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■オープニング本文 ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 ※後継者の登場(可) このシナリオではPCの子孫やその他縁者を一人だけ登場させることができます。 【現在】 騒動がひと段落した十塚。ケモノたちも暴走の影響から逃れ、またいつもの日々が戻ろうとしていた。 「しっかし、剣庭跡地の方になんか毎日人が派遣されてるみたいだけど何やってんだ?」 と、ここ最近の人の動きを疑問に思うは武蔵。それに答えるのは扇姫だ。 「……自爆されたとはいえ、無事な部分があるかもしれないって調査してるみたいよ。一応……貴重な資料には違いないし……」 「えぇー。それでまた厄介なもん起動させるんじゃねぇだろうな……?」 「……だとしても、後の時代で……触れてしまうよりは……マシ、でしょ」 禁忌の地として封印したところで、それが永劫に語り継がれる保障はどこにもないのだからという扇姫の言葉に、武蔵は首を傾げる。 「んん、なんでだ?」 「私達や……開拓者が……対処できるでしょ……」 今、ならば。例え新たに暴走人形が出てきても、叢雲並の力を持つケモノが出てきても、自分達でなんとかできる。 未来の人々がそれらを掘り出してしまった時に、自分達のような力を持っているとは限らないのだ。 「そういうもんか。ま、やりてぇことあるからあんま面倒を掘り出してほしくねぇけど」 「……やりたいこと?」 「花見だよ、花見! 叢雲とかも引っ張り出してな!」 【1年後】 1人の少女騎士が、家を出るところで振り返る。 そこには家具や荷物は一切無く、がらんとしていた。 「……ん」 数年過ごした家を出ることに、寂しさを感じる。だが、もう決めたことだ。 「さて、久々の故郷はどうなっていることでしょうか」 手紙でやり取りしているから『家族』の近況は聞いている。とはいえ実際に会うとは別物だ。 「……いい人見つからなかったのかとか、弄られそうなのがなんですけども」 ローズ・ロードロールはため息を吐きながら、ジルベリアへ戻るのだった。 【12年後】 「三成様」 からくりメイドに声をかけられて、青年は手元の書類に目を落としたまま返事をする。 「うん? なに、瑠璃」 「家を出るならそろそろ出た方がいいかと判断します。今日は正午ぐらいから特に暑くなるそうですし」 「あー……」 言われて、青年は窓から外を見る。じりじりと照りつける夏の陽射しがこれでもかといわんばかりに降り注いでいた。 「そう、だね……うん。墓参りの最中に倒れるのもちょっと困るし」 軽く机の上を片付けてから、三成は立ち上がる。瑠璃のことだから準備はもうとっくに出来ているだろう。 「それじゃ、行こうか。……けど、なんか妙な騒動が起きそうな、そんな気がする」 そんな夢を、15年前に見た、ような。 【この物語から遥か未来】 客の誰もいないラーメン屋。黒髪の少年がカウンター席に座り、本を読んでいた。 内容は過去の物語の登場人物が全て女性に置き換わった漫画だ。毎話毎話唐突に入るポエムや謎の与太話などが一部の層に大ウケである。 「はぁー……ついに終わっちゃったかぁ」 少年は、コップで水を軽く飲んで感慨に浸る。 「んー、まぁ、これの最終話読むの間に合っただけまだマシかなぁ……」 少年――叢雲に残された時間は、限りなく少ない。 超常の力を得たケモノとて、いつかは死ぬ。それが自然の摂理だからだ。 「んー。どうせ死ぬなら、なんか最期にデッカイことやっちゃう……? 暴れるのも楽しそうだなー」 ラーメン屋の火が落ちる。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 以心 伝助(ia9077) / ケロリーナ(ib2037) / 禾室(ib3232) / 緋那岐(ib5664) |
