【初夢】14の季節
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/17 01:36



■オープニング本文

※注意
 このシナリオはIF世界を舞台とした初夢シナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。

●崩壊する理(コトワリ)

 こんにちは、御神本 響介です。
 突然ですが、僕の話を聞いて欲しい。
――貴方がたは、世界というものにも【軸】があるというのをご存知でしょうか。
 その軸は決して交わること無く、数珠のように連なり、隣り合わせにも連鎖している。
 互いの世界を知ることもなく、僕らは僕らの世界を唯一無二として疑うこと無く過ごしてきました。ですが突如、世界軸が歪み――世界が【出会ってしまった】とすれば、どうでしょう。
 世界は変わり、常識が通じない。しかも恐ろしいことに、自分がゆっくりと狂い始める、それが理解できた時の苦しみというのは計り知れません。
 しかし、僕らは生きていかなくてはいけない。そして幸運にも、僕らには環境適応能力というモノが発達している。
 そんな世界と僕らは出会ってしまった以上、受け入れて生きていかなくてはならないのです――

●これが俺の世界よ‥‥!

 街には見たこともない高い建物。鉄の鳥が空を飛び、服装も防御のことを考えたものではなく、機能性やファッション性を重視したものばかり。
 こんな無防備な場所で、蟻の大群のように人々はひしめき、何処かに向かって歩き始め、鉄の箱に乗っていく。
「なあ、この世界はどうなってるんだ‥‥?」
 街の名はアハバラキ。世界有数の電脳街らしい。ぎらぎらと野卑に光るネオンを見つめ、開拓者の一人が不安そうに仲間へ言葉を投げかけたが、誰一人として答えてはくれない。
 皆一様にして戸惑い、狼狽えているからだ。
 しかし、幸か不幸か。変貌しきってしまった世界にも、開拓者ギルドというものがまだ――たった一軒存在していた。
 彼らはそこへ助けを求めるように転がり込み、身を潜めている。
 何しろ、変貌した世界には獣人は居ない。修羅も居ない。エルフもいない。勿論‥‥志体なんか、誰もない。
 異端の烙印を押される辛さを理解している彼らは、姿を消すしかなかった。
 だが、技術というのは凄いもので、宝珠を加工したブレスレットが秘密裏に開発され、音声とコードによる識別で一般の人間と同じように擬態することが可能になった。
 その間は志体の効果も抑制され、耳や尻尾といった特徴すらも消えている。これで誤魔化して暮らすことができる、と一同が胸をなで下ろした時のこと。

「調査の結果、このアハバラキ内にアヤカシが潜んでいるようです。一般の人々がその毒牙にかかっています。
 これ以上被害を広めないためにも、開拓者としてあなた方の力をまた、私達の世界だったのと同じようにお借りしたい」
 このとおりです、とギルド員が頭を下げる。困惑した表情で周囲を見渡す元開拓者達は、既にこの世界の服装に身を包んでいた。
「‥‥構いません。僕らは、未だギルドに『身分保障』『技術提供』『住居』を受けている身です。そして‥‥『依頼選択』の自由もまだ与えられていると考えて宜しいですね?」
 黒髪の男が、そう訊いた。何故か燕尾服なのは気にしなければ、普通の人間である。
「はい、勿論です。強制ではありません」
 ギルド員も素直に肯定し、討伐に名乗りでる方は居ますか、と尋ねた。
「私がやろう。アヤカシの討伐は我らが定めゆえ‥‥」
 メイド服姿の銀髪の娘が一歩前に進みでた。確か、名をクロエという。先ほどの執事は、響介といった。
 その他、数名が次々に名乗り出て、ギルド員はもう一度深く頭を下げる。
「ありがたい事です。それでは、依頼内容を説明致しましょう‥‥こちらへ」
 促されて通された別室で、ギルド員はアヤカシの討伐において必要なことを説明した。
「アヤカシとの戦闘前に、まずは必ずブレスレットで擬態を解きます。そうしなければ、貴方がたのスキルや能力は発揮できません。
 そして、このアハバラキは何処に行っても人が多いのが辛いところ。ですが、その‥‥よく理解し難いのですが『萌え』たる未知の感情を大事にする風潮があります。
 その『萌え』には寛容で、貴方がたが例え擬態を解いたとしても『撮影中です』といえば何の違和感も示さないでしょう。ただ、一般人に危害を加えさせぬよう取り計らってください」
「わかりました。僕は陰陽師です。結界の発動を許可していただけるなれば」
 許可します、と即答されたので響介は大きく頷き――ギルド内に警報が鳴る。
「アヤカシが二体出ています! いずれも人型で戦闘力も高いです。討伐者は注意してください!!」
 出たな、とクロエが立ち上がり、地図を掴んでかけ出した。後に開拓者と響介が続く。


