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■オープニング本文 ●冬に備えて その日。クロエ・キリエノワは夕暮れ時にやってきた。 「キョウスケ。おるのだろう?」 どんどん、と少し乱暴に天儀風のドア‥‥引き戸を叩く。以前引戸の開け方が分からず、無理やり開けたら壊したのでそれ以来開けてくれるまで何もしない。 叩いてみるが、返事はない。 (おのれ、居留守を使うとは姑息な手段を‥‥) 仕方がない。体当たりでも――と、数歩後ろに下がった所で、スッと扉を開く響介。 「やめてください。突撃でも活性化されていたら、僕の家が無くなりかねません」 「し、失礼な。そこまで当たりは強くなかろう」 実際、ちょっと突撃でも使ってやれと思っていたらしい。ぎこちなく反論するクロエに、どうだか、と悪態をついてじろりと見やる響介。 「食事ならまだかかります。今日は煮込みうどんにしようと思っていたので、麺を作っていました」 「ウドン? 麺‥‥」 天儀の歴史や食べ物に疎いクロエは、その変な響きに首を傾げた。ジルベリアのラプシャみたいなものです、と説明した響介は、勝手に奥へと引っ込む。 「キョウスケ、頼みがある。明日、料理を作りに来ないか」 突然の誘いに、今度は響介が振り返る番だった。なんでも、ジビエ料理を作りたいのだが、よく分からないとのことである。 「ジビエ‥‥そういう時期になりましたか。この地域は、冬用に塩漬けもするんでしたね」 そうだ、とクロエが胸を張って答え、今年も楽しかろうな、と微笑んだ。 「そこでだ。キョウスケ、お前のお母さんみたいな腕が欲しい」 「‥‥‥‥料理の腕を借りたいと言って欲しいですね」 「毎日料理を作って、母みたいなものだろう。抵抗すると羽根を毟るぞ」 響介は鴉の神威人。いつも長い羽織を着込むので羽根を見る機会は少ないが、彼の耳は羽毛で覆われている。 濡れ羽色と称されるように髪もなかなか綺麗で、女性の羨望の的であった。 そうでなくとも、体毛を毟られると言われたら響介も反抗する。 「ひどい事をするようなら、ユーリィさんに直訴します」 「ぐっ‥‥」 最近乱暴ですよ貴女は、と響介は小言を零しつつ麺棒で生地を伸ばしている。 「何を狩ったんですか?」 「カモと、野うさぎ、ええと‥‥そうだ、シカだ。大きいぞ」 えへんと胸を張るクロエだが、なおも話を聞くと狩ったのは彼女ではなく、彼女の兄のようだ。 「自分で狩らなかったのですか?」 「銃は上手く扱えぬ。馬上ではもっぱら槍だしな‥‥」 つまり、下手なんですね、と言えば、来年はうまく狩ると強がるクロエ。 そして話はようやく本題に戻る。 「だから、冬支度の前に料理して、酒を飲んで、楽しむのだっ!」 「それが目的なんでしょうに‥‥いいですよ。楽しみましょうか」 色よい返事に、クロエは嬉しそうな顔でバンザイをした。 |
■参加者一覧
月夜魅(ia0030)
20歳・女・陰
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
澄野・歌奏(ia0810)
15歳・女・巫
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
瞳 蒼華(ib2236)
13歳・女・吟
