一撃を食らってしまう。バラバラに戦っていても囮にはならないと判断した志郎は、珠刀で蜻蛉に切りかかった。
「俺とダグラスさんで囮になります。後は、お願いしますね!」
 彼が指し示したのは、村の北側だ。頷いた華御院が、塀の上を走り、建物の影に回り込む。冗談は最初だけ、だったらしい。
「騎士の頃から、脚の速さだけは自信があります!」
 シエラ、持参の宝珠刀『泉水』を手に、蜻蛉の前へその身を晒す。勢い、突っ込んでくる形となった。その爪が狙うのは、彼女が身につけた真珠の耳飾り。
「村の建物に被害を出さないように、注意してくださいね!」
「はいっ。蜻蛉さん、こちらですよっ!」
 志郎にそう答え、耳飾りに触れさせないよう、身を翻す。身の軽さは弁の通りで、蜻蛉達と良い距離を取っている。しかし、相手も流石に素早い上、人に比べて疲れ知らず。程なくして追いつかれてしまう。
「えぇい。近付かせませんわよ」
 そこへ、上空からアレーナが矢を射掛けた。シエラの進行方向には村の建物がある。ふすまを立てかけるが如く、幾つもの矢が地面につきささり、蜻蛉達はくるりと方向を変えた。しかし、彼女の身支度にも、強化はされているのに、何一つ反応はしない。
「やはり宝珠刀や強化宝珠じゃうまくいかないんでしょうか‥‥」
「自分の宝珠も狙われているようには見えまへんえ」
 シエラにそう答える華御院。個体差はあるのだろう。この時点で誘導するのは難しそうだ。そんな蜻蛉達の様子を見て、これ以上の囮をするには、もう少し速さを稼がなければならないだろうと判断した志郎が、片手を上げる。
「わかりました。先生、来てください!」
 呼ばれたのは、隠逸と名付けられた駿龍だ。最初に与えられる龍達のうち、素早さを得てとする龍は、蜻蛉達に負けじとその姿を見せる。
「今のうちに!」
「フォローに回りますわ!」
 志郎がシエラの腕を引っ張った。その囮を上手く活用できるよう、アレーナが矢を射掛けている。その攻撃に、蜻蛉達が散らされている間に、彼女はくるりと龍を回転させ、そのまま村長の家へと飛んで行く。ちょうど、巴と高遠が付いた時だった。
「あ、あのっ。あなた方は!?」
 いきなり扉を開けられて、少しビックリした様子の村長に、アレーナは白弓を担いだまま、優雅に一礼する。
「ごきげんよう。神楽の都から来ましたの。トンボ達は我らが何とかいたします。つきましては、少々お願いが」
「は、はぁ。ご丁寧に恐れ入ります」
 見た目は純白の騎士なので、村長は深々と頭を下げる。挨拶もそこそこに、巴がこう言い出した。
「首飾り、借りてくぜ。誘い出しが成功すれば、これの対応も変わると思うんでな」
「これを囮にすれば、蜻蛉達を一網打尽に出来ますし、僕達が持っていた方が安全でしょうから」
 有無を言わせぬ調子で、宣言する高遠。説得に余力を持たせたかった巴だが、中々、そう言うわけにはいかなかったようだ。
「正直、ジルベリアの合戦でも、妖魔たちの行動には何者かの意思を感じる場面があったからな。
まさかとは思うが、宝珠を集める目的で襲っているのかも知れない」
 単に宝珠の力に引き寄せられているのなら、自前の宝珠での誘い出しも可能なはずだった。だが、実際は開拓者達が持ち込んだ宝珠は、引っかかったり引っかからなかったりしている。もしかしたら、純度が違うのかもしれない。
「これでよしと。まず合流しましょう!」
 回収した首飾りは、全身を大鎧「双頭龍」で包んだ高遠の懐に収まったようだ。硬い鎧の内側ならば、そう簡単にアヤカシの牙も通るまいと言うのが、巴の判断である。
「そっちにいきましたどすぇ!」
「やはり、気付かれないと言うのは、難しいですか‥‥」
 その高遠、本当ならこっそりと回り込みたかったのだが、がっしょがっしょと盛大な音を立てる鎧姿では、そう上手くもいかなかったらしい。加えて、家から出てきた宝珠めがけ、蜻蛉が方向転換をした所だった。
「やすもんの宝珠がいかんかったかの」
 ぼやく斉藤。仕掛けた罠に、蜻蛉達は見向きもしていない。むしろ、一直線に村長の宝珠めがけて突っ込んでくる状態だ。
「ほな、トンボ漁といきましょうかね」
 もっとも、そこには華御院が龍に乗ったまま、大きな網を広げている。地引網に、どこまでの耐性があるかはわからないが、足止めくらいにはなるだろう。
「俺が囮になる! 高遠、先に行け!」
