彷徨える者たちへ
マスター名:羽月 渚
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/01 22:58



■オープニング本文

 時刻は静寂と闇に包まれた真夜中。
 辺りには獣の鳴き声が時々聴こえるだけ。そんな人気のない森の中を、1人の男が歩いていた。
「随分と遅くなっちまったな〜‥‥」
 周りを見渡しつつ、頼りない提灯の灯り1つを片手に歩く男性。
 遅くなった。そうボソリと呟いた彼だが、今日は用事で少し離れた町へと遠出していたのだ。
 だが、そのまま予想以上に時間を食ってしまい、気づけば辺りは既に真っ暗となっていた為、慌てて村を出たはいいものの、さすがに今の状況を考えると一晩宿を借りれば良かったと彼は後悔する。
 しかし、それもそのはずだった。何故ならば、
「まさかとは思うけど、噂のアレには出くわしたりしないだろうな‥‥」
 アレ――と呟かれた男の一言。その言葉が表す通り、最近この森でアヤカシが目撃されていたのだ。
 しかも、既に犠牲者となったと思われる人物まで出ている始末。正直、こんな森からは一刻も早く立ち去りたい。
「ちっ、こんなことになるなら酒なんて飲まなきゃ良かったぜ」
 足を急ぐ為か、薄い草鞋には既に泥がたくさん付着している。だが、もう少しだ。あと少しで森は抜けられる。そう思い、彼がホッと一息ついた――その時だった。
「ん‥‥」
 ふと肩に感じる違和感。続いて脚にも。
 虫か? いや、違う。もっと大きな何かだ。そう思い、彼が思考をする間僅か1秒弱。その瞬間を跨いだ後、彼は目の前に最も恐れていたモノを目撃していた。
「あ‥‥あ‥‥」
 声もろくに出せず、ボタッと手に握った提灯が地面に落ちる。その後、彼の悲鳴は誰にも聞かれることなく、虚しくも闇の中へと消えいくのだった。

「例の話、聞いたかい? また出たらしいよ。これで4人目だってさ」
「ああ、聞いた聞いた。何でも丁度働き頃の男だったらしいじゃないか。残念だねぇ」
 その日を境に、森の近くに位置する街には、とある噂が広まることとなる。
 日が沈んでからは、絶対に森に入ってはならない。行けば、魂を取られてしまうから、と。
 そして、そんな噂と同時に広まったもうひとつの話。それは――
「おっかぁ! 今日カイタクシャって人達が街に来るんだよな!?」
「しっ、あんまり大きな声で言うんじゃありません!」
 開拓者。そう呼ぶ人物をイメージし、目を輝かせる童に対し、母と思しき人物は慌てて彼の口を抑え込む。あまり、開拓者に良い印象は抱いていないのであろうか。
 とは言え、それも仕方ないのだろう。身体能力が常人とはかけ離れた存在だ。一般人からしてみれば頼りになると同時に、恐怖も感じる存在なのかもしれない。
 だが、何よりも言えることが、1つだけあった。
「俺、おっきくなったらカイタクシャになるんだ!」
 そう少年が自慢げに一声放った顔から分かるように、彼が開拓者に対して何よりも憧れを持っているであろうことを。

 かの者たちが森に入りし刻は、満月らしい。
 月だけが見据える悪しき森を舞台に、如何なる光景が繰り広げられるのか。
 宜しければ、黄泉へと続く森の中でお会いしましょう――


■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
雪ノ下 真沙羅(ia0224
18歳・女・志
周藤・雫(ia0685
17歳・女・志
蘭 志狼(ia0805
29歳・男・サ
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
桜木 一心(ia0926
19歳・男・泰
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ


■リプレイ本文

 真昼の賑わいは嘘のように静まり返った街に隣接する、比較的整備された小道。
 日が沈むまでは人通りも多いのだが、今となっては虫と獣の鳴き声が聞こえてくるだけ。そんな、少し不気味とも思える道を、街外れの森へと向かい進む、8人の影があった、
「美しい満月よなぁ。このような月夜には酒が良く似合うだろうに。さっさと無粋なアヤカシどもは滅ぼして、美味い酒が飲みたいものよ」 
 その中の1人、紬 柳斎(ia1231)は遥か彼方に輝く月を見上げながら呟く。柳斎の手には街で借りた提灯が持たれていたが、どうやら今日は予想以上に月明かりも明るい様子。
 くっきりと星が見える空に架かった白銀の橋。その美しさに心が洗われる感覚を覚えた彼女は、戦いのあとの一杯を楽しみに、腰に携えられた太刀へと手を伸ばすのだった。

●彷徨える者達へ
 さて。いざ森へ入ろうにも、8人が一斉に入ったのでは警戒されてしまうかもしれない。
 当初の予定通り4人一組の計2班に分かれた開拓者達は、まず周藤・雫(ia0685)らの班から森へと入ることに。
「さぁて、どんなアヤカシが釣れるか、楽しみね」
「そ、その‥‥私、は、初めての、アヤカシ退治‥で‥。ちょっと‥だけ、怖くもあります‥けど、が、頑張り、ます‥‥!」
 アヤカシとの対峙が楽しみなのか、ケタケタと笑いつつ前髪に隠れた瞳を煌めかせる川那辺 由愛(ia0068)。
 一方その横では、彼女とは打って変わった様子の雪ノ下 真沙羅(ia0224)が、緊張した面持ちで言葉を発する。
 宜しく、お願い致しますっ! おどおどしながらも、そう勢いよく腰を曲げ挨拶した真沙羅は、その角度実に90度。うむ、初々しい姿が何とも可愛らしい。だが、思わずその瞬間にプルンと揺れる巨大な胸に目が行ってしまうのは、内緒だ。

「夜道での奇襲を仕掛けるアヤカシとはな‥‥。これも、何かの因果というものか‥‥」
 紅一点ならぬ青一点――なんて言葉はないが、こちらは班員中、唯一の男性である蘭 志狼(ia0805)が、目の前に続く黄泉への道を見据えつつ、ポツリと一言呟いた。
 曰く、夜道での奇襲は嫌な事を思い出すとのことだが、それについて深く語る様子はない。何か、彼の過去に原因があるのかもしれないが、ここでの余計な詮索は無用だろう。
 開拓者になる経緯。そこには、多種多様な各々の想いが、きっと込められているに違いないのだから。
「村の人たちの安全の為にも‥‥アヤカシ‥‥あなた達はここで滅する‥‥」
 森に足を踏み出すと同時に、静かに拳を握った周藤。まずは心眼の使える彼女が囮として先行する手はずだ。
 月は明るくとも、どこかどんよりとした雰囲気の漂う空間へ。いざ、彼女は引き込まれていくかのように消えていく――


「なるほど‥‥。確かに、アヤカシがいると見て間違いないみたいね。‥‥瘴気を感じるわ」
 最初に由愛達が森へ入ってから、半刻足らず程だろうか。
 そろそろ自分達も入る頃合かと、胡蝶(ia1199)は腕を組みながら時期を見計らっていた。
「うぅむ‥‥。しかし、この超桜木流がいるとなっては、アヤカシも恐れて出てこぬかもしれんな!」
「本当は、出てきて欲しくない、の間違いじゃないの?」
「な、何を言うか! この桜木、決してお化けを恐れているわけではないぞ。本当だぞ!」
 そんな時、横で威勢は良くも足を少し震わせながら強がる桜木 一心(ia0926)を見た彼女は、顔色変えず痛烈な一言を放つ。別に悪気があるわけではないのだろうが、図星だったのか必死でそれは違うと言い張る桜木。
 だが、彼は何と言っても超桜木流の使い手だ。きっといざって時には頼りになってくれるはず! ‥‥多分。
「そろそろですね‥‥。宿に預けてきた林檎さんも気になりますし‥‥囮、頑張ります」
 いざ目の前に臨んだ森の中は、静寂に包まれていた。最早、それは不自然とさえ思えるほどに。
 この先に何かがいるのは間違いないが、宿で待っている林檎さん(注:林檎さんは白うさぎです。食べ物じゃないから食べてはいけません)の為にも、鬼啼里 鎮璃(ia0871)は囮役を頑張ろうと意気込む。
 彼が持つは、実に背丈を超える長槍。準備は万端、といったところか。
 こうして、いよいよ8人の開拓者全員が、深い森へと入って行くのだった。

