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■オープニング本文 天儀の世界にも正月はやってくる。 どんな村でも訪れる新しい年。そんなある村に、新年になるとまことしやかにささやかれる伝説があった。 新しい年をつれてくる聖なるもふらさまが、性格と趣向の変わる闇の眼鏡を携えて、金色の野に降り立つべし‥‥と、まことしやかにささやかれている。 嘘か真かは定かではないが、とりあえずその伝説にはあやかろうと言う事で、毎年もふらさまを伝説のもふらさまのように飾りつけ、金色の野の代わりに、黄色に塗った祭壇を用意し、その上に乗せた眼鏡を、村の衆で早取りすると言う年始行事が行われている。 だが、その年は例年と少し違っていた。 「あーー。眼鏡がないーーー!」 本来生産に手間の掛かる眼鏡は高額で、村にひとつしかない貴重品だ。その為、普段は村長の家で大切に保管されていたのだが、それが行事の直前に、盗まれてしまったのだ。 断言できる理由は、保管されていた箱の中に、一通の手紙が残されていたからだ。それには、こう書かれていた。 『この眼鏡は眼鏡にあらず。真の眼鏡でなき眼鏡は、存在する事あたわず。よって、本日を持って我が闇眼鏡党が保管させていただく』 要するに、眼鏡が気に食わないから預かったと言うことらしい。そして、代わりと言うわけではないのだろうが、2枚目に地図が沿えてあった。それには、村を流れる川の上流にある古い神社の地図が書かれ、その中に眼鏡の絵が描いてあった。 『真なる眼鏡を求めるものは、この神社に詣でたり。なお、この眼鏡は闇を引き込む物なりて、その後の状況にはいっさい関知しない‥‥』 つまり、本物は神社にあるのでよろしくと言う事らしい。ただ、その眼鏡でいかなる結果になっても、盗んだ本人達は知ったこっちゃない模様。 「うーむ、とりあえずちょっと順路が変わっちゃったが、初詣って事でいいだろう」 前向きな村長さんはそう判断し、行事の告知版に書いたのだが。 「村長大変です。この眼鏡、たくさんある上に、参加した男性諸氏の性格が真逆になってます!」 全力疾走が必要と言う事で、様子を見に言った村人が、眼鏡を確認したのは良いけれど、今まで大人しかった奴がいきなり強気になっていたり、強気だった奴が、草食男子になって帰って来たりと、普段と全く違う性格になって帰ってきたらしい。 「しかも、神社の裏山で、一様に黒い眼鏡のようなものをかけた、蛇のようなワニのようなアヤカシに遭遇したそうです」 村人の話では、森の向こうに、二足歩行の蛇みたいな者が数人いて、こちらへ向ってくる所だったそうだ。慌てて回れ右をしたので、詳しい事はわからないが、どうみても人じゃないので、アヤカシだろうと言っていた。 「ううむ、これは開拓者ギルドに任せた方が良いかも知れんなぁ」 「最初からそうしろよ!」 のんびりとお屠蘇をすすりながら、そう語る村長に、たまたま訪れていたリー船長が思わずツッコんだのは言うまでもない。 『性格の変わる神社に行って、安置された眼鏡から、本物の眼鏡を探してきてください』 なお、偽物は本物を真似て作ったようで、すぐに分かるらしい。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
安達 圭介(ia5082)
27歳・男・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
太刀花(ia6079)
25歳・男・サ
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰 |
■リプレイ本文 一行はまず村長の家へと向っていた‥‥。 「しっかし、なーんかおもしれー依頼だなー」 ルオウ(ia2445)は依頼の文言を見て、ケタケタと笑い飛ばしている。人死にもないせいか、気楽なもんだ。 「眼鏡どすか。歌舞伎に眼鏡はあいまへんなぁ」 と極普通の感想を云う華御院 鬨(ia0351)。見れば、祭の直前と言う時期もあってか、村中に眼鏡の形をした飾りがばら撒かれており、村を上げて眼鏡を売り物にしている事が見て取れた。確かにその光景は、彼が得意としている歌舞伎には似合いそうにない。 「‥‥伝説というものは、色々と脚色やら非現実的な要素が含まれているものではあるが‥‥。