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■オープニング本文 「おい、村長はいるか!」 緑茂の戦場からやや離れた村落。唐突に現れたやや柄の悪い巨漢が、声を張り上げた。 「は、私が村長ですが‥‥何か」 「我々は、緑茂の里の救援に来た開拓者である」 名乗った男達の後ろには、同じような男がたむろしている。そして、おそらくその首領格であろう男は、村長を見下ろして言葉を続けた。 「食料と女を用意しろ。長い旅路にて、我々は疲れておる」 「は、食料と‥‥女、ですか? そう申されましても‥‥」 この村落では、少しでも前線の兵への助けになればと、村人達と話し合って備蓄から緑茂への支援物資を送り届けている。だがそれ故に、村には余裕がある訳ではない。 「それに、女と言うのは一体‥‥がふっ!」 問い尋ねた村長の老体に、拳が突き刺さる。振り下ろした男は、冷たい目で倒れた村長を見下ろした。 「食料と女だ。分かるな? それとも、天儀王朝より認められた我らに逆らおうと言うのか?」 緑茂の里で戦いに備えていた軍勢の下に近隣の里から陳情が届けられた。 それによれば、『緑茂の救援に来た』と言う開拓者が村に現れ、食料や女を奪い勝手気ままの限りを尽くしている。そして、いつになっても戦場には向かわず村に居座っているという。何か言えば『開拓者に逆らうな』との一点張り。 困り果てた村人達が相談し、その『開拓者』の目を密かに盗んで陳情へとやって来たのだ。 開拓者ギルドに問い合わせた所、そのような開拓者はおらず、またそちらの方面へ向かう依頼も出していないとの事。おそらくは、軍が緑茂に集まり手薄になっている間に、戦の混乱に紛れて開拓者を騙り、山賊行為を働いているのだろう。 放置しておけば、村落の人々が苦しむのはもちろんの事、開拓者の評判にも響きかねない。 戦場の開拓者達に、一つの依頼が出される事になる。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
銀丞(ia4168)
23歳・女・サ
紅蜘蛛(ia5332)
22歳・女・シ
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
トゥエンティ(ia7971)
12歳・女・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●包囲と潜入 偽開拓者のいる村落へと、やって来たのは8人の開拓者。隠れ場所から広場の様子を密かに伺いつつ、風雅 哲心(ia0135)はふと溜息を漏らす。 「俺らが苦労しているときにこんなところで酒盛りとは、いい気なもんだな、まったく」 仲間達はそれぞれの方法で潜入を計り、あるいは包囲の為に村の方々に散っている。丁度、哲心の視線の先で鬼灯 仄(ia1257)が偽開拓者の首領に取り入ろうとしている所だ。 「いやあ、大将。俺も一緒にこの村をアヤカシから守らせちゃくれませんかねえ」 質素な服に木刀と言う、みすぼらしい小悪党に成りすました仄。不精な髭や下卑た笑みと相俟って、見た目はまさにその物だ。 「今は金がなくてこんな得物しか持っちゃいませんが‥‥どうですかね?」 「‥‥それだけか?」 村娘を侍らせた首領は、胡乱な視線を彼へと向ける。頭数が増えれば分け前は減る。仲間に加えて得と思わせられなければ、取り入るのは不可能だ。 「話にならんな。ここは我らだけで足りている。だいいち‥‥どこから話を聞いてきた?」 「え? ええと、それは‥‥」 重ねて問われ、言い訳を考えていなかった彼は言葉を詰まらせた。背に嫌な汗が浮かぶ。 「あの‥‥お取り込み中申し訳ありません、お酒の方をお持ちしました‥‥」 不穏な空気へ割って入ったのは、村娘に扮した紅蜘蛛(ia5332)だ。トゥエンティ(ia7971)と共に、やや気弱な様子で偽開拓者に酌を始める。 「ん? おお、そうか。お前はこっちに来て俺の酌をしろ」 現れた女達へと興味を移した首領は、仄に立ち去るように目線で告げ、それを幸いに慌ててその場を離れる。 