合同朋友戦闘
マスター名:藤城 とーま
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/13 04:10



■オープニング本文

●ジルベリア帝国カレヴィリア領

 その日の訓練も終わり、竜の身体を綺麗に拭いてやる騎士たち。
 竜とてきれい好きも多く、自分たちで水浴びなどもするが、誰かにやってもらうのも気持ちが良いらしい。
 そして、彼らは苦楽を共にする相棒。誠意を持って接することで心を通わせ、信頼関係を築いていくのだ。
 現に竜たちは気持ちよさそうに小さく喉を鳴らし、顔を騎士たちに擦り付け甘えているようだ。
「今日もありがとう。感謝しているよ。明日もよろしく頼むから」
 相棒ケレオスの首を撫でてやり、ユーリィは微笑む。ケレオスもグルルと鳴いて、ユーリィの顔を覗き込むように見つめた。
 言葉は交わせなくとも、こうして意思の疎通は図れる。持っている『心』は動物だろうと人間だろうと変わらないのだ。
「ユーリィ、お疲れさん」
 そこへ、近衛隊長である同僚が歩み寄ってくる。しかし、竜と一緒だとわかると一瞬驚いてから足を止める。
「平気だよ。ケレオスは危害を加えられ無い限り人を襲わない。そう教えているんだ。ケレオス自身ちゃんと分かっているよ」
「それは、わかっちゃいるんだけどさ‥‥デカいだろ、竜とか。良く手懐けたな」
 一般人の中には、テュール(志体持ち)と相棒の関係を誤解しているものも多い。
 ペットではなく、生死を共にする大事な仲間なのだが‥‥ユーリィはケレオスの顔を見やりながら『信頼しあっているから』と口にした。
「それはそれとしてだ。ユーリィ、お前さんにギルドから依頼が来てるぜ」
「依頼‥‥?」
 それは開拓者としてだろうか。怪訝そうな顔をした彼に、近衛隊長のミゲルは巻かれた羊皮紙を渡した。
「中身は知らんが、確かに渡したぞ」
 じゃあな、と言ってから再びケレオスを見つめ、そそくさと帰っていくミゲル。
 ケレオスのは姿が見えなくなるまでソレを見ていたが、ドアが閉まってから――機嫌を害したらしく荒い鼻息をユーリィへ吹きかけた。
「‥‥悪かったよ。そう怒らないでくれ」
 羊皮紙の内容を読みつつ、あやすように身体をポンポンと軽く叩く。まだ収まらないのか尻尾もゆらゆらと揺れていたが、やがてケレオスはそっぽを向いてしまった。
「ん‥‥どうやら、朋友合同訓練を企画したので駆竜騎士団に出席して欲しい、ということだ。ケレオス、一緒に行こう。友達ができるかもしれないよ」
 告げられると、ケレオスは顔を上げて相棒の姿を見つめる。
 その眼は期待に輝いていることから、乗り気なようだ――そう理解したユーリィは、騎士たちにも話してくるよ、とその場を去った。

●翌日

 会場についた所で、5キロほど離れた採石場からアヤカシらしきものが出たという情報が飛び込んできた。
 話を聞くに、岩人形が動いているというからゴーレムの類ではないかと思われる。
「ふぅむ。講師として、朋友と友好的なひとときを過ごすのかと思ったら‥‥アヤカシまでお誂え向きにやってきましたね」
 ユーリィは肩をすくめ、部下の騎士たちや開拓者に向き直ると、用意はいいですか、と尋ねた。
「アヤカシは野放しにしておけません。我々が討伐しに行きます」
 もちろん、朋友も連れて。そう告げると、任せておけとばかりに朋友たちが声を上げた。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎


