【勿恋】過去に消える想い
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/30 02:38



■オープニング本文

●あれから数日

 神楽都の開拓者ギルドは、仕事を依頼する者と探す者が入り乱れ、本日もそれなりに盛況であった。
 君たちもその中の一人で、今日も仕事を探そうと思っていたところだ。
 掲示板に張り出されている依頼書に目を走らせているうちに――おい、と後方から声をかけられた。

 振り返れば、眼光鋭い長身の男が君を見つめていた。
 見覚えがあるようでもあるし、初めて会ったかもしれない。
 もし記憶をたどってみて、この男に見覚えがあるとしたならば――……咲崎というシノビだと思い至る。
「あんた、仕事を探してるんだろ? ちょっと依頼を受けちゃくんねぇかな」
 咲崎は周囲を注意深く見渡した後、視線を投げて反応を伺う。
 丁度仕事もないし、この男の依頼を受けることにした。

●咲崎とローラの過去
 近くの席に座り、咲崎は『久しぶりだなぁ』と切り出す。
「あんた、赤辰の護衛やってたんじゃないのか?」
 咲崎に声をかけられたうちの一人が、赤辰という言葉を発した。
 赤辰というのは、【赤辰団】という、荒くれ者たちが集まっている組織を指している。
 このシノビ……咲崎は、そこで用心棒のまがいの仕事を行っていたのだ。
 開拓者の質問に、まだやってるが今日は休みなんだよと言い、まだ繋がっていることを示唆する。
「あのさ、グロスハイムの……ローラさんとかいう吟遊詩人さんとは何か因縁でも?」
 そこに、以前咲崎と共に依頼をこなしたらしき開拓者が、胡乱げに彼を見つめた。
 咲崎のほうも『まぁな』と答え、本題に入るべく身を起こす。
「……ローラ『お嬢さん』は、ジルベリアのグロスハイム家っていう良家のお嬢さんだった」
 話し始める咲崎の眼は、ここにいる開拓者ではなく過去を見つめていた。
 聞けば、彼は当時密偵としてジルベリア貴族の動向を探り、内乱に関する情報を集めていたのだという。
 そこでグロスハイム家に私兵として入り込み、そこを中心として調査を続けていた。
「……ま、結局内乱が起きて、貴族だけではなく大勢の人々が被害を受けたわけだが……俺ぁ密偵だからな。結局姿を消すしかできなかったわけよ」
 だから、ローラお嬢さんは俺を恨んでいるはずなんだとも告げた。
「ん? よくわかんないんだけど……咲崎さんは、内乱を扇動していた側なの? それとも阻止したかったの?」
「生憎、扇動してた側に雇われてたのさ。情報を流す目的でね」
 勿論いいことだとも思ってはいないが、仕事には変わりない。
「しかし、あの家まで没落しちまうとは思わなかったよ。お嬢さんも苦労したんだろうな」
 しみじみと言った咲崎に、当時を思い起こす開拓者もいたようだ。
 思うところもあるのだろう、あまり良い顔はしていない。
「で。今回の依頼ってのは俺からだ。お嬢さんの気持ちを聞いてくれねぇかな」
「自分で行きゃいいだろ」
 つっけんどんに返した開拓者だったが、俺が依頼する側なんだよとにやりと笑う。
「……お嬢さんにはこっちも世話になったことがあってね。さぞ俺を恨んでいる事だろうと思うんだわ」
「恨んでるかどうかとか、その辺聞きゃいいの?」
 そういうことだ、と言って咲崎は席を立った。
「あんたらの報告を聞いてから、俺も行動を起こそうと思うんだよ。お嬢さんが肉親の仇を討ちたいとか思うなら、とかさ」
 それって、という開拓者の言葉を制して『そんじゃま、よろしく』と軽い口調で告げた咲崎は、期限は明後日のこの時間ねと言って背を向ける。

「……ていうか、ローラさんどこにいるんだよ。ジルベリア帰るって言ってなかったっけ」
「あー。それなら安心よ。今日ここに来てたからな」
 くるりと振り返る咲崎は、ビッとクナイを机に投げた。
 クナイには文が巻かれてあり、そこにはローラの宿泊しているらしい宿の名前がある。
「……ここまで知ってんなら自分で行けばいいのに……」
 めんどくさ、と言いながら、君たちは顔を見合わせ……作戦会議に至ったのだった。


■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
羽流矢(ib0428
19歳・男・シ
海神 雪音(ib1498
23歳・女・弓
瀏 影蘭(ic0520
23歳・男・陰
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●本心はいかに

