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■オープニング本文 ●ジルベリア某所 バレンタインが終わってはや一ヶ月。 女性が仄かな気持ちを菓子に乗せて伝えるバレンタインデーの次は、 男性がそれに応えるホワイトデーが待っているのである。 あちこちで見受けられる、男女の語らい。 しかし、それをよく思わないものもいる。 「クッ、あっちこっちで店の思惑に引っかかっちまってよ‥‥!」 目付きの悪い顔を引きつらせ、のしのしと道の真ん中を歩く男三人。 「この頃胸糞悪ィったらねえぞ。甘ったるい匂いばっかりで飯も食えんよ」 甘ったるい匂いがするはずもないのだが、ウラヤという真ん中のやせぎすの男が吐き捨てるように言う。 「キヒヒ、モテない男の独り言は辛いねえ‥‥ぶぇらっ!?」 忍び笑いして、ウラヤに殴られた中肉中背の出っ歯の男がマシィ、 「二人共仲良しじゃなぁ」 ピロシキをモシャモシャ食べている、小太りがカポーという。 ウラヤ、マシィ、カポーの三人組は、辺りをジロジロと見ながらのしのし歩く。 特に眼光鋭いのがウラヤだ。眼を合わせないようにと、周囲の人達は視線を外す。 「チッ‥‥! コソコソすんなら、家の中でやれってんだ。バーロー」 「家の中ならそれはそれで、また悔しいんスよねぇ、キヒヒ」 余計なことを言ったマシィはまた殴られ、頬を押さえている。 「歯ァへし折るぞテメエ。ったく‥‥ん? どうしたカポー? 腹減ったのか?」 そこへ、ピロシキを食べ終えたカポーに気づいたウラヤ。カポーが服で手を拭きながらボーっと見つめているものがある。 ウラヤとマシィが視線を辿るように移すと‥‥ 「クロエ。先月のお返しだよ」 今しがた店で買ったばかりだが、可愛らしいラッピングを施された小さな箱を手渡すユーリィ。堂々と、店先で渡している。 おお、と嬉しそうな声を上げたクロエは、頬を紅潮させて受け取る。 「ありがとう、兄上。開けても良いだろうか?」 道を歩いている最中に開けることもないだろうが、クロエは隣で方を並べて歩いている兄、ユーリィに尋ねた。 「構わないよ」 彼も肯定し、クロエがリボンに手を掛ける前に―― 「――おっと。こりゃ絶望しか出ない箱だぜ! 平和を守るために没収だ!」 野太い声がしたと同時に、手元の箱が瞬時に奪われた。 イチャつきに耐えかねたウラヤが瞬時に駆け寄って、それを横取りしたのだ! 「な、なっ‥‥!?」 これにはクロエも慌てふためき、手元と周囲をキョロキョロと見渡した。ウラヤは今来た道を爆走していく。 「待て! それは妹のものだ!」 すると、ユーリィがマントを翻して誰かを追いかけている。 クロエも逡巡し、追いかけようと思った刹那――キヒヒと笑うマシューと、やっちゃったなというカポーに気づいた。 「汝ら。あの者の知り合いか」 「ん? そうだけど。今日のウラヤはカップルが気にくわないんだってさ。毎日気に入らないじゃんね、キシシ」 「ありゃあ、食べ物が入っちゅうがかぇ?」 装飾品の店から出てきて食い物なわけがあるか、と、クロエにツッコミを入れられて『そぉかぁ〜』と眠そうな声で応じるカポー。 「‥‥ときに汝。奴の見知りであるならば、何処に向かっておるか言え」 マシューの胸倉を掴むと、顔を近づける。怒っているので、その眉も大きめの瞳もつり上がっているのだが。 「あ、あ‥‥ちゅっとまってね、チュッと‥‥」 割と可愛らしい顔が近づいたことにアタフタするマシューだが、目を閉じて唇をタコのように伸ばすと‥‥痴れ者呼ばわりされ、クロエから容赦のない平手を食らう。 「このキリエノワに対して、というか初対面の女性に接吻をねだるとは何たる無礼! もう良い‥‥話す気がないのは理解した」 怒りと恥ずかしさに顔を真赤にしたまま言い捨てると、クロエもユーリィが向かった方へと走る。 「ウラヤもあの女の子も行っちゅう。待ってたほうがいいかぇ?」 カポーは皆が走り去っていった方向を見つめているが、マシューは開拓者クロエの一撃を食らって気絶している。返事はできないようだ。 「君、それを返しなさい」 「嫌だね!」 