 ギルドから鉄箱‥‥(デンシャというらしい)乗り物の乗合所‥‥(駅というらしい)にたどり着いた所で、全身が緑色の人型と、黒の人型が一般人を捕まえようとしているのが目に入った。
 響介は身を屈めつつ懐から銀のナイフを指の間に挟んで引き出し、人型目掛けて投擲。擬態を解いていないので人型に刺さることはなかったが、注意を向けることはできた。
「怪しい人型め‥‥! 呼びにくいから怪人と呼ばせてもらうぞ。汝らの相手は、私達だ!! ――アウゲン・ブリック・リッター!!」
 解除コードだろう単語を叫びながらブレスレットに触れたクロエは、一瞬にしてメイド姿から深緋(こきひ)色のロングジャケット姿の――懐かしい騎士の姿へと変わっていた。
 剣を構え、切っ先を怪人に向けるクロエの姿に、一般人からどよめきとシャッターの音が響く。
 怪人は雄叫びを上げつつ、銃を向けて響介へと狙いを定め、トリガーを引いた。
「――無上霊宝!!」
 響介も凛々しく応えながら、瞬時に擬態を解いて――左に飛ぶ。
 背中には、大きく広げられた漆黒の翼と羽ばたいた折に舞い散る羽根が降っている。
 ギャーッと遠くで、大きいお姉さんの萌え声が聞こえたが、構っている暇はない。
 ギルド支給の結界珠(宝珠の一種。決まった呪文で結界が発動できる)を引きちぎり、散らすと呪文を唱えて結界を発動させた。
「いきますよ、皆さん。ああ、そこの変な札は立てておいてくださいね」
 と、倒れたままの『撮影中』の札を指さした。


■参加者一覧
レイシア・ティラミス(ib0127
23歳・女・騎
フィリー・N・ヴァラハ(ib0445
24歳・女・騎
美郷 祐(ib0707
27歳・女・巫
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
リリアーナ・ピサレット(ib5752
19歳・女・泰
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●ヒーローショー!

「うわ〜、人がいっぱいいるね〜。あたしのこの鉄拳が唸るよ〜っ」
 フィリー・N・ヴァラハ(ib0445)が嬉しそうに周りを見渡し、まずは擬態の解除をと翡翠の腕輪に念じていつもの服装に。
「なんとも不思議な場所ですね、ここは‥‥」
 サラファ・トゥール(ib6650)が若干戸惑い気味に辺りを見回す。同じように、困惑している美郷 祐(ib0707)は立て看板を取り縋るように持ちながら、そっとスタンドに立てた。
「すみません、すみませんっ。失礼致します。あの、お願いですからこれ倒さないでくださいね?」
 祐の哀願に、最前列のギャラリーもおどおどしながら頷く。そんなにお願いしなくても大丈夫だ。
 それもそのはず。アハバラキ駅前の広場は、幾重にも人垣が形成されていた。
 そのいずれも大きいお友達こと、お兄さんお姉さんがひしめき合っているからである。大多数はお兄さんではあるのだが、その熱視線の先には――
 フィリーや九条・亮(ib3142)のオッパ‥‥名称を出すのも憚られそうな、ロマンの塊がぼいんぼいん揺れている。
 もうお兄さんの頭の中と、青い鳥がマスコットの一言掲示板には『081祭り』『けしからんもっと081を!』といった、興奮さめやらぬ書き込みが相次いだ。
「では、参りましょう‥‥ケトム・タフリール!(封印解放)」
 そうとも知らず、擬態解除したサラファの姿に一同騒然となる。
 バラージドレスは足や胸は隠しても、お腹や腕は丸見えで、そこはかとなくフェチ心をくすぐっている。
 何より、獄界の鎖‥‥言ってしまえば鞭。きりりと引き締まった表情に、露出のそこそこ高い服、そして鞭。
「女王様キタコレ」
「踏んで!」
 まったくもって落ち着きのないギャラリーである。サラファも妙な顔をして首を傾げる。

