開拓者が如く
マスター名:はんた。
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/12 20:34



■オープニング本文

 そこは場末の居酒屋であった。周辺には暫く賊やアヤカシ出現の噂など無く、それなり治安のよろしい場所であった。
 そう、つい最近まで。
「店主、今日も用心棒にきてやったぜ!」
 戸を開くなり、大声で言う男。面の様子を見るには、用心棒というより用心棒に退治される悪漢が相応に思える。
 男に続き、ぞろぞろと敷居を跨いで来る連中というのも、こぞってガラも育ちも悪そうな連中である。一応、剣士の気位のシンボルともいえる刀を差してはいる者も居るが、鍔はグラグラ、下緒はヨレヨレ‥‥誇りの象徴と言うより埃の象徴という塩梅だ。
「へ、へい。いつもどうも‥‥」
 店主と呼ばれている中年の男性は、苦笑いをしながらそれに応じる。
「ボーっとしてんじゃねぇ。酒だ、酒を持ってこいぃ!」
「俺は大根の煮付けだ!」
「俺は娘だ、娘を呼んで来い!」
「止めとけ、ここはババアしかいねぇ!」
 男達は好き勝手に腰を下ろしては、好き勝手に喚いている。が、これはまだ序の口。そのうち酒を飲み始めれば更に煩くなる。
 当然、先にいた客はそそくさと店を出ていく。飲み残しは確かに惜しいが、連中に絡まれるのだけは勘弁、という事で。
「馬鹿野郎、燗は人肌程度って言ってんだろ! 火傷させるつもりか!」
「煮物が温いぞ、さては作り置きだな!?」
「ひ、ひぃ! どうかお許し下され‥‥っ」
 男達に胸倉を掴まれ、どやされながらも店主はただただ謝るのみ。元より気の弱い男であり、腕っ節に自信も無い。
「ったくオヤジ、忘れるんじゃねぇぞ。一体、誰のお陰でこうやって商売出来ているのか?」
「俺達が用心棒としてここにいるからこそ、賊にもアヤカシにも恐れずにいられるんだぜ?」
 男達は、まるで脅し文句の様に――事実、脅しであろう――言う。
「そう! 俺達、開拓者のお陰さ」
 一連の台詞は、今日が初めてではない。酔っている人間と言うのは、いつも同じ事を言うもので、もはや店主はその口上を何度も耳にしている。
 しかし、店主はいつも疑問に思っていた。個々の差異はあれど、開拓者と言うのはこれ程までに粗野な人間であったか? 巷で聞くのと、大分違う。
 そもそも、彼らは本当に開拓者なのか? 『用心棒』として彼らが居着いてから、賊もアヤカシも出た事がないので、その腕前を見た事も無い。
 仮に、彼らが相応の腕前の開拓者であったとしても、ここまで好き勝手にされては堪らない。他の客には煙たがられ、その上連中ときたら『用心棒代』と称して酒代を踏み倒している。
 ついに店主は堪えかね、ギルドに依頼を出したのだった。

 どうか『本物の』開拓者様。店にいる『自称』開拓者達を追い払って下さい。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
月(ia4887
15歳・女・砲
ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962
15歳・女・騎
ルシール・フルフラット(ib0072
20歳・女・騎
藍・小麗(ib0170
15歳・女・泰
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎


■リプレイ本文

 夕長し、暖を急ぎし、草鞋達。
 三の月になろうともまた最近、夕暮れ時には冷える様になった。今年の冬はどうにも寛いでいるらしく、なかなか春にその主席を譲ろうとしない。
 日が沈みかける頃となれば人々は皆、早々に勤めを切り上げて我が家へと急いだ。夜風に当たれば足が草鞋ごと凍っちまう。
 だから寒さが、家族を家に早く帰らせる理由になるのは良い。
「いやぁ、今日も嫌に冷えるぜ」
 しかしならず者達が居酒屋で屯する理由になるのは宜しくない。
「それじゃあ、今日も『用心棒』といくか」
「よし! 暖取りついでに店主でもいびれば寒さの鬱憤も幾分か掃けるってもんよ」
 ぞろぞろ。ぞろぞろ。
 口上のみで無く、まるで歩き方にさえ品が無い連中。彼らが目指す場所は、いつも屯場にしている居酒屋。
 引き戸を開ければ、しみったれた家来がいるはずだ。もし客席に女子がいたら適当に絡もう。