「ローラちゃんが自分の事をどう思っているか聞き出して欲しい……ねぇ。
顔に似合わず、意外と気が小さいのね?」
 可愛いっていえば可愛いところかもしれないけど、と、人差し指を唇に当て、からかう様な仕草で瀏 影蘭(ic0520)は咲崎に笑みを見せる。
 何とでも言いなよ、と咲崎は覇気のない口調で返した。今日の彼にいつもの鋭さは微塵も感じられない。
「……引き受けた以上、依頼を受けて完遂するのは、開拓者としても当たり前の事。
シノビならばなおの事――……場合によっては味方も敵も欺く、そんなの日常茶飯事だろ?」
 勿論開拓者である前に人間でもあるから、割り切れぬ感情も無いわけではないけれど、と言った羽流矢(ib0428)も、何か身に覚えがあるのだろうか。
 彼の視線はここではない、どこか遠くを眺めている。
「……赤辰のような柄の悪い所に居るのは何か理由があるのかと思ったが。
割り切って仇をとられやすくしようとでも考えてるのか?」
「それとこれとは別さ。俺ァ、お嬢さんは先の内乱で死んだものと思っていたし。赤辰は仕事だけさ」
 弱り顔の開拓者を残し、咲崎は『じゃあ、よろしく』と言ってその場を立ち去っていった。

「ま、困っている人を助けるのは悪くないんじゃない?」
 影蘭はしょうがないわねぇ、と口では言いながらも、表情は非常に穏やかであった。
 それなりに咲崎はローラの事を考えているようだった事は見て取れる。
「それじゃあ、一肌脱ぐとしましょうか?」
 多少乗り気の調子の影蘭。そうだねと同意した後で、羽流矢は宿の名前を確認しながら、眉根を寄せて小難しい表情を浮かべてしまった。
「やだ、どうしたのよ」
「……いや、女性が相手なんだよな。宿に押し掛けたりするんだと思うと気が引けるな」
 それなら自分が宿に行きます、と海神 雪音(ib1498)が名乗りを上げる。
「私は皆さんより、多少ローラさんと面識があります。偶然を装って、出てくるのを待ち伏せしようかと」
 それで駄目なら、宿に入り会いに行こうかと、というので話はまとまる方向にあった。
 その様子をサライ(ic1447)が何とも言えぬ表情で眺める。
 咲崎はローラに許してもらおうと思っているのだろうか。それとも――。
(もし……ローラさんが仇を討ちたいと望んでいたら……咲崎さんはどうするつもりなんでしょう……)
 サライはそう考えると悲しくなり、左手の指先は無意識のうちに右腕に刻まれた忌まわしき印に触れていた。




「――そこのあなた、ちょっと待って……!」
 咲崎がギルドを出た直後、その後を追いかけ呼び止めたのはフェンリエッタ(ib0018)だった。
 妙に真剣な表情だったので、思わず立ち止まって彼女の顔を注視する咲崎。
「……何だい?」
「突然ごめんなさい。あの……私はフェンリエッタ。実は……次の仕事を探していた所に、【内乱】という言葉が聞こえてきたから、気になって声をかけたの」
 盗み聞きをするつもりではなかったが不穏な話ほどよく聞こえてくるため、話を聞いてしまったことも謝罪し、自分がジルベリアの貴族出身だという事も打ち明ける。
「グロスハイム家の事も聞いた事はあるけれど……どんな事情であれ、恨まれてるかも、恨んでいるかも、なんて気持ちのままでいるのは悲しいことよ。きっと……それはお互いに」
「…………何が言いたいんだい、あんた?」
 説教はごめんだぜとつまらなそうに口にした咲崎に、そうではないとかぶりを振った。
 そこで、フェンリエッタは『もし』と口にした。
「もしローラさんを喫茶店とか公園とかにお連れしてお話を伺うとしたら、あなたはその場で聞く気はあります?」
「なんだって……?」
 驚きの声を上げた咲崎に、いきなり直接会うわけじゃないから、とフェンリエッタは訂正する。
「会うのがダメでも、貴方自身の耳で……彼女の声や言葉に込められた気持ちを感じられると思う」
 依頼をし、人づてに聞いた内容以上のものがそこにはある。
 ローラを良く知る咲崎にとって、自分たちが話す内容よりもよほど深く理解できるだろうと。
「それじゃ俺が依頼する意味ねーだろうに……」
「確かに私は詳しい事情も経緯も存じ上げないし、的外れかもだけど……私はそうした方がいい気がしたの」
 あなたのご依頼の成功の為にも、とにっこり微笑むフェンリエッタに、咲崎は観念したように目を瞑った。



●影での再会

 開拓者たちが行動に移したのは、既に陽も落ちた夜の事だった。
「結局、何をするにも始まらないようだから……引っ張り出せばいいって事だよな?」
 羽流矢はローラがいるであろう宿を物陰より眺め、行動に映そうとした。
 慌てないの、という影蘭に諭された。何か考えがあるらしい影蘭へ、先の動きは譲ることに決めた。
「いい? ハムちゃん。頑張りなさいね」
 召喚したハムスター型の人魂を操りながら、ローラの部屋を探す影蘭。
 宿の中へ入り、あちこちの部屋へ出たり入ったりしながら、人の気配のある場所を調べていく。

