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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●とある神楽村 この文明が発達した時代に、いまだに機械などに頼らない生活を送っている村がある。 それは一見のどかだが‥‥閉鎖的な生活を送っている村――この世界のどこかにある神楽村。 この村では、少々困ったことが起きていた。 「ああ、困ったなぁ‥‥」 そこで頭を抱えているのは、この村の長。よく光り輝く禿頭を押さえ、無い知恵を絞っている。 「もし。長、どうされました」 ちょうどそこへ、呼ばれてやってきた村の開拓者が長へ尋ねれば‥‥はっとしたように、皆へ向き直った。 「よう来た。まぁ座ってくれ。 早速だが、うちに伝わる『封具』の話は知っておるか」 「遠い遠い昔の話ではありますが‥‥大アヤカシを封じたものだと聞き及んでおります」 開拓者が頷けば、長は『いきなりなのだが、話を聞いてくれんか』と彼らをその場に座らせると勿体ぶりつつ口を開いた。 この神楽村は、遠い昔に大アヤカシと呼ばれる化け物どもに襲われ、 滅ぼされる寸前にまでなった過去があるという。 その大アヤカシと死闘を繰り広げたのが『開拓者』たちだ。 開拓者たちは『鏡』『剣』『勾玉』の力で、大アヤカシの力を弱めて滅ぼすことに成功した。 大アヤカシは、滅する直前、長の祖先に呪いのようなものをかけたようだが‥‥ アヤカシが何を願ったのか呪ったのかも分からず、今日まで長の血統は途絶えることなく受け継がれたのだが。 「‥‥うちの3人の子供たちに、その呪いのような災いが降りかかったのだよ‥‥」 がくりと肩を落とし、畳の目を見つめて今にも泣きそうな表情を浮かべている長。 「‥‥頼む、力を貸してくれ。開拓者の血筋なら、きっと何か方法を知っているだろう!?」 なんという無茶。なんという人任せ。 頼むと拝み倒されて断りきれなかった開拓者たちは、お子様方の様子をとりあえず見せてくださいと長に話をつけて、部屋に連れて行ってもらったのだ。 ●冷たくつれない君の為に 部屋にいたのは、銀髪の娘。薄暗い部屋に、彼女の赤い瞳が印象的に映る。 「汝らが、私の呪いを解いてくれるというのか?」 それはありがたいが、と娘‥‥クロエは少々重い息を吐いた。 まとめていない長い髪が、憂いある彼女の横顔にかかる。 「‥‥呪いって聞いたけど、どんな呪いなんですか?」 開拓者の一人がクロエに訊ねると、彼女は分からないと告げた。 「特に変わったところはないのだ。しかし、兄は『鏡』がどうとか‥‥」 「鏡‥‥? 鏡って、もしかして長の家の‥‥伝説の封具?」 おお、とクロエは合点いったようにぽんと手を打った。 「あの映りの悪い鏡か。あれは、磨こうと思って強くこすっていたらひびが入ってしまったんだが」 それだ、と開拓者たちは顔を見合わせる。 「鏡の力とかでアヤカシの力をどうこうしてますよね、伝承だと。 それがいけなかったんじゃないですか?」 開拓者たちの意見に、クロエはむーと小さく唸る。 「そうだとしても‥‥汝らはそれを解くために集まったのだろう? 私の呪いを解くために協力するのだ!」 なかなか強引な物言いである。 しかし、こうして顔を合わせたのも何かの縁。 「まぁ、やるからには全力を尽くす予定なんですけど」 「そ、そうか‥‥まぁ、それは嬉しいが‥‥いや、まだ感謝はしておらん! 呪いを解いてから褒めてやるからな!?」 急に照れては起こり始める、よくわからないクロエ。 クロエの呪いを解くため、何をしたらいいのだろうか――開拓者たちがそう思っていると。 「クロエ? どうしたんだ」 彼女が慕う、兄ユーリィが姿を見せた。 「クロエさんの呪いを解こうと思うのですが、手段が思い浮かばなくて困っていたんです‥‥」 開拓者の一人がユーリィに持ちかけると、彼は品定めをするような目で開拓者を見つめている。 「‥‥本気か?」 