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■オープニング本文 ●神楽の都 時は師走。他儀から人や物が多く集まるこの場所に、 何か気を引く物があったのだろうか? 「‥‥!!」 見回り番の者は望遠鏡で遠くを覗き、眉を寄せ‥‥その顔が凍り付いたではないか。 木槌を掴み、物見台に取り付けられていた鐘を激しく打ち鳴らす。 せわしなく行き交う人々の足が止まり、物見台に視線が集中する。 やがて、あちらの台、こちらの台と鐘が鳴り始めると、人々は押し合いへし合い、蜘蛛の子を散らすように避難所へと向かった。 「ごめんなさい、通してっ!」 そんな人々の波に逆らい、或いは避難所へ誘導しつつ、開拓者たちはギルドへと向かっていった。 ●ギルド内 「巨大アヤカシ‥‥?」 「はい。報告ですと、4m近くあろうかという鳥型のアヤカシです」 ギルド員が淡々と報告書を読み上げ、その際に墨絵を一つ皆に見せる。 「羽を広げて4m、くらい?」 「‥‥それは確認できていません。ですけれど‥‥広げていない可能性も」 「なんてこと‥‥」 大アヤカシが攻めてきたのではないだろうか。そう心配した女性開拓者だが、街を守るため、すぐにでも出発しなければならない。 「‥‥いきましょう。私たちにできることは、やるしかないわ」 ●神楽の都より 4キロ東 凶鳥は、それは大きかった。 全長‥‥羽を広げた大きさは、だいたい4〜5mといったところが、心に安寧を僅かに置けたところだろうか。 しかし、攻撃は生易しいものではなかった。 瘴気で出来た大きな翼は突風を生む。その鋭い鉤爪は、女性開拓者の柔肌を抉るように切り裂いていった。 「きゃぁぁっ!!」 一人、また一人と地に転がっていく開拓者。 回復を強化しつつも、祈りを捧げても、鳥は羽ばたき上空へと舞い、厄災を地へ下ろすように急降下してくる。 「この‥‥翼、もいでやるっ!」 大剣を振り上げたが、翼の突風がその勢いを殺す。 「く、ううっ‥‥!」 突風が止むと、次に見えたのは‥‥大きく開かれたクチバシだった。 「――!」 友人が、倒れた少女の名を呼んだ。 血が溢れているのが見える。 「‥‥いや‥‥」 彼女を助けなくては。でも、涙があふれて止まらない。 「泣いている場合じゃないわっ! ここを阻止できなくちゃ、みんなが死ぬのよ!」 知らない女性が叱咤する。しかし、その女性だって満身創痍。攻撃だって――避けきれないはずだ。 「きっと、なんとかなるわ‥‥いいえ、なんとかするのよ」 私たちが。 そう女性の唇が動き――どこからか、歌声が聞こえた。 水色の髪の女性が、ぼろぼろになって歌を唄っていた。 「‥‥こんな時に、アンタ何、歌なんか‥‥!」 「こんなとき、だからこそ‥‥歌を」 だって、辛いとき私を支えてくれたのは、歌だったから。そう女性はどろにまみれた顔で儚く笑った。 「私には戦える力は‥‥乏しい。だけど、私の歌で、誰かを支えることができるなら! あなたたちに、勇気を与えることができるなら!! 声が枯れても、最後の一人になったって歌い続けるわ!!」 吟遊詩人の女性は、浮いた涙をぬぐうと再び震える空気に歌を乗せた。 「‥‥かっこいいことをするのぅ」 銀髪の女性が立ち上がり、クレイモアを構えてニコリと笑った。 「汝、その意気やよし。私も‥‥まだ戦える。きっと、援軍も来よう。 おなごの底力、いざ発揮せん!!」 「本当ですわ。ここでくたばっては、野郎どもに笑われましてよ」 不遜な眼差しの魔術師は、再び杖を凶鳥へと向けた。 「女の意地、ここでみせつけてやりますわ! 夕飯はハンバーグで逆転ホームランですのよ!」 |
