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■オープニング本文 ●こんなのばっかり。 最近、不穏な事件が続くジルベリア北西部だが、またしても巷を賑わせている事件が起こっている最中だった。 街でも村でも、数人は表情を曇らせては『何か』を探している。 妙齢の女性が、恥ずかしそうに家の周りをキョロキョロと伺い、物をどけて覗き込んだり。 「もしかして‥‥あなた『も』無くしちゃった?」 「え? リーナさんも? 実は‥‥気に入ってたやつだったんですけど‥‥」 怪訝に思った近所の奥さんが話しかけると、女性は動揺した後、顔を赤くして頷いた。 それは、なんというか‥‥口に出すのも躊躇するというか。 いってしまうと、ブツは【下着】である。 そう、悲しいことに‥‥ジルベリア北西部では下着泥棒が出現している。 しかも、である。 下着は女性用ばかりではない。 「オウオウオウ、ボリス、ワイのドシフンは何処じゃ‥‥あの黒字に金の昇り龍のヤツよ」 「叔父貴! へい、干しといたはずなんスけど‥‥」 「無いから聞いとんのじゃボケェ!」 なんと、男物の下着も無いという!! どうなってんだ! 住民からの怒りは憲兵や騎士たちの警備が甘いからだ、夜安心して眠れない、洗濯物を干せる環境を! と、八つ当たりじみた怒りの矛先も向けられたのだが、 騎士団でも同じような盗難はあるらしい。 連続ぱんつ盗難事件。なんとも情けない話だが、笑うなかれ。被害は百を超えるとか。 目撃情報もなく、怪しい人物‥‥怪しいと思えば誰も彼もが怪しく見える。 一向に定まらない情報の中、ついに魔の手はあの女のところにも迫っていたのだ――!! 「いい天気ですわね。早めに洗濯をして、薬の調合をしておきませんと‥‥」 依頼人が薬を取りに来てしまいますわ、と言いながら、ティーラは洗濯カゴを片手に庭へとやってきた。鼻歌交じりでシーツや洋服を干している。 外側に洋服を干し、内側に下着を――‥‥と、カゴに手を入れたが、下着がない。 「‥‥あら?」 入れたはずの下着(しかもお気に入り)が消えている。 カゴを漁るが、やはりない。 「‥‥おかしいですわね、落としたのかしら‥‥」 首を捻って、風に揺れるシーツを見たところで―― なんか、シーツにくっきり何者かの影が写っている。 まさか、これは巷で言う下着泥棒ではないか――!! そう思ったときには、誰ですの!! という鋭い声と共に、シーツをバサッとめくる自分が居た。 しかし、そこに居たのは‥‥ 「わ!? わんっ!」 「なっ‥‥!?」 首にスカーフを巻いた、でかい犬‥‥いや、違う!! 「何ですの貴方!! 下着泥棒では飽きたらず、犬のコスプレまでしてるんですの!?」 「違うワン! にんけん! 忍犬だワン!!」 変た――いや、自称『にんけん』は、立ち上がってアピールしていた。 確かに『きぐるみにんけん』を着込んでいるからあながち間違っては居ないのだろうが、断じて忍犬ではない。 「は? 自分が忍犬だと思ってるドロボウのオッサンがコスプレしてるだけじゃありませんこと?」 「否! 自分がオッサンだと思ってる忍犬がドロボウしてるの!」 「やはりドロボウですのねっ!!」 「ちぃっ、バレたかっ!」 自供してたじゃねーか。一目散に駆け出すにんけん、いや、ドロボウ‥‥なんかとりあえずオッサン‥‥。 ともかく、オッサンは着ぐるみの間から下着をボロボロ零しながらティーラから逃げている。 「止まりなさい!!」 「止まれって言われて止まる奴ぁいねえよ!」 いちいち悪人ぽいことを言いながら逃げるオッサン。ぴっちぴちの全身タイツは、否応なくオッサンのボディラインを強調する。 ぷりぷり尻を振って走るのだが、くるんと丸まった尻尾が誘うように揺れていた。 頭は忍犬のつぶらな瞳を持っているのだが、被り物なので頭だけ異様にでかい。 しかも、頭を入れる穴から、ボロッ、ボロッと女性用・男性用問わず下着が落ちていくではないか。 追いかけるティーラも、いつ自分のが落ちるか、そしてこんな汚らしいドロボウをなぜ追いかけねばならぬのか。 ともかく羞恥・怒り・悲しみといったものが綯い交ぜである。 