白いアイツ
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/02 02:44



■オープニング本文

●白く輝く世界

 寒さ厳しいジルベリア帝国だが、今日は風も強くなく、晴れ間をのぞかせる比較的穏やかな陽気だった。
 とはいえ、年明け前よりこの地へ降り積もる雪はなかなかにその姿を消そうとはしない。まだ、この地に春が訪れるのは‥‥遠くはないが先のことになりそうだ。

 そんなひとときの暖かさは――呼ばれざるものによって打ち破られることとなる。

「‥‥ん?」
 見張りのため、街の外へ出た男性兵士が見たものは‥‥可愛らしい雪だるまが数匹、ちょこんと道の両脇にいるという光景。
 はて。昨日は強風であったはずだし、街の人も余程の事情がない限りそんな日に外を出歩いたり‥‥ましてや雪遊びなどしないだろう。
 もしかすると、早朝より遊んでいた子どもがいたのかもしれない。可能性としては考えられるが、その割には足跡らしきものは雪上に残されていない。
 しかし、雪だるまの後方には、何かを引きずったような跡が長く長く伸びている。
 一体これは何なのか? 不思議そうな顔で男性は雪だるまを凝視する。

 ずずり。

 小さく音を立てながら、雪だるまが動いたではないか。驚いたのは兵士の方である。
「な、なんだ!? アヤカシか!?」
 誰かの悪戯かもしれないと疑っていた彼の心は一気に恐怖に彩られた。
 ボーン、という謎の音と共に雪だるまの眉毛‥‥らしき枝が彼に向かって飛んできたからだ。
「あわわっ‥‥たばばっ!」
 彼自身謎の言語を発しながら、おたおたしながら街の中――開拓者ギルドへと逃げ込んだのである。

 怪訝そうな顔の男性へ、我ながら情けない話だが、と付け足してから討伐依頼だと説明をし始めた。
「‥‥ふぅん。街の外にねェ。しかし、そんなすぐに人員なんか集められないぞ?」
 困った顔でそう告げられても、危険(?)はじわじわと近付いているのである。
 すると、近くの席からすっと立ち上がる美しい女性騎士。
「すまない、話は聞かせていただいた。私の力、お貸ししよう」
「おお、ありがたい! こちらこそよろしく頼みますっ!」
 女性騎士はこくりとはっきり頷くと、武器を手に取る。
 しかし、彼女一人であの雪だるまアヤカシを蹴散らせるのだろうか。
 兵士がそう思っていると、受付の男性は身を乗り出して女性騎士と兵士の両方に告げる。
「最優先で人員募集しておくぜ! ちっと遅れるが、遅すぎるほどにゃならねえよ!」

 なんだあのおっさん。すぐに集められないとか言ってたくせに。

 心のなかで一人ごちて、兵士は仕方が無いなと肩をすくめた。
 男って奴は、美人には甘いもんな。


■参加者一覧
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
葛籠・遊生(ib5458
23歳・女・砲
郭 雪華(ib5506
20歳・女・砲
アリエス・フランクール(ib5641
24歳・男・砲
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
コトハ(ib6081
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●冬のアナタ

 雪だるま型のアヤカシが出現したという。
「白くて丸くて冷たい‥‥冬の人気者‥‥? それとも白くて憎い‥‥あんちくしょう‥‥?」
 郭 雪華(ib5506)は雪だるまのイメージでアヤカシを推し量った――のに、『どっちでもいいかな‥‥』と自身の疑問を解決せずに放り投げてしまった。
「どんな見た目であれ、アヤカシには変わりないなら確かにどうでもいいことだな。気をつけるべきは攻撃方法か」
 雪だるまの眉‥‥いや、パーツ攻撃の飛距離を依頼人‥‥先程の兵士へウルグ・シュバルツ(ib5700)は尋ねる。すると『よく覚えていないが10メートル程度ではないか』ということだった。
 兎も角、先に駆けて行った女性騎士も心配だ‥‥ん? 『兵士は何故ここにいるのか』ということだが、女性騎士が彼に『皆の案内を頼む』と言い残し、走り去っていったためだ。
 それゆえ兵士はここに居る。たとえあまりお役に立てなくとも、戦闘放棄をしたわけではない。依頼前に眉アタックに驚いてここへ駆けこんできたといえども、だ。
 現に肝が細いと思われるこの兵士だが、女性騎士が大丈夫なのか心配なようだ。
「落ち着いてください。僕らの準備も整いましたし、すぐに向かいましょうか」
 アリエス・フランクール(ib5641)は兵士に言った後、仲間を見渡し、にこりと微笑みを投げかけて出発の合図とした。

