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■オープニング本文 ●ジルベリア帝国 カレヴィリア領内 カレヴィリア城門前には、十数人が押しかけていた。 3人の門番が懸命に押しとどめているが、人々は城へ向かって手を伸ばしたり、それぞれ、何やら口々に喚いている。 「無理だ! ‥‥んな日に――‥‥」 「何言って‥‥――!」 聞き取るには人々の声や、門番の怒声が混じって判別しづらい。 「いい加減に‥‥しろっ!」 それでも、無理にでも押し通ろうとする中年男性を押し返し、尻餅をつかせる門番の青年。 「ダメなものはダメだ!」 「この、冷血共!」 無情とも思える拒絶の言葉に、あごひげを蓄えた男性は罵り始めた。 怒りは伝染し、言っても訊かぬのならばと門番が樫の棒を振り上げた、その時。 「――何を騒いでいるんだ」 凛とした声は急速に、彼らの熱を奪った。次いで白の景色に、黒が混ざる。 振り上げた樫の棒を、門番の後ろに立って掴んでいたのは黒衣の騎士。 「ユーリィ様‥‥」 黒い髪に金の瞳。ユーリィ・キリエノワ駆竜騎士団長が、彼らの騒ぎを聞きつけて姿を見せたのだった。 「何事か、と聞いている。無抵抗の民間人に、このようなものを振り回そうとするなど‥‥」 やや強い語調で諫め、握っていた樫の棒を離すと尻餅を付いている男性に手を差し伸べた。 「気性が荒く、不快な思いをさせまして申し訳ございません。お怪我は」 「い、いや、ありません‥‥そうだ、ユーリィ様。貴方様にお話を」 恐る恐る手をとって立ち上がった男性は、ユーリィの目を見据えて話し始めた。 「今日到着するはずの商人の馬車が、まだ届かないのです」 「‥‥この風雪の中です。手前の街に滞留しているのでは?」 カレヴィリアと国境東付近には、瘴気漂う【闇の森】がある。 アヤカシも出没する可能性があるだけに、ここまで交易に来る商人たちが知らぬはずはあるまい。 ユーリィもそれを指摘したが、彼らは首を横に振る。 「ここのところ雪の勢いも激しく、商品の入荷も儘なりませんでした。今日届かなくては、商品が複数の店舗より無くなってしまうというので追加料金も払っているのです」 それは、かなりの世帯がひもじい思いをするだろう。ユーリィは眉根を寄せると、本当に確かなのだな、と呟いた。 目を閉じて考えていたようだが、蒼いマントを翻しながら『捜索してくる』と竜舎の方へ早足で移動していった。 ●カレヴィリア郊外 防寒装備を整えている団長に驚いた隊員数人は、直々に行くのならと同行を希望した。 5人で隊列を組み、冷たい風の吹きすさぶカレヴィリアを相棒と共に飛んでいる。 「視界は厳しいですね」 団員の一人がそう呟いた。確かに見通しは悪く、良好ではない。 相棒たちもなんとか飛んでくれているようだが、人よりも良く利く眼とて20m先も見通せない。 「――‥‥ケレオス、もう少し左に。今何か聞こえた」 ユーリィは手綱をクッと引き、愛龍に声をかけた。ケレオスは小さく鳴いて同意を示し、身体をゆっくり左に傾ける。 吹きすさぶ風と雪は横殴り。身を乗り出し、しっかりと地を見据えていたユーリィは――やがて息を飲んだ。 白い幌をつけた馬車が、確かにそこへあったのだ。 ただ、その幌馬車――小さいものが群がっている。 「団長! あれは‥‥ゴブリンスノウの群れです!」 団員の一人が、ゴーグルに張り付く雪を拭きながら声を荒らげた。 幌馬車にも開拓者がいたようだ。これ以上纏わりつかせぬよう、数人でゴブリンたちを相手にしている。 