■参加者一覧 / 俳沢折々(ia0401) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 浅井 灰音(ia7439) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / 明王院 未楡(ib0349) / ティア・ユスティース(ib0353) / フィン・ファルスト(ib0979) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ファムニス・ピサレット(ib5896) / 愛原 命(ib6538) / アムルタート(ib6632) / 春風 たんぽぽ(ib6888) / エルレーン(ib7455) / リリアーナ(ib7643) / ジェーン・ドゥ(ib7955) / ゼス=R=御凪(ib8732) / アナ・ダールストレーム(ib8823) / 楠木(ib9224) / マルセール(ib9563) / フランベルジェ=カペラ(ib9601) / 春霞(ib9845) / 藍 芙蝶(ib9912) / 宮坂義乃(ib9942) / 桃原 朔樂(ic0008) / 沙羅・ジョーンズ(ic0041) / 藤本あかね(ic0070) / カルミア・アーク(ic0178) / スフィル(ic0198) |
■リプレイ本文 ●戦乙女の集い 凶鳥(以下、鳥)は大きな翼を広げ、上空をくるくると旋回している。 「年の暮れのなにかと忙しい時期にわざわざやってくるんだから、嫌になっちゃうよね。 今の季節に空からやってきて良いのはサンタさんだけだよ」 傷つきつつも対処にあたっている俳沢折々(ia0401)は、空を見上げて苦笑した。 「全くです‥‥あれは、引きずりおろさないと、きついですね‥‥」 礼野 真夢紀(ia1144)も同じように頷いた。 (その巨大さが利点であり欠点‥‥か) からす(ia6525)は後方より、相手の動きを見つめて対策を練っている。 (頭一つなれば死角大きく、身一つなれば二つの事に対処できないはず‥‥。 攻撃は大振りになり小回りがきかないだろう) 飛び立って様子を伺っては急降下、突風と好き放題されている。 「‥‥敵がああいう対空状態にある限り、 仲間達からの攻撃手段が制限され‥‥我々開拓者の損失ばかりが増えかねない」 リンカ・ティニーブルー(ib0345)は冷静に判断し、コールドボウに矢を番える。 「敵が飛行し続けられない状態にする事が肝要‥‥!! 長距離攻撃ができる人は、一斉に狙って!」 その声に頷き、リリアーナ(ib7643)は飛行能力を低下させようと、フローズを唱える。 「凍てつく氷の精霊に告ぐ。我の敵を、汝の凍える吐息で拘束せよ!」 一部が凍りついた鳥の翼は、一瞬光を浴びて煌めいた。 ふらりと僅かに傾いたところへ、リンカの矢が放たれる。 アヤカシの羽中央‥‥雨覆部分に命中し、黒い瘴気を羽根の代わりに散らす。 「くっ‥‥」 悔しそうな顔をするリンカ。 「祈りを歌声に乗せて‥‥皆の力になりたい」 リンカが第二射を行おうとするところに合わせ、ティア・ユスティース(ib0353)が剣の舞を奏でる。 体の内から力が湧き上がってくるのを感じながら、矢を解き放つ。 「――地上に降りるのであれば‥‥、そこを一斉に狙いましょう〜」 明王院 未楡(ib0349)が咆哮役を買って出たため、真夢紀は治癒が行える範囲に立ちつつも精霊砲で鳥を迎え撃とうと準備。 浅井 灰音(ia7439)は負傷した肩の痛みを感じつつも銃を構え、くすりと笑った。 「ふふ、この空気‥‥ちょっと不利だけど、楽しめそうな戦いになりそうだね」 宝珠銃で鳥に狙いを定め、いつでも撃てるようにと神経を集中する。 上空で甲高い声が響き、鳥が滑空してくる! 「こちらに来なさい……!」 未楡が咆哮で注意を自分に向けて引き付ける間に、真夢紀は精霊砲を、灰音は大きく広げられた翼に銃弾を撃ち込んだ。 リンカも鳥側面に回り込んでから、猟兵射の一撃を食らわせる。 「寄らば斬ります! 来ないなら〜寄って、斬りまーす!」 怯んだ鳥を畳み掛けるかのように、愛原 命(ib6538)と未楡の二刃が迫っていた。 『キュィイッー!!』 耳をつんざくような叫びを上げつつ、一度羽ばたき、再び着地する鳥。 目の前にいる未楡に突風を浴びせかけ、攻撃に移ろうとする行動を阻害する。 「う‥‥!」 その突風によって、未楡の剣の振りが遅くなり、鳥は難なく後方へと飛んで回避した。 