【宝語】翡翠・空
マスター名:はんた。
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/24 21:23



■オープニング本文

 暦のうえではとっくに秋だというのに、いまだ都の残暑は厳しい。
 此処開拓者ギルドも例に漏れず、うだるような暑さに苛まれていた。
「空賊団『始まりの翼』が船長、ハジメ参上!」
 そんな暑さを感じていないかの様な、元気な声。一方、ギルドの係員はいかにも暑さにやられている声で返す。
「はい、申請者名の記入欄はここ。じゃあ書いたら教えてくれ」
「‥‥ノリが悪いなぁ」
「頭が悪いよりマシだろう」
 小型飛行船を有する彼女、ハジメ(iz0161)は先日船出を終えたばかりの駆け出しの駆け出しの空賊だ。やっと団の名前や旗のデザインが決まったところらしい。
「見て見て、旗全体は橙色をベースに中央にスリムな鳥のデザイン。ちなみにこの鳥は鶺鴒をイメージしていて――」
「いいから早く、申請書を書いてくれよ」
「でも、まだ実際の旗は出来あがっていないんだよねぇ。布生地は‥‥まぁ直ぐに用意できるとして、問題は染織。そういう技術って、私は詳しくなくてさぁ」
「いいから早く書け!」
「うわわわ! は、はい! 分かりました!」


 空賊団、と言いつつも『始まりの翼』の定常員は今の所、彼女一人。と言う訳で冒険の都度、開拓者の協力を請うのが彼女のスタンスらしい。
 当空賊団としては、今回が初めての冒険になる。
「はい、書き終わりました! はいはい!」
「誤字は無いだろうな」
 ハジメからそれを受け取り、係員は依頼書を見渡す。
 その中で、係員は一つの記入箇所を見ては、それを言及した。
「ここは‥‥冥越、か?」
「そう、冥越の山奥。なんでも、大昔の古戦場って話だけど‥‥今じゃ殆ど木々に囲まれて半分森みたいになっているらしいよ」
 係員は明らかに顔をしかめながら言った。
「冥越へは精霊門も既に繋がっていない」
「分かっているって。そんな所へ行く為の、飛行船なんだ――」
「冒険少女のごっこ遊びには、適さない場所だと言っている!」
 ハジメは顎を引きながら、呟く。
「‥‥ごっこ遊びじゃないよ」
「じゃあ何だ?」
「ハイ、これ!」
 係員に、ハジメは一冊の本を突き付ける。
 随分古い物の様だ。
 本をめくって、彼女はその中のとあるページを開いて指差して言う。
「宝の地図を宛てにして、それを探しに行くんだ。正(まさ)しく空賊らしいでしょ?」
 本には地図、そしてその宝の説明を思われる文章のつらつらと書きつづられていた。

==========
 冥越にある古き戦場(いくさば)
 大暑を退け、アヤカイを制し
 その深山幽谷にて勇気を示した者は
 空に数多の翡翠を見るだろう
==========

「そんな所で、翡翠が採れるなんて情報は聞いた事が無い。大体なんだそれは、宝の地図と言うより伝承書じゃないか。どこでそんなものを手に入れた」
「それはヒ・ミ・ツ☆ 兎に角、デタラメに行くわけじゃないって事。あとは自己責任って事にすればいいんでしょ?」
 係員はそれ以上の反論をしない事にした。こういう奴は、一度痛い目を見ないと分からない。第一、こんなデタラメな地図をアテにした冒険など、開拓者が集まるもは思えない。
 それに最近聞いた話では、冥越の当該地方においてアヤカシの発見例が報告されている。曰く、武器を持った骸骨のアヤカシや、岩で出来た人型の巨人アヤカシ。翡翠と言ったお宝を見つける事はまず出来ないだろうが、アヤカシ討伐で骨を折って、せいぜい人様の役にでも立つんだな。
「‥‥せいぜい、後悔してこい」
 依頼書を受理しながら、係員は胸中のそれを明かす事は無かった。


■参加者一覧
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
水月(ia2566
10歳・女・吟
木綿花(ia3195
17歳・女・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
針野(ib3728
21歳・女・弓


