朧の刃と鉄拳令嬢
マスター名:一二三四五六
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/05 15:28



■オープニング本文

 木々が眠り、冷たい風が吹き荒ぶ冬。
 とある村の近くにある森に、一体のアヤカシが住み着いた。
 景色に溶けるような朧の肉体と、銀色に輝く刀。
 人を襲う気配こそ無いものの、夜な夜な村に現れては徘徊を続け、そして朝になれば森へと戻っていく。
 実害こそ無いものの、
「そんなアヤカシがいては、落ち着いて眠れませんものね‥‥」
 そんな村へと偶然立ち寄った御真坂 鳴梨(iz0070)。
 話を聞き、その正義感を燃え上がらせる。
「安心して下さい、私がそのアヤカシを退治してみせますわ!」

 さて暫しの後、所変わって神楽の都は開拓者ギルド。
「それでアヤカシを単身退治しに行って、負けて逃げ出してきた訳なのですが」
「‥‥だめじゃないですか」
 鳴梨の言葉に、ギルドの職員が思わず突っ込んだ。
「でも、困ってる人がいるなら一刻も早く助けたいと思いませんかしら!」
「思うならギルドにちゃんと話持って来て下さいお願いだから」
「‥‥面目ないです」
 反省してしゅんと頭を下げる。
「でも、ただ負けた訳ではありませんわ、敵の能力をちゃんと見て帰って来ましたもの」
 直後顔を上げ、話し出す鳴梨。
「アヤカシは、ごく短い距離を瞬間移動して、こちらの攻撃を回避する能力を持つようでしたわ。何も考えずに攻撃するだけでは、相当な手練の開拓者の攻撃でも、あのアヤカシを捉えるのは難しいと思います」
「なるほど、厄介な能力ですね」
 紙に書き付けながら相槌を打つ職員。
「ただ、転移直後に攻撃を加えた時は、回避して来ませんでしたわ。おそらく、転移直後には隙が有るのでは無いですかしら。もっとも、隙があるのは非常に短い時間のようでしたから、わたくし一人では到底捉えきれる物では無かったのですけれど‥‥」
 その攻撃も偶然腕を振り回したら当たった程度のようで、安定して隙を突く為には複数人による連携が必須だろう、と鳴梨は語る。
「ただ強い、と言うだけではあのアヤカシに勝つのは難しいと思いますわ」
「開拓者同士の連携が大事、と言う事ですね」
 その情報を元に、依頼書を書いていく職員。しばらくして、ギルドの壁に『協調性のある開拓者募集』と書かれた依頼書が貼り出された。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
天目 飛鳥(ia1211
24歳・男・サ
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
バロン(ia6062
45歳・男・弓


■リプレイ本文

●鉄拳令嬢と開拓者
「協力してくださって、本当に感謝感激ですわ!」
 開拓者七名を迎えて、喜色満面なのは御真坂 鳴梨(iz0070)だ。
 彼女が今回の依頼をギルドにもたらした張本人にして案内人で。
 朧刃討伐のための一行は、総勢八名の道行と相成ったのである。

 さてはて、この鉄拳令嬢というお嬢さん、なかなかに個性的で。
 彼女と共に、依頼の現場へと赴く一同にはそれぞれ様々な感想を抱いているようであった。
「やっぱり、1人では手も足も出ませんでしたから、こうして皆さんの手を借りることになってしまって‥‥」
「でも、1人でアヤカシに挑んだ勇気とか、負けても敵の事をしっかり覚えてる所とか、凄いと思うよ」
 隣に並んで、御真坂を見上げるようにして励ましているのは小伝良 虎太郎(ia0375)だ。
 若い泰拳士同士、話も弾むよう。もちろん仲間意識半分、そして対抗心半分と行ったところだろうが。
 そして、そんな若い泰拳士2人を見ながら、苦笑混じりの笑みを浮かべているのは嵩山 薫(ia1747)だ。
 どうやら、無鉄砲な御真坂の様子に、若かりし頃が思い出されているようで。
「‥‥他者に頼る事は弱さではないわ」
 若き泰拳士たちに思わず説教臭くなるのも仕方がないというものだ。
「自分自身の弱さを認める事、他者を信ずる事が、強さに繋がる事もあるものよ」
 無茶は禁物、と改めて連携の重要性を諭す嵩山なのであった。