命の太刀が鳥の翼を切断せんと振られたが、鳥が素早く後方に下がって回避行動をとったため、当たり所がずれてしまう。 虚しく羽根をはらはらと散らすのみ。 「うっとうしいなあ‥‥このアヤカシめっ!」 エルレーン(ib7455)は鳥の後方から駆け寄り、きらきらと桜色の燐光を散らしながら羽を切り落とそうと黒鳥剣を振り下ろした。 空中に、瘴気の羽が数枚はらはらと舞って、霧散する。 いけたか――そう一瞬気を緩ませたエルレーンだったが、着地の瞬間、鋭い爪がエルレーンの肩を切り裂く。 「ぐあっ‥‥!」 痛みに綺麗な顔を歪ませながら、エルレーンは砂上に倒れる。 「大丈夫ですか‥‥!!」 それを駆け寄ってきた真夢紀が介抱し、治療のため後方へと一時的に退避するよう声をかけた。 「大丈夫‥‥。私、まだ戦えるから‥‥!」 肩に置かれた温かい手に自身の手を重ね、エルレーンはにっこり微笑んだ。 「‥‥あら、ダメよ。戦うのがあなたたちの仕事だったら〜癒すのは、おねーさんの仕事なのよ〜?」 桃色のフェロモンがむんむん漂いそうな、超級おっぱいを揺らして桃原 朔樂(ic0008)は微笑む。 「んふふ〜‥‥かわいい子が、血だらけなのも綺麗だけどね〜。やっぱり、健康が一番よ〜」 そのフェロモンと、どことなく色気漂う仕草に圧倒されたのか。 エルレーンは『はぁ』と答えるので精一杯である。 朔樂に浄境をかけてもらい、再び鳥へと向かっていくエルレーン。 「鳥さん、こっちですよ!」 大きく手を振りながら、春霞(ib9845)が再び舞い上がった鳥を咆哮で呼び気を引く。 ぎろりとした目を春霞のほうへ向け、体勢を入れ替えたところに、からすが側面から弓を引いた。 「死角は少なかれども身一つなれば、二つの事に対処できないはず!」 羽根の付け根を狙い月影を撃ちこみ、確実にダメージを与えていく。 無数の矢が刺さった羽をすぼめ、春霞目がけて嘴での攻撃を与えようと降下してくる。 「その首、頂いちゃいます!」 大きな斬竜刀を両手で水平に構え、身体を捻る。 深呼吸し、タイミングを狙って両断剣を使い――‥‥ 「行きますっ!」 思い切り力を込めて、フルスイングの要領で鳥にぶちかます! 「‥‥うおりゃあぁぁー!」 鳥の嘴と、斬竜刀が激しくぶつかって重い音を立てる。 「ぐ、ぬぅぅっ‥‥!」 しかし、いくら開拓者といえど‥‥上空からの激しい力と、衝撃に一人で抗えるはずはなかった。 春霞は後方に押され、砂埃を上げつつ数メートル後退。 歯を食いしばって懸命に振り切ろうとしたが、無理だった。 「‥‥きゃぁあっ!!」 力を受け流し切れず、衝撃と共に多大な力に押し上げられ、春霞の身体を空中へと放り投げる。 そのまま地上にぶつかり、全身を駆け巡る激痛に低い呻きを上げる春霞。 「春霞さん、しっかり‥‥! 今、手当てしますから‥‥!」 巫女が二人がかりで動けぬ春霞を後方に下げ、治療を開始している。 「こっちの方が人数多いんだから、鳥アヤカシくらい楽勝〜だと思ったら‥‥。 そんな事も無いみたいっ!」 瘴気羽根が放たれ、早駆でそれを避ける楠木(ib9224)は、下がった眼鏡を直しつつ 共に戦う仲間を瞬時に見渡した。 大怪我を負ったものは、後方に下げて治療や応急処置をしてもらっている。 こうして共に戦って居る者も、少なくはないが‥‥十分ではない。 「‥‥いい、みんな!? 最後まで諦めちゃ駄目だよっ! 全員一緒に帰って、宴会で大騒ぎするくらいの勢いじゃないと!」 振られる爪をもう一度早駆でやり過ごし、楠木は仲間に呼びかける。 「当然だ。肌に馴染まぬこの瘴気‥‥いつまでも感じていたくはないからな!」 青色の髪をなびかせながら、マルセール(ib9563)は翼を狙って距離を詰める。 右半身の痣がうずくのを感じ、それがまた彼女を不快にさせていた。 「‥‥そうですね。私も宴会、楽しみにします。 皆で力を合わせれば、絶対‥‥ふふ、殿方にも遅れは取りませんね」 リリアーナはくすくすと楽しそうにマルセールと楠木に笑いかけ、 自分の身長よりも長いフロストクィーンを鳥へと向けて呪文の詠唱を始める。 