楽しみを奪うモノ
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/30 20:04



■オープニング本文

 とある村。広場の中に、三人の子供がやってきた。
 三人は持ってきた毬で、遊び始めた。毬を投げ合い、きゃっきゃ、うふふ、ええい、やったなー! ‥‥と笑い合う。
 数分も遊んだころ、広場の隅にある土蔵、その扉が、ギギギィと開いた。
 中から現れたのは、緑色の、巨大なトカゲ。長さは大人の背よりも大きい。
 トカゲはただの動物ではない――明らかにアヤカシ。それが二体。
 生臭い匂い――。子供たちに向けた顔、その口を開いたとき、口の中から赤い液体が落ちた。
 子供たちは、持っていた手毬を捨て、逃げ出した。取り残されたトカゲは、口から白い糸の様なものを吐き出す。糸は手毬に絡みついた。
 糸に覆われた手毬に、トカゲは歩み寄り、体を回転させる。尻尾で手毬を叩き潰す。そして、再び蔵の中に戻った。

「‥‥という出来事が、近くの村であったようです。そのトカゲ二匹はアヤカシに相違ないでしょう」
 ここは、神楽の都の開拓者ギルド。仕事はないかと開拓者に尋ねられた事務員が、依頼を紹介しているところだ。
「アヤカシは二匹とも、蔵の中から未だ動いてはいないようです。村人が先ほど、退治して欲しいと、依頼をしにやってきました」
 アヤカシがいる蔵の中は、開拓者全員が入って戦うことはかろうじてできるだろうが、広くはない。
 また、蔵は村の広場の中にある。広場はそれなりのスペースがある。
「ただ、蔵の中には、村にとって大事な壺や書物があるようです。アヤカシの撃破を優先しては欲しいが、できれば、それを壊さないように――とのことです。
 広場に誘い出し戦うなど、工夫をすると、喜ばれるのではないでしょうか」
 事務員はさらに付け加える。
「このトカゲと同じ種類であろうものが、別の村でも目撃されています。別の村に現れたものは、既に他の開拓者に退治されたようですが。
 このトカゲは、子供達が遊んでいるところや、村祭りで皆が踊っているところ等、人が楽しんでいる所に姿を現すことが多いようです。
 かなりの怪力。また、蜘蛛の糸のようなものを噴きだし、動物の動きを封じて喰らったところも目撃されています」
 事務員は開拓者の目を見つめた。
「アヤカシは一般人にとっては、とても恐ろしいもの。依頼に来た人も目に見えて震えていました。彼らの平穏の為にも、また、子供達が安全に遊べるようになるためにも――
 引き受けていただけないでしょうか?」


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
桐(ia1102
14歳・男・巫
空(ia1704
33歳・男・砂
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
クルーヴ・オークウッド(ib0860
15歳・男・騎
志宝(ib1898
12歳・男・志
御影 銀藍(ib3683
17歳・男・シ


■リプレイ本文

●アヤカシをいざなう、蹴りと舞い
 足元に生えた草が太陽の光を反射していた。草の中には、小さな花が幾つか混じる。
 ここはとある村の広場。隅には、土蔵が一つある。
 その広場の中央で、志宝(ib1898)とクルーヴ・オークウッド(ib0860)、御影 銀藍(ib3683)が球を蹴り合っている。
「蹴球ってええっと、思いっきり蹴っちゃえばいいんですよね――えいっ!」
「ええ、細かいルールは抜きにして、思いっきり蹴って、思いっきり楽しみましょう。ほら――シュート〜ッ!」
 志宝は球を明るい掛け声とともに蹴り飛ばした。
 球を受け止めたのは、クルーヴ。クルーヴも力強い蹴りを披露する。球はまっすぐに跳び、銀藍の胸に当たって弾かれた。
 銀藍は仲間と共に蹴球に興じつつも、土蔵の入口に注意を払い続ける。
「今回のアヤカシは、楽しそうな所に現れるということでしたが‥‥」
 小さく呟いた。

 桐(ia1102)と菊池 志郎(ia5584)は少し前まで仲間と共に、広場の入り口を、村から借りた木材を使って簡単に封鎖していた。今は、蔵の前にいる。
 二人は視線を交わす。
「私達も始めましょうか‥‥菊池さん、お願いします」
「はい、かしこまりました。桐さんの舞いに、俺の笛の腕が追いつくのか、それが心配なのですが‥‥」
 志郎は横笛にそっと口をつける。明るい音色が響き始める。紡がれる曲は軽やかな調子のもの。
 桐が舞う。志郎の曲に合わせ時にゆったりと、時に激しく。桐の手首に巻かれた白布が、舞いに合わせ宙に揺れる。