「い・い・か・げ・んに――」 たん、とティーラは地を蹴り、全速力でドロボウに追いつき、横に並ぶと。 「――しなさいっ!!」 その場でジャンプし、後ろ回し蹴りを放った。バキィッといういい音がして、ドシャッと転ぶオッサン。 「あっ‥‥」 思わず、我を忘れて蹴りを思いっきりかましてしまった。死んだかも‥‥と、ヒヤリとしたティーラだったが。 「あたた‥‥死ぬかと思った」 ムクリと起き上がり、縞パンで顔(着ぐるみ)を拭うドロボウ。どうやらこれも才能の無駄遣いなことに、志体持ちらしい。 気持ち悪いドロボウですわね、と悪態をつくティーラ。彼女でなくとも、そうしたくもなるだろう。 「観念なさい。今なら、蹴りでボテくり回す程度に留めて差し上げましてよ」 ボテくり回すのであれば十分拷問である。 何事かと見物している住民たちの中には、自分の下着を持ってる、と声を震わせるものもいた。 「ともかく、下着を返しなさい。ついでに監獄に送って差し上げますわ!!」 ビッ、と指を突き付けるティーラに、やんやと住民から拍手喝采が巻き起こる。 こうなりゃ撒いて逃げるか、と思っている自称にんけん。 しかし、敵(?)は、ティーラだけではなかったのだ!! 「お待ちください、そこのエルフさん。私の下着も‥‥多分、いや絶対、そのドロボウが」 女性開拓者が言いづらそうにもごもごと口を動かし、にんけんが手にしているぱんつを指さす。 要するに、加勢してボコります、ということだろう。 ボキボキと指を鳴らす開拓者達(と、ドロボウ)一体、どちらに軍配が上がるのか‥‥!! 正義は、ジルベリアの明日はどちらか。 |
■参加者一覧
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
天原 大地(ia5586)
22歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
蓬仙 霞(ib0333)
22歳・女・志
フィリー・N・ヴァラハ(ib0445)
24歳・女・騎
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●街中での騒動 謎の『にんけん(以下犬)』と、エルフの追いかけっこ。 当然街行く人は不思議そうな顔をし、それを目で追った。 逃げる最中も犬は周囲に目を光らせ 何を嗅ぎ付けたか店の中へ入ったと思うと急に出て、大通りや路地へ入って行ったりする。 「‥‥?!」 ジルベリア料理に舌鼓を打っていた蓬仙 霞(ib0333)も犠牲者の一人である。 突如、店に飛び込んできた『にんけんきぐるみ』は霞に近づき、右手をテーブルの下へ差し入れたと思うと、瞬時に去っていく。 (何だ‥‥?) 怪訝に思った霞だが――違和感を覚え、驚愕した。 犬の掌に『何か』納まっている! 真逆と思って太ももをすりあわせてみたが、風通しがいい。 もともと面積の少ないものだが、あると無いでは大違い‥‥そう。盗られた霞のぱんつは犬の手に握られている。 無表情だった霞の顔は、サッと血の気が引いて青くなった後、羞恥で徐々に赤く染まっていく。 「‥‥斬るものが一つ増えたか‥‥」 朱天を握りしめ、ゆらりと立ち上がった霞の――歩幅が小さかったのは‥‥諸般の事情である。 一方同じ頃。平穏はクレア・エルスハイマー(ib6652)の悲鳴で破られた。 「天原さぁん! 天原さんっ、大変です!」 「‥‥ん?」 天原 大地(ia5586)の視界には己を何度も呼び、血相を変え駆け寄ってくる愛しき恋人クレアの姿が映っている。 「どォしたよ」 当然何事かとクレアに聞くのだが、 「せ、洗濯物を片付けていたんですけど‥‥無くて‥‥」 はっきり言わずにもじもじと身を揺するだけ。当然大地は『何が』と先を促す。 「〜〜〜わ、私の‥‥下着が無くなっているんですっ! どこかで見た事ありませんか!?」 「ちょっとまて落ちつけェ‥‥下着ィ? ‥‥俺が知ってたらタダのヘンタイだろうよ」 うっそだぁ、どうせ見たこと有るんだろう、と突っ込みたいところだが、不粋なので止めておこう。 半眼になって恋人を見た大地は、それよりも、と徐に手を伸ばし、再び『天原さん』と呼ぼうとしていたクレアの唇に己のそれを重ねる。 