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■オープニング本文 緑茂の戦い。人とアヤカシの双方に数多の犠牲を出しながらも、その激突は未だ絶える気配を見せぬ、本合戦。 次々と確認される敵の増援を前に、徐々にあちらの進攻も勢いを増し、それに対抗する開拓者側にも焦りと疲労が見え隠れし始めていた。 そんな中、緑茂の里にて陣を張っていた開拓者たちのもとへと届いた、ある報せ。 「報告します。この里より北東、魔の森近辺に位置する集落が、アヤカシの襲撃に会った模様です」 「うむ‥‥」 それは、前線から少々外れたとある村を、アヤカシが制圧したとの内容であった。 やはり優先すべきは最前線の維持であり、如何してもそこから溢れたアヤカシへの対処が疎かになっていた開拓者達。里で待機している者たちを手配し、このような事態へも対応できるようにはしていたが、それでも完全に人間の集落を護るのは困難な状況にあったのだ。 「その村における村人たちの被害状況はどうなっている?」 「はい。既に村人は全員避難しており、村人達自体にはあまり被害は出ていないようです」 「そうか。ならば‥‥」 顔を顰めつつ、苦そうに言葉を吐く指揮者。ならば‥‥、その次に発せられた言葉は、現状をそのまま維持すること――つまり、村自体の放置を意味するものであった。 既に戦いは熾烈を極めている。村人が取り残されてでもいない限り、その村の破壊は致し方ない。口ではそう言うものの、やはり苦渋の選択であるのもまた、ひとつの事実だったのであろう。 そんな、別に何らおかしい様子はない会話。だが、この話には少し続きがあった―― 「あの、それが‥‥、如何やら、アヤカシの小隊が、その村に陣を据えたようなのです」 「何だと!?」 ――陣。そう、つまりは、村を制圧したアヤカシはそのまま単に村を破壊して終わるのではなく、そこをある意味での拠点にしようとしていたのだ。 ただ大部隊から溢れただけのアヤカシが暴れるだけなら、さほど問題ではない。なぜなら、その程度であれば開拓者を数人向かわせ、排他すれば良いだけのことだからである。 だが、そいつらが拠点を据え、陣を敷くとなれば話は別だ。 場所は丁度前線から南下した辺り。もしここに敵の勢力が固まれば、最悪、北のアヤカシ軍勢と戦う開拓者の部隊に、横から槍を刺されかねない状況になる可能性も否めない。 「至急、精鋭を手配しろ。何としても、敵の陣が強大化する前にアヤカシどもを駆逐するのだ!」 「御意に」 地に血は滴り、鉄の臭いに塗れた風は集う。 それでも、これ以上敵の勢いが増す前に。 嘆きの村にて今、新たな戦いが幕を開けようとしていた。 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
香椎 梓(ia0253)
19歳・男・志
柄土 神威(ia0633)
24歳・女・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
虚祁 祀(ia0870)
17歳・女・志
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 開拓者達は村に着くなり行動を開始する。 流石に熟練の者達だけあって、その動きによどみは無い。 生存者の捜索と平行して索敵を行い、集まっていた九体の位置を敵に見つからず把握、捜索終了後、釣りだし作戦に移行。 見事という他無い動きである。鴇ノ宮 風葉(ia0799)が途中で飽きたのか、後よろしくとか抜かしてサボっていたのはさておき。 しかしこれから先は楽も出来ない。 犬神・彼方(ia0218)は皆に気合を入れるよう促す。任侠一家を率いているだけあってこういうのは堂に入ったものである。 予定通り、もう見事にハマりすぎて言葉も無い程完璧に、カボチャ型アヤカシのみをおびき出す事に成功。 八人がかりでめっためたのぎったぎたに叩きのめす。 途中、鎌が何故か服に当たりそうになったのだが、策が功を奏したせいか、当たってやれる程余裕の無いような状況でもなかった。 全てを斬り倒した所で、虚祁 祀(ia0870)と巫 神威(ia0633)の二人は不安そうに顔を見合わせる。 「どう思う、神威」 「流石に出来すぎです。少し注意を促した方がいいかもしれません」 生存者の捜索に使ってしまっているが、嫌な予感がした二人は香椎 梓(ia0253)に心眼を頼もうとする。 が、僅かに遅かった。 「くっ!」 