■リプレイ本文 ●現在、十塚の花見 十塚最大の街、須佐。それよりそう遠くないところに、桜が一面に咲き誇る場所があった。 季節はちょうど花が満開になる春。花見をするにはちょうどいい時期だ。宴好きの人間が盛り上がっている姿があちこちで目に入る。 「そんじゃ、かんぱーい!」 1本の桜の下で陣取っている彼らもまた、そんな宴好きの者達だ。武蔵や扇姫といった須佐の人間だけでなく、傭兵たちの姿も見える。 そして、開拓者の姿もあった。左頬の十字傷が特徴的な忍の青年、以心 伝助(ia9077)だ。 「よっ、伝助。飲んでるか〜?」 「はい。今日はたっぷり飲ませてもらうっすよ」 開拓者といっても、十塚にまつわる数々の騒動を共に乗り越えた仲だからか、武蔵の絡み方は身内のそれに近い。 対する伝助もそれを嫌がることなく、杯の酒を一気に飲み干す。 「いい飲みっぷりじゃねぇか! ほら、もっといけいけ」 「おっ、おっとっと……」 溢れるぐらいに注がれた酒を、伝助は零れないように慎重に杯を傾ける。 ――本当、たっぷり呑めそうっす。 酒に弱い忍の自分がこういう機会を得られることを、幸いだと思いながら。 「おー、やってるねー」 そんなこんなで宴会を続ける彼らのもとに、新たな参加者が現れる。 つややかな長い黒髪を蓄え、妖艶といえるほどの美貌の少年――叢雲だ。 「おー、叢雲きたかー……うん?」 だが、彼の参加をさらっと受けいれたのは武蔵だけ。その武蔵も叢雲に声をかけてから、何かおかしいと首を傾げる。 それもその筈だ。宴の参加者全員の視線が一点に集中する。 「うん? どうかした?」 注目の先には、団子を美味しそうに頬張っている十塚のヌシ――叢雲の姿があった。 「いや、どうかしたって……叢雲が……」 確認するように、扇姫が団子を食べている叢雲を指差し、その指の先をそのまま新たにやってきた叢雲へとスライドさせる。 「……2人、いるように見えるんだけど……」 「まぁ、そういうことも偶にはあるんじゃない?」 そんな異常事態を気にすることなく、平然と宴の輪の中に入り、それどころか叢雲と乾杯をするもう1人の叢雲。 「あったら……嫌すぎるわよ……!」 という扇姫のツッコミもどこ吹く風だ。 「んー、まぁ、あんまり面倒なことになってもしょうがないか」 場がやや騒然としてきたのを見てもう1人の叢雲が肩を竦めると、彼の全身がぽんっと白い煙に包まれる。煙はすぐに晴れ、煙に包まれたその姿は先ほどまでとは全く別の姿になっていた。 「白い……猫?」 「わしは謎のご隠居さまじゃ。ほっほっほ」 どこから用意したのか座布団に座っている猫。それもただの猫ではなく、老いた神仙猫だ。 「ご隠居さまって……何……?」 「ふふ、だからその辺も含めて謎なのじゃよ」 全く答えになっていない。が、とりあえず敵意があるわけでもないということで、謎のご隠居さまを加えて、宴は再開するのであった。 そんなこんなで宴は続く。 酔った扇姫に執拗に背を殴られながらも気にせずに笑っている武蔵を見て、伝助はふと始まりを思い出して呟く。 「……最初に会った時には、まさかこうなるとは思わなかったっすよ、本当」 伝助と武蔵の初めての出会い。それは武蔵が開拓者として初めて活動した依頼だ。 「おっ、あの時のことはまだ覚えてるぜ。敵はえぇと……」 「覚えてないじゃん、武蔵」 「いや待て、ここまできてるんだ、ここまで……!」 叢雲にからかわれて、自分の額の辺りを指差す武蔵。そもそも口より上まで来ているんだったら喋ることができる筈だが。 「そうだ! こういう時の為に……これがあるんじゃねぇか」 武蔵は己の腰にぶら下げている手帳の1つをぱらぱらと捲る。それは彼が記憶を失っていた頃に大事にしていたものだ。 「かーっ、懐かしいな。ほら見ろ、伝助に教わった、仲間との連携が大事ってこととか書いてあるぜ!」 