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■オープニング本文 緑茂の里の周囲には、避難が終わり、打ち捨てられた村と言うのが少なからず存在する。その多くは、魔の森近くにあるのだが、今回舞台にする村も、そのような村だった。 前線にほど近く、危険なため、人っ子一人いない村。だが、そこに出入りする人々の姿があると聞き、現地の指揮官が、偵察隊を出したのが、その発端だった。 だが、偵察隊は戻ってこなかった。それどころか、逆に指揮官クラスに、手紙をよこしたのだ。眼付鴉に届けさせるとか言う、陰陽師かアヤカシの手段で。 「あやつらの部隊に、陰陽師がいたとは聞いていない‥‥」 そう呟いて、手紙の封を切る指揮官。そこには、こう書いてあった。 【村の守護役と目される巫女殿を預かった。返して欲しくば、人の子を8人、生贄として差し出せ。さもなくば、巫女殿の命は保障しない】 脅し文句である。どうやら、出入りしていた者を拉致していったらしい。髪の毛のひと房が添えられていた。だが、誰が何の為に? 頭を抱える指揮官。 「巫女と言うのは、何者なのだ?」 「わかりません。あの村の出身者に尋ねましたが、誰も知らないようです」 世の中には、流しの巫女と言う者も存在する。開拓者の中にも、そう言った生業をしていた者もおり、流浪の巫女は決して珍しくはないのだが、だいたいは近隣の村にも立ち寄る為、氏素性はなんとなく聞こえてくるものだ。 そして、気になるのはもう1つ。誰が‥‥その手紙を書いたか、である。手紙の差出人を見ると、暗仁と書かれていた。それを見て、指揮官達は頭を抱える。何しろ、偵察部隊の隊長だったので。 「まさか、アヤカシに取り付かれたとか‥‥」 「可能性はありうる。部下も戻ってこないとなると、部隊ごとやられた可能性が高いな‥‥」 戦では、時折起きる事件だ。情報を手に戻るのが、偵察の役目ではあるのだが、様々な要因によて、上手くいかないこともある。きっと、今回もその例に漏れなかったのだろう。 「開拓者に連絡を。シノビ部隊が丸ごとアヤカシと瘴気に飲まれた。生存者がいるかわからないが、頼む‥‥と」 指示を出す指揮官。だが、直後難しい顔つきのまま、こう言った。 「人数は、8人‥‥だ」 どうやら、頼んだ彼らを、生贄として差し出す心積りらしい。これまた、上の人間には、よくある判断である。 |
■参加者一覧
橘 琉璃(ia0472)
25歳・男・巫
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
菘(ia3918)
16歳・女・サ
紅蓮丸(ia5392)
16歳・男・シ
夏葵(ia5394)
13歳・女・弓
摩喉羅伽 将頴(ia5459)
33歳・男・シ
かえで(ia7493)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 いったい、瘴気に飲み込まれた村で何が起こっているのか。その確認と対応の為、一行は指定された村へと向っていた。 「しかし、人質とは、アヤカシもなかなか面白い事をするのでござるな!」 摩喉羅伽 将頴(ia5459)が豪快に笑い飛ばす。依頼内容は、彼が今まで見てきたアヤカシ達とは全く違う物らしかった。 「それにしたって、偵察に行って裏切りの手紙を出してくるとはシノビの風上にも置けぬ奴らにござる」 紅蓮丸(ia5392)も相手のふがいなさにうなっている。 「その人質を助けるためには、生贄となれですか? どうも嫌な予感がしますね? 外れて欲しい物ですが」 そんな彼にそう答えながら、手持ちの扇を、閉じたり開いたりしている橘 琉璃(ia0472)。 「そもそも人質とされた巫女の存在自体怪しいものだ‥‥」 大蔵南洋(ia1246)がそう言って周囲を見回す。 「…相手方の目的が見えないのが、怖いですね」 白野威 雪(ia0736)が、ぼそりとそう言った。2人とも、既にどこからアヤカシが現れるかわからないので、警戒しているようだ。 