あさがえり なう
マスター名:はんた。
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/01 20:55



■オープニング本文

 そもそも、杯を交わした理由は何だったか‥‥。
 まぁどう言ったお話で今に至るかなど、記憶に確かなものを残している人間は、既にその場に居ませんでした。
 当然の摂理、ではあります。なぜなら、それ程に頭脳明晰で賢明な方でいらっしゃれば夜の更け頃を見計らい余裕のある時間の内には店を出て帰路を目指しているわけですから。
 ここに残っている人間は、酒特有の臭いを漂わせながら佇む者ばかり。
 さて問題は、日付が変わった位のタイミングで、概ねの人間が店から追い出された事。
 帰るにしても、長屋までは相当の距離。こんな夜更けに走っている駕籠もなく。第一こんな深夜に長屋に戻って、勢い良く玄関開け閉め、鼻歌交じりに何か部屋で意味不明な事をして、ドタバタ騒ぎながら勢い良く布団を敷いてイビキをかく様な真似をしては、次に朝日を浴びる頃には近隣住民から白眼視を向けられる様子は誠に想像に易く。また、それは堪え難きものでもある訳です。
 歩いてみれば千鳥足、止まってみてもぶらつく視界。嘗て、幾多の修羅場を駆け抜けて来た志体持ちの開拓者と言えど、これ程の状態異常に見舞われた事などありますまい。
 まさしく絶体絶命チックな状況。
 これから‥‥更に開いている店を探すも良し、雑貨屋の門を叩き酒を買って近く適当な場所へ腰を降ろし飲むも良し、朝までその辺をぶらつくもよし、まぁいずれにせよ時間の冗費である事に変わり無い訳ですから、別段、その行為の差異については言及に値する事でもないでしょう。


「今日も日を跨いじまったじゃねーか‥‥」
 夜道で愚痴を溢したのは、仕事帰りのギルド係員だった。
 機嫌が悪い。
 理由は簡単で、夜道で愚痴を溢す事になったからである。
 たとえばこれが同じ愚痴であっても、居酒屋で知己と酒でも飲み交わしながらであれば鬱屈の発散にもなったであろうが、一人呟くだけではそうにもならない。ネガティブな意思は、一方通行になれば後は自身を貶めるだけ。ケースバイケースではあろうが、少なくともこの係員にとっては、『そう』であった。
 こんな状態で、家に帰って一人で飲み、それでいて太陽が地を照らす頃には出勤の身支度をしているのだ。気分の晴れる暇など無い。
 とは言え、そもそもこんな事態に陥ったのは自分の要領の悪さが主因にある訳で、そもそも誰かを呪うなどお門違いも良い所である。
「ん? あちらで騒いでいる酔っ払いは‥‥さっき報酬を受け取った開拓者じゃねーか!」
 なので、これからの係員の行為は、只の鬱憤晴らしの出歯亀行為に過ぎない。
「ギルドの係員として、開拓者の素行の悪さは見逃せないな。一応一部へ偵察を試みて、問題についてはギルドに記録を残しておくとするぜ」


■参加者一覧
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
雷華 愛弓(ia1901
20歳・女・巫
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
劫光(ia9510
22歳・男・陰
アグネス・ユーリ(ib0058
23歳・女・吟
真名(ib1222
17歳・女・陰
針野(ib3728
21歳・女・弓


■リプレイ本文

「さて、不埒な開拓者は――イテ!」
 係員の、声。彼の額に当たり、軽い音をたてて地に落ちたそれは鍋の蓋だった。
「誰だ、鍋の蓋を投擲武器にするなんて奇抜な真似をする奴は!」
 投げられて来たであろう方向を見れば、その持ち主投げ主を見つける事自体は容易。
「あっ、さっきの係員さんじゃないですか」
「お前、何だその格好は?」
 しかし、
「うーん、多分‥‥」
 それが何者であるかは判断に難い。
「じるべりあの きし?」
「嘘を言うなっ!」
 猜疑に歪んだ暗い瞳が葛城 深墨(ia0422)を見る。
 構えた剣は砂糖飴。
 護りの盾は鍋の蓋。
 紅潮した頬、千鳥足、口調。
 どれ一つとっても酔っ払いとなる。
 それらを纏めて酒乱で括る。
「こんな時間まで仕事とは、お疲れ様です。こんなお疲れ夜には、帰る前に一杯、如何です?」
「こんな夜だからこそ、明日の為に帰れ!」
「係員さんは明日も仕事? あはは、休め!」


