天壌無窮の荒鷹陣
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/05 23:42



■オープニング本文

 荒鷹陣(アラブルタカノポーズ!)
 外見:大仰な動作と激しい渇と共に荒らぶる鷹のような構えを取る事で、相手を威嚇する技。‥‥が、威嚇したから別にどうという事もない。
 解説:効果時間中、対象の攻撃力を低下させる。


 とある街にある小さな道場。
 泰拳士が集い修行する場……ではあるが、通常の修練の場とはやや異なる点がある。
「荒鷹陣!」
「真ン! 荒鷹陣!!」
 老若男女。どのような人物だろうと関係なく、両手を天に掲げ、片足を持ち上げてもう片方の足で身体を支えるポーズ――荒鷹陣の練習をしていた。
 ――そう、ここは荒鷹陣の使い手達がより高みを目指し、そして荒鷹陣の素晴らしさを広める為の道場なのだ。
 道場主は30代後半ぐらいの男性……荒ぶる鷹王と呼ばれる荒鷹陣の達人である。
 真荒鷹陣という技を生み出した彼が――また、荒鷹陣の新たな境地に達した。

 ある日のことである。
 この日も鷹王はいつものように道場で荒鷹陣の修業をしていた。
 繰り返される同じ動き、同じ型。しかし、ただの1回も漫然とした動きは無い。
 究極の荒鷹陣を目指し、至高の荒鷹陣を超えようと、鷹王は常に全力で荒鷹陣をこなす。
「荒鷹陣は一期一会――! 同じ荒鷹陣は存在せず、成長しようと邁進するだけ荒鷹陣は新たな成長を遂げる……!」
 なんだかよくわからないが、つまりそういうことらしい。
 しかし、だからというべきか。彼が天啓というべき閃きを得たのはある意味必然なのかもしれない。
 荒ぶる鷹のポーズを完成させる鷹王。しかし、彼の動きはそこで止まらない。
「コォォォ――!」
 その体勢のまま、呼吸をすると同時に練気が全身を駆け巡る。
 経絡秘孔を巡る練気は強大なものになり、強大な練気が経絡秘孔を刺激することで力は更に強大になっていく。
 迸れば迸るほど強くなっていく練気はついには外から見てもはっきり分かるようになり、鷹王の体が黄金色に輝く――!!
「はぁぁぁ!! 天呼ッ! 鳳凰拳ンン!!」
 黄金の荒鷹が、炎を纏い飛翔す――!
 爆炎により熱せられた空気は、舞い上がった鷹王の動きで発生した風圧によって道場の壁へと叩きつけられる。
 めりめりと壁が軋む音。黄金の天呼鳳凰拳は風圧ですらとんでもない破壊力を生み出したのだ。
 鷹王が着地した直後、今まで黙って見ていた道場の師範代が止まらぬ拍手を送ることで感激を示す。
「素晴らしい……! さすが鷹王!」
「う、む。荒鷹陣をしながら特殊な呼吸法をすることで爆発的な力を得る。名付けて『荒鷹息(アラブルタカノブレス)』といったところか……」
「この新たな技を完成させて、世に広めれば――」
 師範代の提案は、しかし鷹王の言葉によって遮られる。
「駄目だ」
「何故です!?」
「先ほど技を放った私だからこそ、分かる。……この技は危険すぎるのだ」
 汗まみれの掌をじっと見てから、強く握り締める鷹王。
 いや汗をかいているのは掌だけではない。全身の至るところから噴出しているのが目に分かる。技を放つ前はそれほど流していなかったのに、だ。
「全身を駆け巡る気功。溢れる力の奔流。爆発的なまでの練気。――荒鷹息は一歩制御を誤れば、それだけで死を招きかねない」
 先ほどの鷹王は練気が暴走し自身の体へと返ってくる直前に天呼鳳凰拳として放つことでなんとか力の放出に成功した。
 だが未熟な者が荒鷹息をしてしまうと、恐らくその体に眠る全ての力が暴走し、外に向かうより先に使用者の体を破壊していただろう。
「故に、荒鷹息は禁術とする。――しかし」
「しかし?」
「高めた練気をどう放つか、それを型として定めれば運用できるかもしれん」
「と、いうことは……」
 つまりは、こうだ。
 ただ練気を高めるだけ高める技である荒鷹息は制御不能になる可能性が非常に高い為、運用することができない。
 だが高めた練気を放出する技もセットで編み出せば制御が可能になる。リミットがない故に暴走の危険性があるのなら、型というリミットをつけるのだ。
 例えば気弾として放つ。例えば必殺の蹴りとして放つ。例えば超速の拳として放つ。――荒鷹息で力を高めた直後にそれを放つ事を定めていれば、暴走は無い。
「尤も、だからといってどんなこともできるというわけではないだろう。……技を放つにあたって最適の型を編み出さねばならないのだから」
「そうなると……どのような技にするかが鍵になりそうですね」
「うむ。しかし、それを私達だけで決めるわけにもいかぬだろう」
 新たな荒鷹陣とは――全ての開拓者の未来なのだから。