 それが、戸の向こう側から声が聞こえてくるまでの、連中の思考であった。

「せっかくの出会いだ、お酌でもしてもらおうか。‥‥安心しな、大人しくしていれば危害は加えんさ」
 少しだけ開いている戸から覗き見れるのは‥‥赤眼赤髪。背丈の高い男が中央席に居座り、女性客から御酌を受けているこの風景は一体何だろうか? 見た所ジルベリア人にも見える。御酌している女子も、顔立ちからして。ジルベリア文化では、これが普通なのか。それにしてもジルベリアの女子ってのは発育が宜しいもんだね。いや、その隣の女子は俎板だが。馬鹿野郎、そんな事よりあの女の子、怯えているじゃねぇか! そうだな、全く男の風上にも置けねぇ。そうだそうだ、店で厚顔不遜好き勝手な振る舞いをしやがって!
「‥‥向かいの御仁達、戸を挟んで相手の悪口を言うのがこの地の文化なのか?」
「何だとこの野郎!」
 挑発の意を隠そうともしない声に、男達は堪えられず戸を開いた。
「お好きな女(スケ)を選んで下せぇ」
「いや、あの、私達は友達とお茶飲みに来ただけだから」
 赤髪男の仲間と思われる男が、女性客に絡んでいる。絡まれている方は、纏め上げた青髪を揺らしながら拒否の意を露にしていた。異国風の柄の服装‥‥彼女は泰国出身者だろうか。
「イヤイヤあっしは残りもんで結構でさぁ‥‥お、なんだあんたら」
 黒髪の、更にがたいのいい男が連中を見下す。
「恵皇(ia0150)、小物達はどぉでもいいから早く女子達を招いてこねぇか」
「へっへっへ、すんません親分」
 首領格の女――と言うには些か長身過ぎるが――が言うと、恵皇と呼ばれた男はゴマすりの様子で女性客を呼んだ。
「お〜い、そこの嬢ちゃん達、こっちへ来て親分にお酌しねぇか」
「待て待て待てぇ! 俺達を無視するんじゃねぇ!」
 話の展開に付いて行けなくなる前に、連中は口を挟んできた。
「一体何様のつもりってんだお前ら!」
「俺ぁ伊達と任侠で飯食おうって言う組の『親分様』、犬神・彼方(ia0218)ってぇ者だがあんた達ぁ『何様』なんなんだぃ?」
「同じく恵皇!」
「同じく、ロック・J・グリフィス(ib0293)‥‥」
「お、俺達は‥‥」
 言われ、返すに戸惑う連中であったが、『何』様かは直ぐに明らかになる。
「あんたら、用心棒なんだってな」
 声は客席から。志士然の男は茶を啜りながら。
「ほぅ、用心棒とは。それなら『どんな悪漢』が来ても安心だな」
 白肌の女子が仄めかす様に呟くも、連中は戦いに臨もうとしない。
「用心棒なら、この荒くれ者達をどうにかして下さい」
「わ、ワタクシからもお願いします!」
「あなた達開拓者なんでしょ、お願い助けてっ」
 男子としては、此処まで女性陣に懇願されては、恰好を付けたくなるものではある、が‥‥打って出ない。何故か。
「で、なのに何で助けようとしないんだ? まさか‥‥」
「腕に自信が無いわけではない。ただ、店で暴れては皆さんに迷惑がかかるだろ!」
 そういう事である。志士然の男は思わず溜息をついた。
「やるというなら、店だろうと外だろうと問題ないのだが」
 ロックは得物の鉄槍を構え、それを連中らへと向ける。
 踵はベッタリと床に付いたまま、穂先は下がり過ぎて足の開きも狭過ぎる。これはまるで素人の構え。恰好つけておきながら、碌に稽古をつけてもらえていないみたいだな。へへっ、こりゃ楽勝だな。そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!
 優男をぶちのめし、女性客から黄色い声を受けている自分の姿‥‥そんな妄想に浸る男達に痺れを切らし、ロックは声を投げ掛ける。
「‥‥どうした? 用心棒が俺一人あしらえんか」
「そこまで言うなら表に出な。相手をしてやる、やくざ者ども!」
 まるでやくざの様に叫んで、連中は外へ出て行く。
 ぞろぞろ。ぞろぞろ。
 やはり、品が無い。
(背中に『眼』が無さ過ぎだ。まるで素人だな)
 連中を見送りながら、志士然の男‥‥いや、開拓者、風雅 哲心(ia0135)は胸中のみそう呟いた。

