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■オープニング本文 「なんだソレは」 雇われの用心棒、鰓手晴人は無精髭を伸ばしっぱなしのクセに、まるで偉そうに問う。 問われた相手は彼の雇い主、保浦鈴音は普段来ている着物と全く別物の衣服を今、身に着けている。 黒白を基調にして各所にヒラヒラしたものが付いてる異国の着物‥‥こんな様式の着物は、都でもなかなか見た事が無い。 「この着物がジルベリアの麗人達の、ひそかなブームなのだと聞きました。どうです?」 言いながら、彼女はクルリと一回転すると、下半身の裾は軽やかに宙を舞う。上半身の方は‥‥あ、未発達なんですね、全く揺れない。 「見た事の無い着物だ。黒白といったら葬式を連想するが、それにしちゃあ作りが華やか過ぎる。それに、そこまでふわふわとした裾は見た事が無い」 「さらに、この裾が短いものもあります」 「何!? どれくらい?」 「膝に届かない位です」 「そりゃチト‥‥問題がないか? 例えばなんだソノ‥‥足が冷えそうだ」 「ジルベリアの麗人達はその点の懸念も既に検証済みの様です。短い裾の場合にはこれを履くと、うかがっていますわ」 「そりゃ足袋か? 随分長いし生地も薄そうだ」 「行商は『にーそ』と仰っておりました。どう言う字で綴るかは分かりませんが、博識な開拓者様ならご存知かもしれませんね」 「待て。何でそこに開拓者が出てくる」 「何故って‥‥今回、これをお召しなるのは開拓者様なのですから」 「何だと?」 町の雑貨屋、『保浦屋』を営む保浦鈴音は、先日に、ジルベリアの大商人と嘯く男と商売をしていた。 その仕入れ商品の中に、鈴音が見た事のない衣料品があった。『黒白を基調にして各所にヒラヒラしたものが付いてる異国の着物』、見慣れぬ着慣れぬ履き慣れぬソレだが、鈴音はその物珍しさを逆手にとり、数量限定の目玉商品として店頭に加えるつもりでいる。 しかし、如何せん奇異な外形のそれである為、ただ店頭に並べるだけでは買い手の食指も動きにくい。 そこで、開拓者達にこの服を身に纏い都を練り歩いて宣伝してもらい、まずこのエキゾチックな服の存在を市井に知らしめる必要がある。 「‥‥と、お前から聞いた話を纏めるとこんな感じか?」 「流石は晴人さん。顔は悪いですが飲み込みは良いんですね」 何か晴人の奥歯から音が聞こえた気がしたが、鈴音は別段気にした様子もなく喋り続ける。 「とりあえず、異邦産着物の着付け模範という事で依頼を出し、開拓者様を募りますわ」 「おいおい‥‥着物なんて言い方したら、来た開拓者はびっくりするぞ」 「何か問題でも御有りでしょうか?」 「なんだソノ‥‥例えばの話だが、これは風の加減で脚が見え易い衣服だ。恥らう女性もいるんじゃないか? 更に裾の短いやつだったら‥‥いくら『にーそ』が有ると言え、抵抗がある女性もいるだろう」 「私が説得して、この依頼の間だけでも我慢して頂きますわ。むしろ、恥らう仕草に道行く殿方はそそられるでしょう」 「殿方をそそらせてどうするってんだよ」 一応ツッコミを入れてはみたが、ちゃんとした反応が返ってくるは晴人自身、思っていない。 現に、鈴音はそれをスルーした。 「では、私は今からギルドに依頼の申請をしてきますわ。あ、晴人さんは今回の依頼、雑用担当なので淑女達の御主命御所望をよく聞いて働いて下さいね」 「何!? 何だソレちょっと待て‥‥いや待って下さい!」 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
シュラハトリア・M(ia0352)
10歳・女・陰
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