「え、あの」 たじろぐ開拓者に、ユーリィが『いいかね』と教えてくれた。 「クロエに取りついたアヤカシの魂を、落とすことが目的だ。 しかし――それは、クロエを‥‥口説くことになる。 あるいは、少々痛い思いをさせて追い出すことになる。どちらにしても、クロエには苦難が待ち受けている」 それと、と、兄として思うところがあったのだろうか。 ユーリィはクロエの前に立ち、開拓者たちを睨むように見据える。 「クロエを口説くつもりなら、まずはわたしを説得することだ」 無論、痛みを伴う除霊(?)手段をとるにしても、妹の危機に涼しい顔をしてはいないだろう。 これは大きな課題。 「ど、どうしよう。お兄ちゃん、もとい鬼いちゃん登場だよ」 「怖いよー。失敗したら殺されそうだよー」 「成功しても殺されそうだよ!?」 開拓者たちは、冷や汗を垂らしながらも‥‥顔を突き合わせて仲間と相談し始めたのだった。 ※心配及ばん。このシナリオは本来のWTRPGとは関係ないと申しておろう。 存分に、よろしく頼むぞ? |
■参加者一覧
佐上 久野都(ia0826)
24歳・男・陰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
郭 雪華(ib5506)
20歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●対決、御兄さん 隙のない視線を送るユーリィ相手に、物怖じする者は誰一人としていなかった。 「では、ここは兄同士という立場で私から‥‥」 佐上 久野都(ia0826)が話の共にと天儀茶をユーリィへと勧めながら話し始める。 「‥‥私も二人義妹がいましてね。ええ、貴方が心配に思う気持ちは解りますが‥‥。 妹と一緒に幸せになってくれる人物なら‥‥喜んで出しますよ」 私はね、と前置きした上で久野都はユーリィの目を見つめる。 「勿論妹君が魅力的なのは否めませんが、私はクロエ嬢を口説くのではありません。 彼女にとり憑いているモノに対してそうするのです。どうぞお許し頂きたい」 久野都の素直な気持ちを受け取り、ユーリィは目を閉じそのまま数秒黙考する。 「‥‥彼は誠実な人のようです。信頼してあげては‥‥」 長谷部 円秀 (ib4529)が口添えし、ユーリィも首肯した。 「‥‥わかりました。よろしくお願い致します」 頭を下げたユーリィに、久野都も同じように返した。 「ユーリィ殿、ご無沙汰です」 次に彼の前にやってきたのは杉野 九寿重(ib3226)。 「杉野さんですか。いくらクロエの親友である貴女とはいえ‥‥」 「確かにこの状況ですとまさに、クロエを口説く事に相成りますね」 苦笑する九寿重は、ですが、と上半身を乗り出す。 「このままアヤカシに憑かれた状態で良いのでしょうか‥‥?」 さすがにその言葉には、ユーリィも眉を寄せる。 「‥‥それは、そうなのですが」 「親友として見かねる状況ですし、何卒話をさせて頂けないでしょうか」 「‥‥そうですね‥‥。日ごろの貴女を見ていますから、大丈夫でしょう。よろしくお願いします」 お任せくださいと、九寿重はにこりと微笑んでみせた。 「クロエーッ!!」 血相変えて飛び込んできたのは天河 ふしぎ(ia1037)。 「どこへ行こうというのかね!!」 むんずとユーリィに腕を掴まれ、行く手を阻まれる。 「だって、クロエの一大事だって聞いて駆けつけてきたから‥‥思わず慌てちゃったよ」 通してというふしぎを、ダメだと通さないユーリィ。 「お願いだよユーリィ、ここを通してよ。僕、小さい頃からずっとクロエの事が好きだったんだ!」 「やはりそうか! そうではないかと思っていたんだ!」 ユーリィの口調にも熱が入るが、ふしぎも引かない。 「だからこそ、他の誰でもない、僕の手でクロエの呪いを解きたい!! 僕が一生かけてクロエを幸せにしたいんだ!」 ユーリィの貌が恐ろしいことになるが、ふしぎは一歩も譲らない。 「ユーリィさん。