■リプレイ本文



「‥‥訓練が実戦になってしまいましたね」
 移動中、乃木亜(ia1245)は同行することになった騎士たちへ話しかけた。彼らも苦笑しつつ、準備は大丈夫ですか、と尋ねた。
「はい、大丈夫です。朋友も居ますから訓練と同じことが出来れば、うまくいきます!」
 拳をぎゅっと握り、大きく頷く乃木亜。後ろから朋友である藍玉も、自分もいるから大丈夫だと言うようにピィピィと可愛らしく鳴いて主張する。
「一緒に、がんばろうね」
 藍玉に笑顔を向けて、乃木亜は再び表情を引き締めた。
「でも良かったわ。訓練なら空で標的代わりのつもりだったけど、本物が現れたから、そうならずに済んだって事だものね」
 海月弥生(ia5351)がグライダーで滑空しながら肩を竦めつつ仲間に笑いかけた。
「貴女が標的にならずとも、我々が標的になったのではないかと思うのですが」
 騎士の一人が弥生に言うのだが、騎士の竜は小さく唸る。それはそれで嫌なようだ。
 しかし、冗談を言っている間に戦場となる採石場が見えてきた。

 竜に乗った騎士が、自分たちが偵察に参りましょうと告げたが、小回りや速度が竜より利くからと弥生は同行を希望した。
「着いたわね‥‥さぁ、『Blue Blaze』、行くわよ!」
 
 周囲や物陰に報告されていない敵‥‥即ち伏兵がいないかと確認しながら瀧鷲 漸(ia8176)がゲヘナと共に続く。
 それを追うように駆竜騎士団が続く形にあった――が、知らぬ竜が混ざっている。風雅 哲心(ia0135)の管狐『翠嵐牙』が変化したものだ。
 空の偵察も大所帯ですね、と笑った騎士に、これからが本番ですよとユーリィは忠告した。
「――あたしが飛んでるあたりに、一匹発見したわ! まだ被害が出る前よね〜?」
 ここにあたし達以外人の姿は無いから、被害が出るって焦らなくても良いかもしれないわと弥生が答え、地上にいる仲間たちはそれぞれ行動に移した。
「頼りにさせて貰いますよ、すっちー!」
 地上からは秋桜(ia2482)が睡蓮、(通称&以下『すっちー』)を引き連れ、やや高台に上がって地形や状況を観察。小さい迅鷹すっちーは空へと上がっていく。

 空から確認すると、大小様々の石に紛れ、ゴーレムがゆっくりとした足取りで地上で待つ仲間たちのほうに向かっていくのが分かる。
 一匹が正面から先行し、もう二匹は左右から出てくる形になるだろう。
「正面の敵だけに気を取られてはいけませんね。後退しつつ、左右を引きつけ戦闘を開始します! 駆竜騎士団は左右の敵を中心へ誘導せよ!」
 開拓者達を三班に分けるよりも、敵を中心に纏めたほうが戦いやすいと判断したのだろう。ユーリィの命令にキビキビとした返事をして散開する竜騎士たち。
 哲心より偵察を命じられていた翠嵐牙も、すぅっと戻ってきて敵の場所や作戦を彼に報告する。
「それじゃあ行くとするか。行くぞ、翠嵐牙!」
「うむ。ではいつも通りにいくとするか」
 全身を輝かせながら翠嵐牙と彼の武器アゾットがすぅっと同化する。それを握りしめ、哲心は自身にアクセラレートを付与して駆けていった。

