逆襲
マスター名:はんた。
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/07 21:28



■オープニング本文

「大した事、無かったなぁ」
「己を知らぬとは、哀れな」
 あっと言う間も無かった。
 志体持ち、その数八人。決して新兵と言う訳でも無かった。寧ろ、一通りの訓練を受けた兵卒であった。
 単純に、相手の方が数が多く、そして強かっただけだった。その相手とは、鬼と鴉天狗が合同しているアヤカシの一群。
「残りはどうするん?」
 話す大鬼は一団の中でも群を抜いて大柄で、炎の様な赤い双眸を持つ。
「現在、極度の空腹者もいなければ早々に去るとする」
 応える大鴉天狗は、他の者よりも大きな翼と黒い嘴を有している――彼らがそれぞれのアヤカシの首領なのだろう。
「そうだなぁ。手荷物が増えるのも面倒だからなぁ」
 大鬼は、欠伸をしながら言う。足元に転がる死体は三つしかなかった。
「それだけではない、この鬱蒼とした草木蔓延る湿地帯を見て何か思わないのか?」
 大鴉天狗の言葉に、大鬼は腕組し、うーんと考えた後に、
「人間って草を食べるんだっけ? あんなモン、良く喉通せるよな」
 溜息を付きながらそう言う。帰ってくる言葉も、溜息交じりだった。
「……その人間が膝折れば、容易に姿を隠せる植生だと思わぬか。それに足跡も残り易い」
 一帯はややぬかるんだ泥のうえに草を生やした泥濘地。そう言えば先の戦闘において、踏み込んだ時に片足を取られた事を大鬼は今になって思い出した。
「さっきので全部だろ? だってホラ、志体持ちって連中は大体八人で行動しているって聞くし」
「だと良いが……」


 奥歯を噛み砕きそうになるほどの、忸怩の念を滾らせるのは、開拓者だった。
 彼らがその場に着いた時は既に、その状態だったのだ。
 その惨状を黙ってみていた訳ではないしその責も無いが――先方偵察組の全滅――広がる光景に、目は瞑れない。
『今回の依頼は偵察だ』
 青草と、泥の匂いが嗅げる程に身を伏せながら、開拓者はギルド係員の言葉を思い出す。
『鬼と鴉天狗のアヤカシの一団、どうやらこいつらに住処があるらしい。前後二手に分けて奴らを追跡してくれ』
 念入りに、くれぐれも念入りに、と係員は言葉を重ねていた。
 何でも、以前に手練の開拓者と戦って、生き延びた程の連中らしい。
 また、鬼の首領は戦士として、鴉天狗の首領は術者として、相当の力を有しているとの事。
『相手に、見つかるなよ。住処さえ見つけちまえばこっちから攻める事もできるんだからな』
 アヤカシ達は、開拓者達に背を向ける。どうやらこちらに気がついていないらしい。恐らく、その住処に帰ろうとしているのだろう。
『くれぐれも、見つかるんじゃないぞ』
 物言わぬ、もう動かぬ死体を、鬼達は何の気なしに踏みつけていく。
 ……係員の言葉は思い出せる。決して、忘れた訳では無い。
 だが、
 だが!!
『それじゃあこれで受注の手続きは終わりだ。……あー、ところでこれは一人の人間の独り言なんだけどよ』
 開拓者はその時、手続き後に聞いた係員の言葉を思い出した。
 ニヤリ。口の端を浮かべながら言った彼の顔を、今でも思い出せる。

『別に、倒しちまっても構わないぞ?』

 そして今、アヤカシ達は、完全に開拓者達に背を見せて歩き始めた。


■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
月酌 幻鬼(ia4931
30歳・男・サ
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
ルシール・フルフラット(ib0072
20歳・女・騎
猪 雷梅(ib5411
25歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471
25歳・男・砲


■リプレイ本文

 我が生命、我が血を捧げ汝と契約する
 さぁ――来なさい!