「うわ、そういう昔のアドバイスとか掘り出されるとなんというか、ちょっと恥ずかしいものがあるっすねー……」 何せあの時の武蔵は、基本中の基本のようなことを教えても、感激するぐらいだったのだ。まるで何も知らない子供のように。 ……まぁ、実際のところ何も知らなかったんすけど。 今になって考えてみれば、その時得た驚きの感情が、武蔵との縁の起点なのだろう。 そして最初は武蔵との間だけだった縁も、武蔵を通じて多く広がっていった。 始めはナギとして知り合った叢雲。復讐姫として色々気を揉んだ扇姫……他にも十塚に住まう様々な人々との出会いがあった。 そして、これから。 「皆さんはこれからどうするんすか?」 将来なにかやりたいことはあるのかという、伝助の問い。 その質問を受けた武蔵は、杯を少し呷ってから、あまり迷う素振りを見せることなくさらっと答える。 「んー、俺ぁしばらく須佐で厄介になって……まぁ、十塚で面倒が起きたらそれを解決するって感じになるのかな」 言いつつ少し首を後ろに回せば、そこには酔った末に丸まって寝息を立てる扇姫の姿があった。 「……ま、色々迷惑かけちまった分ぐらいは返さなきゃいけねぇしな」 「いつになるんだろうねー、それ」 からからと笑う叢雲に、武蔵はちょっと不貞腐れながら投げやりに問いをそちらに向ける。 「うっせ。お前はどうすんだ」 「んー? 僕はずっと僕のやりたいようにやっていくよー?」 その場にいる者達が「あー」と声を重ねる。このヌシは今までも、これからも、ずっとこんな感じだろう。 気を取り直して、武蔵が伝助の空になった杯に酒を注ぐ。 「んで、そういう話題を出したお前は?」 「……ん、まずは里に話をつけにいくつもりっす」 今までは里に属したまま開拓者を続けていたけれど、様々な事情や多くの縁を考えるとこのままでもいられないので……と。 「あっしも、もう簡単には死ねなくなっちまいやしたからねぇ」 そう言って伝助は笑みを見せる。心の底からの笑みを。 以前の……どこか死にたがりなところがあった伝助からは出てこない言葉と、笑み。 「は、お互い簡単には死ねない身ってところか」 「そういうことっすね」 2人は同じ高さまで杯を掲げ、笑みと共に酒を一気に飲み干すのであった。 空になった杯に、少女の手によって酒が再び注がれる。少女は注ぎながら、自分の将来を語る。 「うーん、私は将来的には石鏡に在住するつもりですから……ケモノ含めて、十塚のみなさんと交流を持ちたいですね」 「――って、柚乃さんいつの間に!?」 「えっ、結構前からですけど」 実は謎のご隠居猫は、柚乃(ia0638)がラ・オブリ・アビスで偽装した姿であった。なので彼女の言葉に偽りは無いのだが、宴の参加者にとっては急に彼女が現れたように見えるのだ。 「な、なんでそんな無駄なことを!?」 「……?」 「質問の意味が分からないとばかりに首を傾げないでほしいっす!?」 「まぁまぁ、いいじゃないですか。……あっ、十塚のケモノといえば、何か発見があったと耳に挟んだのですが」 何か納得がいかないものがあるが、追及しても仕方が無いと伝助も渋々柚乃の話題に乗る。 「剣庭跡地を調査した結果で……えぇと、あっしもあんまり詳しくないんすが」 伝助は宴に参加している傭兵へ視線を送る。調査に参加した彼らが詳しい筈だ。 「む。調査結果でござるか。いや何、どうも調べてみたところ、剣庭自爆がきっかけで封印が解けた原種ケモノがいるようでござってな。肝心のケモノそのものは見つかっていないので生きているとは限らないのでござるが……」 「調査によりますとー、確かー、アスカロンと名付けられた個体らしいですよー?」 それを聞いて今まで楽しそうだった叢雲の顔が急に曇る。 「あー。僕、そいつとは絶対関わらないから」 「え、何か知ってるんですか?」 「知ってるけど、あの狐には何があろうと関わらないからね、僕」 どうやら、十塚ではこれからも波乱がありそうだ。 ●1年後、ジルベリア ジルベリアの冬。それは辺り一面が真白で覆われる季節だ。 