「よし、一人は報告に戻れ! 残りは救援に向かう!」 「はっ!」 一人の騎士がくるりと方向転換し、カレヴィリアの城へ向けて飛び去っていき――ユーリィ達は急降下。 何事かと顔を険しくさせた開拓者たちに素性を名乗り、敵ではなく救援に来たと告げる。 「重傷ではないけど怪我人がいる。早く片付けてしまいたい」 至る処が破けている幌は、当初の役割を殆ど果たしていない。しかし、馬車の中には物資の他――一般人や怪我人も身を寄せている。 「了解しました――‥‥やはり民の言うことは、信じるべきだ」 開拓者の言葉に頷いたユーリィは、 助けられる命があることと、奪わなくてはならぬ命があることを胸に刻み、剣を構えてゴブリンたちを睨みつけた。 |
■参加者一覧
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
フェムト・パダッツ(ib5633)
21歳・男・砲
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
宵星(ib6077)
14歳・女・巫
灯冥・律(ib6136)
23歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●カレヴィリア城 城に戻った騎士は、やはり訴えを起こした者たちが言ったとおり、馬車を発見したこと。 そして、スノウゴブリンたる小鬼の群れに囲まれ、駆竜騎士団と商人に雇われていた開拓者達数人で対処していると報告。 開拓者ギルドへの援軍要請を取り付け、何事かと集まったフランヴェル・ギーベリ(ib5897)とフェムト・パダッツ(ib5633)にも状況を説明した。 状況が把握できると、フランウェルの表情は見る間に深刻なそれに変わっていく。 「一刻を争う状況じゃないか‥‥人数が集まる迄なんて待てない! 一人でも行かせてもらう!」 フランウェルの言うことは最もなのだが、軍馬を用意しているから待って欲しいと言われ、本当にやむ無しといった顔で、彼女は再び椅子へストンと座る。 「外、雪凄いんだろ? カンジキか何かある? ‥‥雪の上歩く道具だけど」 フェムトがテーブルにそれらしき形を書くと、騎士にも理解できたようだ。 「ああ、スノーシューですね? ありますよ。しかし騎乗するには適さないのですが‥‥」 「ん〜‥‥着いたら履くしかないのか。それでも、無いよりいいよ」 フェムトが尻尾を揺らしながらもそう答え、騎士は分かりましたと言ってそれを人数分手配するため部屋を駆け足で出る。 「重病人もおらず、みんな無事であって欲しい‥‥!」 組んだ指を痛いほど握り、フランウェルは飛び出したい気持ちを抑え、努めて冷静になろうとする。 「無事に決まってる」 フェムトは真面目な顔でそう言い聞かせ、ニッと笑った。 「向こうだって、頑張ってる人がいるんだ。信じて行こうぜ!」 その言葉に、うんと頷くフランウェル。 ややあって、戻ってきた騎士がスノーシューを渡しながら準備できたと告げる。 「先導します。腕に布を巻きつけておきましたから、それを目印について来てください」 2人も首肯し、騎士の先導の元、急行することとなった。 ●吹雪の馬車 しかし襲撃直後まで、少し時間を遡ってみよう。 無事に闇の森を抜けた馬車は、カレヴィリアまでもう少しというところまで進んでいた。 気を抜いたわけではないが、一番危険とされる昏き森を通過したことで心に安堵も出てきたようだ。 