「くっそー、羨ましいぜ‥‥俺だって侍らせて酒池肉林したいけど出来ないんだぞこんにゃろー」 そして、そんな光景に思わず漏らしてしまうのは、包囲網の一人である竜哉(ia8037)だ。 依頼人から聞き、自分でも調べて回った周囲の地形を頭に叩き込みながらも、どうしても宴が気になってしまう。 「あっ‥‥やめてください‥‥!」 「へっへっへ、嬢ちゃん、そう怯える事はねぇぜ。何せ俺達は正義の開拓者様なんだからな!」 だが、怯える少女のように振舞うトゥエンティに絡む偽開拓者達を見ると、羨ましさよりも大きく怒りが上回ってくる。 「誰かを悲しませて‥‥ましてや女性を無理矢理、だなんて‥‥絶対許せねぇ‥‥!」 時を同じくして、銀丞(ia4168)もまたその光景を別の場所から見つめている。 「ま、真っ当に生きたってアヤカシにやられるご時勢だ、責めはしないさ」 竜哉と違い、飄々とした態度で、しかし目線は鋭く。 「責めはしない、が、仕事はさせて貰うよ」 太刀に手をかけ、準備は万端。いつでも飛び出せる体勢だ。 「お、おい! なんだお前は!」 「ん‥‥?」 村の人足として潜入した喜屋武(ia2651)は、偽開拓者の一人に声をかけられる。 「俺‥‥です、か? 荷物運びを‥‥」 内心緊張しながら、あくまで愚鈍に振舞う喜屋武。だが、偽開拓者の警戒は解けない。 「あ、あっちでやってろ。こっちには仕事はねぇよ!」 幸い開拓者だとバレた訳ではないようだが、そもそも首領以外は志体を持たないただの荒くれ者。 長身にして精悍な喜屋武の体格は、仮にただの村人であったとしても偽開拓者達にとっては脅威なのだ。 (「あとは仕掛けるだけ‥‥味方と上手く連動出来ればいいんスけどねぇ‥‥」) 抜足で音を立てずに広場に近づきながら、包囲網を形成する忠義(ia5430)が呟く。 が、開拓者達は、互いが『いつ仕掛けるか』の認識を合わせておらず、合図なども用意しておらず、包囲に散っているこの状況では、連携の取りようがない。 (「タイミングは、トゥエンティ様と紅蜘蛛様に任せるしか無いスかね‥‥頼んますよ」) じっと息を潜ませながら、彼はその時を待つ。 「開拓者様には優しくするもんだぜぇ?」 「いけません、そんなの‥‥」 一方、エスカレートする偽開拓者をあしらいつつ、トゥエンティはさりげなく他の村娘を守りやすい位置に誘導していく。 「ど、どうぞ‥‥こちらを」 「うむ。貰おうか」 気弱に振る舞いつつも色気を見せる紅蜘蛛に、首領も高揚していく。あまり多くの酒は用意できなかったが、企みを気づかせぬほどには酔いが回る。 「おやめ下さい‥‥そんな」 誘いをかけつつ、視線をちらとかわし合う2人。そして、小さく頷きあい。 「わははははははっ!」 髪を隠す布を取り払い、トゥエンティが高笑いと共に立ち上がった。 ●突入と戦闘 「わはははは、我輩が成敗してくれるのであーる!」 「うぉ、なんだなんだっ!?」 響き渡るその咆哮はサムライのスキル。偽開拓者達は一斉に注意を引き付けられた。 「貴様らっ‥‥!?」 咄嗟に杯を放り捨て、刀を抜き放つ首領。紅蜘蛛に刀を向けようとした瞬間、木の葉が舞い散りその姿を覆い隠す。 「タダで身体を許す程、気易い女じゃなくってよ?」 本性を現し、妖艶な笑みを浮かべる彼女を睨みつけつつも、首領は冷静に周囲を見渡す。 「お前達、女どもを人質に‥‥くっ!?」 だが、志体無き者がスキルに抗うのは難しい。多くの偽開拓者はトゥエンティに引き付けられ、人質どころではない。 「ここまで我慢したのだ。存分に暴れさせて‥‥ぬぉぅっ!?」 となれば、当然首領が最初に狙うのは彼女だ。地を這う衝撃波が彼女の小柄な身体を弾き飛ばす。 「そんな奴など無視しろ! こいつらだけとは思え‥‥」 「ぎゃあっ!?」 叱咤の声を飛ばす首領の横で、運良く咆哮から逃れていた偽開拓者を矢が貫いた。その軌道の先、二の矢を番えながら弓を構えるのは先ほど一旦退避した仄。 「喜べ。俺は小悪党には割と寛容なんだ。運良く生きてたら止めは刺しゃしねえよ」 葛蔓の幻が矢に絡み、それが狙いを後押しする。逃げ惑う村娘達を的確に避け、矢弾は偽開拓者達を射抜く。 