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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武蔵は以前と同じく、須佐近くの丘にやってきていた。 理由はやはり、ナギに呼び出された為だ。 「‥‥で、お前はまた、そんな格好なんだな」 「うん。だって、武蔵の反応を見るのが楽しいしー」 今日のナギの服はジルベリア風。少女が着るような可愛らしいものだ。ミニスカから伸びる白い太ももが眩しい。 見せびらかすように、その場でくるりと回るナギ。スカートの裾がふわりと揺れ、武蔵は思わずそちらに視線がいきそうになるが、寸でのところで逸らす。 「あ、危ねぇ! 男だと分かってんのに、なんて危険な野郎なんだ‥‥!」 「えー、別に武蔵なら見てもいいのに」 「俺がよくねぇんだよ!? つか、お前のせいで衆道に走るんじゃないかと変な心配されてるこっちの身にもなってくれ!!」 武蔵の怒りを気にせずに、ナギはくくっとほくそ笑む。自分に振り回されている彼の様子が面白いようだ。 そんなナギを見て、言っても無駄だと再確認した武蔵はため息を吐く。 「はぁー‥‥。あぁ、うん、いや、もうあれだ。俺を呼び出した理由をさっさと話してくれ」 「しょうがないなぁ。武蔵は我侭なんだから」 どっちがだ、という言葉を武蔵はなんとか我慢した。 そんな武蔵の心中を知ってか知らずか。ナギはマイペースに話し始める。 「それじゃ‥‥まずは山猫について、かな。とりあえず、天尾の人達が中心となって山狩りしてみたけど、山猫は見つからなかったね」 「たったあんだけだったのか?」 「どうだろうね。さすがに8体が全てとは思えないし。ま、特別凶暴な個体だったんじゃない?」 「えーと‥‥?」 「考えてもみなよ。獲物を全滅させるまで狩る馬鹿は普通いないよ。だって、食料無くなるもん」 だからこそ、大抵のケモノは生きるのに必要な分だけを狩るという。勿論例外はあるが。 「あの山猫、獰猛は獰猛だったんだろうけど‥‥本来は無駄な狩りはしないケモノだったんだと思うよ。ただ、強い力を持った馬鹿が多く生まれちゃった、とか」 「馬鹿?」 「うん。『ヒャッハー! 強いやつらが集まったんだ、やりたい放題やるぜー!』‥‥って感じの馬鹿」 「俺が言うのもなんだが‥‥すげぇ馬鹿だな」 「僕は面白いからそういうの嫌いじゃないけどね」 それはともかく、とナギが話を戻す。 「ま、そんな馬鹿以外は普通に山のどこかで暮らしてると思うよ。馬鹿じゃないから、人間が来たら隠れるだろうけどね」 だから、山狩りして見つからなかったとしても、山猫自体は生きている個体がいるかもしれない‥‥とのことだ。 これに関しては、他の生物も同様だ。見つからなかったので一応全滅とはしたが、著しく数が減った為に警戒心の強い個体を見つけることができなかった可能性もある。 尤も、どちらにせよそんな状況なら山猫以外の全滅はそう遠くなかっただろう。 ここまで聞いたところで、武蔵は気になることがあるのか、話が止まったタイミングで口を挟む。 「んでよ、アヤカシが絡んでるじゃないかって気にしてたやつがいたんだけど、実際どうなんだ?」 それに対するナギの答えは実に簡潔だ。 「絡んでないと思うよ」 「なんでだよ」 「だって山猫が人間を食べたことが分かってるもん」 山猫の糞から、襲われた人の遺物が発見されているという。 仮にアヤカシが山猫を操ってるのであれば、律儀に山猫に食わせる必要は無い。アヤカシ自身が食わなければまったく意味が無いからだ。 山猫にアヤカシが憑いていれば、また別かもしれないが、憑いてなかった事は実際に戦った武蔵がよく知っている。 「それに武蔵達を含めて結構な人数が山に入ったけど、1回もアヤカシの気配は感じられなかったようだしね」 前回の事件について、話すべきことは話したと判断したのか。ナギは丘の上で、体を投げ出すように寝転ぶ。 まだ風は少し肌寒いが陽は暖かく、まったり日向ぼっこするには最適だ。 そんなナギを見て、武蔵ものんびりとした気分になったのか。同じように寝転ぶ。 「春だもんなー。日向ぼっこにゃいいよなぁ、花見するのも悪くないよな――じゃねぇ!?」 言ってる場合じゃねぇ、とすぐさま体を起こす武蔵。 「お花見かぁ。