「‥‥大地の精霊に告ぐ。緑翠の腕に抱かれ、羽ばたく者よ、地に伏せ!」 魔法の蔦がめきめきと瞬時に伸び、鳥の片羽根に巻きつく。 『ギッ‥‥』 小さく鳴いた鳥の動きが一瞬止まり、そこを第一の好機と見た柚乃(ia0638)は歌の旋律を変えた。 「呪縛となりし音、巨鳥を地に墜とさんが為に‥‥!」 重力の爆音をかき鳴らし、アイヴィーバインドの効果に合わせて地に押さえつけようというのだ。 しかし、鳥を抑えていたのは一瞬だった。魔法の蔦を引き千切るようにして戒めを解き、再び突風を巻き起こす。 女性たちが怯んだところへ、巨大な足を振り上げて一気に蹴散らそうとしていた。 「――いくら強力な攻撃でも隙はあるもの。そこを突くのよ」 アナ・ダールストレーム(ib8823)は自分を狙う大足を篭手払で受け、 鞘に納めていた深紅のフランベルジュを抜き放つと五月雨で応戦。 血とも瘴気ともつかぬものが足から飛び散り、空気に溶けるように消えていく。 アナが前方で鳥の注意を寄せている間に、折々は仲間に呼子笛を鳴らして集中攻撃の意図を伝えると、 拘束によって強化された式、九尾の白狐を召喚。 「噛み砕いてっ!」 白狐は大きな口を開き、鳥の側面から噛みつくと、爪で引っ掻き傷を深めて瘴気を内側に送り込む。 灰音も白狐が引っ掻いた傷口を狙い、武器を持ち替え深々と突き刺した。 未楡とエルレーンが協力し、鳥の背後に回り込むと、尻から足を狙って斬撃を繰り出した。 鳥の尾を切断し、尾羽が瘴気となって散っていく。 アヤカシにも効果があるのかは不明だが、実際の鳥は尾羽で多少の舵を取ることが出来る。 「どうだ‥‥?」 その効果は――大いにあったようだった。 一斉攻撃に面食らったか、慌てて空中に浮いた鳥だったが‥‥、ふらふらとして行動がうまく取れないらしい。 そうして、やや遅れて。 白狐に抉られた傷口から瘴気が噴出した! 「効いてるみたい! この調子だね‥‥!」 灰音が満足そうに目を細め、からすはふむと頷く。 「しかし‥‥まだ機動力を多少奪ったに過ぎんか‥‥。 しかし、士気向上するという目的は十分。漸く反撃の機会と相成ったか」 鳥が重たい地響きを立てながら地上に降りたところで、 救援の知らせを受けてきたフィン・ファルスト(ib0979)が都のほうから走ってきた。 「うわっ、よりにもよってこんな都の近くに‥‥!? でも、ここで止めるよ!」 お待たせと傷ついた仲間たちに声をかけ、『遅れた分はしっかり取り戻しますっ』とにっこり微笑むフィン。 同じくやや遅れての到着となったが、沙羅・ジョーンズ(ic0041)も銃を構えて鳥を狙撃する。 「すまんが、肩を借りるぞ‥‥」 フィンの肩に手を置き、藍 芙蝶(ib9912)は大空へと羽ばたくように跳躍した! 「鳥一匹‥‥地に落ちれば、ただの肉だ」 身体を捻り、飛び立とうと空中に浮いた鳥の頭に骨法起承拳を当てる。 平衡感覚を失った鳥は、そのまま地面へと着地できず、横倒れになって激突する。 そこへ沙羅が狙撃で目を狙う。 瞳に命中した銃弾の痛みか、暴れだす鳥に気を付けながら、フィンが弓で翼を射る。 「――自由に飛べる空とは違い、地を舐める感覚というのは、どんなものだ?」 着地した芙蝶はすぐに距離を詰め、鳥へと向かっていく。 「お待たせいたしました。討伐に尽力致します」 知らせを受けて駆け付けたジェーン・ドゥ(ib7955)が刀で鳥の爪を弾き、 シューティングスターを構えてゼス=M=ヘロージオ(ib8732)が彼女の援護をする。 「隊長、撃ち落した後は任せる。それ以外の上空での攻撃は‥‥任される」 「ええ、ゼス、そのようにお願いします」 ゼスやからす、リンカと灰音などの遠距離攻撃が上手く作用し、鳥にとっては攻めにくいのだろう。 後方に下がったところを狙撃されている。 そんなとき、戦場に似合わぬ陽気な歌が聞こえてきた。 「♪どんなに強いアヤカシだって〜2人が揃えばへのカッパ♪」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が現れ、片手を空に掲げると、さらに歌の続きを熱唱する。 