「‥‥まあ、生きてたらだけどな」 「そこらへんは、運に任せて下せえや」 次いで接敵したのは一番広場の近くにいた忠義、 「ったく、三下臭いっつーか‥‥いや、そう、やることが一々セコイ、ってのがしっくりくるスね」 短剣でサクリと相手を切り裂きながら、溜息を漏らす。 「人が命賭けて戦してるっつーのにですよ、こーゆーことしちゃうって、根性がなってないスよ」 「ふん‥‥お前たち、役にも立たず倒れたらどうなるか、分かっているだろうな?」 ギロリ、と部下達に目を向け、首領は矢継ぎ早に刀を振るう。 「くっ‥‥ぅっ! 流石にキツイのであーるっ‥‥!」 その狙いは、咆哮で偽開拓者たちを引き付けているトゥエンティだ。村娘に扮する為に武装を解いている上に、紅蜘蛛のような回避力を持たない彼女にとっては、この攻撃は凌ぎ難い。 「トゥエンティさん‥‥っ!」 加えて、彼女達の得物を運ぶ役が竜哉一人だったこと、トゥエンティの得物が長柄斧と言う重い武器だった事も災いする。 初動の連携不足も相俟って、受け渡しが間に合わない。 「っ‥‥あああっ!」 「まず、一人!」 首領の両断剣が彼女の身体を大きく傷つけ、地に打ち倒した。 が、倒れこそしたものの、そうしてトゥエンティが気を引いていた貴重な時間が、初動の遅れを埋める。 村娘達と入れ替わりに包囲を敷いていた開拓者達を広場へと到達させた。 「貴様っ!」 仲間を倒された怒りの声と共に放たれた哲心の流れるような斬撃が、偽開拓者の胴を薙ぐ。 「貴様に朝日は拝ませねぇ! ここであの世に送ってやる!」 鍛え抜かれた薄刃の珠刀から繰り出されるそれは、一刀で敵を切り伏せた。 「まあ日頃の行いが良ければ、生きてるだろうさ。ねぇ?」 銀丞も、娘の一人を背後に庇い、偽開拓者を牽制する。 「ほら、早く逃げな、巻き込まれるよ!」 浮かべる笑みは鮫か狼か、その肉厚の太刀の威圧感も合わさり近寄りがたい雰囲気がある。 じわり、と後ずさる偽開拓者達の耳に、響くは重い足音。 「それ以上仲間に手を出したら、生きて帰れると思うなよ」 バトルアックスを手に長身で見下ろす喜屋武の威圧感は、開拓者の中でも一際だ。 「ねーさん、これをっ!」 「ありがとう、竜哉。‥‥さて、と」 精霊の小刀を受け取り、改めて構え直す紅蜘蛛。艶かしくも凄みのある笑みを投げかける。 「人生最後の宴は楽しめたかしら? あとは、一人で逝きなさい」 渡した竜哉もまた、賊刀を手に偽開拓者達に吼えた。 「誰かの幸福の為に血を流すのが開拓者だ。そいつが分からないてめぇらには、嘘でも開拓者を名乗る資格はねぇ!」 真っ直ぐにぶつけられる、使命感が生み出す怒り。それを叩きつけられ、また仲間を傷つけられ、偽開拓者達は恐怖に陥る。 「ほ、本物‥‥本物の開拓者だっ!?」 「か、囲まれてる‥‥殺される!?」 恐怖による支配は、より強い恐怖に打ち消される。恐慌状態に陥った偽開拓者は散り散りになって逃げ出した。 ●逃走と追撃 「逃がさねぇよ‥‥お前らはここで終わりだ」 行く手を阻むように、哲心が珠刀を振るい、一閃ごとに大きな傷が偽開拓者に刻まれる。 「ひぃぃっ! や、やめてくれ、殺さないで!?」 「なら、降参するか?」 喜屋武のバトルアックスによる攻撃に、悲鳴を上げる者もいる。振りが大きすぎる攻撃は命中しないがそれは意図的な物、一振りごとに肉体ではなく士気を追い詰める。 「ふん‥‥邪魔だ、退けっ!」 「いやいや、そーいう訳にもいかないんスよ」 部下の恐慌に紛れ、首領は包囲を抉じ開け逃げようとする。それを抑えるのは忠義だ。 「そうか、なら死ね」 「それもちょっと‥‥困るスねぇっ!」 力強い首領の斬撃を、かろうじて短刀で受け止めるが、重い衝撃は受け止めきれず、腕に痛みが走る。流石に一人でこれを抑えきるのは不可能だ。 「‥‥ちっ!」 だが、そこに飛来する葛絡みの矢が、同時に行く手を阻む。放ったのは無論仄。 「生きてたらトドメは刺さない、とは言ったが‥‥生きてたら、だからな」 「くそっ、開拓者どもめ‥‥!」 無傷では抜けられぬと悟ったのだろう。首領は防御や障害の排除よりも、巨体を押し通し無理矢理の突破を試みてくる。 