化猪物語
マスター名:はんた。
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/04 19:14



■オープニング本文

●下記範囲は読み飛ばしても依頼には特に問題のない戯言


===ここから===
 開拓者ギルド。
 そこで、一人の女性が目に入った。
 目つきは切れ目で鋭く、長身の所為で目線は下す形となる。
 長巻を得物として背負う、サムライなのだろうか。
 長かろう黒髪は適当に括り、縛りあげられている。あまりそれに手間をかけた様には見えない。
 容姿からは攻撃的な印象を受けるが‥‥そこが良いと思う人もいるのではなかろうか。
「おいお前、‥‥そこのお前だよ」
 男の声がした方向に振り向く。なんだ、ギルド係員か。
「彼女に声を掛けようってんなら止めとけ止めとけ。ありゃー所謂『性格キツい女』ってやつだぜ」
 職員の癖に、随分と主観的で俗っぽい物言いだった。
 係員は、言葉を続ける。
「名前は確か‥‥『音宮・櫻(オトミヤ・サクラ)』とか言ったな。さっき依頼をこなして、報酬を渡した所だがこちらの褒め言葉にも「ああ」とか「別に」とか、ぞんざいなもんだったぜ。冗談半分に茶を誘ってみたが無言で無視! ときたもんだ」
 つまり、半分本気だったんですね。おーやだやだ。ナンパ失敗した後に、相手を貶める口上とは醜いものよ。
「お前、俺がナンパ失敗したから相手の悪口言っている‥‥とか思ってないだろうな!?」
 ‥‥いーえ、そんな事は。めっそうもございません。
「偉そうな事は、アヤカシ退治をしっかりこなして一丁前の開拓者になってから言いやがれ!」
 そう喚き散らしながら係員は一枚の紙を目の前に突きだす。
 何々‥‥
===ここまで===


 依頼は複数人の山師より。
 都から離れた山路にて、昨今出没している一頭の化猪、その退治依頼。
 化猪とは、怒り狂う様に暴れる猪型アヤカシであり、突進は直線的だが強烈な威力を有する。
 山道自体は拓けているのだが、周囲が針葉樹林で囲まれている所為でやや視界が悪い。化猪の奇襲に対して山師達は成す術が無く、困り果ててギルドへ依頼を出したのが事の顛末。
 尚、山には元より若干数の小鬼がいる。(こちらはあまり強くないので、今までは山師達で適当に対処していた)
 道中で小鬼達も邪魔に入るだろうが、余力次第で合わせて退治して頂きたい。


「つまりデカくて凶暴な猪が今回の相手ってわけさ」
 随分と端折った説明を憚らない係員。
「しかし、ただの猪型って甘くは見ない事だな。道中の小鬼で消耗しちまったら化猪戦で不利を被るだろうし、化猪自体、決して弱いアヤカシじゃあない――お、依頼の受注者が、ちっと待ってな」
 もう少し細かい話は後で話してやる――そう言って話を途中で途切らせ、係員はカウンターへ向かう。
 係員が「げっ!」と分かり易い感嘆の詞を吐いたのは、間もない事だった。
「今、受けられる依頼を、‥‥紹介してほしい」
 『性格がキツい』等と言う烙印を係員に押された彼女であるが、働き者では有る様だ。
 つまり今、係員と対面して化猪退治依頼を受けている彼女こそ‥‥係員のお茶を断った女性。
 名前は確か‥‥音宮櫻、だったか。


■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
深山 千草(ia0889
28歳・女・志
相馬 玄蕃助(ia0925
20歳・男・志
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
以心 伝助(ia9077
22歳・男・シ
ルシール・フルフラット(ib0072
20歳・女・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
リーザ・ブランディス(ib0236
48歳・女・騎