「下級?」 『よわいかも』 「中級?」 『なかなか』 「上級?」 『手強い!』 「大?」 『怖ーい!』 真っ赤になりながらも、歌の間の手を入れるファムニス・ピサレット(ib5896)。 リィムナの手に己の右手を重ね、それでも歌い上げている。 「♪みんなまとめて吹っ飛ばす! リィムナ!」 『ファムニス!』 「♪最強の双子〜 スーパーツインズ! ピサレッツ!!」 でも姉ちゃんだけは勘弁なというセリフが入ったところでこの歌は終わるのだが。 「例え何回吹っ飛ばされてもっ、何十回転がされてもっ、何百回弾かれてもっ、 何千回避けられてもっ、何万回倒されてもっ! 最後の最後で勝てればいいのです!」 命が吹き飛ばされて地を這い、エルレーンが助け起こして無事を確かめあうと二人で突撃を敢行する。 「これでっ、どうだー!」 回復した春霞がスマッシュで翼を狙い、同じ個所をリンカも狙撃する。 双子の可愛い歌に耳を傾けている余裕は、この戦場になかった。 「リィムナ姉さん、ここに‥‥姉さんが居たら、お尻ぺんぺんの刑だったかも」 「うはー、怖いな〜。でも、あたし達が来たからには、大戦力になるよ!」 ファムニスとリィムナは互いに頷きあって、戦っている皆と協力するためにその中へと駆けていく。 ファムニスは神楽舞の心と護をリィムナへとかけ、アイアンウォールを後方の一角にコの字に重ねて作るリィムナ。 そこに負傷者をという事なのだろう。 「そんな知覚なんて、攻撃なんて言わないよ!」 浴びせられる羽瘴気を両手で受け、不敵に笑ったリィムナは、超威力のアークブラストをお返しにと見舞う。 リィムナの羽を狙ったアークブラストに合わせ、リリアーナも鳥の頭を狙い、ホーリーアローを唱える。 「その翼、貰うッ!!」 「助太刀するわ」 フィンが正面から翼に斬りかかり、アナが後方から同じ羽根の根元に刃を入れる。 二人の戦乙女が交わり、鳥の片翼を斬り落とした。 翼であったものは瞬時に黒い瘴気となって中空に散り、消失する。 それを見た女性たちから、希望に彩られた喝采が起こった。 「よし‥‥!」 「まだです! ただ、片羽を奪っただけ‥‥、これからですよ!」 鳥の鋭い爪による一撃を受け流し、叱咤する折々。 そこへ、新たな歌声が加わった。 アルーシュ・リトナ(ib0119)が慈愛の笑みを向ける。 「‥‥遅くなってごめんなさい。 同じ吟遊詩人さんも居ますね‥‥。 私たちの歌は、ささやかでも皆に渡せる力」 そっと柚乃やティアも頷きを返す。 「皆に‥‥全員に渡すことのできる力。 もう一度。何度でも一緒に、歌いましょう? 愛する人々を守るために」 アルーシュは天鵞絨の逢引を奏で、 仲間たちの知覚と抵抗を上昇させると、真夢紀が傷ついた仲間たちの傷を閃癒で癒す。 気が立っているのか、鳥は爪で地面をがりがりと叩くように掘りながら、周囲の様子を伺っていた。 「仕掛けないならこちらから、行きますよ」 「‥‥僕は‥‥夜の、一族だから‥‥不意、打ちには‥‥するのも、されるのも‥‥慣れて、るんだよ‥‥」 ナジュム(ic0198)が早駆で後方に回って、火遁で鳥の背中を燃やす。 「うわっ‥‥」 命の剣を嘴で弾き飛ばし、倒れた所を踏みつけようと鳥の足が持ち上がる。 「――‥‥ッあ、危ない!」 その様子に楠木が気付き、駆け寄ると命を助け起こして背中を押す。 「ちょっ‥‥あなたも逃げないとっ‥‥」 命が焦りながら楠木に手を伸ばす。彼女のすぐ後ろに、鳥は迫っているのだ。 「私はいいから早く逃げて――‥‥」 身体に寒気が走った瞬間、自分の影が鳥の影と重なって、飲まれた。 肩越しに見れば、もう目の前に鳥の足があった。 動けない自分の身体の状態を素早く理解し、ああ、と楠木は感じる。 ――やっちゃった、な。 楠木は迫りくる痛みと、来るべき刻が来てしまったかもしれないと覚悟し、きゅっと目を閉じた。 地を揺らし、がつっというとても鈍い音が耳に届く。 しかし、いつまでたっても楠木の身体に、覚悟した痛みはやってこない。 (‥‥あれ、痛く、ない‥‥?) 「‥‥?」 おそるおそる目を開けると――鋼鉄の壁が建っている。 