してみたいけど、お花見スポットに行くのは嫌だなぁ」 「いや聞けよ!? 本題だよ、本題! 俺のおーもーいーでー!」 「えっ、あぁ‥‥そっか。そんな約束もしてたね」 「おいィ!?」 武蔵に言われて、仕方なく‥‥といった様子でナギは考え始める。 何を話せばいいのか迷っているのだろう。小さく唸りながら、腕を組んで足をばたばた振る。 「んー‥‥そうだね。やっぱり手堅く、初めての出会いから‥‥かな? 一応聞くけど武蔵は覚えてる?」 「‥‥いや、わりぃな。さっぱりだ」 「そっか。‥‥僕と武蔵が初めて出会ったのはね、武蔵がもっと小さい頃の時だよ」 「それって何年前なんだ?」 「覚えてないなぁ。僕、そういうの気にしないし」 武蔵が小さい頃となれば、ナギも相当に幼かった筈だ。覚えてないのも仕方ない‥‥と納得し、武蔵も深くは追求しない。 「初めて出会った場所は、とある山の中でねー。いやー、何でこんな所にいるんだろうと驚いたものだよ」 「山の中‥‥はっ?」 随分と妙な所で出会ったものだ‥‥と一瞬呆気に取られる武蔵だったが、山の中でナギと出会う絵を想像してみると、意外な程にすんなりと受け入れることができた。 だから、きっとそれは真実なのだろう。 「うん、あれだね。武蔵はその時から馬鹿だったね!」 「うるせぇよ!?」 昔を思い出したのか、楽しそうに声を上げて笑うナギ。先程の言葉から察するに、武蔵の馬鹿っぷりを懐かしんでるのだろう。 笑われている武蔵だったが、不思議と悪い気分はしなかった。‥‥これが旧友との語らいなんだろう。記憶は無くとも、そう実感していたからである。 ――あぁ、くそっ。余計気になるじゃねぇか‥‥! 武蔵の過去を求める気持ちがより強くなる。ナギや‥‥扇姫とも昔話が出来れば、それは凄く楽しい筈だ、と。 「おっし、気合入ってきた! なぁ、次は何やればいい?」 自分をわざわざ呼んだのだから当然依頼があるのだろう。そう考えた武蔵はナギに問うが、 「えっ」 「えっ」 帰ってきたのは意外な反応であった。 結局のところ、 「んなっ、依頼無ぇのかよ!?」 「うん。山猫についてとか報告しとこうかなと思っただけで。‥‥そう、頻繁に依頼するような事件が起こるわけでもないし」 「あぁ、くそっ。やべぇな‥‥!」 困ったように頭を掻く武蔵に、ナギは首を傾げる。 「‥‥? ここに来たお駄賃ぐらいはあげるけど‥‥どうかした?」 「いや、それがな‥‥」 武蔵はばつが悪そうに、おずおずと理由を述べる。 「‥‥どうせ依頼されるんだったら、この段階で開拓者呼んだ方が早ぇんじゃないかと思って、な」 「――武蔵は本当に馬鹿だなぁ」 開拓者達が丘にやってくるのは、すぐ後の事である。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂
マハ シャンク(ib6351)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●きっかけは馬鹿 「本当にすまん!」 両手を合わせて、頭を下げる武蔵。謝罪の相手は用も無いのに呼び出された開拓者達だ。 「‥‥武蔵殿」 呆れたようにジト目で武蔵を見るは羅轟(ia1687)だ。だが、緊急時の事も考えれば仕方ないか、と気を取り直す。 「なんだ? 依頼人の勘違い? ‥‥では、どうするのだ?」 「依頼に呼ばれてきて何もしないでいるのはやっぱり落ち着かないですね。どうしようかな‥‥」 肩透かしを食らったマハ シャンク(ib6351)や御調 昴(ib5479)が困惑するのも当然だ。 「どうするって、どうしようか‥‥なぁ?」 武蔵は救いを求めるようにナギに話題を振る‥‥が、振られたナギはつれない態度だ。 「そんなの僕が決めることじゃないでしょー? ‥‥もう、皆を拘束してしまった分の迷惑料は僕が出すけどさ」 冷たい視線を送ってくるナギに対して、武蔵は返す言葉も無い。完全に武蔵のせいだし、フォローもしてもらってるからだ。 そんな2人のやり取りを見て、ジークリンデ(ib0258)は難しい顔でとんでもないことを言い放つ。 「武蔵様の早とちりで召集されたのにナギ様が依頼料を払われるのですね。なんだか怪しい関係なのでしょうか‥‥」 「あ、怪しい関係ってなんだよ!?」 「‥‥冗談ですよ」 うろたえる武蔵に、ジークリンデは冷ややかに返す。 