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■オープニング本文 ●ローラのお願い 神楽の開拓者ギルド。 そこに、水色の髪を持つ吟遊詩人、ローラが初めて顔を出したのは――都にやってきて3日が経った晩のことだった。 ギルドには彼女の想像以上に人の出入りが多く、誰が開拓者なのか、職員なのかわからない。 ローラはあたりを見回す。誰に話しかけたらいいのだろう、と思ったからだ。 確か、ギルドには対応してくれる‥‥受付係がいると聞いたのだが。 (あの人かな?) カウンターで暇そうにしている受付嬢、らしきもの。 目深にフードを被っているローラは、数秒逡巡した後、その娘に歩み寄っていく。 「‥‥あの‥‥こ、こんばんは‥‥」 その声に反応した受付嬢は、営業スマイルと持ち前の愛想の良さを発揮し、ローラの緊張を少しずつ解きほぐしていく。 「はい、どうしましたか〜? お仕事の受付ですか?」 「え、ええと‥‥。人‥‥を探したいんです」 仕事の依頼ですね、と筆記用具を取り出す受付嬢。ローラにいろいろと質問して内容を聞き出しながら素早くメモを取っていく。 ローラの話というのは、こういうことである。 一緒に神楽へ出てきた商人の女性が、商品を仕入れに行くと出て行ってから、数日経っても戻ってこない。 宿や開拓者ギルドに連絡が入っていることもなく、商人の組合にも聞いてみたが‥‥仕入れに来てはいないという。 何か事件に巻き込まれたか、それとも事情があってどこかへ消えてしまったのか? 前者であれば心配だ。神楽の街は詳しくないので、どなたか一緒に探してもらえないだろうか、という事である。 「あの、それで依頼料のほうが‥‥今持ち合わせが少なくて、全納できないのですが‥‥」 どうしたらいいでしょう、と弱り顔のローラだが、ギルドの受付嬢もあら、と頬に手を当てた。 「‥‥ローラさんは開拓者さん? それなら、ギルドが不足分を臨時で立て替えます。 後日、依頼に入ったり自分でお金を持ってきたりして、指定期日までに返済してください」 「ありがとうございます‥‥!」 頭を下げたローラは、ホッと胸をなでおろす。これで、仕事は受けてもらえるらしい。 しかし、件の商人さんの容姿などを伝えていた時の事だ。 「‥‥あの、ちょっとすみません‥‥」 ローラと受付嬢へ遠慮がちに声をかけてきた女性開拓者。 どうやら、人探しという事で気にかかり、自分の知っている範囲で情報が役立てることがあればと、聞き耳を立てていたらしい。 「その商人さんは、背があなたより高くて、金髪で‥‥緑の服を着ていた人?」 「‥‥!! は、はい、そうです! ミイナさんです!」 どこで見かけたのですが、という質問に、女性開拓者は頬に手を当てて答えた。 「2日くらい前に、店の前で男性2人と話をしていた、のよね‥‥ でも、商品? を手にしながら真面目な顔で話していたから、商売中なのかと思って通り過ぎたの」 商売中だったとしても、そこから行方が途絶えたとすればその男2人組が気になる。 「あの‥‥どんな男の人だったか、覚えていますか?」 「う〜ん‥‥ごめんなさい、そんなによく見ていなくて‥‥」 年齢は20代後半程度から、30代前半程度。 一方は角刈り、もう一方は赤地に金色の飾りが施された帯を付けていた気がする、という手がかりを得た。 その情報からどこを探そうかなと、自分の依頼が張り出されたのを見ながら考えてるローラだったが、 「‥‥赤い帯って、この辺のアレ?」 「うん。ガラの悪い奴らがいる派閥だよね。連れていかれたの商人だって」 「値段設定でやりあったのかなぁ。それとも、何か怒らせて連れて行かれたのかな?」 後方で重要な話が聞こえたので、バッと勢いよくローラは振り返り、話をしていた2人に詰め寄った。 「そ、その派閥の親分さんのお屋敷はどちらですか!? どうしてミイナさんが‥‥!」 「い、いや、知らないけどさ! なんか目立ったことしたとか、綺麗な人だと親分に売り飛ばされちゃったとかさ!」 