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■オープニング本文 ●またお前か そろそろ、夏の匂いも近くなってきた六月。 御神本 響介は、手に数種類の粉が入った袋を抱えつつ家路に向かっていた。 何か良い事でもあったのか、彼の足取りはいつもより少しばかり軽い。 そうしてジルベリアでは多少浮いた感のある天儀式家屋が見えてきたところで――響介は足を止め、多少の異変を見て取った。 きっちり閉めて行ったはずの引き戸は、僅かに隙間が空いていたのだ。 まさか賊が入ったのかと、緊張を高めた響介だったが、向かいのおばさんが響介を見て『あらミコちゃん』と声をかけてきた。 【おかもと】であって【みかもと】ではないし、【陰陽師】であって【巫女】でもないのだが……。 なぜか、近所ではミコちゃんと呼ばれている響介だった。 「おかえりなさい、天儀は楽しかった?」 「こんにちは。ええ、少々里帰りをしておりまして……これは土産です」 お口に合えば良いのですがと笹の葉に包まれた和菓子――中身は羊羹なのだが――を渡すと、存外に喜ぶおばさん。 「ミコちゃんの買ってきてくれるお土産、美味しいからおばちゃん毎回楽しみにしているのよ〜!」 うふっ、と乙女のような声を出しておばさんは上機嫌に微笑んでいる。 どうやら、菓子の力はどのような女性も乙女に変える力を持っているようだ。 だが、いつまでもおばさんと仲良く話をしている場合ではない。 響介は幾分表情を引き締めながら『ご存じであれば教えて頂きたいのですが』と切り出し……肩越しに自宅を振り返る。 「僕の家に誰か来た形跡があるのですが……それが誰」 「あー、ミコちゃんの彼女ちゃんかしら? 銀髪のほら、キリエノワ様の――」 「もう結構です」 ぎらり、と響介の目が鋭く光を帯びた。おばさんは『あらあらうふふモテモテねえ』とおかんパワーで邪推しているのだが、全く的外れも良い所なのである。 日ごろから目つきの悪い男の眼光は、いつにも増して恐ろしいものになっていた……。 ●露知らず スパーン、という音でも響きそうなくらい鮮やかかつ滑らかに、戸が開かれて響介が板張りの廊下を進む。 すると、自分の書斎から行燈の光が漏れているではないか!! 「……クロエさん。勝手に人の家に入らないでください」 歩きながらそう声をかけ、一呼吸置いた後に……ひょこりとクロエが部屋から顔を出した。 「おお、キョウスケ。邪魔しているぞ!」 「本当に邪魔です。帰って下さい」 にべもない言葉を受けたクロエは、久々の再会なのにつれないではないかと不満そうに漏らした。 「私の冒険譚などを土産に持ってきたのだぞ」 「貴女の冒険譚に何一つ興味はありません。おおかた、開拓者の皆様に助けられてようやく戻ってきたのでしょう?」 「ぐっ……」 図星だったらしい。言葉に詰まったクロエだったが、私も少しは成長したのだと口を尖らせた。 「そうですか。では、料理の腕前などは上手になりましたか?」 「当たり前だとも! ほんのちょっぴり上げたぞ!」 「なに胸を張って威張っているんですか。もともと褒められた腕ではないでしょう」 貴女と話していると疲れます、と言いながら、じゃあ暇だったら手を洗って手伝ってくださいと、粉の入った袋を見せる。 「なんだ、これは?」 「天儀の菓子を作るんです。みなづきと言ってですね……」 軽く概要を説明したのだが、はたしてこの娘は理解しているのだろうか。 「ふぅん。アレンジしても楽しそうだな」 「怖い事を言いますね貴女は……」 クロエの腕前を知っている響介は非常に嫌そうな顔をし、既にやる気になっているクロエをじっと見つめた。 「なぁ、誰か仲間を呼んでもいいか? 菓子作りは皆でやっても楽しかろう?」 「……構いませんよ」 それにより、自分の作業が楽にこなせることを知っている響介としては、異論もないようだ。 今日は久方ぶりの青天であったが、御神本邸には暗雲が立ち込めていた……。 |