クローディア・ライト(ia7683)
22歳・女・弓
シャルル・エヴァンス(ib0102)
15歳・女・魔
リーザ・ブランディス(ib0236)
48歳・女・騎 |
■リプレイ本文 『黒白を基調にして各所にヒラヒラしたものが付いてる異国の着物』‥‥それはやけに生地が軽く、ギャザーを寄せて作られた装飾には手間も生地も掛りそうで、一つの衣服として見た場合、機能性及び費用対性能比率は極めて低度と言える。 だが、それらを引き換えにして得られたものがある。 「サイズは‥‥丁度いいものがあって助かったわ」 「やぁ〜一度こういう服を着てみたかったのよ。良い機会ね」 小柄なシャルル・エヴァンス(ib0102)や川那辺 由愛(ia0068)が、それを着た姿、それはもう! 「お二人とも、良く似合っておりますわ。とても可愛らしい」 依頼主、保浦鈴音が言うまでも無い。 そう。 可愛いのだ! 可愛いは正義! 「お化粧は、淡くしてあります。元が良いので、それを活かす為に」 秋桜(ia2482)は化粧道具片手に、シャルルに微笑む。 「ありがとう秋桜さん。本当は下準備、彼に全て任せたかったけど」 「晴人様も、忙しそうですからね」 鰓手晴人は今、装飾品の準備やら洋服の確認等の仕事をさせられている。 由愛はスカートを摘まんで少し持ち上げては、靴との色合いの相性を確かめていた。異国の服を見る彼女の興に乗った表情は、その身丈も相まって、まるで爛漫な少女だった。 「出来ればあたしが売って貰いたい位ね〜、如何なのかしら?」 「値段はまだ思案中ですの」 「あら、残念。値札が決まったら教えて頂戴」 余程気に入ったのか、鈴音に聞く由愛の言葉は強ち冗談ではない様子。 「由愛の方もデザイン良いけど‥‥ん、ボクはこっちの服のほうが好みかな?」 野乃原・那美(ia5377)の方は、裾は短いバージョン。おお、際どい際どい。 晴人に向け、那美はくるりと回って無邪気に微笑んでみせる。 「えへ、どうかな? 似合ってる?」 「似合っ――イヤちょっと待て。今お前ホント際どかった。ちゃんと『穿いている』よな?」 「え、穿くって何を?」 「え?」 話が噛み合わないが、まぁ問題無いだろう。 「はぅ、異国のお召し物ですか‥‥そ、そんな短い裾で大丈夫なのでしょうか」 「秋桜様、逆に考えるのです、『見えちゃってもいいのさ』と考えるのです」 「えぇ!?」 「少なくともわたくしの体には、隠すべき恥ずべき場所などありませんわ」 銀髪に髪飾りを光らせ、惜しげも無い様子で裾から脚を見せるクローディア・ライト(ia7683)。別に気取ったポーズをとっている訳ではないが小麦色の生足は、ただ佇んでいるだけでも画になる。 曲線と直線の融合。本来あり得ない事象さえ、こと美というある種究極の欲求を前にすればそれは実現する。曲線の持つ優美さ生命感、直線の持つ機能美、女性の脚と言うのはそれら要素を完成された形で融和して存在しているのだ。 端的に述べれば、筆者は脚フェチ。 「折角珍しい異国の着物なんだから、楽しんだ者勝ちだと思うけどね〜」 那美は全く気にする様子も無く、何時もの様に朗らかな調子だ。 「この白黒のふりふりした服って‥‥亭主がたまに着せてくる物じゃないの。まさか、こんな所に出所があったのかしら‥‥?」 どさくさに紛れて、嵩山 薫(ia1747)からの問題発言。 「あんたの旦那さん、好事家なのかもな」 「コレ、珍しい服なの?」 「まぁ珍しいと言うか、うーん。あたしも一昔前に、バイトで着た事は有るんだが‥‥」 おおような声で述べる薫に、リーザ・ブランディス(ib0236)はどこか提言に苦している。 「まぁ別に、その辺は気にしなくてもいいか。