「あら、逃がさないわよ」 追いすがるのは早駆で間を詰める紅蜘蛛だ。清められた小刀を触媒に、火遁術で首領の肌を焼き焦がす。 「さっきの接待のお代は、三途の川で払ってもらおうかしら」 逃げようとすればシノビの足が間合いを詰め、ならば倒そうとすれば木の葉に紛れ姿を眩ます。練力の続く限りとはいえ、これほど厄介な追跡者もない。 一方、散り散りに逃げ出す偽開拓者達に対しても、追撃をかける。 予め銀丞が根回しして置いたため、村人達は逃げた村娘も含めてみな家に篭り、人質に取られる心配もない。 「血を流す事も痛みにだって我慢は出来る。でもなぁ‥‥」 涼やかな美貌を怒りに歪め、竜哉は偽開拓者の一人に肉薄する。 「誰かが泣き伏せる事だけは我慢ならねえんだよ‥‥ましてや、それが女性なら尚更にな!」 その怒りのままに、拳を叩きつけ、捻じ伏せる。打ち倒した偽開拓者を見下ろし、それでもフェミニストである彼の怒りは晴れるものではない。 「ええい、こうなったらあいつを人質に‥‥」 「それは困るな」 倒れているトゥエンティを人質にしようとした一人は、銀丞に横合いから腕を掴まれる。 「こんな事しなけりゃ、痛い目を見る事も無かったろうに‥‥ま、こっちも真っ当な仕事じゃーないが、責めてくれるなよ」 「ぎゃああああっ‥‥」 腕をへし折られ、その激痛に悲鳴と共に失神する偽開拓者。それを見下ろし、彼女はやれやれと溜息をつく。 「あいつは‥‥捨て置くしかないか」 包囲の間を縫って一人、遠くに逃がれた者の背を見て、一瞬弓に触れる。 が、流石に遠い。彼女の持つ理穴の弓ならば当てるぐらいは出来るかもしれないが、トドメを刺すには至らないだろう。 「それよりも、お前だな。逃がす訳にはいかない」 「くそっ‥‥役に立たない連中だ!」 首領一人を、開拓者達は包囲する。刀を手にし宣言した哲心を、憎憎しげに睨みつける首領。 「もう、これで終わりだ。さぁ、貴様の罪を数えろ!」 「ふざけるな!」 振るわれる首領の刀は、流石に力強く鋭い。だが、こうなってしまえばもはや多勢に無勢、この人数では強引に抜かせるような事もない。 「この様なことをするなんでギルドを敵に回すようなもの。どの道このまま生きてはゆけん」 「お前達さえ来なければ‥‥!」 喜屋武の言葉に逆上し両断剣を叩き込もうとする首領だが‥‥それは、巨体からは想像もつかぬ身軽な動きでかわし、すれ違い様に斧を叩き付ける。 「くそっ‥‥お前達さえ‥‥!」 めり込む斧がその身体を裂き。真っ赤な血と共に、首領は地に伏した。 ●決着と帰還 「終わったか‥‥」 振り切った体勢のまま、息を吐く喜屋武。 「志体と、これほどの腕を持ちながら賊に身を落とす‥‥業はアヤカシともはや変わらんな」 志体持ちである首領はそう簡単には死なないが、それでも重傷を負っている。部下たちの方も重傷と死者が半々と言う所だ。 「ま、生死の差は日頃の行いって奴だろうさ。生きている者も相応の裁きを受ける事になるだろうけどね」 「こいつらも、どーせ色々してきたんでしょーな。ま、そこを調べるのは仕事の範囲外スけどね」 銀丞の呟きに、忠義も続ける。少なくとも、こんな事を二度と繰り返しはしない‥‥いや、繰り返せはしないだろう。 戦闘が終わったと見て、村人達も家から出て来た。倒された偽開拓者達の姿を見ると、口々に礼を述べる。 「本当にありがとうございました‥‥なんてお礼を言ったらいいのか」 「わはははは。真の開拓者ならば、当然なのであーる!」 胸を張って応じるのは、刀傷の応急手当を済ませたトゥエンティ。 途中倒されはしたものの、彼女の咆哮が無ければまた依頼の結果は変わっていたかもしれない。 「労いに酒といい女を‥‥と言いたいとこだが、まあ我慢だな」 「あら、じゃあ私が相手してあげましょうか? たまには純情な乙女を演じるのも楽しかったし」 仄の呟きに反応し、紅蜘蛛が囁きかける。それに竜哉がピクリと反応してしまうのは、きっと悲しい男のサガだろう。 「‥‥ま、これで開拓者の信頼が失われずに済んでよかったかな」 感謝と信頼の篭った村人達の視線に、彼は心からそう思った。 |