【聖夜】老人を阻むお嬢
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/11 07:06



■オープニング本文

●クリスマス
 ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。
 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、神教会の信者以外も広く関わるもっと大衆的な祭典となっている。
 何でも「さんたくろうす」なる老人が良い子のところにお土産を持ってきてくれるであるとか、何故か恋人と過ごすものと相場が決まっているだとか‥‥今となってはその理由も定かではない。
 それでも、小さな子供たちにとっては、クリスマスもサンタクロースの存在も既に当たり前のものだ。
 薄暗がりの中、暖炉にはちろちろと炎が燃えている。
 円卓を囲んだ数名の人影が、深刻な面持ちで顔を見合わせていた。
「‥‥やはり限界だな」
「今年は特に人手不足だ、止むを得まい」
 暖炉を背にした白髪の老人が、大きく頷いた。


「クリスマス‥‥ですか」
 クリスマスということで騒がしくなっている街の様子を見ながら、ローズ・ロードロールはぽつりと呟いた。
 ジルベリア出身の騎士である彼女にとってクリスマスは馴染み深い行事である。だからこそ、クリスマス騒ぎを見てつい故郷を思い出してしまったのだろう。
「いつもなら村の皆さんと過ごしてましたけど‥‥今回は1人、ですわね」
 数年前から騎士として独り立ちをしていたが、クリスマスのような行事では故郷の村に戻りパーティーなどに参加していた。やはり家族と共に過ごす日は大事にしたいからだ。
 しかし今年は違う。天儀に来てから数ヶ月‥‥行き着けの店の知り合いや、ちょっとした友人ができたとは言えるが一緒にクリスマスを過ごすような仲の人物はいない。
 1人で過ごすクリスマスは酷く寂しく思えて、ジルベリアに戻りたい気持ちが強くなるが、ローズは首を勢いよく横に振ってそれを霧散させる。
「こんなに早く、しかも寂しいからって戻っては村の皆さんに笑われますわ。お嬢は相変わらず子供だって‥‥!」
 実際に村の者がローズを笑うことはないだろうし、彼女もそれをなんとなく理解している。‥‥強がっているだけ、というやつだ。
「‥‥もうサンタクロースを信じてるような子供じゃありませんもの」
 そう呟いたローズの視界に、道端で遊んでいる子供達の姿が入る。彼らなら、まだサンタを信じているかもしれないけど‥‥とも考えたり。
 遊んでいる子供は6人。そこに1人の男性が子供達に声をかけた。
「おーい、チビたちー。そろそろ暗くなるから帰るぞー」
 それを聞いて子供達は男性の周囲に集まり、我先にと男性の手を掴もうとする。よっぽど慕われているのだろう。
「ねぇ、マサにいちゃん! 明日雪振るかなー?」
「どうかなー。積もったら雪合戦でもするか!」
 男性を中心に楽しそうに話しがら帰途につく子供達。ぱっと見れば、ただの仲のいい兄弟ぐらいにしか見えない。だが、実際はそうではない事にローズは気付いていた。
 1世帯にしては多い子供の数、似てるとは言いがたい容姿などから推測して、恐らくは身寄りの無い子供達の集まりなのだろう、と。男性は保護者といったところか。
 だが血は繋がっていないとしても、楽しそうに笑いあう彼らは間違いなく家族なんだろう‥‥ローズがそう考える事ができるのは、やはり彼女も孤児であり、育ててくれた村の者を大事な家族だと思っているからだ。
「もしサンタが本当にいるのなら、私よりもこういう子達に――」
 その時だ。ローズは怪しい人物が建物の影から子供達をじっと見ている事に気付いた。
 最初は気のせいかと思ったが、子供達が移動すれば怪しい人物もやはり物陰に隠れながらそれを追いかけている。
「‥‥なんですの?」
 怪しい人物が子供達を尾行する‥‥放っておいていい事態とは言いにくい。そう判断し、ローズもまた尾行を始める。
 尾行してどれぐらいの時間が経っただろうか。
 最初は建物の影に隠れていてよく見えなかった怪しい人物の姿だったが、尾行の結果風貌を確認する事ができた。
 怪しい人物は血のように赤い着物を着た老人男性であった。背は高めだがかなり痩せており骨が浮かび上がっているぐらいである。特徴的なのは左目を隠す眼帯と、腹の辺りまで伸びている白い髭だ。
 更に立ち居振る舞い‥‥特に気配の消し方が明らかに一般人のものではない。どう考えてもまともな人物とは言い難かった。
 老人の歩みが止まる。よくよく見れば、子供達がある建物に入っていくのが見えた。孤児院についたのだろう。
 それを見て、老人がニヤリと笑みを浮かべる。
「ひょっひょっ‥‥しかし、ワシ1人では少々手が余るかの。時間もあまり無いしのう」
 呟いた老人が物陰へと消える。
 まずい。状況が完全に把握できたわけではないが、何かがまずい――そう考えたローズは老人がいた場所へと走る。
「ちょっと、何を企んで――」
 言葉は続かなかった。
 何故なら、老人が消えた方向は完全な行き止まりだったにも関わらず、老人の姿が忽然と消えてしまったからだ。


