帰ってきたにんけん
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/16 02:09



■オープニング本文

●にんけん、再び。

 どこよりも早く、ジルベリアには再び冬が巡ってきた。
 除雪作業をしなくてはならぬほどに雪も多いし、防寒着がなくては外も出られないほど気温は低い。
「あー‥‥まったく。メテオストライクでもぶっ放せば、雪かきもしなくて済みそうですのに‥‥」
 スコップ片手にぼやきながら、自分の背丈近くある積雪の壁を見やって溜息を吐いたティーラ。術を放てば雪はなくなるだろうが大惨事である。
『ふざけんじゃないですわよ、いずれ天候を自在に操る術を編み出しますわ』と、凄いのか凄くないのか分からぬ決意を固めていた。
 そんなときだった。

「ぬふぁははは‥‥! 哀れだな耳長女ァ!」
 くぐもった男の笑い声が聞こえ、ティーラは作業を中断してあたりを確認した。
 しかし、それらしき人物はどこにもいない。あるのは堆い雪ばかり。
「‥‥なんですの?」
「どこを見ている耳長女! ここだ、ここ!」
 無駄に偉そうな口調なのだが、耳長女――とは、たぶん己のことだろう。とティーラは思い、
 ふと足元に視線をやった後‥‥ぎょっとする。

 そこには、巨大な犬が埋まっていたからだ。

 いや、正確には‥‥犬ではない。にんけんぬいぐるみが埋まっていた。しかもしゃべることからして、中身入り。
 そのにんけん、顔がティーラの真下にあったのである。つまりティーラのスカートの中身は丸見えだろう。
 思わず小さい悲鳴を上げ、飛び退ろうとしたが――

「逃がさん!!」
「くっ!」
 雪中から出てきた茶色の腕が彼女の足首を掴み、冷たい雪の上にどさりと転がされるティーラ。
 キッとにんけんを睨み、何者ですのと語気も荒く告げた。
「誰だと‥‥? この顔を見忘れたのか! ふははは‥‥まぁいい、前回の恨み、晴らさせてもらうぞ!」
 まずは貴様のぱんつをいただく! と、襲い掛かってくるにんけん!! 危ない、乙女の危機だ!
「――寝言は寝て言えですわ!!」
 だが、このエルフも拳で語るほうが好きなタイプだ。寝ころんだ姿勢のまま、屈んだにんけんの顔に容赦ないキックを浴びせる。
 痛みによろめいたにんけん。その隙に跳ね起きたティーラは、側面蹴りを放ち、にんけんはどべしゃと雪の上へ倒れた。
「うぅっ、にんけんをいじめるなど、エルフの恥知らずめ!」
「恥知らずはどちらですの‥‥思い出しましたわ、あなた、いつぞやお会いした下着泥棒ですわね。
性懲りもなくコソ泥を続けているかと思えば、今度は逆恨みですって。まだボテくり回されたいようですわね。よくてよ?」
 どかっ、とにんけんの腹を踏みつけてやろうとしたが、苦肉の策だったのか、頭の中からひとにぎりのぱんつを掴んで、ティーラに投げつける!
 ティーラの眼前に、ぶわっと花開くように散るぱんつ。
「ぱんつ散らし、略してぱんちらの術!」
 思わず顔を背けたティーラから逃れたにんけんは、ふははと笑ってティーラへ尻を振った。ぷりんぷりんと揺れる尻が、また憎らしい。
「ネーミングと技が最悪ですわ!!」
「ともかく、貴様‥‥スカートの中がスースーしないか?」
 と、にんけんが手にしているのは‥‥見慣れた下着。
「‥‥あ‥‥!」
 思わずスカートを押さえてみたが、時既に手遅れ。下着はなかった。
「返しなさい!」
「嫌だよ〜ん。ふあははは、これで貴様の足技封じたり! ほう、白のレース。生意気な」
 とかまじまじ見ているあたり、もはやセクハラを超えた犯罪である。
「よし、貴様への『お礼参り』は済んだ。さて、次は適当にぱんつハントでもしてくるか‥‥」
 ティーラのぱんつを着ぐるみ部(頭部)へと収納し、恐ろしいスピードで街のほうへと走っていく。

