|
■オープニング本文 ●お誘い 話は唐突に始まったものだった。 「ローラさん、神楽って行ったことある?」 いつも歌わせてもらっている酒場で、常連の商人さんから声をかけられた。 神楽、とは――今更説明もいらないであろうが、天儀の都である。 「いえ‥‥わたし、ジルベリアから出たことがありません。いかなくちゃだめだ、って思っていたんですけれど‥‥」 ローラと呼ばれた水色の髪をした女性は、酒場のオヤジから柑橘類を絞ったジュースを受け取りつつ、ゆっくりと頭を振った。 知らない土地に一人、というものはいつになっても不安を覚える。ましてや、違う大陸に渡るというのは――心の何処かに恐怖を感じている節もあるからだろう。 それを知ってか知らずか、商人の女性は 『実は仕事で神楽に香辛料なんかを納品しにいかなくちゃいけないのよねー。あたし女だから、ローラさん開拓者だし、良ければ一緒に行くのもどうかなって思ったけど‥‥どう?』 と聞いてきたのだ。 それについてはローラもしばし考え、神楽なら珍しい花も売っているし、ジルベリアでも需要が高いよと薦められる。 本業は吟遊詩人だが、喉の調子が悪い時や昼間などはジェレゾの大通りで籠に花を入れて売っている。 「珍しいお花、ですか‥‥実はそちらのほうが興味あります‥‥」 控えめに笑うローラ。つられて商人の女性も笑った。 折角のお誘いをお断りするのももったいないですし、と、ローラは同行することに決めたようだった。 ●初めての景色 まるで文化が違う――それがローラの第一印象だった。 建物も違う。風の匂いも、人々の服装も違う。珍しそうに自分たちを見る天儀の人。 その視線が、自分の髪色のせいかと思って――ローラはマントのフードに手をやって、目深に被った。 『――んなに気にすることねんじゃね? 俺ぁ好きよ、その髪』 不意に思い出す、そんな言葉。 きゅぅと胸が締め付けられるような思いがこみ上げてきた。そして、次に思い出すのは屋敷が煌々と燃える赤い夜。 ――もう、昔の話。わたしは、もう貴族の娘のローラ・グロスハイムじゃない。 すべてを打ち消すかのように目を閉じ、フードを抑える右手に力を込めて、商人さんの後をついていくローラ。 宿についてから、商人‥‥名前をソフィさんというが、彼女は荷物を下ろすと早々に納品に出ていった。 宿は先払い制らしく、数日の滞在料を支払ったのでローラも自由に出入りができるのだが、お茶ばかり飲んでしまうし他にすることはない。 ソフィが帰るまで待とうかと思ったけれど、慣れない姿勢で座っていたせいか足が痛い。じっとしてるのは勿体無いから近場の観光でも――と宿のものに薦められて‥‥結局ローラは街を歩く。 店構えが同じようなものばかりだし、軒先だけでは何が売っているかちょっと解りにくい。 道行く男性達は不思議な形に髪を結い上げ、それが皆同じ(ように彼女には見える)。 (髪にも決まりごととかがあるのでしょうか‥‥?) ぼうっと観察していると、人ごみの中に――懐かしい人の姿があったような気がした。 「‥‥!?」 思わずそちらの方角を見て、反射的に追いかけるように人ごみの中へ走っていくローラ。 「――さん!?」 大声を出して呼びかけてみたものの、街の呼び込みや人々の話し声に彼女の細い声は消される。 「待ってくださ‥‥きゃっ‥‥!」 人の波を書き分けているうちに、柄の悪そうな対向者と思い切りぶつかってしまった。よろけて壁に背を付けたローラに、不機嫌そうな男はじろりと睨みつけながら詰め寄ってくる。 「おい。人にぶつかって謝りもしないのかよアンタ。あ?」 「ご、ごめんなさい‥‥! 急いでいて、ぶつかってしまって‥‥」 「アンタの都合なんか知らんよ。骨が折れてたらどうしてくれんだ? アンタ、医者に見せてくれんのか?」 謝れと言っていたくせにこうである。