 外に出ると、用心棒の中の一人が口を開いた。
「さて、ここで一つ言っておくぜ『親分』様よお」
「ん、何だぁ?」
「俺達は、ただの用心棒じゃあねぇ、泣く子も黙る『開拓者』様よ!」
「へぇ」
「へーじゃねぇ、お前達みたいなやくざ者でもその凄さが分かるだろ! 今から詫びながら土下座すりゃ許してやる」
「今更何か言っても、俺は許さんがね」
「何言って――」
 語尾は、吹っ飛び消えた。喋っていた男が恵皇の拳に吹っ飛ばされたからだ。
 恵皇は寸隙空けずに疾駆すると、その転倒している相手に飛びかかって馬乗りになり更にもう一撃、相手の顔面に拳を沈める。
 そしてその男の意識までもが沈み、沈黙した。
「何呆けてやがるドサンピオンども。それとも、よーいドンって言ってほしかったか?」
「言わせておけば!」
 それぞれ得物を抜き出し、男達はロックを狙う。まずは一人確実にと言う考えらしい。
 刀、鈍器、拳。ある物は弾かれ、受け流され、受け止められ。いずれの攻撃も、それを成す槍の持ち主に届かない。
「さて、次はこちらの番で宜しいかな?」
 ロックが切っ先を向けるその姿は、明らかに、実力者の構えであった。
「く、くそ!」
 穂先が動くに合わせ、男は避けようとするも――足に何かがへばりつく感覚。
 次に感じたのは腹部への痛覚。
 槍の石突を素早く相手の胴へ入れ、ロックの足元に跪く様にして男が倒れこんだ。
「いやぁ、開拓者が相手なぁら油断出来ないからなぁ」
 男が先程感じた足元の違和感、それが彼方の呪縛符である事に自称開拓者が気づけただろうか。
「お、お前達何者だ!」
 情けなくも狼狽の様子を包み隠さない男。その解は背から届く。
「開拓者だよ」
「な――」
「店で好き勝手する暴漢がいたら、開拓者を呼ばれたって不自然ないだろ?」
 店から出てきて、そう言うのは哲心。
 正直、そうハッキリ言ってくれる方がまだありがたい。一緒に出てきた月(ia4887)の様に無言、ただただ冷やかな目線で突き刺されるよりも、余程。
「お前達も開拓者‥‥って事は!」
「かっかっか♪ ようやく気付きおったか」
 店では被害者の立場であったナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)、ルシール・フルフラット(ib0072)、藍・小麗(ib0170)も、開拓者。
「どう? 改心するんだったら今のうちだよ」
 小麗は猶予を込めて。
「しかし、もし反省するつもりがないのなら‥‥」
 ルシールは、戒めを込めて。
「ふふふ、どうじゃ本物の開拓者の知恵は。えっへん」
 ナイピリカは、無い胸を張りながら。
「ぉ、お前ら‥‥!」
「何、我らの見事な謀りに翻弄され声も進まぬか」
「よくもだましたアアアア!」
「な、何!?」
「よくも俺達の純真を! 折角、可愛い女子達がいるから頑張っちゃおうかなって思ったのに!」
 それにしてもこの男子達、下心丸出しである。
「それを、お前達‥‥絶対に許さない、絶対にだ!」
「う、美しさは罪とも言うからなっ。しかしお前達も改心すれば少しは男前になるか、も‥‥」
「うるせぇマナ板娘! てめーはダメだ!」
「ま、マナ板‥‥っ!」
「そうだお子様はお呼びじゃねぇ――ぜ?」
「うわーん! こ、このおバカ様達がー!!」
