ぬめぬめ触手とお嬢
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/03 11:22



■オープニング本文

 燦々と照りつける太陽の光を浴びて輝く海。
 ただいま天儀は夏真っ盛り。夏の一大レジャーといえばやはり海水浴……というわけで、天儀のとある海は海水浴客でごった返していた。
「……そういえば、去年もここに来たっけか」
「うんうん、懐かしいなぁ。あの時の水着の凛さんはまるで女神のようで……いや勿論今も美しいですよ?」
「き、君はよくそんな事を恥ずかしげもなく口にできるな!?」
 とイチャつくカップルがいるのも、またお約束といったところか。
「ねぇ、マーク君……。今日は、しないの……?」
「おや、もしかして期待してた?」
「ち、ちがっ、そうじゃなくて……! いきなりされても困るから、心の準備というか……!」
 とかなんとか言って人の気が無いとこへ歩いていくカップルは見なかったことにしよう。岩陰に隠れてすらいないのだが。
 ともあれ、海水浴客は海を満喫しているようであった。
 1年前はクラゲアヤカシが発生するといった問題も起きたが、今回はそういった事件も起きていない。
 ――そう、この時までは。

 少し沖に出たところを並んで泳ぐカップル。周囲に人の姿はなく、完全に2人の世界を形成していた。
 いつもは照れからか素直になることがあまりない彼女であったが、2人きりという状況もあって嬉しそうに彼氏にくっついていた……のだが。
「ひゃぅん!?」
「……? どうしたんですか、凛さん。」
「ど、どうしたもこうしたも……触っただろ?」
「へ?」
 彼女は顔を真っ赤にしながら彼氏と少し距離を取る。その上、自分の体を守るように抱いていた。
「え、触ったって何を……?」
「……お尻」
「な、何ィー!? お、俺が俺の知らないうちに凛さんのお尻をー!? くそっ、なんて羨ましいんだ俺!?」
「錯乱してないか!?」
 彼女が先程感じたのは誰かが自分のお尻を触った感触だ。
 魚や漂流物が触れただけといったものとは違い、しっかり撫でるような触れ方だった為目の前の彼氏を疑ったわけではあるのだが……。
「む、むむ、反応から察するに……君じゃ、ないのか?」
「俺の自意識を信じるなら違います。欲望に唆された無意識が勝手に動いた可能性は否定できませんが」
「……途端に信じがたくなってきたな」
 とは言ったものの、恋人のことはなんだかんだで信用できる。そういうカップルだ。
 何かの勘違いだったのだろうとため息をついて、彼氏のもとへと寄り添う為に水を蹴ろうとしたその瞬間、彼氏が妙な反応を示した。
「はぅん!?」
「なんだ!?」
「ひゃ、ちょっと、凛さん――おぉん!? ど、どこを触って――らめぇ!」
「ななななな!? 君は何を悶えてるんだ!? というか――触れるわけがないだろう!」
 それもその筈だ。彼女はまだ彼氏と距離を取っている。その位置から彼氏の体へ触れようとするならば腕を異常なまでに伸ばさなくてはいけない。
 勿論彼女は痛みを和らげる呼吸で関節を外すこともできないし、神秘の修行法で手足が伸びたりすることもない。
「え、じゃあこれ誰が触って……んんんっ!?」
 誰が、というより何が。
 ただごとではないと判断した彼女は顔を潜らせて、彼氏の体に何が起きているのか改めてその目で確かめる。
 彼女が見た光景とは――
「――触手!?」
 半透明のうねうねとした触手が彼氏の体に絡み付いていたのだ。
 その触手を辿っていけば、その先にあったのはやはり半透明のふよふよとした人間大の物体。
「これは……クラゲか!?」
 クラゲといっても人間を触手で絡め取るようなものがただのクラゲなわけがない。瘴気を纏っていることから分かる通り、アヤカシだ。
「そ、そんなぁ!? どうせ触手で襲うなら俺じゃなくて女性の方が……はぁぅん!?」
「言ってる場合か!」
 触手のお約束というわけか、ぬめりを持った粘液が触手から垂れ流されており、それが体に纏わり這いずる度に得も言われぬ感覚が彼氏を襲う。
 これといった痛みは今の所無い。だが、気持ちが悪いというか気持ちがいいというか、ともかくアヤカシが襲われてる現状を放置するわけにはいかない。
「早く抜け出せ!」
「って言われても、はぅん!? 力がはいらにゃいんですよぉ〜!?」
「えぇい!」
 慌てて志体持ちの彼女が渾身の力を込めて手刀を振るう。と、触手自体はあっさりと切断される。
 縛めが解ける。だが、危機が去ったわけではない。
「触手が再生してる……!? 君、動けるか!?」
「ら、らめれす……。かららから力がぬけて……」
「く、仕方ない!」
 力が入らないという彼氏の腕を掴んで海岸へと力強く泳ぎだす彼女。
 再生が終わり再び伸びる触手であったが、さすがに再生に時間を取りすぎたのか2人へと届くことはなかった。
 ……こうして、パワーアップしたクラゲアヤカシが再びこの海に現れたのであった。