「果たして、敵は‥‥」 「うーん。村へおびき寄せての罠じゃないかしら‥‥」 手紙の内容を奇妙に思う菘(ia3918)。夏葵(ia5394)も、やっぱり罠の可能性を指摘している。将頴も考えている事はあるようだ。 「文の届け方からして、知能がそれなりにあるアヤカシでござろうなぁ。もしくは陰陽師が絡んでる可能性もあるでござる」 語尾こそ紅蓮丸と被っているが、他にもいくつかまとめているようだ。と、そんな事を離している間に、村の入り口へと差し掛かる。 村は、瘴気に満ち溢れていた。出発前に、かえで(ia7493)が詰め所で確かめた所、部隊は仕事をする時は黒尽くめだが、それぞれ顔立ちや髪の色や結い方は教えてくれた。村に出入りしていた人の事も聞いていたが、忘れ物を取りに行った人や、家の様子を見に行ってもらっていたりと、さまざまなようだ。村の建物は、大蔵が白地図に書き混んでいる。脅迫状を写させてもらった限り、人質の交換方法は、村まで越させること、そして期限は3日後と裏書してる模様。 「一人では絶対に来れなかったと思います」 側を離れないように身を寄せた菘が、周囲を見回している。時折聞こえるのは、アヤカシと化した獣の鳴き声だろうか。人っ子一人いない、寂れた村。敵がどこに潜んでいるのか、見当も付いていない。 「まずはシノビの出番だな。元シノビのアヤカシ憑きが潜んでいる可能性もある。村近くでは警戒を怠らぬようにせねばな、単独行動も控えるのが無難であろう」 大蔵がそう指示をしていた。広げたのは、人質の監禁場所として利用できそうな建物の図だ。と言っても、村長の家を兼ねた寄り合い所、農具や伐採道具をまとめて置いておく大きな作業所、村の鎮守を兼ねたお社くらいだが。 「二手に分かれるんですね」 橘が、確かめるように分けた。大蔵が調べてきたその大きな建物のどれかに、人質とシノビがいると判断し、参加したシノビ3名で、偵察をしてから、脅迫状の内容に従おうと言う相談がまとまったようだ。 「よっし、んでは、いってくるでござる!」 ぼんっと胸を叩く将頴。ちなみにメンバーは彼の他、紅蓮丸とかえでだ。シノビ3名は抜足を駆使して、音もなく村の中心部へと滑り込んで行った。 「村に出入りしていた者達がどのぐらい居たのか分からんでござるが、陰陽師はその中の1人とも考えられるでござる」 偵察部隊は6人だったと言うことだが、どうもそれだけではない印象がある。慎重に村を見回る紅蓮丸。居場所を確かめる為、一つ一つの民家を覗いてまわっている。 「相手は人魂を使って見張ってるかもしれない」 かえでも、相手にこっそり陰陽師がまぎれている事をきにしているようだ。極力、建物の影を回るようにして、村長の屋敷を目指している。時折、家を調べて、人質や部隊の生き残りがいないか、アヤカシが潜んでいないかを調べるかえで。もちろん、その際も抜足を忘れない。 「犯人グループはどこでござろうか‥‥」 一方、将頴は犯人グループを探していた。屋敷にいると思われるが、念の為、作業場の方へも赴いてみたのだが、人の姿はないようだ。 「瘴気に侵された村は暗いでござるなぁ‥‥」 「ねぇねぇ、こんなの見つけたよ」 瘴気に侵された村は、全体的に暗い。それでも気をつけていたかえでと、暗視を持つ紅蓮丸が、鳴子や虎バサミを見つけていた。どうやら、人数はそれほど多くはないようだ。 「見張りは‥‥どこだろう」 そうして、慎重に歩みを進めていると、やがて村長の屋敷へとたどり着いた。かなりの暗がりだが、明かりはない。だが、シノビの彼らから見ると、何人かの人の気配が感じられた。 「犯人グループ‥‥でござろうか」 将頴のおそらくそうだろう。かえでが周囲を見回すと、警戒するように、あちこちに鳴子が仕掛けられている。それを慎重に外し、屋敷の中に滑り込む。 「確かめるべきは敵の位置と人数、人質の居場所でござるな。この地図によると、村長の屋敷の裏に、社があるようでござる」 持たされた地図には、村長は鎮守の守人の家系らしいと記されている。