■リプレイ本文

 山に入ってすぐ、小川が見えた。開拓者達が知覚したのは流水のせせらぎ‥‥だけではない。日当たりに自生する蕗を見かけた事を切欠に、開拓達からは食事の話題が聞こえてきた。アヤカシは、倒したら霧散して消えるものよ。ありゃー、それならボタン鍋は無理っすね‥‥もの凄く残念っす。しゃーねぇから山菜でも採って帰ろうぜ。承知、無事に退治の暁には皆で山菜狩りと興じましょうぞ!
 などと会話してみせても、同行の黒髪女性のサムライ、音宮櫻の方からは声が来る事はなかった。
 深山 千草(ia0889)、相馬 玄蕃助(ia0925)が何やら審議中。
「ひそひそ‥‥(むぅ、会話に乗ってくる様子はござらんが‥‥)」
「ひそひそ‥‥(なら、玄蕃助が声を掛けなきゃね)」
「ひそひそ!(なんと! しかし拙者には大儀也)」
「ひそひそ☆(男の子なら、自分から声をかけなきゃね☆)」
 ふむ、左様であるか。ならばそれがしも尻を眺めるだけではなく覚悟を決め、イザこみにけいしょんをば!
「蕨か薇か‥‥採れるといいっすねぇ。あっ、櫻さんは何か、好きな山菜とかあったりするっすか?」
 玄蕃助より先に、以心 伝助(ia9077)から。素早いなさすが忍者すばやい。
「よく灰汁を抜いた蕨なんかは美味しくて――」
「私は、良く分からない。そういう事は‥‥」
 会話終了。
「ひそひそ!(それがしの見立てでは、恐らく『しゃい』で寂しがり屋な性分だと見た!)
「ひそひそ‥‥(こりゃ性格がキツいというより不器用って印象っすねぇ」
 ついでに、こんな隠していないひそひそ話にも気付いていねぇ様子だから、鈍感属性もあるんじゃね? と加わろうとしたオラース・カノーヴァ(ib0141)であったが‥‥とりあえず言わないでおいて、真面目に依頼の話を。
「さて、日当たりもここまでだ。こっから先は、鬼が出るか、蛇が出るか‥‥ま、蛇じゃなくて猪だがな」
「では、予定通り二つにわけで、ですね」
 彼女はそう言うと、櫻へ、艶のある黒髪を揺らしながら手招きの仕草と微笑を向ける。表情と言い、立ち振る舞いと言い、まるで温和という言葉そのものに思える‥‥沢渡さやか(ia0078)とは、そういう人物だった。
「私は、貴女達と同じ班‥‥?」
「そうそう私達は同じ乙班!」
 さやかとはまた対照的に、快活な声はアーニャ・ベルマン(ia5465)から。
「私、防御も弱いし、間合いに入られたらやられちゃうので、櫻さん、一緒に頑張りましょう! あ、そういえば櫻さんって今までどんなアヤカシを退治してきたんですか〜?」
 握手そのままに櫻の手を取り、アーニャは歩を進めていく。
「若い子ってのは、元気でいいね。フーゥ‥‥ほらルシール、私達も早く行くよ」
「は、はいっ」
 紫煙を吐き出しながら、リーザ・ブランディス(ib0236)はルシール・フルフラット(ib0072)を急かす。騎士なら前に出てこそなんだよ。盾だって剣だって、背中に張り付いたままじゃあ使うに使えないだろ? はい、心得ているつもりです。
 二人の騎士は言葉を交わし合いながら、歩いていく。


