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■オープニング本文 店先で見えたのは、身なりの良い男だった。しかも若い。 光沢から見るに衣服は絹生地、刺繍や装飾も有る。懐に余裕具合が滲みでている。 つまり見た目で分かる富裕層‥‥悪い言い方をすれば、ボンボン丸出しの容姿と言う事。 だから雑貨屋、保浦鈴音は彼と目が合った瞬間に人見の良い笑顔を瞬時に作った。鈴音は幼さの残る顔立ちだが‥‥女性に笑顔を向けられて、悪い気になる男などはそうそういない。あとは、これで財布の紐が緩まれば儲けもの。 「どうも」 「どうもいらっしゃいませ。何かお探しでしたら、御伺い致しますわ」 「町の雑貨屋さんで買えるとは思っていないのだが‥‥朋友は流石に、売っていないかな」 「朋友、ですか」 いかに品揃え自慢の保浦屋といえど、所詮は一介の雑貨屋。朋友など当然売っている訳もない。 が、相手は上客候補。町の雑貨屋保浦鈴音はそれをそう簡単に放さない。 「どうか、なさいましたか?」 「いや、家で飼っていた一匹のもふらが最近逃げ出してね。可愛がっていたのに‥‥」 すると男はぽつぽつと話出し、鈴音がそれに相槌を打ちながら、更に事情を引き出した。 要約すると、話はこうだ。 なんでも男は志士の良家出身で、大層可愛がってもふらを飼っていたらしいがある日突然逃げ出してしまった。男に理由は分からないが、寂しさを紛らわせる為に改めて別のもふらを飼う事にしたらしい。 「何故、逃げ出したんでしょうね?」 「僕にも分からないよ。あんなに可愛がっていたのに」 「お探しになられても見つからないとなれば、どこか遠くへ行ってしまったのでしょうか」 「家の庭先を少し探してみたんだけど、見当たらなくてね。もし都にまで出てしまったら、範囲が広すぎて探し様がないよ」 うーん、と暫く考えた後、鈴音は男に一つ提案をする。 「当店、朋友は取り扱っていませんが、そのもふらさまを探し出す事は出来ます」 「本当に? キミがかい?」 「いえ、私ではなく開拓者様へ委託する形になります」 「開拓者、かぁ。ギルドに申請するのは少し面倒だなぁ」 「ご安心下さい。保浦屋がギルドに申請し、見つけ出してご報告致します 「そうかい? だったら‥‥」 「もふらさまのお引渡しの際、見合う歩合を頂ければと思います」 「わかった、それじゃあ宜しく頼むよ!」 「こちらこそ、どうかよろしくお願い致します」 手を振りながら男が店を出て、背中も大分小さくなってきた頃に保浦屋の用心棒、鰓手晴人が姿を現した。 「なんだ、あのボンボンは」 「お客様ですよ。さて晴人さん、ちょっと一仕事したくなってきたって顔をしていますね」 「あのボンボンの為にもふらを探すのは、絶対にやらないからな!」 「いえ、もふらさま探しは開拓者様にお任せ致します。晴人さんには、別のお仕事をお願い致します」 「‥‥?」 「まぁ、ただの調べ事です。もふらさまを追って市街を走り回るよりは、楽な仕事だと思いますよ」 その頃、場末の居酒屋にて、一頭のもふらが仕出しの余りものを頂いているところだった。 「おじさん、この大根の煮物おいしいもふ〜」 「そりゃ良かった。ところでお前さん、まさか野良もふらってわけじゃあないだろう。家には、帰らないのかい?」 毛並みは程々に手入れをされており、外傷等は無い事から、むごい仕打ちを受けている様には見えない。 では、何故? 「絶対に、おいらは帰らないもふ‥‥絶対に!」 しかしそのもふらの口調は、断固たるものだった。 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
サンダーソニア(ia8612)
22歳・女・サ
ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)
15歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
マナカ(ib3114)
17歳・女・シ
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔 |
■リプレイ本文 食材、鍋、メイド服‥‥準備をする雷華 愛弓(ia1901)。今回の依頼は確か、もふら捜索の依頼だったはずだが‥‥この準備は一体? 「ところで‥‥なんで逃げちゃったにゃか?」 諸々の準備をしている中で、そんな声が聞こえる。紺青の瞳に疑念を宿しながら、呟いたのはマナカ(ib3114)。 「理由も無く逃げたりはしないと思うニャ‥‥不遇な扱いを受けてたとかごはんが美味しくないとかかにゃ〜?」 「うーん、私も料理が口に合わなかった脱走しちゃうかも? それにしても、可愛がっているのに逃げ出した‥‥となると、可愛がり方に問題があるとか度が過ぎるとかかなぁ」 「愛情の過剰か、不足か。恐らくはそのどちらかと見えるが‥‥むむっ!?」 マナカとサンダーソニア(ia8612)、その話題にナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)が加わった所で、彼女達の視界に現れたのは保浦屋用心棒、鰓手晴人。 「まぁその辺の事情は俺が調べてくるから、そっちはちゃんと、もふらを――」 「出たな偽開拓者、もとい現用心棒! 相変わらず不精にヒゲ散らかしよってー。おお、ムサいムサい」 突っかかるナイピリカもナイピリカだが、返す晴人も相変わらず大人げない。 「しかし世の中に硬い物は数あれど、そのヒゲに勝る物はあるまいな。なんせお主ほどの面の皮をぶっ貫いて生えてきよる。ふふん!」 「すく程の胸も無いくせに、得意げな顔をしやがる」 「ぐぬぬ、言わせておけば‥‥! お、そうじゃったロック。やはり此奴めが今回の犯人らしいぞ」 「何!?」 ナイピリカは応酬の代わりに、ロック・J・グリフィス(ib0293)へ事を焚きつける。 「お前はあの時のチンピラ‥‥逃げたのは知っていたが、さぁ誘拐したもふらを出せ」 「なんでそうなる!?」 「む、違ったか?」 きょとんとしながら、ロック。どうやら彼は、本気で勘違いをしていたらしい。 「ま、そんな無精面だったらチンピラ呼ばわりされても仕方が無いってものよ」 と、言うのは川那辺 由愛(ia0068)。その手には、どこから持ってきたのか、剃刀が握られている。晴人は、何も言わずに一歩引く。 「晴人、どうしかした?」 「いや由愛、‥‥お前に理髪の心得なんてあったっけか?」 「贅沢言ってられる状況じゃないでしょ。そのまま不審人物丸出しの面容で出て、御縄頂戴、なんて笑うに笑えないわ。誰か、この碌で無しを整えるの手伝って」 「ふっふっふ、覚悟するがいいのだ♪ 身だしなみはしっかりしないとね」 「那美‥‥いつの間に俺の背後を!?」 晴人の死角から野乃原・那美(ia5377)が奇襲(?)、彼は取り押さえられる。那美に対してぶつくさ文句を言う晴人であったが、髭とは別のものの切り心地を込めされそうになった所で大人しくなった。 「面々、何やら因縁がある様子に見える」 遠巻きに、イクス・マギワークス(ib3887)は推察交じりに言う。彼女の隣にいるのは、依頼主である保浦鈴音。 「ええ、因縁ですわ」 「‥‥本当に、因縁だけなのか?」 「ええ、因縁以外に何物もございませんわ」 多少、言い切った感があるが敢えてイクスはツッコミを入れない事にした。 鈴音は、らしくもなく急かす口調で言う。 「さて、皆様準備は宜しいですか。