 堪え切れず、飛び出したナイピリカは鉄拳制裁。おや、殴られた方はともかく殴った方も涙目とは此れは不思議也。
「ナ、ナイ姉さまを泣かせるとは何と言う手練。小麗さん、私達も加勢しましょう」
「手練とかとは違う気もするけど‥‥ま、いっか」
 ルシールが言い、小麗も続く。女子三人は武器を持たないが、恐らくチンピラ相手に遅れを取る事は無いだろう。
「‥‥なぁ。こいつ等斬っていいか? かなり苛つくんだが」
「気持ちは分かるけど、な」
 事の顛末を眺め見ながら、半ば辟易としながら月は哲心に言う。
「まぁなんだ。殺すまで無いとは思うが」
 何やら喚きながら、チンピラの一人が月へ向けて刀を繰り出してきた。
 遅すぎる。
 月は、踏み込みながら半身捻り太刀筋を避け、手に持つ小柄は既に抜刀していた。
 刀身に乗る白い光が、死の軌道となりて男の顔へ伸びる。速度、角度、共にそれは刃の必殺を約束し得るものだった。
「ル、月――」
 哲心がその名を言い終える前、チンピラの眉間に突き刺ささる月の小柄‥‥の、柄。
 柄頭はみしりと音を立て、男の額を打ち貫いていた。
「こんな奴、死にさえ値しない」
 打撃よる激痛に眉間を押さえのたうつ男の胸倉を掴み、月は無表情のまま話す。
「聞け。もしこの場面が数年違えば、きみの顔面は貫かれていた。せいぜい‥‥自分の行いを省みる事だ」
 月の声はぞっとする程、淡々としていた。
 相手はアレだが一応戦闘中。哲心は意識を敵方へと移す。
 目の前には、既に拳を繰り出してきている男がいた。
 いかに初動の早さで遅れを取ろうが、反応の速さで戦いの主導権を強引にもぎ取る。
 峰で拳を押さえ半円を描く様にして振れば、男の拳打は完全に軌道を逸らした。
 刹那、哲心は半歩踏み出し相手の空き胴へ膝を叩きこむ。寸陰前まで、受けに使っていた太刀を返し、そのまま振り上げて相手のあごを打ち抜く。体術にせよ剣術にせよ、ならず者達が、捌くも避けるも、堪えうるも叶わない攻撃だ。
「‥‥そして、そこで仲間達を置いて立ち去ろうってのは些か薄情じゃあないか?」
 哲心の声にびくりと肩を揺らすのは、こっそりこの場から逃げようと背を向けている男一人。
「い、いやぁ。もう反省したんで勘弁してもらいたいってトコなんだが‥‥」
「言うだろ、『人は痛い目をみないと分からない』って」
 今まで好き勝手やって、更に仲間が戦っている中で逃亡とは虫がよすぎるのではないか。哲心が、踏み込み一撃を放つ。
 ――が、
「‥‥何っ?」
「う、うぉっと、危ねぇ危ねぇ」
 哲心の剣撃が、咄嗟の動作で避けられたのだ。
 この体捌きに、反応速度。
「志体持ちか」
「おおっと、だからって俺一人を相手にするよりも『する事』があるんじゃねぇのか?」
 男は焦りか若干早口になりながらも、話す。
「乙女をナイ乳呼ばわりした罪は重いぞおお、この下郎どもおおお!!」
 聞けば、ナイピリカが乱闘しながら何かを喚いている。
 他の仲間達も、概ねチンピラ達を叩き伏せたところだ。この辺で、一旦御開きのタイミングか。
「顔は覚えた。次に同じ様な事をしたら、依頼とかを抜きにしてでも‥‥」
「わ、わかっているさ」
 情けない声色だけを残し、男は逃亡して言った。無精髭に、左下唇の辺りに切り傷痕を残す中肉中背の男‥‥哲心は相手の特徴を記録しながらその背をあえて追わなかった。逃亡兵の背を斬るより、やるべき事があるからだ。