「‥‥苗字呼びはヤメロっつったろ?」 何か妙に甘い雰囲気。しかし、『下着泥棒!』という声に霧散し――変わりにやってきたのは憤怒。 下着が無くなって、タイムリーにも下着泥棒が居る‥‥! もはや疑いなく犯人だろうという結論を出す二人。 同時に立ち上がって、戸口へ急ぐ。 「いくぞクレア、着いて来い!!」 「はい! 絶対に取り返します!」 ●犬、爆走。 見通しの良い道での逃走劇に出くわしたフィリー・N・ヴァラハ(ib0445)。ティーラたちとは反対方面から歩いてくる。 犬が拳騎士の姿を認めると彼女へ向かって疾走し、ティーラはその異物を指しつつ、声を張り上げ叫んだ。 「フィリー!! そのオッサン‥‥取り敢えずホールドしておきなさいな!」 無茶苦茶言うものである。 「‥‥よくわからないけど、とりあえずぶっ飛ばせばいいんだよねっ? オッケー、フィリーさんにまかせてよ〜!」 フィリーも怪訝そうな顔をしたが、良からぬ気配がしたので反射的にカウンターラリアットで迎え撃つ。 「無駄ァ!」 変態もシノビの技を遊ばせているわけではない。空蝉を使用し、犬は二人になった――が。 「ゴフォッ?!」 二人に見えても軌道座標は変わらない。 中心を外しはしたが、フィリーのラリアットは犬の顔面を捉え、そのまま石壁まで吹き飛ぶ。 「いい腕ですわよ、フィリー」 「えっへっへー。当然だよ、騎士だもん〜」 ティーラ、フィリー。フツーの騎士や魔術師は拳で戦ったりしないよ。 そこへ『返しなさいー』と言いながら走ってくるエルディン・バウアー(ib0066)が現れた。 「妹の下着と私のもふんどしを盗むとは何と不届きな! 神もお嘆きでしょう!」 こうも騒いでいれば弥次馬も湧いてくるのだが、妙な足取りで犬の後を追っていた霞も彼らの前に姿を見せる。 「エルディン‥‥? どうしたの、こんな所で‥‥え? 妹の‥‥? そ、そう‥‥」 どうやら霞とエルディンは知り合いらしい。事情を聴いた霞はなんとか平静を装う。 『あら神父』と、ティーラは自分の種族容姿を棚にあげつつ物珍しげに注視し、エルディンもにこりと微笑んだ。 「これはただの長い上着ですよ。お気になさらず‥‥と、貴女方も下着被害に?」 下着被害? とティーラの方を見たフィリーに、簡単に状況説明を施す。 霞は、フィリーやエルディンにも丁度いいので手伝って、と協力を求めた。 「――何だと?! 女性の下着を盗む、だと?! 許せん、変態め!」 犬に軽蔑の視線を投げかけぬうちから、妙に大きい声が後方から響き渡った。 振り返れば、騎士ラグナ・グラウシード(ib8459)が弥次馬より訊いた話を反復したらしい。 「不埒な奴め‥‥龍騎士の名に賭けて! 私が貴様を滅ぼそうッ!」 振り返りざま大剣を犬に突きつけ、かっこ良く決めたまでは良かったのだが―― 犬の大きな頭部から、ぼろっと女性物のぱんつが道に落ち、大事そうに拾った犬へ再びラグナは激怒した。 「拾うな!! 第一下着を盗んで! どうしようというのだッ?!」 「‥‥下着泥棒、ですってぇ? ちょうど探してたのよね」 海月弥生(ia5351)も盗まれたようだ。 その顔はいつも通り穏やかにも見えるが‥‥どす黒い凄みがあり、目は座っていた。 「乙女の下着に手をかける不埒な輩を許す訳にはいかないの」 弥生の怒りは相当なもの。いや、彼女だけではない。 ここに集まった皆はエルディンを除いて殺気立ち、人斬りの目をしている‥‥というのは大げさにしろ、近いものがある。 「――盗ったぱんつの使用方法を、聞きたいんかね」 着ぐるみから妙な厭らしさが滲み出て、形容しがたい気色悪さが開拓者たちの心中に広がる。 しかし、ラグナだけはその気色悪さを跳ね除け‥‥または元より感じないのか――真顔で反論した。 「大体‥‥下着などただの布に過ぎんではないか! 大切なのはむしろその中!その中だろうが!!」 着用中のぱんつの中‥‥。 ドン引きした開拓者たちの表情は固まり、特に女性陣の目はラグナとオッサン犬を見るのは同じ目つき。 しかし、ラグナ本人は意に介さず大真面目だから始末が悪い。 