旅立ちを迎えるお嬢
マスター名：刃葉破
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| ■オープニング本文 ジルベリアはとある小さな村。 その村に住む少女は悩んでいた。少女の名はローズ・ロードロール。騎士である。 「うーん、村の復興は大分進みましたが‥‥」 一旦は滅びた村だが、ローズ達村人の頑張りや開拓者のお陰で復興作業は大分進んでいる。普通に生活する分には支障が無いレベルだ。 それ自体は喜ばしいことなのだが、ローズは机の上に広げたノートを眺めて溜息をつく。 「随分と‥‥使っちゃいましたわね」 ノートは彼女の家計簿だ。それを見るに、ある日を境にして彼女の資産は面白いぐらいに減っている。勿論そのある日とは言うまでもなく、村の復興を始めた日だ。 騎士として数々の戦場をくぐりぬけたローズはその実力に見合うだけの収入を得ていた。そして大金を使うような趣味も持ち合わせていなかった為に、自然と金は貯まっていた。 だからこそ、躊躇うことなく資産を村の為に使う事ができた。その事について後悔はしていない。 ――が、 「それはそれとして‥‥お金が無い事は事実ですし‥‥」 お金が無い。それがローズの現在の悩みであった。 勿論普通に以前と同じような生活を送る上ならば問題はまったく無い。だが、以前のような貯金が無いということは不安ではある。 また村に何か事件が起こった時に、それを解決する為の資金が無いのだ。他の村人達も現在の生活でいっぱいいっぱいなところがある。 そうなると、手っ取り早い手段は出稼ぎに出ることだ。 「出稼ぎ‥‥ね」 ローズは以前開拓者になってはどうかと言われたことを思い出す。開拓者になるならば、ジルベリアを離れて天儀に向かう必要があるだろう。 彼女は窓から空を見上げる。この空は天儀とも繋がっているはずだ。 確かに開拓者ならば、ちゃんと依頼をこなしていけば収入を得られるだろう。数々の戦いを潜り抜けた彼女の実力ならある程度危険な依頼もこなせるだろうし、問題はない。 それに正直言えば、天儀に‥‥外に対して興味もある。自分の知らない世界、自分の知らない人々。そこはどんな場所だろう、どんな事が起こるだろう――と。 「いえ‥‥駄目ですわね。今、私が村を離れたらどうなることか‥‥」 首を振って天儀への想いを断ち切る。 以前、アヤカシに襲撃されたようなことがまた起こらないとも限らない。そう考えれば自分が村を離れるのは得策ではない、と。 大金が欲しければ、ジルベリアで危険な仕事をこなせばいい。‥‥もし表に無くても、裏にはあるだろうから。 「――ってな感じでお嬢が悩んでるのは皆知ってるな？」 そこは村の集会所。男性が周囲の人物にそう言うと、言われた側は皆一様に頷く。 集会所にはローズを除く村の住人達が集まっていた。彼女には内緒で集まっているのだろう。 ローズが悩みを村人達に明かしたことはない。だが、付き合いも長い村人にとってそれを察するのは容易いことなのだろう。 「俺たちゃお嬢の家族とも‥‥親とも言える。そんな俺達にとって、お嬢の旅立ちは‥‥寂しくもあるが嬉しくもある」 村人達がまた頷く。親世代ともいえる年齢の者は特に感慨深いようだ。 「娘の旅立ちを、親が引き止めちゃなんねぇ。だからこそお嬢には気持ちよく天儀に向かってほしい」 彼らは、ローズが天儀に興味があることも、村を離れられない理由も察していた。 だが村には復興の噂を聞きつけたのか、最近移住してきた者達もいる。復興を為し遂げる程のバイタリティに惹かれたのだろう。 そして、移住してきた者の中には志体を持ち戦闘ができる者もいた。ローズが思っているより、村の守りは堅い。 「村の守りに心配は無い‥‥って言ってもお嬢は頑固だからな。中々俺達の話を聞かねぇだろう」 そこでだ、と男は人差し指を立てて提案する。 「開拓者達に来てもらって、お嬢に天儀の‥‥開拓者の魅力を語ってもらうってのはどうだ？」 「ま、金は出せないから、そんな親切なやつらが来てくれるかどうかが最大の問題だわなぁ」 こうして、彼らなりのローズの送別会が行われることになる。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎（ia0102）26歳・男・サ 