街を歩く銀髪の少女は、白い息を吐きながら雪を踏みしめる。 「……ん、もうこんな時間ですの」 懐から取り出した懐中時計を確認する。日没と天気のことを考えれば、今日は村に戻るより街で一泊した方がいいだろう。 そうと決まれば、宿を探した方がいい。確かさっき通った道に宿があった筈だ。少女は足を止めて、来た道を戻ろうと振り返る。 が、 「ローズ殿ーーー!!」 「はいっ!?」 銀髪少女に向かって突撃してくるほわほわ癖毛の獣人少女。獣人少女が呼ぶ名は銀髪少女のものであるからして、狙い通りなのは間違いない。 果たして、けもっ子は雪を蹴ってローズの胸へとダイブするのであった。 「え、えぇぇぇぇ!?」 勢いのまま尻餅をつきそうになるところを、ローズは何とか踏みとどまる。 「いやぁ、久しぶりだのう、ローズ殿! まさかこんなところで会えるとは思わなかったのじゃ!」 ローズの戸惑いを余所に、抱きついたまま尻尾をぱたぱたと振って喜びの感情を見せるけもっ子少女。間近で見上げる顔はきらきらと眩しいばかりの笑みで溢れていた。 「え、えぇと……」 顔に見覚えは、ある。だが、ローズの記憶の中の相手とは大きな違いがあった。 目の前の少女はローズよりやや低い程度の140cmぐらいの背だろうか。あの少女はもっと小さかったような……? ともあれ、ローズは意を決して浮かんだ名前を口にする。 「禾室さん……ですの?」 「うむ、そうじゃぞ!」 少女は禾室(ib3232)の名を力強く肯定する。それはローズの友人である開拓者の名前だ。 最後に会ったのはローズが天儀を出る前の1年前か。成る程、癖っ毛も、ふわふわの狸耳と尻尾もその時の記憶のままだ。大きく異なるのは、 「随分、背が伸びましたのね……?」 「成長期というやつなのかの。わし自身も驚きじゃ」 何せ、たった1年で40cmぐらい伸びている。初めて出会ったのはその更に5年前だったが、その間はこれといって変化が無かったのも余計に驚く一因となっている。 しかも…… 「うん? どうしたのじゃ、ローズ殿。わしの身体に変なところでもあるのか?」 「い、いえ……」 背が伸びたことに伴ってか、きっちり女性らしい発育もしている。まだ膨らみは小さなものであるが、この調子のまま育っていけば中々立派なものになるだろう。 ローズはつい自分の胸に目を落とす。数年前から成長の止まった胸。決して貧しいとまではいかないが、女性の平均的なサイズよりは少し寂しい。 ――別に気にしているわけじゃあありませんわよ!? ただ、禾室さんが成長しているんですから、自分もまだ諦めなくていいかなってちょっと思ってしまっただけですのよ!? 「お、おぉ、ローズ殿が希望を見つけたような、それでいて切羽詰った表情をしておる……」 なお。 これから何年経とうが、 ローズの胸が成長することは、 無かった。 「そういえばローズ殿は今は何をしてるのじゃ?」 宿に向かうローズに並んで歩く禾室は、現状を問う。 「ん……何をしてる、ですか」 問いの意味は、今どこに向かっているかとかそういう類のものではない。日々何を目的として暮らしてるかというものだ。 ローズは、鎖を通してペンダントのように首からぶら下げている指輪を手に取る。 その指輪の出自は、禾室が過去に受けた依頼の中でローズが語っていた。 彼女が物心ついた時から持っていた、サイズの合わない指輪。滅んだ貴族、ロードロール家の形見。 「調べたいことがある、といったところですわ」 「成る程、のう」 何を調べているのかは、ローズの見ているものから十分に理解できた。 禾室からの追及がないので説明は十分だと判断したローズが指輪から手を離し、今度は問い返す。 「そういう禾室さんこそ、どうしてジルベリアに?」 「まぁ、どう言えば伝わりやすいか……。そうじゃの、『食』を探しに世界各地を旅しているといったところじゃ」 「食、ですの」 食の道を極めんと日々研鑽していた禾室。