■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
氏池 鳩子(ia0641
19歳・女・泰
江崎・美鈴(ia0838
17歳・女・泰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
雲母(ia6295
20歳・女・陰
ラクチフローラ(ia7627
16歳・女・泰
リリアーナ・ピサレット(ib5752
19歳・女・泰


■リプレイ本文

●荒鷹陣!
 新たな荒鷹陣派生の技を編み出すため、鷹王の道場に集まった泰拳士達――!
 荒鷹陣の求道者! 荒鷹馬鹿といってもいい! そんな彼らが道場にやってきてまずやる事と言えば決まっていた。
「久しぶりだな! 鷹王! 河原での戦い以来だな」
「ほほぅ、あの時の猫の小娘か! 相変わらず面白い荒鷹陣をする!」
 挨拶もそこそこに荒鷹陣を披露する江崎・美鈴(ia0838)。俊敏に動けるよう余裕を持った柔らかな荒鷹陣はどこか猫を思わせる。
 対する鷹王も勿論荒鷹陣で返す。そう、彼らにとって荒鷹陣こそが挨拶なのだ!
 同じようにリリアーナ・ピサレット(ib5752)もうっとりとした様子で荒鷹陣を繰り出す。
 やはり荒鷹陣にアツく燃える人間としては、鷹王の技は心酔ものらしい。
「鷹王様……お久しぶりに御座います。荒鷹陣へかける情熱……素晴らしいです」
「ふ、そなたも中々燃えているようだな」
 そんな彼らを見て、水月(ia2566)ははわぁ〜と感嘆の声を上げる。
「これが荒鷹陣にかけた人たちのやり取り……さすがなの」
 彼女はまだ泰拳士になってからの日は浅い。しかし、それでも荒鷹陣の武勇伝については以前から多く耳にしていた。
 そうして募った荒鷹陣への憧れ、情熱……。
「ちっさくても、新米でも、気持ちでは他の人たちにだって負けてないの!」
 自分も目の前の先輩達に追いつく――いや、追い抜いてみせる。
 あぁ、瞼を閉じれば思い出す……。迅鷹の彩颯ちゃんから直々に受けた本家直伝ともいえる短くも濃密な荒鷹陣特訓の日々を……。
 ――迅鷹が荒鷹陣をするのか、という根本的な疑問は置いといて。

●荒鷹息
 さて、道場に上がった開拓者達は改めて鷹王から新たな技について改めて説明を受ける。
 大体話は分かった、と雲母(ia6295)は紫煙を吐き出してから、再び煙管を銜える。
「荒鷹陣ねぇ……虎の奴に教わってから何回か使ったきりだな」
 彼女は今回参加した開拓者の中では荒鷹陣への思い入れは薄い方だ。
 しかし、新たな技を編み出せるという滅多にない機会だ。ならば、やりたいことはやらねば損だと煙管を銜えたまま口角を上げる。
「ま、モノは試しだし、色々してみるかね」
 また、先の鷹王の話を聞いてラクチフローラ(ia7627)は感心したように唸る。
「やっと真荒鷹陣を身に着けたのに、さらに上を行くなんて鷹王は流石といったところかな」
 ……あたしももっと修行を積まないと。
 新技開発に燃える鷹王達を見て、氏池 鳩子(ia0641)は非常に喜ばしい現状だと頷いていた。
「正直、荒鷹陣は先手必勝の一回限りの技になりがちだからな、こういった拡張性が出てくると使い手も増えるだろう」
 さて、新技を考えるとなると確かめたいこともあると鳩子は提案をする。
「実際にどういった感じになるのか見せてくれないか?」
「確かに見てからの方が掴みやすいかもしれん」
 鷹王は承諾すると道場の中心に立つ。
「荒ぶるッ! 鷹の! ポォォォォォズッッ!!!」
 裂帛と共に繰り出される鷹王の荒鷹陣!
 空気を振動させるほどの威圧感を放ちながら、放った本人にはブレがまったく無い。
 緩と急、静と動、陰と陽、秩序と混沌……それらが内包された超絶の荒鷹陣である。
 これには鳩子も唸るしかない。
「ほう、片足立ちだというのに上半身に少しのぶれもない、さすが鷹王の荒鷹陣。まさに荒鷹人」
 そして圧倒されながらも、目をきらきらと輝かせる少年……小伝良 虎太郎(ia0375)。
「鷹王の荒鷹陣、また一層洗練されて進化してる……へへ、おいらも負けてられないやっ!」
 少年は拳をぐっと強く握り締め、いつか越えてみせる男の動きをじっと見る。
「鼓ォォォ――!!」
 呼吸の直後、鷹王の体が練気で黄金に輝いていく。
「絶破ッ! 昇龍脚ッッッ!!!」
 開拓者達が見たものは――
「黄金の龍が……昇っていく……!」