■参加者一覧
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
玖堂 羽郁(ia0862)
22歳・男・サ
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
瞳 蒼華(ib2236)
13歳・女・吟
郭 雪華(ib5506)
20歳・女・砲
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●知れ渡る料理下手 同志を求め開拓者ギルドに顔を出していたクロエ。 「あら! お久し振り!」 笑顔で手を振るフェンリエッタ(ib0018)に、クロエも元気良く手を振り返す。 「久しいな、元気な顔を見ることが出来て喜ばしい」 「本当ね。いつ以来かしら……去年のお泊り会?」 口元に手を置き、フェンリエッタ自身も『そんなに経っていたのね』と驚いていた。 「わたしも……またお会いできて嬉しいわ」 可憐な微笑みに、何故か頬を赤らめるクロエ。 「あ……う、うむ。私もだぞ」 「……クロエ殿」 いつの間にか後ろに立っていた郭 雪華(ib5506)に名を呼ばれ、驚きのため一瞬宙に浮くクロエ。 「……その依頼発注書……クロエ殿が?」 「うむ、少々手伝ってもらいたいことがある」 見かけた知り合いなどに手を振りながら、クロエは笑顔でこう告げた。 「菓子作りだ!」 ――騒がしかったギルドの空気が一瞬で凍り付いた……。 ●御神本邸到着 クロエに説得されてか、はたまたクロエを放っておけなくなったか―― ある者は笑顔で、またある者は沈痛な面持ちで御神本邸へと踏み入れた。 「……ようこそ」 戸を開けると、土間で作業中の響介が軽く頭を下げた。 一定の石臼で挽く音が響いている。 「風の噂で聞いたけど……冒険に出てから料理の腕が劇的に上がったって?!」 頑張ったねと褒める天河 ふしぎ(ia1037)だったが、どんな風が運んできた噂なのか。 「……と、とにかく……何を作るんだって?」 過去の料理状態を知っている百舌鳥(ia0429)が、響介に漸く肝心な事を聞いた。 「みなづき、ですよ」 「みなづき……あぁ。アレか。久しぶりに聴いたなぁ」 菓子の名を呟いた百舌鳥は、もうそんな時期かと言いながら目を細める。 初めましてと声をかけてくれた玖堂 羽郁(ia0862)の顔を穴が開きそうなほど見つめているため、居心地が悪いであろう羽郁は上半身を反らす。 「失礼ながら……汝、姉か妹はいたか? 以前助けてもらった女性と似ているので、他人とは思えぬ」 「姉ですよ。クロエさんの事も少し伺っています。 真面目で素直な人だから、手順を間違えなければきちんと料理出来る――って。 慌てず、一緒に頑張りましょう」 姉上にも宜しく伝えてくれと微笑み返したクロエ。 ではまずは粉か、と言ったところへ百舌鳥が慌てて駆け寄り【クロエ用特製レシピ】を握らせる。 「器具の形状や煮込む単位まで随分丁寧に記載されているな……」 「当たり前だ……事故とかあるから――」 「事故?」 「いや、つくるのはいいんだ……その、色々とな、あるだろ」 ハッキリしない口調だが、無理もない。 意欲的な女性に面と向かって『お前の料理は公害だ』と言えるだろうか。 先のことを危惧し、作る前からぐったりする百舌鳥は、クロエに聞かれないよう『誰でもいいから、あいつだけは放っておかず見張っていてくださいお願いします』と仲間のほうへ呟いていた。 うるち米を挽いて作った、いわゆる上新粉を集めていると……後方から妙な視線を感じる。 「……?」 