佐久間 一（ia0503）22歳・男・志 
胡蝶（ia1199）19歳・女・陰 
羅轟（ia1687）25歳・男・サ 
ハイネル（ia9965）32歳・男・騎 
アルクトゥルス（ib0016）20歳・女・騎 
琥龍 蒼羅（ib0214）18歳・男・シ 
ルーディ・ガーランド（ib0966）20歳・男・魔 |
| ■リプレイ本文 ●準備 その日、村の外に用事で出ていたローズ・ロードロールは、帰ってから村の様子を見て目を丸くしていた。 「‥‥これはどういうことですの？」 何故か村人達が宴の準備をしているように見えた。 そして何より気になるのが、 「どうしてあなた達がここにいるんですの‥‥？」 「‥‥その、この間のアヤカシの痕跡を調べに来たのよ」 ローズの問いに答えたのは胡蝶（ia1199）。以前とあるアヤカシに襲われた時に助けてくれた開拓者の１人だ。 確かにアヤカシの調査ならば開拓者がやってくるのも納得ができる。 だが、開拓者がアヤカシ調査の為に動いてるようには見えない。むしろ村人と同じく宴の準備をしてるように見える。 「えぇと‥‥？」 どうしたものだろうかとローズが悩んでいると、そこに無月 幻十郎（ia0102）が声をかける。 「おー、帰ってきたか。けどまだ宴の準備が終わってねぇんだわ」 「え、いや、だから宴ってどういうこと――」 「んじゃ準備を待つ間に模擬戦といこうか。まぁ宴の前の軽い運動だ」 「何故そうなるんですの！？」 困惑した様子のローズに構わず、そこに３人の男女がやってくる。彼らは最近この村に移住してきた志体持ちの者だ。 暑苦しそうな男、落ち着いた雰囲気の眼鏡をかけた男、気だるそうにふらふらとしている女の３人だ。 「へっ！ どうやらあんたは自分がいなきゃ村を守りきれねぇと思ってやがるようだが‥‥そんなことはねぇってこの俺様が教えてやるぜ！」 「まぁ、見くびられるのはあまり好きではありませんので」 「‥‥帰って‥‥寝たい‥‥」 「１人、明らかにやる気が無い人がいるんですけど」 どうしてこうなったのかと、溜息をつくローズ。 だが経緯がよく分からないとしても、挑まれた勝負に背を向けるのは彼女としても気に入らないのだろう。 「分かりました、戦いますわよ。‥‥終わったらちゃんと説明してもらいますわよ」 「おう、分かってるって。あぁ、ルールの説明とか審判は俺がやるぜ」 こうして、ローズは３人は志体持ちと幻十郎と一緒に村の離れへと移動する。模擬戦の為だ。 ローズ達が模擬戦を行っている頃、他の開拓者達は宴の準備をしていた。 勿論宴というのはローズの送別会のことであり、開拓者達はその為にここに集まったのだ。 胡蝶だけは彼女の言い分を信じるなら、偶然居合わせたので協力することになったらしい。‥‥あくまでも信じるなら、だが。 大人数での宴ということもあり、村の中心部の広場を会場とすることになった。 そこにテーブルを運び終えたルーディ・ガーランド（ib0966）が額の汗を拭きながら、設営の進み具合を確認する。 いざという時の屋根もできたし、宴会場としては大分形になっているのが見える。 「準備も楽しみのうちってな。さ、次は何をしようか？」 何かやれる事があるかと見渡せば、もふらの面をつけた大男が割烹着を着て料理をしているのが見えた。 料理をしているのは羅轟（ia1687）だった。