■リプレイ本文

 航行は順調。
 ゆったりと風に乗っている。
(魔の森に蝕まれ行く土地、冥越‥‥か)
 その男、オラース・カノーヴァ(ib0141)は眼下の風景を見ていた。
「目的地まで、もう暫くは掛りそうですね」
 オラースは振り返って、声の主に顔を向ける。大きな弓を携える弓術師、名を一心(ia8409)と言った。
「空に数多の翡翠か〜、何でしょうね? 楽しみです」
「まぁ、そーだナ。魔の森とか、気掛りはあるが」
「幸い、今回の古戦場は魔の森に飲み込まれた場所ではない様ですが、大半が侵食されている冥越ですからね。気は抜けません」
「そうだな、油断は――」
「すっごーーい!!」
 男達の真剣な声色をかき消したのは、元気な娘の声。
「木綿花さんが一人でやったの!?」
「ええ、一通りは自分で」
「凄い、やっぱり凄いよコレ!」
「時間が有れば、刺繍を施した物にしても良かったのですが‥‥」
「大丈夫、これだけでも充分綺麗に仕上がっているよ」
 オラースは、別に振り向きもしなかった。ここまで活気溢れた声の主など、ハジメ(iz0161)以外にいないから。
 何でも、染織を生業としている木綿花(ia3195)が『始まりの翼』の旗を染めたんだとか。
 ハジメは両手で旗を広げ持つと、小走りに船首部分まで駆けていく。
「わー、飛んでる。飛んでいるぞ〜!」
 両手を大きく広げて、旗を風に靡かせる。
(ハジメさんっ。危ないですよ〜‥‥)
 しかし船首など足場の悪い所だ、水月(ia2566)が後ろで、不安そうに手をパタパタと振りながらそれを見ている。
「木綿花さん。ココ、良い景色が見えるよー」
「大丈夫、ここからでも充分綺麗に見えていますよ」
 木綿花の言う通りである。
「今回はよろしくお願いしますさー、ハジメ船長!」
「あ、針野さん。こちらこそ――」
 言いながら針野(ib3728)に振り向こうとした時‥‥横からの風に、ハジメはバランスを崩す。
「うおっ!? 船長さん危ないさー!!」
「ぉわわわ!」
「――ッ!!」
 咄嗟に反応しハジメの手を取って掴んだのは、ロック・J・グリフィス(ib0293)。
「これをこのまま、挨拶の握手にさせて頂こう。初めまして、ハジメ嬢。俺はロック・J・グリフィスという‥‥『始まりの翼』か、良い名だ。宜しく頼む」
「いやー、のっけから面目ないなぁ‥‥どうもありがとう、そしてこちらこそ宜しく!」
 掌の力強い握りを感じると、ロックは微笑を携えながら話す。
「一冊の本から始まる冒険。浪漫だな‥‥ならばその夢、共に見させて貰うとしよう」
「その本に書かれた文章にいくつか様々な解釈ができる部分がありますが、『翡翠』に辿り着けるよう尽力します」
 近くにいたメグレズ・ファウンテン(ia9696)も、言葉同じくして頷く。
「私もこの地図も、今回が初陣だからね〜! う〜ん一体どんな――」
「ハジメ」
 物静かでありながらも、威厳の有る声色‥‥輝夜(ia1150)だ。
「はしゃぎたくなる気持ちも分からんでもないが、次に落ちそうになっても助けてもらえぬかもしれぬぞ」
「‥‥ハイ、自重シマス」
 しょんぼりするハジメの肩に手を置きながら、輝夜は、外見年齢不相応な、諦観の弁をハジメに聞かせる。
「大丈夫、もしその本の記しが真実なら宝は逃げぬ。船長はどんと構えていれば良い」
 航行は順調、明日にもなれば冥越に入るだろう。