人垣がうっすらと出来はじめているが、誰も二人の間には入ろうとしない。 「おい、なんか言えよコラ――ッいでぇっ!?」 「――医者に見せる必要なさそう。ちゃんと繋がってるよ」 「それより気分が悪くなったわよ、あんたのせいで。治療費出してくんない?」 破落戸の肩を掴んで腕を逆にひねり上げる男性開拓者と、嫌そうな顔をしたままの女性開拓者が見かねて助けに入ってくれたようだ。 覚えてろ、というお決まりの捨てぜりふを残し、破落戸は逃げるように去っていった。 「大丈夫? あれ、旅の人? ‥‥ごめんね、そういう人ばかりじゃないんだけど‥‥」 「いえ、私こそ失礼をしたみたいで‥‥助けていただいて、ありがとうございます」 頭を下げたローラ。そして、恩人である彼等に『あの‥‥大変不躾ですが』と切り出した。 軽く自己紹介をし、開拓者ギルドの場所がよく分からない。自分も吟遊詩人で、いつかそこに行かなくてはいけなかったと語り、場所は何処かと尋ねる。 「‥‥あ、本当に初めてなんだ? じゃあ、知っておいたことが便利なものもあるし―― 一緒に観光する?」 「よ、よろしいのですか?! ああ、嬉しいです‥‥よろしければ、お伴させてください‥‥」 こうして、幸か不幸か。ローラの観光案内をあなた方はすることになったのだった。 |
■参加者一覧
レグ・フォルワード(ia9526)
29歳・男・砲
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
海神 雪音(ib1498)
23歳・女・弓
御鏡 雫(ib3793)
25歳・女・サ
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ソウェル ノイラート(ib5397)
24歳・女・砲
アルセリオン(ib6163)
29歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●神楽散策 「助けていただいたばかりか‥‥案内していただけるなんて、本当にありがとうございます。親切な方にめぐり合ったことを嬉しく思います」 ローラはもう一度皆に礼を言うと、深々と頭を下げた。 「腕っぷしに自信がある人だってさ、初めての場所じゃ何かと心細いって言うのに‥‥来て早々あんなのに絡まれて、不安だったろ?」 くすぐったそうな顔をしつつ、いいから、と御鏡 雫(ib3793)はローラへと歩み寄って微笑んだ。 医師としての表情もつい出たのか、初対面でも安心させるような微笑みは彼女の警戒心を少しばかり緩ませる。 「ジルベリアから天儀へ来て、案内も無しじゃ確かに分かりづれぇよな。これでもこっちに来て随分になる身だ。案内なら任せてくれ」 人懐こい笑み‥‥サングラスで目元が覆われているため表情が判りにくいが、レグ・フォルワード(ia9526)もニカッと歯を見せて笑った。 女性が苦手のため話しかけづらいようだが、そわそわとローラを見ていた利穏(ia9760)。彼女の前に出ると上目遣いでローラ‥‥のフードを指す。 「そのほっかむり、取って頂いて大丈夫だと思いますよ」 開拓者ギルドを見るだけでも色々な容姿の方がいらっしゃいますから、と言った側で雫が『古風な言い方だねえ』と笑った。 空気が穏やかになった所で、アルセリオン(ib6163)がローラへ確かめるように声をかける。 「簡単な地図は持っているんだな?」 「はい、神楽の街周辺ですけれど‥‥実際は小道が多くて」 と、彼女は肯定の返事をし、持っていた地図をアルセリオンへ見せる。それを見つめながらアルセリオンは顎に手をやり、 ふむ、と納得の意を示す。地図は大通りと名の知れた店が書いてある、観光地によく有りそうな簡素なものだった‥‥というわけだ。 