あたしは黒ロングを着させて貰うよ」 女傑、リーザ・ブランディスも今は甲冑を脱ぎ黒の長裾のそれに身を包んでいる。 「昔取った杵柄を若いもんにも見せてやるさ‥‥おい晴人、何か言いたそうだな」 「無理すんな――あ、イヤ何も言ってないぜ!」 「‥‥お前には生きているのが辛くなる程、今回働いて貰う」 「な、何ィ!?」 「しっかり働けばその分の報酬の用意はするさね」 「報酬、って?」 「それは後からのお・た・の・し・み! なんだよぉ〜♪」 「あ、シュラハトリア様――ひぁ!?」 シュラハトリア・M(ia0352)の声が、秋桜の背後から聞こえてきた。 「シュラハトリア様、な、何を!?」 さわりさわりっ。 「このお洋服は、背丈だけじゃなくてイロイロなトコロのサイズを知っておかなきゃいけないから、綿密な身体測定が必要なんだよぉ♪」 目的は身体測定だけではないのは確定的に明らか。 「それじゃ早速、お着替えお着替え♪」 「更衣は、こちらの部屋にて」 「あーれぇー」 鈴音に案内され、秋桜はシュラハトリアと一緒にゴー・トゥ・更衣室。 「さて、出発前に皆様へ渡す物があります」 「これは?」 リーザは鈴音から受け取ったそれを見る。小さめの変哲もない笛。 「婦女子の緊急事態に吹けば、保浦屋自慢の用心棒が駆けつけます。晴人さん、宜しいですね」 「‥‥まぁ一応用心棒だしな」 晴人は渋々だが頷いた。と言うか、頷くしかなかった。 「裾は、長いと躓いてしまうのですよね。でも初めてで短いのは‥‥」 「慣れちゃえば平気よ」 「う〜‥‥」 短裾の秋桜は、恥らいと好奇が入り混じった感じでどこか落ち着かない様子。対照的にシャルルは至って平然。シュラハトリアはその姿を満足げに見つめている。 こちらは黒の短裾+『にーそ』の少女三人。ちっちゃい女子が並び、揃いも揃って絶対領域‥‥うーん、堪らん! 「そう言えば‥‥今頃気が付いた。秋桜さんだけ、お化粧してない」 「あ、皆さんにしていたら自分は‥‥今から急いで、保浦屋さんに戻ります!」 「いえ、走ったら着崩れちゃって大変よ」 言いながら、シャルルが鈴音から渡された笛を吹くと、甲高い音が響き‥‥晴人が息を切らせて走ってきた。 「はー、はー‥‥どした!」 「お化粧道具を取ってきて欲しいの」 「‥‥え。そ、それだけ?」 「宜しく」 お化粧忘れ=婦女子の緊急事態! 何も間違っちゃいない。 晴人に睨まれた感じがしたがシャルルは天使の笑顔でナイス・スルー。彼は無言で保浦屋の方向へ走っていった。 「さてと暫くの間、立って待っているのも何だし‥‥」 「シュラハ、お茶にしたいなぁ〜」 「わわ、シュラハトリア様。裾が浮いていますよ〜」 茶肆を見つけたシュラハトリアは小走りに駆け寄って行く。彼女の場合、例え見えても気にしなそうだ。 お茶には、他の二人も賛成。秋桜は、慣れない短裾でとりあえず座って落ち着きたいし、シャルルは高い踵の靴の所為もあって少しだけ足が疲れている。 三人並んで座り、お茶を啜りながら仲睦まじく談笑する姿は実に微笑ましい風景。ただ、やはりこれは道行く人々の注目を集め易い服装らしい。 それを感じ取っていたシャルルは、敢えて視線を合わせ、悄らしい笑顔で返す。返された男の方が却って気恥ずかしくなったか、顔を赤くして視線を逸らし足早に去っていった。 童子らしい、初々しい反応だ。 全ての男が、こうも奥手だと楽でいいのだが。 「ようよう女だけじゃ退屈だろ。俺達と遊ぼうぜ?」 奥手じゃない男の様子がこれ。 こちら薫、クローディア、リーザの年上チーム。短裾とは言え白のそれに身を包むクローディアには気品がある。背筋を伸ばして歩くその姿は貴顕の風格さえ漂わせていた。