 倒木やら岩やらが道を塞ぎ、その都度、開拓者達はそれを乗り越えて行く。
 メグレズ程の長身ともなれば、多少の岩壁など問題ではないらしく、彼女は難無くよじ登って見せる。彼女は上から手を伸ばし、一心を引き上げた。
「‥‥登れぬ」
 しかし、輝夜くらいの背丈では些か苦しいものがある。
「輝夜殿、これに掴まって下さい」
「む、‥‥忝い」
 一心輝夜の肩程の位置まで縄を垂らし、彼女はそれを使って登る。
 その下で水月が何やら、ぴょんぴょんと跳ねていた。届かない‥‥何と言うちっちゃさ!
「よっこらせ、っと」
「ぁ‥‥っ」
 水月は一瞬その身が浮いた感覚に驚く。気が付けば、ハジメに抱き掲げられていた。
「ハジメさん‥‥ありがとうございます」
「どういたしまして! メグレズさん、届く?」
「はい、大丈夫です。水月さん、手を伸ばして」
 しかしそれからも、悪路は続く。
「しかし難儀なハイキングだぜ」
 悪態をつくオラース。無理も無い、一行はハイキングをしに来た訳ではないから。
「道以外でも、難議な事がありそうっさねー」
「何?」
 針野の言葉に、オラースは眉を曇らす。彼女が弓の弦を弾きながら、自身の顔つきも真剣なそれになっている。

 朝露の乗る青葉をかき分け、開拓者達へ歩を進めるのは幾つかの影。
 その姿は、亡骸。誰が呼び始めたのか、それらのアヤカシは狂骨と呼ばれていた。
 動く亡骸は生への憎悪、渇望のみを眼窩の奥に滾らせながら、一歩、一歩と進――
 ――破砕音。
 それが、自分達の同胞の頭蓋を撃ち貫かれた音である事に、奴らは気付けただろうか。
 鏃の描く銀閃は、更にもう一筋。
 一心、そして針野の射撃で、まずは開拓者達が先手を取る。
 しかし狂骨も躯の戦士、頭を貫かれた位で止まらない。
 が、すぐに止まる事になる。
 既に輝夜が間合いを詰め剣を横一閃に切り払っていた。
 輝夜に意識を向けた狂骨達の意識を、メグレズは咆哮で強制的に自分へ向けさせる。敵の位置が集中した所でオラースのブリザーストーム。
 それでもまだ動いている者に対しては、メグレズの刀、そしてロックの槍で鎮める。
「わ、私の出番が無い‥‥」
「まぁ、戦いと言うのは、出番が無い位が丁度良いのかもしれませんね♪」
 圧倒的な戦闘力に、ハジメは改めて驚愕していた。木綿花は構えを解くと、そう言いながらハジメにウインクしてみせた。隣で、水月がこくこくと頷いている。

 そこは、余り森中と変わりない所に見えた。ただ、他の場所よりも若干開けている感があるのと‥‥地に刺さる剣や二本の棒――恐らく十字碑であろう――を見ると少し哀愁に浸りたい気分にもなった。
 地図の古戦場について、一行は探索を始めている。
 古戦場と言うだけあって、朽ちた武具などは労せずにみつかった。もう機能しないだろうが、物珍しくはある。刀一つとってみても、見た事の無い家紋が付いていた。
 その時、悲鳴に近い水月の声。
「わぁ!」
「どうしたの水月、アヤカシ!?」
 ハジメに問われると、水月は恐る恐る、と言った様子で目の前の倒木を指差す。
「‥‥アヤカシ、じゃあないですけど、怪しい‥‥虫さんです」
 朽ちた倒木の中から出てきたのは、白いイモムシのような生き物。頭部と思われる部分が一回り大きい丸型になっている。
「これは、何かの幼虫かのぅ?」
「そうみたいですけど、随分特徴的な格好の幼虫ですね」
 輝夜も木綿花も、見た目に覚えは無いらしい。