 巴 渓(ia1334)は今見た光景に思わず息を呑む。
「コイツが噂の鷹王の力か……頭の緩い野郎かと思ったが、なかなかどうして! この威圧感……首の裏がチリチリしてきやがったな……」
 中々面白いことになりそうだと、渓はニヤリと笑みを浮かべる。
「なぁ、鷹王。その荒鷹息を俺も試してみたい。新技開発には欠かせない過程だぜ?」
「むぅ……」
 腕を組んで考え込む鷹王。熟慮の後に出した結論は――
「……一の門の開け方だけ教えよう。引き出される力はごく僅かだが、感覚を掴むには十分だろう」
 鷹王曰く。
 気孔に力を巡らせるのには二段階あるらしく、その一段階目までなら大したことにはならないだろうと。
「そこらへんが落としどころか」
 荒鷹息のさわりだけを教えてもらった渓はそれに従い、荒鷹陣から絶破昇龍脚へと繋げていく。
 これといった強化は殆ど無い。せいぜい、蒼き龍の閃光に微妙に黄金の練気が混ざっていたかという程度だ。
「けど……成る程な。練力の流れがいつもと違ったのがなんとなく分かったぜ」
 荒鷹陣の可能性を感じるには十分であった。

●意見
 では本題ということで、開拓者に意見を募る。
「まず私からでよろしいでしょうか?」
 リリアーナは予め準備していた技をかける為の藁人形を道場に設置する。
「まず口で述べるより、実際に見た方が分かりやすいと思いまして……」
 藁人形に相対し、集中したのち――
「はぁああああっ! 真・荒鷹陣っ!」
 そのポーズのまま、全身に気が巡るのをイメージし、
「はっ!」
 鷹が羽ばたく様に、両腕を力強く後方へ。
 同時に持ち上げていた足を勢いよく下ろすことで地面を蹴る。更に入れ替わるように先ほどまで軸足だった足を膝を突き出すように持ち上げる。
 そして体勢を低くし、斜め上方に飛ぶかの如く藁人形に突っ込む!
 膝蹴りを食らった藁人形は弾かれるように斜め上方へ。そこへ更に――
「とうっ!」
 落ちてくる人形に合わせるように、やや遅れながらも玄亀鉄山靠を打ち込むことで人形を吹き飛ばす。
 激しい連撃をしたリリアーナは肩で息をしながら、今の技の解説をする。
「私ではこの程度しか出来ませんが、高めた錬気を斜め上方への突進力に変え相手に打ち込めば、相手は力と膨大な気を叩き込まれ回避も受けも出来ない状態で数秒間宙を舞う事となると思います」
 そこに必殺の追撃を加えれば……というのがリリアーナの提唱する新技だ。
「真・荒鷹陣で怯んだ相手が中空に打ち上げられ成す術も無くなる。正に、荒鷹の爪に捕えられ空高く運び去られる哀れな小動物の如し!」
 言葉にどんどん熱がこもっていく。
「荒鷹襲撃爪、なんて如何でしょうか……」
 しかし、いざ技名を言おうとする段階で、熱くなりすぎていることを自覚してしまったのか、顔を真っ赤にするのだった。