彼はクロエさんの事を心から想っているようです‥‥何卒‥‥」 円秀もふしぎの後押しをする。 「‥‥私に斬られても、その覚悟は変わらんか?」 「斬られたって、構うもんかっ! 絶対――」 すると、ユーリィはふしぎの手を離す。 「その先は私に言うものではないだろう。クロエを、元に戻してあげてくれ」 「‥‥ありがとう!」 ふしぎの背中を少々寂しそうに見送るユーリィ。 「僕にも‥‥お許しを頂けないかな、ユーリィ殿?」 郭 雪華(ib5506)も彼の前に姿を見せた。 「君も、協力を?」 「クロエ殿を元に戻したい気持ちは僕も同じだよ‥‥」 ふしぎの去っていたほうを見やり、僕のは友人としてだけどね、と目を細めた。 「僕にも‥‥手伝わせてもらえないかな‥‥? 僕は商人の娘‥‥約束は必ず護るよ‥‥。何なら誓約書だって書いて良い‥‥」 雪華が筆記用具を取り出すと、ユーリィは力強く頷いた。 「了解した。商人ならば信頼性は必要不可欠だろう。期待している」 そんなことでいいのか。そう突っ込みたくなったが雪華すら突っ込まず、すたすたと奥へと向かっている。 「‥‥あとは君だけ、か?」 ユーリィが腕組みして、最後に残った円秀に向き直る。 「あまり積極性は感じられないが‥‥君もクロエを?」 「‥‥行かせてください」 多くを語らない円秀。そこに秘めた何かを感じ取ったのだろうか。 「皆を通して、君を通さないわけにはいかないだろう‥‥無事終わったら報告に」 ユーリィは彼の側をすり抜ける。 その背中を見ながら、円秀は頭を下げた後奥の間へと向かっていった。 ●いざ、尋常に ユーリィから許可を貰った5人は、それぞれの手段でクロエを元に戻すことを目標にして対策を練る。 「じゃぁ、まずボクから‥‥!」 ふしぎが勢いよく引き戸をバーンと両方に開け放つ。 「クロエ‥‥!」 「フシギではないか。なんだ、いきなり不躾だぞ。私が着替えていたら、どうするつもりだったのだっ」 それはそれで美味しいです。とはさすがに言わず、ごめんねと紳士的な対応をするふしぎ。 「大変なことになったって聞いたけど‥‥大丈夫なの?」 「うむ、この通り特に変わったところはない」 「大変な事になったって聞いて、慌てて駆けつけて来ちゃった、そうだ、久しぶり」 爽やかに微笑むふしぎ。 「ま、まぁ‥‥私の一大事に駆けつけるのは、嬉しい‥‥けど、来るならもう少し早く来るのだっ!」 クロエは、ついっとそっぽを向いてしまうが、その頬は少々赤い。 「でね、お土産を持ってきたんだよ」 はい、と手渡すのはもふらのぬいぐるみ。 クロエも『おお』と何やら興味を持ったようだ。 「もう、お互い大きくなって、ぬいぐるみって年でもないって思ったけど、 その‥‥昔壊しちゃったの思い出して」 「ああ、大事にしてたのに目玉が飛び出していたな。ショックだった」 それは泣いていい。 クロエはもふらさまのぬいぐるみを受け取り、ありがとうと微笑む。 今のところ、大きな変化はない。 そこに久野都もお茶を出しながら『初めまして』と笑顔を向けた。 「初めまして。クロエ嬢‥‥。 挨拶もそこそこで申し訳ありませんが、貴女に憑いているモノと話をさせて頂きたく‥‥。 どうかお付き合い下さい」 「‥‥私を強制的に出そうというのか」 身構えてしまうクロエ、の中に入っているアヤカシ。 「そう緊張なさらないでください。貴女がなぜ鏡に囚われたのかという経緯や、 今、彼女に憑いて何をなさりたいのですか?」 「私は、長い年月鏡に囚われているうち‥‥アヤカシであるのに祀られるのが心地よくなった。 しかし、だんだんと家人どもは恐怖を忘れ、敬うことを忘れ‥‥鏡や他の法具は埃まみれだ。 畏怖と敬意を持ち、古くなった法具の修繕を望むものである」 「‥‥割と頷ける理由ですね」 円秀はううんと頷き、九寿重も本当ですねと眉を寄せた。 九寿重はアヤカシをクロエの身体から追い出し、一刀のもとに切り捨てようとも考えていたので、 そういう理由であれば元に戻してやるほうがよいのだろうと考えた。 