「――はっ! 怪人! 大変なのですー!」
 人垣の間から怪人を見たグルグルメガネのリリアーナ・ピサレット(ib5752)を発見したが、ピンク色のメイド服姿はなにかだらしがない。
「怪人も大変、でも、綺麗な絵のカラーコピーをウン十万円で売っておかないと、また店長にお仕置きされちゃいますぅ‥‥」
 割と恐ろしい商売をするものだ。あわわ、はわわと慌てつつも、リリアーナは人の間に入っては押し戻され、じわじわ内側へと進んでいく。
 しかし、結界が邪魔で入れない。そして、数分後――
「我、将に璧を全うせんと欲する者なり!」
 という声が人垣の間より聞こえた気がした。

 今更なのだが緑と黒の怪人、どうやら会話が出来ない。『ヒー!』『ハー!』と、なんか気が抜けそうな掛け声は出る。
 撮影中と偽っているが、実際怪人たちが本気を出し、結界がない状態で一般人が攻撃されたら、あっけなく事切れてしまうのだ。
 それを知るはずもない観衆は騒いで楽しんでいる。
「この世界に来て素敵な事。素敵な歌をしれた事。ボクらが守る人をもっと知れた事。守りつつも、守られてるって事を知れた事。だから。もう――、何も怖くない!」
 蒼井 御子(ib4444)が擬態を解除。なんと頭から狐耳が!!
「愛と平和と歌の下に! 行くよ!」
 ぽろろん♪ と御子は竪琴を軽く鳴らす。

「キャストオフ!!」
 亮の擬態が解除されると、シャッターチャンス到来。バシバシとフラッシュが焚かれはじめた。
「うう、微妙に不合理さは感じますけども‥‥だからと言って私達がここに居る現実は変えられません」
 お嬢様っぽい清楚なワンピース姿から、魔法少女っぽいフリフリミニスカ変化。自前の耳と尻尾がアクセントとなっている杉野 九寿重(ib3226)も、耳を伏せつつ周りを見渡した。
「フラッシュ撮影なんて試合中はしょっちゅうよ? 慣れたけど‥‥今日は面白い相手もいるみたいだし、派手にやっちゃいましょうか――目覚めなさい、イノセントフレイム!」
 擬態を解除しレイシア・ティラミス(ib0127)がフィリーに視線を送る。二人共この世界では、女子プロレスの団体に所属し、所属は違えどベビーフェイス(善玉)のエースとして活動しているのだ。
 081祭りの会場にレイシアやフィリーがいるという点で、プロレスファンは大喜び。既に興奮して『アーイーアン! アイアン!』と叫ぶものまで出ている。