 その作業を始めて数分後。
「――いたわ」
 人魂を操っているために半眼のまま、影蘭は皆にそう呟いた。

 彼らの知るローラは明るい性格ではないにせよ、今日はまた一段と憂慮ある表情をしていた。
 ハム魂が近くまで歩み寄って、ローラの側をちょろちょろと走り回ると、彼女はようやくハム魂に気が付いたようだ。
「ねずみ……?」
 ねずみだけどそうじゃないのよねと愚痴をこぼしつつ、ハム魂を窓の近くへと誘導させローラの気を引いたところで、羽流矢に目くばせする影蘭。
 羽流矢は意図を察して三角跳と抜き足を使用しながら、ローラの部屋の窓辺までやってきた。
「ローラさん……すまない。ちょっとそこで話を聞いてほしい」
 障子越しに話しかける羽流矢。聴力を上げているので、突然の事にローラが驚いて小さな声を上げた事まで聞こえてくる。
「驚くのも無理はないけど、身構えないでくれ。怪しいものじゃない――……とは、言い難いが……」
 とても怪しいのだが、羽流矢もそれは自覚している。
「お連れさんはいないようだが、ジルベリアへ戻ってまた来たのか? もしや、誰かを探しに来たんじゃないか……?」
「あの、あなたは……一体、何を知って……?」
 不安そうな声を発したローラへ、話がしたい旨を告げ、羽流矢は外に来てくれと言い残して窓辺を去った。


●いざ聴取

 ローラが宿から出て来たのはそれから十分ほど経ってからだった。
 雪音が偶然を装ってローラへ接触すると、ゆっくり話しながら近くにある喫茶店へと連れていく。
 そこには羽流矢含め仲間たち――ローラにとっても、数人は見知った顔――が集まっていた。
「御免なさいね? 突然押し掛けちゃって」
 白い衝立の側に座っていた影蘭がローラへと謝罪するが、やや困惑した仕草を見せるローラを雪音は隣に座らせ、 たまたまローラの報告書を読んだことや、探していた人に会えたらしいことも、手始めに話題へと載せた。
 会話しながらローラの一挙一動を、注視していくフェンリエッタとサライ。
 自分たちもジルベリア出身だと告げ、ローラと故郷の話を弾ませる。
 特にサライは人間の持つ負の部分への嗅覚が鋭いようで、隠していても顔などに現れるから見ていればわかる、という。

「そういえば、その……あなたですよね、さっき窓辺に立った方……」
 皆が話の合間に甘味などを頬ばる中、ローラは羽流矢に話を振り、彼の表情をじっと見つめた。
「そうだ。わざわざジルベリアから再度やってくるなんて何かあると思ってね」
 問いかけに羽流矢も首肯し、場合によっては協力できるかもしれないと、あえて切り出した。
 僅かに場の緊張が高まる中、ローラが『仰る通りです』と、湯呑みを置いて自身の両膝の上に手を乗せた。
「正直な事を云うと、探し人がいたんです。過去の事だからと割り切って……もう会う事はないと思って心に鍵をかけていたんです。でも、つい最近……忘れようとした人が、私の目の前に立って……一気に記憶や感情が溢れてしまった……」
「……そいつに何を求めているんだ? 謝罪? それとも……例えば復讐、とかか――?」
 羽流矢の探りに辛そうな表情を浮かべるローラ。
「……わかりません。恨んでいるかと言われても……きっと、少なからずは憎いのかもしれません。
悲しい気持ちだとか怒りたいような気持ち、生きていてくれて嬉しい、などいろんな思いが混ざり合って、何が一番なのか……」
 私も知りたい、と言って俯いてしまったローラ。
 そんなローラを見つめながら、サライも沈痛な面持ちで彼女を見つめていた。
「あ……お茶が冷めてしまいましたね。温かいものを――」
 そう言って立ち上がったところ、右腕に巻いていた布が落ちてしまった。
 刻まれた烙印が露わになると、サライははっとして右腕を引っこめ、それを隠す。
「…………」
 サライの悲しげな態度と反応に、ただ事ではないと察した場は沈黙する。