 甲乙班は、付かず離れずの間を空けて行軍中。両班間距離は具体的には決めていなかったが、それほどの大事ではないだろう。念頭に入れるべきは‥‥目標の化猪の早期発見、及びそれまでの小鬼相手で消耗しない事。
「他には‥‥大百足とか。毒を持ち仲間を呼ぶ性質も併せ持つ。油断の出来ない相手だった」
「うっ、蟲系アヤカシが複数とか‥‥想像したくないなあ」
 だから、これ位にリラックスしていてもさして問題ではない。
 アーニャは、人懐っこい声色と笑顔で。
「よし! じゃあこれから櫻さんの事を櫻先生と呼びます」
「そんな、先生などとは‥‥」
 拒む様な手振りを見せる櫻に、ルシールも言葉を挟む。
「宜しいんじゃないでしょうか、『ささくら』さん――」
 !?
「――失礼、噛みまみた」
 バツが悪そうに目を逸らす、ルシール・フローレンス・フルフラット・クトシュナス14歳。どうやらわざとではないらしい。
「‥‥っぷ」
 真面目そうな顔でそう言ったのが、可笑しくて、彼女のツボだったのか。あははは! 噴出した後、櫻は存外ハッキリ笑い出した。今までの寡黙さが嘘とでも言うかの様に。
 で、自らのそれに今し方気付いたのか、櫻もまた笑いを止め、バツが悪そうに。
「‥‥こちらこそ、失礼」
 いえ、お気になさらずに‥‥と告げながらルシールは思う。
(櫻さん、もしかしたら私と似た様な方、なのでしょうか。つまりこう、見た目で損をしているというか‥‥)
 和やかな雰囲気の乙班であるが、勿論仕事を怠っている訳ではない。
「リーザさん‥‥瘴気の気配が幾つか有ります」
「瘴索結界内に複数、かい‥‥そうなると小鬼か、それとも形を為す前のもの、か‥‥」
 御淑女方、甲班から伝達賜ってきたぜ。と、声の方向にはオラース。
「伝助の耳でも複数の音を拾っているから、小鬼っぽいな」
「そうなると‥‥襲い掛かってこないのが逆に不気味だね。様子を見ているのか」
「焚き付けてみるかい?」
「どうやって?」
 言葉の通りさ。言って、オラースは何やら準備をし出す。
「‥‥私なんかは、もふらさまの偽者アヤカ――ひゃう!?」
 喋り途中だったアーニャは、響く炸裂音に思わず肩を揺らした。
「雑魚相手に、練力使いたくないんでね」
 岩陰に投げ込まれた焙烙玉は、完全に小鬼達に直撃はしなかったものの、その音と威力に小鬼達は驚きを隠さず、散り散りなって逃げていった。