程なく出発して頂きますよ」 「あ、鈴音さーん。これ、依頼が終わるまで冷やしておいてもらっていいかな? かな?」 那美が鈴音に差し出したのは‥‥酒瓢箪。 「これは?」 「それが冷える頃には、諸々解決して戻ってくるのだ♪」 「分かりましたわ。期待して、待たせて頂きます」 受取って鈴音は微笑むと、那美も無邪気な笑みで返した。 さて、もふら様捕獲に乗り出した開拓者達。作戦は、マナカと愛弓とで作った煮物でもふらを誘き寄せる算段。物陰に潜み周囲を見渡し、準備は万全。 「うーん、いい匂いなのだ♪」 那美の言う様に煮物からはかなりの香りが立ち、鼻腔にそれを届ければ堪らなく腹を空かせる。 「これで誘われて出てきてくれるといいねー。むしろ僕が誘われそう♪」 「事実、匂いだけじゃなくて、味もおいしいよ!」 元気一杯満面の笑顔でサンダーソニアは言う。 「何故、『味』を知っている?」 「え。そ、それは‥‥」 彼女はイクスに問われると、視線を上方へ外し、彼女にしては歯切れの悪い声調で返す。 「か、勘だよ!」 「それは凄い」 「つまみ食いなんて、断じてしていないよ!」 「そうか」 イクスは、言及しない代わりに彼女の口の端を凝視し続ける事にした。 「結構美味しく出来上がったと思うだけど、どうかにゃ〜」 「その点に不安は無いとして‥‥別問題が一つ、有る」 「にゃ?」 マナカは首を傾げてると、イクスは少し間をおいてから気持ち俯き加減に言う。 「‥‥何故、この様な丈の短い衣服を」 もふら捕獲の参加女性陣は、『黒白メイド服っぽいけど微妙にメイド服と違う、ひらひら付きの異国情緒漂う衣服』を着ていた。何故か裾は通常のそれより短く切られ、それをカバーするようにオーバーニーソ(黒)が穿かれている。何でも、個数限定で保浦屋が入荷した異国装らしい。 「その問いには、私がお答え致します」 身を乗り出してきたのは、愛弓。 「頼む」 「もふらさまを油断させる為に必要な事だと故郷の母が言ってました」 「‥‥」 「本当です」 「‥‥そうか」 愛弓はその言葉に一片の淀み無く言い放つもので、イクスも反論が出来なかった。 事を静観していたロックが、ようよう口を開く。 「何、心配する事は無い。大丈夫だ」 「そうだろうか。却って華美な服装だともふらに警戒され――」 「皆それぞれに美しい。とても似合っている」 「‥‥もふらは、まだ来ないのか」 「事前の聞き込みでは、この辺で間違いなさそうなのだがな」 都の盛り場から少し外れた裏通り。人もまばらなこの周辺で件のもふらも目撃情報あり、と既にマナカやロックで調べて有る程度のあたりを付けている。 「しかし相手はもふら。蛙や鳥の様に鳴き声でも出してくれれば、分かり易くて有り難いのだが‥‥」 「もっふもっふ‥‥」 え、何コレ? 鳴き‥‥声? 「もっふ、もっふもっふ」 「‥‥分かり易くて、有り難い」 「あの首輪、間違いなさそうだニャ」 マナカに皆、無言で頷く。間違いない、件のもふらだ。 情報収集は無駄では無かった。あとはもふらが警戒せずに食いついてくれれば話が早いのだが。 「お腹空いたもふ‥‥あ、こんな所に良い匂いの煮物が置いてあるもふ〜!」 「‥‥食いつき、早過ぎるニャ」 「此処までは良し。あとはこっそり近付いてもふり倒す‥‥様に見せかけて、ふん捕まえるのじゃ!」 ナイピリカが間合いを詰めると、まるで豹の様に飛びかか―― 「もふ?」 ――る前にもふらは彼女のハイヒールが地を打つ音に気が付き、振り向く。 「ま、待つのだ。わしはただの通りかかりのメイドじゃ。見よ、この『ひらひら』とか‥‥」 「開拓者もふーー!!」 脱兎。 「彼女の完璧な変装を見破るとは、あのもふらなかなかやるな」 イクスは、状況に対してツッコミが追いつかないからせめて今逃げているもふらには追い付こうと、駈け出す。 