「どうしたの?」
 問われ、男は、何でも無いと返す。
「外が少し賑やかと思っただけだ」
「こういう場所なんだから、夜こそ騒がしいものよ」
「そういうものか」
「でも、騒がしい方が楽しいでしょ? だから私、今日はとことん飲んじゃうよー♪」
 別にいつでもとことん飲んでいるだろう、とは胸中のみで呟き、自分も杯を傾ける男は劫光(ia9510)。陰陽師の開拓者。そして、彼に対面しているのは、アグネス・ユーリ(ib0058)。
「‥‥あ。真名も、もう空いてる? 結構、イケるクチなのね」
「だってアグネスが勧めてくれたお酒、美味しいんだもん♪」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。じゃあ、次も梅酒飲もっか☆」
 そして、アグネスの傍らにいるのが、真名(ib1222)。ちなみに同寮生である。
「アグネスのお勧めなら、何でも飲むわ」
「何でも〜? そんなコト言っちゃうと、強いお酒飲ませて、酔わせちゃうわよ〜?」
「私を酔わせたりして、どうするの〜?」
「こうするの〜☆」
 がばーっ。抱きーっ。きゃーっ☆
(‥‥アグネスはともかく、真名って、こう言うキャラだったか?)
 劫光は、考量する。
(どうしてこうなった‥‥)
 更に胸中呟きながら、劫光は記憶を遡る。
 まず一仕事終えたその日の夕方、居酒屋で夕飯、そして晩酌を喉に通す。
 ここまでは、普通。
 そして店を出て、飲み足りないと訴える己が肝臓を宥めながら二件目を探していた所で、狸の信楽焼に挨拶していた喪越(ia1670)を見つけた。何だか奇妙なリズムに乗せて自己紹介していた彼に声をかけ、とりあえず酒を奢るからその歌を中断して貰う様に頼み、そして二人は適当な居酒屋に入った。
 ここまでも、普通? まぁ、普通。
 問題は、ここから。
 混み具合から、合席を案内された所にいた先客こそ、見覚えのある女子二人。真名、そして‥‥ジャーンジャーン! げぇ、アグネス!?
 しかも、何の話の流れか、彼女らの分も劫光が奢るという謎の事態に陥りさぁ大変、と言う具合である。
(真名は分からないが、少なくともアグネスはウワバミ‥‥嫌な予感しかしねぇが、二人分なら奢っても――)
「ヨーシじゃんじゃん飲むわよー。はーい、そこの可愛らしい給仕さん。注文お願ーい」
「あ‥‥申し訳ございません、こんな格好ですが私は給仕ではな‥‥おや、お隣に居ますのは真名様、でしょうか?」
 一体‥‥本当に一体、何の偶然か。
「あ、秋桜(ia2482)。こんな時間に、しかもお店であなたと会うなんて凄い偶然!」
 アグネスが女給と思って声をかけた相手こそ、真名の知己、開拓者、秋桜であった。何故か、凄く飲めそう、凄い飲みそうな雰囲気を全身からかもし出していた。
「座って座って、あなたもここで一緒に飲みましょうよ」
「ご合席宜しいでしょうか?」
「おねーさん、可愛い子ダイスキよ♪ あ、御代なら心配する必要はないから遠慮なく頼もーぅ!」
 今更、奢りの言葉を取り消す程、彼も狭量ではない。だが、‥‥喪越、おい喪越――劫光は、傍らの喪越に声をかけた。おい喪越、もしもの話なんだけどよ、会計が――おい、喪越? あれ?
「‥‥‥」
 喪越が居た席には、狸の信楽焼が置いてあった。
 ディス・イズ・見殺し☆

