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■オープニング本文 ここは神楽の都。開拓者ギルド。今日も一人の依頼人がここを訪れた。 「はぁい。こんにちはーっ!」 受付へ陽気に話しかける赤い着物姿の女性。年齢は、18歳前後だろうか。 「まずは、自己紹介しますねー。私は、サクヤマ・オレンです。よろしくっ!」 頭を下げた後、オレンは本題に入る。 「開拓者さんが行うアヤカシ退治に、私を連れていってほしいんですっ! もちろん、その間の護衛もお願いしますねっ!」 オレンの職業は物書き。物語を生み出し、それを版元――印刷や本の作成にかかわる業者に渡すことで収入を得る。 「そんな、私の得意とするのは恋愛小説! っていうか、ぶっちゃけ、恋愛小説しか書いたことがありません!」 えっへん、胸を張るオレン。が、数秒後、がっくりとうなだれた。 実は先日、オレンは版元にこう言われたのだ。 恋愛物語ばかりだと、いつか読者に飽きられる、と。そして、開拓者がアヤカシを倒す、冒険物語の執筆を勧められた。 でも、とオレンは困ったような顔をする。 「私はアヤカシとの闘いなんて見たことがありません。だから、うまく想像できなくて。 書くためには、私のこの目でアヤカシ退治を見ないといけない、そう思ったんです。 そこで、『アヤカシ退治へ同行させて頂くことと、その間の護衛』をお願いしにきたってわけなんですよー」 そして、顔の前で指を一本立てた。 「ただ、一つ頼みたいことがあります。 戦いを見たことがない私でも――戦いは怖くて厳しいものが多いんだろうな、ってことは分かります。 ――でも、私の読者には若い女の子も多いです。おませな子供が読んでることも。 そんな子たちに、怖くて厳しい戦いは、見せたくありません。 ですから、同行して下さる方は、美しく、華麗に、心踊るように――戦ってくださる方だと嬉しいかな! 例えば、ほら! かっこいいポーズを決めながら、必殺技を出したりするようなっ!」 オレンの話を聞いた受付は一考する。ちょうど、余り強くなさそうなアヤカシの退治が依頼されていたはず。 都近くの街道で、鬼が旅人を襲っているので退治して欲しいというもの。 その依頼書を、オレンに見せるとオレンは快諾した。 「じゃあ、その鬼退治に、私同行しますね! あ、そうそう。アヤカシの退治が終わったら、報酬とは別に、ご馳走させてもらいます。いい焼き鳥の屋台、知ってるんですよ〜。 ではでは、お願いしますねっ!」 |
■参加者一覧
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
千亞(ib3238)
16歳・女・シ
東鬼 護刃(ib3264)
29歳・女・シ
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●登場! 我らが開拓者!! 青空に浮かんだ雲が、ゆっくりと動いていた。風は地上にも吹く。街道の脇の草やタンポポが揺れる。 道の中央を歩くのは、八人の開拓者と、彼らの依頼人、オレン。 オレンは筆と手帖を取り出している。 「アヤ、アヤカシが出てくるのは、この辺りですねっ。皆さん、がんばってください。私もしっかり見届けさせていただきま――鳳珠さん、なにか?」 オレンは、緊張ゆえか上ずった声で述べていたが、鳳珠(ib3369)の仕草に声を止めた。 鳳珠は、前方の茂みを指差している。 「オレンさん、後ろに下がってください。