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■オープニング本文 ●にんけんは何度でもやってくる ジルベリアには春の訪れはまだ遠く、肌に感じる風は冷たい。 しかし、冬の寒さにも負けず、カレヴィリアの街に着ぐるみの人物が姿を見せる。 「寒い寒いと着込んだところで、この見えざる手からは逃れられないぜっ……!」 愛らしいにんけんきぐるみが、不敵な言葉を漏らしているのを誰一人として気づく者はいない。 きぐるみの頭部は犬をかたどった愛くるしいものであるのに対し……胴体部分のほうは、何故かピッタリしているタイツ生地である。 適度に引き締まった身体つきと、プリンプリンとした尻……についているくるんとした尻尾。 しかも、足の付け根の中心部分が詰め物をしているかのように不自然な形に膨らんでいる。 細長く膨らんでいるわけではない。拳大の円形に膨らんでいる。 この段階で断言できる事といえば、この格好は紛れもなく――変態的だったという事。 「そろそろ始めるとするか。新たな技を身に着けて舞いもどってきた……春のにんけん祭りを!!」 助走も無しに跳躍したにんけんは、一瞬で獲物に狙いをつける。 今回の獲物は、にんけんの視線にも気づかない、銀髪の女性騎士であった。 「甲冑を着込んでいようが、ズボンであろうが! このにんけん様には不可能はない!」 異様な気配を察知し騎士が振り返った頃には、にんけんの姿は彼女の背後にあった。 着地した刹那、変態が彼女の尻をはたく!! 「ひゃっ……!?」 思わず身をすくめる女性騎士。彼女からにんけんが離れたのは数瞬後。 「……ほう、赤か。見かけによらず派手だな」 きぐるみが喋りながら、手の中にある赤いぱんつを……騎士に見せつけると、タイツの中にしまい込む。 「腕は上がっているようだ! 今度こそ、あの耳長女に復讐するぞ!」 総取りだ、と、恐ろしい単語を残し、笑いながらどこかへ走り去って行った。 「……もう生きていけぬ! 許せ父上! クロエはもう恥辱を味わった!」 「待ってクロエ! 気持ちは分かるけど自刃しようとしないで!」 泣きべそをかきながらナイフを自らの喉に突きつけようとしたクロエを止める開拓者たち。 その一部始終を、店の中から覗いていた女がいた。 「……また、あの駄犬現れやがりましたわね」 エルフの魔術師、ティーラである。 あのにんけんとは浅からぬ因縁があり、開拓者たちの力も借りつつ数度シバキ倒してきた。 「今度こそ、サンセットフリップで地獄行きですわよ!!」 もしゃっ、とピロシキを口に放り込み、茶で流し込むと代金を置いてティーラは店を出た。 「さあにんけん! わたくしを倒しにいらっしゃい!! 耳長女は、ここにおりますわよ!!」 |
■参加者一覧
ルシール・フルフラット(ib0072)
20歳・女・騎
デニム・ベルマン(ib0113)
19歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
瀏 影蘭(ic0520)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●恥も忍ばない カレヴィリアの街の一部だけが、激しい憎悪に覆われていた。 事件で一番悲しむべきは、低俗な犯罪のせいであることだったりするのだが――。 「下着泥ぼ……被害に遭われたという辛いお気持ちは本当に、本当に良くわかります……でも、どうか落ち着いてください」 生ぱんつを奪われた女子は少なくない。 荒れ狂うクロエをようやく落ち着かせたレジーナ・シュタイネル(ib3707)は、 彼女に温かい茶を飲ませるため店に押し込むと、入れ替わりに中から出てきた凶相のラグナ・グラウシード(ib8459)の姿を見るや否や、瞳を大きく見開いた。 「また、あの恐るべき変態が出たようだな……!」 レジーナの目に映っているラグナは一見普通の青年だが……背負ったうさぎのぬいぐるみ【うさみたん】を、自分の身体に縄で幾重にも括り付けているのである。 「いくぞ、うさみたん!」 と叫びながら、ラグナはとりもちのついたネチャネチャした網を携えて街へ飛び出していった。 「ええと……どの程度からが……変態と呼ばれるのでしょう……さっきの方なら、何か知っているのかも」 困ったような表情を浮かべたレジーナだったが、ラグナが『あの変態』と言っていたことを思い出す。 