 これは『試練』だ。酒に打ち勝てという『試練』とオレは受け取った。

「はーい、給仕さーん。ますは真名の分で‥‥梅酒を四つ〜」
 二つで充分ですよ、と諌める給仕だが、それでもアグネスは真名の梅酒を四つ注文。彼女自身は古酒を。
 秋桜も、これに便乗する。
「では私は天儀酒を。これで注文を――」
「待ってくれ」
 声に振り返った秋桜が見たのは、とっくりごと一気飲みして、それを飲み干す劫光の姿だった。
「俺も、天儀酒を頼む‥‥」
 猪口を掲げ、彼は声を張り上げた。
「男に二言はねぇ! 今日は俺のおごりだ。じゃんッッじゃん飲んでくれ!」
 お、漢だ‥‥。


「さーって、どこかに宜しくしてくれるうら若いセニョリータはおらんかねぇ〜」
 知り合い相手だと却って遠慮するものか、喪越は別の席へ、別の飲み相手を求めて店内を徘徊していた。
 と、そこに何やらカウンター席が丁度一人分空いている‥‥隣は女子! 開拓者・喪越 行くしかないだろう!
「毎度! 素面で酔ってると御近所で評判の「もっさん」こと喪越ドエス! 頭の中はいつでもお花畑、もうすぐ三十路に突入、ピッチピチの二十九歳☆ ヨロピ――」
 喪越ともあろう者が、その口上を途中で止めるには理由はあった。
 そこには女子が二人居る。セミロングの黒髪少女と、巫女に見える金髪の女性。前者の少女の名はハジメ、後者は雷華 愛弓(ia1901)。知り合いの女性同士で飲んでいる事自体、別に何の問題もない。
 しかし、愛弓がハジメに組み付き上衣を脱がしかけている今の状況は、流石に問題に見える。しかも黒髪セミロングの彼女の方は大分に酔いが回っているらしく、ぽーっとして無抵抗な様子である。
 かたや無抵抗な女子、かたやその女子の下着さえ掴みかけている女性‥‥。
(えぇ〜、どう言うシチュエーション? どう言うシチュエーションなのこれ〜〜!? チョメチョメの現場なの!? 俺もしかしてヤバい所にお邪魔しちゃったの!? 百合園に迷い込んだおじゃマンボウなの!?)
 喪越、こう見えても知力は高い。流石。言葉が瞬時につらつらと次々と、頭に浮かんでくる。
 混乱している、とも言う。
 喪越と愛弓‥‥向き合う視線と視線。暫くの沈黙――の後に、愛弓はハジメを剥くのを再開した。
「おいィ!? 普通こうやって目と目が合ったら恥じらい感じて行為を中断するだろフツーわ!」
「はいナイスツッコミ。只今酔っている所為で、私は普段の純情可憐な乙女から少しだけ外れていました、テヘッ☆」
「お、おう‥‥」
 どこまでが本気で、どこまでがツッコミ待ちなのか。
「あははー。今日は涼しくてイイ夜だねー」
 肩ほどの黒髪を揺らしながら、ハジメは緩く笑って言う。さっき剥かれる寸前であった為、未だにお腹丸見えである。
「ヘイ、セニョリータ! おへそ見えてるから! とりあえずチャッチャとシャツを正すんだぜ!!」
「んぇ? あぁ、なーるほどー。だから涼しいのかー涼しいから別にいっかー」
 駄目だこいつ‥‥早くなんとかしないと‥‥。
「あれ、おにーさんもハジメしゃんのお知り合い?」
 更にもう一人、女子が現れた。短めの藍色髪。小麦の肌‥‥には、今は朱が差しているから彼女も飲んでいるのだろう。彼女は名を針野(ib3728)と言った。どうやら、愛弓、ハジメ、そして針野で飲んでいたらしく、彼女が所用で席を外していた為に、一人分空いている様に見えた様だ。
「あ、これにて満席ってんなら、俺は帰った方が――」
「店員さーん、椅子も一つお願いっさー。はいはいそれじゃー席を詰めて詰めて。はい、はいはいハジメしゃんは、服をだらしなくしないっ」
「はーい」
「席を詰めて密着した方が、よりハジメさんにセクハラでき――げふんげふん。‥‥ソウデスネ、新シク来タ人ノ為に席ヲ詰メマショウ」
 何とも愉快な女子三人だ、自分はこの中に溶け込めるのか? 闖入者、喪越は不安に思う。
(まぁ、レディの方々には良い気分になってもらって、俺が正気を保っていればいいか‥‥)

