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■オープニング本文 ● 某日、とある商隊の飛空船が泰国南方にて難破し、偶然に小さな無人島に漂着する。海岸で修復を行った数日の間に訪れる者もなく、おそらく完全に無人の島なのだろう。温暖な気候は野外での寝起きも苦にならぬ程。 帰国後、商隊は無人島の発見を届け出る。 「……風光明媚なだけかな、と思い、からくり主体の調査団を送ったところ、これが意外と面白い所のようなのです。できれば早めに再調査したいのですが……」 泰国は動乱の終結直後で、すぐに全面的な調査を行う余裕はない、と春華王は柔和な表情で言う。さっぱりした格好は御忍びゆえで、今は春華王と呼ぶべきではないのかもしれないが。 「なるほど、それで開拓者に調査をと? それはありがたく。皆も喜びましょうぞ」 大伴老は、察したように笑みを見せた。いかに貴重な宝珠を蔵しているとはいえ、無人島の調査など来年でも良いし、危険も少ないのだから依頼を出す必要性も少ないし、少人数で十分なはずだ。つまりこれは、依頼の形を借りて風光明媚な無人島でのんびりしていい、泰国からの開拓者への礼……というようなものだろう。 ● 生い茂る木々の隙間を抜けて、男はようやく目的の場所を発見した。 「おぉ、こいつは……!」 開けた空間に沸き立つは白い湯気。ぽこぽこと湧き出ている天然のお湯――温泉だ。 火山島だから温泉があってもおかしくはない。故に、調査隊の中には温泉を発見することを優先する者もいた。 この男もその1人だ。ある商会に属している彼にとって温泉発見で得られる利益は大きい。 男はすぐさま温泉に駆け寄って、湯に手をつける。 「温度は……ちょうどいいな。近くに川もあったから調節も簡単だろう」 彼は脳内でこの地の開発計画の図面を引き始める。新たに見つかった島の秘境温泉。客を引くには十分すぎる。 秘境らしさを活かしつつ、しかしある程度の利便性を確保して――そんなことを考えていた男だったが、その思考を中断させるものが現れた。 いや、それは最初から居たといった方が正しいのかもしれない。 「うぉっ」 湯気を突き破って白い何かが男の顔面目掛けて伸びてくる。 男は反射的に腕を盾にすると、結果として白い何かは男の腕に巻きついた。 ぬるぬるとした粘液を纏った軟体の腕……それをなんと呼ぶのか、男は知っている。 「触手かよ!?」 身の危険を察した男はすぐさま携えていた短刀をもう片方の手で引き抜き、触手に突き立てる。 するとあっさり触手は断たれ、男は解放された。 「ちっ、そう易々と温泉を確保させてくれねぇってわけか……」 男が温泉から距離を取って態勢を立て直したその瞬間、一際強い風が温泉の湯気を吹き飛ばした。 湯気で隠れていた温泉の真ん中に鎮座していたのは、男より一回りほど大きい真白の軟体生物。 見るからにぶよぶよとした肉の塊から、触手が何本も伸びている。生き物で例えるならクラゲやイソギンチャクが近いだろうか。 「触手アヤカシか……! 健全な温泉運営の為にはきっちり潰させてもらうぜ!」 男は短刀を鞘に納めると、背負っていたハンマーを構える。 濡れることも構わず、男は地を蹴って温泉に飛び込む。 膝より下が湯に使っているせいで動き辛い。が、大した問題でもない。 「っとぉ!」 アヤカシの伸びる触手を体を反らすことで避ける。幾多の戦いを潜り抜けた男にとって、この程度の相手は枷があっても十分戦える相手だ。 ……こいつは、雑魚だ! そう判断した男は躊躇無く足を前に進める。 だが、 「んぉ!?」 足を掴まれる感覚。濁り湯だったのが災いして、湯の中を進む触手に気づけなかったのだ。 触手が男の体を這いずり上る。精気を直接肌から吸うためか、服の中に潜り込んでいた。 「ん、ぬっ!?」 ぬめぬめした触手が全身を這いずりまわる感覚。しかも、触手は湯で温められているからか暖かく、不快感はそれ程ない。 ――いや、むしろ……気持ちいい!? これがアヤカシでなければ、温泉にじっくり浸かって触手に体を包まれるのもアリではないか。そう思えるぐらいの快感だ。 