「軽く書き込みをしても良いのであれば、それを使って場所を示しつつ案内しよう――僕達で良ければ、だが」 「此方こそ逆にお願いいたします。不慣れなもので‥‥」 利穏に促され、ほっかむりを取りながらローラはアルセリオンと皆へ向かってもう一度頭を下げた。 道に迷いし者を導くのも神官の務めだと彼は言い、それでは、まずは――と切り出したのをレグの元気な声が打ち消した。 「んじゃ、とりあえずは最初の希望通り、何は無くとも開拓者ギルドだな!」 行こうぜ、とレグが前を歩く。その後ろから、ソウェル ノイラート(ib5397)がそういえば、と口にした。 「思ってみれば私自身も神楽の都は観光した事なかったね。日々の生活に事足りる程度しか知らないかも」 こちらに渡って来て暫く経つけどねー、と言いながら歩く彼女に、長谷部 円秀 (ib4529)は『意識して歩かないけれど、ふと思うとそういうものかもしれません』と頷く。 「私も天儀は好きですし‥‥色々見てもらいたい。そういう意味でも何も知らない人への案内は中々楽しいですね」 何を案内しようかと楽しげな彼。 向こうで何か依頼を受けたことはあるか、と尋ねられれば、実は一度も無いという。それに対しても海神 雪音(ib1498)は絶句する。 「では本当に唄ったり花を売ったりして生計を立てていたのか‥‥」 雪音の表情には出づらいが、少しばかり驚いたようである。 そういった話をしながら開拓者ギルドに着くと、ローラの地図を手にとって道や店を書き足した。 「ジルベリアから来たらしいが、開拓者としての登録は向こうで済んでいるのか?」 割と保護者ポジに落ち着いてしまったようなアルセリオンだが、開拓者には登録も重要なこと。そうでなければ仕事は貰えない。 「はい、酒場の近くに開拓者ギルドがありましたので、登録だけは‥‥」 それはしっかり行なっていたらしいが、ジルベリアと天儀では文化は言わずもがな『志体持ち』だけでも呼び方が違う。そういう用語も抑えたほうがいいだろう。 (あら‥‥角が生えた方や、猫さんみたいな方まで‥‥) ローラが不思議そうな顔で、仕事を選ぶ開拓者を見つめている。それを見て、利穏が『不思議でもないでしょう?』と声をかける。 「きょろきょろするローラさんの様子が、町の人達には物珍しく見えたのかもしれません。その‥‥異邦人ゆえに奇異の目で見られるという懸念はせずとも大丈夫ですよ?」 本当に――大したことなど‥‥ないのだろう。利穏の言葉は癒しを与えてくれるのだが、それでもローラの心の奥にあるコンプレックスは溶けてはくれないようだ。 しかし、利穏に笑顔で返して『本当に‥‥沢山の方がいるのですね』と同意した。 「他に知りたいことはある? 気になる事あったら、どんどん言ってほしいかな」 私、気が利かないから――と苦笑するソウェルだが、そんな事ありません、とローラが首を振って否定する。 「あ‥‥では、港に行きたいです。相棒と来た時のために‥‥」 「港ね? あたしに任せて! 案内しちゃいまーす!」 はーい、と元気よくリィムナ・ピサレット(ib5201)が片手を挙げた。そして、ついて来て! と呼ぶ。 ギルドから港までの道は割と簡単だ。広場を通り、万商店の前で『一日一回支給品が貰える』というお得説明を受け――港に到着する。 遠くで積荷の上げ下ろしを行う船が数隻見える。 磯風が心地よく、ローラは大きく息を吸った。 「ここは色んなものが神楽の外から入ってくるところなんだけど‥‥何かジルベリアの港とは違うでしょ? その他あたし達開拓者の相棒の係留場でもあり、育成をするところでもあるんだよ!」 リィムナが彼女に相棒のことを尋ねると、今回は連れて来なかったようだが『いる』らしい。にっ、とリィムナは笑うと彼女の手を引きながら、来て、と言う。 何か見せたいものでもあるのだろう。