 紹介が済むのを待っていたのか、いきなり緑怪人がレイシア目掛けて襲いかかってきた!
 フックを見切り、身を屈めて回避。拳は空を切り、フィリーがブラインドタックで緑怪人の死角から近づいて大外刈りで投げ飛ばす。
「――いいタイミングじゃない? 最近はずっと戦ってばっかりだけど、たまには一緒に戦うのが良いわね。ヴァラハ、どう? タッグ組まない?」
「普段はライバルでも、こういう時は別だよねー。うん、オッケー! そいじゃ‥‥こいつらをぶっとばすよ〜っ!」
 ゴールデンタッグにファンは沸き返る。その歓声を心地よく受け止め、二人は緑怪人へと突撃。

 黒怪人には、クロエと九寿重が足止めのため剣を振るう。
 しかしこの黒怪人、割と強い。何かの拳法を使用し、妙に攻撃にキレがある。
「くっ‥‥! 赤手空拳、こうも難儀するとは‥‥!」
 私は泰拳士とも戦ったことがないものな、と残念そうなクロエの腹部に黒怪人の飛び蹴りがヒットし、クロエは呻く。
『騎士子危ねぇ!』『女の子蹴るな!』とブーイングが飛んで、非常にアウェイな展開もなんのその、怪人はもう一撃食らわそうとした所で――

 カツッ!

 地面に突き刺さる深紅の薔薇。ひらりと一枚花びらが散った。
「――ドジッ子メイド、リリィは仮の姿‥‥」
 何処ともなく聞こえる凛とした声。
『ヒー!?』『ハー!』
 誰だ、とか言ってるのかもしれないが、声が甲高いので緊迫感が何もない。
「あ‥‥あそこを見ろ!」
 野鳥の会とかかれた腕章をつけた一般人が目ざとく指す。結界内なのだが、建物の上に人影――執事服姿で佇むリリアーナがいた。
 長い髪は首の後ろで束ねられ、ぐるぐる眼鏡はシャープな縁なし眼鏡にと変わっている。 
「完璧執事、リリアーナ・ザ・パーフェクト。推して参ります」
 ハッ、と短い声を発し、完璧執事リリアーナは結界ぎりぎりにスタッと着地。
「お嬢様方、危のうございますから下がっていてくださいね‥‥?」
 女性の観客たちに流し目をしつつ、光沢のある声で注意を促しただけなのに、数人がふらふらと倒れる。怪人の前に一般人がやられた。
「あっ‥‥、だ、大丈夫ですかっ? お気を確かにしてくださいね‥‥」
 祐が倒れた女性への気遣いを見せるのだが、響介が彼女を呼び止める。
「美郷さん、そろそろ擬態を。そのままでは防御もままなりませんよ」
 言われた祐は、ハッとしたように己の状態に気づき、小さく頷くと仲間と怪人の方へ向き直る。
「‥‥よろしいでしょう、あがくならば理の構築の向こうへと去って戴きます。精霊よ、私に悪を退ける力を!」
 厳かに告げながら両腕を天へと掲げ、手にしていた結界珠を引き千切る!
 ワンピース姿から、巫女装束へと変化した。赤ではなく竜胆色の袴が高貴な感じを出している。
「巫女さん!」
「まじ巫女!」
 オタ‥‥ではない、観衆から歓喜と興奮の声ミココールが上がる。職業が『巫女』の祐はビクリと後ろを振り返り、名前が『みこ』の御子は『ボク?』と困惑し、
 あだ名が『ミコさん』の響介は僅かに反応したが自分ではないと理解するとそれらの声を意識的に遮断した。
「ともかく、真実へ踏み出そう‥‥ってね! 一気に行こうか!」
 激しい曲調、剣の舞をかき鳴らして攻撃補助を行う御子。
「力がみなぎってくる‥‥我が身、すでに鉄なり。我が心、すでに空なり。‥‥‥‥天魔覆滅!」
 亮が黒怪人を指し、処刑宣告とも取れる口上を述べ、身体の柔軟なバネと瞬脚を生かして駆ける。
 瞬時に黒怪人の右後方に接近。気づいた黒怪人が裏拳を振るうも、そこに亮は居なかった。
「援護します‥‥マノラティ!」
 サラファが獄界の鎖を黒怪人の手首へ絡みつけ、引っ張る。
 バランスを崩した怪人の胴を狙い、既に反対側に回った亮が拳を握る。
「――ボディが! がら空き!! 隙だらけだぜっ!!!」
 胴から肩へ。空気撃も併用して叩きこむ。ずしゃっと転倒する怪人。