そんな言葉を聞いて非常に悲しげな表情をしたローラ。余計な事を言ったと後悔した開拓者だったが、少々反省が遅かった。 「‥‥私、親分さんの所に行って、ミイナさんを返してくれるようにお願いしてきます!」 「えっ!?」 きっと、話せばわかってくれるはずだと意気込んだローラを、開拓者2人は落ち着いてと宥めた。 「ごろつきもいっぱいいるんだよ!? 一人で行ったらコテンパン、もしくはここじゃ言えない所行きだよ!?」 「でも、このまま放っておくわけには」 ‥‥すると、1人の開拓者がしょうがないな、という形で動いてくれた。 「わかった。僕が一緒に行くよ。ただ、本当に無理だったらお友達を置いて逃げることを覚悟してね」 「‥‥はい‥‥」 |
■参加者一覧
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
レグ・フォルワード(ia9526)
29歳・男・砲
ソウェル ノイラート(ib5397)
24歳・女・砲
アルセリオン(ib6163)
29歳・男・巫
月雪 霞(ib8255)
24歳・女・吟
黒葉(ic0141)
18歳・女・ジ
御堂・雅紀(ic0149)
22歳・男・砲
瀏 影蘭(ic0520)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●捜索の前に 「さて……協力してあげたいけれど。 どんなふうにこんがらがった状況なのかしらねぇ?」 海月弥生(ia5351)が独言とも質問ともとれる口調で呟いた。 ローラたちの話を統合しても、有力な情報はない。 「カタギの人間に手をねぇ……。みかじめ料で揉めた、とか?」 瀏 影蘭(ic0520)が腕組みし、顎に手を当てて考えるが、それで拉致されては神楽の露店商はいなくなってしまう。 神楽をよく知らぬ者には容易ではなさそうでもあったし、先ほどからそわそわと落ち着かない様子を見せているローラを見かねた御堂・雅紀(ic0149)は黒葉(ic0141)と一緒に協力を申し出た。 彼女が二人の厚意に嬉しそうな顔をしたので、黒葉も暖かな笑みを雅紀へ向ける。 「目的地とする派閥はこのギルドからほど近い場所を拠点としている。 そこへ僕らは導かれようとしているわけか」 アルセリオン(ib6163)だけでなく、ここに集まった数人はあの派閥が悪名高い事を知っている。 「なんにせよ捕まっているかどうかも分からない……では迂闊に踏み込めないんじゃないかい? 急がば回れとも言うし、話せば何とかなるのなら理想的だけど、そうもいかないのが人の世だしさ」 ソウェル ノイラート(ib5397)の指摘も尤もな所ではあるし、ギルドにも少なからず情報は入っているのでは? と言うアルセリオンに、そうだなー、とレグ・フォルワード(ia9526)は大通りを見つめて頷いた。 「まずやるべきは情報収集か。揉めた理由が分からなけりゃ門前払いを食らっちまう」 事前の調査は必要だという声は他にも上がったため、ローラは逸る心を抑えつつ、私も探しますから、ご協力をお願いしますと頭を下げた。 ●聞き込み 「数日前に、この辺で金髪の商人と赤帯達が商談してたのを見た人はいないかねえ」 ソウェルとレグは逢引している風を装いながら、赤帯連中の評判や素行などを聞き込んでいく。 知らない人でも彼らが恋人と分かりやすいよう、あえてソウェルはレグの腕にしなだれるように己の腕を絡めていた。 「金髪の、ねぇ……。なんだ修羅場かい。色男」 「……ご想像にお任せしとくぜ」 「へへ……羨ましいねぇ。ああ、その子かどうか知らないけど、金髪の赤い布持ってた美人さんだったら見たね」 その言葉に、ソウェルが食いついた。 「……どんなことを言ってたの?」 「あんまり聞いちゃ無いけど、料金がどうとか、やめるだのって言ってた気がする。詳しくは知らんけど……連れて行かれたみたいだ。可哀想に」 理由の一部は金と商品についてのようだ。 