以心 伝助(ia9077)はそんな武蔵の肩にぽんと手を置くと、諭すように言う。 「武蔵さん‥‥大丈夫です。外見がほぼ女性の方相手に戸惑ってる内はまだまだ正常の範囲内っすから」 どこか遠い空を見る伝助。いいじゃないか、ムキムキマッチョな変態に襲われるよりは百倍マシ――だが待ってほしい、それはフォローになってない気がする。 何はともあれ、話題はこれからどうするかというものに戻る。 「思わぬ息抜きができて良かった、くらい前向きに考えればいいと思うが‥‥」 北條 黯羽(ia0072)は先程武蔵から聞いた、ナギとの会話内容を思い出す。それによると、武蔵とナギが初めて会った場所について話していたらしい。 なら、記憶の片隅に何かが引っ掛かるのに期待してその場所に行ってみるのはどうかと提案する。 「それと、出会いの場所に行く途中に桜の木でも見付けたら、春麗らかな陽気の中で花見と洒落込もうぜぃ」 「やだ」 だがナギの返答は取り付く島もないものであった。 「‥‥なんでだ?」 「だって遠いもん。場所なら教えてあげるから、君達だけで行ったら?」 武蔵、確か地図持ってたよね――と、ナギは武蔵から十塚周辺の地図を借りると、そこに初めて出会った場所を書き込む。 それによると、確かに現在地からはやや遠い。須佐から近いものと思い込んでいた開拓者達によっては想定外のことであった。 出会った場所に向かうか、それともこの場でナギと話すか‥‥結局、開拓者達は後者を選択した。 「むむ、それでもせっかく花見の季節だからな〜。桜見つつぱ〜っと騒ぎたいねぇ」 とはいえ、花見をそう簡単に諦めきれるものではない。不破 颯(ib0495)は近くに花見ができる場所は無いのかと訪ねる。 ナギとしても花見はしたいのだろう。町から少し離れた花見スポットに向かうことになった。 こうして向かう場所を決めた開拓者達は、一先ず現地に向かう組と町で買出しを行う組に分かれるのであった。 ●調べる者 食料調達‥‥という名目で須佐に向かった買出し組だが、目的はそれだけではない。 今までの依頼で気になったことに関しての情報収集も目的の一つだ。 そこで伝助は同業者ともいえる情報屋を当たることにしたのだが‥‥どうやら裏事情にも精通している情報屋、というのは須佐にはいないらしい。 結局、町で物知りとして知られている男から話を聞くという結果に落ち着いた。がめつい性格なのか、しっかり情報料を請求されたのだが。 「それじゃ‥‥まずは十塚の有名氏族同士の関係について聞いてみたいっす」 「有名氏族っつうと‥‥天尾家とか、阿治の大量家や高倉の佐士家‥‥か?」 それらの関係なぁ、と男は腕を組んで考え込む。 「交流自体はあるみたいだぜ? 十塚で異変が起きたら共同で事に当たるわけだし。力関係は‥‥一応、天尾が他より強いみたいだな。理由は知らねぇけど」 町が大きいからか、それとも天羽の力関係をそのまま受け継いだのか‥‥理由は推測できるが、正確な事は分からない。 「ふむ‥‥。では次に天羽家の襲撃事件についてお聞きしたいっす」 「あぁ、あれな。この町じゃ最大の事件だったから、やっぱり気になるよなぁ」 男の話によると、今でも調査が続いてるらしい。 「天尾家がちょうど町を離れた時に襲撃されたからな。やっぱり計画的なもんだろうよ」 「襲撃した賊はどうなったんすか?」 「ある程度は反撃で討たれたみたいだけど、いくらかは生き延びてる‥‥ってのが天尾の見解だとさ」 当時の天羽家は須佐で一番力を持つ氏族だったので、恐らく財目的ではないかと言われているが‥‥こちらもあくまで推測の域を出ない。 その為だけに志体持ちを擁する氏族を襲撃するのはリスクが大きいように思えるのだが、結果から考えると賊も志体持ちを擁していたと考えるべきだ。 伝助は聞いた情報を元に、思考を巡らせるのであった。 颯も同じように様々なことを調べていた。 まず手始めに須佐の統治体型についてだ。これに関しては人から聞くのはそう難しくなかった。 颯は歩きながら先程聞いた情報を簡単に纏める。 「トップに立つ氏族は十塚への影響力が大きい巫女氏族が基本‥‥ねぇ」 天羽家は随分昔から須佐を統治していた為、町の住人が知っている限り統治者が変わるという事は天尾家が初めてだそうだ。 昔から統治者が変わらなかったのは、政策云々よりも氏族の持つ力の重要性を鑑みてのことだろう。 