そんな彼女は今まで伝助の家に居候していたのだが、酒が飲めるようになったのをきっかけとして、より広い世界を見ようと旅に出たのだ。 「うむ。だからの、ここで会ったのも何かの縁! 良ければローズ殿にジルベリアの『食』を教えてほしいのじゃ!」 尻尾をぱたぱたと振り、きらきらとした目でローズを見る禾室。それはローズにとって懐かしいもので、思わず顔が綻ぶ。 「ふふっ、いいですわよ――」 それじゃあ、まずは自分の行き付けの店を案内しようか……そう続けようとした時、2人の耳に野太い悲鳴が聞こえた。 「うわあああ!? 全身に雪をコーティングしたマッチョ雪ダルマが襲ってくるー!?」 「はいぃ!?」 騒然とする街中。どうやらそう遠くない場所で何かろくでもない事件が起きたようだ。 禾室とローズは思わず顔を見合わせる。だが、それで十分だ。2人は一緒に同じ方向を向いて走り出す。 「食も大事じゃが、変態も放置出来ぬ。うおー、開拓者の血が滾るのじゃー!」 「えぇ、行きますわよ! ジルベリアの平和はわたくし達が守ってみせますわ!」 少女たちが、雪の街を駆けていく。 ●12年後、一三成邸 墓参りのために腰を上げた三成は、玄関に向かうより先に別の部屋に顔を出す。 三成が来たことに気づいたのか、その部屋にいた女性が顔を上げる。端整な顔立ちに抜群のスタイル、ストレートロングの金髪が先端だけ縦ロールになっているのが特徴的だ。 「あなた。お仕事は大丈夫ですの?」 「うん、大体片付いてるから」 三成を「あなた」と呼ぶことからも分かるように、彼女は三成にとって大切な家族の1人……妻だ。 女性の名はエカテリーナ。10年以上前にはかえる好きが講じてケロリーナ(ib2037)と名乗っていたこともある。 彼女が初めて三成と交流したのはクリノカラカミ騒動の時だったか。尤も、その姿を見るだけなら第三次開拓の時に機会があったかもしれない。 その頃から、ケロリーナは三成をよく慕っていた。出会い頭から「おねえさま〜」と無邪気に抱きついて、三成をよく困惑させていたものだ。 ――とっても綺麗な人ですの〜! それがケロリーナが三成に抱いた第一印象。彼女が三成を慕っていたのは、その印象からくる憧れが強かったのかもしれない。 だから、仲良くなりたいと……彼女はよく三成に会いにいった。 「三成おねえさま〜♪」 交流をしていくうちに三成の内面も分かっていった。例えば、ちょっと屈折した感情や苦労人な気性。三成の兄である正澄と知り合ったのもこの時だ。 綺麗なだけではない人物像がわかっても、ケロリーナは変わらず三成を慕い、よく抱きついていた。 「けろりーながいっぱいいっぱいおせわしますの〜」 だが。 三成の身に起きた不幸。襲い掛かる絶望。 それによって一時は挫けながらも、再び立ち上がった三成の姿を見て、ケロリーナの……少女の憧れはいつしか変わっていった。 ――いっしょにいたい、守ってあげたい、と。 その感情は、三成が実は女性ではなく男性だと判明してからも弱まることはなく、むしろ強まっていった。 感情のままに、三成の家に通ってお茶をしたり食事を作ったり正澄の墓参りに一緒に行ったり……。 毎日そう過ごしていくうちに、想いはいつしか胸の中でいっぱいになり、少女はこの感情が何かを知る。 ……あぁ、これが。 「三成おにぃさま……大好きです」 愛なんだ、と。 「……ふふっ」 「……? どうしたの、エカテリーナさん。今、何か面白いことでもあった?」 「ふと、あなたに告白した時のこと思い出しましたの。あなたってば、倒れるんじゃないかってぐらいに顔を真っ赤にしてて……」 「えぇぇぇ!? な、なんで急にそんなこと思い出したの!?」 「あなたは昔から押しが弱くて……まさかプロポーズまで私からすることになるとは思いませんでしたの」 頬に手をあてて懐かしむように当時を思い出すエカテリーナ。確か、彼女から抱きしめた上で結婚してと申し込んだ筈だ。 