「手前ぇらみたいに、開拓者を語って悪事を働いた奴らを俺は何人も見てる。そいつらは結局どうなったと思う?」
 哲心の言葉を聞くチンピラ達は、皆正座。この構図が、先の戦闘の結果がいかなるものかを如実に物語っていた。
「良くて半殺し、悪けりゃあの世行きだ。次同じ事したら‥‥どうなるかわかってるな?」
 もげる程の勢いで首を縦に振るチンピラ一同。
「名乗る名にその実が負けている程、情け無ぇもんはないね。覚悟と実力と、精神。これらぁ何も開拓者だけが必要ってもんでも無ぇんだ。あんたらもその辺を、ちったぁ磨き通して見せな」
「開拓者だって遊びでやってるわけじゃねぇさ。常に研鑽してこそってね」
 数々の依頼‥‥修羅場を乗り越えてきた彼方と恵皇に言われは、とても連中には返す言葉が無い。
 人間の性根は、一度曲がりくねればそう簡単に正せるものではないだろうが、少なくとも、ここまで痛い目を見た連中がもう再び、この居酒屋で恥知らずな行いをする事は無いだろう。
「それじゃ、いい加減に己の行いに懲りた‥‥って事でいいかな?」
 苦笑交じりに青髪を揺らし、そう話すのは、小麗。
 連中は彼女の緑眼に見つめられると、何ともバツを悪そうにしている。
「ともあれ、心を改めのであれば‥‥さぁ、傷を負った御手をお出し下さい」
 ルシールが手持ちの包帯を取り出すと、その表情に歓喜の色を露にし、我先にと乗り出してくる。俺は腕が痛くで。俺は頭が痛くて。そりゃお前、ただの二日酔いじゃねぇか。馬鹿野郎、美人が包帯巻きゃあ何だって治るんだよ!
 先程まで哲心や彼方、恵皇に睨みを効かされ縮こまっていた姿が、まるで嘘の様だ。
「いやぁルシールだけに労苦を課すのは見過ごせん。こうなればまぁ、相手が不良の輩と言えども改心すると言うならば、わしも、助力するにやぶかさではないぞ」
「ルシールちゃんって言うのか、まずは俺の傷を!」
「いやルシールちゃん、先に俺の方を!」
「あ、一応わしの方でも、だな‥‥」
「うるせぇ、傷は淑女に診てもらった方が治りが早いんだよ!」
「そうだそうだ!」
「まずはもう少しばかり胸を膨らませてから出直してきやがれ!」
「こ‥‥、このおバカ様達が〜〜!」
「ああ。ナイ姉さま、御仁達の傷が増えてしまいますっ」
「ま。別に増えてもいいんじゃな〜い? 何だかんだ、仲が宜しそうだし〜?
 突っかかるナイピリカに、おろおろとするルシール、それを止めようとはしない小麗。
 まぁ楽しそうだし、今は放っておこうと様子見を決め込む、他の開拓者一同であった。


「ふ〜、おやじさ〜んお勘定ーっ」
 事が一段落した後、小麗、哲心、ロックは居酒屋で一休みしているところだった。
「‥‥ご馳走さん、中々美味かったよ。また寄らせてもらおうかな」
「そりゃどうも。本物の開拓者様だってんなら、いつでも歓迎致しますよ」
 店主はほくほくの笑顔で、哲心に言葉を返す。
「酒良し肴良し、茶良しとなればこれから繁盛する事だろうな。もうゴロツキ達もいないと帰りに流布すれば、よく客足も良くなるだろう」
「え? そりゃあ‥‥」
「俺達も少しばかり暴れたんだ、ほんのアフターサービスさ」
 ロックが微笑を携えながらそう言うと、店主は深々と頭を垂らし、店を出る『開拓者』達を見送った。