「ん……は、ぁ……気持ちい――って阿呆か俺は!!」 思わず賢者になりそうな意識を無理矢理現実に引き戻し、男は無理矢理歩を進める。 「うちは、そういうサービスをするつもりはねぇーんだよ!!」 そして、触手アヤカシの本体をハンマーで叩き潰す。 数度の打撃の後、男に纏わり付いていた触手も離れ、粉々になったアヤカシの破片は瘴気へと還っていった。 「はん、最期の相手がこんな毛玉親父で無念だろうが……恨むなよ」 男は改めて周囲を確認。アヤカシの姿が見えなくなったのを確認してから、温泉発見の報を届けに帰還するのであった。 こうして、男が属していた商会の手によって、温泉は人が入れるよう手が加えられた。 ……だがしかし。 瘴気に還らなかったアヤカシの破片があり、それらが分裂して小さめの触手アヤカシとして増殖していることに気づく者は誰もいなかった。 ● とある青年の家。 「Hey! 帝人君! ちょっとコレを見てほしいネー!」 「あぁ、なんだダイヤ? ……温泉のチラシ?」 「イエス。最近見つかったあの無人島で温泉が見つかったらしいデス! これは是非とも行くべきデショー?」 「えぇー……。でもどうせ高いんだろ?」 「ノンノン。今は新規開拓サービスとかで、格安だそうデス! 陽菜も行きますよネ?」 「はい! 陽菜は大丈夫です!」 「あー……。まぁ、温泉入って、ついでに旨いもん食って宴会……みたいなのもありかなぁ」 そんなこんなで。被害者は着々と集まっているようだった。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
クローディア・ライト(ia7683)
22歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
八甲田・獅緒(ib9764)
10歳・女・武
黒葉(ic0141)
18歳・女・ジ
御堂・雅紀(ic0149)
22歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●楽園 ある商会が観光用に整備した秘境温泉に訪れたる開拓者。 誰も彼も温泉で疲れを癒したり、リゾート気分を堪能しようという者達ばかりだ。 「景色のいいリゾート地に温泉までついてくるなんて素敵ですわねぇ。日頃の疲れをしっかり癒したいところですわ」 クローディア・ライト(ia7683)もその1人だ。彼女は脱衣所で脱いだ服を籠に入れながら、壁に貼られた注意書きに目を通す。 「……タオルも水着も駄目だなんて、本格的ですわね」 そこに書かれていたのは水着着用禁止などの温泉マナーだ。 とはいってもクローディアにとっては気にすることではない。隠す程恥ずかしい体をしていないと自負しているからだ。 隠すことなく堂々と脱衣所を出るクローディアを、しかし八甲田・獅緒(ib9764)はどこか沈んだ様子で見送っていた。 「うぅ……う……」 自分の体の一部分をぺたぺたと触る。具体的にどこかは述べない。だが、ぺたぺただ。つるぺただ。 クローディアの恥ずかしくないボディと比べると妙に悲しくなってしまう。 「い、いえいえ、まだまだこれからですよぉ! きっとそのうち負けないくらいになります、多分!」 自分を励ます獅緒。年齢を考えればおかしくないし、今後の成長にも十分期待できる。 ――でも、でもぉ。もうちょっとだけ膨らんでてもいいんじゃないでしょうかぁ……! とりあえず今は気にしても仕方がない……そう考えを切り替えて温泉に乗り込む彼女の視界に入ったものは。 「美容の為にも、この季節の温泉は格別だもの。ますます綺麗になって、王子様だってめろめろなんだからっ!」 美肌効果を取り込もうとお湯の中で肌をマッサージするルンルン・パムポップン(ib0234)。豊満であった。 「粘性のある濁り湯だと別の用途で使いたい気もするけど……。ま、今回は単純に休養目的だしね〜〜」 白い湯を確かめるように掌で遊ぶ葛切 カズラ(ia0725)。豊満であった。 結局。 「……うう、わ、私だってそのうち負けない位にはぁ……」 敗北感から逃れるように湯に浸かって身を隠す獅緒なのであった。 ●主従 さて、混浴の入り口でいちゃついてるカップル――否、主従が1組。 「主様、主様……アレ入りましょうにゃ!」 「アレ……? って、混浴じゃねぇか」 主の腕を掴んで混浴の立て札を指差すは従者の黒葉(ic0141)。主に押し付けている胸は豊満であった。 立て札を確認し、動揺から一歩後ずさるは主の御堂・雅紀(ic0149)。その理性は男の子であった。 「いや、確かに温泉に行きたいとは聞いたが……!」 「では行きましょうにゃ!」 否定の声が上がらなかったのを了解と取ったのか。黒葉は1人先に混浴風呂に乗り込む。 服もさっさと脱いで――いざ! 「――にゃ?」 脱衣所にいるのは自分1人だけ。主の姿はどこにも見えず。 「そんにゃ……」 主に逃げられたことを悟った黒葉はしょんぼりと1人寂しく混浴風呂に浸かるのであった。 「……危ないところだった」 なんとか理性を総動員させて男湯に逃げ込んだ雅紀。 主従であって恋人関係ではないこともあって、誘惑に負けてはいけないと自制しているのだ。 尤も、肝心の黒葉は「……狼でも、良いんですけどにゃー」などと中々の爆弾発言を柵を越えた向こう側で呟いているのだが。 ともあれ、ようやく落ち着くことができると湯に浸かる雅紀。 あまりの気持ちよさに鼻歌でも歌いたくなる。そう思った瞬間だ。 「ちょ、何にゃ……!? ――ふにゃぁぁっ!?」 「な、なんだ!?」 突如、混浴の方から聞き慣れた従者の叫び声が響き渡る。 何が起きたかは分からないが、今の悲鳴から察するにただ事ではない筈だ。 雅紀は腰にタオルを巻くと、すぐさま混浴の方へと乗り込むのであった。 ●触手発生 問題の混浴風呂。此処に入っているのは黒葉1人だけの筈だ。 だが、 「ちょ、何にゃ……!? ――ふにゃぁぁっ!?」 尻尾に何かが巻きつく感覚。尻尾の根本を握られると脱力してしまう黒葉にはまずい事態だ。 ふにゃあと可愛らしい声を上げながら倒れそうになる。溺れてしまいそうな状況だが、そうはならなかった。 湯面を突き破るように伸びてきた白い触手が彼女の体を拘束するように支えたからだ。 「しょ、触手にゃ……!?」 この事態になって、黒葉は自分の尻尾に巻きついたものの正体を知る。だが、相変わらず尻尾を強く握られているため抵抗はできない。 「み、みみはだめにゃぁ……!」 獣人特有の猫耳へと触手が伸びる。 くちゅ、ねちょ、ちぇるぁ――。 湿り気を持った触手が黒葉の耳の中へ入って描き回す。奥に入り込むことはないが、彼女自身を弄る音は何よりもダイレクトに響き―― 「あ、にゃあ……?」 自分の体に巻きついている触手が強く感じられる。自分の全てが触手に包まれているような錯覚――。 そんな彼女を現実に引き戻したのは主の声であった。 「おい、黒葉! 大丈夫か!?」 悲鳴を聞きつけてやってきた雅紀だ。 彼の姿を認めると、自分ではどうしようもない黒葉は救いを彼に求める。 「ぁ、主様……これ、と……ってにゃ……っ……!」 「う――」 助けなきゃいけない場面だというのは雅紀も分かっている。 だが、肌を赤らめた黒葉の裸はとても扇情的で――。 「えぇい、ままよ……!」 意を決して黒葉の腕を掴んで支え、触手をその手で引きちぎっていく。 触手の力は弱く、素手でも簡単に剥がすことができた。むしろ己の煩悩との戦いといっていい。 「――って……な、何してるにゃっ……!?」 「ち、違っ、わざとじゃない! 胸柔らかいなぁとか思ってない……!」 「自爆してるにゃー!?」 男の子は大変なんだなぁ。 ●ポロリだらけ 混浴風呂に触手が発生するならば、勿論女湯にも触手が発生するのが道理であった。 「参考までにお聞きしたいのですがぁ……やっぱりその体型は日々の努力の賜物ですかぁ……?」 「いつも気をつけてますので、そう言えますね。……とはいっても、太らない体質だというのもありますが」 至って健全な裸の付き合いをしている獅緒とクローディア。 そんなまったりとした空気をぶち壊す異変に真っ先に気づいたのは、ルンルンであった。 「あれ? 今何かがお尻を触った様な気がするのです??」 辺りをきょろきょろと見回してみるが、自分の近くには誰もいない。 