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■オープニング本文 ●ジルベリアにて カレヴィリア領の下級貴族、ヴャチェスラフ・キリエノワは頭を悩ませていた。 息子のユーリィは騎士団長としてしっかり職務に励んでいるし、貴族であるという自覚もしっかりしている。 彼を悩ませていたのは、息子ではなく娘のほう‥‥クロエのことである。 何処へ出しても恥ずかしくないように躾けたはずなのに、最近のクロエときたら精神的に逞しくなってしまった。 テーブルに落ちたものは平気で食べてしまうし(彼女曰く『3秒以内は大丈夫だ! フーフーすると食べられるらしい』とか) いつも同じ外套を羽織っているし(彼女曰く『汚れても良い服装で行くのが依頼の鉄則なのだ』らしい) 外で開拓者と一緒にご飯ばかり食べている。それは別に悪くない。ただ、家が寂しいだけだ。 そして何より辛いのが―― 「父上。先日の見合い話だが、断ってきたぞ」 さらっと当たり前のように答えるクロエに、ヴャチェスラフは怒りよりも悲しみでこめかみを押さえる。 「なぜ断った。お相手は中流貴族だぞ?」 「あの男、家の自慢話しかせぬ薄い男だ。まだ武器屋と話している方が楽しい」 確かにお相手は代々続く家柄のことを誇りに思っていたようだが、こうもあっさり言われると失笑してしまいそうになる。 先方もさぞや呆気に取られたろう。 「その前も‥‥いや、その前の前も断った気がするな、クロエ」 「うむ。この前の貴族は剣術がからっきしなのに強いと誇示していたのが我慢ならぬ。私より弱かったのだ。 そしてその前の前‥‥妙に身体に触りたがるのが気持ち悪くてな‥‥つい引っぱたいて説教してしまったら、帰れと言われた」 中々兄上のように強くて立派な男はおらんな、と自分の兄を褒めちぎっているが、これだけの事をしておいてキリエノワ家が貴族からの圧力を受けぬのは奇跡としか言いようがない。 ヴャチェスラフの胃はキリキリと痛む。もう頭も胃も痛い。 「クロエ、お前ももう年頃だろう。見合いをかたっぱしから断るのは‥‥恥ずかしいと思わないのか」 「私とて、いずれ政略結婚もあるやもしれぬ‥‥とは思っている。しかし、優秀なものが身近にいると、その意思は霞んでくるのだ父上! 兄のような男でなければ、私は結婚しなくても良いな」 クロエは割とブラコンで、ユーリィが大好きだ。しかしながら、ヴャチェスラフはそれで収まらない。 いくら血はつながってないとはいえ『そうかそうかハハハ、ユーリィがいいかー、クロエはお兄ちゃん子だなー』とはシャレにならなすぎて冗談でも言えぬからである。 「‥‥クロエ」 「何だ?」 「開拓者のお嬢さんたちと、よーーーく恋愛や心得について話し合う機会を設けておくといい‥‥」 そして、疲れたといってフラフラと自室に向かってしまった。 ●後日 酒場にて 「――という話があった。父上は妙に疲れていたが、平気だろうか」 酒場でマッシュポテトとローストした肉をフォークでつつきつつ、クロエが不思議そうに呟いた。 「‥‥クロエさんのような自由な娘さんを持つ親御さんは、大変そうですもんねえ」 うまくはぐらかす言葉が見つからないらしく、酒場の看板娘は あはー、と適当に笑った。本当に適当すぎる。 「そうねぇ。こんなクロエさんのために、女の子同士集まってトークも楽しそうだよねぇ」 本音も聞けるし惚気も聞けるし。と、酒場の娘さんのほうが眼をキラキラさせている。そういう話は好きなようだ。 「最近戦い続きでしょ〜? 女の子だって買い物したり、リフレッシュする休息が欲しいもんだよ。うん、絶対そう」 ていうわけで、クロエさんの女子力アップに協力させてもらいましょうー! と、仕切り始めたではないか。 鼻歌交じりで依頼書を取り出し、さらさらと文を書いていく。 『女の子同士で暴露トーク! おもいっきり楽しんだモン勝ち☆ 参加お待ちしています〜』 |