 ある日の開拓者ギルド。
 少女騎士、ローズ・ロードロールは灼熱の陽光から逃げるようにギルドへと飛び込む。
「ふ、ふふふ……。またこの季節がやってきてしまったようですわね……」
 寒冷気候の儀であるジルベリア出身の彼女にとって、天儀の夏は非常に辛いものである。
 去年も地獄のような暑さだったが、だからといって今年は耐えられるというわけではない。暑いものは暑い。
「去年は海に行く依頼があって助かりましたけど……今年はどうですの……?」
 ふらふらになりながらギルドに貼り出された依頼を確認しにいくローズ。
 そんな彼女の目がある依頼の前ではたと止まる。
「あら、これは……?」
 内容はとある海に現れたクラゲアヤカシを退治してほしいというもの。
 場所も、クラゲアヤカシという敵も、状況も、彼女にとっては覚えがあるものであった。
「これは……ちょうどいいですわね! えぇ、今年も海で天儀の夏を乗り越えましょう!」
 こうして、ローズはクラゲ退治の依頼を受けることを決める。
 だが、暑さのせいで頭が茹だっていたのか……彼女はあることを見逃していた。
 以前と違い、触手で襲ってくるということを――。


■参加者一覧
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
以心 伝助(ia9077
22歳・男・シ
アリシア・ヴェーラー(ib0809
26歳・女・騎
雪刃(ib5814
20歳・女・サ
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
アルゴラブ(ib8279
32歳・男・魔
月島 祐希(ib9270
16歳・男・魔


■リプレイ本文

●VSクラゲ
「クラゲ、か。実際に生きたものを見たことが無いから、どんなもんだか見てみるのが楽しみだ。……まあ、本物じゃなくてアヤカシだけど」
 青い海を前にして、水着姿の月島 祐希(ib9270)の尻尾が期待で揺れる。
 彼と同様に他の開拓者も水着姿だ。例えば熾弦(ib7860)なら素肌にぴっちり張り付くハイネック型のワンピース。しかし背中側はぱっくりと開いており、決して露出度は低くない。
「水着、だったっけ? こんなの初めて着るわね……」
 彼女曰く、よく分からないまま店で勧められるに買ったのだという。普通の海岸であれば男性客の視線が釘付けになることを考えれば、店員のセンスは確かと言える。
「さて、手早くクラゲを排除して海を楽しみましょう――いえ、クラゲ退治が本題とは分かっていますわよ?」
 と、どこか浮かれた様子のローズ・ロードロール。この日の為に新調したのだろう白のビキニタイプの水着を身に纏っている。
「せっかくの海がこんなアヤカシで楽しめなくなるのはもったいないね。さっさと倒しちゃって楽しもう」
 雪刃(ib5814)も同様にクラゲ自体は海で遊ぶ前の簡単な障害程度にしか考えていない。……が、少なくとも彼女は今回のクラゲがどういう存在か分かっていながら発言している筈、だ。
 このままではローズが悲惨な目に遭うと判断した羅轟(ia1687)は彼女の目の前に立ち、水筒を開ける。
「……ローズ殿……目を閉じて」
「? ――わぷっ、何するんですの!? いきなり水をかけるだなんて!」
「で……ここを……読んで」
 ローズの抗議を無視し、羅轟は依頼書のクラゲアヤカシの説明部分を指す。
「まったく、今更言われなくてもちゃんと出発前に目を通しておりますわ……」
 尤も、その時は水で頭を冷やされた今と違って、暑さのせいでちゃんと判断できていたのか怪しいところなのだが。
「しかし、暑さといえばその面暑くありやせんか?」
 と、羅轟の格好を指摘するのは以心 伝助(ia9077)だ。
 指摘された羅轟は兜と面を装着しているせいで非常に暑そうに見える。まず間違いなく蒸れる。
「いつもに……比べたら……マシ」
「筋金入りっすねぇ……」
 しかしその羞恥心は今回の依頼において大事なのかもしれない、と伝助はアリシア・ヴェーラー(ib0809)に視線を移してから考える。
 アリシアの水着は紐で結ぶ黒のビキニなんて実に脱げやすいもの。もしかしたらローズと同じくクラゲの危険度を把握していなかったのかもしれない。
「さて今回はクラゲですか、何が相手でもやることは変わりませんが――」
「……触手?」
「――え? 触手って、えっ」
 ローズの呟きを受けて、一瞬の硬直の後、即座に振り返って依頼書を一緒に覗き込む。
「ちょ、ちょー!? 触手!?」
 貞操の危機を察知したのか、ローズは自分の体を抱いてずささーっと一足跳びで海から離れるように後退。
 そんな彼女にアルゴラブ(ib8279)が飲み物片手に紳士然として話しかける。
「初めましてお嬢さん。一息入れるためにも冷たい飲み物は如何かね?」
「え、あ、頂きますわ……」
 飲んでる間に一息ついたのか、ローズはやや落ち着いた様子でアルゴラブを見る。
「水着じゃ、無いですわね」
「海に入るつもりは無いからね」
 クラゲアヤカシの被害に遭いたくなければ海に入らないのが一番だ。尤も、彼の引き上げという役割も必要な立場ではある。
 だが、やはり一番重要な役割はクラゲを誘き寄せる囮――。
「どうしてこうなった……?」
 水着、ではなく白褌一丁で天を仰ぐ相川・勝一(ia0675)。
 何故自分はここにいるのか、何故囮なんて役目を果たすことになっているのか。天に問うても答は帰ってこない。これが天の意思だというのか。
「……と、ともかく、早めに助け上げてくださいね!?」
 ――助けようとしても、きっと上手くいかないんだろうなぁ。