しかし‥‥裾を押さえながら走る姿勢は、駆け足に適したそれとは言い難かった。 「なんと動き難い服装だ。ひらひらが揺れるうえにこの短い丈では、翻ってしまうぞ」 「気にしなければ、いいんじゃないかなー?」 「な――」 那美は言いながら、韋駄天走りでイクスの横を抜ける。一足ごとに瞬発力を最大発揮し、那美は一気にもふらの背に近付く‥‥のは良いのだが、裾! 裾! が、ここは風の精霊の力が働いてか‥‥見えない、惜しいっ! じゃなくて、危ない危ないっ。 「追いかけっこなら負けないぞ☆」 (追いつかれるもふ〜!) 流石にシノビの敏捷性に、もふらが勝てる訳が無い。しかも進む先には石塀。もふら、万事休す‥‥か? 「もふ〜!」 「ぅわ、抜け穴!?」 予め知っていたのか、塀には丁度犬一匹走り抜けられる程度の穴が開いていたのだ。もふらはその穴に飛び込むと、少しだけジタバタした後に、穴から塀を抜ける。 「ふ‥‥僕に追いつくなんて十年早いもふ」 「追いついたニャ〜!」 「!?」 ぴょ〜んと跳躍し、既に塀を飛び越えていたのはその声の主、マナカであった。まるで猫そのものの軽やかさで着地する。 「さて、教えてほしいにゃ。どうして逃げ――」 「僕はまだ、捕まるつもりはないもふ〜!!」 「ああ〜、待ってニャ〜!」 塀を抜けた先は、都の表通りへ繋がっていた。通行人の足元を掻い潜る様にして、もふらは逃走して行ってしまった。 「‥‥何か、向こうが騒がしいな」 「苦戦しているのかしら」 場所は、依頼主邸宅付近。そこにいるのは由愛と晴人。この二人は依頼人の身辺調査に当たっている。丁度門から出て来た手代などを捕まえては、依頼人や飼っていたもふらについて聞いてみる。それに加え周囲の家から情報を集めて、依頼人の人となりを考察する。 「やっぱり、金持ちのボンボンって感じみたいだな」 流石に、彼の家の者から直接悪口や嫌味は出なかったが「若旦那は、大層もふらを可愛がっていましたよ」と語る手代の顔がどう見ても引きつっていたのが、由愛の中で引っかかる。 「金持ちの考え方は、何かとズれてる場合があるからねぇ‥‥あたしらが言えた口じゃないけど。このままだと気になるし、確認だけでもしておきましょうか」 「!!」 符を手に取って式を練る由愛に、晴人は身構えた。 「‥‥何よ」 生成された式は、人魂。成した造形は‥‥蜻蛉。 「何だ‥‥ふぅ、蜻蛉ならセーフ」 「百足とかでも良かったかしら」 「駄目、百足はダメ! 時間も練力が勿体無いしその蜻蛉で行こう!」 「全く、冗談よ」 けたけたと笑いながら、由愛は蜻蛉型のそれを屋敷へ向けて飛ばした。 「どれどれ。うわぁ、座布団まで絹織で刺繍入り。ちょっと付いていけない趣向ね」 「趣味の悪さは知っている。他、何か見当たらないか?」 「うーん‥‥あれ、やけに小さい服があるわね。子供様かしら」 「そいつはおかしい。依頼主は一人身の未婚者のはずだ」 開拓者達は、結構な距離を追跡した。しかし、地の利はもふらに有る様で、ある時は狭所を、ある時は人混みに紛れ中々あと一歩の所で逃げられてしまう。 今も、視界にもふらがいるのだが、開拓者が一歩踏み出してはもふらが一歩引く、緊迫状態に陥っている。 「こうなったら‥‥最後の手段です。サンダーソニアさん」 「うん、了解っ!」 しかし、今の彼女は手負いの身。その怪我を抜きに考えても、那美やマナカの俊敏性に勝る走りが出来るとは思えない。 何か、妙案があるのか? サンダーソニアは愛弓に向け勢い良く頷き、そして更に‥‥勢い良く転んだ。 どんがらがっしゃーん。 松葉杖はあらぬ方向へ放り投げられ、派手な音を出しながらサンダーソニアは転倒していた。 「嗚呼、大丈夫ですかサンダーソニアさんっ」 「うう、痛いよー」 愛弓は、やや芝居掛かった台詞で続ける。 