走竜、激走。
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/11 19:10



■オープニング本文



 ジルベリア帝国、カレヴィリア領。
 駆竜騎士団は、本日の操龍訓練を終えて帰還したところだ。
 それぞれの愛龍を竜舎に連れていき、軽くブラッシングしてあげるところも忘れてはいけない。

「今日もありがとう、ケレオス」
『キュー』
 ケレオスも小さく鳴くと、ユーリィに頭をすり付ける。
 どうやら、多少甘えているらしい。
 それを撫でてやっていると、なにやら急に外が騒がしい。
「……何事だ?」
 怪訝そうな顔をして後方を振り返るユーリィ。
 それと同時に、彼を捜して竜舎に飛び込んできたのは彼の部下だった。
「団長、大変です! ファルの走竜が……城から逃亡しました!」
「……何だと? 城門は閉めていなかったというのか!?」
「は、はい……閉めようとして、もし堀に走竜が落ちては……と危惧し、門番が判断を遅らせたようです」
「とにかく、すぐに捕獲するんだ!」
 ユーリィの檄を受け、騎士はあわてて駆けだしていく。
 あの走竜は、ガラドルフ陛下より騎士団に賜ったものの一部である。
 そんな走竜だからこそ、逃がしてしまいましたで済むような話ではない。
 無論、騎士が実費で手に入れたとしても、とるべき行動は同じことなのだが。
 ユーリィはケレオスの首を軽く叩き、もう一度力を貸してくれ、と苦笑した。
 ケレオスは、首をもたげて外を一度見た後……ピィと可愛らしく鳴いた。

――僕は森で暮らすんだ!! あんな窮屈な部屋はイヤだ!!

 そう思ったのかどうかは定かではないが、逃げ出した走竜は一目散に森へと向かっている。
 城下町を爆走する走竜に、住民たちは驚きを隠せない。
 時折、果物露店の前で立ち止まっては、果実を数個頂戴し逃亡する。
 走竜が通り過ぎてから数十秒もしないうちに、走竜に跨った騎士たちが追いかけて通り過ぎていく。
「――すまない、店の主人! 走竜が食べてしまった分は、騎士団へと請求を回していただけるか!」
 上空から、ユーリィが店の主人に声をかけると。
 彼らは黙って手を振って了解の意を示した。
 それに敬礼をして返すと、ユーリィも上空から走竜を追っていった。
『キューイ‥‥』
 ケレオスが心細く鳴いて、森を見た後夕日に頭を向ける。
「む‥‥」
 どうやら、日が沈んでからの捜索は容易ではないだろうと告げているらしい。
「そうだね‥‥。しかし、他の皆が森に入っているなら、わたしは上空から全体を見渡すことも必要だよ。
ケレオス、少々怖いだろうが頑張って飛んでくれ」
『グルル!』
 力強い唸り声(恐らく肯定の意であろうと思われる)をユーリィへと返し、ケレオスは夕日のカレヴィリアを力強く飛んだ。


■参加者一覧
崔(ia0015
24歳・男・泰
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
喪越(ia1670
33歳・男・陰
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
朧車 輪(ib7875
13歳・女・砂
佐藤 仁八(ic0168
34歳・男・志


■リプレイ本文

●走龍捕獲大作戦

 走龍を捕獲する為手を貸してほしいと依頼された6名は、
 事情をかいつまんで聞くと、それぞれ出発準備のために奔走する。

「自由か‥‥良い響きだな‥‥」
 しみじみと崔(ia0015)は呟いたが、セルフ突っ込みで「そんなことはどうでもいい」とかぶりを振った。
「手綱をつけたままなんざ、森に入って太めの枝にでも絡め取られたらそれこそ大ゴトじゃないか!」
 相棒の夜行の首に触れ、悪いな、と声をかけて騎乗する。
「ちとばかり無理してくれ‥‥。走龍を見つけたら、お前の疾さを見せてくれよ」
 一声鳴くと地を蹴り、力強く飛び立つ夜行。