 ごふっ。
「……どうした?」
 大鬼が訝しがる。
 大鴉天狗が咳き込んだかと思えば、嘴の端から吐血の様な、黒い瘴気を吐き出していた。
 眩暈、吐き気、猜疑、推測、再考。
「何かあった――」
「見渡せ!」
 吐きながら、大鴉天狗は叫ぶ。
「居る!」
「???」
「居るぞ!」
「何が?」
「開拓者に他ならぬ、これは陰陽術か! 術で化かし矢弾射りては、次には斬り込みが来る筈だ!」
 大鴉天狗の声と同時に響く、砲撃音。鴉天狗の幾体かが傷を負う。
 間違いなく、奇襲を受けている。が、あの銃声だ。すぐにでも射手の居場所は特定できる――
「お前には、気付かれていると思っていたよ。だから僕は、この刹那の時を味方につけた」
 ――その声に、大鴉天狗は覚えがある。
 思考の途中、大鴉天狗の視界の端にそれは居た。そこに居た。
 何故? 神速、の一言では済まされない。速い……否、早い! 一瞬にしてそこに居るなど、まるで時を止められた様に早過ぎる。
「だから、僕はこの刹那の時を味方に付けた。吹き荒れろ烈風!」
 同胞の鴉天狗の羽々が、宙を舞っている。刃風は既に空間を切り刻んでいた。
 風の術にタイミングを合わせるかの様に、剣を抜いた一人の騎士が駆け出している。盾を突き出しながら、強引とも言える攻め方で相手の前線に切り込んで来る。
 銃声、銃声……火薬の匂いと黒い弾丸、そして黒い影が二筋、走る。
 一つは赤の眼を揺らして、そしてもう一つは赤の太刀を構え、奔る。
 開拓者は動き出した、動き出してしまったのだ。
 だが、既に決意している。後悔も、迷いも無い。あの潜伏中の時に、既に――


 〜〜〜

 風に春の匂い漂う時節、開拓者達は泥血の香りの中に居た。
 身を伏せ、気配を消し、泥草と同化しながら、機会を伺っている。何の機会か、退避……ではない。
 奇襲。
 本来の任務に背く行為、知る人が知ればそれは愚かな行為と罵られるか。
(だが、愚か者で良い。後で悔いるくらいなら、今、僕は一枚の愚者になる)
 惰性と無責任に身を置いては、その手に花を掴めない。アルティア・L・ナイン(ia1273)の決断、その決心を、止める開拓者も居ない。
 先兵達を葬った鬼と鴉天狗、開拓者の中にはこれが初めての遭遇ではない者もいる。
(あいつ、あの時の……)
 天河 ふしぎ(ia1037)は無意識に強く奥歯を噛んでいた。脳裏に響く過去の、声、声……もう繰り返させない、あんな事は。
「熱くなり過ぎない様にね。心意気には同意するけど」
 小声で言い、ふしぎの肩に手を置いたのは川那辺 由愛(ia0068)だった。
「由愛さん――」
「でも我慢は良くないわね、うん。それにあたしはね、かな〜り根に持つのよね。特に自分の怨みは」
 由愛も堪えて終るつもりなど毛頭無い。
「そうなのだ。お返しはちゃんとしてあげないと、だよね♪」
 同じく赤の眼を光らせ意を共にしているのは、野乃原・那美(ia5377)。
 ルシール・フルフラット(ib0072)は、望遠鏡越しに見ていた。兵たちの死と、死を作り出した者達――炎の様な赤い双眸――、その中の大鬼。見覚えがある。
 昂っているのは何も、借りがある者達だけではない。
 腹の中で何かが踊っている、それも歓喜に踊り狂っている、気持ちよささえ感じる緊張。月酌 幻鬼(ia4931)は鞘に手を掛ける指に、力を込めずにはいられなかった。
「まー、あれだ」
 ペーパーカートリッジを噛み破りながら、猪 雷梅(ib5411)。
「ちゃっちゃと片付けて、パーッと酒飲もうぜ」
「どうせ飲むんなら、勝利の美酒にしたいしな。見てやがれ……ここから逆襲だ!!」
 得物に耐水の措置を施しながら、赤い花のダイリン(ib5471)。魔槍砲の穂先は、アヤカシに向いている。