あちらに――鬼が」 鳳珠は瘴索結界を使用し、茂みの向こうに気配を感じ取ったのだ。数秒後、茂みから、かさり、音がした。 四体の鬼が、開拓者の前に姿を現す。三体の手には錆びついた斧。一体は弓を持つ。いずれも、ぼろ布のような衣服を身につけていた。 牙をむき出し、キシャアと吠える鬼。だが、 「眠れる龍が誘うは、冥府魔道に堕ちる夢。東鬼が守護刀、此処に推参じゃ」 東鬼 護刃(ib3264)の声が、鬼の声を打ち消した。超越聴覚で敵の気配を察していた彼女は、今、先頭に立っている。 その隣には、千亞(ib3238)。 「子兎だって時に獰猛、飛び跳ね貴方に喰らい付く! 忍兎・千亞、ここに参上ッ! ですっ」 明るくも力強い声。頬に指をあて、魅惑的に笑む。 一人の拳士が、棍を頭上で回転させた後、構えをとった。 「白き虎の棍術士、稲妻が如く鬼を討つ!」 名乗り通り、白い虎に似たいでたち。彼女の名は趙 彩虹(ia8292)。 「アヤカシの脅威に怯える人々を救うため、神の愛を伝えるため、教会神父エルディン参上!」 杖の先端を鬼達に向けるのは、金色髪の男。エルディン・バウアー(ib0066)だ。 名乗りをあげた四人は、残る四人とともに、ポーズを決める! 我らこそが正義の開拓者だと。 「うふふ、ミナギッテきましたよ〜」 ポーズを解いたサーシャ(ia9980)は細めた目で敵を見ながら呟いた。敵の背丈よりも長い両手剣、その剣を上段に構える。 「危険を冒してまで取材しにくるオレンさん……彼女が望むものが見られるよう、頑張ってみせる」 一瞬だけ、後ろのオレンを振り返ったのは、ラシュディア(ib0112)。口の中で呟きつつ、敵へ一歩を踏み出す。 「合戦を思い出しますね――オレンさんの期待に添う動きをしてみましょう」 エグム・マキナ(ia9693)が冷静な口調で皆に呼び掛ける。仲間からの返事を聞きつつ、精神を集中した。 ●始めよ、敵との戦いを! 前方からは、三体が斧を振り回し開拓者に迫ってきている。弓鬼は矢をつがえていた。 エグムは六節と猟兵射を組みわせる。 「――弓より出ずるは猟兵の矢、好きにはさせません」 宣言した次の瞬間、弓鬼が悲鳴をあげた。エグムが矢を肩と腕とに命中させたのだ。 仲間を傷けられた斧鬼たちは、怒っているかのように目を見開く。エグムに向かって殺到した。 だが、鬼どもの前に、サーシャと彩虹が、立ちはだかる。 サーシャは腕を振りおろす。両手剣が風を切り裂きながら、敵の頭部に迫った。斧使いはかろうじて、斧でその刃を防ぐ。 「技術はやや私に分があるようですね〜。‥‥なら」 小声で言うサーシャ。反撃してくる相手の斧の刃に、己の剣の刃を激しく叩き込む。火花が飛び散り、金属同士が音を奏でた。 その隣では、鬼が彩虹を狙い、斧を振り回していた。 彩虹は、後ろに一歩下がることで、斧を避け、あるいは、敵の腕を棍で弾いて防御する。 「激しい攻め‥‥これでは、反撃する余裕すら‥‥っ」 敵の力や癖を観察しつつ、オレンに聞こえるように発言。敵の強さを演出した。 ラシュディアも斧鬼の一体へと接近していた。ラシュディアは片手で手裏剣を投擲する。 「矢がオレンさんに行けば危険だからな。――小細工を使わせて貰うっ」 手裏剣は斧鬼には当たらない。彼を通り過ぎ、その後ろにいた弓鬼の体を傷つけた。精密な打剣で、弓鬼を牽制する。 一方、オレンは、戦場を見ながら筆を動かしていた。彼女の膝は僅かに震えている。初めての戦闘に、動揺しているようだ。 前方に立つエルディンが、オレンを見る。