●異形との対峙
「静か‥‥ですねぇ‥‥」
 進むにつれて、徐々に月の灯りも寂しくなってくる林道。少し先を歩く周藤の後方では、傍にいるとはっきり聞こえる程の心拍音を立てながら、真沙羅が若干涙目で志狼と由愛の後に続いていた。
「ぁ、ひぃん!」
「ちょっと、いきなり何よ。静かになさい!」
「ぅぅ‥‥す、すみません‥‥」
 が、どうやらガチビビリ中の為か、知らないうちに大きな胸で由愛の背中を突っついてしまっては、その度に声を漏らしてしまう真沙羅。
 傍から見れば何とも気の毒な光景。とはいえ、自身の成長しない胸にコンプレックスを抱く由愛にとっては、ある意味真沙羅以上に気の毒だったかもしれない。
「‥‥ん。ちょっと、止まって」
「どうした?」
 と、その時だった。本依頼の参加者中、最も直感力に秀でていた由愛が、手をかざし志狼と真沙羅の2人を止める。
 何か、いる。確証は持てない。が、どこか漠然としたものを感じた彼女は、足音を一層潜めつつ周藤の後へ。
 一歩、二歩、着々と歩みを続けていると‥‥
「なっ!? くっ、アヤカシです!」
 前方から不意に聞こえた周藤の叫びが、森に響き、草木がざわめきを始めた――

 彼、彼女達の計画した作戦にひとつだけ注意すべきだった点を挙げるとすれば、それはおそらく『心眼』を使うタイミングの、判断の難しさだっただろう。
 知っての通り、心眼の効果は一瞬だ。心眼を持つものが囮役に回るまでは良かった。
 が、可能ならその人に加え、直感力の高い者が同行すべきだったのかもしれない。
「ふふふ‥‥吸ってあげる。その命の一片まで!」
 周藤の声を聞いて飛び出した由愛達の前には、既に影型のアヤカシに纏わりつかれた周藤の姿が見受けられていた。
 敵の接近に気づくのが少し遅れた周藤。必死で刀の柄に手をかけたものの、抜刀しようとする腕に影がからみつく!
 しかも、その付近には既に大がまを携えた般若が一体。
 陰陽符を取り出した由愛だが、それを阻まんとするもう一体の影。間に合うか、否か――
「貴様らの相手は此処だ! 蘭志狼、推して参るッ!」
 だが、その張り詰めた空気を打ち破るかのごとく放たれた志狼の大きな一声!
 ――咆哮。一瞬のうちに敵の意識を逸らした彼は、そのまま後退しつつ、広い場所へとアヤカシを誘導する。
「ふふ、楽しくなってきたわね」
 かくして、時さえ止まってしまうかのように静かだった森は、一転して激しい激突の舞台へ――いざ、戦闘開始!
 