 外壁‥‥の外とはいえ、街の中心にある開拓者ギルドからは一寸遠い。
 降り続いていた雪はある程度路肩に寄せてあるとはいえ、まだ雪もそれなりに残っているし、なにより少し道が凍っている。転ばぬようにと通常よりも歩く速度は当然遅くなる。
「‥‥雪は不慣れでして」
 一歩ごとに手が大きく揺れる宮鷺 カヅキ(ib4230)は、個人的な目標として雪道に慣れる事を掲げていた。
 他所で雪は降れど、このように沢山積もることはないのだろう。
「目印とかも作っておきたいですけど‥‥わふっ、粉雪が耳にっ」
 遮蔽もなく見晴らしの良いところに屈んで何かを施していた葛籠・遊生(ib5458)。彼女の垂れた耳は動くたびにたしたしと揺れる。
 木から落ちた雪が風に飛び、彼女の耳に触れた。驚いた遊生はパパッと素早く雪を払い落としながら、先頭に見える兵士の後を追っていく。
「あの辺り‥‥です?」
 遊生の指す方向。たしかに外壁の向こう。僅かだが、彼女の耳は何かしらの音を捉えたのだ。
 そうです、と兵士が肯定すると、今まで無言だった杉野 九寿重(ib3226)が頷き武器に手をかける。
「どんなアヤカシなのやら‥‥ああ、怖い」
 こんなか弱い私がそんなものに立ち向かうとは。と漏らした雪華。だが、『ね?』と遊生に同意を求めるように振って来る。
「ふゎ!? えー、えと。雪華ちゃんっ――」
「――より、怖い思いしてる人もいるでしょ。ほら、女性騎士さん。一人で戦ってるしねー」
 アリエスが言葉を引き継ぎ、ちょっとホッとしたような顔をする遊生。そういったやりとりをしているうちに皆が現場へ到着したのだが――、

 しゃりっ、という軽い音が彼らの耳に届く。
 件の女性騎士(以下 騎士)は4匹の雪だるま相手に剣を振るっている最中だった。
 銀色の剣が翻る。その後から雪だるまのボディの一部だったのか、削られた雪がパッと散った。
 さすがに敵が雪だるまというビジュアルなので、些か彼女の闘いは滑稽にも――見えないことはない。
「まだ‥‥無事のようだね‥‥」
 見たところ負傷というほどのダメージは受けていないようである。雪華は彼女の姿を認めると、遠雷を彼女とアヤカシの間へ撃ちこみ、敵の気を散らす。
 のそ、と非常に緩慢な動きで2体の雪だるまが彼らの方を向く。勿論表情の変化などはない。
「参りましょう」
 つ、とコトハ(ib6081)が前に進みでて、騎士の近くまで歩み寄る。
「騎士様、足止めまでご苦労さまでした。我々であの位置までアヤカシを誘い込み、叩きます。ご協力願えますか?」
「無論。こちらこそ、協力感謝だ」
 騎士も当然のように協力を快諾し、礼を述べる。コトハも頷き返すと木葉隠を使用し、マキリを握ってアヤカシを見据えた。
「兵士さんは、敵が妙な動きをしないか見張っていて、その時は僕らに教えてくれると嬉しいな」
 アリエスが兵士を気遣い、そのように指示を出す。実際一般人であるらしい彼に戦闘に加われというのは大変なことだろうし、かといっておとなしくしていろというのも酷であろう。
 兵士も彼の気持ちを汲んだのか、了承の意を見せて素早く近くから退いた。
「後方から加勢する! ‥‥しかし、まぁ見事に砲術士が揃ったものだな」
 ウルグがアヤカシへと向かっていく九寿重の背中を見た後、ちらと後方で構える砲術メンバーに視線を送る。