「もう1年余にもなるか‥‥まさか、あの時敵に回した駆鎧を駆って、この地で俺が戦う事になるとはな」
 巴 渓(ia1334)は過去の依頼で石人形と戦ったことがあるようだが、その経験を思い出しているらしい。
「恐らくはストーンゴーレムの類だと思うぜ。前にも戦ったが、意外と技巧派な奴だった――ともかく、よろしく頼むぜ駆竜騎士団さんよ!!」
 そうは言っても、湧き上がる戦意を隠せないようだ。この地を護る騎士より前に、駆鎧で出し抜いてみせるのも、なかなか面白いじゃないかという思いも出た。
「っし、ならばああっ!! ――出ろおおおおっ!」
 ぱちん、と指を鳴らすと相棒の名『カイザー』を叫びながらケースから宝珠を解除する。
 中からアーマーが飛びだすように出現し、それに乗り込んだ。
「ほんと、訓練のつもりが実戦になりましたね〜‥‥それでは、訓練の様に実践としましょうか」
 サーシャ(ia9980)は弥生の方を眺めていたが、騎士が声を張り上げて敵が向かっていったという合図をしたので表情を引き締め、落ち着いた動作でアーマーに搭乗。
「力技で押す形になりますので、全力で行きますよ!」
 輝く鎧は、砂煙を上げながらゴーレムを目標に捉える。
「――久しぶりに空戦ができそうだな。思いっきりやろうとするか。なぁ、ゲヘナ」
 漸がゲヘナの首を軽く撫でてやり、同意のように鳴いたゲヘナに微笑むと早速様子を見ながら指示を出す。
「まずは小手調べと行こうか。ゲヘナ、頭部を狙え!」
 ゲヘナの大きな翼は、力強く空を押す。くん、と下降すると鋭い爪でゴーレムの頭部を狙い穿った。

 乗るだけで結構結構な練力を消費するアーマー。アナス・ディアズイ(ib5668)も戦闘で使う練力を温存する意味で、
 敵の近くに行くまでアーマーへの登場はせず、自分の足で移動する。
 幸い、ゴーレムは空より全て発見されたようで、騎士たちや漸が囲い込みに入っている。



 空中で旋回する竜騎士たち。地上と連携しながらだが、警戒や攻撃に入る敵の行動も忘れない。
「一匹、アナスさんの方へ向かっていきます!」
 騎士の一人が叫び、アナスも地響きを立てながら向かってくるゴーレムを見据えた。
「チェーンソーで削ります!」
 アナスの乗るゴールヌイが、近づいてきたゴーレムの身体にチェーンソーを押し当て、削る。
 自動で回転する刃は、細かい石砂を生み出しながらも徐々にその身体深くに食い込んでいた。
 腕から伝わる振動と衝撃。胴体の一部をごそっと削ったが、離れる間際にゴーレムの体当たりを食らって地面に倒される。
 更に踏みつけようと振り上げられた足を、漸とゲヘナが攻撃して阻んだ。
「離れてください! 降下します!」
 ユーリィが声をかけ、ケレオスの龍蹴りが横からゴーレムにヒット。勢いそのまま、ゴーレムは地を滑って大岩に激突。
「ハッ、ブチ殺してやるぜええっ!!」
 倒れたゴーレムを狙い、渓がカイザーで疾走。ギガントアックスを振り下ろした。
「おおおおーっ! カイザアアアーッ! トマッホゥゥゥクッ!!!」
 重い一撃はゴーレムの身体を割り、肩から腕を破壊する。だが、腕を一本失った所で、ゴーレムはまだ動く。
 のそりと立ち上がって開拓者を見つめる空洞の眼窩は、瘴気の色に昏く燻っていた。
 