何か風貌の特徴を聞けないかと思い立ったレジーナは、やや遅れて魔の街へ飛び出していく。 「――おっと」 店を出てどちらに行くか迷っていると、着ぐるみの人物とぶつかってしまった。 「怪我ないかい、悪かったね」 「あ、平気です……」 大丈夫です、と微笑んで数歩進んでから――レジーナは、違和感を覚える。 「……なんだか、不思議な格好の人でしたねぇ……あれっ!?」 お尻を両手で押さえ、そっとさする。穿いているはずのものが無くなっていた。 「ぱんつも清楚でよろしい」 そんな彼女の狼狽ぶりを楽しんでいた着ぐるみの人物こそ、にんけんであったのだ! ワナワナ震えるレジーナを置いて、さらば!と屋根伝いに去っていくにんけん。 「いやああーーッ!!」 レジーナの絶叫が、カレヴィリアに木霊する。 場所は変わり、にんけんに対し打倒の念を掲げるティーラの話を伺ったレティシア(ib4475)は、彼女に共闘を申し出て特徴などをあらかじめ押さえておく。 「聞けば聞くほど、放っておけないですね。ライフワーク的にも……放っておけません」 真面目な顔をして答えているのだが、レティシアの涼しげな青い眼には、嬉々としたものが浮かんでいる。 そこへ、長身の妖艶な色香を放つ瀏 影蘭(ic0520)が、2人の近くへとやってくる。 「突然ごめんなさいね。なんだか、面白そうな変態さんが暗躍してるらしいじゃない?」 聞き耳を立てて申し訳ないが、強い興味を持ったため、是非自分も参加したいと告げた。 「世の為、人の為にも悪いコにはお仕置きしないと、ね?」 物好きな方々ですわねと言いつつもティーラはレティシアと影蘭の2人を見比べ――…… 「遭遇する前にご忠告を。お気に入りの下着を穿かないほうが身のためですわよ」 と念を押した。 「お気に入りを穿かないほうが、ね。了解よ――さて。悪いワンちゃんは引っ掛かってくれるかしら?」 雀型の式を飛ばし、街を偵察した影蘭。 目立つようにと和服姿で大通りを歩き始めた。 ●犠牲者は続々と 「変態がにんけんを名乗るなんて、ニンジャのイメージダウンなのです!」 そんな忠告を知る由も無く、カレヴィリアへとやってきているルンルン・パムポップン(ib0234)が、正義のニンジャとして放っておけないと街をひた走っている。 「はっ!? ニンジャレーダーが作動! 近くにいますねっ!?」 どこです悪いニンジャ! と周囲の警戒をしていた彼女の前に、犬の着ぐるみを着た変態が現れた。 「にんけんサンは、ニンジャではなくシノビ!」 着ぐるみの顔は可愛いなと思いながら、徐々に頭部から身体へと視線を下げていくと……ピッチピチの全身タイツ姿と、不自然な丸い股間。 「最悪なのです……生理的に無理なのです……」 「理論値では問題ない!」 シュバッと距離を詰めるにんけん。その俊敏さはかなりのものだったが、ルンルンもシノビである。 「てぁっ!」 相手の急所……股間に狙いを定めて、素早く足を跳ね上げた。 硬い股間。もう響き的に最悪なものだが、手ごたえはあった。 「……あれ? 硬い?」 しかも丸い。ルンルンが違和感を覚えた時だった。 「隙有り!」 にんけんは股間を蹴りつけたルンルンの足を掴み取り、後方に放り投げる。 「くっ!」 片膝をついたルンルンは、相手を睨みつけたが……愕然とする。 「お前さんたちは海苔でも貼り付けているほうがお似合いだぜ!」 にんけんの右腕には、既にルンルンのお気に入りぱんつが通されている。 「か、返してください!」 風通しの良くなった足元を隠し、ルンルンが抗議するも聞き入れる様子はない。 「これが勝負下着というものだ!」 言うや否や、頼んでもいないのに股間のタイツ部分を引きちぎるにんけん!! 「ひっ……!?」 ルンルンの喉から恐怖の音が漏れた。 そこに見えたのは闇目玉。なんと、この男下着を付けていない。 あろうことか、頭装備であるはずのお面を、下着に改良していた!! 「いやぁああー!! いろいろありえないですっ!!」 「シノビの基本は攻守一体! 形にこだわっている愚か者め! それだから貴様は忍べんのだ!」 にんけんも忍んでいないのだが、闇目玉股間隠しなどを見せられて、平常心を保てる奴がいるのだろうか。 そんな彼女へ腰を卑猥に揺らしつつ歩を進めるにんけん。 「おやめなさい!!」 街の騒ぎを聞きつけてやってきたルシール・フルフラット(ib0072)が、アンサラーを一閃しルンルンとにんけんの間に割って入る。 