閉じられていた口は饒舌になり、ガマンできていた寒さが、少し堪えるようになる。 幌で覆われているとはいえ、全部を包んでいるわけではない。 前のほうは開いているし、隙間風だって入ってくる。 荷物と荷物の間に入って風を避けていた狼 宵星(ib6077)が、ふいに幌を見上げた。打ち付ける雪の音が幌を伝わり、吹雪は強いのだと耳で理解する。 商人たちはヴォトカを飲んで体を温め、寒さを凌ぐ。そのせいで馬車は少し酒臭いのだが、致し方ないだろう。 「寒いのは苦手だ。早く着くのが待ち遠しい」 雲母(ia6295)は海月弥生(ia5351)にしがみついている。 早い話人間懐炉扱いなのだが、伝わってくるほどよい感触と温もりが良いのだろう。心地よさそうだ。 そんな朗らかで微笑ましい状況は、一変する。 幌の丈夫な布地が1箇所、突如破られたのだ! 「うわぁ!?」 目の前に飛び出た剣先に驚いた商人は酒を放り投げて飛び退き、 護衛のために雇われた開拓者たちは戦闘態勢に入る。 だが、襲撃はそれで終わったわけではなかった。至る所から刃が飛び出し、幌は見る間に破かれていく。 隙間から顔を出した小鬼たち。奇声を上げつつ中へ入り込もうとしたのを、 アナス・ディアズイ(ib5668)がベイルを侵入口に構えて押し返す。盾の障壁が展開し、僅かに発光。 ユリア・ヴァル(ia9996)は紅い布をグングニルに巻きつけてきつく縛ると、馬車内を数歩で駆け抜け先頭の御者を目指す。 「手綱を! あなたは早く馬車の中に行って!」 御者の足を引っ張って引きずり降ろそうとする小鬼達を槍で打ちつけ、手綱を片手で握ると馬を制し、御者の男性を後方へ促す。 斬りつけられた箇所から血が染み出していたが、傷口を押さえながら馬車の中に入っていった。 見れば、どこから湧いたのか周りは小鬼だらけ。馬も怯えているこの状況で、強行突破するのは無理なようだ。 「皆さん、一箇所に集まってください。散ってしまうと危険ですから‥‥必ず、助けが来てくれますから」 気丈に振る舞っている宵星の呼びかけに応じ、身を低くしながら馬車の中心へ身を寄せる商人たち。 「毛布とか、防寒具はありませんか? あれば、それを着たり巻いたりして体を温めてください」 これで、彼らの寒さも幾許か和らぐだろう。微笑を残し、立ち上がると周囲へ瘴索結界を使用し、索敵を開始する。 ――敵の数は、50程度。だが、数えている最中にもまだ増えていた。 「ふぅん。ま、寒いからさっさと終わらせましょ。長引くと寒いし」 「そうね。それじゃ、あたしを懐炉扱いするのは終ってから、ね?」 煙管を咥えた雲母を自分から引きはがし、弥生は上から侵入しようとした小鬼を射落とす。 上方からの侵入も排除する必要がある。 (上、乗っても大丈夫‥‥よね?) そろりと手をかけ、上る弥生。顔を打つ冷たい雪に目を細めつつ、近くから倒していくしか無いだろうと考え、弓を打ち起こす。 吹雪すさぶ中、フェンスシールドで防戦をしていた灯冥・律(ib6136)は盾から伝わるガツガツという衝撃を受けつつ仲間のほうを伺う。 ちょうど馬車から降りた雲母が、背をもたせ掛けてしげしげと小鬼を眺めていた。 「ちょっとは楽しめると思ったけど‥‥ま、所詮小鬼なのよね」 白い息と共に煙管からも紫煙が流れ、瞬時に消える。 「あと、死にたくないなら射撃範囲に入んないでね‥‥」 そして、律にやってくれと合図を送った。 頷いた律は咆哮を仕掛けて敵を集め、すぐに飛び退く。集まった小鬼共へ、迷うことなく矢を食らわせた。 小鬼の頭を貫通し、後方に控えていた者の頭部に突き刺さり、甲高い悲鳴が上がる。 