見る限り天儀料理の腕は見事と言えるものだが、村の女性達に混ざって料理しているその姿は異様とも言える。 佐久間 一（ia0503）もその中に混じって料理の手伝いをしているのだが、こちらはあまり違和感は無い。だからどうだというわけではないのだが。 料理がある程度ひと段落ついたところで、一は先程から気になっていた事を羅轟へと問う。 「羅轟さん、いつものお面はどうされたんですか？」 ちなみにいつもの面とは金属製の面頬のことである。 すると、羅轟はもふらの面を少しずらして顔を見せて答えた。 「‥‥今は‥‥アレは‥‥物々しい」 せっかくの宴なのだから、面もそれに相応しいものにしようということなのだろう。 そして羅轟はまた黙々と料理を続ける。ちなみに材料はここに来る前に彼が自費で買ったものだ。 そんな彼の隣では、琥龍 蒼羅（ib0214）がやはり黙々と食材と格闘していた。 「むっ‥‥いや、これはまだだな。本物のお好み焼きにはまだ遠い‥‥！」 彼が作っているのはお好み焼きだ。ジルベリアどころか、天儀でも都の方でしか中々食べられない料理である。 それを、過去に依頼で得た調理経験を元に、食材を代用して作ろうというわけだ。肝心のソースは持ち込んである。 とはいえ、代用した食材で満足なものができるかどうかは別だ。食材の相性もあるからである。 そんなわけで、蒼羅は先程からお好み焼きを作り続けているのだ。 「おーい、ルーディ殿。手が空いてるならちょっと手伝ってもらいたいのだが」 一心不乱に料理と戦っている男性を見ていたルーディに声をかけるはアルクトゥルス（ib0016）だ。 彼女は料理は不得手というわけで、ルーディと同じく会場の設営に精を出していた。 「場合によっちゃ敷物引いて車座になった方がいいかもしれないと思ってね。呑むなら特にだ」 なので、ルーディに敷物の確保やら運ぶのを手伝ってほしいというわけだ。 「別に構わないけど‥‥」 そんなルーディの目に入ったのは、アルクトゥルスの荷物だ。‥‥かなりの量の酒がある。 天儀酒を始めとして、古酒にヴォトカやワインと相当の量だ。 「ん、これか？ せっかくの宴だからな。やっぱり酒はいるだろ？」 ジルベリアの酒はわざわざ現地で仕入れる程の徹底ぶりだ。料理が出来ないなりに盛り上げようという意気込みがよく分かる。 こうして、宴に向けての準備は着々と進んでいく。 村の様子を見てまわっていたハイネル（ia9965）が設営に合流しながら、皆に先程見たローズ達の様子を伝える。 「フム、模擬戦を少し覗いてみたがもう少しで決着がつきそうな様子であったな。彼らも、すぐに合流するだろう」 言った直後、ローズと３人の志体持ち、幻十郎が会場へやってくるのが見えた。 微妙に膨れっ面なローズやどこか晴れやかな様子の志体持ちから推測すると、ローズが負けたのだろう。 「むぅ‥‥１対１じゃ負けませんのに‥‥」 ●宴 ローズ達が会場に到着し、彼女の手に杯が手渡される。 相変わらず事態を把握していない彼女をよそに、村の代表である男性が乾杯の音頭を取る。 「それじゃあ、お嬢の旅立ちを祝って‥‥カンパーイ！！」 「乾杯！！」 ここに来てローズはようやく宴が誰の為に行われるのかを知り、だがローズは首を横に振る。 「私の送別会‥‥でも、私が村を離れると守りが‥‥！」 しかし、ローズの声を遮るように志体持ちの村人が言葉を挟む。 「おぉっと、村なら俺様達に任せろよ！ 俺様がいれば村は絶対安泰間違い無し！！」 「‥‥村を任せろ、という言葉は否定しませんが」 「‥‥うざい‥‥言葉を選んで言うと‥‥死んでほしいぐらいうざい‥‥」 「お前ら酷くね！？」 こんな３人に任せて大丈夫なのか、と不安になる気持ちは分からなくはないが、そこを羅轟が何とかフォローする。 「話を‥‥聞いたところ‥‥彼らの実力も中々の者‥‥任せていい筈‥‥」 敢えて人間性には触れない。 