「あなたはなぜ、ぱんつばかり狙うのですか! その心を、健全な目的に使うことはできませんか!?」 他に情熱を活かすことはできるはずですと説得を試みるルシール。 「俺に出来る事は、ぱんつの収集だ」 無慈悲な返答。 「……話し合いは、無駄なのですね……」 彼女の悲しみに反応するように、赤いオーラが揺れた。 しかしどこ吹く風。にんけんが夜春での魅了に動く。 「うっ……! こんな、お尻になんて負けない……!」 ぷりぷり可愛く揺れる尻に、頭を振って必死の抵抗を示す。 「そうです……恋する乙女には効かないのです……」 ルンルンも、意中の人を思って唇を噛んで耐えるが、何故か鼻血を垂らしている。一体何を考えたのだろうか。 にんけんは空蝉を使用して分身し、ルシール目がけて手を伸ばす。 すれ違う一瞬を逃さず、ルシールはにんけんへ一撃を見舞った。 「ぐおっ!」 勢いよく顔から雪へ突っ込むにんけんだったが、その手には紐ショーツがしっかり握られていた。 「い、いつの間にパンツを……!」 バッとスカートを片手で押さえ、頬を染めるルシール。 だが、ここで恥ずかしがっている場合ではない。 「羞恥心を秤にかけても、あなたを止めてみせる! 操を立てるべき相手もいないのなら……失うものはありません!」 何気にすごい発言をしながら、ルシールはスカートが捲りあがるのも構わず、にんけんへ強力な一撃を見舞うが、危険を察知したらしいにんけんは瞬時にその場を退く。 「そこまでです! これ以上の悪事は許しませんよ!」 デニム(ib0113)の声が響くと同時、彼のいた場所めがけて、数瞬遅れてエルファイヤーが放たれた。 「チッ、外してしまいましたわ」 悔しそうなティーラに、にんけんが『出たな』と声を荒げた。 「むっ、少々出遅れたようだ。しかし……」 戦闘の匂いを嗅ぎつけたらしいラグナ。 ラグナは顔を赤らめもじもじしているルシールを見て、怒りを露わにした。 「また性懲りもなく罪を重ねたか、この外道が!」 「うるせえ、お前に説教などされたくないわ、このウサギ野郎!」 「なっ……うさみたんはただのウサギではない!」 ようやくやってきたレジーナは、ぱんつ返してくださいと叫びつつ、にんけんを見つめたまま首をかしげる。 「なんていうか、その……き、気持ち悪……いえ、人のことをそんな風に言っては……いけませんね」 「思い切り言うとるだろうが!」 変態と言われるのは嫌なようである。激怒したにんけんは、股間の闇目玉ごとレジーナへと向き直る。 「……何があっても、誘惑されたくはありませんね……」 「あっ! ようやく見つけたぞ、この変態めが! よくも妾に恥辱を与えてくれたな!」 怒りに肩を震わせながら、憤怒と羞恥に耳まで顔を赤く染めたリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が ふてぶてしいにんけんを指差す。 「おお、お前は先ほどのオムツ少女。漏らしたのか」 「ち……違う! 妾は常におむつを穿いている訳ではない!」 急に早口になったリンスガルトに再び見せつけるように、闇目玉から取り出したのは彼女が先ほどまで穿いていたオムツ。 「俺もまさかオムツを盗んじまうとはなぁ……」 「 今日は偶々じゃ! 三ヵ月……いや半年……もとい一年振りに粗相をして、メイドに叱られた挙句今日一日はそれを穿いている様にと……」 そこで、リンスガルトは一瞬動きを止め……素っ頓狂な声を上げる。 「――って何を言わせるかっ、この痴れ者が!!」 傍目には分からないが、顔から火が噴き出そうなほど恥ずかしくなってしまったリンスガルト。 「自爆したか愚かな! まだオムツは卒業できないなっ!」 バカにしたような高笑いが響く中、レジーナが、リンスガルトを庇うように立ちふさがる。 「泥棒は犯罪です。きちんと反省し、罪を償っていただきます!」 常識的な意見も、にんけんには耳タコが出来るほどに聞き飽きている。 「これは、狩りなの! こうして気配を消し、瞬時に相手を仕留める……そして、勝敗が着いた後、相手の表情が歪むほど俺は生きてるって感じで楽しいの!」 「なんと歪んだ性癖……!」 絶句するリンスガルト。彼女だけではなくその場にいた大抵の者に、にんけんは嫌な心証をもたらせたに違いあるまい。 「なるべく穏便に、捕獲する方向で……と、思っていましたが。そうも言っていられなくなりましたね。これはただならぬ変態ですよ!」 デニムもさらりと本当の事を真面目な顔で言ってしまう。 