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●宴と料理 会場となる町の中央へ一行が足を運んだ頃には、宴会の準備は既に始まっていた。 大きな鹿が麻で編まれた布の上に横たわっていたり、鴨も吊るされている。 「‥‥はう、とりさん、かわいそう、ですの」 胸を締め付けられるような辛さに他人ごととは思えず、吊られた鴨から目を背け、瞳 蒼華(ib2236)は涙を堪える。しかし、声は若干震えていた。 「汝は優しいな‥‥」 蒼華の言葉に、クロエは穏やかな視線を向け、響介は周りを見渡す。 木箱の中に畑の収穫‥‥芋や野菜も山と積まれていたので、響介はそれを指して『肉以外のものもありますので、安心してください』と蒼華を促した。 「クロエ、この度はお誘いありがとうございます。ミコさんもお元気そうで」 杉野 九寿重(ib3226)が折り目正しく挨拶をして、小隊仲間の澄野・歌奏(ia0810)の方を見、眼を細めた。 「序に、というわけでもないですが‥‥交流の一環として和気藹々と楽しみ、大規模な戦闘への心身を養っておこうと思います」 「うむ。仲間との交流も大事だな。神楽でも仲良くなるには酒盛りが一番だというし」 「そうそう。飯つくって酒飲んで。宴会してわいわい喋って‥‥交流ついでにいいんじゃねぇかなと思って俺たちもやってきた次第だよ」 満足そうに首肯したクロエたちの側に、百舌鳥(ia0429)が同意しながらやってきた。彼は眼を隠すように包帯を巻いているようだが、クロエの視線に気がついたか、百舌鳥は包帯の上に手を置く。 「ああ。特に怪我してるわけじゃねぇんだ。気にしないでくれよ」 「あ‥‥失礼、じっと見つめるのも無礼であったな。他意はない、許してくれ」 いいって、と手をひらひらさせて百舌鳥は『楽しくやろうぜ、よろしくさんな』と言いつつ料理の支度でもするか、と白い割烹着を取り出した。 手際良くつける態を見つめていた九寿重は、そういえばと歌奏と蒼華へ問う。 「誘っておいてなんですが‥‥各自料理の腕前や好き嫌いは大丈夫ですか?」 「料理、出来ないわけじゃないけど‥‥どちらかというと食べる専門っ! お手伝いは任せて!」 明るく元気に歌奏が答えた。好き嫌いはあまり無いようだ。しかし、蒼華が俯き加減に『肉料理に‥‥慣れます。慣れないと、いけません』と消え入りそうな声で呟く。 声は弱々しいが、決意は固いようだ。すっと顔を上げ、クロエに問う。 「クロエさん、お料理、できますか?」 「んっ? あ、っと‥‥目下練習中だ」 彼女の料理は期待しないほうがいいですよと響介が口を挟み、クロエの睨みを背中で受けながら支度するのにその場を離れた。 「ふふ、わらわも支度にとりかかるとするか‥‥うむ、処理済みで良き頃合いのもあるが、初めから捌くとするかの」 言いながら椿鬼 蜜鈴(ib6311)が吊られている鴨やウズラなどを吟味し、手頃なものを手にとって調理し始める。 料理には自信があるという通り、手伝いも要らぬほど慣れた動作で鳥の血抜きから羽毛の処理、中抜きなども行なってから香草や香辛料を塗りこんでいく。 「おう、旨そうなモン作ってるじゃねぇの」 横から覗き込んだ百舌鳥。これ要るだろ、と差し出したローズマリーを受け取り、 「皆と楽しく過ごす饗宴じゃ‥‥多少の肴位は作らせて戴こうての?」 言いながら蜜鈴は付け合せの野菜とローズマリーを肉の隣に並べる。 「さて。味を馴染ませている間に早う石礫を積んで、竈を作るのじゃ。百舌鳥よ、手すきであれば共に作ろうぞ」 「ちょーっとばっかし難しいな。俺も鍋を作ってる最中なんだよ」 鍋、と聞き返すと、紅葉鍋だよと答える百舌鳥。 