「い、いけませんわ‥‥! あのままでは、不埒な馬鹿者によって阿鼻叫喚地獄絵図に‥‥!
なんとしてでも半殺しで引き回しの上ブチのめさなくては!」
 とりあえず、下着を履いてからにしよう。周りに誰もいないことを確認し、ティーラは駆け足で一旦家に戻ったのだった。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
浅葱 恋華(ib3116
20歳・女・泰
イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138
21歳・女・泰
郭 雪華(ib5506
20歳・女・砲
リュシオル・スリジエ(ib7288
10歳・女・陰
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

●街とぱんつは大参事

「あー‥‥街の空気は久しぶりだぜぇ‥‥煩悩で悶々しやがる」
 その愛らしい着ぐるみの中には、まさか戦利品であるぱんつがどっさり入っているとは思うまい。
 今‥‥パンツハンター、にんけん(以下:犬)にとっては、この街全体が狩場なのだ。

 すれ違う女性の下着を目にも止まらぬ速さで抜き取り、着ぐるみの頭部へと押し込んでいく。
 被害に遭った女性たちが恥ずかしそうにお尻を押さえて周りを見渡す仕草をニヤニヤ見てから、その場を離れる。
「やはり羞恥する姿と脱ぎたてはたまらんな‥‥」
 上機嫌でかなりマズイことを口走りつつ、次の獲物を探す犬。
 すると、商店で買い物をしている郭 雪華(ib5506)を発見した。
 気配を消して近づき、相手が移動する為に足をあげる瞬間を狙い、奪い取る。
 音痴な鼻歌を歌いつつ、その場をすっと離れていった。

「お待ちなさい、下着泥棒!」
 杖を握りしめティーラが憤怒の形相で走ってくる。
「その鈍足になど捕まるものか! ふはは、あーばよーん!」
 走り去っていく犬を、悔しそうに追いかけるティーラ。
(下着‥‥?)
 雪華も下半身の違和感を覚え、今の言葉を脳内で再生。ざわりと背筋に何かが走る。
「‥‥油断したとはいえ、このままで済ませられるわけがないよね‥‥」
 能面のような表情で店を出た雪華は、注意深く歩きながらも、沸々と怒りを滾らせていた。

 浅葱 恋華(ib3116)とイゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)は、ジルベリアでのデートを楽しんでいる最中。
「イゥラったら照れてる?」
「べ、別に照れてなんか無いわよ!」
 とはいえ、まんざらでもない顔をしているイゥラ。にも、瞬時に魔の手は襲い掛かった。
「百合百合ぱんつ、イタダキの助!!」
 すれ違いざま紐ショーツをぱらりと外され、可愛い悲鳴を上げ前かがみで股を押さえるイゥラ。
「‥‥イゥラ? どうし――きゃっ!?」
「へへっ、あんたも盗んでくださいと言わんばかりの服だぜ!」
 相方の異変に気づいた恋華は、視線を怪しい犬に向けたが、その犬が自分の服に手を突っ込み、ぱんつをはぎ取っていく。
「ふぁっ!? ‥‥イゥラのぱんつは私のぱんつ‥‥、私のぱんつ2枚を盗るなんて許さない! 返しなさいっ!」
「こらっ、私の下着は私のだっ‥‥」
 2人は他の開拓者たちと共に犬を追いかける。
 はいてない事より、悩ましげに揺れる胸に異性の目が集まっているのだが、気にしてないようだ。

 鼻歌混じりに上機嫌で道を歩くリュシオル・スリジエ(ib7288)。
「妥協しなかった成果は、最高の出来です〜」
 履き心地も最高ですと独り言を言いながら、くすくすと笑うリュシオル。
 今し方完成したビートルマグナのぱんつを穿き、しかもそれを人に見せるため向かっている。
 防寒着の下はチュニック姿。めくればすぐに見せられるからという理由で着用しているが、
 リュシオルが16・7歳頃なら非常にグッとくる大人の展開だと思う。残念だ。
 さて、ちなみにビートルマグナ。正式名称『魔殲甲虫ビートルマグナ』といい、
 どうやらリュシオルの式であるカブトムシ‥‥のことらしい。
 とにかくぱんつ作成苦労や、理解ある『あの人』からの賞賛を妄想しながら歩いているので隙だらけである。
「ヒャッハー! ガードが甘い、お留守、がら空きだぜ!」
 大喜びしながら突如現れた犬はリュシオルに足払いをかけ、転んだ拍子に大事なぱんつを瞬時に奪う。
 指先でくるくる回して頭部に収納。再び走り去った。
「あっ‥‥マグナビートルが! ‥‥返せ!」
 すぐに起き上がり、怒りの表情で犬の後を駆けていくリュシオル。超ミニチュニックがめくれてお尻や謎の海苔に守られた部分が丸見え。
 酒場で飲んでいるおっさんたちが、通り過ぎるリュシオルを見てヴォトカを噴き出す事件が相次いだ。