自分の大切な人が同じ目に遭ったらと思うだけでも怒りがこみ上げてくるらしい。 そこへ、通りがかりを装い近づく影蘭は、にんけんを見ながら困ったようにあらあらと口元に手を当てた。 「頭部はぷりてぃ〜なワンちゃん、それ以外は全身タイツだなんて……。随分と斬新なファッションセンスじゃない」 股間から睨みつける闇目玉まである。そんな異常すぎる変態に微笑みを向けている影蘭の度胸というか精神というか、ともかくメンタルは並大抵の強さではない。 「その褒め言葉と、あんたのぱんつは……有難く受け取っておこうか!!」 にんけんが影蘭に狙いをつけ、奔刃術で迫ってくる! 「――危ない!」 思わず声を上げたルンルンに、影蘭は心配無用と優しく言い切った。 にんけんが、すれ違いざま影蘭の着物の裾から手を突っ込む――!! 「ん……貴様……!?」 驚愕の声を上げたのは、にんけんの方だった。相当腹立たしかったのだろう。怒りに任せて影蘭の着物をばさりとめくり上げる。 謎の海苔が飛んでいく前に、悲劇は起こった。 「ええ、私――下着はつけない女なの」 影蘭の着物の下には……女には本来無いアレがあったのだ。 「男じゃねえかあああッ!!」 にんけんのツッコミに、いやん、はっきり言わないでと顔を赤らめた影蘭。そこは照れるところではない。 見事な返しだったが、その代償は仲間への精神汚染という諸刃の剣だった。 そんな影蘭の手には、陰陽符があり――気づいたにんけん、時すでに遅し。 「色々思うところはありますが、多分、この変態は今の内に斬っておいた方が世のため人のためでしょうねぇ?」 穏やかな口調だが、目は笑っていないデニム。 「と、とにかく……私たちの目的は、変態を狩ることですよ! あっ、目標はあっちのワンコです!」 ある意味変態だらけになってしまったため、目標がどれか混乱しているようだ。 「まったく、会うたびに変態力と戦闘力が上がっているから困りますわ」 ティーラが呆れた顔で告げ、彼らが止めるのも聞かずにんけんの前に立ち……頭部を蹴りあげる。 そのまま再び冷たい雪に転がるはずだったが、にんけんが激痛に飛び起き、のたうち回る。 「足元に撒こうかと思ったのですが、折角なので」 効果はあったようですねと言いながら、レティシアが日傘を広げて屋根から飛んだ。 にんけんの眼に映ったのは、安っぽいセール品のぱんつを穿いているレティシア。 ドレスのスカート部分がめくれても気にしていない。 ふわりと着地して、スカートの端を摘んで優雅にカテーシーを行いながら『ごきげんよう』と微笑む。 どかっとヒールで頭部を踏みつけてやるのだが、にんけんの意地もあるのだろうか。踏まれたまま彼女の細い足を掴んで、太ももへと手を伸ばす。 「殴られているうちに取ろうという魂胆ですか。お見通しです」 手を乱暴に振り払い、思い切り踏みつけてやるレティシア。 にんけんには残念ながらそっちの趣味は無かったようで、足をばたつかせて痛がっている。 「自業自得。お仕置きの時間ですよ」 デニムが殲刀を構え直し、怒りの攻撃を繰り出した。 「どんなお顔をしているのかしら。興味あるわね」 錆壊符でにんけんの装備を攻撃していく影蘭。しかし、攻撃するたびににんけんの素肌が見えていく。 リンスガルトは女児ぱんつ「蜜蜂」の針で攻撃しているのだが、攻撃する度ににんけんへ尻を突きだす。 レティシアは加虐的な笑みを浮かべているし、なかなか殺伐としていて、妙な雰囲気の光景である。 「巻き込まれたくなかったら離れろ!」 咄嗟にはなれる開拓者たち。そのすぐ後、大きな網をにんけん目がけて投げつけたのは――ラグナである。 「捕獲!」 彼はにんけんの所業を忘れてはいなかった。 背中に背負ったうさみたんにも、ひどい仕打ちをされたのである。 身動きの取れないにんけんを鳥もちのついた網で捕獲し、鬼のような形相で殴り始めた。 「動けなくなるまで徹底的にやらねばならん!」 志体持ちだから丈夫だしなと酷い事を言いながら殴るのをやめない。 そればかりか、以前うさみたんにかぶせられた老婆のパンツを取り出し、にんけん――だった男の口に入れて前歯を折る勢いで殴り始めた。 その後、数人がかりで止められたものの、にんけんは相当のダメージを負ったようだ。主に肉体的に。 こうしてカレヴィリアとぱんつの安全は守られたのだが……依頼を受けた開拓者の精神ダメージは相当重く、しばらくは夢に魘される日々が続いたという。 |