天羽家もその事を理解しており、志体持ちの血を入れることで志体持ちが生まれる確率を上げたり、対ケモノ用の術を編み出していたらしい。 また現在、天尾家になったから政策が変わったという話は無い。現状維持が最適だと判断してのことだろう。 尤も、志士氏族の天尾では天羽のように共存するケモノに対して有利に事を運べるわけではないので、その点については四苦八苦しているようだが。 「‥‥まぁ、元々は護衛氏族だったわけだし。天羽ほど上手くいかないのは仕方ないかぁ」 そう、天尾家は元々護衛氏族だ。天羽家との関係は良いものだったらしい。家族ぐるみの交流などもあったようだ。 だからこそ、一番心を痛めているのは天尾家の者だという話も聞く。 大体これらのことはすんなり聞く事ができたが、苦労した情報もある。それは天尾以前の護衛氏族についてだ。 町の住人の多くが護衛は天尾だったという認識を持っており、変わる以前の護衛氏族について知らないのだ。若者の場合、護衛氏族が変わっていたという事実さえ知らぬ者さえいた。 その理由は護衛氏族の交代が随分前――約二十年前のことだからだ。 「ナギさんの口ぶりからすると、最近のことのように思えたけど‥‥」 当時の事を覚えている人が少ない為、聞き出せた情報も少ない。精々、伊都(いつ)という名のサムライ氏族である事が分かったくらいである。 そして‥‥現在、伊都家は存在しない。 ジークリンデは町にいくつかある神社を訪れていた。名目は学術研究の為だが、実際は別である。 「ふむ‥‥天羽家は巫女氏族だったようですので、神社を当たればいいと思いましたが‥‥」 十塚の成り立ちや歴史、領主について情報を集めようとしたのだが、これといった情報を得ることはできなかった。 理由としては神社の全てを天羽家が管理していたわけではないからだろう。小さいながらも、町にはまた別の巫女氏族が存在し、それぞれ別の氏族が管理しているようだった。 尤も、それらは志体持ちすら擁さない弱小氏族なので、権力に絡むことはほぼ無いだろう。 「仕方がありません‥‥。他の方が有力な情報を得ていることに期待しましょう」 ジークリンデは考えを切り替え、表向きの目的である食料調達の為に町を出歩く。 昴が気にしているのは先の事件で「天尾家がどう関わったか」を町の住人が認識してるかどうかであった。 本来なら、ケモノの問題には天尾家が当たる必要があるわけだが、先の事件を解決したのは彼ら開拓者だ。 「ナギさんも天尾家関係なら普通は天尾の手柄として広めてもよさそうなんですけど、どうしてるんでしょう」 天尾の手柄にしているかどうかが気になって、町の住人に聞き込みをする昴。何故そんな質問をするのか聞かれた場合は「前の依頼を受けたから気になってて」と言っておく。 結果としては、 「俺はよく知らねぇけど、天尾家が依頼したんじゃねぇの?」 という認識が殆どであった。 実際に依頼を解決したのは開拓者であり、その手柄自体は開拓者のものだと考えているのが殆どのようであった。天尾家は依頼するという判断をしただけなので、手柄といえるほどのものではないと思われている。 ただ、話を聞いて気になることはあった。 「開拓者に依頼をした、と天尾家は言ってない‥‥か」 このことから察するに、天尾家としては開拓者に依頼をするつもりは無かったようにも思える。 つまり、ナギが勝手に動いてるだけ‥‥なのかもしれない。 町中に誰かを探している天尾家の者がいる‥‥という話を聞いて、伝助と颯はその人物との接触を試みる。 結果として、簡単に見つけることができた。どうやら探し回っている人物は有名人のようで、足取りを追うのは容易だったからだ。 せわしなく動く女性。歳の頃は十代後半といったところで非常に若い。だが、足運びなどから優秀な武人であることを察することができた。 「誰か探してるんすか?」 女性に声をかける伝助。恐らく彼女が探しているのはナギと理解しているが、話すきっかけを作る為だ。 「あ、はい。髪が非常に長い男の子で‥‥あぁ、でも今日着ている服では女の子に見えると思います。気まぐれな方で、よく町で遊んでるのですが‥‥」 「なかなか大変みたいですね〜」 颯の言葉に女性は頷く。それから、女性は2人の顔を見て何かに気づいたように口を開ける。 「お二人は‥‥以前、事件を解決した開拓者の方では‥‥?」 「どうしてそれを?」 「町に関わることなので、調べさせていただきました。