鳴子も、家の周囲から社にいたる場所で、鳴るように設置されているようだ。見れば、まるで見張りのように、鋭い目付の野犬らしきものがいた。その花に嗅ぎ付けられないよう、将頴と紅蓮丸は屋敷の脇に回り込む。そして、奇襲を警戒しながらも、屋根の上から天窓を覗き込む。かえでも、罠がないのを確かめて、上に登ってきた。 「うむ‥‥。巫女、捕らえられているわけではなさそうでござるよ?」 覗きこむ3人。こっそりと気付かれないような小声で、将頴が指摘する。見れば、巫女は拘束されている様子がない。しかし、様子を見ていると、巫女はしのびにあれこれと言われた後、自ら座敷牢に入って言った。気付けば、もうすぐ指定の時刻である。 「まさか、あの巫女が陰陽師なのかなぁ」 「もしかしたら、なにやら要求されているのかもしれないでござる」 かえでの疑問にそう答える将頴。と、紅蓮丸はその巫女を含め、戦力を確かめている。 「数は、巫女を入れて7人でござるな。それと、入り口のケモノみたいなのは、番犬代わりと言ったところでござろうなぁ」 敵か見方かはまだ分からないが、用心しておくに越した事はない。それ以上の戦力はなさそうなので、シノビ3名はやはり音もなく村長の屋敷から離れる。 「どうするの?」 「皆のところに戻るでござる。今見た事を、皆に報告するでござるよ」 かえでの問いに、そう答える紅蓮丸。 「そっか。依頼を果たすのに必要な情報を持ち帰るのが、重要な役目だもんね」 自分は、きちんとシノビの役目を果たしたい。そう思ったかえでは、闇に溶けるように、皆のところへ戻るのだった。 そして、報告を受けながら、皆で作戦会議と相成った。 「というわけでござる。拙者、どうも巫女自体が犯人の1人ではないかと言う思いにかられてしかたがないのでござるが‥‥」 「何か、見られて困るようなものでもみたのでしょうか‥‥。巫女様は、村の人がご存じないと言うのに‥‥。それに、人数が合わない‥‥」 将頴の疑問に、そう答える雪。色々と疑問点はあるが、どれも明確な答えが出てこない。かえでの報告では、取り付かれているか、操られているかのどちらかだが、それにしたって何の用があって、人質や出入りがあったのだろう。民家なら、忘れ物や荷物の回収で納得できるが、シノビ3名が見た限り、そうではなさそうだ。 「ここは、シノビとシノビ以外の仲間達に分かれて、動いた方が良いと思うでござる」 「わかりました。では村には別々に入りましょうか」 紅蓮丸の助言に従う雪。しばしの相談の後、シノビ以外の3人は、村長の屋敷へ連れ立って行く事になった。 「雰囲気が悪いです。それに、なんだか地面もでこぼこしてる気がします」 その気配を少しばかり感じながら、夏葵はそう言った。瘴気のはびこる村は、昼なお薄暗く、夏葵は周囲を見回しながら、いつでも矢が撃てるように持っている。 「巫女殿が御無事ならば救わねばなるまい。部隊の方々が不幸にもアヤカシに憑かれてしまっておるなら是非も無し、この上は楽にして差し上げるよりあるまい」 前衛の位置にいるのは大蔵だった。 「部隊は諦めた方がいい気がしますよ。巫女は‥‥罠の可能性もあるでしょうね」 ちょうど、夏葵と大蔵に挟まれるような位置に、橘の姿があった。舞の行列に参加するかのように、扇を広げている。もしかしたら、自分達の中に、条件のあう人がいるのかもしれない。そう思って。 「このままじゃ、動きづらいですね。おびき寄せた方が言いと思うのですが‥‥」 殿には菘がついた。そう言うと、自分達の存在を知らせるかのように、刀を携えたまま、周囲を警戒していた。大蔵も、同じ様に正面で警戒している。 「シノビの方々は、気付くでしょうか」 「大丈夫でござる。ここに潜んでいるでござる」 夏葵が周囲を見回すと、建物の影から抜け出るように、紅蓮丸が顔を出した。きょとんとしている夏葵。と、その隣の建物から、将頴も顔を出す。 「シノビは影故。心配なさらずともよいでござるよ」 どうやら、3人ともつかず離れずと言った位置で、従ってくれているようだ。そうして、一行が陣形を組みながら、村長の屋敷へたどり着くと、低くうなる獣の声。