「そんなに下着が欲しいなら‥‥私のをくれてやるわ、この馬鹿者め!」 どこからとりだしたのか、所持品の褌と一緒に紐ショーツまでもを相手に投げつけた!! 「‥‥馬鹿は貴方ですわよっ!」 辛抱溜らず、ティーラのツッコミとニールキックが唸る。 「ぐわああっ!」 後ろにすっ飛ばされたラグナ‥‥をひょいと飛び越え、騒ぎを聞きつけた大地とクレアも加わる。 「私の下着をぉっ、返しなさぁい!!」 めらめらと怒りのオーラをほとばしらせるクレア‥‥と蹴り飛ばされたラグナに睨みを利かせる大地。 「‥‥なるほどねェ、おめェか」 「なっ‥‥私ではない! あれだ!」 あらぬ誤解を受けたラグナは否定しつつ犬を示す。 確かに下着を投げつける光景だけを見ていれば疑われて然りだが、 成程怪しいのが一匹。 集まった開拓者は、無言のうちにこの変態取り囲んでいて‥‥【ボコる】という前提で動きつつある。 ――ただ、先程からあまり気乗りしない感じのペケ(ia5365)を除いては。 (んー‥‥) 彼女自身下着を盗られたわけでもなく、人のためにと割りきろうにもやる気すら湧かない。 どうしようかなと思いながら、暫く様子見の状態である。 危機を感じ取った犬は立ち上がると無駄な美声でふふふと笑う。 「このにんけんを倒そうと目論むとは。お前たちの朋友だぞ。ん? 絆が下がるぞ? ん〜?」 尻をぷりんぷりん振りながら、犬は早速夜春で開拓者たちに謎の魅力を振りまき始めた。 「ッ‥‥! かわいい‥‥わけないだろう‥‥! な、のに‥‥ッ、何故か目で追ってしまう‥‥!」 変態の尻に釘付けとなり、絶望の声を上げる霞。 大地も懸命にクレアへの愛情で犬尻の魅力に対抗しているが、愛だけで乗りきれるほど現実は甘くない。 「なん、のっ‥‥! ク、レアァーーッ!!」 聞いているこっちが恥ずかしいくらいに熱っぽく恋人の名を叫び、気力で尻の魅力に打ち勝った大地。 感動したのか、クレアがちょっと涙ぐんでいる、気がする。 「お尻が汚い!」 嫌悪を乗せながら吐き捨て、弥生は瞬速の矢と即射を併用し、容赦なく犬目掛けて弓を引く。 変態とはいえ腐ってもシノビ。見切りか、勘か。素早い体捌きでひらりと躱す。 二本目には足元が引っかかったが、かすり傷程度だ。 「いけませんね‥‥目覚めよ、大地の聖霊。変態ワンコを戒めたまえ!」 エルディンは俊敏上昇後にアイヴィーバインドを発動させ、犬に向かって魔法の蔦を伸ばす。 すぐに抜けられはしたが、ある程度鈍らせることには成功したようだ。 「‥‥大地さん、頑張って! 我は駆ける砂漠の風!」 アクセラレートを大地に付与し、赤髪の男は素早く手裏剣を取り出して投げる。 「ふっははー! 無駄だよーん!」 犬はイラつく口調のまま手裏剣を腕で受けると、恋人の後方に隠れるように立っているクレア‥‥ではなく、 剣を構える霞に狙いを定めた。空蝉を使用し、地を蹴って奔刃術で突っ込んでくる!! 「待てぇー!」 フィリーも遠距離からオーラショットを放つが、実体ではなく残像を打つ。 「速‥‥」 焦りを感じた霞だったが、エルディンが霞を庇うように動く。 「やらせはしません! めくるなら私のカソックをどうぞ!」 献身も仕事のうちなのだろうか。ぶわさぁ、とご希望通り長いカソックをめくられる。 までは想定通りだが、下着も盗られるとは思っていなかった。つるんと鮮やかに奪われるエルディンの褌。 抵抗する間を与えず、霞の前垂れもめくり上げる。 謎の海苔が貼り付いてくれたとはいえ、彼女の、あられもない姿が――! 「‥‥!!」 その姿は見せまいと、大地の両目を素早く覆うクレア。 当の霞は精神ダメージが強く、屈辱のあまり何も考えられぬほど打ちのめされ‥‥その場にへたり込む。 エルディンは、カソックの前を押さえ『いやーん』と恥らっている最中だ。 弥次馬(特に男)からは大喝采。その声援に応えるように手を振る犬。 「バカ犬、チョーシこいてるとすり潰しますわよ‥‥!」 ティーラは変態を睨むとアイアンウォールを唱え、敵の真正面に出現させた。 大地に頼んで咆哮を使ってもらうと、フィリーは犬目掛けて突撃。 気配に感づいた犬だったが、移動しようとした先に弥生が矢を射って御し、肉薄したラグナが大剣を振りきる。 