●ザ・触手
 そんなこんなで、海中に漂うクラゲアヤカシの排除が始まった。
「あ、相川・勝一いきまーす! ……行きたくないですけど!」
 槍を片手に海へと入る勝一の腰には荒縄が結ばれており、その反対側は陸にいる雪刃まで伸びている。
 他の海に入る者も同様だ。
「かかったらきちんと引き上げるから、気をつけていってらっしゃい」

 警戒しつつも海を泳ぐ熾弦。
「夏の海にクラゲとは、アヤカシも風情を解するというか……出てこないでくれるのが一番いいのだけれどね」
 その時だ。足に何か触れたような感触がある。
「来た……!?」
 すかさず水中に攻撃を叩き込もうとするが、さすがに分が悪い。あれよあれよというまにつま先に触れていた何かは足に絡みつきながら太ももまで上がっていく。
 クラゲアヤカシの触手である。左足を捕まえるように1本の触手が伸びる。
「そう簡単には――!」
 触手の先へと力の歪みを放つ、と触手の力が弱まる。
「この調子なら捕まらずに倒しきれるかも……ひゃっ」
 気を緩めたその隙をついて、新たな触手が彼女を襲う。
 ――後ろ、から!?
 視界に入らないよう遠回りしてきた触手が彼女の背中……水着のぱっくり開いた素肌部分を撫でるように這う。
「ちょ、空いてる背中から触手が中に……!」
 元から体に張り付く水着だけあって、中に侵入した触手がどこを這っているかは一目瞭然だ。脇腹、臍、そこから上がって胸の谷間を1本の触手がぬめぬめと進んでいく。
 ぬめりだけではない。精気を吸うという性質からか、熾弦は触れられているところから吸われているような感触を得ていた。
「気持ち悪いはず、なのにこの吸われる感じがなんという、か……んぅ、アヤカシの攻撃が気持ちいい、はずなんてっ。く、初めての感覚のせいか、上手く受け流せない……」
 胸の谷間を抜けた触手が肩を撫でる。ひゃん、という声が思わず上がるが止めることができない。
 今までの人生で味わったことのない感覚。――もしこれを快感と認めてしまえば、きっと、恐らく、一線を越えてしまう。
「ふぁ……こうなったらもう、釣り上げ役に任せるしかっ」
 反撃しようにも、力が入らない。触手が太ももを撫でるだけで、体の震えと艶声が止まらないのだから。
「ん……ぁ……。なん、でぇ……!」