 もう暫くすれば、昼時だろうと言う。出発前に話していた山菜料理が脳裏に浮かんでしまい、どうにも腹の虫がお喋りになっていけない。
 しかし、伝助自身はお喋りをする事はない。
 聴覚を研ぎ澄まし、兆候はどんな微細であれ、逃さない構えだ。瘴索結界と違い、超越聴覚の場合はそれを自分自身、知覚できなければ意味はない。談笑に夢中で、音に気が付いた頃には横っ腹を突かれていた‥‥では笑うに笑えない。
(先程ので、小鬼達の歩調も掴めたっす。だから四本足の足音、あっしでも区別が付きそうで――)
 伝助が、そう思っている真っ最中であった。
 葉を擦る音は人型のそれより横に伸び、地を打つ四つの音は徐々にその速度を増して、近づいてくる‥‥
「皆さん、来るっす! 猪っす!!」
「待ってください、これは‥‥結界に小鬼の反応も!?」
「そういう事かい! 小賢しいもんだね!」
 伝助、そしてさやかの知らせに、状況を理解したリーザは思わず舌打ちした。さやかは、言いながら弓を構えていた。
 小鬼と言えど、猿程度の知恵は回るらしい。もしくは、山師達に追い払われていた日々が、自分達の非力さを学習させていたのか。小鬼達は、化猪の出現に合わせて開拓者達に襲いかかってくる。化猪を中央に置き小鬼達が左右からの側面攻撃で強襲する動きだ。
「リーザ! すまねぇが突進力を凌ぐ盾が必要だ!」
「小鬼相手の『剣』はどうする?」
 小鬼は、何やら叫びながら、迫ってくる。化猪の音が、段々と鮮明になってくる。
「玄蕃助、千草、頼む!」
 言葉短く出されるオラースの指示に、振り返らず前に出て応じる玄蕃助と千早。
「任せて。玄蕃助くん、前に出るわよ!」
「おおおおおおおおお! 御意!」
 人語を成さぬ小鬼の雄叫びは、突き刺さる穂先によって悲鳴に変わる。玄蕃助は踏み込んで一撃を繰り出し、敵を貫いた長槍をそのまま横に振るい小鬼の体を払い飛ばす。
 するりと、千草の珠刀は伸びる様に小鬼へ迫る。小鬼が避けようと身構えた頃には、もう袈裟に斬りつけられている。
 そしていずれの小鬼も、霧屑と化していった。
「私も手伝います!」
 既に矢を番えていたさやかの射撃は、狂い無く小鬼の身体へ吸い込まれていく。
 小鬼の群れは、最早群れではなくなっていた。もう暫くで、小鬼でもない只の塵になるだろう
(あとは化猪を‥‥距離があるうちにこいつで!)
 撃針。細い影は直線を描きながら空を裂き肉を裂き、そして化猪に深く刺さる。
 鳴き声は、悲鳴より怒声の色が濃く聞こえた。
「まだ元気があるみたいなので‥‥足止めが必要かな?」
 アーニャが手に持つのは、荒縄に石を括りつけた自作の投擲武器。知る人が見れば、それをボーラと呼ぶだろうか。
「木への試し投げは上手くいった‥‥ええい!」
 試し投げと同様に、見事命中。石は化猪の足を強く打った。
 しかし、絡まない。
 アーニャの腕は問題なかったが、短い足とずん胴体型の猪には、少し無理があった様だ。
「で、こういう上手くいかなかった時って‥‥」
 化猪はアーニャの方へ突進していく。
「うわぁー! や、やっぱり〜!?」
「アーニャさん!」
 気付き、さやかはアーニャの元に駆け寄る。例え自分が傷付く事になろうとも、それで他の人をお護り出来るなら――!
 しかしもうひとつ、彼女らへ近づく影が有った。
「誰も‥‥傷付けさせへん!」
 誰の声? アーニャとさやかは聞きなれない口調に、お互い顔を合わせる。声の主は、アーニャでも、さやかでも無い。
 ただ、目の前には敵の突進を受け止め、横へ流した音宮櫻がいた。
「こうなりゃ、普通に斬った方が早い。ルシール、タイミングを合わせるんだよ!」
「はいッ、リーザおばさま!」
 勢いの弱まった突進を剣の段平で受け止め、リーザは返す刃で化猪の足を斬り払う。それによろけた化猪の前脚関節部をルシールが刺し貫く。
 機動力を削がれた化猪であったが、それでも立ち上がろうとし、のたうつ姿はまるで生命力の具現。普段、負の感情を貪る存在だというのにこんな時だけ生へ執着するとは‥‥虫が良すぎるとは思わんかね。
「悟るんだな、幕引きってやつを」
 ファイヤーボール。オラースから放たれた火球はそのアヤカシを焦がし、そして灰燼は暫くして霧散していった。