響介が振り返ると、何か戸惑っているような緋那岐(ib5664)の姿があった。 「御神本……」 眉を寄せた響介とは逆に、緋那岐はポンと手を打って『ああ、なるほど』と納得している様子。 「なんか『ミコちゃん』とか、御神木がどうしたのか〜、と思ったけどそういう事」 よろしくミカモトさん、と笑顔を向けられて、どこから訂正すればいいのでしょうねと肩をすくめた響介。 会話の糸口を逃し、どうすればいいのかと数度瞬きした蒼華は先ほどの話を思い出す。 「あの……みなづき、って、どんなお菓子、なんですの?」 瞳 蒼華(ib2236)が不思議そうに尋ねてきたため、響介は軽い説明を行う。 「見本はまだありませんが、ういろうに甘く煮た小豆を乗せたものです」 「ういろう……お菓子にも、伝承があると、聞きましたの」 真剣に聴いてくれる蒼華に、みなづきの経緯などを熱心に話す響介。 百舌鳥がたすき掛けをしながらやってきて補足説明をし、ふしぎも話に加わって場は静かに盛り上がっている。 結果、和菓子に詳しい男子2人が猛獣から目を離してしまうという恐ろしい状態である。 百舌鳥の用意したレシピを見ながら、クロエが粉を手に取る。『どんな粉』なのか分かるはずもなかった。 いよいよ、大変な事態になりつつある。 「待て、クロエッ! 何かおかしくないか!?」 側で一緒に料理をしていた緋那岐が、クロエの腕を掴んで投入を阻止。 その声に、茹でた小豆を笊に移していた羽郁もぎょっとして振り返る。 「クロエ姉さま。お料理は、大切な人を思い浮かべて作るんだよ。 そうすると、丁寧に作ることができるんだよっ」 せわしく動き回るフレス(ib6696)だったが、クロエに大変素晴らしいことを言った。 うんうんと何度も頷く百舌鳥。よくやった、偉い、と言葉に出さなくとも顔が物語っている。 「で。これ、何の粉だ?」 「葛粉だね……ちゃんとふるいにかけてから使おう。舌触りも出来も違うよ」 緋那岐の疑問に応えるように羽郁がやってくると粉を見つめ、助言をしながらこうするんだよと手本を見せる。 「これがどんな菓子になるのやら……想像がつかぬ」 粉をふるいながら、クロエは雪のように落ちる葛粉を見つめていた。 「ういろう、つるんとしていて、割とあっさり、って、教えてもらいましたの……プリンやティラミス……とかにも、似てるみたい……?」 説明を受けても、やはり形がないと想像しづらかったが、蒼華も首を傾げながら伝えれば、クロエもなるほどと大まかに理解したが……みなづきの間違った認識や、先入観を共有してしまったようだ……。 「ういろうなら何度か食べたことがあるわ。 あのモチモチとした食感が独特だから好きよ。帝国にはない美味しさよね」 響介に手順を聞き、鼻歌交じりに作業をするフェンリエッタ。みなづき作成も初めてなのに危なっかしいところは見受けられない。 事前に用意してあった笹の葉を蒸し器の下に敷き、型に入れた生地をそっと置いていく。 「帝国だと、天儀と違って手に入り難い材料もあるからなぁ〜」 羽郁も文化の違いは心得ているが、質の良い葛粉だと褒めていた。 「小豆にかけるための蜜も合間に作りましょう。 みなさん料理の経験もあるようで非常に助かります」 響介の言葉に、何故かクロエが微笑んだが、響介に凶相で睨まれ視線を逸らした。 フェンリエッタは要領を掴んだらしく、 黒糖と黒豆といった変わりものや苺を使ったものなどを作成するようだ。 色使いや食感も楽しむようだ。 「なるほど、あのように作るのか……」 女子力は物理しか縁のないクロエは関心しきりの様子。 そこから雪華は何かを感じ取り、彼女に助言する。 「何かに手を加えようとするのなら……まずは、それが本来持つ姿というものを知ってから、が基本だと思う……。 アレンジは、いきなりだと難しいからまずは基礎を作り、応用をしてみてはどうかな……?」 