私達としては依頼する予定は無かったので、気になりましたし‥‥。あ、申し遅れました。私は天尾 天璃と申します」 話によると、彼女は天尾家当主の娘らしい。口ぶりによると、どうやら彼女が探している人物は天尾家にとって重要な人物のようだ。 だが、その人物がどういう立場だとか、その人物についてどう思っているかなどを話すことはなかった。口は堅いらしい。 探している人物を見かけたら知らせると伝えて、2人は天璃と別れるのであった。 「う〜ん‥‥ナギさんについてあんまり聞き出せなかったけど‥‥」 「迂闊に話せないぐらい、重要な人物‥‥って考えることもできるっすね」 ●花見 花見場所に向かっていたナギらは桜が咲いている場所に到着すると、敷物を広げながら 話をする。 ちなみに、現地に到着するまでに何かに襲われる‥‥ということは無かった。 この場所に来るまでに、ナギが色々と武蔵に文句を言って困らさせていたのを見たマハは、むしろ自分がナギを困らせたいと考え、彼に話しかける。 「ナギよ、少し話をいいか?」 「ん、何?」 「おぬしは友人といっておきながら、何故このような遠回りな事をする?」 遠回りとは、武蔵の記憶を取り戻す為にわざわざ依頼をこなさせる理由だ。 嫌な思い出を思い出してもらいたくないのか、自分に不都合があるのか‥‥推測はできるが、所詮推測の域は出ない。 「んー、面白いから‥‥じゃ、やっぱり駄目?」 「それで納得できる事とは思えないから聞いているのだが‥‥」 言われて、ナギは先程までの笑顔から一転して、真剣な顔に変わる。 「‥‥実は武蔵にやらせている事が彼の記憶に深く関わっているんだ」 「‥‥そうなのか?」 だが、表情はまた先と同様の笑顔に戻り、 「――とでも言えば、君は納得する?」 あぁ、成る程。ナギの言葉を聞いて、マハは改めて理解する。 「結局、おぬしは理由を話す気は無いのだな」 「やだなぁ、僕は面白いからだって前から言ってるよ?」 マハが理解したのは、この件について問い詰めてもナギが話すことはないだろうということだ。 ならば、と質問を変える。 「おぬしに家族はいないのか?」 「家族‥‥ねぇ。天尾の人達がみたいなものだと思うよ」 「みたいなもの‥‥か」 ナギの言葉から考えると、血の繋がった本当の家族はいないように思える。‥‥尤も、彼の言葉をどこまで信用していいかは怪しいものだが。 準備を終え、あとは買出し組がやってくるのを待つばかりとなった状況で、羅轟がこっそりとナギに話しかける。 「ナギ殿に‥‥頼みがある‥‥」 「頼み?」 羅轟は頷くと、話を続ける。 その頼みとはもし扇姫と会う事があったら天羽家襲撃犯の情報を教えるなとは言わないが、なるべく武蔵か誰かと一緒にいて、教える内容に注意してほしい‥‥というものであった。 「僕が情報を得るとは限らないと思うけど。‥‥でも、なんで?」 問われ、羅轟は過去に扇姫が武蔵を仇だと勘違いして襲撃した事件について話す。羅轟は事件の当事者で、その時の様子を今でも覚えている。 また、現在の様子から察するに、仇の情報を得れば、見てない所で敵討ちに走る可能性もある‥‥と述べる。 「正直‥‥教えられて‥‥抑え‥‥効くか‥‥疑問」 「なるほど、そういう理由かー。僕は武蔵から扇姫について聞いてなかったからなぁ」 うんうん、と納得したように頷くナギ。 「‥‥そっか、やっぱり襲ったんだね、彼女」 「――?」 今、ナギが気になることを口走った。 (‥‥やっぱり?) その言葉の意味を問うべきか‥‥羅轟が逡巡していると、黯羽が声をかける。 「おーい、どうやら買出し組が来たみたいだぜー」 言われて町の方向を向けば、開拓者達が食料を手にやってくるのが見える。ナギはそちらに走って出迎えにいったので、結局羅轟が聞く機会を逃してしまった。 こうして、合流した開拓者達は花見を楽しむのであった。 ――束の間の、宴を。 ●薙 「‥‥え?」 宴が終わってから町に戻ったジークリンデは、自分の耳を疑う。 彼女は宴の際にナギの姿を絵に描き、それを元に神社で話を聞こうと思ったのだ。 今、彼女が話している相手は、老齢の宮司。 「もう一度‥‥おっしゃってくれませんか‥‥?」 「おぅ、その子なら時々見かけるでよ。‥‥一番最初に見かけたのはわしが子供の頃かなぁ。昔は数年に一度見る程度だったが、最近はよく町にいるよな」 |