 さて、一行が向かう先は朧刃が出現すると言われている森だ。
 御真坂の案内によって、一行はまっすぐその場所へと到着して。
 朧刃は夜に出現するとのことなので、その時を待ちつつ一行は策を練ることにしたのだった。
「瞬間移動するアヤカシか‥‥面白い! わしの弓が通用するかどうか、試してやろう」
 業物の弓を手入れしつつ、バロン(ia6062)はそういって。
 今回のアヤカシの特徴は、その特異な能力である。
 瘴気から生まれたアヤカシ達は、不思議な力を持つものも少なくない。
 その能力は千差万別で、中には聞いたこともないような不思議な力を持つものも居るとのこと。
 今回のアヤカシ、朧刃もそういった珍しいアヤカシの一種なのであろう。
 しかし、如何に特殊な力を持っていようとアヤカシは人々にとっての脅威だ。
 能力を前に怖じ気づくことなく、対処方法を考える必要がある。
 そこで、今回開拓者が考えたのは、完全なる連携だ。
「もちろんわたくしも協力いたしますわ! ‥‥文句ありませんわよね?」
 一度挑んで敗北している御真坂もその連携には参加したいようで、偉そうかつちょっと心配げにそういえば。
「たく、しょーがないわね‥‥死なない限り治してあげるから、安心してリベンジしてきなさい?」
 と応える鴇ノ宮 風葉(ia0799)だったり。

●傾向と対策
「わしが囮役をやるのでな、御真坂殿にも本命役を頼もうか」
 ゆるゆると準備運動をしながら、そう御真坂に告げる鬼限(ia3382)。
 すでに日は落ち、朧刃の出現の時間が迫っていた。
 作戦はこうだ。
 朧刃は短い距離を回避のために転移する。
 それ故に1人で攻撃しても捉えることは非常に難しい。
 故に、1人は完全に囮役と割り切って、その攻撃から転移したところを狙うという作戦だ。
 だが、転移先を予想することは不可能であり、その距離も微妙にくせ者。
 どのような武術・武技にも共通する一足で相手の攻撃範囲に踏み込めるほどの間合いに朧刃は転移する。
 一歩踏み込めば攻撃でき、一歩退けば敵の攻撃を避けることの出来る間合いへの転移。
 それは、相手に先手を取られてしまうこととほぼ同義である。
 だからこそ、それを補うために開拓者達は連携するのであった。

 そして夜がやってきた。
 冬の澄んだ空気の中、月が煌々と夜の闇を照らす。
 皆で周囲に注意を払う中、最初に気付いたのは天目 飛鳥(ia1211)であった。
 闇に浮かび上がるような銀の刃、そして闇に紛れるように揺らめく朧の体。
 アヤカシ、朧刃の姿であった。
「‥‥恐れる事はない。行くぞ」
 寡黙な天目はそれだけを言えば、開拓者達は皆それぞれの得物を構えて朧刃へと向かった。
 ゆっくりと距離を測りつつ、朧刃を真っ正面に見据えて近づいていくのは鬼限。
 彼は囮役としてまず攻撃を仕掛ける役、つまり転移をさせるための布石である。
 そして、他の開拓者たちはその鬼限の死角を囲うようにして周囲に散らばっていた。
 転移後を狙って攻撃するのが彼らの役目、そして司令塔となるのは全員を俯瞰している鴇ノ宮。
「ふむ、中々に厄介そうであるが‥‥」
 身の丈ほどもある大斧を構えながら紬 柳斎(ia1231)は小さく呟き。
「だがこちらの力をあわせて負ける道理もないはず。きっちりと冥府へ送り返してくれよう」
 決意の言葉を口にすれば、それが戦闘開始を告げる合図となった。