「‥‥おや?」
 目の前を走り去っていく犬型に、エルディン・バウアー(ib0066)は一度足を止め、眉を寄せる。
 すると、犬も一瞬立ち止まってから後ろを振り返り、あっと小さい声を上げたではないか。
「貴様はぱんつ神父!」
「神父みたいな恰好をしているだけで‥‥あ、貴方はもしかして、いや‥‥もしかしなくても!変態ワンコ殿!!」
 まだそんなことをしているのですか、と悲しげな顔をするエルディン。
 後ろからは、女性たちのヒステリックな叫び声。
「貴方のような不埒なワンコを野放しにはできません‥‥神に代わってオシオキ&捕獲いたします!」
 アクセラレートを自身に、犬にアイヴィーバインドを唱えて突っ込むエルディン。
 だが、犬は腐ってもシノビである。
「効かぬわぁー!」
 気力で回避し、エルディンの一撃を避け、貴様にも復讐が必要なようだ、と言って‥‥。
 握っていたぱんつを、エルディンに被せた!!
「うわっ!?」
 ぱんつを浅めに被らされたため視界を覆われるエルディン。犬はすかさずカソックをめくり、
 ズボンを素早く下げて乱暴に脱がすと、もふらの可愛いアップリケ付きパンツまでも奪い去る。
「アッー!? なんということ‥‥!」
 下半身の寒さに慌てて顔にかけられたぱんつを取り去ったエルディンだが、
 ズボンは無情にも雪上へと投げだされていたし、
 ぱんつは犬によって横にひっぱられ、もふらの顔がのびていた。
「‥‥今、神の言葉が聞こえたようです。あの変態ワンコを‥‥消し去れと!」
 エルディン、それは神の声ではないわ! 殺意よ! という声は届くまい。
 彼もまた、聖戦のため一団に加わったのだ。


「こっちの冬は、確かに大変ね。噂以上だわ」
 熾弦(ib7860)はジルベリアの冬を堪能しつつ、独特の装いをする人々の姿を眺めていた。
 毛皮を加工して作った服ではなく、にんけん着ぐるみをきている人までいる‥‥と、
 あの変態犬を微笑ましく見つめている。警戒心ゼロである。
「あ・そ〜れ!」
 歌舞伎の掛け声のような言い方で、すれ違いつつ熾弦のぱんつを盗‥‥もうとしたが、少々勢いがつきすぎた。
「な、何なの!?」
 ぶわっと防寒具をめくりあげてしまった。突然のことに驚きつつも熾弦は慌てて前を押さえたが、もう盗まれた後。街の通行人、モブお兄さんたちがやんやと騒ぎ口笛を吹いた。
「逃がさないわよ!」
 恐ろしい形相で追いかける、一般女性や開拓者たちは熾弦の横を通り過ぎる。
「‥‥どうやら、今の変態犬の被害者たちみたいね‥‥
はて。なんだか、春にもこんなことがあったような‥‥」
 春先の忌まわしき記憶が思い出された。
 熾弦も自身のものを回収するため被害者たちの後を追うように駆けだした。