「うむ、かなり納得できたぞ、セツカ。流石だな」 「クロエ殿……ちゃんと、百舌鳥殿のレシピも見るんだよ……?」 作った本人もかなり注視しているけれど、と幼馴染の見慣れた割烹着姿に目をやる雪華。 「おぉい、待て、ダマになるから一気に混ぜんな。ゆっくりだ」 下地に使うであろう数種類のういろうを作りつつ百舌鳥は口を挟む。さながら保護者のようである。 四苦八苦するクロエだったが厳戒態勢の指導の元、大きな失敗はないようだ。 「そうだ、クロエさんは、どんなみなづきを作るの?」 「プリン」 「……えっ?」 鍋の中で抹茶をゆっくり馴染ませつつ尋ねてみると、想像もしていない答えが返ってきたため驚くフェンリエッタ。 (……またクロエ殿の犠牲者が……) フェンリエッタが驚いた拍子に、加減して少しずつ入れていた抹茶が、ざばっと入ってしまったのを目撃してしまい、雪華はいたたまれずに目を伏せた。 「クロエ姉さまっ、水はまだ……もうちょっと説明書通りに頑張ろう! 前に母さまが言ってたんだよ。 『料理が壊滅的な下手な人っていうのは、何かにつけ余分な事やりたがる奴だ』って……」 どう見てもお前だという視線が何処かから突き刺さったが、クロエはそれを感じていないようだ。 だが、フレスの言葉に納得して混ぜ続けている。 豆とは違う、果物の甘い香りが漂っていた。 「お菓子って言っていたから、果物もいっぱい買ったんだ!」 ふしぎがニコニコしながらベリーや苺などを取り出すと、フレスが『アル=カマルの果物もあるんだねっ』と嬉しそうに目を輝かせた。 「……いっぱいういろう、作って……ますね……ケーキみたいに、重ねるんですか?」 「それも綺麗でいいよな」 蒼華が聞いたので、羽郁もいろいろな味のういろうを作るんだ、と伝えた。 「みなづき……たくさんのバリエーションが、ありますね」 「この時期、我々天儀に住むものには愛着のある菓子だからな……っと」 大きな型を抱えた羽郁。 何だろうと不思議そうな顔をする面々ににっこり笑った後……型を外したそこには、ぷるんと魅惑的に揺れる、大輪の薔薇が咲いていた。目を丸くして蒼華と横から顔を覗かせるフレス。 「薔薇の形の抹茶ういろうも作ったよ」 「羽郁兄さまっ、すごく綺麗でおいしそうなんだよっ!」 フレスが頬を押さえて歓声を上げると、羽郁もありがとうと顔をほころばせている。 「上に乗ってる小豆は……」 うーん、と考え始めたふしぎ。 「……き、きっと、美味しいからなんだぞ!」 そう言っているふしぎ自身、どこかが腑に落ちないのだろう。 「厄払いのお菓子っていうから、そのためだと思うよ〜」 フレスがクロエの小豆を見ながらそう告げると、響介がその通りです、と答えた。 「小豆は魔除けのためです。秦国のほうでも、赤い色は魔除けに使います……そうでしょう、雪華さん」 響介の言葉を継いだ雪華は、ういろうに小豆をかけている途中で彼に目を向けるとそうだねと首肯する。 「秦国でも赤い色は……そう言った意味で多く使われているよ……」 やっぱり意味はあったんだなぁ、と頬を赤らめたふしぎだが、でも実際美味いよなと百舌鳥は同意してくれた。 「アオカ、上手に出来ているな」 「は、はいですの……。響介さんに、教えて、いただきながらです……」 蒼華はもじもじと身じろぎしたが、上手に出来ましたか? と響介の感想を求める。 「ええ。貴女はお上手です。教えたとおりの事をそのままやってみる、というのは簡単そうで難しいですが、貴女はきちんと出来ていました」 「……うれしい、です」 喜びを感じつつも表にうまく出しきれないのだろうか。 唇をきゅっと結んで、蒼華は俯いて頬を徐々に染めていく。 響介も自身のみなづきが仕上がったところで、蒼華に袖を引かれた。 「? どうしました」 「あの……『かわりみなづき』を作ってほしいのです……」 うるうると子犬のような眼で見つめられてしまう。 