 場所は打って変わって開拓者ギルド。
 今日も様々な依頼書が張り出され、多くの開拓者達がどんな依頼があるかと目を通していた。
 と、そこに息を荒げたローズが勢いよく入ってくる。彼女も開拓者だ、依頼を受けるのかと思いきや、そのまま受付の方へと行ってしまった。
 受付係に何事かを捲くし立てるローズ。興奮している為か、少し耳を傾けるだけで彼女が何を言っているかを聞き取ることができた。
「赤い着物を着た、明らかに普通じゃない老人が子供達を追いかけて、何か企んでいるようですの!」
「絶対に子供達を狙っての行動ですわ! 例えば‥‥そう、誘拐ですとか」
「これは放置したらまずい事になります! 孤児院を警備するべきですわ!」
 ‥‥聞く限り、どうも穏やかな話ではないようだ。
 だが、開拓者達はどうにも何かが引っかかる。老人とか孤児院とかついさっき何かで聞いたような、と。
 何だっただろうか。思い出す為に意識をローズから外したところで、ある事に気がついた。
 目の前に張り出された依頼書にこう書いてあったのだ。
『孤児院で暮らす子供達の為に、クリスマスパーティーを開いてくれませんか』
 ‥‥と。
 その依頼を受け付けた係の者が書いた補足によると、依頼人は赤い服と白髭が印象的な老人らしい。
 更に気になるのが、どうやら老人は孤児院とは何の関係もない人物のようだ。
 何故そのような人物がクリスマスパーティーを行う依頼を出すのか。気になるといえば気になる‥‥が。
 ――あの少女騎士を放置してたら、クリスマスパーティーを開くにしても面倒な事にならないだろうか。
 そう考えた開拓者の1人が、ローズへと声をかけるのであった。


■参加者一覧
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
白鵺(ia9212
19歳・女・巫
フリージア(ib0046
24歳・女・吟
禾室(ib3232
13歳・女・シ
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
エラト(ib5623
17歳・女・吟
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
鏡華(ib5733
23歳・女・陰


■リプレイ本文

●ローズの主張
 依頼を受ける事にした開拓者達は、ギルドの一室でテーブルを囲んでいた。勿論今後の事を相談する為でもあるが、それだけではない。
「えぇ、あの老人は絶対に危険人物ですわ!」
 開拓者に囲まれながらこう主張するは、ローズ・ロードロール。依頼を受けたわけでもない彼女がここにいる理由は、開拓者達に声をかけられたからだ。
 ‥‥正しくは、声どころか体ごとぶつかったのだが。
「そう思う根拠はなんじゃ?」
 問うたのはぶつかった張本人である禾室(ib3232)だ。久しぶりに会えて嬉しくなり、早駆タックルでローズに飛びついたのだ。
 勿論ローズは彼女を叱ったが、無邪気な子供には弱いのか。今は禾室をローズの隣に座らせ、頭を撫でたりしながら話をしていた。
「根拠、ですか。‥‥私の推測が多分に含まれますけども」
 ローズは老人が怪しい行動をしていたこと、言動も妙であったことなどを話す。それらの点から考え、老人が何かを狙っているのだ‥‥と。
 話を聞き、フリージア(ib0046)は率直な感想を漏らす。
「まあ怪しいというのは確かに怪しいのですが‥‥」
 ただし、普通に考えれば、『1人では少々手が余る』というのはパーティーの事を言っていると判断した上でだ。
 だが、この場合どこまで考えるのが普通となるのかが問題だ。
「気になるのは、依頼を出した御老人のメリットは何なのでしょうか。どうにも、分かりませんね‥‥」
 扇子を口元に当てて考え込む白鵺(ia9212)。彼女が気にするのは老人が依頼を出した理由だ。現状ではパーティーを開いても老人にとってメリットといえるものは無いように思える。
 蓮 蒼馬(ib5707)は腕組みをしながら、思考を整理する。
「それを考えると‥‥確かにローズ嬢の主張も分からんではないな」
 依頼を出すメリットが無いのならば、何かを企んでいると考えた方が自然だからだ。
 更に、老人はただものではないという事がローズの話から分かる。この点も不安要素だ。
「それに‥‥ローズ殿‥‥見失う‥‥時点で‥‥その御老体‥‥ただ者‥‥否」
 そう言うのは羅轟(ia1687)だ。過去に何度もローズと会った事のある彼はローズの実力を知っている。だからこそ見失う相手が気になるのだ。
 こう考えると、やはり老人は何者なのか。
 赤い服を着た、子供達を楽しませようとする白髭の老人‥‥ここだけを聞くと、なんとなく思い当たる節もあるのだが。鏡華(ib5733)も首を捻る。
「んー‥‥その老人‥‥どこかで聞いたことがある気がするんですけど‥‥まあいいでしょう‥‥」
 ‥‥が、やはり出てこない。
 蒼井 御子(ib4444)は依頼書の補足を読み、気になる言葉があったのかそれを何度となく繰り返し呟く。
「さんたくろうす、さんたくろうす‥‥あ、どこかで聞きおぼえがあると思ったら‥‥」
 御子が思い出したのは師に聞いた話だ。ジルベリアではサンクロースなる老人が良い子にプレゼントをあげる‥‥という伝説があると。
 だが、それはあくまでも伝説だ。実際のところは、子供が寝ている間に親が置いている。
「つまり‥‥老人はあの子達のサンタクロースになろう、ということですか?」
 孤児院の子供達にプレゼントをあげる親はいない。親代わりの保護者であるマサはいるが、彼がプレゼントを用意するのも難しいものもあるだろう。
 だから恵まれない子供達のことを思っての行動だろうか‥‥と考えたエラト(ib5623)の言葉を、しかしローズは否定する。
「それにしたって怪しすぎますわ!」
 このままでは埒があかない。警備とパーティーの盛り上げ‥‥両方を成立させる為に、開拓者達はローズにある提案をする。