「やっこさんも自由に暮らしていたところから、
いきなり籠の鳥になっちまったのかもしれねぇなぁ。
それは御免っつう考えだけは汲むがよ、
一宿一飯の恩義も返さねぇでおん出ていくってのは感心しねえや」
 ちぃとばかり、だらしねぇよなぁ――と、佐藤 仁八(ic0168)は愛龍の熊へと話しかけて、
 白龍の前に買い入れたばかりの果物を差し出した。
「食うか? 熊公。
逃げ出したやっこさんはよ、店から果物を頂戴していっちまったらしいじゃねぇかい。
おめぇももしや、果物が好きなのかと思ってよ」
 熊は仁八の手に握られている果実に鼻先を近づけ、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
 しかし、好物ではないのか空腹でないのか‥‥
 はたまた、捕獲する走龍の食事だからと遠慮したのか、すっと身を引いた。
「遠慮するこたぁあんめぇ。ま、さっさとふん捕まえちまわねぇとな」
 何故か針のない釣り竿を用意し、仁八は熊へ行こうぜと声をかけた。

「聞けば、逃げ出してしまった走龍は帝からの賜りものだそうですね‥‥。
そのまま放って置くわけにも参りませんし、
傷つけずに無事捕獲出来れば良いのですけれど‥‥」
 六条 雪巳(ia0179)が憂いのある表情で森の方向を見つめていたが、
 やるべき事を強く意識し、使う荷物を香露に乗せてよろしく頼むねと声をかけた。
 声をかけられた開拓者の面々は、走龍の捕獲班と、捕獲担当を援護する班に分かれる事にした。

(ま、事情は知った事じゃねぇが‥‥これはジルベリアのお偉方に顔を売るチャンス‥‥だろうな。
覚えられなかったとしても、金一封くらいは貰えるだろ、騎士様方の【誇り】ってヤツにかけてな!)
 何せ捕獲対象は大事なものなのだ。それを傷つけずに捕獲するというのも苦労するはず。
 協力者であり、恩人のようなものでもある開拓者を手ぶらで帰しては、
 失礼に値するものなのではないか! 騎士にとって恥ではないのか!?
――というようなことを喪越(ia1670)は考えているようだ。
 成功時の報償に若干の期待を抱きつつ、喪越は相棒の手綱を握る。
「ハイヨーーっ、カトリーヌ!! 困ったときは助け合うのが世のため人のためだぜぇっ!」
 飛び乗るようにして華取戌に跨り、賞金首‥‥ではないのだが、目当ての走龍を追って走り出す。
 報償を望もうとも、まずはヤツに追いつかねば話は始まらない。
「よっ、騎士サン方。よろしくアミーゴ、だぜぇ?」
 駆竜騎士団の面々に謎めいた挨拶を残し、喪越を乗せたカトリーヌは高速移動で追い抜いていく。
「ヘイ、ヘイ! 見つけたぜぇ!」
 喪越は、森に向かって爆走している白い走龍を発見した。


●走龍、ビビる。

「団長! 走龍です!!」
 上空のユーリィへ向かって、騎士が叫んだ。
「わかっている!」
 そうしてユーリィは、開拓者たちへ顔を向けると声を張り上げる。
「あなた方の作戦はどうなっているのですか?!
我々は捕獲に向かいますが、あなた方の行動も考慮して動きたい!」
 それに答えたのは崔だった。
「森に入られてからじゃ朋友に怪我をさせても、走龍を見失っても一大事だ。
あの走龍を追い越し、森への進入を阻んで‥‥
走龍の進行方向を変える!」
「騎士団長さんよ! 手前方も進行方向に回り込んじゃ貰えねえか?
何も、行く手を塞ぐこたぁねぇ!
八の字に並んで、走る方向を絞り込んでくれりゃそれでいい!!」
 そうすれば、仲間がなんとかしてくれるさ、と言った仁八が笑みを向ける。