どうやら、お出ましのようだ。 「生贄として狙われるのは、どんと来いですよ」 橘が嫣然と微笑む中、菘が交渉を開始する。 「あの、巫女様を返していただけませんか? 生贄には、充分な子をご用意いたしました」 姿を見せたのは、数人の黒装束をつけた、まだ若い男達だった。聞いてきた特徴とも符合するので、彼らが件のシノビ部隊なのだろう。だが、交渉には答えを返さず、無言で付いてこいと合図する。 「話を聞く気がなさそうですね。上級のアヤカシではないと言うことでしょうか‥‥」 雪が周囲を見回してそう呟いた。これが、以前報告書に出ていたアヤカシなら、何らかの返答を返すはずである。しかし、シノビ達は全く返答をしなかった。 「時間を稼がなければ‥‥。あの、出来れば、何のための生贄か教えて下さいませんか?」 それでも菘、なおもひきつけようとする。その思いに答え、雪はその場にいる面々を数えている 「数は‥‥ひーふーみ‥‥これで全部みたいですね‥‥」 シノビは6人。報告書にあったのと、同じ。そこまで確認した時だった。取り囲むように彼らを連行したシノビは、巫女のいる座敷牢らしき場所に連れてくると、いきなり刀を抜いた。 「って、いきなり抜刀してきましたよ!」 その直後、巫女が座敷牢から出てくる。その胸元には、青く輝く宝珠がぶら下がっており、巫女はそれを彼らの前に置く。そして、合図。 「まずいっ!」 大蔵が、その刀を受け止める。きぃんと刀の触れ合う音。シノビ達は、宝珠へ突き飛ばすように、刀を振り下ろした。そこに、シノビとしての経験は見えない。まるで、操られているかのように。 「くっ! よりにもよって、とんでもない主君を得たものでござるな!」 相手が、まともな人の子ではないと判断した将頴は、そう言うとシノビの間に火遁の術を放つ。相手が怯んだ瞬間、後衛の手を引き、素早くその場を離れていた。 「数が多いわけじゃないけどっ!」 入れ替わるように、かえでが早駆で距離を詰め、火遁の術を使う。 「やっぱり切り込んできちゃったですわっ。早いのから始末していかないとっ」 二重となった炎が、室内を照らす中、夏葵の矢が、シノビの中でも早い者達へと穿たれた。 「相手は、こっちだっ」 「情けは、掛けません‥‥!」 引き離した間に、大蔵と菘が切り込んで行く。両断剣を使う余裕はなかったが、これ以上距離を取られる前にと刀を振り下ろした。 「神楽の舞よ‥‥。猛き、力を‥‥! 我が友に‥‥!」 その刀には、雪が神楽舞・攻で力を与えている。力の歪みを使う機会は、まだ訪れていない。なぜなら、その奥にいた巫女は、まるで演舞を見ているかのように、微笑んでいたから。 「操られてる奴がいるかもしれんでござるっ」 「わかりましたっ」 紅蓮丸がそう言うと、菘が捕縛を試みる。一番手前にいた相手に、刀の峰を押し当てた。回復をしてくれる雪がいる。遠慮は、なかった。 「‥‥ふん、やはり志体持ちか」 その光景を見た巫女が、そう喋る。はっとなる皆。やはり、巫女が何か企んでいたのだろう。彼女の合図で、相手のシノビ部隊が退いて行く。残されたのは、気絶させられたシノビだけだ。 「大丈夫でござるか? 助けにきたでござる」 将頴が目を覚まさせると、片目を瞑ってみせる。まだ少年と言うべき年頃の彼は、きょとんとした表情で、周囲を見回していた。 「何が、起きたのですか?」 安心させた所で、菘が尋問を開始した。とは言え、締め上げるまでもなく、事情を話してくれる。それによると、社の周囲にアヤカシが群れていたと言う報告を確か目に行った所、あの巫女に襲われたそうだ。宝珠は、社にあったものらしい。 「他に、人質はいないみたいですけど、油断は‥‥禁物ですね」 「里に帰るまでは、気を抜かない方がいいかもしれません」 橘が周囲を見回すと、夏葵もやはり刀に手をかけたままだ。 「物凄く疲れたんですが、どうも黒幕いそうな気がするのは、気のせいですかね」 「拙者もそう思う」 橘にそう答える将頴。もしかしたら、巫女さえもコマなのかも知れなかった。 |