●そして当日
 開拓者達は孤児院の前に集まっていた。勿論、ローズも一緒だ。
 ローズがやってきたのを見て、羅轟が片手を上げて声をかける。
「本日も‥‥元気‥‥か」
「えぇ。羅轟さんも‥‥えぇと、お元気‥‥でいいんですわよね?」
 ローズが返事に困ったのは羅轟の格好が理由だ。今日の羅轟はまるごとくまさんを微妙に改造した着ぐるみ『まるごとトナカイさん』を着込んでいるからだ。
 ただ、顔などは見えないのに羅轟と分かる辺りローズもある意味慣れたのかもしれない。
 そうこうしているうちに孤児院の扉が開かれ、中から男性が顔を見せる。マサだ。
「えぇと‥‥あんた達がうちでパーティーを開くっていう‥‥?」
「あぁ。開拓者ギルドで依頼を受けてやってきたものだ」
 やはりマサは疑問符を浮かべていたが、それでも子供達の為になるからということで開拓者達を追い返すようなことは無かった。
「それと、気になる事があってな‥‥」
 怪しい人物がここを覗いていたという話もして、警備をすることの了承を得る。ただし子供達に水を差すのもなんなので、あくまでも密かに‥‥という形でだ。
 その為、本来は警備の為だけに孤児院にやってきたローズもパーティーに参加する事になった。ローズ本人は警備の事が気になるのか、あまり乗り気ではないようだが。
「パーティーで警備が疎かになってしまわないでしょうか。相手が危険人物かもしれないということを考慮すると‥‥」
 そんなローズに対して、心配しすぎだと御子が声をかける。
「たぶん、ただの変態さんだと思うよー。ジルベリアでも、昔からあるお話みたいだし」
「変態ならそれはそれでアウトだと思うのですけれど!?」
「とりあえず――楽しもう? 心配事も考え事も横に置いて、家族とクリスマスを楽しもうよ」
 それに、と御子に続いてエラトが口を開く。
「あちらには白鵺さんがついていますから‥‥なんとかなりますよ」
「だといいのですけど‥‥」
 そう、この場に白鵺はいない。彼女は依頼人である老人に連絡を取って、そちらと合流することにしたのだ。