ローズの背を押すように、村人の１人が開拓者達に声をかける。 「よっしゃ、んじゃ天儀がどんなどころかいっちょ話してくれよ！」 それに答えるは、ジルベリアから天儀に渡ったアルクトゥルスだ。 「そうだな‥‥。まず、一年通して比較的温かいってのがあるな。夏の暑ささえ凌げは冬でさえ薄着が出来るぐらいだ」 得意げに言うアルクトゥルスだが、冬の薄着に関してはその場にいた開拓者達が全員同時に『ナイナイ』と手を振る。 「えっ。あー‥‥私はジルベリア北部出身だからな。そのせいもあるかもしれん」 アルクトゥルスの言葉を受けて、一同の視線が同じく北部出身のハイネルへと集まる。 「いや、私に振られても困るのだが‥‥」 「そこは頷いてほしかったが。あぁ、そうだ。じゃあこんなのはどうだ？ 天儀には美味しい物が多いんだよな、これが」 天儀は交易が盛んだからか、様々な国の食材・料理が味わえるというのをアルクトゥルスが語る。 その言葉には羅轟も頷く。 「天儀‥‥泰‥‥料理‥‥色々」 そこに更に蒼羅が苦労して作ったお好み焼きがローズへと差し出される。 「天儀なら、ジルベリアじゃ食べられないこんなのもある」 「く‥‥食欲を刺激するこの香り‥‥侮れませんわね！？」 ローズのお好み焼きを食べる手が止まらないことから、彼女が気に入ったことが分かる。 アルクトゥルスの天儀セールストークはまだ続く。 「後は殴る相手には困らないってのもあるな」 「‥‥いえ、別に私そういう趣味はありませんけど」 「あぁ、いや、活発で強力なアヤカシが多いって意味だよ。お陰で食扶持には困らない」 「む‥‥」 天儀に旅立つにあたって気になる事のひとつでもある収入。それに関する事が聞けたのか、ローズは少し考え込むような素振りを見せる。 暫く経ってから、ハイネルも自分の考えを纏めることができたのか口を開く。 「さて、天儀・開拓者の魅力についてか。何にせよ、見聞は広まるかと思われる」 語りながら、彼が思い出すのは開拓者になったばかりのこと。 「なに、私も開拓者になる前は一介の雑兵であった者、天儀は新鮮味に溢れていてな、幾度となく驚いたものだ。人も、生活も、多様なものであったのだな、とね」 そして、新たな出会いもあった。 「全く、世界は広いものだよ、お陰でまた護るべき者が増えてしまったよ‥‥」 一瞬嬉しそうに笑うハイネル。護るべき者が増えるというのはより大変になるということだが、その苦労も嬉しく感じる‥‥新しい出会いがあるというのはそういうことだ、と。 ハイネルに続いて、同じくジルベリア出身のルーディが話し始める。 「僕もジェレゾ出身‥‥まあ、ジルベリアから天儀に渡ったクチだ」 彼が言うには、天儀への好奇心が抑えられなかったらしい。 ルーディが語るは‥‥恐らく、ローズが一番気にしている部分。 「確かに天儀に行かなきゃいけないんだけど、依頼でこっちに来ることは珍しくないし、そうすればついでに様子を見る事だって出来る。僕も現に、ジェレゾの近くの依頼を受けて時間があったら、実家に寄ったりしてるしさ」 天儀に渡るとなると、村人たちと別れなければならない。だがルーディは言う。会いたければ会うのは難しくない、と。 その点はローズにとってかなり重要なんだろう。話を興味深そうに聞きながらも、彼女達を見守る村人へとどうしても視線がいく辺りから窺える。 ジルベリアに来るのはそんなに難しくない、それを示すようにルーディが言葉を続ける。 「出身地はバラバラとはいえジルベリア出身の開拓者も結構ここにいるしね。‥‥ちょっとした同窓会みたいだな、こりゃ」 今回集まった開拓者のうち、ジルベリア出身の者はルーディ、アルクトゥルス、ハイネル、そして胡蝶の４人だ。 そのうち、今まで黙っていた胡蝶が口を開く。 「どうせ天儀に渡るなら、この村をジルベリアで１番有名な村にしてみたら？」 