■参加者一覧
玖堂 真影(ia0490)
22歳・女・陰
玖堂 柚李葉(ia0859)
20歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
針野(ib3728)
21歳・女・弓
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
華角 牡丹(ib8144)
19歳・女・ジ
愛染 有人(ib8593)
15歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● 「外は寒かったろう、よく来てくれた!」 屋敷にやってきた面々を、クロエは笑顔で歓迎する。使用人たちにも深々頭を下げられファムニス・ピサレット(ib5896)はつられて会釈を返していた。 美しい女性ばかりだなと嬉しそうなクロエの父親の言葉は天河 ふしぎ(ia1037)や愛染 有人(ib8593)には聞こえていなかったようだ。 クロエらは階段を上がり、自室へと誘う。 「挨拶が遅れましたけど‥‥初めまして、陰陽師の玖堂真影です。今回は宜しくお願いしますね――こっちは大親友の柚李葉ちゃん」 玖堂 真影(ia0490)が微笑みながら隣にいる佐伯 柚李葉(ia0859)と自分の紹介をし、柚李葉もよろしくお願いしますと頭を下げる。 各自軽い挨拶を交わし合い、楽しみにしてきたんだと微笑むふしぎが可愛らしくて、クロエも嬉しそうな顔をする。 「寝しなにおなごで集まって恋の話なんて、素敵でありんすなぁ‥‥」 和風美女、華角 牡丹(ib8144)は布団を踏まぬよう避けながら奥へと歩く。 「私もこんな風に、女の子なお話するの初めてだから‥‥ドキドキするなぁ」 フェンリエッタ(ib0018)は、鞄から部屋着がわりのパジャマを取り出しつつ、楽しそうな様子だ。 「しかも、こういう機会もなかなか無いし。夜通しお喋りさー♪」 針野(ib3728)もこくこくと頷きながら、クロエからクッションを受け取りポフポフと掌で柔らかい感触を楽しんでいる。 「僕もジルベリア風の寝間着持ってきたんだ!」 ふしぎも鞄から取り出し広げて見せる。レースがあしらわれた長袖の寝間着は女性物なのだが‥‥どうやら店の人も間違えたのだろう。 しかし、一部の女子は『可愛い!』と、ふしぎの持ってきた服を見て女子特有のキャッキャワールドを展開している。 「‥‥今回の御呼ばれは、夜を徹しての女子トークがてらのお泊り会という事なのですね‥‥」 杉野 九寿重(ib3226)が漸く納得したように呟き、有人はといえば、ふしぎとは対照的に硬直したまま自前のお泊りセットを凝視していた。 相棒の羽妖精から、『先輩開拓者の方々から色々なお話を聞けるので行ってみては?』と依頼の詳細を聞かされずに諭されやってきたものの、まさかガールズトークだったとは‥‥! ショック醒めやらぬまま、とりあえず楽な格好をと鞄から出せば――妖精より手渡されていた寝間着は女性物だった。確かめなかったが、普通は女性物を渡すとは思うまい。 (‥‥あの残念妖精はボクに何を求めてるんだろう‥‥) 「――有人姉さま、緊張されてるの?」 頭を抱えたくなっていた有人へ、人懐こい笑みを浮かべたフレス(ib6696)が赤いネグリジェを手に抱えながら有人の様子を見つめている。 姉様ではないと言おうとしたが、クロエが早速着替えようとしている姿が目に入ったので、さっと視線を背け、発言の機会を失う。 「ジルベリアの夜着って可愛いのがあるんですね。皆素敵‥‥」 かくいう柚李葉の寝間着も、レースやリボンがついた女性的なものである。色違いを真影と着ていることから、お揃いで買ったようだ。 