 場所は変わって開拓者ギルドの待合室。分かりやすい場所として、老人が白鵺にここを合流場所と指定したのだ。
 赤い服を着た老人がギルドに入ってきた。話に聞いた通り、痩せこけているのに弱弱しさはまったく感じさせない。
 話と違うところがあるとすれば、今日の老人は大きな風呂敷包みを背負ってるぐらいか。
 白鵺は老人に近づき声をかける。
「あの‥‥あなたが依頼人ですね?」
「ひょっひょ、ワシと会いたかった理由はなんじゃ」
「はい。実は――」
 白鵺が語る理由。それは、老人の助手として働きたいというものだ。これは老人を監視する為でもある。
「志は素晴らしいと思いますが、御老人に無茶をさせる訳には参りません。ですので助手として使って下さって結構ですよ」
「ふぅむ‥‥」
 老人が片目でじろりと値踏みするように白鵺を見る。白鵺は視線を逸らさずに、それを真正面から受け止める。
 しばしの沈黙。先に口を開いたのは老人だ。
「‥‥ま、えぇじゃろ。手が足りんのは確かじゃしな」
「ありがとうございます」
「じゃ、時間もないしのぅ。ついてくるんじゃ」
 老人は立ち上がるとさっさとギルドの入り口へと向けて歩き出す。白鵺はその後について歩くのだった。

●聖夜の宴
 場所は再び孤児院に戻る。
 孤児院の食堂を会場として、飾り付けや料理の準備といった作業を行っていた。
「‥‥その格好はなんですの?」
 ローズが声をかけたのは禾室だ。料理をするということで、何故か服を着替えたのだが‥‥。
「人を喜ばす物と言えば、やっぱり美味しい料理じゃろ! そして料理とくればメイド服じゃ!」
 という理由かららしい。
「天儀ではそういうものなんですの?」
「うむ!」
 首を傾げるローズに自信満々に言い放つ禾室。ローズの天儀知識がまた1つ誤解で埋まったようだ。
「そういうローズの格好はなんじゃ?」
「う‥‥」
 聞かれたローズはいつもの服ではない。赤と白を基調とした、毛玉がついた衣服である。ついでにミニスカ。
 ジルベリアの伝承を元につくられた、所謂サンタ服だ。
「その、子供を不安がらせるわけにはいかないから、これを着て雰囲気を和らげるようにって‥‥羅轟さんが」
 というわけで、羅轟が持ち込んだ服を貸したらしい。
 子供の為にパーティーを壊さないように‥‥と言い含めたところ、子供の事を思ってか素直に言うことを聞いたようだ。
 何はともあれ、
「では、せっかくのパーティーですしちょっと豪華なお料理もあったりした方が良いかもしれませんわね」
 エプロンをつけてフリージアも台所に立つ。どんなものを作ろうかと考えていると、案を出したのは禾室だ。
「んー、ここはやっぱりジルベリア風で‥‥具がたっぷりの熱々シチューとか、香草を詰めて焼いたチキンとか、ほかほかのパンとか‥‥」
「禾室さん、涎」
「おっと、わしが食べたいだけじゃないぞ!? 子供達の要望も出来る限り応えるぞ! わしの料理人魂が火を噴くのじゃー!」
 燃えている。禾室の料理人魂が熱く燃えている。
 ですが、とフリージアが困った風に表情を曇らせる。
「私はそれ程腕に覚えがあるわけではありませんので‥‥」
 ジルベリア料理、ということで視線をローズへと移すが。
「う、その‥‥。本当に簡単なものならともかく、私もちょっと‥‥」
 お嬢も料理は得意というわけではないらしい。
 彼女らの会話を聞いていたのか。マサが仕方ないと腕を捲くり台所へと立つ。
「ジルベリア料理は得意ってわけじゃねぇが‥‥やってやるよ」
「‥‥面目ないです」
 こうして包丁を握るのはマサと禾室の2人がメインで、他の者はそれの手伝いということになったのだった。

 さて、準備するのは料理だけでなく会場の設営もだ。主な力仕事は羅轟と蒼馬の担当だ。
 とはいっても、力を使う作業はあらかた終わり、細かい作業はエラトに任せていた。では、仕事の無くなった男衆が今何をしているかというと、子供達の相手であった。
「何か面白いことしてよー!」
「う、うぅむ」
 矢継ぎ早に面白いことをしてと言ってくる子供達。子供らしい無茶振りだ。
 こんな子供が10人もいるのだ。普段から世話をしているマサも大変だろうな、と考える蒼馬。
(血の繋がらない子を10人も世話するとは、マサという男、見上げたものだ。俺にも血の繋がらぬ娘がいるが‥‥)
「ねーってばー」
「む」
 子供の声で思考は現実へと戻される。何をすればいいか‥‥と考え、蒼馬は自分にできることということで、簡単な演武を始めた。
 男の子の受けは悪くない。だが問題は女の子だ、やはり女の子にはちょっとつまらないようで、退屈そうにそれを見ている。
 その様子を見た鏡華が女の子達に声をかける。
「それでは、こちらで一緒に遊びませんか? なんなら私の尻尾、触っていいですよ?」
 尻尾を触るという言葉にローズがぴくりと反応したような気がするが、気のせいかもしれない。
 ともかく、女の子の方は鏡華の元に集まり一緒に遊ぶことになった。
 鏡華が人魂で符を小動物に変化させたのを見て、目を輝かせる子供達。女の子は小動物には弱いらしい。
 子供好きらしい鏡華はその様子を見て、笑みを零す。残念なことがあるとしたら、男の子は蒼馬の演武に見惚れていることだろうか。
「ショタっ子とかたまらないんですけどね‥‥フフ。っと、危ない危ない‥‥これじゃあ私が不審人物ですね‥‥」
 実は蒼馬がいたいけな少年達を救った事を知る者は‥‥誰もいない。