「天儀に渡るのに、この村を有名に‥‥ですの？」 話がよく分からないと首を傾げるローズに、胡蝶が答える。 「あの名高い開拓者、騎士ローズ・ロードロールの故郷だと、ね」 つまり天儀でローズが有名になれば、故郷のこの村も有名になるだろうということだ。 これなら天儀で活躍する事が故郷の村の為になることになる。ローズの興味と村の復興を両立できる理由を与えようと胡蝶は考えているのだ。 村が有名になるということは、村にやってくる人も増えるだろう。つまり、 「この村をさらに豊かにできる、絶好の機会が今なのでない？」 「私がこの村を‥‥」 ローズは見守ってくれている村人へと振り返る。村人達は皆笑顔で―― 「帰る場所があって、見送ってくれる家族が居る‥‥良いことじゃない」 だからこそ、そんな恵まれた旅立ちができるローズを、胡蝶は少し羨ましく思った。 自分に言えることはここまで、と胡蝶はやはり偶然持ち込んでいたヴォトカを村人達へと振る舞いながら、横笛を取り出す。 「さて‥‥タダで宴に招かれるのもなんだし、何か返礼を‥‥」 宴の席の余興と演奏を披露する胡蝶。これもまた、天儀で学んだことだ。 彼女の演奏を肴に、幻十郎は村人の親世代と思われる人物に酌をしながら話を聞く。 それはローズが子供の時はどんな子だったのか、今までどんな事があったのかなどだ。 「生い立ちは幸せとはいえねぇもんだったけどよ、あんなに真っ直ぐ良い子に育ってくれて‥‥」 「へぇ〜そうだったんかい、ってことは、皆の自慢の娘ってことかねぇ」 「あたぼうよ！ そんなお嬢なら天儀だろうが立派にやってくれるって信じてるぜ」 村人達のローズについて語る時の顔は本当に幸せそうな‥‥愛娘について語るそれだ。 その様子を微笑ましく見ながら、一が追加の酒をローズへと注ぎながら声をかける。 「ふふ、やはり村の皆さんは貴女と強い絆で結ばれていますね」 少し羨ましいかも、と一が思わず言ってしまうのも無理は無い。 村の子供達にお土産を渡した時に聞いた話でも、皆がローズの事を慕っているのがよく分かったからだ。 「もし、故郷が寂しいというのであれば手紙の交換をするというのはどうでしょうか？」 絆の結びつきを知っているからこそ、手紙でやり取りをしてみてはと提案する一。郵送はきっとモヒカン商人にでも頼ればなんとかなる。 こうして開拓者達の言葉によって背を押されたローズが、ぽつりと呟く。 「‥‥いいんでしょうか。私、天儀へと渡っても。我が儘じゃ、ないんでしょうか？」 羅轟がローズへと言葉をかける。 「親も‥‥たまに‥‥わがままを‥‥言われたい‥‥ものだぞ？ 今まで‥‥良くして‥‥貰った‥‥ならば‥‥なお‥‥な」 それを聞いて思わず笑う村人。恐らくは過去にローズの我が儘に何度も振り回されたからだろう。お嬢の我が儘は今更だ、と。 そこに蒼羅が更に背を押す。 「‥‥月並みな言葉だが。どれほど距離が遠くとも、心の繋がりは変わらない。少しぐらいは、自分の気持ちに正直になっても良いのではないか？ それが村の者達の望みでもあるのだからな」 村人達が皆一様に頷く。 やりたいようにやれ。それでこそ俺達のお嬢だ、と。 それを受けてローズが顔を伏せ‥‥しばらくしてから顔を上げる。目元には光るものがあるが、表情は笑顔。 「‥‥こんなに応援してもらっては、引き下がれませんわね。分かりましたわ、私、天儀で立派な開拓者になってみせますわ！」 ローズの宣言を受けて盛り上がる場。アルクトゥルスが酒を追加して盛り上げに手を貸す。 「おじょ――ローズ殿の送別会だけでなく、天儀への歓迎会にもなるってわけだ」 ルーディが杯をローズへと差出し、告げる。 「それじゃ‥‥ようこそ後輩、ってところかな」 「えぇ、よろしくお願いしますわね。先輩」 乾杯の音がその場に響いた。 |