「ぁぅ‥‥こういう‥ば、場合‥わ、私はどうすれ‥ば」
「びびってんじゃないわよ。戦うに決まってんでしょ!」
 初めての対峙で、やはり怖かったのだろう。意気込む2人とは違い、真沙羅は志狼の咆哮で完全に腰を抜かしかしまっていた。
 ペタリと尻餅をついてわなわな震える彼女。だが、その頭を府で叩きつつ由愛は立ちなさいと一喝。
「3体全てかかったか‥‥有難い!」
 一方、こちらは向かってくるアヤカシに正対、真正面から衝突していた志狼。まず居合いの一太刀を影に浴びせた後は、そのまま刀身で般若の鎌を受け止める。
 が、予想以上に重い一撃。筋肉質で比較的重い志狼の体だが、アヤカシの力が勝るのか微かに彼が押されていた。
「こらこら、独り占めはやめなさいな。あたしも仲間に入れて欲しいところね!」
 しかし、そこに舞う由愛の府。術式のこめられた陰陽符は、まるで意思を持つかのように般若の体を切り裂いていく。
「本当は影を優先したかったんだけどね〜。そうも言ってられないってところかしら」
 そう笑い、更に府を取り出す彼女。そこに周藤も加勢に入る!
「ふぁっ!? ‥‥あ、やぁ‥‥何、この‥‥ん、くぅ‥っ‥助け‥」
 とその時、今度は1人で影を相手していた真沙羅が結構パネェ状態に!
「くっ‥‥」
 両方を睨みつつ府を構える由愛だが、双方とも放ってはおけない。どちらだ、まずどっちを優先して叩く!?

「待たせたわね。般若、縛るわよ」 
「!?」
 しかし、その悩みも一瞬だけ。突然の声に振り向いた周藤の後ろから飛び出した、幼虫のような式――そう、これは胡蝶の呪縛符だ!
「そこのお譲さん、良く見ておけよ! これぞ超桜木流超奥儀、超絶骨法起承拳!」
 技名なげぇよ! と突っ込みはおいといて、更に影に絡みつかれていた真沙羅の横に踏み込んだのは桜木。
 一打。撃ち込まれた桜木の超何たらは一気に真沙羅から影を引き剥がすと、そのまま影はぶっ飛ばされる。
「すみません。少し遅くなりました」
「いや。助太刀感謝だ」
 僅かな瞬きの間に、気づけば形成は一気に逆転されていた。そう、志狼の咆哮を聞き付けやってきた4人の加勢が間にあったのだ。
 奇襲と同時に仕掛けた鎮璃の長槍がまず般若の胸に傷口をつけると、そこに切り込む志狼。
「グ‥‥ァァア!」
「まだ浅いか」
 とはいえ、それでもまだ絶命させるまでには届かない様子。
 しかも、振り払われた鎌の一薙ぎは、志狼と鎮璃を屠らんとばかりの勢いだ。
「ぐっ」
 一閃。月夜に煌めく刃は上段から志狼を捉える。獲物の長さから考えても分が悪かった。
 そのまま肩に突き刺さる刃先に思わず志狼の顔も歪んだ、刹那
「潮時よ。その面、割ってあげるわ‥‥斬!」
 煌めいた胡蝶の斬撃符が、般若の面を打ち砕く!
「ゥァァア!」
 響く悲痛な叫び。その後、程なくして現れた瘴気の塊は、静かに大地へと還っていくのだった。

「自らの形すら持たず、彷徨うだけとは‥‥愚かなことよ」
 一方、こちらの方でも既に盤面は終局へと移行しつつあった。
 一瞬で影の横に滑り込むと同時に、身体を反転しつつ繰り出す痛烈な斬撃で影を切り裂く柳斎。
「さぁ、面白い反応を見せてもらおうかしら?」
 更に、もう一体の影は由愛の吸心符により見る見る生気を失っていく。
「こ、これで‥お、終わり‥です!」
「ありもしない幻影に惑い‥倒れなさい!」
 そして。真沙羅の炎を抱いた刀と、周藤のフェイントを混ぜた一撃により、それぞれの影は消滅し――