「それはそうとクロエ‥‥」 先ほどからのクロエを見ていた九寿重は、ふぅとため息をつく。 「何時までもそんなつっけんどんな態度を取っているのですか?」 首を傾げて耳をピコピコ動かす九寿重に、クロエの視線は釘付けになる。 「べ、別にツンツンしておらん! 皆が質問ばかりするから飽きたのだっ!」 誤魔化すためか、本心か、両方か。クロエは九寿重の耳を許可なくサワサワと触り始める。 「うわっ‥‥、そ、そんな何時までも、意地を張らなくても良いと思うのですよ。 私は本来のままのクロエが好きなのですから」 友人として、である。 しかし、クロエは一瞬嬉しそうな顔をしてから―― 「と、当然だ! コズエは私の親友だ! き、嫌いなわけは、なかろう‥‥」 ゴニョゴニョと口ごもったが、耳の良い九寿重には聞こえたようだ。 「ありがとうございます、クロエ!」 親愛の情で抱擁しあう二人。 仲が良い事はいいことだね、と雪華も薄く微笑んでいる。 「しかし最近は‥‥夜も冷えるね‥‥。ねぇクロエ殿? ちゃんと寝てるかい?」 そっと距離を詰める雪華は、なんだか妖艶で意味もなくドキドキするクロエ。 「う、うむ。すやすや安眠だ」 「それはよかったよ‥‥ちゃんと寝ないと‥‥この綺麗な髪が痛んじゃうからね」 髪の間に指を差し入れ、すぅと梳く雪華。 「うん‥‥本当に綺麗だよね‥‥。僕よりもさらさらとしているし‥‥」 「セ、セツカの髪だって艶やかで綺麗だぞ? まっすぐだし、風にさらさらなびくのは、美しいぞ?」 「ふふ‥‥ありがとう‥‥そんなに褒められるなんて思っていなかったから嬉しいよ」 だが雪華の顔が結構近い。ツンツンする暇もなく、まごつくクロエを見た雪華は可愛いねと微笑んだ。 なんだかこのままではいけない、と思ったのか、すっくと立ち上がるクロエ。 どうしたんだい、と言う雪華を注視しながらも、傍観している円秀の後ろに回り込む。 「‥‥エンシュー、少しこうして落ち着かせてくれ。わ、私はドキドキが止まらぬ。 皆、随分熱心に見つめてくるのだ」 背中越しに感じるクロエの温もりに、円秀は少しだけ困ったような顔をする。 「‥‥みなさん、クロエさんを大事に思っている証だと思いますよ。 私も、そう思っていますし‥‥何より、元に戻ってほしいとも思っています」 きょとんとするクロエ。円秀は肩越しに振り返って彼女に頷きを返す。 「‥‥ちょっと意地っ張りだけれど、優しい貴女が‥‥好きです」 「えっ‥‥」 円秀の告白に、目を大きく見開くクロエ。 ドキドキは一向に収まらず、顔を赤くしてぱくぱくと金魚のように口を開いては閉じている。 「待ってー! 僕だって、クロエのそんな所も、ずっと好きだったんだから!」 そんな二人のムードに耐えかねたふしぎが、慌てて中に入ってクロエの手を円秀から離すと手を握りこむ。 「今回の呪い騒動は、幼馴染から踏み出す一歩だっただけ‥‥。 クロエ、ちっちゃかったあの頃から、ずっと大好きだよ。 これからも一緒の道を歩いていきたいんだ!」 真剣なふしぎの瞳に、思わず息を飲む。 そんな風に思われてるなんて、わかっていたような――わからなかったような。 「クロエったら‥‥。 何時も興味を持ったら即実行で、手をパクパク、足をバタバタさせてるのは承知ですから。 この際、思いっ切りやりたい事をすれば良いのです」 そっとクロエの肩越しに顔とアドバイスを出す九寿重。 「私は、それを幾らでも受け入れますからね」 耳と尻尾をぴこぴこと動かしてはにかむ九寿重に、クロエも尻尾があったら振っていることだろう。 良き友人の心遣いに、胸が熱くなる。 鼻の奥がツンと痛くなるほどの感動を覚えつつ、自分の心にどうなのか問いかけていると―― 僕もだよ、と雪華は静かに口にする。 「ふふ‥‥戸惑いも可愛いクロエ殿‥‥。ねぇ、僕達は友達だよね‥‥?」 「うむ。心から信頼をしておる」 クロエの肯定に微笑む雪華は、でもね、と衝撃の言葉を投げかけた。 「‥‥僕はね‥‥クロエ殿の傍に居たい‥‥それは迷惑かな‥‥? 