 一方、緑怪人を相手にしているレイシア達。怪人は同じく素手である。
 祐の神楽舞『速』の効果もあり、ルチャの軽快なフットワークで攻撃を横に回転して避けるフィリー。
 転がった彼女を踏みつけようと足をあげた隙に、レイシアがスタッキングで割り込んだ。
「私のアイアンクローから逃しは――しないわ!」
 振り向いた緑怪人の顔面を、レイシアの細い指先が掴む。
 強力な握力で怪人のこめかみをめきめきと締め上げ、ゆっくり頭上へと持ち上げていく。
 観客より大きな『絶望落とし』コール。それに応えて、レイシアは勢い良く怪人を地面に叩きつけた!!
 アイアンクロースラムを、彼女のファンの間では絶望落としというらしい。だが、それで終わる怪人ではない。跳ね起きの要領で蹴りを繰り出し、距離を取った。
「まだ元気だね‥‥ボクらはこの世界で運命を乗り越えるんだ! アヤカシに邪魔はさせないよ!」
 御子が精霊の狂想曲を奏でる。暴れる精霊たちを感じたサラファが『精霊が‥‥怒っています‥‥』と呟いてラティゴパルマを発動。
 ヒュンと風を切る鞭は、黒怪人の背や腕をしたたかに打つ。しかしこの観客共、ノリノリである。
「獄界の鎖でアヤカシを叩く度に、妙に周囲が騒ぐのはなぜでしょう?」
「萌え、とかいうやつだな! うむ、萌えて騒ぐのであれば、我々も力が出せよう!」
「そうは思えないですけどね‥‥」
 妙にやる気のクロエはバッシュブレイクで黒怪人の防御を崩し、耳を伏せつつ九寿重が炎魂縛武でソメイヨシノで突く。
「声援というのは嬉しいものですよ、お嬢様方‥‥私達の世界では、特になかったのですから」
 二人が素早く離れた刹那、リリアーナの箭疾歩改良型『黒爪完抉』が突き刺さる。
 打ち込むと同時、全身を回転させて爪で深く抉った。血飛沫を上げて後方へ飛び退く怪人を待ち構えていた亮が、怪人を蹴り飛ばす。
 倒れこんだ場所に追撃の手はなさそうだと、多分そう思ったであろう黒怪人の左から白い光弾がぶち当たる。
「ハー!?」
 誰だ、とかだろう。怪人が振り向いた先には、竜胆を思わせる袴。
「――私を、お忘れではないですか? なんといいますか、存在ごと」
 杖先を怪人へ突き付けるように向けたまま、困ったような微笑を浮かべる祐。
 巫女さんカッコイイ! 萌え! とか観衆が騒ぎ、折角決めたのにまた『す、すみません』とか謝っちゃう祐。
 思わず棒立ちになっちゃって、九寿重に『危ないです』と指摘され、妙に慌てて場所を移動したりしている。

