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■オープニング本文 ●春の嵐 とある夕刻。鈍色の空の下、強い風としのつく雨をものともせず、3人の開拓者がアヤカシと戦っていた。いや、正確には元開拓者である。開拓者ギルドから出奔して活動している、そんな面々だ。 周囲に居るアヤカシの数はざっと見ただけで10や20ではない。個々の能力は大したことがないし、連携をとってくるわけでもない。極端な話、熟練した開拓者であれば一刀のもとに切り伏せられる程度だ。だが、数が多すぎた。 「話には聞いていたが、数が多いな」 刃こぼれが酷くなり、使い物にならなくなった短刀を捨てながら長身の男が呟く。まだ彼には長刀が残っており、こちらは突きを主体に使っていたためか、もう暫くは使えそうだ。 「面白いじゃない。こんな楽しめる戦い、滅多にないわ」 長髪の女が太刀で手近な、白蛇のような姿のアヤカシを切り捨てながらうそぶく。口調こそ楽しんでいるようではあるが、彼女の表情は真剣だった。容易ならざる状況であることは間違いない。 「面白がっても居られませんよ。治癒符も底なしに使えるわけではありません」 一歩引いた位置で2人の支援に徹していた小柄な男が、やや呆れたように言う。 「大丈夫だ、増援を頼んでおいた。開拓者ギルドに、な」 先ほどの長身の男が淡々と言う。それを聞いて、女が笑い出す。一方、小柄な男はというと、 「成る程、貴方らしい選択だ。どちらにせよ、私達も年貢の納め時かもしれない、ということですか」 と、諦観したように呟くのだった。 ●出自 過去に開拓者ギルドから出奔した彼らは、今はいわゆる義賊と呼ばれるような存在だった。 あくどい商売で身を肥やした商人などの家を襲い、貧しい人に財を分け与える。あるいはアヤカシなどに襲われて困っている村のために、無償、あるいは少ない報酬で戦う。 後者はともかく、前者はどのような理由であれ、やっていることは『盗賊』であり、少なくともおおっぴらに許されるものではない。 では、少なくとも公式には『盗賊』である彼らが何故、今まで、ある程度とはいえ自由に動けていたのか、というと。 彼らには1つの信条、あるいはルールがあった。 ――どんな場合であれ、人は殺さない。 義賊といえども、盗賊ではある。金持ちの家を襲う時など、一歩間違えば相手を殺してしまうことにもなりかねない。だが、彼らの中にあった矜持が、それを拒んでいた。 要するに彼らは、彼らの思う人助けの方法として、開拓者ギルドに所属していることよりも義賊を選んだのだ。 人を殺めることなく、弱者にとっては味方である。そんな彼らを、周囲の村人は表にこそ出さないものの、陰で賞賛し、あるいはささやかな支援を行ったりしたものだった。 過去に、被害を受けた商人が何度か、彼らを討伐することを開拓者ギルドに依頼として出したことはあったという。とはいえ被害者の商人もどこかしら後ろ暗い部分があるので、あまり強くは要求できない。 そして、依頼として開拓者を動かすために調査をしようにも、周囲の村人に知らぬ存ぜぬで押し通され、隠れ家や行動の実態などを掴むこともできないままだったのだ。 さらには、行動範囲もそう広くはなく、被害も限定されているため優先順位が低かった、という面もある。或いは、彼らが『義賊』であることに配慮して、開拓者ギルドの担当者がこっそりと優先順位を下げて処理していたのかもしれないが。 それが、今まで彼らが本格的に討伐の対象とならなかった理由である。 だが、その『盗賊』の本人に使い走りを頼まれた村人経由で、彼らから依頼が来たのだ。 彼らの居場所もはっきりしているとなれば、開拓者ギルドとしては、盗賊でもある彼らの討伐をせざるをえないのも、また事実であった。