 〜そして暫くの時間の後〜

「いやねぇ。この歳にもなると、もう飲まなきゃヤってられん夜もあるわけYo! 分かる!? この俺の卑しさと刹那さと心苦しさとが!」
「いやー喪越のおにーさんも、愚痴りたい時はパーっと、思う存分愚痴ればいいじゃなーい!」
 針野の横で、また一杯飲み干しながら言う喪越。まぁ、楽しそうで何よりである。
「にゃはー。お酒におつまみ、愉快なお話って来れば、もうこの上ない贅沢なんさー」
「おいおいセニョリータ、冷酒にアタリメたぁ、ちと組み合わせがオヤジ的過ぎねぇか‥‥こんな肴はどうだい!?」
 喪越が取り出したのは欠けた茶碗とサイコロ三つ。チンチロ、か。
 と、そこで愛弓がそっと其れに手を伸ばす
「お、おい――」
「酔っ払って無抵抗なハジメさんを脱がせるのは、何だか絵的に犯罪ちっくなので、ここはゲームで合法的にいこうと思います」
「ナルホド勝ったら一枚ずつって寸法ね‥‥そりゃどっちにせよ犯罪的!」
「さぁハジメさんOPEN THE GAME!(ゲームを始めよう!)」
 喪越の言葉を端折り、愛弓が親でまず一投‥‥三三五。五の目はなかなか悪くない。
 続いてハジメ、よく分からないけど適当に‥‥四五六。
「あれー? これってどっちが勝ちなの〜?」
「オイオイてめぇ、いきなりシゴロ出すかよ普通!?」
 子の勝ち。さて、負けは一枚づつ抜いていると言うルールだが愛弓は‥‥・
「流石ハジメさん、お強いですね。ではまず私は身につけている琥珀珠の勾玉を外します」
 汚いさすが巫女きたない。
「では、次々いきます」
「わかんないけど適当にそれー」
「ハジメしゃん頑張って!」
 しかしその後も、出る目出る目ハジメが勝る。髪紐、草履、冠と外してきた愛弓も、いよいよ服に手を伸ばさざるを得ない状況になってきた。隣で、喪越が唾を飲む音が聞こえた気がしないでもない。
「次の一投‥‥の前に喉が渇いたのでお酒を一杯――と次の瞬間! おおっと手が滑った!」
 愛弓が、手に持つお酒を溢す。うわー凄く自然な溢し方だなぁ。
 が、ハジメは酔い具合からかフラリ針野の方へもたれ掛って神回避! ハジメに博才も強運、無い筈なのだが‥‥。
(何故、何故‥‥)
 神は言っている、ここで脱ぐべきではないと‥‥。
「にゃはは! ハジメしゃん、今日は朝まで楽しむ飲むでござるぞー!」
「あれー、針野ちゃんもしかして酔っ払っちゃているんじゃないのー?」
「飲んだくれたじいちゃんが、ばあちゃんにしばき倒されるのを何べんも見たさー。どぅあからだあいじょおーぶ!」
 針野が何だか大丈夫じゃない様子ではあるが、ハジメも口調が可笑しくなっている。
 一足先に時間を飛ばして朝の話で恐縮だが、針野がハッキリと覚えている記憶は、その後ハジメと肩を組んだ所まで。これからの野望とか、お互いの夢の話などを話した筈だが、具体的な内容までは記憶に残されていなかった。しかし、その時のハジメの顔、声、そして同席の喪越と愛弓‥‥その場の心地よさだけは、鮮明に覚えていた。