それが鳥の爪から守ってくれたようだった。 「‥‥大丈夫ですか、くっきーさん‥‥」 その聞き覚えのある優しい声に、楠木はおそるおそる視線を向けた。 急に突き出したアイアンウォールの横。戦場に咲く一輪の花‥‥友人にして、楠木の憧れの人。 六芒星の髪飾りと桃色の長いリボン。そして、その人の名を表すような金色の髪。 見まごう筈は、ない。 「‥‥遅いよ、ぽぽちゃん‥‥」 泣き笑いのような笑みが零れる楠木。 責めるわけではない、待ってたというような響きを含む言葉に対して、 「ごめんなさい、少し来るのが遅くなってしまいましたね‥‥でも、間に合って良かったです」 困ったように微笑む春風 たんぽぽ(ib6888)だった。 立てますか、と、楠木に手を差し伸べ、立ち上がらせるとレ・リカルで彼女の傷を癒す。 でも、と、吟遊詩人たちを示す。 「歌のおかげで、この場にたどり着くことが出来ましたよ」 ありがとうございますと礼を言ったたんぽぽに、リリアーナはにっこり微笑んだ。 「あなたも来てくれたのか。共に、頑張ろう」 マルセールの言葉にたんぽぽも頷くと、愛用の杖を強く握る。 「ええ、共に行きましょう、大丈夫‥‥勝てる気がするんです」 前線では、爪を回避したフランベルジェ=カペラ(ib9601)が不快そうに眉をひそめる。 「何を食べたら、あそこまで大きくなれるのかしら? 醜くて嫌だわ」 人‥‥じゃ、ないですか‥‥、と、小さい声が聞こえてフランベルジェがその方向を見ると。 ブルブル震えるナジュムの姿があった。 「あら、大丈夫? 震えてるわよ」 「大丈夫‥‥です‥‥僕‥‥ミユビトビネズミの‥‥アヌビスだから‥‥」 いつもこんな感じですと消えそうな声にふぅんと納得したような声で答えたフランベルジェは、髪を掻き上げた。 「ああ、砂埃も嫌だわ。さっさと終わらせて、帰って湯浴みしたいわ‥‥!」 湯浴みと聞いて、ナジュムは少し照れたようなそぶりを見せたが、早く終わらせたいという事には全く同意だったので頷いた。 「全てを燃やし尽くし、跡形もなく消えなさい‥‥!」 エルファイヤーで鳥を焦がす紅蓮の炎。たんぽぽの金髪が熱風に呷られる。 その近くで、がくりと片膝をついた女性がいた。 「‥‥大丈夫か? 無理をするな。後ろに下がって傷を癒してもらってきな」 たった今駆け付けたカルミア・アーク(ic0178)が、 爪の一撃で負傷した未楡の身体を抱き起して傷口の具合を見る。 左程深くはないが、血が滲んでいる。止血は早めにしておいたほうがいいだろう。 「これくらい、どうということ‥‥」 「駄目だ。体に傷痕残して良い女は、騎士とサムライだけってね」 しかし、未楡もふるふると首を振る。 「そう仰られましても、私もサムライで‥‥!」 「あら〜ん? どっちにしろ怪我人はお姉さんにお任せよ。さ、歩けるかしら?」 朔樂が二人の間にひょいと顔を覗かせ、傷口をじっと見ている。 「傷が残ったりしたら大変です。勿論、増えてもいけません」 話を聞いていた柚乃がにこりと微笑む。 「‥‥駄目ですって」 「はは、じゃぁ、尚更傷を癒すんだな」 思わずカルミアと未楡は顔を見合わせて苦笑していた。 朔樂に怪我人を任せ、カルミアは髪を掻き上げると魔剣を握りなおす。 「騎士の俺が出来る事は少なそうだが、女の意地、見せてやるよ!」 傷つく仲間も増えてはきたが、鳥にも着実にダメージを与えてきている。 「‥‥っ」 『泥まみれの聖人達』を歌い上げている柚乃も、無事ではない。 仲間が極力後方のほうへ攻撃をさせないようガードしてくれたりするが、 瘴気羽根が飛んだり、歌わなければならない吟遊詩人たちには砂埃も敵である。 吸い込んでしまって少々咳き込んだ。 「喉、大丈夫、ですか‥‥? お水を」 先ほど、一人になっても歌うと言っていた吟遊詩人が水を差しだす。 「ありがとうございます。助かります」 (諦めたら、そこで終わりだもの。だから‥‥っ) それを口に含み、咳払いをしてから再び歌う柚乃。 諦めては終わり。それは歌も同様。激しいリズムの楽曲を歌い続けるティアの顔にも、大粒の汗が伝っていた。 