闇眼鏡党の置いていった眼鏡は、一応伝説通りのものではあるわけだ。良し悪しはともかく、興味深い品ではあるな」 依頼には、伝説の品は性格と趣向が変わるとある。本物か偽物かはともかく、その記述どおりになっているのは、中々面白いとゼタル・マグスレード(ia9253)は口にする。 「新年早々面倒な依頼ね。アヤカシ倒すのもいいけど、真の眼鏡がどんなのかって気になるわ」 眼鏡に興味津々なのは、霧崎 灯華(ia1054)も同じだ。とは言え、村長が言うには、祭に使っていたのは、神楽の都から取り寄せたごく普通の伊達眼鏡だと言う。 「場合によっては全て壊す事になるけど、かまわないかしら」 彼女が問うと、村長は粉砕した時の修理代を賄うのは開拓者自身になるだろうと答えるのだった。 「これがその眼鏡の絵やね」 絵の得意そうな村人に描いてもらった眼鏡の図を、大切にしまう華御院。 「んー‥‥柚乃は視力悪くないからかな、かけると視界がクラクラする‥‥これが本物?」 そんな眼鏡の捜索とあって、今回の面々には、眼鏡派が多かった。安達 圭介(ia5082)も、太刀花(ia6079)も伊達眼鏡をつけている。柚乃(ia0638)なんぞは、わざわざ万商店から調達したメイド服まで着用中。髪も頭の両脇で結い上げると言う、ジルベリア風の装いになっている。衣装だけは眼鏡っ娘メイドになっている柚乃さんを見て、ゼタルは何か思いついたようだ。 「ふむ、もしかしたら、眼鏡を盗んだ闇眼鏡党とは、僕らと同じ開拓者である可能性もあるな」 変装が得意なシノビなら、気付かないうちに作業出来たりするだろう。 「どっちみち、退治しなきゃってとこだろ。泥棒は悪いことだし」 ルオウが少し真顔になった。開拓者の中には、もっと悪い事してきた奴も、山ほどいるが、それはそれ、これはこれだ。 「眼鏡をわざわざ離れた社に安置していったという事は、何か意味があるかもしれんな」 「その性格の変わった奴は、家に帰ってるのか?」 村長に聞き込みを開始するルオウとゼタル。と、村長はそれ以外に何か問題があったわけではないので、頷いている。事情を聞きたいと言うルオウに、村長さんは当人を呼んできてくれた。 「そう。なら団体行動は苦手だし、ソロで行かせてもらうわよ」 と、その間に灯華さんは席を立ち、森の方へ向ってしまう。まぁ彼女とて、何度も依頼をこなしている開拓者だ。危険を察知する能力くらいあるだろう。 「んで、メガネはあったのか?」 ルオウがそう問いただした。元々は気の強い奴だったらしい村人、眼鏡をかけたままふるふると首を横に振る。 「ふむ。これがあったところに、怪しい奴はいなかったか?」 闇眼鏡党の誰かが置いて行ったかもしれないことを尋ねると、そう言えば、誰かの足音を聞いた覚えがあるそうな。 「誰かが置いたのか‥‥。ともかくも、現場検証をするとしようか」 「百聞は一見にしかずとも言いますしね」 ゼタルがそう言い出したので、付いて行く事にいく圭介。ルオウも、このままではらちが明かないので、問題の神社に行く事にするのだった。 その頃、灯華は参道を使わず、森の中を突っ切っていた。この方が、アヤカシに遭遇しそうだから、というのが、その理由である。 「どーせ、闇を引き込むって事で、やってきたアヤカシが憑依とかしてるんだろうから、さっさとやっつけちゃわないとね」 と、そう考えた呟いた時だった。1人で森をうろうろしていた女の姿に、食指を動かされたのか、眼突鴉が何匹か姿を見せる。 「さて、今年も派手にイクわよ!」 赤い蛇の形をした呪縛符がからみつく。じたばたと暴れるカラスに、真空刃となった斬撃符がぶっ飛んできた。さすがに相手は雑魚らしく、あっという間に成敗されてしまった。 「こいつは、ただのアヤカシ‥‥と言ったところね。さて、オヤシロは‥‥と。あれか‥‥」 どうやら外れだったらしい。見上げると、森の中、静かにたたずむ社があった。飾られた大きな眼鏡が、全てをぶち壊しにしている気がするが、それなりに雰囲気はある。 「謎の神社か‥‥素敵ね♪」 神だのなんだのは信じちゃいないが、敬意は払うことにしているらしい。お供えのお水を取り替えようとすると、祭壇に置かれた眼鏡に気付く。 「もしかして、眼鏡って‥‥これかな」 しげしげと眺めると、針金で作られたモノのようだ。暫し考えた灯華さん、ぽんと手を叩く。 「見た目はたいしたことないわね。