「この辺で、一休みとしよう」
 手短な石に腰を預け、輝夜は岩清水を喉に通した。
「そうですね。事前情報通り、残暑の厳しい気候です。こまめに水分補給をしていきましょう。はい、ハジメさんも」
「う、うん。ありがとう‥‥」
 メグレズから水を受け取ったハジメだったが、その声には陰りが見える。
「ハジメ、さん? 気分が優れませんか? どこか具合が?」
「え。怪我、とかですか‥‥?」
「いや、大丈夫。水月もありがとう、でも大丈夫だから」
 彼女の沈んだ表情には、身体的な理由以外に要因がある。
 『翡翠』が一向に姿を見せない。もう時間は昼頃に差し掛かろうとしているが、手掛かりさえも、一向に。
 ハジメには他の開拓者を呼んだ手前、それなりの責任がある。
 ロックは、見かねてハジメに声をかけようとした‥‥その時だった、針野、一心の鏡弦が反応を示したのは。
「骨の奴が沢山いるっさー! わしらを囲う様にして近づいてくるんよ」
「加えて、大きなアヤカシが、一‥‥いや、二体。体が、岩で出来ているのか?」
 木を払いながら歩くそれは、狂骨の一回りも二回も大きな岩の人形。
「来るぞ、ハジメ嬢。‥‥大丈夫か?」
 ロックは少なめの言葉に憂いを乗せて、問う。
「‥‥大丈夫。アヤカシを早くやっつけて、宝探しを再開させる」
「そうだ、それで良い。俺達空賊は、こんな所で屈したりはしない」
 まずは遠くで、がらがらと無機質が崩れる音がした。
「近づかれる前に、出来る限り数を減らす‥‥針野殿、攻撃をまず一体に集中させましょう」
「は、はい。了解っさー!」
 鷲の目でまずは一心が敵を貫き、それにあわせて針野が打ち抜く。弦を引きながらも連携の指示を出す彼の声は冷静だった。
 敵も、ただやられるのを待つだけではない。一斉に駆け出して距離を詰めんとする。
(骨のアヤカシが四方から‥‥下手な肝試しより、ぞっとしない風景です‥‥)
 ゆるり袖を靡かせながら、水月は神楽舞「防」で仲間を支援する。
 側面から迫る狂骨、とその剣。
 オラースは舌打ちしながら身を屈めると、刃の軌道は木に当たって止まった。彼は竜杖を構えながら距離をとり、その間にはメグレズが割って入る。狂骨は剣を引き抜いて、いざ振りかぶらんとした所でメグレズは盾で受け――否、盾で打ち払う様にして敵の腕を押しのけ、一気に空いた胴へ炎刃を叩き込む。
 そこへ、閃の雷が奔ったのは寸毫の間隙さえ許さぬ瞬間であった。
「感謝するぜ。そして加えて注文なんてしたら、あんたは怒るかい?」
「私に出来る事と言えば、咆哮で敵を引き付けて、攻撃全てを受払い、ブリザーストームにタイミングを合わせる事くらいしか出来ませんが、それで宜しいのであれば」
「上等過ぎて惚れそうだ。宜しく頼む」
 歴戦の剣士に、熟達の術士。力を合わせれば狂骨など束になって掛かってこようと問題ではない。
「余力は残しておきたいのじゃが‥‥」
 小柄な彼女が、呟きながらも既に間合いを詰めていた事に、果たしてその岩人形は気付いていただろうか。
「汝には、早々退場願うッ」
 全身のばねを使い、跳ぶ様にして輝夜は蹴り上げ、ほぼ真下から岩人形の顎を打つ。よろめく岩人形、防御せんと腕を構えようと動かすも、彼女はその暇さえ許さない。空中にある我が身を半ば強引に捻り、一気に剣閃を繰り出す。袈裟に叩き込まれた剛剣に胸板を砕かれた岩人形は大きく仰け反り、輝夜がさらに脚部に足の裏を叩きつけると巨体は大きくバランスを崩す。岩人形が倒れ――る前に輝夜の追撃が放たれ岩は塵へと変わっていった。
 もう一体の岩人形に、ロックは白槍を向けている。
 その時、彼の耳に入ってきた音色と、沸き立つ様な高揚感‥‥振り返ってみれば、ハジメが笛で武勇の曲を奏でていた。
「ハジメ嬢から貰った勇気は、この槍を以って返すとしよう‥‥かつて、空賊騎士といわれた技の冴え、存分に味わえ!」
 木綿花の力の歪みにタイミングを合わせて、ロックは踏み込む。更に、一心、針野の援護射撃が加わる。

