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■オープニング本文 「どうしてこうなった‥‥」 男は誰にともなく、呟いた。 男は地主としてこの周辺一帯で農業を営んでいたわけだが、最近腰を痛めて暫く静養していた。そして回復してから久しぶりに見た我が田畑は‥‥作物以外の緑が茫々と言った按配。静養中、誰か使いの者に様子を見させれば良かった‥‥と思っても時既に遅し。 (このままじゃあ今年の収穫に差し支えるってもんだ! 早く草刈りせねば――) 伸びているものの中には膝丈ほどに成長している草もある。大自然の脅威を身近に体験した男であるが、驚いていても雑草は抜けてくれない。 男は手持ちの草刈り鎌を取り出して、ざっくざっく切って行く。 ざっくざっく。 ざっくざっくざっく‥‥。 サクっ。 「ぎえ〜〜〜〜!」 辺りに響く、何ともまぁ間抜けな悲鳴。 「な、何事や!?」 「こ、こりゃあ開拓者様!?」 声を聞き、男の元に走って来たのは、たまたま付近を歩いていた女性の開拓者。 サムライの風貌で、鋭さのある目つきだが‥‥声色は人当たりの良い小町のそれだった。どこか都外の方言混じりの言葉で、彼女は農夫に問う。 「大声出して‥‥一体どないしたんや?」 「開拓者様、お助けを! 見て下せぇこの足の切り傷ッ」 「これは‥‥?」 「俺はただ自分の畑の雑草を刈っていただけなのにいつの間にやら‥‥こりゃあきっと、このあたりに目に見えない透明なアヤカシがいるんだ! 違いない! お助け下せぇよ開拓者様!」 「ちょ‥‥ちょい待ち! こら、抱きつくんやない!」 泣きついてきた農夫を引き剥がしながら、彼女は呟いた。 「多分そのアヤカシ、目に見えていると思う‥‥」 「え? いやいやそんな馬鹿な。俺はまだ老眼の歳じゃあございませんぜ」 「視力の問題やなくて‥‥」 彼女は背負っていた長巻を構える。 「え、開拓者様、何を為さるおつもりで――」 「でえい!」 男が言い切る前に、彼女は長巻を横薙ぎに振るっていた。刃に刈り取られた草々は宙に舞い‥‥その中のいくつかが霧状に変化し、やがて霧散して消えた。 「‥‥こりゃあ、一体?」 「雑草の形したアヤカシがおるって聞いた事がある。たしか、足斬草とか言うたか‥‥なんしか、その傷の正体は目に見える草のアヤカシの仕業って事や」 足斬草。路傍の蔓草をに姿が似て、葉状の刃で近づく者を斬りつけその傷から滴る血を吸うアヤカシは確かに存在する。個体そのものの戦闘力は脅威ではないが、きわめて普遍性の高い『雑草』の姿をしているという点、厄介なアヤカシだ。 「何ですかい、その長い刃物は? しっかし、さすが開拓者様だ! それならにっくき草アヤカシ野郎も楽に始末出来るってもんよ!」 「こ、こら! 勝手に人の物を‥‥!」 「この、この! よくも人様の畑に――ウッ!」 彼女の長巻を滅茶苦茶に振るっていた農夫であったが‥‥治りかけの腰が、急な運動でまた逝ってしまったらしい。腰を押さえながら跪き、声にならぬ嗚咽を漏らしている。‥‥これはまた、暫く安静が必要だろう。 「‥‥無理はせんほうがえぇと思うよ」 「し、しかしこのままでは秋の収穫に差し支えるんですよ」 「アヤカシ退治は開拓者の仕事や。せやから、ウチに任せとき!」 「なんと‥‥流石は開拓者様! ならば頼んます!」 「了解っ。で、どっからどこまでがあんさんの畑なんや?」 「ここ、一帯です」 彼女は見渡した。 広い。 ただただ‥‥単純に、一帯は広かった。 「この広さ、流石にウチ一人では‥‥」 「なら、ギルドで人手を募りやしょう! 姉さんの名前も出させて頂きたいんですが、宜しければお名前頂戴願いやす」 「ウチの名は、音宮・櫻(オトミヤ・サクラ)。依頼の申請はウチがしてくるから、あんさんは家で養生しときっ」 |