 秋桜とすっちーは同化し、疾風の翼で強化された脚は風を切るように速い。
「私の速さ、見切れますか?」
 その素早さで動きまわり、ゴーレムを撹乱させている。狙いが定まらず足を止めたゴーレムに、弥生の乱射と騎士の攻撃が狙い打つ。
 騎士の騎乗する炎龍が大きく口を開けて火炎を吐き、ゴーレムを包む。
「まだ‥‥動いてます!」
 秋桜が注意を促し、大岩を足場に蹴って三角飛びで大きく移動。
 身を焼き尽くさんとする業火に晒されながらも、ゴーレムは重い足音を響かせつつ大きく手を振り回す。
「砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」
 鋭い氷の塊が放たれ、ゴーレムに幾つも突き刺さる。しかしそれを物ともせず、左側から正面に誘導されていたゴーレムは、石を手に取ると放り投げる。石といっても、かなり大きい。岩といっても問題ないくらいだ。
「そんなもの、私には当たらんよ!」
 ひらりとそれを躱した漸。ユーリィが『側面!』と叫び、手にしていた槍を振り上げて投擲。アナスがそれに気づいたと同時。左側から強い衝撃が無数に襲いかかった。
 ユーリィの槍が当たったわけではなく、もっと小さなものが身体の数カ所に当たった感じだった。たまらず倒れる秋桜。
「えっ‥‥?」
 見れば、食らったのは自分だけではないようだ。少し離れた所で哲心も肩を押さえ、アーマーに乗っている渓ですら動きが鈍っていた。
「くっ‥‥ゴーレムも、連携を取るのか‥‥?!」
 哲心が痛みをこらえながらも、起こった出来事に対して驚きのあまり上ずった声を出す。
 秋桜が撹乱し、アナスや渓が相手をしていたゴーレムは、幾つか石を放り投げていたが――それは開拓者へ直接当てるものではなかったか、偶然か。
 近くにいたゴーレムの平手が石を粉砕し、周囲の開拓者たちへと石つぶてを浴びせたという次第だ。
「フン、能無しかと思ったけど、そう簡単にやらせないよ!」
 漸が身体に付着した小粒の石を払い、相棒の調子を確認。問題ないと分かると再びゴーレムとの距離を詰める。
 騎士の竜が再び火炎を吐き、途切れたと同時にサーシャのアーマーがゴーレムの体にスマッシュを浴びせかけた。
 体表の岩が少し散ったが、元々硬い岩石で作られた身体はアーマーの一撃にも怯まない。
「防御に優れているとか言っても、いつまでも耐えられるわけではないっ!」
 核さえ破壊すれば、いくら体力があろうとも関係ない。ガツガツとスマッシュを浴びせかけられていれば、防御力が高くともゴーレムの体力は削られていく。
 しかし、低い唸り声のようなものを上げながら、渾身の力を振り絞ったゴーレムの掌がサーシャをアーマーごと捉え、握りつぶそうと両手に力を込めていった。
「ああっ‥‥!」
 みしみしとアーマーが軋む音。同時に、アーマーと身体の密着が高いところからは軋むような痛みがある。
 苦悶の声を上げたが、乃木亜の藍玉が攻撃して助けに入る。
「‥‥ありがとう‥‥」
 藍玉はサーシャの周囲を心配そうに飛んでいたが、大丈夫だという彼女の言葉を信じると再びの乃木亜の傍らに戻って寄り添い、ピィと鳴いて指示を待つ。
「皆さん、あの一体を弱らせますので、術がかかっている間に倒してしまいましょう‥‥! 藍玉、お願い!」
 乃木亜の言葉に藍玉は頷き、水牢で動きを鈍らせてゴーレムの足元から勢い良く水柱を発生させ、平衡感覚を狂わせる。
「この魔神の一撃、人形如きが耐えきれるか!?」
 漸とゲヘナはゴーレムに高速で向かう。深紅のオーラが漸の身体から立ち昇り、破軍も重ねて斧槍を振りかぶる。
 すれ違いざまにゲヘナが飛鷲天陣翼で斬りつけ、漸の破壊的な一撃がゴーレムの胸を深く抉る。
 がきり、というなにか固いものに当たる音を瞬時に聞き分け、ニィと笑った。
「そら、砕けろォッ!!」
 そのまま胸部を貫通した斧槍。核を砕かれた岩人形は、瞬時に砂粒と化して崩れ落ちた。