 〜〜〜


 間合いがまるで、消えたと錯覚する様な俊足。銀刃煌かせながら、既に懐に入っている那美に、鬼は反射的に得物を振う。
 鈍器、振るい。
 半身、翻して避け。
 忍刀、振われ。
「さあ、今回も君たちの斬り心地を教えてもらうよ。そして……僕を楽しませてよね♪」
 刀身が鬼の身体に埋まる。
 那美が刃を一気に引き抜けば、鬼の傷口から瘴気がまるで出血の様な飛沫をあげる。傷口から噴出した瘴気、その奥に光るのは白銀の刃縁と、深紅を求める双眸。
 が、相手も只の雑兵ではないだろう。渾身の反撃が迫っ――
「……えっ?」
 ――らない。那美への反撃も小出しに、鬼は退きの姿勢を見せる。
 これは?
「由愛さん、これって!」
 那美の声に、瘴気回収をしながら周囲を見ていた由愛も頷く。
(撤退の時機を見定めている動きね。軽々と人様の命を奪っておきながら……!)
 不快感を隠せずに、胸中で呟く由愛。
 ルシールから放たれた剣、まず一撃は相手の胴を裂き、続く太刀筋は、怪力で振う相手の得物に遮られてしまう。
(完全に防御よりの構え……どうする、数はまだ敵が優勢。後は追える所まで追いながら、出来るだけ戦力を削る事に専念するべきか)
 眼前の敵へ構えを緩めぬまま、碧眼をその奥に居る大鬼へ向ける。
(いつか討ち損ねた、あの鬼を討ちたくはあったが――)
「何故だ!」
 幻鬼は包み隠す事無く、その心情を吐露した。
 怒号となった幻鬼の問いに対し、群の中の大鬼が面倒臭そうに振り返る。
「何故、戦おうとしない!」
「おまえたちがつよいからなぁ、しかたない」
 開拓者達の迅速な初撃は成功した。黄泉より這い出る者での完全奇襲に、スキルを駆使した前衛の斬り込みと、それを後方から支える砲撃……既に鬼二体、天狗一体が塵屑になって消えている。
 故に大鴉天狗は撤退の指示を出していた。アヤカシ達に数がある為、一見乱戦に見えるも、実際は最低限の応戦をしているだけ。
「潔いっつーか根性無しっつーか……さてどうするかねぇ」
「迷う事もねぇぜ、雷梅。このまま追撃を叩き込んで、一気に攻め落とす!」
 言いながら、魔槍砲の射程から放すまいと踏み込んでいくダイリン。その背中は雷梅に勇ましく映る……が、
(仕留めきれるのか? このアヤカシ達を)
 逃げる相手に勝つ事は容易だが、それを討ち取るのは難しい。
 相手が足並み揃え、小競り合いも放棄して逃げた場合、これに付いて行って攻めを継続できるのは、身軽なふしぎと早駆がある那美、あとは射程距離に余裕のある雷梅の砲撃か。ルシールも、突貫しようとすれば出来ない事は無いだろうが……練力も無限では無い。敵の戦力を削る事自体は出来るだろうが……出来れば首領格のどちらかに傷を負わせたい。
「戦え!」
 幻鬼は咆える。
 言われ、大鬼は大仰な身振りで返す。
「なのあるひとのけんしとおみうけする、こりゃあおれなんぞではかなわぬ」
「お前はァァ……!」
 気の抜ける様な声で言う大鬼の『賛辞』を受け、幻鬼の面(おもて)は怒気で満たされた。
 大鴉天狗は、瘴気を掻き集めて傷を塞ぎながら戦況を見る。
 川那辺 由愛……あの不可視の式を召還した陰陽師。しかしあの威力ゆえ、連発出来る代物ではないだろうと大鴉天狗は推測。ならば後は、如何に犠牲を少なくこの場を離脱する事を考えるだけだった。
(また時を止めて僕が一気に切り込んで、雷梅さんからの援護射撃を――いや、それだけで押し切れるのか? もし相手が、完全に逃げに走ったとしたら……)
 天狗達が小出しに撃って来る瘴気の弾を凌ぎながら、ふしぎは考える。
 開拓者側としてはあと一手足りない感が拭えず、大鴉天狗としては一気に逃げ出す時機を図っている。
(あいつの事だ、多分。そういう事を考えている筈だ)
(開拓者達が態勢を立て直す前に、完全に撤退し――)
 眼前に散る瘴気に、大鴉天狗の思考は一瞬止まった。
 いつの間にか白刃を抜いた男が跳躍していた。飛行している鴉天狗の間合いに居る。
「天狗飛斬という言葉があるが」
 銀髪を揺らし、彼は確かにそこに居る。
「──高く飛ぶのは天狗の専売特許ではないさ」
 敵達はアルティアの接近に気付けていなかった。
 彼に翼を斬られた鴉天狗は、すぐに身構え――