「ティアさん‥‥頑張りましょう、きっと、いいえ。 必ず凶鳥は倒せます‥‥!」 閃癒を負傷者に唱える真夢紀も、ティアに声をかける。 ティアも歌いながら頷き、微笑んだ。 (私は信じています。この想いよ、届いて‥‥!) あなたたちは孤独ではないのだと。 「志士が出来るのは接近戦だけじゃないぞ‥‥!」 宮坂 玄人(ib9942)が篭手払で受け流すと即座に攻撃に転身する。 紅い燐光を放ちながら猫弓を強く引き、羽を失っている鳥へと矢を放つ。 左目を穿ち、死角を作り上げたことで戦いは少しずつ、開拓者たちに有利な運びとなってきている。 依頼の帰り、藤本あかね(ic0070)が借り馬を走らせていると‥‥どこからともなく、戦いの音が聞こえてきた。 「な、なに!? 大勢が戦ってる気配‥‥?」 思わず馬を止め、耳を澄ましたあかね。音のする方向へ馬首を返し、様子を伺いに行く。 現状がどうなっているのかはよくわからなかったが、そこには‥‥女性ばかりではあるが、 皆傷つきながらも巨大なアヤカシを打倒せんと戦う姿があった。 「なんてこと‥‥アヤカシ相手なら、私も手をかさなきゃ!」 こうあっては、あかねとて見逃すわけにはいかない。 馬を近くの木に括り付け、山の上から駆け降りるあかね。 「虫よ、虫よ、その形、百足にして毒顎の力を見せつけよ!」 陰陽符を取り出し、毒蟲を唱え百足型の式を呼び出しながら戦闘に参加する。 「ふふ、おつむがちょっと弱いのかしら? 可愛いわね‥‥」 フランベルジェは唇に指を当て、あら、と声を上げる。 「さっきから見ていたけれど、あの鳥‥‥爪を振るう前に、土を蹴るわね」 はっとした表情で前線の仲間たちがフランベルジェを見た後、鳥の足元を注視する。 両翼を斬られ、胸を貫かれて内側から毒のような瘴気を送られた鳥は、消滅寸前だ。 「北颪なにするものぞ乙女唄」 冬の冷たい北風も、どうという事はない。乙女の歌があるのなら――! 折々は再び呼子笛を鳴らし、手振りで総攻撃を告げた。 「藤本家の名において命ずる、生成されし小鬼よ、喉笛を掻ききれ!」 あかねも斬撃符で刃物の腕を持つ小鬼を呼び、鳥を斬りつける。 だいぶ弱ってきたらしい‥‥鳥の動きが鈍くなってきた。 「そろそろかしらね。みんな、一斉に行くわよ!!」 フランベルジェが声をかけ、それに応える皆の大きな声が上がった。 「私たちは、負けないわ!」 大きな剣を振りかぶるアナのラ・フレーメが、鳥の片足を断ち切る。 「仲間がある限り、支えてくれる人がいるのなら!!」 折々の白狐が鳥の首筋に噛みついて首を地面に押さえつけ、そこをエルレーンが秋水で斬撃を行う。 魔槍砲の早打ちブラストショットで沙羅が援護し、 「消え失せな、アヤカシ‥‥あんたが齎す悲しみ、打ち払う!」 後方からフィンがオウガバトルと聖堂騎士剣を使用。刺突や斬撃、払いと苛烈な攻撃を数度叩き込む。 その攻撃の後で、あかねの斬撃符が鳥の胸元に滑り込み、下から上に深々と切り裂いた。 (一歩でも多く、一太刀でも振るえる様に、戦いに向かうあなたの背に!!) アルーシュはファナティック・ファンファーレを唄う。 側に寄り、同じ歌を奏でる吟遊詩人。 アルーシュが『貴女を最後の一人になんてさせません』と声をかけた女性だった。 一緒に歌おうと二人は頷き、鳥と戦う戦乙女たちを見つめ――強い想いをさらに歌へと乗せた。 たんぽぽは杖を鳥に向け、エルファイヤーのの詠唱に入っている。 「‥‥姉さん、あの人に神楽舞をしますね」 「はいよー。そのあと、あたしにもお願いよー」 ファムニスがにっこり微笑むと、リィムナは二つ返事でそれを承諾する。 「この雰囲気‥‥これでこそ戦いを楽しめるってもんだよ‥‥!」 灰音はぞくぞくと背筋をかけた感覚に愉しげな笑みを浮かべ、ヴィーナスソードに持ち替える。 畳み掛ける前衛に混じり、灰音は秋水を使用して斬りかかった。 前衛の素早い攻撃で、中衛から攻撃に転じるまでの隙が出来てしまった。 そこを、片目になったとはいえ鳥は見過ごさなかった。 大きな嘴で噛みつこうとするのを‥‥ゼスは察知する。 「残念だが。