 球を蹴る音、掛け声、笛の音、踊り――全てが調和し、賑やかな雰囲気を作り上げていた。
 そこに、ガタン、と音。音は蔵の中から。
 扉が内側から開いた。中から、大トカゲの姿をしたアヤカシ二匹が姿を現す。
 犬神・彼方(ia0218)は蔵から離れた位置で、遊ぶ皆を見守っていた。トカゲの出現を見て、後ろ手に回していた槍を構える。
「賑やかさぁに惹かれて出てきたぁね? もう少し此方へ来てぇもらおうか」
 そして、彼方は息を吸い込む。吠えた! 大地を揺らさんばかりに強く。
 咆哮は、トカゲの一体に怒りをもたらす。トカゲは目を大きく見開き、四本の脚を動かす。彼方に向かって突き進む。もう一体も、開拓者に向かって駆けた。

 柊沢 霞澄(ia0067)は蔵の脇に潜んでいた。彼女の近くに、埋伏りで気配を消した空(ia1704)もいる。
「蔵の中に、瘴気は残っていません‥‥。空さん‥‥」
「俺の心眼でも、あの二匹以外のアヤカシは視えねェ。‥‥さって、一仕事ヤろうか」
 二人は、蔵の中をそれぞれの能力で確認した後、扉を閉める。そして、アヤカシへと向きなおった。

●闘いの始まり
 桐は後ろに下がりながら、まだ舞い続けていた。
「鬼さん、こちらですよ〜」
 間延びした声と笑顔、白布のひらひらとした動きでトカゲ一体を誘う。
『キシャアアア!!』
 トカゲは喚きたて、口から一筋の糸を吐く。だが、桐の動き――月歩がトカゲの目をくらませていた。糸は見当外れの方向に飛ぶ。
「桐さん、無理はなさらないでくださいね」
 志郎は既に演奏をやめていた。己の影を伸ばす。影はトカゲに巻きつき動きを封じた。
 トカゲは慌てた様子で手足をばたつかせる。蔵の方向へと体を反転させた。
 だが、振りむいたトカゲは見る。至近距離まで迫る空の姿を。
「ヒッヒッ!」
 唇の端を釣り上げ、笑う空。
 空の腕が閃く。次の瞬間には、刃がトカゲに新たな傷を作っていた。
 トカゲはなんとか反撃の一打を放とうとするが――
「させません‥‥」
 霞澄が白き光を放ち、トカゲの尾に命中させる。トカゲの動きを妨げた。

 もう一体のトカゲは、彼方に接近していた。彼方へ、白い糸を吹きかける。糸は彼方の体に巻きついた。
「人様ぁが楽しんでいるとこぉを、糸で縛ってまで邪魔しようなんざぁ‥‥粋じゃないアヤカシだぁね。だけど‥‥全く動けないわけじゃぁない」
 彼方は、糸に巻きつかれた体を強引に動かす。式を生成、トカゲの手足を呪縛する。
「彼方さん、大丈夫ですか? 多分これで、何とかなるはずっ」
 志宝が彼方の隣に立った。己の刃に炎を纏わせ、彼方を縛る糸を、さっとあぶって無効化する。
 返す刀で、トカゲの顔面を斬りつけた。
 さらに、胴体に二本のクナイが突き刺さる。正確な狙いと速度。それを放ったのは、銀藍。
「クルーヴさん、今のうちに‥‥」
「了解しました!」
 淡々とした銀藍の声に、クルーヴが応じた。クルーヴは、トカゲの側面に回り込む。剣の柄を握る手に力を入れる。姿勢を低くして、相手の足に――斬撃!
 トカゲの態勢を大きく崩す。

●力と技の応酬の末に
 開拓者の猛攻は続く。数の優位を十分に活かし、二体をそれぞれ個別に包囲する。二体に連携を取らせないまま、確実に敵の足に胴に首に傷を負わせていく。
 今も、銀藍が攻めていた。口を大きく開けたトカゲへ、
「蜘蛛の糸を吐かれるのは、厄介‥‥。なら、こうすれば‥‥」
 銀藍は、刀を振るう。上から下へ刀身を叩きつけ、口を無理やりに閉じさせる。
 積み重ねられた傷ゆえか、トカゲの動きには無駄が目立つようになってきていた。
 にやり、笑ったのは、彼方。傍らにいた志宝へ告げる。
「連携攻撃で決めといこぉか、志宝?」
「はい、いきましょう。それほどの強敵とは思えませんが、長引かせれば打ち漏らす可能性も出てきますしね。――さあ、トカゲさん、こちら♪」
 志宝は腕を動かす。炎魂縛武によって強化された刀が、トカゲを両断せんばかりに斬る。
 彼方は志宝の反対側に回る。式の力を纏わせた穂先で、トカゲの体を貫く!
『ヒッギャアッ!!』
 トカゲの口から漏れる悲鳴。