(ナハトミラージュからの奇襲……アルティアさんが作ったこの機は、逃さない! 試せるありとあらゆる手段を講じて、僕はこいつらを倒す)
 制止した世界の中で、只一人ふしぎだけが動く。
 鴉天狗へ手裏剣『鶴』を投擲、ピタリ目の前で止まる。
 そして夜の時間が終る。
(もう、僕たちは……諦めたりはしないんだ!)

 ――る前に、ふしぎの追撃を受けて地上へ落下した。
 大鴉天狗は錫杖を一気に振う。完全撤退の合図だ。
「させるかよ!」
 大鴉天狗の号令に、ダイリンの砲撃音が重なる。射程内の敵をピアシングブリットで一気に攻撃。範囲内の鴉天狗と、巻き込まれた鬼が若干怯む――が、相手を倒しきるには、威力が足りない。
「分かってんだよ、それくらい!」
 更にもう一発! ダイリンの叫びと共に響く、轟音。砲撃の後に広がる浅い煙を引き裂きながら、鬼が一体、彼の元へ向かってくる。
「分かっているぜぇ、鴉天狗だけでも確実に逃がす為に、一部の鬼がケツを持つって魂胆だろ?」
 雷梅は既に、相手のシルエットを照準に乗せている。
 射撃、即リロード、射撃――砲撃音が止まらない。ダイリンには、近付かせない!
 そうして硝煙の向こうに、瘴気となって崩れて行く鬼が見えてから、雷梅は白い歯を見せた。
「へっ、こんなもん――」
「わかってねーなぁ、ったくよー!」
「あぁ?」
 ダイリンが何か言っている様で、雷梅は首を傾げる。
「狙うのは、天狗の方だろ! 戦力的な事を考えれば、天狗達を討つ方が優先順位高いだろうがー!?」
 二人に距離がある所為で、返す雷梅も自然と大きな声になってしまう。
「分かってんよ、んな事ぁ! でも私には、もっと大切なものがあるんだよ!」
「何だよ、それ!?」
「え? あイヤ……お前ん所に敵を向かわせたくないっつーか……、その、あんまり危ない目にあって欲しくないっつーか……」
「……? 聞こえないぜー!?」
「聞こえなくていい!!」
 鴉天狗達は最早一切の攻撃をせずに、その行動力の全てを移動に当てている。そして鬼達が、開拓者達と応戦している。
「好戦的な鬼達は、死ぬまで戦ってその役割を果たせって事かねぇ」
 大鬼はニヤリ笑いながら言う。
「殿(しんがり)はお前だ、赤眼の!」
「あー嫌だ嫌だ! 出来れば大人しくしていたかったなぁ!!」
 大鴉天狗の指示へ辟易の言葉を吐きながらも、大鬼の顔には喜色が広がっていた。
 そしてその眼前で火花が散る。
「やはりお前も戦いたかったのだろうが!」
 幻鬼の太刀と大鬼の太刀、破顔と破顔の間で、鋼と鋼がぶつかり合う。
「やっぱり分かるか!」
「分かるさ!」
 振り上げてから、即座に放たれた大振りの一閃。幻鬼はその一撃を太刀で受け止める――が、見た目通りの膂力がその剣には込められている。太刀を握る幻鬼の手は、痺れを通り越し痛みさえ感じた。
 が、幻鬼に怯む様子は無い。掬い上げる様にして、逆袈裟の斬撃を放つ。
 耳を刺す高音と、白い火花。再び、太刀と太刀が当たり鍔迫り合いになる。
「いやぁ猛るなぁ!」
「全くだ!」
「生き方とは、斯くあるべき!」
「生き死にも所詮は剣一本よ!」
 戦いの喧騒の中、剣も声も交わりあって、どちらが鬼か、どちらが人か、分からない。
「お前も斬り合う為に此処に来たんだろ!?」
「違うなぁ」
 異を唱えたのは、幻鬼の声だった。
「俺は、お前の首をぶった斬りに来たぁぁぁぁ!」