何しろ以前に出された依頼は放置状態であったとはいえ、いまだ有効ではあるのだから。 ●依頼 「何とも、扱いづらい事案ではありますが」 微妙な顔をしながら開拓者ギルドの担当者が口を開く。 「先ずは、だいぶ前に開拓者ギルドから出奔し、現在では盗賊となっている3名と共闘して、集団で近くの村を襲おうとしているアヤカシの対処をお願いします」 盗賊と共闘、と聞いて怪訝な顔をする開拓者達を手で制して、担当者は説明を続ける。 アヤカシは、体に剣をはやした狼のようなもの、白い大蛇のようなもの、そして動き回る死体、の3種類が、それぞれ20前後いるらしい。尤も一部は件の3人によって討たれているから、少し減っては居るだろう。 個々の強さは大したことはないが、数がかなり多いので注意してほしい、という。 「そしてその後、その3名の捕縛または討伐をお願いします」 長身の男は志士であり、3人の中ではリーダー格であるらしい。あとはサムライの女と、小柄な陰陽師の男だ。皆、十分な手練れであるという。 3人とも、あくどいことをしていながら簡単には裁けないような存在に対して、開拓者ギルドに居ては何もできない、これでは人々を救えないではないか、という考えで数年前に出奔したのだという。 「いくら義賊とはいえ、盗賊として活動する彼らを野放しにするわけにはいきません。ですので、捕縛や討伐ができなかった場合は報酬を減額させていただきます」 ――義賊ではあっても『盗賊』という行為に身を落とした以上、たとえ生け捕りにしたとしても死罪も十分に考え得る、という言葉を口に出すべきか悩みながら、結局口に出せなかった担当者は、急いで出発の準備をする開拓者達を見送るのだった。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
中原 鯉乃助(ia0420)
24歳・男・泰
野家・クロード(ia5058)
19歳・女・サ
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●想い 「義賊の富の再配分か」 絶え間なく続く雨の音の中、アルクトゥルス(ib0016)がつぶやく。出発直前、彼女は開拓者ギルドの担当者に、問題の三人組に襲われたという依頼人の噂を聞いて回った。 ――返せないと判っている相手に多額の金を貸し、返せなくなった者をただ同然でこき使っているらしい。 ――辺境の小さな町に行き、特定の商品を買い占めてから高く売ることで、そこの住人を犠牲に利益を出している。 成る程、法には触れないにせよ、少なくとも一般人の視点から見れば、商人たちのやり方を賞賛する者は皆無と言っていいだろう。過去の『被害者』はそんな商人たちだった。 「法で裁けない悪党を懲らしめ弱きを救う。そんな正義の味方がいてもいいんじゃねぇか?」 アルクトゥルスに同調した中原 鯉乃助(ia0420)も、三人組よりも被害者の商人に反感を抱いているようだ。 だが、必ずしも皆がそう思うわけではない。 「ですが、法は法‥‥。人が『信』を失ったらどうなるか、分かっているでしょうね」 三笠 三四郎(ia0163)が呟く。開拓者といえば、一般人に比べて圧倒的な力を持つ存在である。だからこそ、法から外れた行いをすれば、それは脅威となりかねない。それもまた1つの真理であった。 そして、檄征 令琳(ia0043)も同じ考えのようで、口にこそ出さないものの、しっかりとした動作で頷く。 そして、 「‥‥それが彼等の選んだ道ならば」 野家・クロード(ia5058)は、どちらかといえば行動の是非より、彼らがそういった道を選んだことを尊重したい、という考えのようだ。 