気のせいだったのだろうか。そう首を傾げた直後、獅緒が突然悲鳴を上げた。 「ふぇ……? 何かお湯の中にいますぅ? ひゃっ、変な所に何か……ふぇぇぇ!?」 獅緒の腕に絡みつくは白い触手。触手は彼女の体に辿り着かんとうねうねと蠕動を始める。 引き剥がそうとするが、慌てていたためか余計に絡まってしまう始末だ。 やはりこの温泉には何か――触手アヤカシがいた。気のせいではなかったとルンルンは立ち上がろうとする。 「大変、やっぱりこの温泉には何かが……急いでみんなを助けなくちゃ……あれ?」 が。 彼女の足にもいつの間にか触手が絡み付いており、太ももと太ももの間を擦るようにぬめぬめと蠢いていた。 と、触手に翻弄される純真な少女達。 だが2人とは全く違う反応を見せる者もいた。カズラがそうだ。 「まさかこんなホストを湯船に忍ばせているなんてね〜〜。いいサービスだし存分に堪能させてもらいましょうか」 彼女の体にも既に触手が絡み付いている。だが彼女は嫌がるどころか楽しんでいた。 ぬるりと全身を這う感覚。人間相手では得られない快楽がそこにあった。 「んっ、そこそこ……はぁ〜いいねぇ〜……」 それほどの危険性が無いことは絡まれた時点で把握している。ならいっそのこと楽しむのが彼女のスタンスだ。 「そこはもうちょっと……こう、かな?」 それどころか呪縛符で作り出した式を自分に絡めることで、どう絡んでほしいか触手に指南しているぐらいだ。 アヤカシがそれを理解できるかどうかは不明だが、触手の絡み方により気合が入った……ような気がする。 「ん、いい子ね〜。ご褒美」 自分の顔の前まで持ち上がった触手の先端にご褒美のキスをするカズラ。 「って、アヤカシに! レッスンをしないでくださいよぉ〜!?」 獅緒の胸を縦横無尽に這いずり回る触手。他の女性に絡みついた触手は挟まれているのに。何にとは言わないが。 ――な、なんでこんなとこでも悲しみを背負わなくてはいけないんですかぁ!? ともあれ、アヤカシという言葉を聞いて意外といった風に首を傾げるはクローディア。 「え……触手アヤカシ? あら……これって温泉のサービスではありませんの?」 「ど、どんな淫らな温泉ですかぁ!? はぅ……!?」 「気持ち良かったですし、天儀ではそういうのもあるのかと……」 勿論そんなものはない。 言いつつ、クローディアは白い湯の中に手を突っ込んで暫くもぞもぞと弄ったかと思うと自分の体に纏わり付いた触手を引っ張り上げる。 触手の先端が妙にてかってるというか、ぬめっているというか、ぬらぬらしているが、これは触手の粘液です。もしくはぬめりのある温泉のせいです。 「はふ……アヤカシだなんて、残念です」 妙に艶気のある赤ら顔のクローディアだが、きっとこれは温泉でのぼせたのだろう。気持ち良いというのも温泉のことだろう、多分。 同じく触手に絡まれて顔を赤くしているルンルン――とはいえ、こちらは羞恥の方が強いかもしれない。 一瞬顔が緩みそうな彼女だったが、しかしすぐに首を振って邪気を振り払う。 「私に絡みついたのが運の尽きです、ニンジャは脱いでも強いんだからっ」 触手の与えてくる快楽なんかには絶対負けない。花も恥らう乙女は悪の触手に果敢に立ち向かう。 「ジュゲームジュゲームパムポップン……ルンルン忍法ニンジャレップウレツ!」 まずは風神で自分に絡みついた触手を全て吹き飛ばす。 「よし、次は――ひゃうん!?」 全ての触手を倒さんと感覚を研ぎ澄ませたルンルンの、しかし彼女の全く予想していなかった方向から伸びてきた触手。 しかもそれは、 「カ、カズラさん!?」 「もうちょっと楽しみましょ?」 その触手はアヤカシではなくカズラの触手式だ。それに追随するようにアヤカシ触手も再びルンルンに絡みつく。 「ひゃうっ、なんでこんなこと……!? おヘソ、んっ、だめ、です……!」 それはカズラが触手アヤカシに襲われたり触手式に助けられたりして触手道に目覚めた、拘りと美学を持つ程の触手好きだからだろう。なんだこれ。 「あっちもまだ楽しんでるみたいだしね」 カズラがくいと触手で指すは獅緒だ。