大丈夫、貴女は私が守ります――そんな意志を籠めて笑う。歯が陽光を反射して光った。 「精霊の加護と祝福を与えましょう、アーメン」 エルディンは首の向きを元に戻すと、精霊力を千亞と護刃の体内に満たす。 「焼き鳥のた‥‥もとい、オレンさんのお仕事を成功させるため、全力を尽くします。――突入されるお二人も、お気をつけてくださいね」 鳳珠が舞う。軽やかに、それでいて品を崩すことなく。舞に籠めた想いと精霊の助力とで、仲間達を強化する。 「準備はよいか、千亞?」 「はいっ! 連携していきましょうっ」 仲間の援護を感じながら、千亞と護刃は早駆する。斧使いたちの脇をかいくぐり、敵後衛、弓使いの前に立った。 護刃が苦無を敵の足元に投擲する。態勢を崩す鬼の胴。その胴を、千亞が殴りつけた。 弓使いも反撃の矢を千亞に放つ。矢の勢いは鋭い。が、千亞は高く跳び、矢を回避する。 ●今だ! 今こそ、アレを使うとき! 闘いが続く中で、開拓者たちは無傷ではいられなかった。しかし開拓者たちも、鬼――特に弓鬼に深い傷を負わせていたのだ。 「ウオ、オ、オオ!」 傷だらけの弓鬼は腕の筋肉を盛り上がらせる。渾身の一射を放とうとする。だが、攻撃する直前。 「好きにはさせない――そう言いました」 エグムが牽制の矢を放ち、弓鬼の動作を妨げた。――結果、弓鬼の矢が突き刺したのは、開拓者たちではなく、地面。エグムは仲間へ告げる。 「さあ、今です」 護刃と千亞が、同じタイミングで地面を蹴った。互いに背中合わせに立つ。体の側面を弓鬼へと向けた。 「喰らえ我が焔!」 「踊れ我が炎塵!」 二人は、声をそろえる。 「「焼き尽くされよ、『龍兎炎舞』っ!!」」 二人の体から弓鬼へ、紅蓮の炎が噴き出した。圧倒的な熱が、敵を包む! 炎の中で、弓鬼は息絶えた。 残る鬼は、斧鬼が三体。 弓鬼を狙っていた者も、斧鬼達への攻撃に加わる。 斧鬼の一体、その額に汗が浮かびだす。息遣いが荒くなっている。疲労しているのだ。 「今が好機!」 彩虹は相手の懐に潜り込む。 「趙家棍術我流絶招『天雷虎吼旋』」 みぞおちに拳を叩き込み、敵を数歩後退させる。さらに彩虹は、体中の気を限界まで集中する。棍を白く輝かせた。下から上へ、敵の顎を突く! その威力は、斧鬼の体を宙に舞わせる。斧鬼は地面へ仰向けに落下、もはや起き上がらない。 「オーラドライブ! チャァァァァァジィイッアァァーーップ!」 空気を震わす声は、サーシャのもの。サーシャは別の斧鬼に対峙していた。切っ先を天に向けた両手剣、その剣を脇構えに構えなおす。 「オォォォラァッ! ストラァァァァーーーッシュ!」 サーシャは腕に力とオーラを籠める。大剣を振り抜く。見えぬほど早く。サーシャの斬撃は、鬼の胴を命ごと断ちきった。 「みなさん、すごいっ!」 戦場を凝視するオレンの顔に、もはや動揺はない。手を乱暴に動かし、手帖に自分が見たこと、感じたことを綴っていく。 オレンは視線を動かした。ラシュディアの方へと。 ラシュディアへ、鬼が斬りかかる。斧を棍棒のようにスイングする。 ラシュディアの体が後方に飛んだ。地面へと倒れる。 オレンが悲鳴をあげる。仲間達も彼の名を呼び、あるいは大慌てな様子で彼に駆け寄る。 「すまない、俺はもうダメだ‥‥だが、ヤツを、ヤツを必ず‥‥」 何かを堪えるような、絞り出すような声でラシュディアは言う。 エルディンは、ラシュディアの前で片膝をついた。 「ラシュディア殿ーー! ああ、死んではなりません。お願いです、目を開けて‥‥っ」 彼の手をとりつつ、悲痛な声を作る。