 意図するところを理解したユーリィが団員に指示を飛ばし、
 短く明瞭な返事をした団員たちは走龍のスピードを上げる。
 仁八の要望通り走龍を追い越し、森へ背を向ける形で配置を完了させるようだ。
「ユーリィさんには‥‥前にお世話になったから‥‥
お礼したかったし、手助けに‥‥なるといいな‥‥?」
 前方で駆竜騎士団に指示や情報を与えるユーリィを見つめ、朧車 輪(ib7875)は以前の事を思い出していた。
「でも‥‥どうしたんだろうね、走龍さん‥‥」
 お城の暮らしが、嫌になったのかな? そう独り言のように口に出した輪に、相棒のリストンは彼女を見つめた後、地上を走っている龍を見つめた。
 リストンがどう思ったか、
 そして件の走龍が何故逃げるのかは輪にもわからない。
 だが、走龍が居なくなっては皆困る。それだけは確か。
「森に入る前に‥‥先回りしよう‥‥。
リストン‥‥あの走龍さん、追いかけて」
 大きな声ではなかったが、確かに聞こえる相棒の頼み。
 リストンはその思いに応えるよう、大空を飛ぶ。

『クェ‥‥!?』
 地鳴りのような音が後方から聞こえ、気になったのか後方をちらりと振り返る白い走龍は、びくりと体を震わせる。
 騎士団が追ってきているではないか!!
 しかも、自分の食事を運んでくれていた騎士が、何か叫んでいる。
『グルル‥‥』
 やだなにこわい、と思ったのか‥‥走龍は急にスピードを上げた。
「おっ!?」
 喪越が意外そうな声を上げ、カトリーヌにもGOを出す。
 自身も人魂で小鳥型の式を喚ぶと、走龍の鼻先‥‥というか目先というか、そちらの方へと飛ばす。
 鼻先でひらひらと舞うように飛ぶ鳥に唸るような声を上げながら、走龍はそれを避けようと右へ左へ蛇行する。
 逃亡中の走龍にしてみれば、見知った顔と見知らぬ顔が入り乱れて自分を追っている光景など‥‥怖いに違いないだろう。
 しかも、この小鳥も自分の前で飛ぶものだから、気になってしょうがない。
「走龍さん、待って‥‥落ち着いてください!
痛かったり、怖いことを強要するつもりはないんです!」
 雪巳が走龍に訴えかけるが、どうやら逃げるのに必死すぎて聞こえていないようだ。
 少しでも速度を落としてもらおうと雪巳は神楽舞「縛」を使用する。
 走龍の足元が一瞬淡く光ったように見え、心なしか速度も下がったようだ。
「香露、あの子を追い抜きますよ!」
『ガウ!』
 ぐん、と身体に感じる風の強さ。
 雪巳はしっかり香露の綱を握りながらも風の抵抗を弱めようと身を屈めて、
 片手で道具袋から木の実詰め合わせを手繰り寄せる。