害はなさそうだし、性格が変わるのは、男連中だけって言ってたから、気にしないでいいわよね」 箱にも入っていないので、本物かもしれない。そう判断した彼女が手を伸ばそうとした所、扇がぶっ飛んできて、その眼鏡をはじいてしまう。見れば、華御院の花王が記されたものだ。 「危ないどすぇ。ここは、慎重に扱った方がええどす」 そっと、着物の袂を使って、直接触らない用に広い上げる華御院さん。まるで、御大家の奥方が、主人の刀を預かる時のように、布で包み込んでいた。 「この辺、まだ敵意を持つモノがいる気がする。アヤカシかどうか分かんないけど‥‥」 瘴策結界を使って、周囲を確かめていた柚乃がそう答えていた。確かに、周囲には瘴気がちらちらと見えており、気配も感じている。 「お供え、持ってきたのにー」 ちょっと残念そうな灯華さん。せっかくなので、持参した御酒を、眼鏡の代わりに捧げていた。 「天罰ではないから、大丈夫じゃと思うが、ちょっと調べてみるかのう」 社はさほど大きくない。何か仕掛けがあるとも思えない広さなので、バロン(ia6062)はそう言いながら、周囲の探索を開始する。と、土台となっている木組みの下に、人が潜れそうな穴を見つけた。 覗き込むと、相当奥まで続いているようだ。風の具合から察するに、奥のほうは広くなっている模様。 「なるほどのぅ。潜むには事欠かない場所じゃい」 顔を上げ、他の面々を呼び込むバロン。中からは、得体の知れない気配が肌をちくちく刺すほどなので、中に何かいるのは明らかだった。 「おびき出してみましょっかねぇ」 おそらく、闇眼鏡党の一団なのだろう。そう判断した華御院は、持ってきた伊達眼鏡をかけて見る。 「舞う際にどうも邪魔どすわ」 反応がないなら外そうか‥‥と思った刹那、バロンの見つけてきた入り口の上にあった戸板が、ぱかりと内側に外れた。 「逃がしはしねえよ!」 ルオウが早速追いかける。駆け寄ってみれば、先ほどの入り口が広くなっており、普通に入れそうだ。しかも、足音と共にその先を曲がる人影もある。 「どぉしても、この中におびき寄せたいみたいじゃなぁ。ならば、ついて行くのも一興じゃろうて」 バロンがその先を指し示した。周囲を見回しても、探索が必要な場所がここのようである。 通路はほぼ一本道と行ってよかった。途中、細かい分岐はあったが、それもいくらかもしないうちに行き止まり、宝箱に入った眼鏡に行き当たる。それほど大きな箱ではなかったので、皆それを箱ごと持ち帰っていた。 「意外とあっさり見つかりましたねぇ」 人のいない方向に、蓋を向ける太刀花。 「どれが本物かな?」 そのままあけるかと思いきや、柚乃は手を出すのを躊躇っている。 「眼鏡の箱を開ける者と、それを正面から見定める者。他は、アヤカシの見張り、かな」 人数の少ない方を知りたいので、希望者を‥‥と言い出すゼタル。柚乃、性格逆転が嫌だったらしく、見張りの方にとことこと寄って来ていた。 「情報を見た限りでは、一番の謎は性格逆転ですよね‥‥。何かに操られてそうなってるのか、それとも不満とか願望が表れてそうなってるのか、何がきっかけでどうやってそうなるのか‥‥さっぱりな事だらけですが」 眼鏡組の圭介が、ケースをやはり自分とは反対側に向けていた。おかげで、宝箱は綺麗に同じ方向を向いて並んでいる。 「まぁ、あまり影響はないじゃろうがなぁ」 「うちもどすえ」 被害にあうかもしれないバロンと華御院は、あまり気にしてはいないようだ。何しろ自分の若いときか、素の自分に戻るだけである。何も心配する事はない、と。 「おしとやかな自分なんて、ぞっとしないわね」 灯華は女性なので、端から変わるわけは無いと信じていた。しかし、それでも誰も手を伸ばそうとしない。 「眼鏡の所為で真逆の性格になるなら、もう一度試せばまた元に戻る、というのは乱暴な理屈かな?」 「解術の法を用意してますから」 ゼタルと圭介が、もしもなった場合の対処法を用意していることを告げるが、手を付けようとはしない。ゼタルは場が混乱するのを防ぐ為だし、圭介は一番にあけるのは控えた方が良いと言う判断だが、話は全く進まないのだった。 「とりあえず、蓋だけ開けてみますか」 「そうですね。それじゃあ、どいててくださいよ」 そのままではまずいと言う事で、まず反対側から、蓋を開ける圭介とゼタル。ぼわんと煙が上がるのは、絵草紙の中の話で、中には偽物だか本物だか区別のつかない眼鏡が鎮座していたのだが。 