「まだ来ます!」 宵星が敵増援の方向と数を伝達し、槍で小鬼を数匹纏めて跳ね上げるユリアが艶やかに笑った。 「――私がいる馬車を襲うなんていい度胸ね。遊んであげるから、かかってらっしゃい!」 ●現在 「隊長さん! 馬と一般人の護衛をお願い。乗客が恐怖に怯えてるから、安心させるようにして」 「負傷などは?」 ユリアが簡潔に状況を述べ、ユーリィは騎士を2人馬車の内部へ向かわせる。 もう1人はユリアが守っていた、馬の手綱を引いて、彼女から離した。 「ご安心を」 「助かるわ」 ニッと笑いかけ、周囲を伺うと‥‥律に咆哮を使ってくれと頼んだ。 「敵を集めました。攻撃願います!」 律が小鬼を束ね、ユリアのブリザーストームが放たれる。 たかが小鬼の群れ。魔法の範囲に入ったゴブリン達は次々と倒れていく。 「フフ、寒すぎたかしら?」 満足そうな笑みを湛え、ユリアは再びグングニルで近づいてくる小鬼を次々に刺し貫いていく。 (‥‥この感じだと居るはずよね、指揮官) 気配を探りつつ、両サイドから跳びかかる小鬼を捌き息を吐いた。 馬車に乗り込んできた騎士に、びくりと肩を震わせた宵星。 「ご安心を。駆竜騎士団のものです」 「クロエさんの、お兄さん‥‥ユーリィさんの?」 はい、と頷き、外を示す騎士。そこには剣を振るうユーリィの姿があった。安堵に息を漏らす宵星。 「良かった。皆さん‥‥だいじょうぶ‥‥もう少しの、辛抱です」 騎士も怪我の具合などを診ており、開拓者の方も負傷者には応急処置が施してあったので、特に心配することはないようだ。 馬車の後方、弥生が六節を織りまぜながら、小鬼を射続ける。 「ちょっと‥‥多いみたい、ねっ!」 「散らします!」 そこへアナスが駆けつけ、ハーフムーンスマッシュで敵を薙ぐ。 緑の一閃が小鬼を3匹捕らえ、致命傷を与えた。 先ほどの剣を上空に飛んで回避した小鬼が、アナス目掛けて剣を振りかぶる。 剣を振りかぶれば、後は振り下ろされるだけ! 頭上にベイルを構え、気合と共に錆の浮いた剣を受け止めた。 それに気づいていた弥生が間髪入れず放った矢は、視界が悪いにも関わらず小鬼の心臓を射ぬくと、また弓を手に取り六節を行う。 「ウジャウジャ居ただけでも、面倒くさいってのに‥‥」 乱射しながら雲母は呟いた。 咥えた煙管の火種が、吹雪の強さで消えそうになっている事が気に入らない。チッと舌打つ。 脇から攻め入ってきたゴブリン目掛けて乱射。他の小鬼が盾になったお陰で無傷だった一匹が、 馬車に手をかけようとしたところを、雲母は牙狼拳で吹き飛ばした。血を噴き出しながら、空を踊る雪の彼方へ飛ばされる。 「‥‥ん」 超越聴覚をかけ直し、雲母は音の聞こえた方向へ視線を向ける。 その方角からは、大きな生物の羽音と、規則正しく雪を踏む音。 「来たみたいだよ」 雲母は仲間にそう告げた。 ●殲滅戦 馬が白い息を吐きながら、雪を散らすように走る。 「すぐそこです!」 低空飛行に務めた騎士がそう叫んだのを合図に、フランウェルは朱槍を後手に握り、馬の腹を蹴った。 「おおおーっ!」 雄叫びをあげながら、突っ込もうとするフランウェル。 「あー寒‥‥しっかし、狙いにくそうだね、この吹雪!」 彼女を撃たぬように注意し、馬を走らせながらフェムトはあらぬ方向へわざと威嚇射撃を行う。 雪は音を吸ってしまうが、もうだいぶ近くまで来ていたので敏感にゴブリンは察知したようだ。 「貴様等にはもう好きにさせん! 我が朱槍にかけて! 悉く討ち果たす!」 