肩を掴もうとしたユーリィの手を掻い潜り、あたふたと逃げ惑うウラヤ。 割と息が上がってきたのだが、追いかけてくる男はさほど苦しそうに見えないし、距離もだんだん詰められつつある。 捕まりそうになっては必死に避けてを繰り返していた。クロエの姿は見えない。 爆走するウラヤの進路上、見知らぬ男女が道のどまんなかを歩いている。クワッと凶相を作って、前を歩いている女性の尻をひっぱたいた!! 「犬じゃねえんだからケツ振ってチンタラ歩いてんじゃねえ!」 「きゃーっ!!」 その後も次々道を歩く女性のスカートをめくったり、尻を撫でたりして道を退かせ、ぶつかって転びそうになりながらも女性の胸を掴んでしまったり。 ラッキーなんだか確信的なスケベなんだか。 かくいうユーリィも‥‥無我夢中で逃走するウラヤの自由ぶりに眼を覆いたい心境だった。 「それ以上不埒なことを続けるようであれば‥‥落ち着ける場所に放り込みますよ」 妹へのプレゼントを強奪されたよりも、セクハラ行為のほうが彼の中でも許せないようだ。 捕まえられるものなら捕まえろと煽って、近くに居たカップルの男へケツ蹴りをかまして走り去るウラヤ。なかなかにひどい。 「よろしい。それでは‥‥連行させて頂きますよ!」 キッと睨みつけるよう見据えたユーリィは、更に速度を上げた。 今日のジルベリアは、なかなかに騒がしくなっているようです。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
リリアーナ・ピサレット(ib5752)
19歳・女・泰
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
闇野 ハヤテ(ib6970)
20歳・男・砲
シフォニア・L・ロール(ib7113)
22歳・男・泰
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫
キルクル ジンジャー(ib9044)
10歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●某所 本日はうららかな陽気で、そろそろ春の到来を予感させる、なんともふんわりした日だった。 「ああっ‥‥返してくださいー!」 だが、キルクル ジンジャー(ib9044)の悲鳴に、その雰囲気は打ち破られる。 自分専用のアーマーを受け取りに来たというのに、キーと受付嬢から頂いたお菓子まで奪われたのだ! 「アーマーなんてな、子供のおもちゃにしちゃ十年早いぜ!」 これを売っぱらって遊ぶ金にしてやる! と、子供に対してひどいことを言い捨てたウラヤは逃走。 「やめてくださぁぁい! 返すのですー!」 「うふふ‥‥極上スイーツが、こ〜んなに手に入ったなんてっ♪ 宿に戻ってさっそく堪能っ!」 幻やら入手困難とさえ言われているスイーツを求め、遠路はるばる天儀からやってきた水月(ia2566)の両手には、収まりきらないのではないかというほど、名店のスイーツ袋や箱が抱えられている。 味わう前から既に至福の境地で歩いていたところ―― 「そんなに食ったらブタになんぞオイ! つーか退け!」 そう、悲劇は突然やってくる。爆走中のウラヤに、背中を思い切り突き飛ばされ――バランスを崩した水月は転んでしまった! 宙を舞うスイーツ達は彼女の手から離れ‥‥ べしゃ。どさっ。ぼとっ。 スイーツ達は重力に抗えず押しつぶされ、様々な断末魔を上げて、原型を失っていく。 顔に飛び散ったクリームが付着しても、彼女は微動だにしない。完全にフリーズした水月をそのままに、何事もなかったかのように走り去っていく憎いアンチキショウ。 (‥‥スイーツが、哭いている‥‥!) スイーツの慟哭が、パティシエの怨嗟が彼女には聞こえる!! 「ホワイトデーのお返しは、3倍返しと相場は決まっているの!」 瞠目し、そう叫んで立ち上がった彼女は、後ろ髪引かれる気持ちで甘い香りを立たせる残骸を残し、走る。 ――絶対カタキは、とってあげるからね! 「返して下さいッ!」 闇野 ハヤテ(ib6970)がウラヤの腕を捕らえていた。その手には、ハヤテの持っていた菓子が握られている。 