とはいえ、開拓者の意見が一致しないことを誰も責められるものではないだろう。 多かれ少なかれ、開拓者は賭して戦うこともある存在だ。そこに至るまでの経緯やそれに伴う覚悟、開拓者という存在そのものへの考え方、そして己の信念や行動原理は皆、それぞれ違うのだから。 ――それに。 「とりあえずアヤカシを片付けながら考えるとするカ」 梢・飛鈴(ia0034)の言葉に、残る5人の開拓者は無言のまま頷くのだった。まずは人に害なすアヤカシを討つ。それは開拓者達にとっては、問題の三人組への対処よりも重要で、かつ明確な目的なのだから。 ●雨中のアヤカシ 横殴りの雨の中、元・開拓者の3人が戦い続けていた。 既にアヤカシは半分程度に減っている。だが、彼らの消耗はそれ以上だった。このまま戦い続ければ、いずれ敗北が訪れる。それは即ち、近隣の村にアヤカシが押し寄せることに他ならない。 しかし、その懸念もすぐに消える。 「ギルドの者、です! 加勢に来ました!」 大粒の雨が新緑を打つ音をかき消す、朗々とした声をあげたのはクロードだ。長身の男がそれに対して、 「助かる。見ての通り、まだアヤカシはかなりの数だ。心してかかってくれ」 と応じる。その言葉を合図に、二手に分かれる開拓者達。彼らは3人ずつのグループを2つ作ることで、死角を作らず効率的に敵を倒す作戦だ。 目の前に居る狼の姿をしたアヤカシの鼻っ面を豪快に殴りながら鯉乃助が叫ぶ。 「とりあえず、雑魚ども片付けるまでお互いに手出しはなしだぜ!?」 そして、それを聞いた長髪の女がふっと笑いながら、 「片付けるまで、か。いいわね、そういう言い方」 と応じる。その横では三四郎の持つ大振りの両手剣が、動く死体を胴体から上下に真っ二つにする。そのまま両手剣をしまい、次の相手を探す三四郎の姿はまさに、様になっている、という印象だ。 更にアルクトゥルスの槍が、鯉乃助の死角ににじりよっていた白蛇の胴体に、浅くない傷を与える。そして、一瞬アヤカシの動きが止まったところに、更なる追撃を繰り出すアルクトゥルス。首から上が転げ落ちたアヤカシは、雨の中に溶けるように消えていった。 もう一方のグループでは、クロードと長身の志士がやや突出気味にアヤカシの群れの中で暴れ、令琳が治癒符による回復を行い、その令琳に近づくアヤカシは飛鈴が片っ端から倒していく、という形になっていた。 飛鈴は最初は焙烙玉を使おうと思ったものの、これは雨が激しいため断念。そうこうしているうちに一部のアヤカシが令琳を狙いはじめたため、その護衛に回った、という次第だ。当初の予定とは若干違う形ではあるが、こちらも攻防のバランスが良いためか、かなり安定して敵を倒していく。 程なくして、最後の一匹のアヤカシとなった巨大な白蛇の頭部を、飛鈴の戦篭手が半ば砕きながら突き刺さり、一撃で動きをとめた。何度か痙攣するような動きを見せたあと、砂のように崩れ落ちて消えるアヤカシ。 そして周囲には、戦闘の喧騒が消え、雨の音だけが残る。 ●交わる道 誰かがふっと溜息をつく音がしのつく雨の音に混じって聞こえてきた。それは開拓者のものだったか、それとも3人の誰かのものだったか。 周囲には草が踏み荒らされた跡が残っているだけで、何も知らない人が見れば少し前まで、派手な戦闘があったなどとは想像すらできないかもしれない。 風はいつのまにか止み、雨だけが相変わらずの勢いで降り続いている。 「協力に感謝する。さて、私達はそろそろ失礼させてもらおう、と言いたいところだが‥‥君らとて、そうはいかないのだろうな」 三人組のうち、長身の男が最初に口を開いた。それに対して、令琳が口を開く。 「少し話を聞いて下さいますか?」 身動きを取らず、長身の男が令琳に向き直る。それを肯定と捉えた彼は、説得をはじめるのだった。 ――お金を取られただけならば、商人は再度回収する。逃げても何も解決しない。 ――世界を正したいのであれば、上に行くしかない。 ――出頭し、罪を償い、少しづつでもお金を返せばいい。 「役人達にとっても、貴方達を許せば、評判も上がるでしょう。加えて、盗まれたお金も戻って来るのであれば、悪い話ではありません」 そこまで言って一息つく令琳。だが、投降を勧める彼への、長身の男からの返事はこうだった。 「私達はたかが3人だ。この世の全ての理不尽を正すなど、夢にすらならない。故に、私達にできる方法で、私達にできることをやっているだけだ」 「ですが、貴方達のやっている事は、膨大な時間が掛かる事と、上に行く事の難しさから目を背け、小さく暴れているに過ぎません」 令琳が声を荒げる。力を得ることにより正義たることができるという彼の考えと、三人の選んだ道は、目的が同じでありながらアプローチはまったく違った。 「君の言うことは正しい。だから君はそれを為せばいい。目の前で苦しんでいる者がいれば大義よりもそちらを優先するような、私達のような弱い人間には到底、達し得ないことだからね」 「ですが、法は法‥‥。人が『信』を失ったらどうなるか、分かっているでしょうね。私からはこれ以上は言えませんが‥‥」 三四郎の問いには、小柄な男が答えた。 「そう、皮肉なものです。人が定めた法なのに、それを破る私達が村人達には信用され、法は破っていない悪徳商人達は誰にも信用されていない。法を守るのもまた、正義なのだろうけれどもね」 再び訪れる沈黙。 どちらが正しい、ではなかった。 説得を試みた二人と、三人の出奔者。ただ、それぞれが信じるものが決定的に違ったのだ。 「で、アンタらこうしてアタシたちを呼んだ以上、このままこの辺りで同じこと出来るとは思っとらんアルな?」 説得は失敗、と判断した飛鈴が口を開く。彼女も消耗しているが、既に戦闘の準備は整っているようだ。 「そうさせて貰えると助かるがね、君達にも立場があるだろうし、こちらは依頼を出した身だ。今更、無理は言えないな」 「‥‥私もサムライとして、只で逃がす気は有りません」 再び口を開いた三四郎の目には、既に戦いへの強い決意があった。 黙って聞いていたクロードが、両手で持っていた長刀の剣先を少し持ち上げる。彼女もまた、戦いは不可避と判断したようだ。 一方、鯉乃助は、 「俺は練力がもう無くってね。悪いけどこれ以上は戦えねぇな。ああ、それはそうと、おまえさん達の名前を聞いておきたいな。俺は中原 鯉乃助って言うんだ」 と言いながら、戦いに参加する意志がないことを示すように一歩下がる。令琳も戦う意志はないようで、それに続いた。 「すまない、名乗り遅れたな。松之丞だ」 「花蓮よ」 「喜助といいます。今更、よろしくと言える状況でもありませんが」 それぞれ名乗る三人。それに続いて、アルクトゥルスが、 「アルクトゥルスだ。最後になるかも知れないんだ、楽しい戦にしようじゃないか」 と名乗る。逃がすにせよ、一度は戦う心づもりで居た彼女が物見槍を構えたのを合図に、二度目の戦いがはじまる。 ●分かたれた道 クロードが喜助と名乗った陰陽師を狙おうと動くが、松之丞と名乗った志士がその前に立ちはだかる。咄嗟に目の前に現れた敵に斬撃を試みるクロードだが、これはあっさり受け流された。 「躊躇わずに命を狙ってくる、か」 「格上の人間相手に‥‥手加減などする謂われも、余裕もない」 「成る程、良い覚悟だ。願わくば、私達のように道を踏み外さないでほしいものだな」 自分達の選択に自信を持ちつつ、道を踏み外したと自嘲するような物言いにハッとするクロード。だが次の瞬間、長刀ごと押し返され、バランスを崩しそうになった彼女は咄嗟に後ろに飛んでいた。 