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■オープニング本文 武天。とある村から少し歩いたところに存在する、洞窟。奥には広い空間があった。 そこで闘っているのは、二人の開拓者と、五体の鬼。 鬼たちは無傷ではない。床にこぼれた血のいくらかは、鬼どもの血。 しかし、より深く傷ついているのは、開拓者のほうだ。 「ただの間抜けな鬼なら、容易く倒せると思ったが」 開拓者の片方が舌打ちする。 敵は、開拓者の想像以上に戦上手だったのだ。 前衛に立つ二体が金棒で、開拓者の刀を受け止める。さらに別の二体が後衛からダーツのような凶器を投げてくる。 後衛には、鬼たちの首領格もいた。頭に、草で作った冠のようなものをつけている。この首領は、攻撃は不得手のようだが、仲間一人の傷を癒す力があった。 「敵に、背を見せるのは、屈辱だが……」 「まだ余力のあるうちに……」 開拓者二人は敵に背中を向けた。傷の痛みをこらえ、全速力で逃げ出す。 鬼たちは、反撃を警戒したのか、追いかけてはこない。 しばらくして、武天の開拓者ギルドに、一人の村娘が訪れた。彼女はギルド員へ次のように説明した。 『村の近くを、とある依頼を遂行中の開拓者二人が通りかかった。開拓者は、アヤカシを発見。戦いを仕掛けるものの、かなわず逃走。 村に立ち寄ると、村人たちにアヤカシの情報を知らせ、自分たちは本来の依頼へと戻った』 村娘はさらに、開拓者から聞いた、鬼たちの闘い方や、洞窟についても述べる。 洞窟は一本道。入り口からほんの少し歩けば、最奥のだだっ広い空間にたどり着く。その空間に、アヤカシたちは陣取っているらしい。 「村の近くに、アヤカシがいるなんて、たえられねーだ! すぐに退治してほしいだー」 と、村娘は喚く。 「お願いだ! すぐに退治してほしいだ! 倒してくれたら、お礼はするし、うちの村特製のうどんもご馳走するだよー。コシがあるのが自慢だよー」 村娘は、今にも泣きそうな顔で続ける。 「どうかどうかアヤカシ退治をおねがいするだー」 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
四条 司(ia0673)
23歳・男・志
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
銀雨(ia2691)
20歳・女・泰
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
李 風龍(ia9598)
24歳・男・泰
九条・亮(ib3142)
16歳・女・泰
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●そこにつくまで 暑い。湿度も高い。空気が肌に絡みついてくるようだ。近くで、蝉が鳴いている。 開拓者たち八人は、整備がされていない草だらけの道を歩いていた。両脇には背の低い木々。ここは、村から洞窟へと続く道。 「今のうちに、報告されたアヤカシの情報や地形情報を、きっちり再確認しておこうか」 「ええ。作戦についても、もう一度打ち合わせしておきましょう。‥‥相手は、侮れる敵ではないようですしね」 星風 珠光(ia2391)と四条 司(ia0673)が提案する。八人は歩く足を止めぬまま、打ち合わせに入った。 「統制のとれた鬼か。‥‥厄介だな」 「確かに、そういうのは少し勘弁していただきたいところです」 打ち合わせを終え、李 風龍(ia9598)が眉を寄せる。小さくため息をついたのは、万木・朱璃(ia0029)。 「けどよ、どんなに手ごわくても――やるしかねぇだろ?」 銀雨(ia2691)は己の拳に目をやると、不敵に笑んでみせる。 「銀雨の言うとおりだわい。――なんにせよ最善を尽くし、さっさと片付けるとしよう。村人には、食事の準備を頼んでおいたことだしの」 バロン(ia6062)が同意の言葉を発した。 「ではでは、金銀財宝はないけれど、手打ちうどんと成功報酬の為に頑張っていこ〜!」 「はい、頑張りましょう。私も戦闘の補助や支援、治療に全力を尽くさせて頂きます。