「女から貰ったもんだろ? ん?」 「彼女とかじゃありませんよ‥‥友達用のです」 菓子の事を気にして、ハヤテはやや早口になりながら腕を引っ張る。 「とりあえず‥‥盗んだ物さえ返してもらえれば手荒な事はしないので‥‥さっさとソレ、返して下さい」 「イヤだね!」 イヤじゃねーよ! と反射的に叫ぶハヤテ。しかし、ウラヤの蛮行は止まらない。 「ちょっと待て‥‥食べようとすんじゃー‥‥ぁ‥‥!!」 咀嚼されていく菓子。ごくりと嚥下する最後の瞬間まで、ハヤテは見ていた。 まあまあだな、と吐き捨て、なんとハヤテの手を振りほどいてまた逃げ出した! 「ふー‥‥今日はいい風が吹いてますねぇ‥‥」 髪を弄ぶように吹くのは北風。さわやかな発言だが、声は怒りに震え、彼の目は笑っていない。 「‥‥倒す、あの茶髪絶対倒す!! ていうかお手伝いしますから!」 ユーリィにそう言い切ったハヤテ自身も茶髪なのだが、ここでそれは突っ込んだら殺されかねない気がする。 野生の獲物を狙うハンターが、加わった。 (開拓者として少しは経験を積んで、これから先は他の儀にも目を向けていかないとね。天儀朝廷へのいろいろな思いとともに拘りはあるけれど、それはほかに目を向けない理由にはならないし‥‥) と、何やら難しいことを考えながら散策中の熾弦(ib7860)。 「そこのご婦人! 避けてください!」 ユーリィが声を出して注意を促すも、熾弦には聞こえていない。 迫るウラヤ! 気づかぬ熾弦! 追いすがろうと手を伸ばすユーリィ! しかし、振りほどく! 熾弦が妙な気配にハッと気づいた時には遅く、ウラヤが間近に! 咄嗟のことに反応できずに驚き、動きを止めて固まってしまった熾弦へ魔の手が伸びた! 「ったく! どいつもこいつも、目玉が着いてねえのか! 目の毒をプリプリさせやがって!」 羽織の上から胸を鷲掴みにし、乱暴ににぎにぎして走り去っていく。 走り去った後で胸を押さえた熾弦。警戒する猫のように感情を示さない目で、ウラヤの背中を見つめていた。 「‥‥、減るようなものを奪われたつもりはないけれど、笑って見逃すわけにはいかないわね‥‥」 その通りである。もう完全にウラヤは犯罪者だ。冤罪とかアヤカシが手に乗りうつっているとかそういう言い訳は通じない。 熾弦の格好も走るのに向いた格好ではないが、ウラヤへ追われるプレッシャーを掛けることはできるし、ユーリィに指示されて回りこんでいった憲兵らの邪魔になったり、面子を奪うようなこともないはずだ。 ――熾弦の事件、一部始終を見ていたのは洋風家政婦。戦闘も可能なメイド、リリアーナ・ピサレット(ib5752)である。 酔っぱらいでさえここまでしないというほどの蛮行を偶然にも間近で目撃してしまい、 怒り心頭に達したのだろう。顔に表情が出にくい彼女だが、流石に今回は隠しきれない。 「まるで小さな子供ですね‥‥目に余ります」 きらん、と、眼鏡の奥に隠された目が光る。 「子供に相応しくたっぷりと、お説教です!」 彼女たちの妹が見たら震え上がるであろう。何故なら彼女の説教は、肉体言語を含んでいるからだ。 どんな『説教』をしてやろうかと考えつつ、ふわりと裾をなびかせて走る彼女の口元には、僅かな笑みが浮かんでいた――‥‥。 「ったくよォ‥‥どーやら帝国騎士団に目を付けられちまったみたいだな‥‥」 大々的にやっていればそんな事当たり前なのだが、ウラヤは毒づく。仲間のマシィやカポーなんか放置のままである。 なんとか逃げ果せる方法はないかと思って――店先にまた飛び込んだ。 「嫌だねぇ、なんかまた騒ぎがあるのかな」 そこには、顔を曇らせて通りの方を眺めているシフォニア・L・ロール(ib7113)がいた。騒がしいね。面倒事はごめんだ、と店のオバチャンと世間話をしている。 余計な事には巻き込まれたくないので、何が起きようと知ったことではない、と傍観を決め込んで商品を物色していると、通りすがりにウラヤから尻を撫で回され、膨らみの片方を掴まれた。 「――!?」 驚きのあまり、商品を取り落してしまった。割れるジルベリア陶器。オバチャンの悲鳴。 「色気はあるのに肉付きが足りねえな! 