 次に案を述べるは水月だ。
 彼女が提案するのは瞬脚の強化版だ。
「私が習得しているシノビの『早駆』の気の操作法と併せ、高めた練気を爆発的な移動力に転換。踏み込む距離、速度を従来の物よりもぱわーあっぷさせるの。鷹が上空からダイブして狩るみたいに神速で相手の懐に飛び込み、反応する間も与えず一撃を叩き込むの!」
 名付けて、『天翔鷹鳴』! 
 更にこの技にはまだ発展性があるという。
「そして、その移動力を水平方向ではなく、上空へと向けた『天鷹突貫』! 鷹を名乗るのなら、やっぱり空を飛べなくちゃいけないと思うの」
 そう語る水月の視線はどこか遠くを……空を見ていた。
「今こそ地に縛るつける鎖を断ち切り、空へと飛び立つ時。いざ行かん、大空へ!」
 彼女の心は、想いは、魂は――今や空にあった。
 しかし、すぐに魂をこちらに戻すと少し気まずそうに言う。
「でもこの技には致命的な欠点が……着地をまったく考えていない事……なの」

「それじゃ、空を飛びつつ着地を考えている俺の技はどうだ?」
 と、次に提案するは渓だ。
「まず練力だけでなく気力も燃やしての大ジャンプだ。天空高く舞い上がり、空中で荒鷹息を発動。鋭く伸びた両腕を翼とし、猛禽そのままに空中一回転! 伸ばした脚に凝縮した気を貯め、黄金の脚を鷹の爪の様に相手へと叩き付ける」
 これだけでも結構な威力になりそうだが、これで終わりではない。
「直後、脚に込めた気を相手へと流し込み、物理、非物理複合の破壊を行う……名付けて、【荒鷹稲妻落とし】だ」
 勿論こうした攻撃方法を考えたのにもちゃんとした理由がある。
「荒鷹陣の取るポーズから無理なく攻撃動作を取るには、かかと落としが有効だと思ったんでな!」
 とはいえ問題点が無いわけではない。
 ジャンプから荒鷹陣までの予備動作の大きいので命中率に難がある事と、錬力消費が大きいこと。更に気力も消費することだ。
「けど、その分荒鷹息の威力を殺さねえし、何より見た目がカッコいいぜ!」

 さて、連続で攻撃技が提案されたわけだが、その一連の流れを雲母は煙管をふかしてのんびり眺めていた。
「血の気の多い連中ばかりだなぁ?」
 くっくっと笑みを零しながら言う。
「武というのは戦う事ばかりではないのだがねぇ」
 彼女は立ち上がると手足をぷらぷらと振る。私が武のありようを見せてやる、と。
「それじゃあまずは――っと」
 彼女が気を巡らすと、それに呼応するようにすぐ傍に人影が現れる。シノビの理で生み出した影分身だ。
「ま、今は回避に使うだけの影分身だが……荒鷹息で練力をつぎ込めば、何発か攻撃を受けてくれる実体を伴った身代わりぐらいは作れるかもしれんな」
 名付けるなら「荒鷹陣・影」といったところだろう。
 考えた技はもう1つある。
 今度は弓術士の極北と組み合わせた荒鷹陣だ。荒鷹陣と同時に鋭い眼光で敵を威圧するといったところだろう。
 これも荒鷹息で強化することで相手の戦意を削ぐほどに威圧感を強めるのが雲母の狙いだ。
「名前は……荒鷹陣・覇とでもしておく」
 覇王を名乗る彼女がわざわざ覇の字をつけるぐらいだから、この技を気に入ってるのかもしれない。
「戦わずに相手に勝利する……。それもまた、武だろう?」

 次は鳩子だ。
「やっぱり荒鷹陣と組み合わせることを考えたら、自分の体で攻撃するよりは気を放った方が効率がいいと思うんだよね」
 せっかく距離が離れてても有効なんだから、ということで鳩子が提案するは気功による遠距離攻撃だ。
 まずは試しに、ということで荒鷹陣の状態から普通に気功波を撃ってみる……が。
「ポーズで手を上げている状況から気を手で打ち出すのは無駄な動きが出てしまうな」
 と、どうも納得がいかない。
「手が無理なら足からだ! これぞ! 荒鷹羽(アラブルタカノハバタキ)……ぐはっ!!!」
 鳩子が血を吐いた。何故か。
「本来、手で打つものを足で打とうとしたために気の流れがおかしくなったのかもしれん……」
 鷹王が推測するが、それが正しい根拠は何一つ無い。
 慌てて虎太郎がかけよって介抱する。
「こういう時は……止血剤を飲ませなきゃ!」
「それ、飲み薬じゃないから!?」
 ラクチフローラが止めなければもっと酷いことになっていたかもしれない。
「あやうく、あたしが黄泉の国に羽ばたくところだった……」