薫、リーザの黒の長裾もその長身と重なり合って、男達の目には沈着の麗人に映る。 そんな淑女達に、男達が声をかけない道理も無かった。 「兄貴の迫力に子猫ちゃん達、黙り込んじまったぜ」 薫とリーザは俯きながら肩を揺らし、クローディアはそわそわと手を弄る仕草をしている。 「へ、俺が睨みきかせりゃどんな女もイチコロさ」 ぷ、くくくっ。 (わ、笑っちゃいけないんだろうけどっ‥‥) (あたしも何とか堪えているんだが‥‥『子猫ちゃん』、『イチコロ』とか‥‥駄目だ、今にも吹き出す‥‥ッ) 薫とリーザが伏し目なのは、失笑を堪えるあまりに。 (さて、噴出しちまう前に晴人に仕事でも与えるか) 不良に囲まれたのなら、流石に婦女子方の緊急事態と言っても良いだろう。晴人も怒るまい。尤も、怒っても彼はリーザに勝てないが。 笛を構え、少し顔を上げたリーザ。彼女の顔を見るなり悪漢の一人がその顔の‥‥血相を変えた。 「‥‥如何しました?」 一応、不良相手にもエレガントな口調で話すリーザ。 「兄貴、大変だ! あいつ見て下せぇ!」 「な、何てこった! あの女ァ!」 「‥‥‥?」 「畜生騙された! 『子』猫ちゃんじゃねえ! むしろバ――」 言い終える前に、男の顔面には、クローディアの踵がぶち当たっていた。 「思いつきましたわ! 手を傷めずに不良の方々を退場頂く淑女な方法が」 必殺・淑女踵落とし。裾が靡きクローディアのそれが見え――無い、残念。でも、こう言うのはむしろギリギリ見えない方がそそられる。 「女のクセによくも!」 口で言って聞く様子ではない男達‥‥少なくともリーザにはそう見えた。 「たまには晴人の仕事を貰ってやるか」 コキッ、ゴキゴキ! 拳を鳴らすリーザを見て男達はやっと気が付く。 そう、確かに彼女達は子『猫』ちゃんではない。 怒声。 薫は男のそれが聞こえた瞬間、既に鉄線を握る手の小指に力を込めていた。 拳。 既に男は腕半分まで振るっている。 薫は半身捻って男の拳打を避けながら踏み込み、男の肩に柄を当てて攻撃を制す。さらにそこから手首を返して―― ぺちり。 「女性を口説くのなら、もう少し人を見る目を養った方が良いわ」 鉄扇を相手の額に優しく当て、口調も穏やかなそれのまま、薫は話す。 「三十過ぎの子持ちを口説く軟派師なんて聞いた事なくてよ?」 「三十過ぎ‥‥子持ち‥‥!? 嘘だろ!?」 相手の言葉に何とも複雑な心境‥‥とりあえず苦笑してみせる薫であった。それにしてもこの不良、まだまだヒヨッコ。人妻が恥らいながらこういう服を着るシチュエーション、全然アリ! 一方リーザは男に『とっても痛そうな下段蹴り』を繰り出して寸止めし、怯んだのを見てからその耳元に囁く。 「おい」 その低い声、彼女にはやると言ったらやる‥‥ 「再起不能にされないうちにどっかいきな」 『スゴ味』があるッ! 男達が喚きながら逃げ出すのに、そう時間は掛からなかった。 「何か、向こうが騒々しいな」 晴人は、場末の居酒屋方向から聞こえてきた悲鳴らしい声に振り向いたが、何事だろうと自分には関係無い‥‥そう思い意識を戻した。 彼はまた、笛の音に呼ばれて疾走中。 「今度の、笛の音は‥‥確か由愛と那美の組に渡したモンじゃねえか。良い予感なんて微塵も無ぇ!」 「晴人さーん、こっちこっちー」 間もなく彼は、元気に手を上げている那美を視界に収める。 「こっちは何――」 「あら。思いの他、早く来るものね」 「ゆ、由愛‥‥?」 そう言えば晴人は出発前、余り由愛の姿を見ていなかった。以前彼が依頼で見た彼女の姿と、今日の彼女の姿は、違う。 「‥‥どうしたのよ? いつにも増して呆けた顔をして」 「い、今更だが‥‥以前と雰囲気違うな。まぁ、馬子にも衣装っつーか‥‥」 ギャップの戸惑いか。晴人は切れの悪い声で言う。