姉ちゃん!」 去っていく茶髪と追いかける一同の姿を視界に入れたまま、シフォニアはぽかんとしていた。オバチャンの憤りは耳に入っているわけがない。 「俺は自分でも女顔だろうとも思っていたが‥‥男に尻を撫で回されたのは初めてだ! うぉのれ変態め! 叩きのめしてくれるっ! ボッコボコにな!」 身も心も辱められたシフォニアの怒りはもう抑えられない。忿怒の形相で走り去る。 名誉のために言っておくが、シフォニアは物損の請求が嫌で逃げたわけではない。本当に気づかなかっただけなのだ。 「やはり邪魔されないと良く眠れますね‥‥」 往来で大きなあくびを噛み殺しつつ、杉野 九寿重(ib3226)は風も暖かくなってきた陽気に、束の間の平穏を噛みしめていた。 相棒の人妖は九寿重をワンコ呼ばわりし、自称そのワンコの主――であるらしいが、人妖が彼女に構い、懐きすぎた結果寝不足らしい。 主であるならこちらの健康管理もして欲しいと思う九寿重だが、尻尾や耳に纏わり付く相棒も可愛らしいものである。 そうして気休めの観光をしていると、通りが何やら騒がしい。 どたどたと走る一段。そこにはいくつか見知った顔もある。 普段であれば、あまり手を出さないが、ユーリィがその一団に加わっている。 「ふむ‥‥そこの人、一体何故追われているのですか?」 騎士団長が誰かを追うのは妙だと思った九寿重。折り目正しくウラヤに声を掛けた‥‥までは良かった。 「うるせえネコ女ッ! 前に立つな!」 肩を押しのけようと伸された手を篭手払で素早く避ける。それよりも九寿重は『ネコ』と言われたことにショックを感じていた。 「‥‥この尻尾などを見て猫とは! 聞き捨てなりません! 修正しなさい!」 と、何故か一緒に追いかけ始める。それに、猫は水月のほうである。 気がつけば変態を追いかける人数は凄い。 「あの変態を追いかけていると言う事は…まさか、きみ達もセクハラ被害かい!?」 仲間が現れたと思ったシフォニアが聞いてみると、キルクルも九寿重もセクハラは受けていない。 泣きたい気分のシフォニア。友人のハヤテにまで『被害受けたんですか‥‥可哀相に』と顔では微笑まれたが、彼の目は逆に哀れみを向けていた。 そんな彼らとは逆方向。街の憲兵から事情を聞いた雪刃(ib5814)は、彼ら憲兵と共に攻めている。 (――にしても、これだけ追いかけられてまだ捕まらずに逃げ続けるって結構な体力の持ち主なの?) しかも手は休めないのだから、相当なものである。一般人だとしたら手荒なこともできない。 ホワイトデーのお返しを狙っているのだと知った彼女は、囮になろうと思い至り、お返しで貰った腕輪や着物を愛おしそうにいじっている。 「オウオウ、いいもん持ってんじゃねえか。え?」 わ、すごい、すぐ来た‥‥と、口に出しそうになったのを留めた雪刃、隼襲で底上げしウラヤにしがみつくように取り押さえるが、ウラヤはそれで終わるような男ではない。雪刃を引き剥がそうと‥‥しているのか欲望のままなのかは謎だが、見ている方が申し訳ない気分になるほど胸だとかお尻にセクハラ放題のウラヤ。 「このっ‥‥抵抗するなっ! 『落とす』よっ!」 雪刃も女の子。大事な人にならともかく、初対面、しかも変態に触られて平気なはずがない。放り出したいのを堪え、鬼腕も使ってメリメリ頭を締め上げる。 「いた! ‥‥お嬢ちゃん、協力感謝するぞっ!」 シフォニアが目ざとく見つけ、ウラヤを指さす。雪刃の胸の下で、チッと舌打ちしたウラヤ。 「しゃーねぇっ! おまえが悪いんだぞ!」 どっちが悪いと思っている――と言いかけた雪刃は、ひょいとウラヤに担がれる!! 「ぎゃーっ!?」 しかも、そのままスタコラ人攫い状態で逃げ始めたのだ! こうも非道を重ねるとは、一体ウラヤの血の色は何色なのだろう。 「ふむ、ユーリィ、多少のスキルの使用は可能かい? このままだと、この街のレディは変態と言う恐怖に可憐な顔を歪ませてしまうよ?」 なかなか捕まらないウラヤに、業を煮やすシフォニアがそう尋ねると、ユーリィは眉間に皺を寄せた。光明をもたらしたのはハヤテの言葉だった。 「さっき逃がさないように腕を掴んだんですけどね‥‥振りほどされたんですよ。