「熾弦殿!?」
 仲間のただならぬ声を聞いて、そちらに視線を向ける羅轟だが、すぐに目を逸らしてしまう。
 赤く染まりどこか緩んだその表情は、見てはいけないものの気がして――しかし、それが大きな隙となった。
 羅轟の元へ別のクラゲの触手が伸びる――!
「ぬ!?」
 触手が彼の左手に絡みつく。それだけではなく、浮き輪代わりにしていた空気を入れていた皮袋が体から離れて流されようとしていた。
 ……衝撃で……紐のどこか……切れたか!?
 体の大部分を占める筋肉といい、兜といい、羅轟は浮き輪無しでは沈みかねない。仕方なく空いている右手を浮き輪へと伸ばす。
「しまっ――!?」
 両手が塞がってしまった。
 これを好機と見たのか、触手が次々と羅轟の体へと伸びる。
「ぐ、ぬぅ……! ど、どこを触って――!?」
 今まで誰にも触れられたことの無いを場所を触手が這う。精気吸収と共に与えられる感覚に、開いてはいけない門が開きそうになってしまう。
「馬鹿な……!? 待て、そこは違う……!」
 呑まれてはいけない。堕ちるぐらいならば、と羅轟は別の扉を開いてしまった。
(変態滅殺変態滅殺変態滅殺変態滅殺……!)
 何故か湧き上がる変態への殺意で心を満たし、余計な感情を遮断しようというのだ。
 ……だが、そういう生態であるクラゲアヤカシではなく、変態という存在に殺意を抱こうと思えば、この感覚をクラゲではなく変態から与えられたものに脳内で変換しなくてはならない。
 この狂気は……むしろ堕ちてはいけない場所へと堕ちているのかもしれない。

 そしてアリシア。彼女もまた……触手に襲われていた。
「あ、しまっ……!? って、きゃ……! な、ど、どこを触ってっ……!?」
 警戒はしていたのだろう。だが、背後から忍び寄る触手には気づかず、一瞬のうちに雁字搦めにされていた。
「やめ、そんな、とこ、ふぁぁぁぁ……」
 一体どこを触られたのだろうか。体がびくんびくんと震える。
 いけない。現時点でもまずい気がするのに、このままだと更に見せちゃいけない痴態を見せかねない、とアリシアは助けを得ようと周囲に視線を送る。
「あ、確か誰かが援護してくださると、か……!?」
 視線の先に居たのはアルゴラブ。彼も助けを求めてることが分かったのだろう。杖を構え魔法を発動する。
「触手を切り裂いてあげよう。ウィンドカッター!」
 彼の放った風の刃は触手を切り裂き――
「って、水着まで切り裂いてどうするんですかー!? いや、ちょ、きゃああぁぁっぁ!?」
 はらり、と黒い布が風に乗ってどこへ飛んでいった。
 慌てて一瞬自由になった手を使って体を隠す……が、心配無用! 新たに絡みついた触手がアリシアの代わりに隠してくれるからだ!
「待って、何も解決してないっていうか、んんっ 悪化してないですかこれー!? ひゃぅん……!」
 そうかもしれない。

「捕まらなければどうということはないです! って、斬っても斬ってもキリがないです!?」
 さて、勝一も槍を振り回して触手を捌いていたが、慣れない水中戦。ついに彼も触手の魔の手に捕まってしまう。
「あ、しま……ちょ、どこに入り込んでるんですか!? だ、誰でもいいので助けて……ひゃ、そこダメですよ!?」
 たちまち顔を真っ赤にして悶える勝一。一体どこに入り込んでいるというのか。白褌一丁で入り込むといったら一箇所しか無いような気がするがどうか。
 誰でもいいから助けて、という言葉を聞いて再びアルゴラブは杖を構える。
「今度こそちゃんと助かるように……ウィンドカッター!」
「ま、魔法……って、何かこっちにも当たって……なー!? 見ないでください!?」
 なんということでしょう。風の刃はまた白き布を連れ去っていったではありませんか。
 あったんだ。ポロリは本当にあったんだ――! だが男だ。
「仮面さえあれば……こんなクラゲなんかに……!」
 普段から仮面をつけて戦闘をしている勝一は仮面をつけないと力が出ないのだ。
「こんな奴らに……くやしい……! でも……アル=カマル!」
 ビクッビクッ。
「む、これは……」
 さすがにまずいと思ったのか、アルゴラブが別の魔法で救援に入る。
 そう、蔦を伸ばす魔法――アイヴィーバインドで。
「ちょ、これ触手が増えただけじゃ――!?」
 そんな気がするが、きっと気のせいである。
 何にせよ、その魔法により勝一は助けられ砂浜へと転がっていた。そこにアルゴラブが声をかける。
「ふむ、危ないところだったね。大事はないかね?」
「え、えぇー……」
 あなたがそれを言うのかと突っ込む気力も果てたのか、勝一はがくりと項垂れるのであった。