あの時の三成はエカテリーナの腕の中で、やっぱり顔を真っ赤にした上で受け入れていた。男らしくないといえばらしくないが、それが三成らしさというか。そんな三成をエカテリーナを好きになったのだ。 ……はい、なんだかんだであの時の三成さんは実に良かったですの。 頬が緩むエカテリーナ。色々な場面で押しが足りない三成だが、それならそれで主導権を握ってやればいい。色々な場面で。押し倒したりとか。 「も、もう!! いいから行くよ!!」 顔を真っ赤にしてその場から逃げるように、玄関に向かう三成。そのまま扉を開けて外へ出ようとする、が。 「うん?」 ぽふ、と自分の下半身辺りに何かが抱きついてくる感触がして、思わず足を止めて目をそちらに向ける。 三成の足に抱きついているのは、愛嬌たっぷりの元気そうな少女。歳の頃は大体6歳ぐらいだろうか? 実に可愛らしいが、しかし少なくとも自分の見知った子ではない。 だが、 「パパー!」 少女は、笑顔で、とんでもない爆弾を、三成に投げつけた。 「へぁぁぁぁっ!!?」 全く知らない子からの突然の父親宣言をされて、素っ頓狂な声を上げる三成。少女の方は三成の動揺も関係ないとばかりに無邪気に抱きついている。 そこに、笑いを噛み殺しながら一人の青年が声をかける。 「やぁ、みっちゃん久しぶり。へぇ、子供がいるんだ?」 「いやいますけどもこの子は違うっていうか……!? って久しぶりってぇ……!」 「よっす」 気さくに片手を挙げて挨拶をする青年が誰かを、三成は知っている。彼もまた、10年以上前からの開拓者の友人――緋那岐(ib5664)だ。 10年前と大きく異なるのは、その見た目だろうか。三成よりも低かった背は随分と伸び、男らしい姿となっている。それでも見た目は実年齢より若々しく、大体20代前半ぐらいに見える。 だが、その印象は10年前より大きく変わらない。自由きままに奔放に遊ぶ、少年の心を忘れない男性。その印象が正しいものだと裏付けるのが、三成の足に抱きついている子供を楽しそうに見守っている姿だ。 「緋那岐さん……この子、あなたの仕込みですよね?」 「くっくっく、バレちゃあしょうがねぇな。ほら、おいで惺梛ー」 三成から離れ今度は緋那岐のもとへ駆け寄ってきた少女を、緋那岐は抱っこする。そう、惺梛と呼ばれた少女の父親は緋那岐だ。 緋那岐は娘を抱きかかえたまま三成を親指で指すと、父親らしくどう呼べばいいか指南する。 「おねにぃさん、で呼ぶんだぞ?」 「はーい!」 「娘の教育それでいいんですか!?」 やれやれとため息を吐く三成。10年前と何も変わっていない。 「いい歳して……変わりませんね、全く」 「はっは、正澄さんもこんなもんだっただろ?」 からからと笑う緋那岐。面白いことを優先する気性は正にそのままで、出世を望まず封陣院研究員補留まりなのは実に彼らしいといえた。 「で、これから墓参りだろ?」 「え、まぁ、そうですが……」 三成の動向は調査済みだという緋那岐の言葉に、三成は最早つっこむことを諦めて肯定する。 「折角だし俺たちも同行させてもらおうかなって」 「……ふふ、兄さんも喜ぶと思いますよ」 そうこうしているうちに、いつの間にか玄関までやってきていたエカテリーナと瑠璃が、出入り口で立ち止まっている三成の肩を軽く叩く。 「あなた、ほらほら」 「あぁ、ごめんね」 「おっ、ケロ……じゃなかった、エカテリーナも随分大人びたなぁ。瑠璃は全然変わってないけど」 「緋那岐様もお変わりないようで何よりです」 「……ん、んん? 今のは普通に挨拶として受け取っていいのか?」 何はともあれ、彼らは墓参りへと歩を進める。 「そういやさっきのどっきり聞いてたみたいだけど、エカテリーナは驚いたりしなかったのか?」 変わらぬ関係。 「信じてますから。……何より余所に子を作る甲斐性があるとは思いませんの」 「あ、あれー!?」 変わった関係。 これまでの絆と想い。それらを抱えて、彼らは歩き出す。 未来へ。 これから、君と――。 |