 片腕のゴーレムと渓は対峙している。
 無論彼女一人だけではなく、アーマーを着用して合流したアナス、上空では騎士たちも一緒だ。
「回復能力も高いみたいですし、侮れませんね‥‥」
 アナスは言いながら、ゴーレムの切断された腕を見る。奴は岩石を手に取ると傷口に当てて、それを付着させて結合しているようだ。
 まだ動きはしないようだが、再生するというのでは困る。
「動く前にまた切り落とすまでだ! おらあっ!」
 オーラダッシュで一気に攻めこむと、アックスを振るってゴーレムの腕を再び切落さんとする渓。しかし、屈強な腕でそれを弾き、アーマーを壊そうとする勢いの強打が渓を襲った。
「ぬぅっ!」
 アーマーの膂力をもってしても耐え切れず、数メートル飛ばされた渓。彼女の方を見て声を上げたアナスにも、ゴーレムの手は飛んできた。
「ゴールヌイ、耐えて‥‥!」
 咄嗟にシールドでその強打をガードしたが、立っていた位置より後方に押された。腕には痺れが伝わる。いかにその威力が強いものだったかを知り、彼女に冷たい汗が流れた。
 体勢を整える時間を稼ぐため、ゲヘナが飛んできてスマッシュクロウで岩人形の胸を蹴りつける。ゴーレムも大きいが、鷲獅鳥の大きさはそれを超えている。
 助力をつけてのスマッシュクロウは、ゴーレムを蹴り倒すに十分な効果があったようだ。
「よくやったぞ、ゲヘナ?」
 漸に褒められたゲヘナは、当然だと言わんばかりに彼女に視線を送ると、再び上空に舞い上がっていく。
「攻撃されてばかりで飽きた頃だろう。非物理での攻撃も、たまにはいいのではないか?」
 ‥‥轟け、迅竜の咆哮。と詠唱を開始した哲心が再びアイシスケイラルを倒れたままのゴーレムへ打ち込む。
 体勢を立て直したアナスと渓も再びゴーレムへ向かった。
 打撃を食らいつつも起き上がるゴーレムに、弥生の空壁が向けられ、動きをある程度鈍らせる。
 術後、隙を与えぬように騎士たちは急降下からのスマッシュなどを駆使してゴーレムに容赦無く打撃を浴びせた。
「――核を発見しました!」
 騎士が声高に宣言すると、サーシャは急いでそちらに回りこむ。
「破壊します!」
 渾身の力を込めてスマッシュを当てていく。後ろを振り向こうとするゴーレムに、秋桜はすっちーを同化解除。頭部の攻撃を任せる。
 すっちーがクロウを行なっている間、秋桜は影でゴーレムの結合部目掛けて苦無を捻じ込む。
 瘴気を散らしながら、ゴーレムがもう一度腕を振り上げ――‥‥ぐらり、と前のめりに崩れる。
 腰にあった核を、サーシャがクラッシュブレードを突き刺して破壊したのだ。
 ざらりと砂となっていくゴーレムを一瞥すると、周りを見渡す。