■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
ニノン(ia9578)
16歳・女・巫
ルシール・フルフラット(ib0072)
20歳・女・騎
アリスト・ローディル(ib0918)
24歳・男・魔
ミヤト(ib1326)
29歳・男・騎 |
■リプレイ本文 肌を擽る様な暖かさなどは最早昔の話。桜の季節を超えた今は、同じ春と言えど、夏の足音を確かに響かせている。雲も日陰も無い一帯ではよりそれを実感できた。 「何をしている?」 アリスト・ローディル(ib0918)に問われるのは、ヘラルディア(ia0397)と霧崎 灯華(ia1054)、ニノン・サジュマン(ia9578)の乙女三人。彼女らは服の袖を伸ばし、手袋に靴、髪は縛り上げて日除け帽を被っている。 「アヤカシが草の姿ならば、油断はできませんからね。少しでも、露出を防ごうと思いまして」 「ふむ」 ヘラルディアが、金の髪を揺らしながら言う。 「それに加えてっ」 「む?」 ニノンが言うと、アリストは表情を変えぬまま首を傾げる。 「日焼けはおなごの大敵。陽光からも、白肌を守らねばのう」 そう言って、ニノンはアリストに笠を差し出す。 「‥‥‥?」 「おぬしも、乙女に勝るとも劣らぬ――」 「気遣い痛み入るが、遠慮させて頂こうニノン嬢。この依頼、我が脳漿を以ってすれば日焼け跡など作る前に解決を‥‥」 アリストは笠を受け取らずに振り返る。 「‥‥広いな」 「壮観じゃのう」 言いながら、ニノンは爪先立ちになってアリストに笠を被せようとするが、身長が届かない。 二人が眺めている、雑草生い茂る畑こそが今回の依頼の舞台。いや、舞台という程の華やかさは無い。この広さの一帯に蔓延る足斬草の退治、華などあったものではない。 「そこのお二方、何や作戦を考えておるんやろか?」 声は、サムライの音宮櫻から。どこの地の訛りなのか、少なくてもジルベリアの方言ではなさそうだ。 「作戦‥‥ん〜考えはあるがまぁ時機を見てから、じゃのう」 笠を櫻の頭の上に乗せながら、ニノンは言う。 「そう‥‥何かあったウチにも――」 「櫻さ〜ん! お手伝いに来ました〜!」 櫻に快活な声を向けたのはアーニャ・ベルマン(ia5465)。 「うわ〜〜‥‥改めて見ると、やっぱりすっごく広いですね。よーっし、頑張るぞー」 「今回も宜しゅう! でも、さすがに草が相手じゃあ‥‥アーニャはんの弓の腕が見られないのが少し心残りや」 「あ。今、私も同じような事言おうとしたのにっ」 どうやら二人は、以前別の依頼で一緒になった事がある仲らしい。 「ふむ、若いおなごは元気でいいのう」 「そうだな‥‥ぇ?」 アレ? っそういえばニノン・サジュマン、あなただって方が若いのではないか‥‥と、一瞬思ったアリストであったが、敢えて黙る事にした。レディに歳の話題を振るのは失礼だ‥‥と、どこかの書籍に書いてあった記憶があるからだ。 早々に準備を整え、開拓者達は伐採を始めた。 「‥‥流石に広いね。これは確かに、音宮君1人ならず俺達でも骨が折れそうだ」 「ウチ一人だったらとてもじゃないけど‥‥」 緋炎 龍牙(ia0190)の言葉に、櫻は頬をかきながら返す。 「でも、こんな地味な内容の仕事やから人が集まらない事も覚悟していたんやけど」 「派手とか地味とか‥‥少なくても僕はそういうの、あまり気にしていないですよ。誰か困っている人が助けたい、単純にそう思ってこの依頼に参加しました」 屈託の無い笑顔を浮かべながら、ミヤト(ib1326)はそう言う。勿論、口は動かして手は動かさないなんていう事は無い。 ミヤトはバランスを崩さない様にしながらも、薙刀を大きく横に振るう。