「そんな事出来ませんよっ。何があっても手放さないようにしますけどっ」
 殺到してくる蜻蛉達の前に、囮になろうと飛び出す巴。しかし、高遠も肌の分厚さには自身がある。逆に、桔梗突でもって鋭い突を食らわせている。すいっと切りつけられた刀は、流れるような動作で、そのまま鞘に納まった。返す刀とばかりに、蜻蛉の爪が煌く。しかし、舞うように回避した華御院にはあたらない。逆に、長脇差の一撃が加えられている。たまらず、空へと距離を取る蜻蛉。しかし、網のせいで先には進めない。
「今のうちに龍を持ってきましょう!」
 ひろしが、そう言いながら龍に飛び乗っている。そのまま、すり抜けるように蜻蛉へと速度を上げる彼。狙うは羽根だ。しかし、そうはさせじと、蜻蛉の牙が遅いかかる。それを、彼は立ち上らせたオーラでもって、その鋭い切っ先を受け止めていた。後は、ガードで耐えつつ、特攻するだけである。
「お待たせパティ。さあ、一緒に行くわよ!」
 おかげで、引き寄せには成功している。その為、シエラはあらかじめ待機させていた自分の愛龍に跨り、空へと舞い上がる。網に阻まれた蜻蛉めがけて、フェイントをかける彼女。加えられる攻撃は、龍は高速回避、本人は盾で受け止め、なんとかダメージを受けないよう心がけている。そうして、息を切らせたところで、必殺の平突が、その身に突き刺さっていた。そのおかげで、蜻蛉の1匹が地面で動かなくなる。
「先生、逃げるばかりで不本意でしょうが、これが今回の役割です」
 昆虫の蜻蛉とはだいぶ違うが、志郎にとってやる事は変わらない。蛇行して相手を翻弄していた彼、その動きもあって、大きなダメージは受けていない。駆動の大きな動きをしているせいで、スキルを使う暇はないが、それでも目を狙って手裏剣が飛んで行った。突き刺さったそれを、斉藤が後ろから熱かい悩む火種で、愛用の大斧‥‥塵風を担ぎ上げる。
「楽しい遊びの時間といきますかね。指先でこうすると蜻蛉はおちよるんやけどな」
 やっぱり斉藤も蜻蛉のおめめで指グルグル。しかし、蜻蛉は全く反応しない。むしろ、攻撃を加えられて、距離を取ろうとしている。
「逃がすかぁい!」
 力ある咆哮が響いた。吼える声に気を引かれた蜻蛉の一匹が回れ右。
「狙え、気孔波!」
 そこへ、巴の気孔波が蜻蛉の羽に命中した。
「‥‥断!」
 怯んだ所に、龍の一撃と、斉藤の両断剣が振り下ろされる。こうして、蜻蛉達はその数を半減させ、村から飛び去って行ったのだった。

 戦いのねぎらいは、いつの世界も御褒美と言う奴である。
「今日も真面目にがんばっておったな。子供の頃に蜻蛉取りなんぞはせんかったのかね?」
「余りそう言う記憶は‥‥」
 高遠と世間話をしながら、いつものように祝酒をぐびぐびやっている斉藤。飲みながら向ったのは、蜻蛉達が出てきたと言う寄り合い所の穴だ。
「残党とかはいない見たいですね。埋めちゃいましょう」
 シエラが、松明をかざしながら中身を覗き見る。その先に光が見えたので、さらに覗き混んでみると、どうやら穴の先は村の裏にある崖に繋がっているようだ。
「いずれまた穴あくかもしれんがその時は別な手段を講じればええやろ」
 そこをふさげば、蜻蛉も入ってこれまい。そう判断した斉藤、近くに転がっている岩や石、木などで、穴をどかどかとふさぐ。巴もそれを手伝っていた。
「宝珠は、どうするのですか?」
 同じ様に穴をふさいでいたアレーナが、皆に聞き返す。
「そうだなぁ。ギルドにでもこの戦乱が終わるまで宝珠を預かる仕事でも頼めばいいんじゃないかな? 当然、アヤカシに対応できる開拓者は山ほどいるし、費用がかかる分キッチリ守ってくれるはずさ」
「戦乱でギルド自体が壊れたり、預かり物が盗まれたりする可能性は低いと思うしな」
  と、ひろしの提案に、志郎も同じ様な事を言っていた。
「なるほど。では、ギルドがダメなようならば、グレイス辺境伯にでも。人として信頼できる人物だし、紛失した際は補償とかしてくれそうですよね。彼」
 アレーナがそう言い出す。確かに、ジルベリアのものはジルベリアで預かるのが筋なのかもしれない。村長はお任せのようだ。
 結局、退治に加わった開拓者は、全員がギルドに預けるべきと言う意見に落ち着いた。ので、宝珠は彼らによって厳重な封印が施され、神楽の都へと持ち帰られるのだった。