●瞬転、瞬戦
「まずは小手調べだの」
 初撃は矢、まだ距離を測っている鬼限のためにもと小手調べの矢をバロンが放つ。
 その矢を、朧刃は手にした刀で斬り飛ばして防いで。
 その様子から、高い戦闘力も備えていることが見て取れるのであった。
 だが、怖じ気づくわけにも行かない。
 それに、いくら戦闘能力が高かろうと、同時攻撃を受ければ防御にも綻びが生じるのも道理だ。
「では、参りますぞ、バロン殿、合わせて下され!!」
 囮役が危険であることを分かりつつも、その老いた顔に笑みを浮かべて。
 一足飛びに距離を詰め、蛇拳の構えで攻めに転じる鬼限。
 それを援護するようにバロンの矢、まずは朧刃の出方を見る連続攻撃である。
 ゆらゆらと体をゆらしつつ、くねる腕はまさしく蛇の動き。
 変則的な攻めで朧刃の防御の隙を狙う鬼限であるがなかなか攻めあぐねて。
 そしてそこに飛来するバロンの矢、あるものは朧刃が斬り飛ばし、あるものは回避するのだが。
「‥‥甘いの」
 バロンが放った矢は込められた練力によってその軌道を曲げ、朧刃の装甲の隙間を穿つかにみえた。
 ‥‥しかし、その矢はそのまま空を切ったのであった。
「転移しましたぞ!」
 鬼限が声を上げたその瞬間、全体を俯瞰していた鴇ノ宮は気付く。
 じわりと闇の中ににじみ出るように浮かび上がる朧刃の影、その位置は鬼限の真後ろだ。
「六時の方向っ! ‥‥一瞬しかないチャンス、無駄にすんじゃないわよ!」
 あらかじめ位置がわかりやすいように示してあったのが功を奏し、即座に周囲の開拓者が反応。
 まず飛び出したのは、鬼限の死角が視界に収まるようにして待機していた泰拳士の2人であった。
「今だっ、牙狼拳!!」
 まっすぐに体ごと突進し、怒濤の連続攻撃を見舞おうとする小伝良。
「っ! わたくしも‥‥」
 そして同じように、御真坂も突進するのだが。
「‥‥危ないっ!」
 2人の泰拳士を援護しようとしていたもう1人の泰拳士、嵩山は気付いた。
 最初、鬼限を狙おうと振り上げていた朧刃の刃は、今は向きを変え小伝良と御真坂を狙っていることを。
 突進し、速度に乗った泰拳士は、その勢いのまま攻撃を叩き込むことが出来る。
 だが、相手はこちらの裏をかける転移能力をもつアヤカシだ。
 転移をせずに攻撃の構えと言うことは、反撃の刃で迎え撃つ気だと言うことだ。
 とっさに嵩山は、攻撃のために構えていた槍の一撃を迎撃の一撃とし、朧刃の刀を弾く。
 小伝良に届かんとしていた朧刃の一撃はそらされ、そのまま小伝良は拳を叩き込もうとするのだが。
 その一撃は空を切るのだった。
 続いて朧刃が出現したのは、固まってしまった鬼限ら泰拳士たちからは距離を置いた位置で。
「次、三時の方向!!」
 鴇ノ宮は、とっさにそう声を上げて。丁度そこには、身構えていた紬がいた。
 朧刃は、大きくその刃を振り上げると、紬へ一撃。
 鴇ノ宮の声で防御が間に合ったらしく、紬はそれを受け、さらなる追撃は不動を発動してしのぎ。
 その隙に、天目は流し斬りを朧刃へと見舞うのだが、その一撃は転移によって躱されてしまうのであった。

 こちらの攻撃に合わせて転移を使われてしまえば、逃げられてしまう。
 そんな攻防が幾度か繰り返されていた。
 攻め手に欠く開拓者が一見不利と見える攻防なのだが‥‥開拓者達はじわじわと勝機を掴み始めていた。
 それは、転移の時間差である。
 幾度も攻防を繰り返せば、朧刃が消えた後、現れるまでの時間差になれ始めるわけで。
 出現する瞬間の予想がつけば、それに合わせて動きを取ることは不可能ではない。
 いよいよ反撃である。