「‥‥牡丹鍋はよう聞き居るが、紅葉鍋とは如何に‥‥?」 「出来上がってからのお楽しみ‥‥ってやつにしとくか」 ちょっと落ち着いたら手伝いに来るわ、と言う彼を見送り、蜜鈴は竈の準備をし始めた。 「やっぱり秋と言えば鴨鍋でしょー。美味しいし簡単だし身体も温まるし、言うこと無いよね〜」 小伝良 虎太郎(ia0375)が野菜を刻んで鍋に入れる。程良く煮えてきた所で、切った鴨肉も投入。鴨肉は九寿重が幾つか捌いたものを使っている。 街の人も虎太郎の作る鴨鍋に興味を示し、覗き込みながら出来上がりを楽しみにしていると肩を叩いて去っていく。 鍋の合間に兎肉の梅紫蘇焼きなどを作ったりと、手際もよく調理している。 「うん、素敵なお料理がいっぱい出来るでしょうから、私は小さめのおにぎりでも作ろうかな?」 炊けたばかりのほかほかご飯の入った鍋を見つめ、月夜魅(ia0030)はしゃもじを手に取る。 つやつやと輝く銀シャリはこのままでも十分うまいはずなのだが、何故か会場においてある天儀の塩と共にシンプルなおにぎりを作っていく月夜魅。 「僕が作った塩鮭ならありますが、使いますか?」 「え、本当ですか? じゃあ、ちょっと頂きたいです」 響介の申し出を素直に受け取り、差し出された焼鮭をほぐしながら中に詰めていく。 「よく塩鮭なんてありましたね」 「ああ、神楽に行ったついでに買ってくるんですよ。ジルベリアでも売ってはいますが‥‥」 脂のノリが違います、などと言う響介に、月夜魅は成程と笑った。 「ああ、あのだな、アオカ。汝、料理は初めてか」 「は、はい。あの、あの。‥‥お料理、初心者、ですけど、がんばって、ならいます‥‥!」 ぐっとガッツボーズをとって、クロエに真剣な眼差しを送る蒼華。だから教えて下さいとまで言われて、クロエも答えに窮していた。 「キ」 キョウスケ、と呼ぼうとしたようだが、気配を察知した響介はクロエに呼ばれるより早く、歌奏がやっている配膳を手伝い始めた。 百舌鳥はもう少し離れた場所で、食材から出たアクを丁寧に取り除いている。時折味見をしては、小さく頷く。 見た目で人は判断できない。実は料理上手のようだ。 雛鳥のようなか細い娘さんは、じゃがいもをまな板の上に置いて包丁を持つと、片手でまな板を押さえる。 「待て、アオカ!」 慌てて止めるクロエ。しかしそれ以上に体をびくりと震わせ、蒼華はクロエの顔を凝視する。 「な、なにかおかしいこと、してますか」 「まな板ではなく食材を押さえるものだ‥‥と思う!」 誰か、なんとかフォローしてくれぬか。私ではちょっと不安だ――という心の声を受け取ったか、手を拭きながら九寿重がやってきた。 「クロエ、蒼華――」 何を作るんですか、という言葉は紡ぎだされぬまま、固まった二人のポーズと、まな板の上に添えられた手と‥‥皮の剥かれぬじゃがいもを順に見つめた。 「‥‥まず、何を作るつもりだったか聞きましょうか‥‥」 九寿重の声は心なしか、ため息混じりに聞こえた。 だんだん会場に漂い始める、美味しい香り。酒を飲み、上機嫌になった町の人達は楽器まで持ちだして歌ったり踊ったり思うがままに楽しんでいる。 酒の肴にも良し、食事にも良しな料理に舌鼓を打つ町の人や仲間たち。 「はい、お疲れ様でした!」 笑顔でお酌して回る月夜魅。気遣いのできる優しい子である。この甲斐甲斐しい行動で、町のオジサンたちは『綺麗なお嬢ちゃんにお酌してもらうと格別に美味いね!』とかなり上機嫌だ。 