「ふふ、歳も近い子が多いし、歳の小さい子も禿(かむろ)のようで‥‥かいらしいわぁ」 その場でくるっと回ってみせる柚李葉の様子に、はんなり微笑む牡丹。しっとりとした動作や物腰は、女性の色気を感じた。 「寝間着は、やっぱり皆はんジルベリアの寝間着でありんしょうか?」 牡丹がそう聞けば、九寿重が私は浴衣ですと答える。 「わっちはやっぱり着なれた前結びの寝間着が一番でありんしょう」 洋風の寝間着もちょっと気にはなっていたようだ。クロエが貸そうかと声をかければ、気にしないでくんなましと艶やかに笑う。 真影の調香した薫物を空薫にして、ついに乙女会話が始まった。 ● 着替え終わったらしいクロエがまずは縁談のことや自分の心境を説明する。 「ん‥‥縁談を断るクロエさんの気持ち、解るなぁ」 「やっぱし男の人って頼りがいがあって、優しくて強い人がいいと思うんだよ!」 猫耳フードのついたチュニックパジャマが可愛らしいフェンリエッタが、小さくため息をつきつつ頷く。フレスも強く賛同した。 「確かに『家の結婚』だけど、人生を共に歩む相手。せめて愛する努力をしたい、と思える人じゃなきゃ嫌」 それには、クロエも同意なようだ。 「うむ。家柄や顔をどうこう言っているわけではないのだ」 そうは言うが、自分を磨く術も必要だろう。しかしそこには触れず、フェンリエッタはやや表情を曇らせる。 「‥‥母も縁談を勧めてくれるんだけどね。嫌だといっても、子の幸せや良縁を願うのは親心だし、心配や迷惑はかけたくない」 そこにはクロエも思う所があるようだ。眉を寄せて俯いた。 「あ、でも、もう開拓者になって家を出てるし、その辺は全て丁重にお断りをしてる‥‥だって、好きな人、いるもの‥‥私が一番に幸せを願う大切な人」 ふわもこ靴下の裾を上にあげて、フェンリエッタは噛み締めるように呟いた。 「‥‥辺境伯に片想いだなんて、分不相応だし笑われちゃうかな‥‥色々な『距離』が遠い片恋はとても、つらい‥‥」 悲しそうな呟きに、思わずぎゅっとクッションを握りしめて目を潤ませるファムニス。 「そんなことはないんだよっ! 恋する心に身分は関係ないよ!」 ずいっと身を乗り出して、フェンリエッタの手を握ったフレスは力強く言い切る。 「ありがとう。でも、後悔はしてないの。生涯愛し続けたいと思う人に出会えた、その喜びや幸せは私の宝物だから」 微笑んだフェンリエッタの表情はとても綺麗で。クロエは少しばかり見惚れ、ふしぎの言葉に我に返った。 「――もちろん上手くいかなかったり、異性と楽しそうに話してるのを見て、心が痛くなっちゃうこととかもあるよ? 恋仲になっても恋人同士で居続けることも難しいんだけど‥‥でもね、クロエ。やっぱり誰かを好きになるのって、楽しいよ」 「そ、それで‥‥――早速だが、恋とはどんな気持ちなのだ?」 興味や期待を向けてくるクロエ。しかし、恋というものはそんな一口で語れるものではない。 「うんとね、恋してる時って、その人のことを想っているとなんだか幸せな気持ちになれる‥‥そんな感じ、かな」 胸に手を当て、朗らかな表情を見せるふしぎ。うん、普通に美少女として見える。気づいた真影はニマニマしつつも指摘しない。 「恋‥‥うん、好きな人、かァ‥‥」 針野は柔らかい表情をし、枕を胸に抱く。 「‥‥わしも一応、お付き合いしてる人がおるんよ。クロエさんとおんなじ、騎士なんだけど」 相手のことを思い浮かべながら、針野は頬を染めてとつとつと語る。 「一年前の今頃は、自分が誰かとそういう仲になるなんて思わなかったんよ。 恋をしよう、恋しなきゃって‥‥感じで恋仲になるんじゃなくて、自然と恋に落ちて恋仲になった、みたいな」 彼女の話に共感できる部分があるのだろう。ふしぎや柚李葉は目を輝かせ、牡丹は優しい表情で頷いている。 