二人の後を開拓者もゆっくりとした足取りでついていく。 行き着いた先は、一匹の炎龍の前。リィムナが龍の顔に手を触れると、龍も嬉しそうに顔を近づけた。 「じゃーん、この子があたしの相棒、炎龍のチェンタウロです!」 通称チェン太。素敵な子ですね、と褒めれば、リィムナとチェン太は顔を見合わせ、どこか嬉しそうにしていた。 折角なので皆の相棒も見せてもらい、ひと通り見せてもらった後、雫が『お茶をしながら暫しの休息と、巡る場所の確認をしよう』という提案を持ちかける。 異論も無く、どういう料理が食べたい‥‥なども無いので慣れ親しんだジルベリア料理にしよう、と雪音が言えば皆で神楽屋のほうへ歩く。 「では道すがら、天儀の建物の見分け方と目印になる建物を教えておきましょう」 円秀は細長く襖戸が幾つもある‥‥いわゆる『長屋』の屋根を指し、瓦の色、形、大きさなどの判断でも有効だと教え、塔や矢倉、大きな店の看板を覚えると便利だとアドバイスした。 「あの‥‥ところでローラさん、どの様な御用事で天儀の都へいらっしゃったのでしょう?」 ジルベリア料理店の前で利穏が彼女の横に座り、綺麗な青い瞳を向ける。まだ緊張しているようだが、初めよりも和らいだようだ。 向かいの椅子ではリィムナが店の主人に『美少女魔術師のリィムナちゃんが来たよー!』と笑顔を振りまいて、主人に『自分で美少女って言っちゃった』と突っ込まれている。 「私は‥‥天儀のギルドに登録するということと‥‥同行者の方が香辛料なども扱っているので、そのお手伝いです。 あ、ですがお花の種などあればいいなって‥‥」 「そういえばローラは花売りなんだっけか。それなら花の市場か卸問屋にでも案内した方がいいかね」 レグがメニューを受け取りつつ、地図をちらと見る。確かこのへん、と隣のソウェルが花屋であろう箇所を指した。 温かいお茶から立ち上る湯気をふぅと吹き、口に運ぶとやわらかな味と香りが広がった。 「ジルベリアのお茶とは少し違うだろ? ‥‥そうだ、喉を傷めない為にも、健康管理にも気を配らないといけないな」 美味しい香草茶の飲める店や、雫行きつけの香草茶葉・薬の問屋なども紹介しようと微笑まれる。 簡易的だがローラの健康状態もチェックし、神楽に来た時に体調が思わしくなければと、雫の診療所と他に信頼のおける医者の場所を教えた。 「何か調べ物をするのであれば、図書館などもあるな‥‥。 公開されていないものもあるが、土地や歴史の事を知るには良いだろう」 お茶を飲んでのどを潤すと、アルセリオンも地図上へ手を加える。 そうして地図は皆に書きこまれ、詳しくも頼もしい情報の溢れるマップとなった。 「ローラ、さん‥‥?」 くすぐったそうに笑う彼女に、利穏が首を傾げる。それに気づいて、ローラも『ごめんなさい。なんだか嬉しくて』と照れ笑いを浮かべる。 「ようやくリラックスして笑ってくれるようになったみたいだね」 やってきた料理の置き場のため、机の上を片付けていたソウェルが小さく笑う。彼女が選んだ食事は蕎麦のようだ。 箸の使い方もお世辞にもあまり上手ではない彼女に、レグは苦笑すると持ち方の指導も始めた。 リィムナおすすめの麦粥と卵焼きが出される。特に卵焼きはふわふわして美味しそうだ。 「――ねぇ、ジルベリアはどんなところなの? あまり行ったことがなくて‥‥」 雪音も箸を手に取るとローラに尋ねる。彼女は少しずつ、ジルベリアの事を語りだした。 ただ、自身の事になると、数年前から吟遊詩人をやらせてもらっているだとか、曖昧に答えるだけだったが。 腹ごなしも終え、先ほど書き込んだ場所の散策を始める。 途中呉服屋の前でうっとりと服を眺めるソウェル(通りすぎてしばらく立った後にレグが気づき、戻って彼女を引っ張ってきたのだが、ソウェルに恨めしそうな顔をされていた)や、 香草屋で雫とアルセリオンに知識を与えてもらったり、わかりやすい目印や神楽で有名な場所などを円秀が地元代表として案内してくれる。 