彼の挙動を不審がりながらも、由愛はからかう様にして返した。 「あら。あんたがそんな言葉を聞けるなんて‥‥用心棒続いている事より、意外ね」 「え? イヤ、深い意味は無くてだな! あ、その絞り布の飾りのお陰で胸が未発達でもある程度見栄えが――ギャァァー!」 「あーら暴漢対策で袖口に潜ませておいた呪殺符が勝手に毒蟲発動しちゃったわ」 仕方ないね。 「この服、やっぱり良いな♪ 皆に見られるってのも何かちょっといい気分かも?」 「そうね、後で鈴音に予約だけでも‥‥」 「で、こっちの『婦女子の緊急事態』は何だよ?」 毒虫を見てから、やや引け腰の晴人。 「婦女子の、と言うよりは殿方の緊急事態かしら」 「何?」 「この人達、急にボク達の前で倒れちゃったんだ」 那美が指差す方向には、男が倒れていた。随分ぐったりしている。おいアレ、白目剥いていないか? え、そんな事ないよ気のせいなんだよ♪ 「晴人、そこの暴漢――ぃぇ、殿方をお医者様まで運んでくれるかしら」 晴人は釈然としないながらも、指示に従い男を抱え上げる。 「とりあえず手短な町医者まで連れて行くぜ。じゃ、お前達も引き続き仕事頑張っ――」 あは、ボク達に声を掛けるなんて‥‥命知らずなヒトだったね♪ 「――!?」 何か聞こえた気がして、晴人は勢い良く振り返る。が、そこにあるのは少女二人の微笑だけ。那美なんかは愛くるしく手を振って見せている。 (絶対、あいつら何かしやがった‥‥!) 「それじゃ晴人、仕事なんだから確りするのよ〜。ちゃんとしていたら、依頼後に一杯誘ってあげるわ」 「え‥‥」 「美人二人に誘われてるんだし、晴人さん断らないよね♪」 「‥‥サボるもお断りするも、難しそうだな。背負っているコイツみたいな目には、遭いたくないし」 苦笑気味に言う晴人に、那美は変わらぬ笑顔で返す。 「それじゃあ晴人さん、依頼の後の飲み、楽しみにしているからね♪」 さて、各班それぞれトラブルはあったが、それ以外の時というのは取り立て事件もなく、穏やかに麗人として市井を歩いて、やがて夕暮れを迎えた。 依頼としては十分な働きをしてくれた、と鈴音は労いの酒席を手配した。 「あいつはホント扱いやすくていいねぇ。鈴音も男の扱い方をよく覚えとくといいよ」 「開拓者様からは、常日頃学ぶ事ばかりですわ」 「鈴音、リーザ! 騙しやがったな!」 何やら怒鳴っている晴人に、リーザは唇の端を吊り上げながら。 「人聞き悪い。それに晴人、淑女のお誘いを無碍にするってかい?」 悶着しているのは、依頼前に話した『報酬』の件。 「シュラハのカラダなら、きっと晴人おにぃちゃんを満足させられると思うんだけどなぁ?」 「こいつは淑女じゃなくて、少女だろ!」 柳腰をあてがい、シュラハトリアは上目遣いで言葉を漏らす。 「それならぁシュラハの『少女じゃないトコロ』、触れてみる?」 「オイ勝手に胸のボタン外してんじゃねぇ!」 この報酬は受け取れない。少なくとも、ギルドに筆を残せるものではない。 「なら、わたくしの熱いキスとか如何かしら?」 「クローディア、お前までからかって――」 ずい。晴人が言い終える前に、彼女は彼の前に出る。そして暖かな感触が晴人の―― 「‥‥あ」 ――手の甲に。 「労働は尊いものですからね」 手の上なら尊敬のキス。 「キスがお望みならぁ、シュラハはどこにシようかなぁ〜?」 「お前は止めろ!」 シュラハならその他の――狂気のキスをするやもしれん。 「シュラハ〜必要なら毒蟲呼ぶわよ〜」 「若いって良いわね‥‥」 「晴人様、えっちなのはいけないと思いますっ!」 「いいぞーもっとやれー♪」 「きゃ、晴人さんったらっ」 どれが誰の声か、入り混じって判別が出来ないが‥‥楽しそうで何より。 |