 ガツ、と雪だるまが飛ばしてくる枝を盾で受ける騎士。カヅキも素早く枝攻撃を避けて攻撃を繰り出す。
 ちなみに、飛ばした部分は戻ってこないので失ったままだ。一匹は目の部分がない。
 あれは放っておけば全部無くなっていくかも‥‥。と一瞬感じた雪華だが、そんなにゆっくりと待っても居られない。
「その‥‥押されていないか?」
 追い込むはずなのに、これでは‥‥と騎士が遠慮がちにコトハへ尋ねれば、心配なさらずとも大丈夫でございます、とコトハは無表情に淡々と応じる。
 予定調和だと九寿重が言葉を載せた。
 確か、決まった場所まで追い込む――といって後退しているのだが‥‥と、危惧する騎士の耳に、女性の声が響いた。

「ここでオッケーですっ!」
 遊生が先程の目印に気づき、皆に聞こえるようにと声を張り上げる。
 どうやら、追い込むと言っても『誘導』のほうに近い物だったようだ。

 すると、今まで押されていたように思えた皆の動きが一変する。
「待ってたぜ‥‥!!」
 これを読み、先に装填などを済ませて準備していたウルグは強弾撃を使用し、砲術士たちは一斉にアヤカシへと砲火。
 今まで撃っていたのも動きを鈍らせたり、誘導からそれないようにするための動きだったのだ。
「此処で、仕留めますっ!」
 遊生の銃弾は強く放たれ、その先――雪だるまは砲術をモロに食らい、ゆっくり仰向けに倒れる。威力にイメージとしては頭が吹き飛びそうなものだが、
 当たり所が良かったのか正体が瘴気の塊だからか、顔半分が割れたのみ。
「やるなら‥‥とことん派手にやらないとね‥‥」
 雪華は先ほど怖いと言っていた気がするのだが、遠雷でアヤカシの頭部などを狙っていく。
 衝撃でバランスを崩し、ゴロリと倒れた雪だるま。好機とばかりに狙い撃たれて一体はすぐに消滅する。
 ウルグも枝を飛ばされる前に頭部を積極的に狙い撃ち、ダメージを与えつつパーツである枝をアヤカシの顔からはじき飛ばす。
 コトハがアヤカシの頭と胴の境‥‥首などはないので接合部としか言えないが、そこを切り離そうと横に薙ぐ。
 一閃の後、頭部はぽとりと雪に落ち、後衛に撃たれた。
 胴はといえば、手である枝をばたつかせるだけで一向に向かってくる気配がない。
 まっぷたつにしてやろうと構えた九寿重も、あれ? と声をあげた。
 
――まさか。

 一同は顔を見合わせる。

――こいつ、前が見えないんじゃないのか‥‥?