「――シャリア、併走するため高速飛行を」
 ウルグ・シュバルツ(ib5700)とその愛龍、シャリアも雪巳と同様加速する。
 ただ、ウルグたちの場合は併走を試みようとしていた。
 今回の場合、地を蹴って進む走龍もなかなかの速度ではあるが、
 進路を遮るような障害がない天駆ける龍たちのほうが、同じ高速の移動でも若干有利なようだ。
 ぐんぐんと距離を詰められた走龍は、途中何度か振り返る。
『クエーーゥッ!!』
 悲しそうな‥‥いや、多分悲鳴だろう。
 何か恐ろしいことを想像したに相違ない。
 怖がる走龍を追い抜いていく騎士たち。
 途中、手綱に向かって手を出した騎士もいたが、素早く走龍が避けたため成功することはなかったようだ。
 雪巳が走龍を追い抜いて、想定進路上に木の実を無数に撒いた。
 その最中に、仁八と熊のコンビが頭上を通り過ぎていく。
「木の実じゃ不服ってんなら、それ、おめぇが食ってた果物だ!
腹減ってんなら、少しぁ入れときな!」
 仁八の手から離れた色鮮やかな果実は、ぼすっと重い音を立てて雪上へと落ちる。
 走龍がこの付近へと差し掛かれば、雪の上に何かあるのは目立つだろう。
 ウルグは走龍に狙いを定め‥‥もちろん当てるつもりのない、空撃砲を放つ。
 走龍のやや前方で、砂粒が跳ねる。
『クェッ‥‥』
 一瞬驚いて首を縮めた走龍。瞬間的にではあるが、速度を緩めることには成功したようだ。
 そして、併走しようと試みるウルグに併せて喪越も地上から距離をグイグイと詰め、走龍に近づいた。
「‥‥シャリア、無理をさせるが高度速度を一定に」
『キュ‥‥』
 併走するシャリアは、ちらと伺うようにウルグを見てから、
 必死に逃げる走龍のほうへと首をもたげる。
『ガルルル!!』
『!?』
 焦りや苛立ちが限界だったか、走龍はシャリアに獰猛な唸りをあげる。
「‥‥!」
 噛みつこうとしたわけではないようだったが、ユーリィが龍笛を口に咥え、危険な瞬間を見逃さぬよう行動を注視している。
 笛を吹くと、この走龍だけではなく、
 騎士や開拓者の‥‥他龍までも反応して行動を阻害する可能性があるため迂闊に吹けないのだ。
 威嚇され、びくり、と誰が見ても分かるくらいに身体を震わせたシャリア。
 騎乗しているウルグの上体も揺れたが、すぐに落ち着かせるため声をかけた。
――この龍やだ、こわい。
 そう言いたげな目で、不安そうにウルグを見つめるシャリア。
 大丈夫だ、とウルグは苦笑し、反対側で併走する喪越に視線を送る。
 だが、走龍は既にカトリーヌにも威嚇をしているのだが、
 カトリーヌはフンと鼻を慣らして動じない。
 この肝の据わった愛龍を流石だぜと褒めてやりながら、喪越は捕獲の機会と飛び移るタイミングを計っていた。
 しかし、走龍は警戒を強めており、大きな動きを取れば刺激してしまうように見て取れた。
「そうカリカリすんなって。取って食おうとは思っちゃいねえんだぜ」
 男同士仲良くやろうや、とフレンドリーに話しかけるものの、態度は軟化しない。
 まさかメスか? という疑問が脳裏に浮かんだが、性別など関係ないとすぐに打ち消した。


 森を背に、八の字型で配置された騎士たち。
 全力疾走を続けさせたせいで、ぜいぜいと息を切らす走龍の首を、
 労るように撫でてやりながら固唾を飲んで、走龍が来るのを今か今かと待ちながら見守っている。

 皆の視線を一身に受ける走龍は、雪巳の撒いた木の実に興味を持っているようだが、拾うより逃げるほうが大事なのだろう。
 しかし、果物の方にはどうも興味があるらしい。
 疾走しつつも、視線は果物に注がれていた。
 そこで仁八は、あの釣り竿の先に果物を括りつけ、走龍の進路へと垂らす。

『‥‥キュ?』
 先ほどから、鳥やら果物がちらちらと誘惑(?)してくる。
 口元に触れた果実に噛みつき、その果汁と甘みを走りながら堪能しているようだ。

 果実に気を取られていた走龍は、近づいてきた森に視線を移し‥‥目を見開く。

 森の入口――かつ、走龍の進行方向上には、逃げ出す前まで世話になった騎士たちがずらりと勢ぞろいしている。
 空の上からは崔と夜行が旋回しつつ、高度を下げては再び上げるという緩急つけた制止を続行しているのだ。
 それに、黒髪を靡かせながら無表情で状況を伺うユーリィの姿。
 あの人間の笛は怖いから、怒られないようにしなくちゃいけないと言われていた。
『クィィ‥‥』
 狼狽える素振りを見せ、急に速度を落とした走龍。
 咄嗟のことにカトリーヌやシャリアの速度制御が僅かに遅れ、差が開いた。
「くッ‥‥! フェイントまでかけちゃうかよ!?」
 喪越がギリギリまで上半身と腕を伸ばし、揺れる革製の手綱を掴もうと試みるが‥‥その指先は空を切る。
 前方で誘導に力を注ぐ雪巳も、視界を覆うように毛布を投げようかとも考えたが、
 この距離間では低空飛行を続けているシャリアも驚かせてしまう。
 仲間にも無茶はさせられない。