●決着の時
 幾度目かの攻防にて、再び作戦通り最初に攻め込んだのは鬼限だ。
 他の開拓者のために囮となり、危険を承知で飛び込んだところを援護するのはバロンの矢で。
 これがまさしく反撃への嚆矢となった。
 鬼限の蛇拳の攻撃を凌ぎつつ、朧刃はバロンの矢を防ごうとしたのだが。
 今回の一撃は特別製、連続して矢を放つ連環弓の技であった。
 一撃目を弾く朧刃、だが二本目がその体に突き立った。
 続く鬼限の猛攻から逃げた朧刃が転移したのは、奇しくも最初と同じ鬼限の背後方向で。
「六時の方向っ! 今度こそ!」
 怪我をした面々を癒しつつ、鴇ノ宮はそういえば。
 待ち構えていたのは天目、大上段に構えて待っていれば、予想通り現れた朧刃は一足一刀の距離だ。
 無言の気合いと共に、踏み込んで袈裟懸けの一撃は、炎魂縛武を纏った流し斬り。
 出現した瞬間に読んでいたかのように放たれた渾身の一撃は見事朧刃を捉えるのであった。
 同時に、その横合いから飛来したのは地を割る斬撃。
 紬は離れた距離から地奔の一撃を同時に叩き込んでいた。
 二撃を受けたものの、続く天目の攻撃を回避するために再び転移する朧刃。
 だが、すでに出現する兆しを読まれ、予想がつけられた朧刃は袋のネズミであった。
 次に出現したのは、距離を取るために開拓者達が居ない位置だったのだが。
 そこを狙うのは速度に優れた泰拳士の面々だ。
 槍の間合いを活かして、嵩山は空気撃。相手の体勢を崩す技で、続く攻撃に繋げるよう布石を打つ。
 そこに、先ほどのお返しだとばかりに突っ込む小伝良と御真坂。
 牙狼拳による連打と正拳突きの一撃が全く同時に打ち込まれれば、さすがに朧刃も防戦一方。
 またしても反撃に移る暇も無く転移するしかなく。
 今度はまたしても鬼限の背後を取るような位置に出現するも、鬼限は背拳の技で朧刃の一撃を回避。
 そして、もうその出現の兆しに慣れた開拓者達は怒濤の攻めに転じるのだった。
「んふふ‥‥アタシがただの癒し手だと思ったら、大違いなんだから」
 接近してまで浄炎を見舞うのは鴇ノ宮。さらにたたみかけるのはバロンの矢。
 距離を置いて放たれた攻撃に続いて、待ち構えていたのは刃と大斧。
 天目は狙い澄まして流し斬り、紬は地を這う大斧の斬撃で朧刃を穿つ。
 そして、逃げようとばかりに転移した先を追ってとどめを刺すのが泰拳士たちだ。
 すでに満身創痍の朧刃は転移すら許されず。
 鬼限の蛇拳、嵩山の槍、小伝良の連打に御真坂の一撃を喰らうのだった。
 そして、一同が見守る中、力尽きた朧刃は銀に輝く刃を取り落とし。
 刃も、朧な体も全てが瘴気へと化し、消えていくのだった。

 一体で八名の手練れの開拓者相手に戦い抜いた朧刃。
「確かに強かったが‥‥一人だったのが最大の失策であったな」
 どっかと大斧を降ろして、一息つく紬は。
「一人で勝てずとも、こうして皆で勝てばそれでよい。まぁアヤカシには分からんだろうがな」
 といえば。
「まったくじゃ。単身では討ち果たせぬ難敵も、力を束ね合わさば勝利を成せる。」
 やっと一息つけるとばかりに、体の傷を撫でつつ鬼限も同意して。
「在勝な理屈じゃが‥‥然し、真理なのじゃなあ」
 と言うのであった。
 こうして、無事に依頼は終了。
「はー、メンドくさい相手だったわね‥‥さて、さっさと帰ってお茶にしましょ」
 鴇ノ宮の言葉に皆頷いて。
 開拓者達は、御真坂とともに帰路につくのであった。

(代筆:雪端為成)