僕の気持ちを全てぶつけさせて貰うとね、 例え友人という関係を越えてしまう事になったとしても‥‥一緒に居たい気持ちに偽りはないよ‥‥」 「え‥‥」 つまり、それは、と頭の中で考えていることを読んだのか、雪華はそう考えてくれてもいいよ、と首肯。 「クロエ殿‥‥僕を受け入れてくれるかな‥‥?」 若干目が潤んでいるようにも見えなくはない雪華。 史上最大のモテ日到来に、クロエの顔は既に茹蛸の様である。 (‥‥おや。何か非常に喜んでいるような声が) 久野都の耳には、動揺するクロエの声の裏側‥‥微かに、違う音が混ざって聞こえる。 『ふふふ、皆が私を歓迎しておる‥‥! 良いぞ、なんと愛い奴‥‥!』 先ほどのアヤカシ‥‥であろう声の主はご満悦のようだ。 「鏡に閉じ込められ、長い年月孤独を耐えてきたのでしょう‥‥ これほどまでに人の好意が喜ばしいとは、さぞ御寂しかったのですね‥‥」 しんみりした顔になって久野都は(クロエの中にいるであろう)アヤカシに憐憫を向ける。 そして――クロエはといえば。 「‥‥わ、私をそう、思ってくれるのは嬉しいのだがっ‥‥! ま、まだ互いにあまりよく知らないというか‥‥」 「だったら、お互いよく知ってる僕だよね!?」 「友達から始まってる僕だと思うよ‥‥」 ふしぎと雪華がバチバチと見えぬ火花を散らす中、九寿重はクロエと手を繋いでにこにこと微笑む。 「ああいった矢先ではありますが‥‥他が成功するなら、私はこれ以上突っ込まないようにします」 自分が願うのはクロエの幸せだからと小さく笑う円秀に、久野都はこくりと頷いた。 「クロエ嬢の笑顔も見たいのですが、アヤカシさんが戻るための鏡を何とかして差し上げたくて」 ひびが入ってしまったらしい鏡を見つけた久野都は、 鏡面の埃を掃ったりと苦心して元通りにしようと試みていた。 完全にこの二名‥‥久野都と円秀は傍観状態である。 そんなときだった。 まばゆい光が鏡より溢れ、凄まじい光の奔流に久野都は目を閉じる。 『――ありがとう、誠実な青年よ。汝のお陰で、我はまた眠りにつけよう‥‥』 久野都の頭の中に、涼しげな声が聞こえた。 手元にある鏡にひび割れは消えており、清浄なものを感じさせる。 (‥‥アヤカシさん‥‥? 叶うならば、貴女の心がこれからも安らかなものでありますように‥‥) どうやら、アヤカシは久野都の心遣いに感謝をしているようだ。 このアヤカシ、いや、彼女を口説くというなれば――久野都の誠意が誰よりも勝ったのであろう。 しかし、このまま綺麗に終わらないのである。 「‥‥クロエ」 「クロエ殿」 「もう、いつまで悩んでいるんですか、クロエ。早く決めたほうが良いですよ」 ふしぎ、雪華、九寿重に詰め寄られるクロエは既に呪いが解けている、はずである。 しかし。久野都を除く彼らにはそれがわかっていないのだ。 たじろぐクロエは、わかったと真っ赤な顔で頷き―― 一人の手を取った。 「セツカ、汝が私をそう思っていたとは気付かなかった。 私たちは女だが、その‥‥良き関係になれると思う。どうか、公私ともによろしくお願いしたい」 「ふふ‥‥僕を受け入れてくれるんだね、クロエ殿‥‥? その愛情、しかと受け取ったよ‥‥障害は多いけど、共に歩もうか‥‥」 じっと見つめ合う二人に、ふしぎががくりと肩を落とす。 「すまぬ、フシギの事も大好きなのだ。だが、フシギは‥‥幼馴染故、どうも家族のように愛しい、と自然に思うのだ」 申し訳なさそうなクロエの止めの一撃。畳に突っ伏すふしぎを、九寿重は頭を撫でて慰めてやる。 「コズエは、これからも大事な親友だ! 頼りにしておるぞ!」 「‥‥なんだか少々落胆するのはなんなのでしょうかね‥‥。 でも、クロエとはこれからも、一緒ですよ」 にっこりと微笑む女子三人。なんという、なんという白百合エンド。 事の顛末を聞いたユーリィは、夢であってほしいと願いながら、鏡を直した久野都に感謝の気持ちを伝える。 正真正銘夢だったわけだが、この夢がよい夢か悪い夢かは――当人次第であろう。 |