一瞬動きを止めた隙にフランウェルが咆哮とともに突撃してくる。 その大きな声と吹雪にも目立つ朱槍、上空でユーリィと皆へ合図を送る竜がいて、仲間たちもフランウェルが味方だと悟った。 フランウェルが回転斬りで小鬼の中心に飛び込み、馬を操りながら槍で突く。 突然乱入して暴れるような槍さばきのフランウェルに、小鬼達は目を奪われる。 その様子に、フンと彼女は鼻を鳴らした。 僅かな隙さえあれば。 ユーリィがグレイヴソードを放ち、その部下たちが周囲に群がる敵を薙ぎ倒す。 ハッとして襲いかかろうと動く小鬼へ律が剣気を放ち、怯んだ所にダガーを投げた。 「猫さん。馬車、お願いね」 「おう‥‥って、ネコ違う!」 ユリアの背に向かって訂正を入れたフェムト。ブツブツ言いながら、ヴォトカを銃身にかけると火をつける。 青紫色の炎が冷えた銃砲を温める。 火が消えるとフェムトは僅かに温かい銃を握り、サポートに回る。 律とアナスはシールドで受けつつ、隙を見せたゴブリンを確殺する。 屋根からは弥生が衰弱した敵を狙い、馬車の中からはフェムトが馬車に寄ってくる小鬼の頭を狙って鉛玉を射つ。 「ちゃんと馬見といてよ? 巻き添えになっても知らんからな!」 風に踊らされる髪を払い、雲母は強く弓を引いた。間髪入れず、小鬼の悲鳴。 「いつまでも、隠れてるんじゃないわよっ! 誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてあげるわ!」 瘴索結界も使用し、アークブラストを見舞うユリア。 群れの中にいる、毛皮帽子の小鬼に当たる。これが、群れを指揮していたようだ。 すぐに馬を翻し、フランウェルがぐったりしている指揮官の肩を狙って突き刺す。 刺したまま持ち上げ、勢い良く叩きつけると、それだけで指揮していた小鬼は動かなくなった。 「雑魚が逃げるなら深追いはしないよ‥‥でも、後の憂いを断つ為! 全滅を目指すッ!」 「承知ですっ!」 アナスも強く同意し、ハーフムーンスマッシュで再び広範囲の小鬼を屠る。 血沫と小鬼の衣服が千切れ飛ぶ。 無限に湧き出てくるような錯覚を抱かせたスノゥゴブリンの群れだが、 徐々にその数を減らしていった。 ●終了 周囲を注意深く観察したが、特に反応はない。 「敵の指揮官らしきモノも倒したし、大丈夫そうね」 ようやく移動できるわねと微笑むユリア。屋根から降り立った弥生も固まった手首をプラプラさせながら同意する。 少々車用の馬が荒れたが、馬達も怪我はなく無事だ。 中に入り込んでしまった雪も掻き出して、早くカレヴィリアに向かわねばなるまい。 仲間たちから振舞われる食事を摂り、神風恩寵で皆の傷を癒す宵星。 ユーリィと騎士たちにありがとうと頭を下げれば、彼らは首を横に振る。 「あなた方の頑張りがあったからです。こちらこそ、ありがとう御座いました」 お互いに微笑みを向け、そろそろ出発しましょうと馬車へ声をかける。 「ですって、ネコさん。車輪の軋みは大丈夫?」 「馬車は大丈夫だけど……黒豹だっ!」 「黒猫でいいじゃない、可愛いわよ?」 可愛くない、とユリアにからかわれたフェムトの声が聞こえる。 ぴしりと御者が馬を打つ。ゆっくりと出発した馬車。 「もう少しですね。温かい食事や飲み物を用意してくださっているそうです」 律が嬉しそうに声を弾ませ、弥生に再び抱きついた雲母は抑揚のない返事をする。 カレヴィリア城下では、彼らの到着を心待ちにしているものが居る。 「‥‥来たぞ!」 馬車が到着すると、熱烈な歓声と共に出迎えた。 |