まあワインでも飲みなよ、と差し出された百舌鳥の返杯にも応じ、クッと飲み干すと杯を置き‥‥ドスンと百舌鳥に抱きついた。 勢い良すぎて、百舌鳥が小さく呻きながら、片手で月夜魅を抱きとめ杯を口に寄せて零すのを防ぐ。 「ぅー‥‥? ふふ〜、もっと一緒に飲みましょ〜♪」 「おいおい‥‥いきなり酔っ払っちまったのか?」 ワインじゃなくて果実を絞っただけのものだったのだが‥‥苦笑しながらも月夜魅の頭を撫でる百舌鳥。 「えへ〜、大好きです〜」 じゃれつく子犬のように、月夜魅は百舌鳥の頬にキスをした。 その隣で、蜜鈴は町の人が作った兎肉の壺焼きをつつきながら日本酒を口に運ぶ。 「蜜鈴さんの作った鴨焼き、凄く美味しいですよっ!」 「ふ、そう喜んで食す顔を間近で見られるとはのぅ。作った甲斐があったというものじゃ」 歌奏が至極嬉しそうな顔で香草焼きを口にする。その美味しそうに食べる様子を見ながら、蜜鈴は口角を上げて微笑んだ。 「賑やかですね」 響介も芋を煮ながら人々の様子を見つめていた。ふと、視線を感じたので振り返れば、紅葉鍋を食していた虎太郎が何やら此方を見ていたようだ。目が合うと、虎太郎は少しだけ困ったような表情を見せる。 「‥‥何か、御用ですか?」 「や、なんでもない!」 僅かに首を傾げて、再び芋煮を器に入れる響介。虎太郎の眼差しは響介‥‥ではなく、動くと羽織の下から微かに見え隠れする羽根のほうにあるようだ。 「‥‥‥‥」 「アオカ、苦手なら、無理に食すことはないのだぞ? ほら、これを食して身体を温めると良い」 鳥の串焼きを見つめ、手を出せず困った様子の蒼華に、クロエが代わりに野菜スープを持ってきた。 「だいじょうぶ、です‥‥いのちは、つながってる、から」 しかし、その申し出をやんわり断って、蒼華はしっかりと口に出す。近くでは、歌奏がとても美味しそうに食べているのだ。 困った顔のクロエの袖を九寿重が引き、手は出さないようにと目くばせ。 暫くじっと串焼きを見つめていた蒼華は、そっと串に手を伸ばし、恐る恐るという様子で肉をそっと噛み切り、咀嚼する。 「‥‥あ」 「ど、どうした、美味しくないか!?」 親かと思うほど心配そうな様子で見つめるクロエに、蒼華はほっこりと笑った。 「おいしい‥‥です」 ――いのちを、ありがとう‥‥ そう告げて再び食べる蒼華に、感極まったクロエはよく頑張ったなと抱きついた。いや、締め、てる? 「うむ、苦手なものを克服し、感謝を思う汝は非常に愛しいぞアオカ!」 「クロエ、蒼華が苦しがってます。というか、私もきちんと食べてますけど」 なんか拗ね口調の九寿重は、響介が持ってきた芋煮を もぎゅっと一口で頬張る。そして、クロエのナデナデを受けてすこしばかり頬を赤くした。 「あちらでは食の感謝をしているようですが、こちらでは酒と人間への感謝でしょうか」 「友好を深めてる、って言って欲しいもんだがなぁ?」 楽しそうに笑う百舌鳥に抱きついたままワイン(に見える)ものを美味しそうに飲む月夜魅は、その言葉に首肯して微笑んだ。先程より良いが回っている気もする。 「ご所望の天ぷらです。尤も、海老などはありませんが――あとは浅漬けですが、酒を飲めば欲しくなるかと思いましたから」 天つゆとおろし大根、浅漬けまで差し出したため、おお、と百舌鳥と蜜鈴は嬉しそうな声を出す。 「お料理出来るんだぁ‥‥」 歌奏が感嘆の声を出し、早速あつあつの天ぷらを箸で取った。 「あ、新しいお皿貰ってくるねっ!」 