 叫びと共に放たれる唐竹割。大鬼はそれを受け止めるが、完全にその剣を止めるに至らない。浅くはあるが、大鬼の肩に傷が出来る。
 大鬼の反撃は、見た目に反して綺麗な一閃だった。その速度に反応できず、幻鬼の胸板が斬られた。
「はっはっは! だが露払いにはなっただろう!」
 倒れながら言う幻鬼。こちらに向かってくる足音が、大鬼の耳に届く。
 那美だ。
 まるで風のように疾い。
 だが――
「わわわっ、急に出て来たりしないでよね。今日は君たちと遊んでいる暇はないのだ!」
 出て来た他の鬼に、那美は行き道を防がれた。
 しかし、追撃は一手だけではなかった。盾を突き出し、無理矢理に強攻してその鬼の脇を抜けるそれは、灼熱色の闘気を纏っている。
 火球が如く、ルシール・フルフラット。
 勢いをそのまま刀身に乗せた一撃は大鬼の胴を裂き、一気に振り抜く。傷口から溢れ出た瘴気が、風に流れて散った。
「……傷は、今も残っているか?」
「消えるものなんざ、傷って言わねぇさ」
 傷口を押さえながら、大鬼はルシールに言葉を返す。
 その時だった。ルシールに向けて、瘴気の弾が撃ち込まれていた。もう大分離れた位置にて飛行している、大鴉天狗から。射程は中々だが、威力が弱過ぎる。
「目的は攻撃じゃない? これは……合図!」
「そう言う事らしいな、畜生!」
 ルシールが気がついた頃には、大鬼は全力で駆け出していた。見れば、残存していた鴉天狗はもう退避を済ませていた。殿の役目が終ったと言う、大鴉天狗からのサインだったのだ。
 緊急時の行動も、元から考えていたと言う訳か。アヤカシにしては備えが良い。
「だからって言って、虚仮にされたまま終われる私達じゃあないわよ」
 由愛は言いながら、呪殺符「祟」を大鴉天狗に向けた。
 大鴉天狗の黒瞳に、由愛の紅い目の視線が突き刺さった瞬間、大鴉天狗は空から地上へと落ちる。
「受けなさい。此れが、此れこそが『怨念』そのものよ……」
 体力、気力、練力的にも、これが最後の黄泉より這い出る者。言いながら倒れ込む由愛を、那美が咄嗟に支えた。
「いやー、デカイ背中ってのは良い的になるぜー!」
「流石、容赦ねーな」
 遁走する大鬼の追撃は、雷梅が射程の限界まで撃ち続ける。その徹底振りにダイリンは半ば呆れ気味。大鬼は痛い痛い言いながらも、墜落した大鴉天狗を拾い上げ、そうして、逃げて行った。

 開拓者達は可能な限り追跡したが、その先に広がる森へ逃げ込まれた為、そこで止めとなる。
 鬼の大半は始末できたし、ここまで追えれば戦果としては充分だろう。
「結局、逃げられちまったか」
「『今』でなくても、良い筈です。如何なものであろうとも、傷を重ねて行けばやがて崩せるのだから」
 残念そうに呟く幻鬼へ、ルシールは言う。
「あの先に、敵がいないとも限らないからね。では、僕らも帰ろう……彼らを連れて」
「彼ら、って?」
 ふしぎに問われ、アルティアは地に落ちている剣を拾う。
「それは……」
「そう、先兵達の遺品だ」
 周囲に散らばっているものを集めれば、まだ他にもある。遺品も、遺体も……。
 どれも損傷が激しく、泥や土埃が掛かった物ばかりだった。
「去っていってしまった者達とは、もう何も話す事は出来ないし声を掛ける事も出来ない。だが、彼らの『行動』と『存在』の証明は此処に残っている」

 だからせめて、一緒に帰ろう。