刃に薙がれ、風に吹かれパラパラと宙を舞う草々の中に、姿かたちがほつれ霧の様に散っていくものがある。なるほど、これが足斬草と言うわけか。 「お見事っ。同じ女性として、ウチも負けていられへんなぁ」 「同じ女性‥‥えっ?」 「‥‥え?」 ミヤトと櫻の会話が微妙に成り立たない。ミヤトの性別は‥‥ええっと? ま、とりあえず今は、気にしないでおこう。 「‥‥緋炎流闘撃法、参の太刀。虎砲‥‥!」 龍牙は、重心を低くし気を溜める。水平に構えられた業物が振るわれた刹那、衝撃波によって捲り上げられた土ごと、足斬草を吹き飛ばす。 「お互い、もう少し横幅を広げてもよさそうだ。音宮君もミヤト君も‥‥どうした?」 「今の技、凄いですね!」 何やら目を輝かせるミヤトに、龍牙は苦笑しながら。 「我が緋炎流の教え以って、サムライの技を放ったまでだよ」 「緋炎、流? お強い剣豪さんの流派なんですか?」 「ただの流派と言うより、俺にとっての教書の様な存在だ。まだ初学の身だがね。我が緋炎流は、如何なる相手にも相応の敬意を払い、全力で戦う事を信条としているのさ」 目の前の敵だけではなく、己が心の隙にも負けない事を流儀の旨とする、と龍牙は付け加えた。 「そうです! どんな時にも、やるからには全身全霊! 全力を以って然るべきです」 力強く頷くルシール・フルフラット(ib0072)、その手に持たれているのは‥‥これはまた力強い武器、ハルバード。 「母より手解きを受けしコナン流、相手は選びません! 草刈りスペシャル!」 ハルバードによるスマッシュ! 草どころか木でも切り倒してしまいそうな勢いだ。 「そして草刈りダイナミック――」 「‥‥君の流派は、随分ハイカラな技の名を持っているんだな」 「あ、これは流派の技と言うよりその‥‥単純な作業となりがちですから、こんな風に楽しみながらの方が効率が良くなるカナ、と‥‥」 何か頬を赤くしながら俯くルシールを見て、龍牙はそれ以上の言及はしないでおいた。 開拓者達は横並びの二列、前衛後衛に分かれて進んでいる。前衛の櫻、龍牙、ルシール、ニノン、ミヤトが大雑把に雑草を切って足斬草を駆除し、後衛のヘラルディア、灯華、アーニャ、アリストが残っている雑草の始末と言った按配だ。 「皆様、お怪我はありませんか?」 ヘラルディアは折々に声を掛け、皆を気遣っていた。仲間の回復や能力補助は巫女の得意分野だ。 「おおきにー。でも、まだ無傷やから大丈夫〜」 「そうですか、お怪我の際はいつでも仰って下さいね」 櫻に、ヘラルディアは恭しい口調で返す。 「なぁ。櫻もあんな感じだし、もっと砕けた感じでいいんじゃない?」 「えっ?」 灯華に言われヘラルディアは、思ってもみなかった、と言う風に驚く。 「いえ‥‥あの、親しみを込め過ぎて却って失礼を働いてはいけませんので」 「そーいうもんかねぇ」 「そういうものです」 「あ、雑草抜き残し」 「え。あ、ハイすいませんっ!」 話している最中も、灯華は抜け目なく見ている。雑草を見つけては器用にナイフを使い、根から断っている。 「引き受けたからには、満足してもらうようにしないとね♪」 「そうですね。その為の、私達ですから」 暫く、ざっくざっくと開拓者達は刈って行く。 ざっくざっく、ざっくっざく‥‥。 されど畑は依然と青し。開拓者達の体の力も、無限ではない。 「うーん。いくら若くてピチピチの私でも腰を痛めそう‥‥ねーねー、櫻さん、あとで肩や腰を揉み合いっこしましょうよ〜」 「それだったら、この辺で一度休憩でも挟もうか」 「いえ。まだまだ私、頑張れますからっ」 櫻に話すアーニャは、疲れが見え隠れするも奮闘の構えだ。しかし、他の開拓者達にも疲労の色が滲んでいる。 故に、ニノンは呟いた。 