 鳩子の救世主ともいえるラクチフローラの案。
「ま、あたしもやっぱり気を放出する攻撃になるかな」
 飛ぶ事に興味があるけど、飛ぶだけじゃやっぱり意味がないからね、と。
「やっぱり、気を放出する形になるのかなって。威嚇が荒鷹陣の基本だけど、真荒鷹陣の先となると威嚇では限界があるかなって。実際に物凄い練気になっちゃうわけだし」
 それでいて、真荒鷹陣のあとにどうしようもない小技を使うのもやっぱりイメージに合わない。
「真荒鷹陣でキメて放つ技は最後の強力な一手かな。気合を溜めて、一回の戦闘では一回しか使えないくらい疲労する大技。荒鷹はっぴー……じゃなくて荒鷹激流波という感じで気弾ではなく、気を勢いのまま前方向に手から放出するというのがいいかなって」
 成る程、確かにそれなら荒鷹陣の後の必殺技といえるだろう。
「鳳凰もいいけど、それだと鷹じゃなくなっちゃうかな。でも、荒鷹陣から昇華した別の物と考えるなら、鷹にこだわる必要もないかな?」

 ラクチフローラは鳳凰より鷹を重視したが、鳳凰を重視する者もいる。美鈴だ。
「名付けて『鳳凰覇王拳』!」
 どこからか持ち出した板にでかでかと文字を書いてから、説明を聞いている全員にびしっと指をつきつけて説明を始める。彼女は人見知りだったはずだが、そんなものもどこかにいってしまったようだ。
「真荒鷹陣と気功波を合わせた技だ! 真荒鷹陣で得た究極的な力を炎の気にかえて、気功波の要領で前方に放つ! おそらく、放つエネルギーは炎をまとい敵を灰燼にするだろう」
 主張としてはラクチフローラと大体同じだ。違うところは力を炎に変換することだろうか。
「荒鷹陣がただのの冗談の技ではないことをしらしめるには、格好良くていいぞ!」
 また鳳凰覇王拳を撃つ以外に、全方向に拡散する形で撃つ覇王破もありだろうと美鈴は続ける。
「『鷹はいずれ鳳凰となり、悪しき者を燃やし尽くすだろう!』と、じいちゃんが言ってたからな!」

 最後は虎太郎だ。
 少年は案を述べる前に――まず今までの修行の成果を披露する!
「これが、あれから更に鍛えたおいらの荒鷹陣だ!」
 若い荒々しさはそのままに、本物の迅鷹の動きを観察して、さらに研鑽した真荒鷹陣だ。
 それを見た鷹王は……笑みを浮かべた。男が男を認めた時の――とびっきりの笑みを。
 さて、本題に入ろう。
「1つは気功で攻撃するってのなんだけど、それが何人かが言ってるから……」
 2つ考えたうちのもう1つ。それは攻撃技ではない。
「周囲の味方の攻撃力へと気を転換させる形ってのはどうかなって。というのも、おいらと鳩子で武州の戦いの時に周りを元気つけよーって荒鷹陣の勝負やったんだけどさ、その時にこの手袋貰ったんだ」
 虎太郎が見せるのは真っ赤に燃え盛る薄手の手袋だ。
 そういうことがあったからこそ、荒鷹陣のもう一つの可能性として、敵への威嚇だけでなくて味方に良い影響を与える事も出来る……そう考えるようになったのだ。
「前線で勇猛に戦う事で味方を勢い付けるのも、ある意味では泰拳士の本分って言えないかな」

●新技
 開拓者達の話を聞いた鷹王はしばらく考え込んでから、顔を上げる。
 その眼差しには迷いは無い。
 荒鷹陣をすると――
「あ〜ら〜た〜か〜――波ァァァァ!!!!」
 両手から気を放つ!
「……うむ。この荒鷹波(仮)の方向で技を仕上げていきたいと思う」
 こうして、新たな技の方向性が決まったのであった。

「あ、そういえば荒鷹陣・幻はどうなったの?」
 とふと思い出したラクチフローラの声。
「……うむ。技自体は完成したのだが、それを広めるには色々と……な」
 鷹王は遠い目をする。技を広めるにも、色々と苦難があるようだった。