 紆余曲折あったが準備は無事に終わり、パーティーが始まった。
 テーブルには料理だけでなく、エラトが持ち込んだクッキーやプティングが所狭しと広げられている。
「音楽は私にお任せください」
「では、私が合わせて歌いますね」
 エラトがトランペットで演奏を始め、楽しい音楽が辺りに広がる。それに乗せて響くはフリージアの歌声だ。
 やはり音楽があると盛り上がりが違う。御子の提案で始まったパーティーゲームも大盛況だ。
「よーし、じゃあ次は椅子の数を一気に2つ減らしてみようか! ちゃんと座れるかなー?」
「ふふん。わしはそう簡単に負けはせぬぞ!」
「‥‥いや、開拓者の禾室さんが本気出すのはどうかと思うけどなぁ」
 子供達の遊びはいつだって全開全力。本気で遊んでこそというものだ。そんな熱気に当てられたのか、御子も次第に本気を出してゲームに参加していた。
 その様子をローズは懐かしいものを見るように見ていた。故郷のパーティーを思い出しているのだろう。
 そんな彼女の背を羅轟がぽんと軽く叩く。
「‥‥また‥‥来年まで‥‥機会‥‥無いし‥‥行くと‥‥良い」
「べ、別に混ざりたいだなんて思ってませんわよ!?」
 顔を赤くして、ぷいとそっぽを向く‥‥が。
「‥‥まぁ、今日はせっかくのクリスマスですし。羽目を外してもいいかもしれませんわね」
 というわけで、ローズも輪の中へと入っていった。

●老人の仕事
 パーティーが始まってどれぐらい経っただろうか。
 扉が開く音に続いて足音が小さく孤児院に響いた。注意深く聞かなければ聞こえないようなものだ。
 しかし、警備に気を巡らせていた開拓者達の耳は誤魔化せない。足音はよく聞けば2人分。老人と白鵺だろう。
 白鵺がいるのならば今すぐ動く必要もないと判断しつつ、開拓者達は様子を伺う。

 さて、当の侵入者である老人と白鵺。2人は孤児院の子供達の部屋に向かっていた。当然、そこには誰もいない。
 老人が先に歩き、白鵺が風呂敷包みを背負いながらその後に続くという形だ。
 実はここに来るまでに老人はいくつもの別の家の前に立ち寄っていた。
(常に観察していたつもりですが‥‥)
 ふ、と気づくと風呂敷包みが軽くなっているのだ。老人が一体何をしたのかは分からない。だが、何かをしていることは分かる。
 考えていると、2人は子供達の部屋に到着した。
「ここが最後の仕事じゃ。そうじゃの‥‥あとでお前さんもパーティーに参加するとえぇ」
 風呂敷包みを解き、中身を見れば玩具やお菓子といった子供が喜びそうなものばかりだ。危険なものはない。
 やはり、老人は善意で動いているのだろう。そうなると、何故こんなことをしているのかが気になり、白鵺は問う。
「子供を幸せにするのが使命、そう言うのでしたら、その使命を帯びた理由は何でしょうか?」
 それに対して、老人は即答。
「ひょっひょ、子供を幸せにするのに‥‥理由がいるのかの?」
 老人が片手を白鵺に突き出し‥‥逡巡したあとに手を下ろす。
「いや‥‥依頼を出した以上、今更魔法で記憶を誤魔化しても仕方がないのぅ」
「え――きゃっ!?」
 一陣の突風。部屋の中なのに、だ。突然のことで白鵺は思わず目を閉じてしまう。
 目を開けた時には老人の姿は消えていた。その場に残ったのはプレゼントと白鵺だけ。
 見ようによっては彼女がプレゼントを配りにきたように見える。いや‥‥老人が言葉の通りに彼女の記憶を誤魔化せば、事実はそうなってしまった。
 あぁ、そうか。
「サンタクロースは‥‥本当にいたんですね」