「確かに、休憩のタイミングかもしれんのう。わしはお手製、八朔の蜂蜜漬けを持ってきているんじゃが‥‥」 「あ、ソレ美味しそう! 休憩賛成!」 「現金じゃのう」 「塩っ気が欲しかったらこっちには握飯もあるよー」 灯華は、こんな事もあろかと、干飯と梅干を多数持ちこんで握飯を作っていた。結構な数だ。おにぎりワッショイ! 更にニノンお手製、八朔蜂蜜漬けの水割り等で休憩を満喫‥‥いや、消耗した体力の回復に努めている。前衛に若干の擦り傷が見えるが、ニノン、ヘラルディアの神風恩寵でそれを癒す。 「必要なら、神楽舞「防」も使いましょうか?」 「防御力っていう観点以上に、巫女さんの舞踊を是非拝見したいですね〜」 アーニャの言葉に、ヘラルディアは照れを隠しきれない微笑で応える。 「‥‥さて、休憩もこの辺にして再開の頃合いだな」 アリストは、言いながら路傍の雑草を適当に掴み取り、手から離す。 草々は、宙を『舞わずに』地に落ちた。 開拓者達の作戦は、手刈り以外にもある。 野焼きの要領で火を放ち、雑草諸共アヤカシを焼き払ってしまおうという思惑。風も大人しくなってきた頃合、火を焚くなら今だろう。 「集めた落ち葉は、この辺りで宜しいですか」 着火の為に、ミヤトは枯れ葉を集めて持ってきた。龍牙もこれを手伝い、それなりの量の着火材を集める事が出来た。 「ああ、問題無い。では、そちらの準備はどうか」 アリストの言葉に、ヘラルディアは頷く。アリストのファイヤーボール、ヘラルディアの火種で、二か所から着火する。 三、二、一‥‥今ッ! 「わぁ!」 ミヤトは、思わず高い声を漏らす。火は枯れ葉に触れるや燃え移り、やがて形を大きくする。 そして広がり燎原の火に‥‥は、成らなかった。着火は問題無く出来たのだが、そこから雑草へは上手く燃え移らない。 そもそも野焼きとは、主に草本が芽吹き出す前の枯れ野に対して行う。一帯に生えている雑草は野焼きをするには、水分があり過ぎる。 「どうやら、思った以上の成果は上がらなかったみたいですね‥‥」 「作戦が、常に思い通りに働く訳でもない。これもまた経験とし、教訓として次に活かそう」 肩を落とすミヤトを見て、アリストはフォローと気付かれない様な口ぶりでフォローしていた。 「草刈りフェニックスが出来ないのは残念ですが‥‥めげずに皆で頑張りましょう!」 碧の両眼に不屈の闘志を滾らせ、ルシールはぐっ、と拳を握る。 「元よりめげるつもりなどないさ。ところで、その『草刈りフェニックス』とは聞いた事に無い技名だ。騎士の新流派の技か何か‥‥か?」 「えぇっとコレは技と言うか楽しむ為の業と言うか‥‥」 真顔で聞くアリストに、ルシールはきまりが悪い口調で、 「と、とにかく、真面目にしつつも楽しく仕事をしたら、きっと疲れも半減ですよ。歌はきっと、精神を鼓舞してくれるはずです!」 「余計に疲れないか?」 アリスト・ローディルの合理的ツッコミ。 「いや、木こりが歌を歌いながら調子を合わせて仕事をする事もあるゆえ、以外に効果があるかもしれんのう。どれ一曲♪」 「あ、じゃあ僕もっ」 「楽しそうだから私もー」 「アーニャ殿に合わせてウチもー」 ニノンが歌い始め、それに続けてミヤト、アーニャ、櫻と歌い出すと周辺は随分と賑やかになる。 「あらあら。皆様お上手なんですね」 「まぁ、捗るなら良いんじゃないかな」 ヘラルディアは後列から、変わらぬ微笑を浮かべながら皆を見守る。龍牙はどこか、苦笑気味に。 灯華はあくまでもペースを変えず、雑草抜きに従事しながら口を開く。 「まぁ、逆に歌声が聞こえなくなったら体力が底をついたって証拠だろうし‥‥分かり易くていいんじゃない?」 そうして続いた歌声は、夕暮れ前程に止む事になる。 但し、それは開拓者達の体力が尽きた訳ではない。一帯の、緑色が尽きたのだ。 