「――あ、あら。ちょっと待ってお兄さん」 影蘭は街を歩き、赤帯の男を見つけると声をかけて呼び止め、妖艶な微笑みを見せる。 美人芸者に紛争しているが、影蘭は男である。だがそう思わせない容姿と、匂い立つような女性的な魅力を振りまいた。 そこで影蘭は腰帯に目を留める。 「お兄さん、私気になっていたんだけれど、その赤い帯はもしかして……?」 「見りゃわかるだろ。赤辰よ」 「赤辰団……私、実はずっと憧れてたのよ。 ねぇ、お願いがあるの……踊りでも何でもサービスするからさ……」 変な想像をしている様子の男の耳元に(役目だと必死に我慢しながら)唇を寄せて囁いた。 「――親分さんに紹介してくれないかしら?」 同じ頃、アルセリオンと霞も聞き込みを続けていた。 「調査ではありますが、こうしてアルと並んで歩くというのは……嬉しいですね」 伏せ目がちに語る月雪 霞(ib8255)に、アルセリオンは彼女をじっと見つめた後、そうだなと優しく答える。 「あの。赤い布を巻いた方々をよくお見かけしますが、こちらの流行なのですか……?」 旅の夫婦(実際夫婦なのだが)として、赤い帯に興味を持ったように見せて街の人に聞き込みを開始していた。 「違うよ。赤辰団って言ってね、いわばやくざ者だよ。幹部はそうでもないけど若いのはガラ悪くってね……。 それでもあいつらが管理してるから、この辺りで悪事を働こうって奴はいなくなったから、悪いばっかりじゃないさね」 どうやら『揉めた』のは赤辰団の若い衆である可能性が見えてきた。 「赤い布は何かを重んじているですとか、そういう意味なのでしょうか?」 「さぁね。あたしゃ、組織に知り合いがいないからよく知らないけどさ、組織は義兄弟関係が煩いらしいじゃないか。 血族みたいな感じじゃないの」 と、店の商品を拭いていた中年女性がぼやきながら応じてくれた。 ●いざ、潜入 「ご苦労様です……」 屋敷の見張りを続けていた弥生に、ローラが水筒を差し出した。 それぞれ情報を持ち寄って集合したが、影蘭の姿はない。 「影蘭さんは、若い男に連れられて一緒に入っていったわね。一足早く潜入成功ってとこ。 さっき広間までの地図情報をくれたわ。そこまでの道に、ミィナさんはいないようよ」 まだ影蘭は中にいて、出てこられないようだ。 「人の出入りなんだけれど、思ったより無いわね。 二人くらい商いと思しき人間が来たくらいですぐ帰った。 武器や装備は刀なんかは持ってたけど、銃とかは所持してないみたい。 気は抜けないけど、構えすぎる必要はなさそうね〜」 弥生は興味ありげに、そっちの情報はどうだった? と訊ねるので各自持ち寄った情報を元に、情報を整理した。 結果侵入する側と説得側に分かれて行動をしようという結論に至る。 「交渉が決裂した場合も含め、合流地点をギルドにしてはどうでしょうか……。 何か不測の事態が起こった場合、バラバラになってしまうかもしれませんし……」 霞の提案は皆に受け入れられ、彼らは裏口からの潜入班と正面からの交渉組の二手に分かれた。 屋敷の大きな門の前に、屈強な男が二人立っていた。 「なんでぇ、テメエら」 顔を上げ、低い声で屋敷に近づくんじゃねぇと威圧するが、そこでアルセリオンが一歩前に出て口を開いた。 「実は……友人の行方が分からなくなっていて困っている。 あなた方はこの辺りの顔でもあるし、少々頼らせて貰いたいのだが」 相手を持ち上げながらの説得は、門番にはなかなか効果的だったようだ。 だが、揺り動かすには、後少しの押しが必要そうだ。 「――捜索もあるが……実は俺たち、行商の集まりでな。 要するに、頭領さんへ商談を持ってきたんだよ。なんとか話をつけちゃくれねぇかな? ああ、これはお近づきの印に」 と、笑顔を向けて一千文をそっと二人に握らせる雅紀。 流石に金をちらつかせると話が早いようだ。 「ま、まぁ、界隈じゃ有名だし力もあるからな……ちょっと聞いて来てやらぁ」 そそくさ懐にしまいながら一人の男が中へと入って行く。 