よろしくお願いいたしますね」 九条・亮(ib3142)が片手を突き上げ、檄を飛ばす。その言葉に、鳳珠(ib3369)は勇気づけられたようだ。頼もしげに亮や仲間を見た。 しばらく歩いた後、開拓者は足を止めた。道はもうすぐ崖の岩壁に突き当たる。その岩壁の一角に――目指すべき洞窟が見えた。 ●鬼の団結を上回れ 八人は、洞窟に侵入した。広い空間、その入口にたどり着く ――ギギギ。ギィィ。 人ならざる声。声の主は、五体の鬼。 開拓者が鬼に気づくのとほぼ同時、鬼もこちらに気づいたようだ。 首領らしき、草の冠をかぶった小柄な鬼が、青い光を放つ瞳を開拓者に向けた。ソレを取り囲むのは、手下だろう四体の鬼。 手下どもが武器を構える。その手にはとげのついた金棒や、先端の鋭い投げ矢。 朱璃は瘴索結界を張った。 「前方の敵以外の反応はありません。伏兵はないようですが、念のため警戒を続けておきます。ですので、皆さんは目の前の敵を――危ない!」 仲間達に告げていた朱璃。彼女の目が開かれる。すばやく警告の言葉を発した。 前方にいた敵が、迫ってきていたのだ。筋肉質な鬼の腕が、金棒を振り落とす。標的は、心眼で周囲を探っていた司。金棒は司の肩を打った。 「大丈夫――敵は五体のみ。作戦通りにやれば、勝てるはずですっ!」 司は痛みを堪え、声を張る。黒き槍、その穂先に炎を纏わせ――敵の腹へ突きを放つ。 「ですが、ご無理はなさらないように。戦闘に支障が出ると思われたら、無理せずに後退してくださいね」 鳳珠は仲間を案じる色を目に浮かべながら、舞う。二種の舞いを織り交ぜ、ときに軽やかに、ときに穏やかに。舞うことで精霊の加護と助力を仲間たちに与えた。 己が強化されるのを感じながら、風龍が動く。金棒の鬼の前へ。相手の脇腹に打撃を当てる。骨法起承拳! 「これは中に来るぜっ! お前みたいな防御固めてる奴でも、効くだろうがっ?!」 風龍の打撃に、金棒使いは苦痛を顔に浮かべた。よろりと、一歩さがる。脇腹には、打撃の痕。 だが、金棒使いの体が光り、打撲の痕が消えた。奥にいる首領が不可思議な力で癒したのだ。 ――ギャッハーッ! 首領は、笑う。耳障りな声。首領は開拓者達に向かって片目をつむり、舌を突き出して見せた。開拓者たちを挑発しているのだ。 金棒の鬼のうち、もう一体も笑いながら、開拓者たちに接近してきていた。 「いつまでそんな風に笑ってられるのかな? さあ、鬼退治だよ〜!」 亮は陽気な声を投げつつ、自身の体を気の力で赤く染める。そして、近づいてくる鬼の下腹部へ、拳を突き出した。その一撃は――空気撃。 拳は命中する。鬼は苦痛に顔を歪めたまま、腰を落とした。 「行くなら今だぜっ、バロンさん、珠光!」 鋭い声は、銀雨のもの。銀雨は後衛から、敵を観察し続けていたのだ。 銀雨の言葉に応じるように、バロンが地面を蹴った。駆ける。金棒使いを迂回した。墨色に染められた弓を引き絞り、 「鬼の大将よ。――戦の定石にのっとり、真っ先に潰させてもらおう」 狩射を放つ。バロンの矢が首領の体めがけて飛ぶ。 黒い浴衣を着た珠光もまた、金棒使いを迂回するように動いていた。呪殺符「深愛」に念を込め、術を行使。 「我が式神よ‥‥天護を模り、敵を討ちなさい!」 彼女の朋友の姿に似た式神が現れ、鎌で首領の体に切りかかった。 二人の攻撃に、首領の頬と肩から、血が流れた。首領の表情から、笑みが完全に消えた。 ――ギギッ! 首領の鳴き声の直後――後衛の二匹、投げ矢を使う鬼が首領をかばうようにたち、バロンと珠光に矢を投げてくる。 矢の狙いも速度も甘くはない。しかし、二人は己自身の力と仲間の加護で、投げ矢を回避した。 その後も開拓者八人の猛攻は、敵にダメージを与え続けた。 それでもなお、敵は粘った。首領は踏みとどまる。手下たちも転倒したものは立ち上がり、目の前の敵や首領に攻撃を加えるものを、苛烈に攻めた。 敵の攻めに司は後退を余儀なくされた。後ろに下がった彼の背中に、鳳珠がそっと手を置いた。 「きっとあと少しです。お互いに頑張りましょうね」 鳳珠は柔らかな言葉をかけながら、精霊の力で仲間を癒す。 鬼の首領もまた、癒しの力を使用していた。己に向かって。 