「‥‥リストン、走龍さんの真上に!」
 横合いで一定の距離を保っていた輪に考えがあるようだ。
 言われた通り、走龍の真上すれすれを飛ぶリストン。
 感謝をこめてありがとうとリストンの身体を軽く叩き、輪は意を決してその背から走龍へと呼びかける。
「走龍さん‥‥ライル、さん‥‥だよね」
 ユーリィからあらかじめ聞いていた走龍の名を何度か呼びかけてみる。
 視線を向けはするので、どうやら自分が【ライル】であると認識はしているようだ。
「リストン、もうちょっとだけ‥‥ライルさんに近づいて‥‥」
 何かするのだと気づいた崔が夜行の高度を上げ、
 リストンがもう少しだけ距離を下げ――輪はきゅっと唇を引き結んで飛び移ろうと、その小さな肢体を空中に投げ出す。

「――輪さん‥‥!」

 ユーリィが驚いたように声を上げたが、輪はしっかり手綱を左手に握り、身体全体でしっかりと走龍の背へしがみついていた。
 リストンは相棒を乗せた走龍の進路を邪魔するように前へと出て、
 走龍は嫌がるように激しく身を捩る。
 輪はごめんねと謝罪しつつ、振り落とされないようにするのが精一杯。
 どうにもできずその首に縋っていると‥‥騎士や仲間たちがやってきて、ライルの顔に毛布を被せたり、手綱を引いてくれたりと協力してくれる。

「――走龍にも俺たちの相棒にも傷はない。捕獲はうまく行った、って事だよな」
 ニッ、と喪越が白い歯を見せてイイ笑顔をユーリィへと向けた。
「はい。あなた方のお陰です。多大な感謝を」
 礼儀正しく感謝の意を告げるユーリィ。
 ギルドに礼金をお支払いしておきます、という確かな返答を貰い、心から満足そうに微笑む喪越。
「そういやカトリーヌ。好みのイケメンはいたかい?」
 訊ねてみるが、カトリーヌ嬢のお心を掴んだものはいなかった‥‥ようにも見える。

 開拓者たちは己の愛龍を労り、また確かな絆を一層に育んだようにも思えた。

 走り疲れたのか、夢見た自由が手に入らなかった事による落胆か。
 ライルは荒い息をつきながら、その場にぺたりと屈んでしまった。
「‥‥暫くの間ライルは、龍舎へ繋いで落ち着かせましょう」
 騎士がユーリィへ進言しているのを聞いた雪巳は、あの、と口を開いた。

「騎士団の事に、開拓者が差し出がましい事を申し上げるかもしれませんが、
走龍‥‥元は自由に、広い大地を走り回っていた子たちです。
私たちには彼らの言葉は分かりませんが‥‥
たまには、お仕事以外にお散歩ですとか、何か気晴らしをしたかったのかもしれません。
ですので‥‥たまには、そういった機会を設けてあげては‥‥?」
 信頼は仕事上だけではなく、プライベートこそ必要なのかもしれないと雪巳は提言する。
 ユーリィはしょんぼりするライルを見つめた後、そうですねと同意した。
「あなた方と共に行動させていただいて、騎士たちにも相棒との絆を深めることがどれほど大事か、
考えるいい機会になったことでしょう。
ライルはしばらく私も面倒を見ることにします」
 それに、そうしなくとも騎士総長からユーリィへ命が下るだろう。

 
「なぁ‥‥ちょっくら、待っちゃくれねぇか。
ライル、だったかねぇ。おめぇに言いてぇことがあらぁ」
 至極真面目な顔で、熊から降り立った仁八がずいっとライルの前に現れた。
 心なしか‥‥後方の愛龍、熊の表情が達観したもののようにも見える。
「いいかい、龍だか鳥だか知らねえが、『たつとり』後を濁さずってえ言葉もあらあ。
出て行くなら、手前で安心できる引き取り手も見つけて、
これまでの飯代も耳揃えて払って、飼い主の前に三つ指ついて、挨拶すんのが筋じゃあねえか?
それを怠って義理も欠いて飛び出してくなんざ以ての外じゃねぇかい?」
 くどくどと説教を垂れる仁八。それを困惑したような目で見つめているライル。

 そもそも飼い主は騎士団の誰なのか、がまず分からないようだ。
『クエッ‥‥』
「言い訳なんざ男のすることじゃねぇぞ」
 黙って聞け、と説教を再開。
 
 説教は小一時間ほど続いたそうだ。