 男の娘だからお願いと、被害女性に泣きつかれたものの。
 スカート姿で黒ニーソで、覚悟しろと言いながら犬の前に姿を見せた天河 ふしぎ(ia1037)。知り合いが居ないか、周囲をしきりに伺っている。
「ひ、人のぱんつを盗むなんて、絶対やっちゃいけないことなんだぞ!
正義の空賊である、この僕が許さないんだからな!」
「やかましい! 賊に諭されたかァ無いわ!!」
 割と難しい議題である。
 犬はあっという間にふしぎのスカートをめくって、戦利品会得のチャンスといったところで驚愕する。
「これは‥‥ローライズ! ぱんつじゃない、だと!?」
「そ、そうだぞ! 見られたって、平気だもんっ!」
 犬の堪忍袋が切れたようだ。
「この、のーぱん野郎が! 貴様は公開処刑だ!」
 なんと、ふしぎのローライズを奪い取り、抱え込むと体罰と称してふしぎのお尻をペンペン叩く。
 この間にも、股間に張り付いた謎の海苔は大活躍だ。今日は働き者である。
「いやあああっ‥‥!」
 お尻を押さえた格好で投げ出されたふしぎ。なぜか黒ニーソは破かれていて妙にエロい。
「これに懲りたら、のーぱんのまま出歩くのはやめることだな!」
「なんて‥‥ひどい‥‥」
 追跡にきた女性達も、ふしぎの無惨な処刑っぷりに若干怯む。誰か、助け起こしてあげて。
「こうなりたくなかったら、手を引きな‥‥俺のことは忘れてくれ」
「忘れられるわけ‥‥ないよね」
 雪華は、仲間に視線を送ってステンバイする。
 足下に銃弾を撃ち込んで一瞬動きを止めたが、そこに現れたのは大剣を抜きはなったラグナ・グラウシード(ib8459)だった。

「街に変態が出たと聞いて駆けつけたが‥‥あの時の貴様か!」
「あぁん? ‥‥貴様こそ、この間の変態! ちったぁ考えを改めたか?」
 変態から変態とは言われたくない。しかし、ラグナは意に介さない。
「何度でも言う! ただの布切れに何を求める! 大事なのはその中身だろうが!」
 ラグナはラグナで恐ろしいことを公然と言ってのける。どちらももはや甲乙つけがたいような、同胞の香りを醸し出していた。
「見つけた‥‥イゥラ! 挟み撃ちよ!」
「わかってる!」
 恋華が瞬脚と全力疾走で犬の後ろに回り込み、犬の前方からイゥラと挟撃の構えを取る。
「やかましいわ! 邪魔すんなー!!」
 怒りの声を上げた犬は、間合いに入ったイゥラの胸ぐらを掴むと、恋華の前へと投げ飛ばす。
 痛、と短い声をあげたイゥラ、謎の海苔は貼ってあるが大開脚である。
「あらぁ〜‥‥良いもの見れてるわぁ‥‥♪」
 思わず動きを止めてうっとりしてしまう恋華。ラグナも覗こうとして、恋華から怒りのパンチを食らう。

「ぱーんつ!」
 叫んで飛びかかる犬。もはや砕かれているのは道徳である。
 気づいたラグナも迎撃姿勢をとったが、犬はぱんちらの術でラグナの視界を覆い、背後に回った。
「しまっ‥‥!?」
 ラグナにとっては価値を求めぬぱんつといえど、顔にファサ、とかかった女性の下着。
 いろいろな想いがこみ上げて、切り裂くなんてことは出来なかったのだ。
「貴様を再起不能にしてやろう!」
 魔の手がラグナのぱんつ‥‥ではなく、うさみたんに迫り、彼から引きはがされる。
「卑怯な‥‥貴様、うさみたんを離せ!」
「そんなにこいつが大事か? ほーら。純なうさみたんが穢されちゃったぜ‥‥」
 なんと、うさみたんの頭部に、赤いレースのスケスケぱんつを被せたのだ!!
「うさみたぁぁん!」
 絶叫して崩れ落ちるラグナ。その彼の目の前に、うさみたんをポイと投げた。
「‥‥このぱんつはな、とってもいい女がつけていたものだ。
どうだ、手にとってみろ。興味があるだろ?」
「こんな、こんなものっ‥‥!」
 とはいえ凝視しつつの長い葛藤の後、ラグナは震える手でぱんつを外し‥‥手にとってしまった。
「‥‥いい女のだよ‥‥想像してみるかい‥‥」
 耳元で囁く犬。ラグナは、ぱんつを握りしめて顔を赤らめた。
 しかし、それは悪魔の囁きだった。
「いい女と言っても‥‥78歳の、いい歳した女、ファフリナばあちゃんのぱんつさ!!」
「うぐおおー!!」
 様々な感情の籠もった雄叫びをあげ、涙を流して崩れ落ちるラグナを放置し、犬は再び去ろうとするが‥‥。

「もう、逃がさない‥‥」
 にんけんの足元に雪華の放った怒りの銃弾が撃ち込まれる。
「僕を辱めたんだから‥‥何かしらの代償は受けてもらわないと‥‥」
 ナハトミラージュで気配を消し、大きく跳躍した後着地した熾弦は、じりじりと間合いを詰めた。
 気配消したから、見られてない! 頭いいな!