きっと志体持ちでしょう」 「志体持ちも一般人も関係ないさ。やったことに対する『けじめ』ってのは、つけてもらわないとね」 そうでしょ? と熾弦が皆に言うとおり。それが道徳ってものである。 「‥‥何かあった場合の責任はわたしがとりましょう。戦闘スキルも許可します! 速攻で抑える!」 ユーリィは号令をかけ、よっしゃ、とハヤテが気合の声を出し、回りこむためリリアーナが瞬脚で走る。 「ま、待つのですー! 茶髪レザーの変態めー!」 「何だとコラァ! どんぐり!」 「どっ、どんぐりじゃないのですー!」 「じゃあチビ!」 「むぅーっ! 変態に言われたくないのです!」 ちゃんとウラヤは挑発で釣れたはずなのに、逆に自分もウラヤの買い言葉に釣られてしまっている。 2人は聞き苦しい罵倒合戦を繰り広げ、予期せぬうちに足止めという立派な大役をこなしていた。 はっと気がついたウラヤは、雪刃をほうり投げ、よろよろと逃げる。 「もう逃がさないっ!」 水月が結界呪符『白』でコの字型に壁を作り、ウラヤの逃げ道を塞ぐ。 「はははっ! そこの変態! いいか、俺はれっきとした男だと教えてやる! もろもろ君の感想を聞きたいが、それは拳で語った後だ! 騎士団お墨付きだから遠慮無くやるぞ!」 「当然ぶっ飛ばすっ!」 息巻くシフォニアとハヤテがそれぞれ攻撃を繰り出した。本当に容赦なくウラヤの体中に当たりまくる。しかし‥‥まだだ! 「うん、死んでいませんね」 さらっとひどいことを言ってのけるリリアーナ。さぁ、お仕置きの時間ですよと、皆の方へ体ごと振り返る。 そこを見逃さないウラヤは、出口を塞ぐリリアーナめがけて走る! 「――そう何度も、同じ手が通じると?」 背拳で対応済みのリリアーナは、くるりと振り返ると荒鷹陣で威嚇! ついでに手で羽ばたきをイメージ。 奇妙な動きに一瞬動きが止まるウラヤをすかさず横抱きにすると、ウラヤのズボンと下着を一緒に下ろしたではないか! 「アッー!?」 危険物は見えないようにとリリアーナが対応済み。大丈夫だ、問題ない。 「謝る迄終わりませんよ! よく反省しなさい!」 なんか汚い男の尻に打ち下ろされるリリアーナの可憐な手。痛そうな顔をして、見守る一同。 怖々キルクルはウラヤのズボンの近くに落ちているキーを拾い、サッと下がる。 相当叩いた後で、か細いゴメンなさいが聞こえる。反省しているようだ。 「荒んだ気持ちをそのまま他人にぶつけていたら、誰も近寄りません! どんな時でも優しくなれる心の余裕を持ちなさい」 真面目に生きれば、そんな貴方を見てくれる人がきっと現れますよと優しく声を掛けて抱きしめてやるリリアーナ。 痛みと恥辱で頭が大混乱している所に優しさを見せると、すっと『落ちる』ことを彼女は知っているのだ。 ● ぐったりしたウラヤを憲兵に引渡し、ユーリィは皆のほうへ戻ってくると『ご協力ありがとうございました』と軽く頭を下げた。 (はて、そういえばどこかで見たような‥‥) なんか偉い人っぽい対応のユーリィを見つめるキルクル。 「‥‥あわわわ駆竜騎士団長?! 非礼をお許し下さいなのですー!」 平身低頭するキルクルに、今日は非番ですから気にしないでくださいと笑ったユーリィ。 「帝国騎士になれば別ですが、今日は互いにガラドルフ大帝に忠誠を誓っている開拓者、ですから」 「団長さん‥‥!」 キルクルの目が心なしか潤んでいる。 「あー! スイーツ弁償させるの忘れたっ」 水月が思い出した様に言い、ユーリィが聞き返す。事情を話すと、彼は『わたしが立て替えます』と言ってくれた。 「ホワイトデー限定特選ベリータルトとー、シュークリーム、ロールケーキ、ショートケーキに‥‥」 そんなに食べるの、とハヤテが言えば、難しいことじゃないかなと雪刃も頷く。 「‥‥後で使いの者を出させます。商品の金額を記載しておいて下さい‥‥」 そこへ、九寿重がおずおずと言った。 「あの、ユーリィ様。先程クロエも一緒だと伺いましたが‥‥どこに?」 「‥‥あ」 その後、九寿重は慌ててクロエを探しに行った。 今日も、開拓者の手によってジルベリアの平和は守られた‥‥はずだ。 |