「くっ……!?」
 伝助の腕に触手が絡みつく。だが抵抗できるならする――と短刀を振るう前に、触手が別の斬撃で断たれた。
「大丈夫か?」
 触手を斬ったのは、近くを泳いでいた祐希だ。
「祐希さん……ありがとうございやす」
「お……溺れられたら、迷惑だからな」
 礼を言われてそっぽを向く祐希。だが伝助は彼のツンデレにも慣れているので、照れているだけだというのが分かる。
 触手退治依頼とは思えない爽やかな空気――しかし、それをぶち壊すのはやはり触手!
 2人の体に新たな触手が伸びる! しかも、2人をくっつけるような形でだ。
「しまった――!?」
 密着する肌と肌。その間を這うぬめぬめとした触手。相手の体温がどんどん上がっているのが分かる。
「う、く……! すいやせん、あっしの不注意で……!」
「お前のせいじゃ……離せっこのっ……ベタベタ触んな、気持ち悪ぃ! あ、いや、お前に言ったんじゃなくて、んんっ!」
「わ、分かってやすから!」
「ひゃっ!? し、しっぽは、やめ……ふぁっ……!」
 気持ち悪い筈なのに、祐希の体を這う触手から与えられる感覚は……快感。尻尾、脇腹といった弱点だけでなく、伝助の息がかかる耳をこそばゆい。
 同じように伝助の体も気持ちいいような感覚に加えて、過去の悪夢がフラッシュバックし、精神が磨耗していく。
「あ、はっ……くっ……ぅあ……!」
 くちゅり、と触手が伝助のある部分を触れた時……彼はついに限界に達した。
 いや、ブチ切れたという意味で。
 彼らを掴んでいる触手のうち1本が鮮血をぶちまけながら破裂する。
「……一欠片も残さず、消滅させやす」
 裏術鉄血針による攻撃。彼は次々に術を繰り出してクラゲへと攻撃するのであった。

●陸ハプニング
 と、全力全壊でクラゲを攻撃している者もいることはいたが、大抵は雪刃やアルゴラブが引き上げてから陸で対処していた。
「まずは触手を断ち斬って……っと」
 雪刃は手馴れた様子で3体目のクラゲの触手を全て斬り落としてから本体に止めを刺す。
「よし、次は――」
 4体目のクラゲに取り掛かり、伸びる触手を避けようとするが砂に足を取られて失敗する。羽衣を着た彼女の体へと触手が伸びる。
「水着じゃないからそう簡単には……って」
 だが、そんな彼女の予想を超えて触手は侵入してくる。
「ほんとに器用に隙間からくるね……」
 例えば袖から腕に絡みついたり、裾から足へ、襟から胸元へ……。そこまで侵入してしまえば、奥深くまで入りこむのは簡単だ。
「流石にっ、絡みつかれたまま戦うのは、ぁっ……」
 吐息と共に太刀を取り落とす。足が震えて立つのも厳しいといった状況だ。
 クラゲの粘液か、雪刃の汗か、それとも海水か別の液体か……彼女の衣服はどんどん色を濃くしていく。
「あっ……そこ、駄目――」
「てぇぇぇい!?」
 すかさずローズが斧でカットし救出するのだった。

 陸でもハプニングは起きる。
 クラゲから解放されたアリシアはふらふらになりながらも立ち上がる。
「うあぁ……ひどい目に遭いました……さっさと着替えね、ば……?」
 ふにょん。
 誰かが胸を鷲掴みにした。
 視線を下げれば、転んだ体勢の伝助がいた。口をあんぐりと開けて硬直している。
 彼もまたアリシアと同じタイミングで引き上げられ、立ち上がる際にアリシアへと転んでしまい、その結果がこれだ。
「すいやせん、故意じゃないんす!」
 事故だろうと、この状況はやばい――伝助は即座に背を向けて逃げる、が。
 次の瞬間には伝助の頭はロックされていた。
「……うふ、うふふ、ふふふふふ……わすれろおぉぉぉー!」
「あがっがっががが!?」
 頭を握りつぶさんかという勢いのアイアンクロー。
 ……だが、大事なことを忘れていた。
「見てない見てない俺は何も見てないっ……!!」
 祐希が赤面し半泣きになりながら視線を逸らす。
 今のアリシアは非常にあれな格好なのだが……隠すことを忘れていたのだった。