鳳珠も、倒れた仲間の元に移動していた。 「‥‥皆さん、ラシュディアさんは私が必ず回復させます。皆さんは、鬼の退治を――」 鳳珠は、右手に神聖な光を宿し彼の傷を癒しながら、残る仲間へ言う。 エルディンは鳳珠に促され、アヤカシに向き直る。瞳に浮かべるのは、怒りの色。 「私を怒らせないほうがいい。アヤカシよ、瘴気に還れ!!」 神父服の裾を揺らしながら、打ちだす一撃はアークブラスト。光と電撃! 「ひぎゃあああああ!」 最後の鬼が断末魔の悲鳴をあげ――動きを止めた。 戦闘が終わる。ラシュディアは既に立ちあがっていた。 「この鬼たちに、同情なんてできないけど‥‥せめて簡単でも弔ってやりたいんだが、良いかな?」 オレンや仲間の了解を得てから、目を閉じ鬼達に祈りを捧げた。 鳳珠は瘴索結界で、討ち漏らしがないことを確認した後、舞う。鬼の魂が鎮まるようにと、穏やかな所作で。 ●闘い終わった、その後は 西の空が赤く染まりだしている。 開拓者たちは都へと戻ってきていた。今は、屋台の前に座っている。タレの焦げる匂いが、開拓者の鼻を刺激していた。 「皆さんの名乗り、連携、必殺技! なにより、友情の力! しっかり、見させていただきましたっ!」 オレンの言葉に、護刃が笑んだ。護刃の片手には、肉厚のしいたけが刺さった串。 「あの戦いぶりで良かったようで何よりじゃ。 ときに、オレンよ、お主は恋愛物しか書いたことがないというが、冒険物と恋愛物、併せた物語紡いではどうじゃの?」 と提案する。 護刃の言葉を聞き、エグムが頷いた。 「そうです。どのような物語であれ、最終的に読み手をひきつけるのは共感覚‥‥。 と、脱線する所でした。要は活劇を書くとしても、そこで恋愛物を捨てる必要はない――ちなみにこれは教本に‥‥」 誰にともなく、延々と説教し続けるエグム。彼の手には、酒の入った器。エグムの目の焦点が微妙にあっていない。酔っているのだ。 「あらあら、飲み過ぎには注意してくださいね〜」 サーシャは、麦の酒と砂ずりの歯応えを堪能していた。が、エグムの様子を見て、優しく語りかけた。 ラシュディアはモモ肉の串にかぶりつく。その隣では鳳珠が、上品な動作でゆるりと、つくねを食べていた。 モモ肉をかめば、脂が口の中に広がる。つくねは柔らかい口当たり。 「楽しみにしてたけど、うまくて良い店だな」 「ええ、本当に」 二人して頷き合う。 「つくね、おかわり! ですーっ。――あ、そうだ、オレンさん。あたし、物語読むの、好きなんですっ。後でサインいただいていいですか?」 千亞は屋台主に元気いっぱいに注文をしていた。ふとオレンの方を向き、彼女にサインを頼む。 「勿論ですっ。開拓者の皆さんには、本当に感謝しきれない程お世話になりましたから、私のサインでよければっ」 オレンは千亞の言葉にこくりとうなづく。 エルディンがオレンの方を向く。輝かんばかりの笑みを浮かべて見せた。 「いいえ、感謝するのは私のほうですよ、オレン殿。あなたの物語が素敵なものになれば、私も嬉しいですしね」 梅しそささみを食べていた彩虹も、言葉と笑顔を添える。 「はい、私からも感謝です。スッゴク楽しい依頼でしたから! 本当にありがとうございました!」 二人の表情と言葉を見て聞いて、オレンの瞳が潤む。感極まったのか。 「私もすごく貴重な体験でした。――皆さんの活躍をもとに、きっと素敵な物語、紡いでみせます!」 開拓者とオレンは、会話と食事を楽しみ続ける。彼らの頭上で、いつしか星が姿を現し、またたいていた。 |