「‥‥不覚です」 「しまったっ」 何時の間に近寄って来ていたのか、足音も気配すら感じさせぬ蜘蛛型アヤカシ三体に囲まれていたのだ。 三体は糸を吐き、奇襲で狙うは近接の三人。梓、神威、祀だ。 どうやら、かぼちゃとの戦闘を見ていた模様。 一息に吐き出せる限界まで噴出した糸は、それぞれ警戒を怠っていなかった三人をも捉え、身動きを封じてしまう。 風葉は冷や汗をたらしながら、とある一方を指差す。 「やっばー、六本腕まで来ちゃってるわよ」 彼方は皆を鼓舞するように怒鳴りつける。 「予定はかわらねぇ! 俺と風葉で六本腕を引き付けるかぁら残った連中で蜘蛛は何とかしろ!」 蜘蛛は三体、残りはちょうど三人、近接三人が糸をどうにかするまで、それぞれ一対一で何とか持ち堪えなければならなくなってしまったのだ。 霧崎 灯華(ia1054)は接近戦は望む所と短刀を握り締める。 「思いっきりヤってやろうじゃない♪ 楽しませてくれるといいんだけど?」 逆手の指に挟んだ呪殺符振りかざすと、腕の先より衝撃の刃が放たれる。 ちょうど蜘蛛の口から吐き出された糸を真っ二つに裂き、顔を深く傷つける。 しかし、斬撃符で二つに裂かれた糸の束はそれだけでは勢いを失わず、灯華の体に巻きついてくる。 短刀で切り落そうとするも、中々に硬く粘り気があるせいか、思うようにいかない。 「‥‥何、これ?」 装備を剥がれるとは聞いていたのだが、どうやら糸を伝って蜘蛛が粘液のような物を口から放っている模様。 これが触れると、衣服の部分が溶け出すようなのだ。 金属は残るみたいだが、布地の部分が溶けてしまっては体にまとう系の装備はほとんど脱げてしまうだろう。 現に灯華の服も、糸が絡みついた箇所を中心にほつれ、ほどけてきている。 両腕を封じる、そんな意図があったか、とりあえず何処でも良かったのか、両方の肩口を糸で絡めとられた灯華は、剥き出しになった脇の下や肩口を伝う粘液に眉をしかめる。 かまわず動くと白い粘液が跳ね、頬に張り付きねっとりとねばりつく。 「うわ、顔にかかったじゃない、気持ちわる〜」 服の袖が完全に胴と分かれてしまい、二の腕と、脇の下から胸の側面にかけてが露になる。 きゅっと締まった脇から、逆にくびれた横胸に至る曲線は、やや控えめでありながらしかし女性であると主張する優雅で美麗なものであり、糸から零れる粘液が、白く、乳色に薄く彩る。 女性ならば色々と思う所あろうが、灯華はそれがどうしたと吸心符を放る。 「一滴残らず搾り取ってあげるわ」 水月(ia2566)は巫女であるし、そもそも後方支援に特化したスタイルである。 本来ならばこうして敵と直接対峙するような事も無いのだろうが、場合が場合であるだけに文句も言えない。 それでも小柄すぎる体で健気に扇子を構える姿は、見るものが思わず笑みを溢す程の愛らしさを伴う。 もっともそのような感傷などアヤカシに求める事も出来ず、遠慮とか容赦とかが著しく欠けた蜘蛛の糸に、あっという間に絡めとられてしまう。 「‥‥‥‥っ!!」 四肢を封じられ、身もだえする様はまるで罠に捕らえられた小動物のようである。 じたじたと抵抗するも、糸から垂れ滴る粘液は徐々に、徐々に水月の衣服を侵食していき、本来慎ましやかなたっぷりとした袖が、体型がわかりずらい緑色の袴が、幾枚も重ねた上着が、失われていく。 頬をほんのりと赤らめ、涙が零れぬようじっと堪えながら蜘蛛を見やる水月。 時間を稼がなければ、その一心で恥辱に耐える水月は、ずりっと大きくずれ落ちそうになった上着を慌てて手で抑える。 次は滑り外れそうな袴を逆の手で抑えると、これ以上、身動きが取れなくなってしまう。 もう限界っ、そんな顔で、しかし必死に我慢を続けるのだ。 叢雲・暁(ia5363)は流石にシノビだけあって、不意打ちでなかった事もあり、初弾の糸は回避しきれた。 しかし敵もさるもの。 暁の動きが俊敏であると察するなり、糸を広範囲に放ち、少しづつでも動きを鈍らせにかかる。 最初から粘液をたっぷりとしたたらせた糸は、触れただけで暁の衣服を腐食させる。 それでも暁の動きが鈍る事は無いのだが。 「最強のNINJAは全裸なのだよ!」 とりあえず言葉の意味がわからない。 「故に気にしない!何れは到達すべき境地!」 いやもう本当に。 ただでさえ少ない布地がはだけにはだけて、小麦色の健康的な肌の露出比率が跳ね上がる。 金の髪と肌の色とのエキゾチックな対比、おいおい自慢かこんちくしょー的に肉感的な胸、可愛らしくくびれた腰にきゅっと突き出たお尻、更に十五歳の若々しく瑞々しい照り返すような肌。 