「大丈夫です、自分でやりますよ。澄野さんは遠慮せず召し上がってください」 立ち上がりかけた歌奏を制し、お気遣いありがとうと声をかける響介。 「これはまた、酒に似合う肴が出て来おった。酔い潰れるが先か、酒が尽きるが先か‥‥」 呑み比べといこうではないか、と酒瓶を見せる蜜鈴に、かなり乗り気の百舌鳥。 「響介もやるか?」 「呑み比べには参加できませんが、楽しい酒となれば断る理由はありません‥‥小伝良さんも、ご一緒にどうですか?」 「へっ? 荒鷹陣やるの?!」 響介に呼ばれて、何故か勢い良く立ち上がった虎太郎。当然響介は『やりませんよ』と答えて彼を手招きした。 「酒‥‥十四歳になった時に少しだけ発泡酒飲んだ事があるけど、苦くて駄目だったからそれ以来飲んでないんだよね‥‥」 響介の隣に座りなおし、注がれる酒を眺めて苦笑いする虎太郎。デカンタに半分ほど残る葡萄酒を指す。 「これは飲みやすいって聞いたけど」 「そうですね‥‥果実を原料にしているので、甘みは感じやすいでしょう」 飲んでみますか、と聞かれると、虎太郎は少し考えた後――注がれた日本酒を飲み干してから、と言った。 そして、手を挙げる月夜魅も、開いた杯を一緒に置いた。 「月夜魅さんは大丈夫ですか? お水のほうが良いのでは」 「へーきです〜‥‥それともぉ、私に呑ませるお酒はないとでも、いうんですかぁ〜?」 月夜魅、目が座っているぞ。どうやら絡み酒のようだ。呑むのでしたら是非どうぞ、と言われて、嬉しそうに微笑む。 町の人が棚の上に食べ物や捕った獲物を並べている。それを見つめ、蒼華は思う。 命を受け継いで、生きるチカラを強くする。 (収穫祭。神さまに、肉を祀る、神聖な宴‥‥) ならば、自分は音楽を奏で、命への感謝を奉納しよう―― 横笛を手に取り、蒼華は感謝を乗せて演奏する。 歌奏は友の演奏を聞きながら、何処か誇らしげに蒼華を見つめている。 「お酒にも美味しいのがあるんらねー?」 ちょっと酒のペースが早すぎたようだ。虎太郎は少々呂律が回らなくなっている。 「さっきから気になってたんらけど‥‥」 と、響介の方へぐるりと振り向き、手を体の横につけて、羽根の真似‥‥をした。 「羽がある響介さんが荒鷹陣やったらすっげー格好良いと思うんら!」 ほらっ、荒鷹陣! 荒鷹陣ー! と、見本を示しているらしく荒鷹陣を連発する。 「そ、それは‥‥鷹の獣人がいらっしゃったときにやるものではないですか? 僕は鴉ですし」 ただ羽根があるだけでしょう、という言葉は虎太郎の笑い声にかき消された。 そればかりか、まぁやりましょうよ、と腕を引っ張られて無理やり立たされる。 「ほら、ちゃんと肉見ろって。焦がすぞ」 酒のアテに、と、肉を焼かされているクロエは、百舌鳥コーチの指導のもと焼き場に立たされていた。 「モズ! これ、煙がすごいぞ!」 「あー、脂がいい感じの入り方だからな〜。置き場を替えて火の当たりを調節しろ。上等な肉だ、焦がしたら自分で食ってくれよ?」 楽しいものでも見るかのような彼らを恨めしそうに見てから、クロエは額の汗を腕で拭き取る。 目に見えない、心で感じる収穫の宴の意味。 動物の肉も、野菜も。生きる力は、血肉となって身体に残る。 命をいただくのは、儀式でもあって、感謝でもある―― 「――そう強く感じるのは、獣人も人間も関係有りませんよね」 九寿重は空いた皿を重ね、両手をあわせて目を閉じる。 そして、もてなすために奔走してくれた人たちへの感謝も込めて。 「ご馳走様、でした」 |