●戦い終わって
「さぁ〜今日はじゃんじゃん飲むわよ〜」
「あ‥お、お酒は‥‥程ほどが良いか、と」
 ――商店街
 そこでは、森での仕事を終えた8人の開拓者が、宴の席を設けていた。
「私はお酒が飲めませんので‥‥お酒は遠慮させてもらいます」
「俺もあまり好きではないものでな。遠慮しておこう」
「あはは、そう言わず御猪口一口位は如何〜」
 やはり開拓者たるもの健全な身体が必要なのだろうか。酒は飲めないと言う周藤や志狼達がいるかと思えば、ごくごくと注ぎ足される酒を満足気に飲み干す由愛や桜木の姿も。
「ははは、全ては上手く言ったな! これも超桜木流のおかげと言うものだ!」
 酒を浴びるように飲んで調子に乗る桜木だが、間違いなく最初一番びびってたのは彼な気もする。
「私、ジルベリア産の果実酒。高い方ね」
 一方、こちらは一人ツンと澄まし顔で注文する胡蝶。賑やかに振る舞う、というわけではなさそうだが、時々笑みもこぼれているあたり楽しい場は好きなのだろう。
「果実酒、お待たせしました。‥‥あ、あの‥‥」
 と、そうこうしていると胡蝶に酒を運んできた店の童が、おどおどとした様子で彼女の前に立つ。
「? 何よ」
 不思議そうな顔の胡蝶。すると
「あ、アヤカシを倒してくれて‥‥ありがとうございました!」
「‥‥」
 一言。そう確かに行った童は、恥ずかしそうに店の奥へと駆けていく。
「別に、日取りと報酬‥‥が良かったからよ」
 その後ろ姿を見つつポツリと囁いた彼女だが、素っ気ない態度の裏には『ほんのわずかな義憤』があるのもまた、彼女だけが知る事実であった。

「しっかしまぁ‥‥一体何なのよ、この胸は〜。あたしへの当てつけ〜?」
「え、そ、そんな‥どこ触って‥‥んん」
 さて。今回の宴は酒豪とそうでない人との差が顕著に表れた気もするが、こちらではほろ酔い状態の由愛が憎たらしい胸の持ち主である真沙羅をちょっと弄り中。
「大体あたしだってねぇ、好きでこんな胸してるわけじゃないのよぉ!」
 えーと、誰も聞いてない問いだが、自問自答してはぶつぶつとお怒り中の由愛さん。これは思いの外、結構なコンプレックスを抱いているのだろうか。
「で、でも‥‥由愛様だって‥‥」
「あたしだって? 何よ?」
「い、いえ‥‥何でも、ありません」
「何よ〜気になるじゃない。言いなさいよ〜」
 だが、憧れを抱いたのは別に由愛だけじゃなかったのを、彼女は知らなかった。
(「わ、私もいつか‥‥」 
 そうだ。自分だって、勇敢に戦える由愛が羨ましい――そう、何も考えず家をとび出し、将来に悩む無垢な少女がいたことを、ね。

「林檎さん、お腹すいたでしょう? これをどうぞ」
 他人多様。開拓者となる者たちには、それぞれの想いがあり、それぞれの道がある。
 目の前でおいしそうに人参をかじる林檎さんを見つめつつ、穏やかに笑みをこぼす鎮璃。
「今の時期であれば桃が美味いな‥‥これとヴォトカを合わせて‥‥そうさな、桜桃とでも名付けようか」
 その様子を見つめつつ、優しい微笑みと共に作った柳斎の桃桜が、皆の顔に一時の安堵をもたらす。
 
 アヤカシの出現に伴い緊張に包まれていた街にも、再び笑顔は取り戻された。
 その街を去る8人の姿。美しい金髪を靡かせながら歩む胡蝶の顔は、どこか清々しい。

 彼、彼女らはまだ見ぬ地を切り開くもの。人は、彼らを開拓者と呼ぶ。
 開拓者。彼らが歩む道には、この先一体どんなものが待ち受けているのだろうか。
「そういえば、真沙羅は何故開拓者になったのかしら?」
「あ‥‥わ、私は‥この体を、世に活かしたくて‥‥」
 今は、その先など見えなくとも。揺るぎない決意とともに歩む者達に、天儀の祝福があらんことを――