「私たちもよ! 下着を取り返すだけじゃ済まない。ボコり倒す!」
 イゥラもマジギレである。
 公衆の面前で恥をかかされた女性たち。もはや血を見なければ収まりが付かない。
「仕方がない‥‥俺の魅力の前に沈め! そーれ! プリティー・わん尻っ!」
 妙にいい尻を艶めかしく振って、夜春をかける犬。
「くっ‥‥、こんなことなんかに‥‥負けない、ぞっ‥‥!」
 魅力に打ち勝ち、五行呪星符を勢いよく振るうとビートルマグナを出現。
「練力7を消費し、魔殲甲虫ビートルマグナを召喚! お尻を狙うんです!
行けーっ! マグナァアッ!」
 犬へと飛ばすリュシオル。腕でガードする犬。

 そして、イゥラと恋華の様子がおかしい。
「‥‥何か‥‥良く見たら素敵じゃない、この人‥‥」
 犬の着ぐるみ姿だが、内面からの興奮を覚えるイゥラ。息遣いを荒くし、胸を強調しつつ近寄っていく。
「何かもかもが素敵で‥‥食べちゃいたいくらいよッ!」
「んふふ。ほんとよね。はぁ、はぁ、美味しそうねぇ〜♪」
 恋華も口からあふれ出る涎をぬぐい、だらしなくにたりと笑った。
 身の危険を感じ取った犬は、2人を邪険にあしらう。
「ええい、発情した女に興味はないわ! しっ、しっ!」
「ああん、そんなところも可愛い〜!」
 イゥラは甘い声を出して飛びかかる。押し倒される犬。
「あっ、イゥラったらズルい!」
 恋華も先を争うように覆い被さった。
「‥‥なんだか、大変なことになったね‥‥」
 照準を定められずに銃を下げた雪華。ボコる機会を失ったリュシオルも、同じように傍観している。

「しかし、これはいいチャンスです‥‥!」
 エルディンが女性たちをぽいと引きはがし、犬を起こして羽交い絞めにすると傍観していた皆に早く、と声をかけた。
「さぁ、私のことは良いので‥‥早く天誅を下すのです!」
 と言ったものだから、たちまちのうちに情け容赦ない攻撃が犬とエルディンを襲う。
「私の心を弄んだ一撃は重いぞ‥‥耐えられるかッ?!」
 ラグナが怒りの剣を振るう。その攻撃たるや、悲惨なものだが‥‥犬には身から出た錆ということだろう。

「いたた‥‥しかしこれで、一件落着ですね‥‥」
 荒縄でぐるぐる巻きにして転がし、フルボッコにした犬の頭からぱんつをはぎ取ると、きょろきょろと女性陣を見渡したエルディン。
 すると、ティーラが妙に恥ずかしそうにしているのを見た。
「ああ、ティーラ殿のぱんつでしたか! お受け取りください、ぱんつを!」
 はぁはぁと息を切らせつつも、やり遂げた嬉しそうな顔をして、ティーラに差し出すエルディン。
 ティーラのハイキックがエルディンに炸裂したが、これは災難だったというべきだろう。

 その最中に、熾弦と雪華は己のぱんつを回収。
 2人とも、周囲に見られないようこっそり手の中に納めた。
 熾弦は違う人のも手に取ってしまい、また犬のそばに返していいのか困ったような顔をしている。
「まったく‥‥同情の余地はないわね」
「本当だね‥‥。こんな状態で街中を走り回されて。
本来下着なんて、人に見せるようなものじゃないし‥‥」
 見せてもいいのは、僕が大事だと決めた人だけ‥‥と呟き、誰かを思い浮かべたのかふっと笑った。
「最低‥‥あんなクズに私‥‥」
「もう、大丈夫よ‥‥」
 イゥラと恋華はボコッた後でも自己嫌悪に陥っていたようだが、きっと立ち直ってくれるだろう。
 ラグナはうさみたんを抱きしめつつ、ぱんつはなぜか捨てていない。
 その後、犬は兵士に連れられて牢獄行きになったようだが‥‥筋金入りの変態に反省する気はなさそうである。
 せめて一日でも長い求刑を、と祈るばかりであった。