その直後、一瞬前まで自分の首があった位置を雨に混じって銀色の光が通り過ぎる。彼女が背中に冷たいものを感じたのは、雨のせいだけではないだろう。 しかし、その隙に松之丞の懐に飛び込んだものが居た。 「逃がさないゾ」 松之丞めがけて襲いかかる飛鈴の戦篭手。上体をのけぞらせて一撃を躱しつつ避ける松之丞だが、攻撃は彼の肩を掠め、雨の中に血飛沫が一瞬だけ混ざる。 「良い連携だ、侮れないな‥‥」 偶然の産物とはいえ相手に打撃を与えることに成功した二人は、更なる攻撃のために一歩、踏み込むのだった。 一方、少し距離を取ろうとした喜助の前には三四郎が立ちはだかる。 「サムライとして逃がさない、と言った筈です」 「陰陽師として、とは言いませんが、逃亡中の盗賊としては捕まる気はありませんね」 ややおどけてみせる喜助への三四郎の返事は大型の両手剣による、横薙ぎの斬撃だった。まともに当たれば無事では済まないだろう。 「‥‥これは不味いですね」 人数的には開拓者のほうが勝っている。他の二人の守護を受けられない時点で、陰陽師としてはかなり戦いにくいのだろう。咄嗟に呪縛符によって無数の小さな式を生み出して三四郎に纏わりつかせるが、それでも三四郎は距離を縮めようとする。 「あまり使いたくはなかったのですが‥‥」 そう呟く三四郎の前に、巨大な茶色の蛇の式が出現する。思わぬ敵の出現に三四郎は息を呑むのだった。 アルクトゥルスの振り下ろした槍先を、剣で受け止めながら、花蓮と名乗ったサムライがニヤリと笑う。 「何故だろう、アヤカシ相手よりも心躍るな。人を斬ることはしないと決めていたが、戦うだけならそれも悪くはない」 そして、釣られるように微笑を浮かべるアルクトゥルス。彼女もまた、どこか戦いを愉しんでいるようだった。そして彼女達はふたたび、相手を殺す気はまったくない、それでいて全力を賭した戦いを再開するのだった。 ――程なくして、金属の武器同士が打ち合わされる音は聞こえなくなった。それは、雨がゆっくりと止んだのとほぼ同じ頃だった、という。 ●戦いの終わり 「別に全ての依頼が完璧にこなされる訳じゃねぇんだ、たまには依頼の一部を達成できない時だってあるさ」 「成る程、アヤカシは問題なく全滅、盗賊となった元・開拓者は3人とも健在で、どさくさに紛れてどこかへ逃亡、と」 鯉乃助からだいたいの報告を聞いた開拓者ギルドの担当者が淡々と言う。 「それでは、報酬については、件の盗賊からの分だけお支払いしますね」 「ま、たまにはいいカ‥‥」 少し残念そうな飛鈴が金を受け取りながら呟く。振り向いた彼女の視線の先では、体力のぎりぎりまで戦った三四郎とアルクトゥルス、クロードの三人が手当を受けていた。 手当を受けながら、クロードは沈黙したまま考え込む。どこか自分と似たものを彼らから感じ取ったからか、人一倍、彼らの行く末を無言のまま案じているようだ。 「放置は、できませんが‥‥」 一方、これからのことについて思案する三四郎。彼にとっての盗賊達は、まさに凶器なのだ。人間でありながら普通の人間を超えた力を振るい、それ故に危険な存在となる。とはいえ、今となっては彼らの足取りを追うのはほとんど不可能だろう。 「こんな事では強くなれないのに‥‥」 苛つきからか、誰にも聞こえないほどの小さな声で令琳が呟く。そして、もっと強くなろう、との決意を新たにするのだった。 「私はこれでよかったと思うけどね」 つい先ほどまで全力で矛を交えた相手のことを思い出しつつ、誰に言うともなしにアルクトゥルスが呟く。それっきり、開拓者達から会話は途絶えた。誰かと話し合うよりは、自分の中で決着をつけるべき事柄だ、と皆が考えたからだろうか。 そして開拓者達は次の依頼にそなえて体を休める。それぞれの戦う理由と正義を胸に宿しながら。 |