「……僕も、かつて恨みを抱いたことというのがあります……」
 観念したように語るサライ。
 両親を凶族に殺害されてしまったこと。捕まって売り飛ばされた先では妹も失い、
 自分はこの烙印を押されて奴隷のように扱われたこと。
「毎日が地獄のようでした……。そんな暮らしから救い出されても、しばらく僕はこの世の全てを恨んでいました」
 だが、心優しき人間や福祉施設に携わっていた人々、そして後の自分の師匠など、人の温かさに触れるうちに、負の強い感情はだんだんと薄れていった、とサライは語る。
「すぐには忘れることはできませんでした。でも――今は、そういった恨みの心はありません」
 サライは自分の胸に手を置き、訴えかけるような瞳でローラを見据えた。
「恨み続けることは、心をとても……荒ませてしまうんです」
「……そうかも……しれません」
 ローラも、過去の事を思い出しているのだろう。悲しげな顔をしたが、サライへと頷きを返す。
「ローラさん、言いにくい事を聞いてしまうけれど……ローラさんは咲崎さんをどう思っているの?」
 本題へと話を進ませた雪音。咲崎という名前が出て、ローラは大いに驚いたようだ。
 だが、羽流矢や影蘭へ視線を走らせ、合点が行ったようだった。
「……先ほどお話しした通りです。色々な感情がない交ぜになっていて、わからないんです」
 力なく首を振るローラに、雪音は刺激しないよう声を落とし、真摯に問いかけた。
「咲崎さんは私たちに言ったんです。私たちの報告を聞いて、自分も考えた末に行動すると。例え、敵討ちだったとしても……」
 そこで言葉を切って、ローラの反応を伺った。
 敵討ち、と声を震わせたローラに、雪音はゆっくり頷いて肩に手を置いた。
「咲崎さんはローラさん、あなたの気持ちを知りたがってる。ローラさんがどう思っていても……どんな決断を下そうとも、きっと受け止めてくれると思います」
 だから正直に聞かせてほしいと口にすると、ローラは暫し押し黙った。
 答えてくれないのかと雪音の真鍮に諦めが入った頃。ローラの頬に一筋の涙が伝う。

「……あの人は、私の事を初めて褒めてくれました。家族と髪の色が違う事で臆病になっていた私に、励ましと……優しい言葉をかけてくれた人だったんです」
――気にすることないんじゃね? 俺ぁその髪色好きよ。
 そう言ってくれた時には驚いた、とローラは僅かに微笑む。
「そんなの、ただの気休めだったかもしれないけれど、誰かに認めてもらえたことが嬉しかったんです。内乱も……私には、何が起きたのかよく分かっていなかった。でも、起こって然るべきだったのだと、思っています」
 家族が死んでしまったのは悲しい。でも、咲崎は家族を殺したわけではない。
「……じゃあ、ローラさんは咲崎さんを恨んでは……?」
 そう訊ねたフェンリエッタ自身も、内乱で失ったものは多々ある。心に抱えるものも少なくない。
 だが、人には恨みなど抱えてほしくはない、と思っている。
 半ば否定して欲しいという気持ちで、おそるおそる口にすると……ローラはじっと考えた後で、憎んでいないとはっきり言った。
「再会のご挨拶がぞんざいだったことには、少しだけ恨みがましい事は言いたくなりますけどね……」
 照れ隠しに笑うローラに、サライも雪音も、引き締めていた表情を綻ばせた。

「……それなら、あとは私たちが口を出す事じゃないみたい」
 後はご自身でお願いします、と、フェンリエッタが後ろの衝立を退かすと、そこに立っていたのは……依頼人の咲崎だった。
「さ……咲崎さん!?」
 何が起こっているのか分からないといった顔で、大いにローラは驚いている。
「色々話せば長くなるんだけど、大事な事だもの。こうして隠れていてもらったの」
 言っただの言わないだの、めんどくさい事が無くていいじゃない? ……とは、影蘭の弁である。
「ローラさんの心情も聞いたところだし、あとは2人でどうにかしたほうがいいと思ってね?」
「辛い過去の事なら尚の事、私たちだけでは伝えきれない思いも……確かに届いたと思うの」
 フェンリエッタは咲崎に微笑みを向けると、次に仲間たちへと向き直り、誰ともなしに咲崎から離れていく。
 後に残されたのは、咲崎とローラの2人だけ。
 ここまでお膳立てをしたのだから、2人で心ゆくまで話せばいいだろう。



「ちょっと、強引だったかもしれないですけれど……平気でしょうか」
「大丈夫よ。あれくらいしなくちゃ、男もケジメってものがつけられないでしょ」
 雪音は心配そうに、歩きながら2人を残した喫茶店を数度振り返る。が、影蘭は『まったく世話が焼けるわね』と、ころころと笑っていた。
「大丈夫です。ローラさんの言ったことに嘘はないみたいでした。あの人は、人を恨んでいませんよ。それだけは……はっきりわかります」
 サライも、晴れやかな表情を浮かべている。
 任は果たした。決めるのも彼次第だ。そう言って感情を消した羽流矢。
 その表情からは、何の想いも読み取れない。
「ローラさんに殺意はないというだけだが、はたして咲崎はどんな決着をつけ、そして何処へ行くんだろうな」

 僅かな疑問を含んだ声は風に乗って流れ、夜桜の下で溶けて消えた。