 割とあっさり倒せて良かった。遭遇から退治まで、あまり時間がかかっていない‥‥これなら、山菜狩りの時間にも大分余裕があるというもの。依頼主の山師達も「しっかりアヤカシ退治さえしてくれれば」という条件でそれを認めていた。
 時期も良かったのか、収穫量も少なくない。
「こいつも食えるってのか?」
「少し伸びすぎかしら。ふきのとうは日陰になっている辺りに、ちょうどいい大きさの物が生えているはずよ」
「じゃあこいつは確か、これ位の‥‥開ききっていない程度が食べ頃聞いた事がある」
「ええ。ワラビはそれ位が丁度言いわね。あ、でももう少し掘ってから採った方が、得した気分になれるわよ」
「ほう‥‥色々と助かるぜ」
 オラースは、千草からアドバイスを受けながら採取中。それにしても色々と生えているものだ、ジルベリアはこの時期、まだ肌寒かった記憶があるぜ。色々と採れるから、覚える料理も沢山あるから、お料理の勉強は大変だけどね。
 千草と話すオラースの声が聞こえた時、アーニャは空を見上げた。
(そういえば、ジルベリアはこんな時期にも、まだ戦乱の渦中なのかな‥‥)
 アーニャもまた、ジルベリア出身。ふいに故郷を思い出せば、胸中の色は複雑なそれを醸し出す。
「どうか‥‥したのか」
 櫻に声を掛けられ、アーニャは我に返って軽く首を横に振る。
「何でもありませんよ〜、櫻先生っ」
「だ、だから誰が、先生などを‥‥」
「だってさっきの戦いで、ご立派でしたも〜ん」
「私は敵の攻撃を、受け流したくらいで‥‥」
 恐れ多く、と言った感じで櫻は激しく首を横に振るう。
(‥‥そういえば、あの時の方言交じりの様な声は、何だったのでしょう)
 山菜を採りながら、さやかはあの時の声が気になって、ついつい櫻の方を向いていた。思い返せば、やはり櫻の声だった気がするのだが、今はまた、当初の口調のままになっている‥‥。
 同じく、櫻へ向けられる視線がもう一つ‥‥いや、『同じく』ではないか。
(うむうむ。これは本に立派な様であるなぁ。ないすひっぷ・ないすあんぐるでござるなぁ)
 尻だけを見る目線かよ!? 玄蕃助、迂闊だ! 出過ぎだ!
 そして櫻が、何やら背後からの気配に勘付き振り返れば――玄蕃助とご対面。
 視線が低い事は、別に誰が説明するまでも無く、分かる事だった。
「何を、見ている‥‥」
 わなわなと震えている櫻、制止に入るべきかそうでないかで悩むルシール、そして「若いねぇ」という言葉と共に紫煙を吐き出すリーザ。
「な、何も見てないでござる! 山菜を探す櫻殿がしゃがむと、丁度良く尻を眺めるに最適な位置などとは、全く思ってござらん‥‥っハ!」
 どう見てもむっつり助平です。本当にありがとうございました!
「こぉの‥‥助平ー! 何見とんね〜〜〜んッ! ‥‥っハ」
 さやかに聞き間違えは無かった。たしかに、あの声は櫻だった。

「――つまり、普通に話すと方言訛りが強く出てしまい、それが恥ずかしいから、なるべく話さない様にしていたという訳ですか」
「お恥ずかしい話やけど‥‥そういう事や」
 さやかの言葉に、複雑な面持ちで返す櫻。
「別にそれ位の事、気になさらないでください。そういう所を取り上げて人を嘲る様な事をする人なんて、そういませんよ」
「ほ、ほんまでっか?」
 ええ、少なくとも、この中にはいませんから‥‥と櫻に返しながら、さやかは柔らかい笑みを向ける。それを聞いて櫻は息を吐き出し、安堵の表情を浮かべながら苦笑した。
「そしたら、けったいな所で気ぃ使っていたウチが馬鹿みたいや〜‥‥」
「そうそう、お気になさらずにっ。そういう話なら、あっしなんて一言も喋れなくなっちまいやす」
「ふふ、それもそうでんなぁ〜」
「あ、それでも依頼に臨んだって言うのは、何か動機あったりしたんでやすか?」
「皆はんと一緒に依頼をこなしつつ、そこで皆はんの声を聞いて言葉づかいを勉強しようと思って。あと‥‥こっちにまだ友達も少ないし‥‥出来れば、その‥‥ね」
 はにかみながら、伝助と言葉を交わし合う彼女。こう見れば『性格のキツい女性』などには見えようが無い。
「ふん、これで散々言ってた係員の、観察眼の無さが分かっちまったね。どうだい櫻、報酬受領の時に係員をいびりに行くんだったら肩を貸すよ」
「い、いやいやっ。確かにそーいう事言ってるの聞こえたけどて、別に気にしてへんし! 第一、目つき悪いのは自覚あるし‥‥」
 冗談なんだろうがそれを言うリーザには嫌に凄味があり、櫻をぎょっとさせる。
「ふむ、やはり良い尻の持ち主は、良い女性――げふんげふん」
「もう、玄蕃助はんは〜。女性のお尻ばかり追ってたらあきまへんでっ」
「う、うむ。承知っ」
「分かれば宜しっ」
「それじゃーこれから、気兼ねなくお話できるって事ですね! 櫻せーんせ!」
「だから、ウチは先生って柄と違うねんて〜っ」
 アーニャは苦笑する櫻の手をまた引っ張り、また再び山菜採りを再開する。


 そうして集めた山菜が調理されて開拓者達に腹に収められた時、幾分かの疲れも取れていたとか。