「なぁー、折角酒が来たんだし楽しく飲んだらどうだい」
「俺は開拓者の監視の為に、来ただけだ」
 深墨と、彼に絡まれ結局店に入ったギルド係員が、そこにいた。しかし係員は、どうにも場を楽しむ雰囲気ではない。
 可哀相な奴。
「‥‥ここまで来ると、只のストーカー行為じゃないのかねぇ」
 居酒屋に入ってまでも手帳を離さない係員に、深墨は溜息をつきながら‥‥もう一杯。
「第一こんな所まで仕事持ち込むってのも、楽しいもんじゃないだろ」
「世の中楽しい事ばかりで回っちゃいない」
「回ってるよ」
 言い切る深墨の口調に、係員はムっとした顔で彼の方向を向く。
 見えたのは、破顔。
「ほーら現に‥‥世界が回ってらー‥‥笑えるー」
「勝手に楽しんでろ、この酔っ払い!」
「まーまー、あっちの女子達に倣いなよ。何とも楽しそうじゃない」
「む、開拓者発見!」


 劫光は飲みながら色々と難しい事を考えていた。
(朱雀寮の事もある、己の修練、それから‥‥)
 頭を一生懸命働かせて置かないと、今にも酔い潰れてしまいそう‥‥だが、思考は段々と取り留めの無い方向へ。
(‥‥そう言えば俺は、どうして開拓者に――)
「「かんぱーい!」」
 一方、アグネスと秋桜と言えば、ご覧の通りだ。
 酒好きにして快活、淑女にして明朗。加えて互いに可愛いもの好きとあれば、アグネスと秋桜、気が合うのは必然か。本日、何杯目か割らない酒を飲み、そして何回目か分からない乾杯をする。
「あ、私も一緒に乾杯したーい」
「真名様、まだ杯に幾分か残って――」
「じゃあ全部飲むっ」
 ぐいっと真名は勢い良く残りの梅酒を嚥下する。そしてまた一杯注文し、かんぱーい。
「余り無理をなされませぬ様に、ですよ」
「分かってる分かってる〜」
「初めてにしては、飲むんだな」
 劫光の何気ない一言。
「楽しさや酔いって、心に浮かぶ色々なものを薄められるからね」
 真名は普段なかなか見せない色を、その面に滲ませる。それは、不安や弱さ‥‥つまりは齢相応の感情であった。
「いい子いい子‥‥真名はホント、立派な女の子だよ」
 アグネスは彼女を優しく抱き、柔らかい髪を優しく撫でる。
「ありがとう、アグネス‥‥でも、大丈夫だから。みんなが居てくれるから、私、大丈夫」
 真名の顔、笑顔――そうか。
(――そうか、俺は、こういう周りの人間を護る為に‥‥もう失わない為に‥‥)
「ふふ、劫光」
「なんだ」
「‥‥変な顔〜」
「うるさい」
 劫光は、飲み過ぎて目から酒が溢れてきた等と意味不明な事を言い放ち、一気飲みをして卓に突っ伏してしまった。そして、無言でアグネスに財布を預ける。
 完全にダウンした劫光に、秋桜がそっと上着をかける。
「ま、流石に全額奢られるのも借りを作るみたいで微妙だし、少し私達も払うから会計の心配は言いとして‥‥劫光と、真名まで寝ちゃうとはね〜」
「人数が減り寂しくなる‥‥なんて心配は無用でございますよ、アグネス様。どうやら、あちらで私達を覗きながら書きしたためている報告官殿が、ご合席して下さるらしいですので」
 言われ、潜んでいた係員がビクリ肩を揺らす。
「いやーバレバレじゃーしょうが無いって。こうなったら飲むしかないねー」
「待て、俺はそんなつもりは――オイ押すな、深墨!」


 さて、鶏やらスズメやらが鳴き始めた頃、袴半脱ぎ状態で裏路地で目を覚ました者や、陽の光に解けそうになりながら帰路につく者‥‥様々であったが、中には宿で目を覚ました女子も居たらしいが‥‥理由は謎。

 それぞれの頭に頭痛と言う土産を残しながら、ようやく夜は明けた。