「わしの射程内で悠長に回復か。愚かな」 バロンは視線を一層鋭くさせる。六節を実行し、二本の矢で首領の両足を射抜いた。 「お互いが弱点を補いあう‥‥少し厄介だったけど。でも、これで終わらせる。――我が式神よ‥‥!」 珠光は目を閉じ精神を集中する。招鬼符を使い、首領の体に深い傷を刻みつけた。 ――ガ、ァァァ! 身をのけぞらす首領。 一方、金棒使いは、今まで以上に激しく金棒を振り回していた。 投げ矢使いたちだけでは、首領を守りきれない。一刻も早く目の前の敵を倒し、首領を助けないと――そう、判断したのだろう。 金棒が、風龍の体を打った。衝撃の強さに、風龍の膝が揺れる。が、それでも、彼は瞳から闘志を消さない。掌の底を、相手の脳天へめり込ませた。 「バランスを崩されると、二本脚のものはいとも容易く転倒する。焦りで態勢の崩れた状態であれば、なおさらだ」 直後、鬼の背中が地面についた。 「これ以上は、もう、なんにもさせないよ? 御臨終するまで殴り倒すんだから」 倒れた鬼へ亮が近づき、その顔面を踏んだ。――ウグゥ、無様な声を上げる鬼。亮は容赦しない。屈みこみ、踏んだのと同じ場所に肘を落とす。 金棒使いのうちもう一体は体の向きを変え、首領を狙う者たちへ接近しようとしていた。 だが、銀雨が走り抜き、その鬼の背後をとる。唇の端を釣り上げた。 「後ろからごめんなさいよっと」 銀雨は泰練気法・壱で己を強化し、敵の後頭部へ踵を打ち付けた。鈍い音。金棒使いは動きを止める。めまいを起こしたのだ。 前衛の鬼が崩れている間に、司と朱璃は戦術的に有利な位置に移動していた。一瞬だけ視線を交わしあう。 「今が好機。畳みかけさせていただきましょう。――雷鳴剣っ!」 「巫女が何時までも回復ばっかりしていると思っていたら――大間違いですよー♪」 刃の形をした雷と精霊力の砲弾が、首領を襲い――そして、首領の息の根を止めた。 首領は消滅し、被っていた草の冠が地面へ落ちる。 ●報告、お礼、笑顔 残された鬼たちの顔には、怯えがはっきり浮かんでいた。開拓者たちは彼らが戦意を取り戻すのを許さず、彼らを無に帰していく。 戦闘終了後、開拓者たちは、アヤカシの残党がいないことを十分に確認したのち、洞窟を立ち去った。 開拓者たちは村へ立ち寄った。依頼主である村人に、依頼を達成したことを報告する。 「‥‥というわけで、アヤカシ退治は無事終了しました」 「もはや生き残りもいないゆえに、もう心配はいらぬ」 司が真面目で実直な口調で告げた。バロンは村人たちを安心させるように柔らかく笑む。 二人の言葉を聞き、村人たちは互いに顔を見合わせていたが、やがて、 「よ、よかっただぁぁ‥‥ば、ばんざあい」 と歓声をあげた。両手をあげて喜ぶ。 そして、村人たちは約束通りうどんを好きなだけご馳走するからと、八人を村長宅へと招いてくれた。 「まず寝る。疲れてると食欲出ねーの。できあがったら起こしてクダサイ」 銀雨は、家に上がるなり、枕を借りて床にごろんと横になる。すぐに寝息を立てた。 やがてうどんが茹であがる。八人は、食卓を囲んだ。 「有り難く頂こう。――大地の恵み、そして人の労力に感謝」 風龍が両掌を重ねる。目をつむり、大地と村人たちへ感謝をささげ、おもむろに箸をとる。 「いただきます!」 亮も明るい声とともに、箸をうどんへ伸ばす。彼女の前にあるのは冷たいうどん。それを、タレに絡めてすする。卵や天カス、鰹節と言った具との相性もいい。 朱璃と珠光のうどんには、山菜の天ぷらが載っていた。 「全部終わって食べるおうどんは美味しいですねー」 「うん。天ぷらも揚げたてで、サクサクしてていいねぇ」 揚げたての天ぷらの歯ごたえと、手打ち麺のコシ。その触感を、そしてツユの味を、朱璃と珠光は存分に楽しむ。 鳳珠が食べているのは、ぶっかけうどん。茹でられたうどんに、生醤油をかけ、生卵と刻みネギを添えたものだ。村人たちに尋ねたところ、『この食べ方がおいしい』と勧めてくれたのだ。 「美味しいものを御馳走していただき、本当にありがとうございます」 鳳珠は顔をあげ、給仕してくれる村人たちにふんわりと笑む。 村人たちもまた笑みを返した。開拓者八人に向けるその笑みは、きっと心からの笑み。 |