乳白色が映える事、映える事、その上で今にもずり落ちそうな衣服なぞ当人まるで気にせず飛び回るのだから、見ている方が恥ずかしくなってしまいそうである。 最初の不意打ちで糸に絡めとられてしまった神威は、何とかこれを脱しようと全身に力を込める。 これで少しづつ千切る事は出来るようで安堵するが、このままではどうにも時間がかかってしまう。 さて、どうしたものかと考えた所で、糸のもう一つの特性に気づいた。 「‥‥嫌な予感がするのですがきっと気のせいですよね」 良く見てみると、どうやら糸には僅かながら粘液が滴っているようで、蜘蛛の口から外れた今のままでも、衣服を溶かす効果はあるようだ。 「若干攻撃が変態に思えるんですけど、気のせいでしょうか?」 裸体を楽しむアヤカシとか、どんな負の瘴気から生まれたんだと。 無論そんなモノが居るはずもなく、戦術的に優位に立ち回るべく動いた結果がコレなのであろうが。 屋外で、それこそ恋人でもない相手に肌を晒す趣味なぞない。 神威は必死になって糸を外しにかかるが、少し離れた場所に居る唯一の男性である梓が、おずおずと申し出る。 「とりあえず私はそっぽ向いてますんで、おかまいなく」 「全力で構います!」 「いやぁ、流石にその素晴らしい体型を目にしては私とて冷静でいられる自信が無いものですから‥‥」 実際にそうかどうかはさておき、その表情はおちょくる気満々といった所だ。 「‥‥見え、ましたか?」 「いえいえ、その程度の配慮は私とて出来ます。何処もかしこも似たような状況なもので、目のやり場に大層困ってはおりますが」 二人が馬鹿言い合っている間に、祀は完全に糸を脱しきっていた。 奇襲糸は、どうやら足にまで至らぬようそこだけはかわしていた模様。 「神威、外すの手伝う」 「えー」 「梓さんはそこで文句言わないで下さい」 最低限の戦況把握以外は、極力蜘蛛による桃色惨事を見ないようにしている彼方。 「色即是空色即是空‥‥後で嫁に怒られない様にしなぁいとなぁ‥‥」 そんなことを言ってはいるが、実際六本腕を相手にしていて他所見も難しい。 風葉が攻撃したいのを我慢して回復や支援に回ってくれているおかげで、何とか持ち堪えてはいるが、いつまでもこうしていられるとも思えない。 何せ六本腕は手が多いだけに攻撃回数も多く、力も強い。 回復が無ければとうに地に伏せていたであろう。 何度殴っても治ってしまう敵に、業を煮やしたのか六本腕はそこらに落ちていた蜘蛛の糸を拾い上げると、何と後ろの風葉に向けて投げつけた。 たっぷりと腐食粘液を染み込ませた糸だ、これをびたーんと正面からもらってしまったのだから風葉はたまらない。 「う、うわっ! 何よこれ! って、溶けるってこれヤバイって!」 舌打ちしつつ、六本腕に呪縛符を放つ彼方は、ちらっと風葉を見た後、感想を述べるのをやめた。 目ざとい風葉は彼方の心の動きを察したらしい。 「む、胸が薄くて何が悪いッ!?」 「‥‥人がせっかく気ぃを遣って黙ってたぁんだからつっこむなよ」 「うっさい! あーもうっ! 燃えてなくなれこんにゃろー!」 回復無視して火種を使い出す風葉。これは、ヤケになったのではなく、風向きが変わった事をわかった上での行動であった。 今にもへたりこみそうな水月を覆っていた糸を、瞬時に斬り落した祀はそのまま支援を頼むと蜘蛛へと斬りかかる。 放たれる糸に対しては、速度をまったく落とさぬまま脇を駆け抜けこれをかわし、通りすがりに雁金を叩き込む。 回避と攻撃が一体となった斬撃に、蜘蛛は攻略する糸口すら見つけられず斬り倒された。 梓はというと、他の連中が動きにくくなってはまずいと先に六本腕の方に向かっており、残る女性陣は近接二人が戻ると瞬く間に蜘蛛を撃破してしまった。 「怪我は?」 祀が問うと水月はふるふると首を横に振る。 他の面々も怪我は無いようだし、問題は、ほんのちょこっとだけなので六本腕に向かった。 戦闘の途中で風葉が梓に目を瞑るよう強要したとか、抗議する梓にも神威や水月を初めとして味方が一人も居なかっただとか、まあ、大した問題ではなかった。 完全にアヤカシを駆逐すると、一部別にどーでもいいよーとかぬかす女性陣を説得し、着替えを済ませてから指揮者の下へと帰還した。 結構な数と能力であったのに見事全てを撃退した開拓者達にねぎらいの言葉がかけられる。 最前線にも近く、一度は完全に見捨てられた村である。 これが再び繁栄を取り戻す日は、もしかしたら来ないのかもしれない。 それでも、やるべき事をこなした開拓者達の表情は明るい。 彼等はこうした細かな勝利の積み重ねこそが、大きな前進、大勝利へとつながっていくと知っているのだから。 (代筆:和) |