その隙に、裏口に回って周囲の音を拾っていた霞は頃合いだと黒葉に合図を送った。 幸いに裏にある小さな扉は堅く閉ざされており、見張りは皆無。ソウェルは頼んだよと黒葉へ声をかけた。 「潜入捜査は久方ぶりですねー」 黒葉は塀を飛び越えて着地。屋敷の中に足を踏み入れることに成功した。 誰にも見つかっていないと思った瞬間。何かの気配を感じた。 (……!?) 黒葉は思わず身を強張らせたものの、瞬時に気配は掻き消え、もう探っても見あたらない。 拭いきれぬ不安が残ったが、時間もない。自分の任をこなさなくては――そう思った黒葉は、足早に目的地へと移動していった。 ●面会 「……お前らが取引をしてぇって商人かい。手短に話しな」 どうやら面会まではうまくいったようだ。通された広間で、豪奢な座椅子にどかりと腰を下ろしている小太りの男が頭領らしい。先に潜入し舞を披露している影蘭もいた。 手をひらつかせて彼……いや、彼女に扮している影蘭の舞を中断させると、影蘭は脇へと退き、失礼しますねとふすまの近くに腰を下ろした。 「いきなりで申し訳ないが、ミィナという商人を返してもらいたい」 レグが頭を掻きながら、すまなそうに話し始めた。 「赤辰の男と話してたのを見た人がいる。ミィナは俺とも取引のある商人だ。 俺にも客がついてるし、金だけ貰って商品がない、じゃ信用に関わるから探してたんだ。 彼女から納品して貰えないと、うちも商売ができないのさ」 そう言ってレグは肩をすくめた。 前傾姿勢になると頭領はそうかい、と相槌を入れた。 「……あの女商人にオレ達が商品を頼んだのは事実だ。 ジルベリア工芸品が収集家に高値で売れる。あとは、この通り……赤い布だ」 組織の話では、若い衆が商品受け取りの際に金額交渉で揉めたらしい。 ミィナが言うには商品の仕入れ値が少々あがったため、それに見合った料金支払いをお願いしたいと言い出したらしい。だが、男もここで頷くはずはなく、商品を大量に仕入れて価格を維持しとけという命令に腹を立てたミィナ。 もう前回と同価格でいいが、今後の取引は一切やめると言いだしたせいで若い衆に連れてこられたのだ。 「そこの商人さんよ。あんたにゃ迷惑かけたが……こっちにもメンツってもんがあらぁ。 やくざ者と取引をするってことは、最後まで覚悟して貰わなけりゃいけねえ。ナメられちゃぁ、オレらはお終ェよ」 だが、とアルセリオンは交渉する。 「こんな扱いを受けては尚更、彼女は今後の取引継続を望まないのでは?」 「無理にでもやってもらうに決まってるだろう。駄目なら売り飛ばすと教えてある。素直にやってくれるだろうよ」 「そんな!」 ショックを受けたローラ。どうにか辞めさせてあげてほしいと訴えるが、頭領はそのうちなと言うだけだ。 「それじゃ、こういうのはどうだい。 この業物や銃……つまり俺が格安で仕入れた武器のご提供、ってのは?」 雅紀が商品を取り出して形状や質を分かりやすく解説しつつ、交渉に入った。 説得班の動向を見つめつつ、影蘭はそこに居ながら人魂ハムスターを操って屋敷の中を未だに探っていた。 「……こちらにも何もないです。今から二階を探してきますので、どうぞお気をつけて……」 一階はだいたい探索し終えた。そこへ黒葉がやってきて、見聞きした情報をハムスターへ流し込み、自分は二階を捜索しに行く。 帳面や品物なども確認しておきたいところだったので、ハムスターも二階へ行こうとするが――妙な気配を感じた。 天井の一角……影が動いたため、顔を上げたハムスターは、そこに張り付くように待機していた黒ずくめの男を発見。 同様に男もハムスターを見つめている。その目は鋭く、ハムスターの正体を看破したようだ。懐からクナイを取り出していた。 (……まずい。志体持ちが飼われている可能性も、あったのね) クナイを投擲され、ぶつ、という音と共に、影蘭の視界は二重写しではなく自分の見ている範囲のみとなってしまう。 ――見つかった。 影蘭が目を閉じて軽く首を横に振った。 