「守る人がいるから、ボクらは強くなる! 彼らにも喜びと幸福の歌を奏でて欲しいから!」
 演奏を再開しながら、御子は力強く語った。何故か拍手が凄い。
 黒怪人も弱ってきていた。亮は上空へと蹴り上げながら叫ぶ。
「リリアーナさん! アレをやろう!」
 決め打ちキター、と外野から聞こえるが、それは無視。リリアーナはビルを蹴り、高く跳躍!
「天空の狩人の眼に留まった獲物には逃げ場がありませんよ‥‥」
 背後逆光を背負いながら空中で荒鷹陣。がっしと黒怪人を捉えながら再度跳ぶ。
 同じく地を離れた亮は下から手を伸ばし、黒怪人の胴を脇にはさみ込み、
「一つ一つは単なる火でも合されば燃え盛る炎となる!!」
 片足を持ったまま逆さまに抱え上げる状態の形を取った。上から押さえていたリリアーナは相手の足をしっかり固定し、急降下。
 そのまま垂直式に叩きつけた。
 轟音と共にアヤカシは黒い霧を放出しながら霧散し、亮とリリアーナは腕を交差させて微笑む‥‥っていうかドヤ顔になった。
「炎となったボクらは無敵だ!!!」

 それを見ていたフィリーが『いーなー、楽しそうだなー!』とわきわきする。レスラー魂に火がついたようだ。
「アヤカシも一人になったね‥‥よし、アンコールだ! 運命を蹴散らして進もう!」
 御子は竪琴からトランペットに楽器を変え、盛大にファナティック・ファンファーレを鳴らす。
 祐が白霊弾を緑怪人に放ち、クロエと九寿重が疾走する。
「杉野さん、クロエさん‥‥できる限り援護します!」
 ナハトミラージュで姿を消したので、あまり気付かれないサラファが怪人の足を鞭で捉えた。
「食らうが良い! 萌え萌えクロススラッシュっ!」
「クロエ‥‥! 変な名前つけないでください!」
 左右から斬りつけられ、くるくると独楽のように回転する怪人。
「ノイモントカノンッ!」
 そこへ、くるりとバク転してオーラショットを放つフィリー。ひらひらと舞う彼女にあわせて、裾も大きく動く。
 彼女が放ったオーラは緑怪人の腹部に当たり、クロエに足払いを掛けられて転倒。
「今だよ‥‥! 皆の力、見せて!」
 御子はファンファーレを演奏し終え、剣の舞に切り替えた。
「オッケー。任せて頂戴。決めるわ!!」
 怪人が起き上がるタイミングで、レイシアがサイド・ハイキック‥‥スイート・チン・ミュージックを顔面に食らわせる。
 ぐらりと倒れそうになる怪人に、そーはいかないぞ! と、突撃してくるフィリー。
 怪人の頭を両足で抱えるように挟み、怪人の股下へ潜りこむような体勢で相手を前方に回転させつつ投げる。
 地面に激突した怪人は、バシュッと大きな音を立てて瘴気に消える。
 大きな歓声が湧く中、『見えなかったけどフィリー履いてないかも』『おい待て詳しく』とつぶやかれているのは知りようもないだろう。
「ま、こんな所よね。この調子で次はシングルのベルト、絶対手にして見せるわ」
 フィリーに歩み寄るレイシアは拳を突き出す。
「うん! また次にあった時が楽しみだよっ! ‥‥リングの上でねっ!」
 己の拳を軽く付き合わせて、悪いけど負ける気はないわよと微笑むレイシアとフィリーの二人。
 響介は結界を解除して周りを見つめた。そろそろ戻らねばなるまい。クロエを呼ぶと、九寿重も『じゃあお茶にしましょう』と、店まで来てくれるらしい。
「萌え萌えじゃんけん、ミコさんもするんですか?」
「僕は裏方です」
 と言いつつ、店に戻る支度をする。
 神風恩寵で仲間の傷を癒している祐は容赦なく神秘的として激写されている。肖像権とか何状態だ。
「皆お疲れさま。まずはその疲れを休めてね? 次も、皆には頑張ってもらうから!」
 御子は微笑みを向けると、次の街へ向かうため仲間に背を向ける。アヤカシを倒すため、情報を集めに――。
「私も帰ります。なんだか新年から珍妙な経験を得ましたし‥‥」
 サラファもペコリと御辞儀をし、各自その場を去っていく。

 リアルな撮影風景はかなり好評だったらしく、ブルーレイで発売されたとか、しないとか。