 戦いの音は間もなくして止んだ。

 確かに、戦闘には勝利した。
 勇気を示したと言えるかもしれない。
 しかし、それで空から翡翠が降ってくるなんて事は、ありえない話。
 その時、針野は瞳に刺さるような光を感じ、目を狭めた。
「ン、何だか強い日差し‥‥な、何なのさー、アレ!」
「空が‥‥光っている?」
 メグレズも見上げると、確かに空が輝いていた。幾つかの小さなモノが陽光を反射させ‥‥翠の色、確かに、翠の色が空を輝かせている。
 一同が立ち尽くす程に、不思議な風景だった。
「‥‥本当に、翡翠?」
 まるで、翡翠が意思を持って飛んでいる様‥‥そう呟いた水月の言葉。
(この日差し‥‥この木の香り‥‥そうか、そういう事か!)
「どうした、一心」
 一心は、何かに気が付くと、樹木の下を探り、とある物を見つけてからオラースに言葉を返した。
 それは、まるで貴金属の様な艶を放ち、しかし形状は直線ではなく、楕円に近い丸みを帯びている、薄い‥‥板?
「そりゃ何だい」
「綺麗‥‥これ、玉虫の翅ですよね!」
 首を傾げるオラースに代わり木綿花が応え、一心は頷いた。
「エノキなどの木に切り傷をつけると、そこから出る香りで玉虫が寄ってくるんですよ」
「なるほど、アヤカシの武器で幾らか木が擦れていたな。そして時間も丁度昼頃、太陽が真上にある‥‥ふむ、初めての冒険にしては珍しいものを見られたの」
 輝夜も見上げながら言う。これだけの数の玉虫が揃う風景など、まず都では見られないだろう。
 ギルドの係員の言う様に、全くデタラメな地図だった。翡翠なんて、一片も採れやしなかった。
 しかし、確かに空に数多の翡翠があった。
「やっぱりこの本は、本物だったんだ‥‥!」
 少女はまた再び、旅立つ事になるだろう。



 オラースや一心、木綿花が付けた目印を辿り、飛行船に戻った一行は武具や野草等の収穫を積んで、帰路に着く。
 空の色は、旗と同じ茜色。旗は、夕空と一体になっている様‥‥木綿花は風景を眺めながらそんな事を思っていた。
 輝夜やメグレズ、一心は武器の手入れ、水月は‥‥うつらうつらとしている。恐らくもう暫くで眠りに落ちる。
 甲板には、操舵しながらお喋りしているハジメ、針野とロックがいた。
「今日はお疲れ様だったさー、ハジメ船長〜っ」
「針野さんこそ、お疲れ様! みんなのお陰で何とかなったよ。ありがとう!」
「お礼を言いたいのはこちらの方なんよ。あんな風景、なかなか見れないっさー。あ、そうだ、お礼と言えば‥‥」
 言いながら、針野が懐から出したのは何か、楕円の‥‥鍔だ。古戦場で拾った物を綺麗にして紐止めして装飾品にしたらしい。
「初めての冒険の記念なんよ。これからの航行のお守りに、よかったらもらってほしいさー」
「いいの? ありがとう!」
 鍔には中心穴以外にもいくつか穴があり、独特の紋様が出来上がっている。この穴を利用すれば、鍵や投擲物などの小物掛けとしても機能するかもしれない。
 ハジメは早速ベルトに括り付けて、ちょっとポーズをとってみて、その見栄えを確かめている。
「いやー、針野さんのお陰で、私はもう一つお宝を頂いちゃって‥‥何だか悪いなー」
 いいんよいいんよ、と針野が掌を振りながら応じる。そんな二人を見て、ロックはふと微笑みながら呟いた。
「もっとも、この冒険一番の宝は、ハジメ嬢に出会えた事か‥‥この出会い、運命というものかもしれんな」
「え?」
「うお!?」
「‥‥?」
 呟きを聞いた直後、女性二人が何か奇怪な声を出して動作を一時停止した。そんな奇妙な風景に、ロックは眉を潜めた。
「どうしたんだ?」
「‥‥ロックさんって、確か以前も空賊だったんだよね」
「ああ」
「その空賊って、ハートも盗んだりしていたの?」
「何を言っている」
(そんな仕事があったら、俺も就きたいもんだねぇ)
 オラースは、甲板で煙草でも一服したい気持ちだったが、止めた。ハジメの近くに居たら、すぐ吹き出して煙の味など碌に楽しめないだろうから。