そう簡単にやらせはしない‥‥!」 素早く狙いをつけて閃光練弾を放ち、一気に弾ける閃光が鳥の視力を一時的に奪う。 神楽舞『心』を付与されたたんぽぽの眼前‥‥視力が低下し、手当たり次第暴れる鳥と交戦する楠木やマルセール。 「仲間を守るために、そしてどのように強力な相手だろうと‥‥容赦はしない!!」 素早く踏み込んだマルセールは、巻き打ちを放って楠木に目で合図する。 (いつだって、戦うっていうのは辛いよね‥‥) だけど、と、後方のたんぽぽを視界に一瞬収めると‥‥楠木はマルセールの剣が放った道筋と同じところを切り裂く。 「俺たちの絆は――いつだって『力』になる!!」 「大切な人達を守る為に‥‥ね」 跳躍した芙蝶の目には、リンカのバーストアローが鳥の身体に降り注いでいるのが見える。 からすの月涙が芙蝶をすり抜けて鳥のこめかみを貫いた。 悶え苦しむ鳥の脳天へ、芙蝶の重い打撃‥‥骨法起承拳をもう一度抉るように打った。 倒れそうになる鳥の残された片目を、玄人の矢が貫いた。 「今だっ! いけえぇっ、たんぽぽ隊長ーっ!!」 その声に押され、たんぽぽは強く首肯する。 「私たちは、倒れても‥‥志あれば何度でも起き上がって戦います!」 鳥の傍にいた仲間たちは瞬時にその場を離れたのを確認するとたんぽぽがエルファイヤーを唱え、 業火で焼き焦がす。 ふらりと後方に揺らいだ鳥には、さらなる追撃が待っていた。 カルミアとジェーンだ。 「‥‥頭が高いんだよ、デカブツが! だが、これで――」 「終わりです!!」 女の底力を見せつけてやろう――全ての想いと力を乗せた一撃が、鳥を断つ。 「食えない鳥は、要らないね!! 冥土の土産に食らえ! 雷の牙、ライトニングブラストー!」 リィムナのアークブラスト4連発と、止めにナジュムの火遁が加わった。 一際大きな断末魔の悲鳴を上げて、鳥はゆっくりと――その身を地へと横たえた。 じわじわとその姿をどす黒い塊と変化させた後、ゆっくり霧散していった。 「せーぎはかならずかつのです!」 「はい‥‥!」 命が勝利のポーズをとるのを見た春霞も、何故か万歳の途中のようなポーズで拳を握り、感慨深げに呟いた。 「姉さーん! やりましたねっ!」 「あったりまえじゃん! あたしたちはピサレット姉妹だよ!?」 リィムナとファムニスがお互い抱き合って喜んでいる。 「皆で、頑張って倒したからだよ、ね」 灰音も笑顔を向けて、後方を振り返る。 へたり込んで、安堵して居る者。そっと帰っていこうとする者、 ――仲間と共に、喜びを分かち合う者もいる。 「くっきーさん、皆さん‥‥ご協力してくださって、本当にありがとうございます。大きな怪我もなく、良かったです」 たんぽぽが頭を下げ、仲間に礼を述べる。 砂埃で汚れた眼鏡を軽く拭いてから、楠木はたんぽぽへと嬉しそうに微笑んだ。 「こちらこそ‥‥ありがとう。ダメかと思った時に力を与えてくれたのは、ぽぽちゃんだよ」 隊長がいるから、もっと頑張れたんだよ。 仲間に、そんな言葉を投げかけられたたんぽぽは、照れたように頬を押さえつつ、 「私も皆さんがいるので頑張れました。ありがとうございます」 と笑った。 「信頼できる仲間が居る我々と、上級といえど一体しか居ないアヤカシ。 どちらに分があるか、論ずるまでもありません」 ジェーンがそう言って納刀し、ゼスも首肯する。 「信頼とは、素晴らしいものです」 得ようとして得られるものではないのですから、とゼスも結んで、ほんの少し笑った。 「頑張ったら、お腹が空いたよね」 「よーし、帰って大宴会だよ!! 乙女だって頑張れたんだから!」 楠木の言葉に、たんぽぽをはじめ皆達からも賛同の黄色い声が上がる。 「お風呂も入りたい!」 「洗いっこしましょー!」 「傷が残らんよう、手当ても必要だがな‥‥」 お疲れ様と労いながらぞろぞろと連れ立って歩く乙女たち。 (何れ‥‥この日を歌い伝えよう。凛々しくも美しき戦乙女の勇姿を) 涙を流し、絆を信じて戦い絶望を乗り越えた――人々の心に残る、この戦いを。 胸に手を当て、乙女たちの無事を精霊たちに感謝したアルーシュは、そう思うのだった。 |