「えぇい、まどろっこしい。何をやっておるか。さっさとかけてしまえいっ」 わいわいと通路の中でかけるかけないをやっていたところに、通路の奥からそんな怒号が響いた。見れば、黒で塗られた祭壇があって、その真ん中にごっついおっさんが、着物姿で眼鏡をささげ持っている。 「って、誰だお前はっ!」 「ふはははは! 我こそは闇眼鏡党の党首なりっ。さぁそこの、さーっさと眼鏡をかけるが良いっ」 ルオウがびしっと指を指すと、ノリの良いらしいおっさんは、そう名乗ってふんぞり返っていた。 「仕方がないのう。後悔するなよ」 「んー、変わらないと思いますけどなぁ‥‥」 変わっても別に気にしないらしいバロンと華御院が、仕方なさそうに眼鏡をかける。と、一行が見守る中、祭壇から瘴気があふれ出ていた。 「やっぱりそう言うことね。アヤカシが取り付いたって事でしょうけど!」 灯華がびしと宣告した刹那、祭壇の下から、黒い不定形のような瘴気が這い出てきた。 「何故バレた!?」 「当たり前よ。そんな事あるわけないもの」 常識よ常識! と、宣言する灯華さん。見れば、アヤカシらしきその不定形は、眼鏡をかけた女性の姿となりながら、こちらへとにじり寄ってくる。どうやら、性格が変わるのは、アヤカシ効果のようだ。 「あーあ、ろくな集団じゃないと思うんですが‥‥。嫌な予感しかしませんよ」 ため息をついて、一歩下がる圭介。神楽舞をするには、集団の中にいてはやりづらい。 「女性の演技するのもめんどいんで、普通に戦わせてもらいやす」 眼鏡をかけたままの華御院がそう言った。普段、舞う用に戦う彼だったが、今は眼鏡効果で極普通に戦うつもりのようだ。 「若い頃を思い出すのう!」 バロンはやんちゃだった時代そのままの模様。 「アヤカシなんですから、性格は元に戻ってくださいよー」 太刀花がそんな彼らの前衛に立ちながら、その眼鏡が偽物なのを指摘する。はたと気付いた二人は、眼鏡を外すと、そのまま自分たちのスタイルへと戻っていた。華御院がフェイントのように舞い、そしてその隙にバロンが矢を撃ち込んでいる。 「けっこう数がいますしねー」 ゼタルが周囲を見回してそう言った。斬撃の符にかかっているのは、その不定形お姉ちゃんばかりではない。他にも数人雑魚が現れている。何れも黒服で眼鏡の意匠を身につけているから、きっと闇眼鏡党の構成員なのだろう。 「眼鏡を狙っているみたいです。やはり、何かの狙いがあってでしょうか」 「倒してしまえば良いことよ!」 ゼタルの疑問に、バロンはその弓で粉砕してから考えろと助言する。こうして、乱闘の結果、闇眼鏡党は一網打尽にされてしまうのだった。 尋問タイムになった。太刀花、眼鏡そのものには害がないとわかると、回収できそうなものは、全て回収している。中には、村で安置されていた本物の眼鏡と同じ作りのものもあり、灯華が言われたような事にはならないようだ。 「で、あんた達は何がしたいの?」 「これ以上痛い目見たくなかったら、何でこんな事してんのか、きりきり白状して、さっさと眼鏡返しやがれ」 灯華とルオウが、締め上げている。その迫力に、すっかり闇眼鏡党の人は降参してしまったらしく、素直にぺらぺらと事情を話した。結論から言うと、どうやらアヤカシに利用されていただけらしい。 「これ、どうします? 使えそうなのも、まだいくつかあるみたいですけど」 「村に持ち帰りましょうか。元々、崇めるもののようですし」 太刀花の問いに、そう答えるゼタル。しかし、村長も扱いを悩んでしまった。とそこへ柚乃が、年始行事のアドバイスを口にする。 「いっそ勝者には、福男とか福女として、一年間眼鏡をかけて貰うというのも面白そうなのだけど。装飾品は身につけてこそ‥‥ていうでしょ?」 「眼鏡に本物も偽者もありません。眼鏡を愛する心さえあれば、針金で作った偽者でも本物となるのです」 太刀花の弁を借りれば、無事なものは全て本物になると言うことだろう。ならば、それを福として村人に1年貸し出すのも、悪くはない手段だ。 「ふふふ、似合うかしら?」 「一応、眼鏡を掛けた女性の演技も学んで起きたんで、教えてくれやす」 灯華が眼鏡をかけて見ているところに、華御院がそう申し出ている。 こうして、眼鏡騒動はアヤカシの仕業と言う事で決着がついた。 なお、神事には開拓者の活躍が付け加えられたと言う。 |