「そういった、ほわっと、こう‥‥湧き上がる気持ちが、恋、なのか‥‥?」 なんとなくだが、と腕を組むクロエ。 「まことに、恋は魅力的でありんすねぇ」 くすくすと笑った牡丹。切れ長の瞳で皆を見つめ、恋の話なら、わっちの出番でありんすな。と囁く。 「わっちに任せなんし。なんせ廓は恋の町‥‥。花魁の手練手管、皆はんにはこっそりおしえてさしあげんしょう? ‥‥例えば、男性が好む仕草、とか、ね?」 伊達に毎日男と歓談してませんからなぁ――と、色のある女性らしい仕草をすれば、きゃっきゃとはしゃぐ女性陣。 恋をすると女らしさが生まれるものなのだろうか。 「貴族として振舞うことが出来ぬわけではないが、開拓者として生活していると、だんだんそれが窮屈でな‥‥」 つい、自覚が薄れる。そうクロエがぼやくと、真影が肩をすくめた。 「あたしも狩衣を着て走り回る方が性に合う‥‥とはいえ貴族の姫としての嗜みは一通りあるし、家事も人並程度に出来るわ」 多少なり名の知れた貴族令嬢なら尚更女らしさも問われる。己が良くても氏族の恥となる事もあるとやんわりクロエ嬢へ進言。こく、とフェンリエッタも頷いた。 「そう言えばクロエの境遇は私と似通ってますね」 「ほう、コズエも‥‥?」 こくり、と頷く九寿重。 「クロエにユーリィ様が居られる様に、私にも母方の伯父様の息子である七つ年上の兄様が居るのです」 礼儀正しく剣の実力もあり、評判や家柄も良いという。 「幼い頃から面倒を見てもらい、優しさと厳しさが相まった指導を受けたこともあって、本当に憧れる存在‥‥そういうこともあり、異性を見る目は兄様以上ではないと」 「最初に見る異性が、大きな影響を当てることもあるんですね‥‥クロエさん、一献いかがでしょう♪」 と、有人が純米酒を持ってクロエにも注いでくれる。 「アルトには、そういう経験はないのか?」 「え!? あ‥‥そりゃ、周りからはちやほやされますけど‥‥っ」 急に話を振られて、あたふたする有人。そんな初々しい反応を返してくる有人がかわいらしい。 「では、その。皆が好きになった人との‥‥きっかけ? などはどうなのだ?」 どこで知り合っただとか、そういうことだ――といいながら、言葉尻を濁して酒を口に運んだ。 「わっちには間夫‥‥あ、こちらでは恋人、と仰るんでありんしたっけ? 恋人はおりんせんが、誰かいはるんやろか‥‥?」 「氏族の当主を継いだと同時に婚約したんだけど‥‥その時の話をしようかしらね」 真影が、柚李葉から柚子皮入りの葛粉を受け取りながら口を開く。 「――相手は嘗て己の愛妾候補だった父の側近なの。 氏族では未婚女子が当主になる場合、氏族選出の愛妾を持つのが掟‥‥その掟を廃止すべくあたしはクーデターを起こし、父から家督を奪ったってわけ。 その最中、協力者でもあった愛妾候補と恋仲になり正式に婚約したのよ」 話し終えると、おお、とかすごい、という言葉が上がる。 「劇的なんだよっ‥‥!」 フレスがぱちぱち、と手を叩いているので、有人も一緒に拍手する。 「柚李葉ちゃんはどう? あ、彼女はね、あたしの双子の弟の‥‥恋人なんだ」 真影は前半を柚李葉に話しかけ、後半は皆に説明した。 「わ、私の‥‥恋人、は。素敵な、優しい料理上手の若君さまで‥‥」 説明している間に、顔がみるみる赤くなる。 「自然に手を繋いでくれるのが、最初は恥ずかしかったけど内心とても嬉しくて。真っ直ぐな瞳で私を見つめてくれたり、側に居てくれる事が、今はとても安心して好きな時間‥‥」 甘酸っぱいような惚気に、針野が笑みを浮かべる。つられて柚李葉は含羞むと、葛湯を一口飲んで落ち着く。 「‥‥何時も気持ちの歩幅を合わせてくれて。私、応えるばかりで‥‥何をしたら伝わるかな、喜んでくれるかなって考えて‥‥だから同じ様に何か出来たら嬉しいな、って思います」 柚李葉が話し終えると、ファムニスは大きく深呼吸して、愛する人への気持ちを皆に吐露する。 