 逆に女性騎士さんは『こんな事なら先に壊しておけばよかったかも‥‥』と少しばかり哀しげな面持ちだ。
 彼女はいいところを見せたいがために一足先に出たわけではなかったにしろ、その失望感と脱力感は相当なものだろう。
 気持ちはお察しいたしますと告げたアリエス。しかし、敵の弱点はこちらにとって好都合なのではないだろうか。
 だが、雪だるまも諦めたわけではなかった。なんと、その体勢で手である枝切れを飛ばしてくるのだ!!
 もう自棄っぱちにしか見えないそれを、スッと避けながらも距離を詰めたカヅキ。
「危ない‥‥こんなものは燃やしてしまおう‥‥!!」
 仲間の射線を邪魔せぬよう別の雪だるまへともう一歩踏み出し、火遁を使う。
 業火に焼かれたアヤカシの枝や眉。枝がなくなればただの雪の塊である。
 残るは一匹。接近されることも予想していたウルグ達砲術士だったが、雪だるまの接近速度が遅いことと、前衛の頑張りによって近接戦闘は杞憂で終わりそうだ。 
「よし、あと一匹だ!!」
 ウルグは前衛の攻撃の合間を縫って撃ちこみながら、皆に合図を出す。
 もはや手も足も出なかろう、と思われたアヤカシだが、最後の力を振り絞って――燃えさしになった枝を飛ばす!!
「っ‥‥」
 騎士は咄嗟にそれを避けたが、燃えさしはそのまま後方のアリエスの頬をピッと掠めた。
「‥‥あ‥‥」
 ごく自然に自身のひりついた頬に触れたアリエス。
「‥‥ふふっ、おいたが過ぎるなぁ‥‥」
 キッとアヤカシを睨みつけたと思えば、ゆっくりと冷たい笑顔に変わっていく。
「そんなに溶かされたいのなら――お望み通りにしてあげるよ」
 再び銃を向けたアリエスの眼に、迷いなど微塵もなかった。

●戦い終わって

 雪だるまも消え去り、恐らくほとんどのものが何も知らされぬまま――街は恐怖より解放された。
 ついでに言えば、アリエスの氷の微笑からも解放された。
「ああ、見た目は可愛かったのにね」
 などとさらりと言いながらも、ちょっと声は怖い。
「僕はフランクール殿のように、あんな物騒な事なんてできないよ‥‥。何度も言うけど‥‥僕はか弱い女の子‥‥。そうだよね‥‥葛籠殿‥‥?」
 雪華が遊生に同意を求めている。同意を求められた方は、適当に言葉を濁していた。
「身体を動かしていたとはいえ、この寒さでは冷えてしまいますね‥‥どこか汁物で暖まれる処を知ってたら、そちらへ向かいませんか?」
 九寿重が女性騎士へと声をかけた。騎士はふむ、と小さく呟いてから
「丁度この近くにそういった店があった。そちらに参ろう」
 私も冷えたし、喉が乾いたと笑ってから剣を収めて歩き始める騎士。そんな彼女に、アリエスがそういえばと訊ねる。
「知り合えたのも何かの縁だし、あなたがたの名前が知りたいな?」
 兵士と騎士は申し遅れたと言って頷き、兵士はゲオルグ、騎士はクロエと名乗った。
 アリエスは『助けが必要だったら、いつでも呼んでね』と二人に告げ、(主にクロエへ、かもしれないが)ウィンクを送る。
「‥‥雪華、女誑しなんて思ってないよね?」
 それをじーっと横で見ていた雪華の視線が痛かったのか、雪華の頭へポフリと手を置きながらニコリと微笑んだアリエス。
「何とも言えないよ、フランクール殿‥‥笑顔と言動、どう見てもそのように取る事しか出来ないとしても――」
 ねえ、葛籠殿? と幾度目かの同意を促した雪華だが。当の葛籠殿はといえば――周辺の雪をかき集めて、小さな雪だるまを作って嬉しそうな顔をしている。
「えへへ、できたっ」
 可愛らしい雪だるまに、カヅキが『おお』と小さな声を上げる。近くで見ようと思ったのか、もそもそと雪道を歩くカヅキは‥‥
「あ」
 気が緩んだのか、雪に足を取られて もふっ。と、雪の中へ顔から転んだ。まっ更なところで転んだから、ある意味人拓である。
 が、すぐにガバッと起き上がると服についた雪を払い、立ち上がる。
「‥‥見ちゃいました? ‥‥見なかったことにしていただきたい」
 断じてドジっ子とかじゃないです、と念を押すのも忘れない。

「そういえば、支払いってゲオルグが出すのか?」
「えっ、オレですか?」
「当然だ。私たちは雇われ、依頼人は汝だろう」
 と、勝手に出て行ったクロエとゲオルグの会話に『そりゃそうだ』とウルグが加勢しニヤリと笑う。
 わいわいと賑やかにしながらも、彼らは冷えてきた体を温めるために、店へと向かうのだった。