「材料もありますので、作るのは構いませんが……」 みなさんも作成されていますから、作っても余ってしまうと思いますよと響介は卓上に置かれた様々なみなづき・ういろうに目を留めた。 「そうです、ね……。たくさん、ありました……」 並ばれた品々のなんと美しいこと。 皆で卓を囲んで食べるみなづきは、さぞ美味しく楽しいだろう――口元を袖で隠しつつ、くすりと笑った蒼華。 包丁で切り分けようとするふしぎに、羽郁は糸で切り分けるとよいとアドバイス。 「なんだか、ケーキみたいだね」 三角形から連想したのだろう。購入したフルーツなどをみて、ふしぎはもう一つアレンジを思いついたようだ。 「クロエのも、もう完成だね!」 頑張ってと無邪気な応援をしつつ、フルーツを剥き始めるふしぎ。 「うむ。私のみなづきも出来たぞ!」 その言葉に、動きを止める百舌鳥。 雪華は動じないが、眼だけをクロエの作成したブツへ向ける。 見た目は普通だ。皆で注意して作ったのだから何事もあるはずはない。 しかし、それでも勇気がでないのは致し方がない。 クロエをひきつった顔で見つめる男性陣。 心境は語るまでもなく顔に現れている 「――」 「待てクロエ! まずは自分で食べてみろ!!」 誰かの名を呼ぼうとするプレッシャーに耐えきれず、緋那岐はそう提案した。 それもそうかとクロエが一口食べて、甘くて美味しいと言ったので百舌鳥と顔をつきあわせる。 「クロエ、料理の腕が破滅しているだけで、味覚は平気だよな?」 「ああ。確か美味いもんは美味いと言えたはずだぜ」 「きっと……美味しいです……」 重い空気を柔らかく変えるかのような、蒼華の偶像の歌。 そう美味しいと歌にのせて言われると、確かにツヤツヤしていて、蜜をまとった小豆もふっくらしている……ように見える。 二人で確認し、おそるおそるクロモジの菓子楊枝で一口取ると、死を決意しながら口へ放り込む。 「……あ、普通だ」 気の抜けた声を出す緋那岐はほっとして胸から腹をなで下ろす。 「ん。まぁ、小豆がちょいと甘いが、普――」 ごり。 口内から異音がした。と共に百舌鳥と緋那岐は顔を歪めた。 「硬いのも入ってるぞ」 「そういやさっき、なんか豆いじってた」 「これで、あと半年大きな怪我もなく過ごしてぇと思ったのによ……」 いつだって怪我はないようにしたいけどね、と緋那岐。 無病息災。開拓者達にとっても願わずにはいられない。 「今までの疲れも、厄と一緒に落ちると、いいですの」 蒼華は、色とりどりのかわりみなづきを頬張り、幸せそうに微笑む。 「そうか……一年も半分過ぎたのね。私もいろんなものが溜まってしまったかも……」 「穢れ、というものでしょうか。そろそろ天儀でも大祓があるでしょうし」 天儀って独特の文化があって素敵だわ、と微笑み、苺がふわりと香るみなづきを口に運ぶフェンリエッタ。 フレスはふしぎ作成のフルーツみなづきを食べている。上を重点的に。 クロエは、雪華に『あーん』をさせて彼女の作成したみなづきを食べていた。 「豆乳味……というのも、ふむ、思いつきませんでした」 響介が百舌鳥のういろうを感心したようにまじまじ見つめる。 「この、塩とウグイス豆ってのもアリだな……」 「褒めてもらえて嬉しいわ。甘いのが苦手な人や、暑い日の塩分補給にもいいと思って作ってみたの」 嬉しそうなフェンリエッタに渋い緑茶を淹れ、こういうのもたまにゃいいんじゃねぇのと言う百舌鳥だが、菓子にはこだわりがあるようで、誰よりも熱が入っていた。 「それに、大きな失敗もなく、クロエさんの妨害にも負けずに作成できたのは素晴らしいことだと思います」 今後も何か作るときは、みなさんにお声をかけようかと思います――と響介はそう言って、満足そうに茶を受け取っていた。 |