 トカゲは肌に無数の傷を負いながらも、しかし、まだ倒れない。
 体をすばやく回転させる。長い尻尾を志宝の腹に叩きつけた。打撃の威力に、体が一瞬持ちあがる。体がくの字に曲がる。志宝は膝をつきそうになるのを堪えつつ、負けないよ、と視線で敵に告げた。
 もう一体のトカゲもまた、尻尾を振り回す。勢いの強いその一撃は、空の膝の頭を激しく叩いた。前のめりに倒れる空。
 だが、
「精霊さん、皆さんの怪我を癒して‥‥」
 霞澄が祈る。小さい声に、『大きな怪我をさせない』という強い意志をこめて。
 霞澄の体が淡く光り、その光が周囲に広がる。傷ついた仲間たちの体を癒していく。
 倒れていた空も、ゆらり、立ち上がる。
「斬ル」
 空は忍刀を振るう。さらに精霊の白き力を、刃に宿した。トカゲを負傷させ、体内の瘴気を浄化させる。
 トカゲは、ほとんど瀕死の状態になった。トカゲの首が動く。逃げる場所を探しているのだろうか。
「逃げる場所なんてありませんよ? あらかじめ私達が封鎖しておきましたから」
 桐は、トカゲに言葉を投げかけた。白塗りの杖の先端をトカゲへ向ける。
「ええ、逃がしはしません。それと――隙だらけです」
 志郎は地面を蹴る。敵との距離を一気に詰めた。刃の切っ先を敵の急所――喉元へ刺した。
 桐も呼応し、力を行使。精霊砲で敵の体を、撃ち抜くっ!
 トカゲは吹き飛び、地面に落下。瘴気を傷口から吹きだしながら、憎々しげに開拓者をにらみ――そして、消えた。

 残った一体のトカゲは、もはや逃げようとしない。再び、攻撃を放とうとする。その対象は、クルーヴ。
「騎士やサムライの使うスマッシュの様な技でしょうか。ガードを固めても被害はきっと大きい。――なら、前に出ます!」
 クルーヴは、攻撃を仕掛けようとしているトカゲにあえて接近。剣にオーラを纏わせ、トカゲの胴に刃を落とす!
 すでに開拓者達の攻撃に傷ついていたトカゲは――その攻撃に耐え切れない。トカゲの瞳から光が消える。トカゲは活動を停止した。

●戦闘の終結した広場で
 戦闘が終わり、広場内はすっかり静まり返る。
「‥‥これで、終わりですね‥‥」
 銀藍は、アヤカシが完全に消滅したのを確認する。構えていた刀を鞘へおさめた。

 やがて、開拓者たちは、封鎖した入口を元に戻す作業を開始した。
「全く、とんだ迷惑トカゲだったぁね」
「ああ、高級品の詰め込まれた蔵に入るとはねェ。どーにもアヤカシさんは、厄介なところにもぐりこむのが好きなようだ」
 板を取り除きながら、彼方がトカゲの方向を見ながら、苦笑い。それに応えて空は肩をすくめた。

 入口を元に戻すと、居住区から村人たちがやってきた。戦闘が終結したのを感じたのだろう。おそるおそる近づいてくる。
「開拓者様、お怪我はありませんか? アヤカシはどうなりました?」
 まだ不安な様子の村人達。
「はい、僕たちは見ての通り無事です。アヤカシも撃破できましたよ!」
「蔵の中の収蔵品も傷めてないので、そちらもご安心ください」
 志宝は元気な声で、クルーヴは丁寧な口調で、報告する。ともに、村人たちを安心させようと。
 村人たちは開拓者の顔をしばらく見つめた後、歓声を上げる。頭を何度も下げた。

 大人達の声を聞きつけて、子供達も広場へと走ってくる。
 霞澄は子供たちに近づく。屈み気味になり、彼らと視線を合わせた。
「もう大丈夫‥‥」
 優しく告げる。霞澄は、子供たちに毬を差し出した。アヤカシに壊された毬の代わりにと。
「うわあ! 貰っていいの? 有難う、おねえちゃん!」
 子供たちは弾んだ声を出し、球を受け取った。親らしき村人も、また頭を下げ、礼を言う。
「もしよろしければですけれど、蔵のお片付け、お手伝いさせていただけないでしょうか? アヤカシのせいで荒れているかもしれませんから」
 桐が、村人たちにそう申し出る。村人たちは恐縮しながらも、ありがたがる。
 他の数人も片付けの協力を申し出た。
 志郎も片付けをすべく蔵に向かっていたが、ふと視線を動かす。子供達が霞澄から受け取った毬で遊び始めていた。えい、やぁ、とはしゃぐ声。
 その様子を見て、志郎は小さな笑みを浮かべた。
 平和を取り戻せた、そのことを喜ぶのだった。