「そうはイカの、なんとかよォ!!」 犬は頭の中へズボリと手を入れて、苦無を取り出すと交差させて大剣を受け止める。 だが元々厚みと衝撃が違いすぎた。弾かれる前に、後方へ飛び退こうとして――風を切る音に気づいた。 「あたしから逃げよーたって、そーはいかないんだからねっ!!」 ダッシュの勢いを載せたフィリーの美脚が唸り、犬の延髄を捉える。 鈍い音と共に、宙を舞う無数のぱんつ。悲鳴と歓声が入り混じった声が彼方此方から上がっている。 「今だ! 焼けィ!! クレアッッ!!」 犬が倒れたのを機として大地が叫び、死になさいという意味を込めたような『ふふふふ』という低い笑いがクレアの唇から漏れた。 「燃え燃え〜‥‥きゅん!」 きゅん、の後にはハートがつく語調で、クレアは容赦の欠片もないエルファイヤーを食らわせる。 「ああっ、コレクション達が!!」 悲鳴を上げる犬。しかし、怒り心頭に達したらしく、怒気を纏って開拓者たちに向き直った。 「よくも‥‥許さんぞ! 精神が壊れるまで、お前らを変態世界にご招待だ!!」 冗談ではない。あまりにもぞっとしない布告に、戦慣れした仲間たちもたじろぐ。 犬が再び頭に手を突っ込んで取り出したのは――葱。 「な、なんだ、この邪な気は‥‥!」 ラグナが狼狽したように言えば、犬は一歩踏み込む。 「さらばだ! 理性と共に沈むがいいわぁーッ!!」 「――沈むのはキミだけでいいよ」 ダメージから復帰した霞が犬の頭部を持ち上げ外すと、鞘で変態の頭をぶっ叩く。 「痛いだろうがっ!」 どさどさ落ちていくぱんつの上に片手をついて文句を言う変態。 「危ないよな、確かに」 「ええ、死罪よね」 声が間近に聞こえ、恐る恐る振り向くと――笑顔で開拓者たちが変態を取り囲んでいた。 そこからは寄ってたかって殴る蹴る、時々魔法。 開拓者はかなり丈夫に出来ているので数日入院する程度で済むが、一般から見れば相当恐ろしい私刑に見えているだろう。 「あうあう、皆さん、待ってください。コレは下着ドロボウでしょう?」 見ていられなくなったか、ペケが慌てて犬と開拓者の間に割って入る。 「‥‥流石に正義振りかざして、ここまで攻撃するのは人としてNGってヤツです」 肩越しに振り向いてボロ雑巾のようになった変態さんを見ると、眉根を寄せたペケ。 やり過ぎ行為に若干非難の色が混じった。 やんやと喝采をあげていた人々も、しぃんと静まり返っていた。 「いくら志体持ってるったって限度がありますから、限度‥‥。 どんなに気持ち悪く生苦しい下着ドロにも五分の魂、と昔から言われているです!」 初めて訊きましたわとティーラが小首を傾げたが、尚もペケは皆を諌める。 「ここらで止めとかないと、逆に私らが人格疑われるです」 「なぁ‥‥それを見てもまだ言えるのか、おめぇ」 辟易したように大地がペケの後方を指せば、助けられた恩すら忘れたのか‥‥ ペケの褌の肌触りを頬で確かめる作業に没頭しているおっさんが一人。 「‥‥‥‥」 長い沈黙の後、ペケは徐におっさんの背後へ回り込み、渾身のジャーマンスープレックスを見舞う。 手をパンパンと払うと自分の褌をひったくるようにして奪い、変態を一瞥。 「‥‥はい終了、さっさと帰りますです」 すたすたとその場を立ち去っていくペケ。 「トドメを食らわせたみたいねー」 弥生が肩をすくめ、ティーラと眼が合うと苦笑した。 落ちている葱をどうするか迷ったようだが、着ぐるみの尻尾あたりに突き刺しておいた。 何故か、そのほうがしっくり来る気がする。 「‥‥世も末だ、人心も乱れている」 世を嘆く非モテ騎士ラグナ、その表情は暗い。 この世の安寧を神に祈りながらも、何故かさりげなく女性用のおぱんつを握りしめていた。 各自、自分の下着を見つけたようではあったが―― クレアだけは、探しても見つからず肩を落として家に戻る。 (‥‥あら?) 洗濯を干していた場所の影から、彼女が探していたものが見つかった! ホクホク顔で拾い上げてから、はっとクレアは口元に手を当てた。 (‥‥という事は、あのドロボウさんは‥‥) てへっ、と笑って小さく舌を出しつつ、クレアは再び洗濯を干し始める。 本日のジルベリアは、割と平和であった。 |