もう一度休憩を取ろうという提案に、雪音が甘味処を、と紹介してくれた。神楽屋にも近いので、甘いものなど食べたくなったときは活用しますと答えるローラ。 おすすめの店はあるかと尋ねられて、雪音は暫し考える。特に無いかも、と正直に言えば『ではいずれ、時間が会えばお店巡りしましょう』と持ちかけられた。 「‥‥ローラさん、甘いもの好きなんですか?」 利穏も穏やかな口調で聞けば、ローラは嬉しそうにハイと答える。 「あ、新しくお店を探すおつもりであれば‥‥余り治安が良くない場所についてもお伝えだけしておこうかと」 利穏はそう言いながら、彼女と出会った時に絡んでいた破落戸を思い浮かべる。同じ事を思ったのか、彼女も表情を曇らせた。 「ローラさんも志体持ちですから、その辺の悪漢に遅れをとる事は無いと思いますが‥‥あの様な方々に対しては、むしろ毅然とした態度で返す位がいいのかもしれません」 とはいえ、僕も得意ではありませんけれど‥‥と申し訳なさそうに呟くが、あんみつを頬張っていたリィムナが大丈夫! と声を上げる。 「またさっきの破落戸みたいなのいたら、攫ってきてチェン太の餌にしてあげるから!」 ぎょっとする皆に、あははー冗談だよー、と笑うリィムナ。 割と本当に食べちゃいそうですけども。 ●夕暮れの天儀 「‥‥あ。後、一ヶ所だけ案内したい場所が有りました」 買い物し忘れちゃった、くらいの気軽さで円秀が手をぽんと叩く。一斉に振り向く開拓者達。 神楽屋に戻る前に、まだお時間宜しいでしょうか? と尋ねられ、構いませんとローラが言えば、円秀は頷いて手招きした。 坂を登り、階段を上がり‥‥レグに何処まで行くんだと聞かれても、もう少しです、と言うばかり。 ローラ以外の皆も不思議がっていると、 「――着きましたよ」 円秀は立ち止まり、微笑むと。掌を正面に向けて街を示す。 高台より一望できたのは――神楽の都。夕暮れの朱に照らされ、ポツポツと長屋や店に明かりが灯りはじめた。 小さく、だが。人々の行き交う姿も見える。 街だけではない。港は夕日を反射させ、港に戻ってくる船の姿などの光景は‥‥胸にこみ上げるものがあった。 「‥‥おやおや」 これは素晴らしいじゃないか、と雫も感嘆の声をあげた。はい、と円秀も同意して続ける。 「天儀の良いところは自然がきれいなこと、都は人々が一日を生き抜いて行っていることだと思います」 今日一日を振り返りながら、天儀はどういう所で、この夕日のように美しい風景が多々あるか。そういうのを感じてほしいと彼は言う。 「今回の案内で天儀は好きになれましたか?」 「はい‥‥人々は優しく、景色も綺麗‥‥。とても魅力的な都です」 ローラの言葉に、円秀は顔を綻ばせる。後ろで聞いていた雪音も優しい表情をしていた。 「大成功ってワケだよな」 いつの間にか側に立っていたレグに、私も神楽を歩いて新しい発見もたくさんあったから有意義だったとソウェルは首肯する。 そんな彼女の前へ、一輪の桔梗が差し出された。きょとんとするソウェルに、レグは『似合うと思ったから』と笑う。 先刻、花屋に寄ったときこっそり買ったようだ。 「ありがとう‥‥レグ」 それを受け取って、微笑む二人の表情も、夕日に照らされて紅い。長く伸びる影は、重なりあって一つになっている。 「‥‥では、そろそろ神楽屋まで送ろう。彼女の同行者も戻っているかもしれない」 暫しその景色に見とれていた皆は、アルセリオンの声に振り返る。 「今日はありがとうございました。とても楽しかったです‥‥!」 ローラの感謝を素直に受け、アルセリオンは歩きながら答える。 「‥‥風が君に幸福を運んでくれる事を」 風が巡り合えば、また会おう、と。 |