何とか日暮前に刈り終えられ、一安心‥‥と、ここで気を抜ききる開拓者達ではない。 「こーゆう作業は手を抜くと逆に後々面倒だからしっかりやらないとね。アーニャ、お願い出来る?」 「ハイハイ、まっかせて下さい。ここで本日始めて、私の弓の活躍シーンでーす!」 灯華に頼まれたアーニャは、弓を取り出すと、矢を番えぬままそれを構える。そして、今までの溌剌とした笑顔は一変、能う限り精神を集中させて弦を弾いた。 鏡弦。弓術師固有の、アヤカシ探知のスキル。 普通の雑草の刈り残しについては、ヘラルディアが見回りに行っている。 「俺でもし手伝える事なら、言って欲しい」 「ん?」 刈り洩らしの確認とまた別に何か作業をしている灯華に、龍牙は自ら申し出る。 「じゃあちょっと手を貸してもらうわ。刈った雑草を、一旦一か所に集めて」 「了解した。しかしこれは、何かに使うのか?」 「干してから燃やして灰にするか、たい肥化するかして、肥料として再利用できないか試す。ま、あとは地主のじーさんの都合次第かな」 「ふむ‥‥そこまで考えるとはね」 「どうせ同じ依頼やるんだったら、少しでも依頼主の希望に添えたらいいかなーって思っただけ」 刈り残しも見当たらず、依頼の完了を報告しに、開拓者達は依頼主の地主家を訪ねた。 「アヤカシ駆除の他にも、色々お気遣い頂いたってのに腰の面倒まで掛けちまうとは‥‥情けねぇ話です」 「お気になさらずに。お腰が痛いのは何より不便でしょうから大事になさって下さいね」 ヘラルディアは、先の田畑で疲労が溜まっていない訳はないのだが、嫌な顔一つせずに男の看病をする。 更に、ミヤトは腰の不便を案じ、今晩の夕食は自分が作ると名乗りを上げた。かくして依頼主と開拓者が囲む一つの鍋が出来あがる。 「どうでしょう。頂いた野菜と、自分で買ってきた食材に、生姜を加えて煮込んでみたのですが」 「文句無しに美味ぇです!」 「良かった〜」 「いやーホント、ミヤトさん、あんた良いお嫁さんになれるよ! むしろ俺が嫁に貰いたい位でさぁ」 冗談半分に言った地主であったが、当のミヤトはその言葉にキョトンとする。そしてある者はウンウンと納得し、またある者は思わず吹き出してしまう。 「え、何です開拓者様?」 「僕はその、一応‥‥男、ですので‥‥」 「エエー、男子!?」 「じーさん、更にミヤトは男子と言うより、男児だよ。イヤ、私も最初驚いたけど」 灯華の言葉も、男は信じられないと言った感じでただただ驚くばかりであった。 「時に人は見た目で判断できないものじゃな」 かなり人の事が言えないニノンは、そろそろデザートの時間と見計らい、お手製のケーキを運んできた。 「こりゃあ一体?」 「異国の甘味じゃよ。お気に召すかのう」 「餡子とはまた別の‥‥不思議な甘味ですなぁ」 皆で味わう鍋のケーキ。かなり珍しい組み合わせだが、正直美味しいので文句無し。 「そう言えば、さっき櫻君もミヤト君を女性と勘違いしてたな‥‥ん、そういえば櫻君は何処か――」 「あはははは!!」 龍牙の語尾に重なったのは、アーニャの笑い声。 「アーニャさんと櫻さんは確か、疲れをとる為に隣の部屋でマッサージをし合っていたはずです‥‥」 ルシールと龍牙は、隣の部屋の戸を少しだけ開けて様子を見る。 「少し手元が狂ったみたいやな〜、えーっと、凝っているのはこの辺かな〜♪ それともこの辺やろか〜」 「ちょ――、くすぐったいです〜〜! あはははは!!」 「櫻さんってこんなノリでしたっけ?」 「いや、俺が知っている限りは‥‥」 ルシールや龍牙の位置からは、見えない。櫻の顔が、若干赤みがかっているのが。 (もう彼女に、酒を分けるのは止めておこう) アリストはケーキをつまみにヴォトカを飲みながら、しみじみ思っていた。 |