「あと一匹!!」
 弥生が空壁で空気の層を作ってゴーレムを足止めしつつ、仲間に向かって片手を挙げる。
 アナスのチェーンソーに体表を削られているので形が変わってきているが、まだその力強さと丈夫さは健在だ。
 仲間が攻撃を加えたのを見てゴーレムの死角へ回りこもうと弥生は滑空艇を最適置で方向転換。丁度よい場所を見つけ、弓を番えた。
 サーシャが足の接合部を狙って斬りつけ、アナスの手に振るわれていたチェーンソーが、岩人形の胴体、腹部に当たりそうな部分から円形の核をとうとう露出させる。
 最初のゴーレムは胸部、先ほどまで相手をしていたゴーレムは腰にあったのだが‥‥どうやら一体一体場所が違うようだ。
「それ、射つわよ!」
 弥生が強射『朔月』で露出した核を射ぬく。しかし、核に突き刺さり、つややかな表面に細かいヒビが入ったようだ。しかし破壊までには至らない。
 すかさず渓がアックスで打ち込むが、いつまでも石人形とて大事な核を無防備に晒しているわけではない。
 ゴーレムの妨害もあったことから、十分力を乗せて押しきれなかったようだ。アックスはゴーレムの腕をがりがりと削りながら核に当たったが、まだ――砕けない。
 敵も流石に弱ってきているが、石を砕きながら開拓者にぶつけるのは効果的だと覚えたのか、握りつぶして投げる。
「お願い!」
 細かな粒が目に入らぬよう気をつけつつ、乃木亜が再び藍玉に命じて水牢を使用させた。
 行動を制限したが、腕は動かせる。離れてください、とユーリィが皆に言いながらケレオスに騎乗したまま降下。ガードブレイクをぶち当てる。
 がこん、と頭部が粉砕された。が、頭部をなくしても緩慢な動作ではあるが活動している――!
「まったくしぶといな、だがこれで終わりだ‥‥」
 哲心が術の構えに入ったのを見て、ゴーレムの付近にいた仲間や竜騎士たちは退く。
 攻撃を加えられていたゴーレムは、のそりと身を動かしたが、既に哲心は手を前に突き出し、最後の詠唱を完了させる。
「猛ろ、冥竜の咆哮。食らい尽くせ―――ララド=メ・デリタ!」
 灰色の光が足元からゴーレムを呑み込む。光球が弾けたと思うと、既にゴーレムの形はない。さらさらと流れる灰と砂だけが残っていた。


●反省会

「無事、討伐も成功しました。皆さん、ご協力有難うございます。お疲れ様でした」
 ユーリィが感謝を述べると、部下の騎士たちもそれにならい礼をする。
「実際のところはどうでしたか? 相棒を実戦で戦わせるときに、傷つくことを恐れ躊躇う方も居るのですが‥‥あなた方は手馴れていたり、気持ちも落ち着いていて大丈夫のようでしたね」
「隊長さんは初めての時はどうだったの?」
 弥生がBlue Blazeに手を置きながら尋ねれば、彼は少し微笑む。
「特別不安はありませんでした。私は、為さねばならぬと覚悟を決めておりましたし、ケレオスも同様です」
 ですが、相棒が傷つくときなどは勿論悲しいとも感じますよ、と言いながらユーリィは相棒の顔を撫でる。
「ま、アーマーだとオーバーホール以外は大したことないか。ぶっ壊れると高くつくんでな」
 心配ったらそれだけだぜ、と渓。弥生の乗るグライダーも破損するとその修理は大変そうだ。
「そういえばアーマーには乗らないの?」
「はい。希望があれば帝国に申請するのですが、我々は竜を駆る騎士ですので不要です。何より拗ねられますからね」
 な、と騎士が愛竜に同意を求めるように言えば、その髪を軽く引っ張る竜。
 何はともあれ、アクシデントにも関わらず無事に依頼はこなせた。万々歳といったところだろう。
「では、戻ってお茶にでも致しま‥‥きゃっ、すっちー!」
 毛繕いをしていたはずのすっちーが、秋桜のサラシをとってしまったようだ。
 胸元を押さえて、すっちーを追いかける秋桜。
 そんなもの無くても平気だろうと言いながら隠すところを数えたほうが早そうな出で立ちの漸。意味がよくわからずきょとんとした顔のアナス。
「とりあえず‥‥お恥ずかしいことに団員の鼻の下が伸びていますので、我々はこれにて帰還します。どうやら反省が必要ですから」
 ユーリィの顔から微笑みが消え、団員の顔が強張った。
 では、と一礼してケレオスに行こうといって上空に飛び立てば、一緒にすごすごと帰っていく団員たちを見つめ、乃木亜はオロオロと弥生の顔を見つめた。
「大丈夫じゃない? 統率は厳しいものみたいだけど」
 死にはしないわよ、と明るく笑い飛ばして、あたしたちも帰りましょう、と皆を促した。