彼女は相変わらず触手に絡まれもがいていた。 「た、楽しんでなんかいませんよぉ……! んあっ、せ、めて武器だけで、も……んぅ!」 脱衣所に逃げ込もうとする獅緒だが、どこも隠そうとしていないのであられもない姿を披露する羽目になっている。 幸いここには女性しかいないので気にしすぎてもしょうがないという点はあるが。 「……眼福、だぁね〜」 「な、なんか身の危険を感じますよぉ!?」 前言撤回。 ともあれ。 「ったぁ! です!」 再び風神で触手を吹き飛ばすルンルン。体についた粘液は吹き飛ばないので、妙に艶やかな姿になっている。 「今度やったら怒りますよ!! いえ、既に怒ってますけど!!」 ルンルンはカズラを警戒しつつ獅緒に絡みついた触手を吹き飛ばす。ようやく助けられた獅緒は慣れない刺激のせいかぐったりしていた。 「はは、そうね〜。それじゃあ私も十分堪能したことだし、そろそろ片付けようか」 カズラもそろそろ引き際と判断したのか、斬撃符で触手を次々と吹き飛ばしていく。 慌てるように温泉から逃げようとする触手だが、そのうち1本をクローディアが踏みつけた。 「名残惜しくはありますが、アヤカシだと知ってしまっては対処するしかありませんわね」 弓を持っていない以上、この体で処理するしかない。故に足。 ぐにぐにと踏みつけた感触は中々に捨て難いものがある。触手も何故か踏まれて喜んでいるように見える。 ――が。 「だ・め・で・す」 ぐしゃり。 彼女が力を入れてしまえば触手はあっさりと破裂してしまった。この場に男性がいなくてよかっただろう、きっと。 クローディアは更に次々と触手を蹴り飛ばしていく。男性がいれば大喜びの図だろう、きっと。 「わ、私だって戦えますよぉ!」 脱衣所に武器を取りにいっていた獅緒が戻ってきた頃には、すっかり触手は殲滅されていたのであった。 「え、えー……私そんなのばっかりですかぁ……!?」 頑張れ。色々な意味で未来はあるさ。 ●いい仕事だった 触手殲滅が終わり、最後の生き残りだと思われる触手を指で弄ぶはクローディア。 「ところで、この触手少し持ち帰ったりとかは駄目かしら? 気持ちよかったですし、知人に試してみたかったりも……」 そこまで言ったところでルンルンと獅緒がきっと睨みつけてくる。 「あら……そう……まあ、当然駄目ですわよね。残念ですわ」 クローディアは自分を楽しませてくれた触手を両手で撫でるように包み込むと――握りつぶして瘴気へと還した。 その様子を見て、カズラもやや残念そうに笑う。 「サンプルとして欲しかったけど……成長されると厄介かもしれないしね〜」 これで温泉の触手は全滅した。商会への文句は後でつけるとして。 「……あっちはどうなったかしら〜」 カズラは騒ぎが起きていたもうひとつの会場、混浴の方に視線を送りつつ、酒の杯を傾けるのであった。 その混浴に発生した触手も全て倒され、今いるのは主従コンビだけだ。 「――……ぅー……」 粘液やらでぬめねちょになった黒葉は不快感を露にする。 雅紀もさすがに不憫に思ったのか。 「……なんかすげぇことになってんな。……仕方ねぇ、そこ座れ。尻尾と背中流してやるから」 「――じゃぁ、御願いしますにゃ……」 黒葉はタオルで前を隠して、背中を流してもらうのであった。 それから2人が落ち着いたのは改めて湯船に浸かってから。 とはいえ、並ぶでもなく向かい合うでもなく背中合わせという状況だ。 ……う、ん。 雅紀の脳内には先ほどの光景やら感触がこびりついてしまっているので、まともに黒葉を見れない。 そんな彼の気持ちを知ってか知らずか。黒葉はあることに気づく。 あれ程混浴を嫌がっていたのに。 それでも、主は自分を助けに来てくれた。 「――」 だから、気持ちを抑え切れなくて。 黒葉は振り向いて主の背に抱きついた。 尤も、そんなことを露と知らない雅紀は背中に当たる感触に、昂ぶる自分を抑え込むので精一杯だ。 「だからやめ……! 今本当に危ない、危ないから!」 慌てて何とか引き離して風呂を出る雅紀。前は絶対に見せない。 そんな彼の背に、黒葉は伝えたかった言葉を、そっと囁く。 「……有難う、にゃ」 「青春、ね〜」 |