上手くいかなかった仕草だと悟ったアルセリオンは、手に握っていた鈴を小さく振って鳴らす。 顔には出さなかったが、仲間の空気が瞬時に違う緊張を帯びていった。 「鈴の音……アル……どうかご無事で……」 屋敷の庭付近で音を拾っていた霞は、不安そうに交渉の場であろう方を見た後、弥生を仰ぎ見る。 「――黒葉さんとミィナさんが来たら、殿はあたしに任せて走って逃げて。罠を仕掛けて、時間を稼ぐわ」 弓を手にし、注意深く周囲を伺いながら表情を引き締める弥生。ソウェルや霞の表情にも、覚悟が浮いてくる。 「目くらましなら私がやろう……ミィナさんを見つけ、うまく逃げ果せることが出来ればいいが……」 このままでは難しいかもしれないな、とソウェルは小さく息を吐いた。 無論、中でミィナの捜索にあたっている黒葉にも鈴の音が聞こえないはずはなかった。 ――そういえば、影蘭様のハムスターがいない。 定期的に姿を見せに動いていたというのに、いないまま鈴が鳴ったという事は、もしかしなくてもそうなのだろう。 急ぎつつたどり着いたのは、漆喰の壁に覆われた一室、入り口であろう襖の前に男が一人立っている。 きっとここだ。そう目星をつけて気配を消し……音もなく襖を開けると、そこには金髪の女が膝を抱えて座り込んでいた。 この女がミィナ。そう感じた黒葉は、全く気付いていない見張りの男に近づいて、瞬時に腰についている鍵束を奪い、首筋に手刀を叩き込んで昏倒させる。 周囲を確認してからナハトミラージュを解いた黒葉は、室内のミィナへ近づいた。 「誰……?」 身を堅くするミィナに、大丈夫ですかと声をかける。 「ローラ様が貴女を心配していました――さ、こちらに。一刻も早く逃げましょう」 と、足枷である錠を外し、ゆっくりと立たせた。 「――確かに、悪い話じゃぁねぇが……いつ頃持ってこれるってぇんだ」 「数によりけりさ。集めるんで納品の時間はかかる。でも、そちらが買うって言うなら奔走するぜ。 そこで前金も頂きたいところだが……こっちにも用がある女商人と、この見本2種の交換などは?」 早くこの場を切り上げなければならないが、焦りを出さぬよう交渉を続けている雅紀。 しかし、まだ首を縦には振ってもらえない。 「こんな機会、二度とは来ないかもしれないぜ……?」 「……頭領、ちょっとばかり話がある」 そこへ、影蘭のハムスターを消した黒ずくめの男が姿を見せた。 「……!!」 表情を強ばらせ、男を凝視するローラ。 「ん? おい、この女はおまえの知り合いか?」 頭領がローラを指して男に聞くが、男はローラを見つめた後『見たこともない』と頭を振った。 ローラは悲しげな顔をしたが、言葉は発しなかった。 「頭領。客人の相手もいいが、倉からモクモク煙が出ている。何かやばい」 「何だとォ!? ……おい、早く火を消しにいけ!」 顔を青くして立ち上がった頭領は、構成員達をけしかけてから、開拓者達に『今日の所は終わりだ、帰れ』と言い放って自分も倉庫の様子を見に行ったようだ。 残ったのは開拓者と、黒ずくめの男だけ。 「……商人は、あんたらの仲間が無事に連れて逃げた。 手助けはこれっきり……すぐ逃げな。足止めはそう長くない」 「咲崎さん!」 ローラがそう呼び止めると、咲崎と呼ばれた男は足を止めて肩越しに振り返る。 「……もうここに来ちゃいけねえ。気をつけてな」 そう言って、瞬時に姿を消した男。 「……早く行こう。ここで捕まっちゃまずい」 ローラは腕を引かれながら、その屋敷から仲間と共に逃げ出した。 家屋を出ると裏口を目指して屋敷をひた走り、開けっぴろげられている扉をくぐる。 誰も追ってこないことから、ソウェルたちが追っ手を数人昏倒させてくれたのだろう。 そのまま門をくぐって神楽をひた走り、合流地を目指して走る。 そうしてたどり着いた目的地には――憔悴したミィナを介抱する弥生と、主様と嬉しそうに雅紀に手を振る黒葉、無事な夫の姿を見て胸をなで下ろす霞、安堵に目を細めたソウェルらの姿があった。 |