「もしこんな時、もふら様をもふもふ出来さえすれば気分も良くなります‥‥もしかしたら、痛いの痛いの飛んでいくかもしれません」 「痛いよー、もふもふしたいよー」 「何‥‥だと?」 イクスは動揺していた。状況理解の為に、彼女は思考をフル稼働させる。 (わ、わざとらし過ぎる‥‥幾ら何でも! 大体もふもふして痛みが引くなど聞いた事もない、幾ら単純な思考系統のもふらと言えどそんな策動に乗るとは考えられない。そもそも追われ身の立場のもふらに、こちらの怪我などどうでも良いはず。愛弓、サンダーソニア双方を決して侮るわけではない、決して、そんな事は無いと言い切れる、が、この作戦に引っ掛かるも能天気なふらなど天儀中探し回ったとしても、居るかどうか――) 「もふもふすれば、怪我が治るもふ? それなら遠慮無くもふるもふ」 居たーー! ここに居たーーーー!! 「うーん、もふもふ‥‥」 「あ、私も走っている間に足を挫いていたみたいです。もっふもふせざるを得ません」 「うむ、わしも右に同じじゃ! もふりもふり‥‥」 愛弓、続いてナイピリカ。共に無傷の女性陣がもふらに抱きつく。 「ヤレヤレ怪我とか‥‥、全く困った人達もふ」 と呆れた具合で、そのもふらは女性三人にもふられている。 その様子を見ていたイクスは、呆れを通り越して驚嘆さえしながら、胸中呟いていた。 (どう見ても捕まっている。もふら自身、自覚は無いのか? いや、そんなはずは無い、そんな事などありえない。まだ油断は出来ない! だから決して、気を緩めるんじゃない、イクス・マギワークス。決してまだ、捕獲は成功したとは決まっていない!) もふら自身が捕まった自覚がないままに、捕獲成功。 まぁ、それが捕獲と述べて然るべきかは、別問題として。 「はー、運動のあとのオヤツは美味しいもふー」 マナカの膝の上で抱っこされながら、もふらはクッキーをかじっていた。 「もしかしてかけっこがしたくて、あたい達から逃げていたのかニャ?」 「それもあるけど、それを抜きにしても、あいつの所には帰りたくないもふ!」 「うーん。何か、込み入った事情がありそうにゃね〜」 「どうして逃げ出したか、まずはそれから話してみないか? 何なら、力になるぞ‥‥俺は自由を求める者の味方だ」 ロックがそう言うと、もふらは暫く押し黙った後‥‥口を開いた。 「もふ、実は‥‥」 時刻は陽を山間に沈めるまでに流れていた。 依頼を終え、開拓者達は煮物の残りを肴に酒卓を囲んでいる所だった。 「もふらに衣服を着せる‥‥うーむ、変わった愛情の示し方もあるものじゃ」 「でも、今回のは、本人が嫌がっているからねぇ、『可愛がってる』とは言えないわ」 しみじみと言うナイピリカに、由愛は古酒で喉に通しながら、そう返す。 依頼主の男は、飼っていたもふらを確かに愛情を注いでいたのだが‥‥まだ残暑厳しいこの季節でありながら、もふらにお気に入りの服を着せ、毎日脂っぽい食事を出し、自身が疲れるからと言う理由で特に散歩に出したりもしなかったとの事。 「僕もただ脱走したわけじゃないもふ!」 「で、何でお前は此処にいるんだ! あと、俺の頭の上から退け!」 「此処が一番、座り心地いいもふ〜」 で、そのもふらが何故ここにいるかと言えば、上記の事もあって由愛から鈴音にもふらの引き取りが提案されていた。 鈴音としては、上客も失いたくないがもふらも可哀想‥‥と言う事で、『もふらを躾ける為に保浦屋で預かる』と、依頼主に申し出、その躾け役には晴人が抜擢されたのだ。 「ささ、いっぱい飲んで♪ 飲んで♪ これから仕事も増えるみたいだし」 「ちくしょー! 飲んでもいねーとやってられねー!」 那美から注がれた酒を一気した晴人が、翌日青い顔になっていたのは言うまでも無い。 |