「私の好きな人は、常に自信に満ち溢れ、明るく真っ直ぐで情熱的。まるで行動力の塊の様‥‥あんな風になれたらな、っていつも思ってます」 眩しいです、と言いつつ、告白された時を思い出す。 「そんなあの人が私に『好きだ』って。耳元で『愛してる』って‥‥」 有人のほうも顔を赤くして『そ、それで‥‥どう言ったの?』と、その先を促してしまう。 「そう言われた時は信じられなくて‥‥真っ直ぐな瞳にじっと見つめられたら、ああ本気なんだ、って分かって‥‥」 私は全てを捧げてもいいって思‥‥これ以上は駄目ですー! と、可愛い悲鳴をあげて枕に顔を埋めた。何か凄く妄想を掻き立てられる終わり方に、フレスは頬を赤くし、針野は身悶える。 「ぎゅーって抱きしめてもらうこととか、ええよね。なんかこう、安心するから大好きさね」 針野はぎゅっと枕を相手に見立てて抱きしめ、ファムニスも頷く。 「恋多き人で、たまにしか会えませんけど‥‥私の中にはいつもあの人がいますから、寂しくなんてないですよ。愛されてるって、心から感じてますし、素敵な『女性』に巡り合えて幸せだって思ってます」 照れまくるファムニス。クロエは頭に疑問符を浮かべ、暫し考えた。 「そうか。男性かと思ったが、女性ともそういう出会いはあるやもしれん‥‥参考になった」 「‥‥でな、うちの彼。 普段クールっちゅーか、ぶっきらぼうなトコがあるんだけど、驚いた顔や、照れた顔が可愛いんよ〜‥‥んなモンで、つい不意打ちでいたずら仕掛けたくなっちゃうんよねー! 次はどう驚かせようかな、って密かに考え中なんよ」 どんなのあるかなァ? と相談を持ちかける針野。フレスに向き直ると、来月にチョコと一緒に何かプレゼントを贈ろうと思っているので、今思案中の路線はどうか占って欲しい、とお願いする。 「恋占いも久しぶりにしんすが‥‥皆はん、良い結果が出ると良おすなぁ」 牡丹もこういうものは好きなようだ。皆の占いたい事柄を真剣に聞いて、占っていくフレス。 「ふしぎ姉さまは?」 「じゃあ新しい出会いを‥‥って、いつもそんな目で女性を見てばっかりじゃ、ないんだからなっ!」 頬を赤くしつつ『それに姉様、じゃない! 僕は男だーっ!』と言い、そこに素早く便乗して『僕もです!』と有人も告白した。 牡丹や真影は見抜いていたようだが、絶句するファムニスや柚李葉。そこでまた二人の男の娘は慣れているとはいえ互いの境遇を慰めあう。 そんな乙女たちを見つめながら、クロエはふと思う。 自分に、こんな話を振る時が来るだろうか。 でも、きっと―― 「恋とは。人を想うのは、素敵なものなのだろうな‥‥」 ぽつりと漏らす言葉に、フレスがにこりと笑いかける。 「最後は自分の芯に響く男が一番なんだ、って母さまは言っていたよ‥‥私にはまだよく分からないん、だよ? ホントだよ!」 一瞬誰かを思い浮かべそうになったフレスは、ふるふると頭を振った後ごまかして笑う。 そして、クロエには『自分の意志を貫くべし』というアドバイスも行う。クロエもそれに頷き、愛い奴だなぁとついフレスを抱きしめる。 「あのっ、クロエさん‥‥お相手は見つけようと思って見つけるのは難しくて。でもクロエさんを好きになってくれる人は必ず居ると思います‥‥!」 柚李葉は懸命に、かつ頑張って伝えてくれる。そんな彼女の肩に手を置きながら、真影はにこりと笑った。 「恋は古い字で『戀』と書く‥意味は『糸(愛)し糸(愛)しと言う心』‥正にその通りだと思うわ」 真影が言うと、ファムニスが頬を押さえつつ納得したような声を出す。 「素敵なご縁がありますように♪」 フェンリエッタがクロエに言えば、銀の乙女は『同じ名の一部を持つフェンリエッタには是非に、愛の女神の加護があるように』と笑った。 |