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■オープニング本文 ●熱き砂塵 エルズィジャン・オアシスを中心とする戦いが始まった。 アヤカシはオアシス――もっと言えば、オアシスにあった遺跡の内部から出土したという「何か」を狙っている。 王宮軍と遊牧民強硬派の確執も強く、足並みも中々揃わない状況が続いている。もちろん、アヤカシはそれを喜びこそすれ遠慮する理由などはなく、魔の森から次々と援軍を繰り出しているという。 おそらくは、激しく苦しい戦いになるだろう。 しかし、何も主戦力同士の大規模な野戦ばかりが戦いの全てではない。熱き砂塵の吹きすさぶその向こう、合戦の影でもまた静かな戦いが繰り広げられようとしていた。 ●ある集落にて 戦場となりつつあるオアシス周辺から、離れた場所にある、水場。 その水場の周りには、小規模な集落が存在した。 集落内に響き渡る、人間の悲鳴とアヤカシの笑い声。 この集落は、今、アヤカシの襲撃を受けているのだ。 「おのれ、アヤカシどもっ! 許さんっ」 「許サナケレバ、如何スル?!」 男は、目の前のアヤカシを睨みつけていた。 男は砂迅騎。村を護衛する部隊、最後の生き残り。傷だらけの彼の手には、拳銃。 アヤカシは、2メートル程の体格の鬼。只の鬼ではなく、全身が血のごとく赤い。 「決まってる。こうするんだっ!」 男の指が引き金をひく。だが――。 「甘イ」 鬼の指から、小さな炎が飛んだ。男は炎に気を取られ、弾丸は鬼から大きくそれた。 「燃エロ」 鬼は大きく口を開く。その口から先ほどの何倍もの炎が浴びせられ―― 守るものの居なくなった集落を、赤い鬼とその手下どもが蹂躙する。 幾つもの家が焼かれる。人々が刺し殺される。 十数人を殺したところで、鬼と手下どもは殺戮の手を止めた。 「ウケケ! 逃ゲロ。ソシテ、伝エロ。弱イ人間ヨ!」 大音声でのたまう。 「俺サマ達ハ、暫ラク此処ニ居続ケル! ダガ――」 赤鬼は続けて言う。 自分たちを放置し置けば、他の集落を皆殺しにする、と。 ●彼の地へ 翌々日。開拓者ギルドにて。 ギルド員が開拓者に依頼の説明をしていた。 「アル・カマルの集落一つが、アヤカシに襲われ、壊滅しました」 アヤカシ達は、その集落の全ての家を焼き、多くの人々を殺害した。 アヤカシ達は、生き残った人々が集落から逃げる際、こう告げたらしい。 『しばらくは此処にとどまる。が、オレ達を放置していると、他の集落を皆殺しにする』と。 アヤカシ達は、現在集落跡にとどまっている。 「アル・カマルの王宮にも連絡は行きました。しかし、王宮軍は合戦の最中。そこでギルドに依頼が来たのです。 みなさん、どうか、彼の地に赴き、戦っていただけないでしょうか?」 避難者と、ギルドが派遣した偵察隊の証言から、敵戦力は把握できている。 敵の首領は、血のごとくの肌をした赤鬼。炎を操る。 弓術士の先即封に似た技、小さな炎を飛ばし敵を牽制する技を使う。また決め技として、巨大な火球を敵にぶつける技を使う。 手下として、化けサソリが三体。尻尾の針には猛毒があり、その針で刺してくる。 また、ハゲタカ型の鳥アヤカシが五体。怪しげな声で、敵一体を知覚攻撃する。 アヤカシ達は焼け野原となった集落の中心にいる。ハゲタカ型の鳥アヤカシは上空を飛びまわり、周囲を監視しているようだ。 アヤカシがいる集落は、別の大型集落から歩いて数時間。 その大型集落までは、首都ステラ・ノヴァから砂上船で運んでいってくれるため、移動の心配はない。 最後に。 ギルド員は伝えた。生き残った者の一人が、口にした言葉を 『私の夫は、集落の護衛で、最後まで皆を守るために戦いました。……夫の無念を晴らしてください……』 涙まじりの言葉だったと言う。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
氷那(ia5383)
22歳・女・シ
そよぎ(ia9210)
15歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●たとえ罠と分かっていても 砂漠の上を東から西へ、開拓者八人は歩き続けている。足跡を砂に点々と残しながら。 彼らが進む先には、集落、その跡地がある筈だ。 強い風が吹いた。舞い上がった砂が開拓者たちに降りかかる。フェルル=グライフ(ia4572)やそよぎ(ia9210)の、金や黒の髪にも砂がついた。けれど、二人は足を止めない。 「今回のアヤカシの動きは、罠への誘いかもしれません。けれど、彼らが人を苦しませ悲しませる存在である以上……」 「そうね、許す訳にいかないわ。『自分達を放置しておけば……』なんて偉そうなことを言ったの、後悔させてやるんだから」 フェルルが首からさげた十字架に触れながら言うと、そよぎは憤りを混ぜた声で、同意した。 建物の影が見えはじめた。目的地の集落跡はもうすぐ。慎重に前進し続ける開拓者。 氷那(ia5383)が青の瞳の目を細めた。超越聴覚で、音を捉えたのだ。 「あれを」 氷那は指差す。 前方数十メートル、集落跡のやや手前。鳥二体が飛んでいた。茶の翼に白の首。ハゲタカ型アヤカシだ。 ハゲタカも開拓者に気づいたようだ。空中で動きを止め、こちらをうかがい、そして、体の向きを変える。こちらに背を向けた。 朝比奈 空(ia0086)は掌を、ハゲタカに向ける。 三笠 三四郎(ia0163)もジルベリア産の長弓に矢をつがえた。 「首領のところまで逃げかえるつもりでしょうか? させません……ここで討たせて頂きます」 「本来なら、近づいて咆哮する予定でしたが……敵に集合されては、厄介ですしね――」 三四郎が矢を放つ。矢は外れたものの、ハゲタカを驚かし、動きを乱した。 そこへ空が氷の刃を飛ばす。刃は鳥の胴を切り裂いた。 ハゲタカは悲鳴をあげながら、羽ばたき、集落へ向かう。降下し、建物の陰に隠れ見えなくなった。 「追おう。ただし、フェルルが言ったように、罠や伏兵がある可能性は高い。探査技術をもつ者は、警戒を頼む」 琥龍 蒼羅(ib0214)は、2メートルを越える斬龍刀を鞘に納めたまま構え、皆に告げる。蒼羅の言葉に頷き、八人は再び動く。 開拓者たちは、砂漠と集落跡の境目まで辿りつく。 集落の建築物の多くは崩されている。無事に残っている少数の物も、焦げ跡が残り、あるいは黒いしみがついている。 植物たちは、焼け焦げ、あるいは折られ……生きているものは少ない。 前方から、物音。 視線の先に、巨躯の鬼が立っていた。その傍らに、サソリが一体。上空には、五体のハゲタカ。 『ククク、ヨク来タナ……ジン、歓迎スルゾ!』 血の色をした赤鬼は、唇の端を歪め笑う。 真亡・雫(ia0432)は皆に声を飛ばした。 「見えている敵だけではなく、足元にもご注意を! 地中に、不審な気配が二体、潜んでます。正確な位置は……」 心眼「集」で得た情報を、雫は皆に告げる。 その言を聞き、明王院 浄炎(ib0347)は眉を僅かに動かした。 (やはり罠があったか。だが、負けられん。死者たちの無念をはらすためにも、遺族に故郷を取り戻すためにも。そして、守らんとした漢のためにもな) 浄炎は、腕の筋肉を盛り上げる。足を一歩前に踏み出した。 ●戦う手に想いを宿し 浄炎は駆けだす。雫より聞いた地点へ移動すると、片足を高く上げる。 「主らに構っている暇はない」 上げた足を、地面に叩きつけた。 崩震脚。衝撃を、砂中に潜んでいたもの達へ叩きつける。舞い上がる砂。中から姿を現したのはサソリが二体。 その一体に、三四郎が接近する。三叉の槍でサソリ一体の尾を払い、頭に突き刺す。 「殻は決して硬くありませんね……尾の攻撃も間合いさえ注意していれば回避は……」 戦いつつも、敵を冷静に観る三四郎。 サソリどもは、与えられた傷に怒り狂う。尾を強引に振り回し、浄炎と三四郎を狙った。 「当てさせませんよ! 明王院さん、三笠さん、援護しますねっ」 フェルルは凛とした声で宣言。足で軽やかにステップを刻む。 それは精霊の助力を求める舞い。 浄炎と三四郎は、自身の体に力が満ちるのを感じた。その力を使い、左右に跳躍。サソリの尾をかわしてみせる。 三体目のサソリは雫の前にいた。サソリの針の動きは早い。雫は対処できず、刺されてしまう。刺された部分が紫色に染まった。毒に蝕まれたのだ。 そよぎは、雫の危機を見ていた。精神を集中し、砂色の杖を振る。 そよぎは、光で雫を包み彼の毒を払う。 「怪我はあたしが治すから、バンバンやっつけてねっ! あたしの結界だと、今、見えている他には、敵もいないみたい。がんばって!」 と、明るく声援をかけた。 雫はありがとうございます、小さく言葉をかけ、サソリどもへ向きなおる。 「技の出し惜しみはしない。キミ達が行ったことへの代償、覚悟して貰うよ」 太刀に白い気と梅の香りを纏わせた。そして、鋭い突き! サソリの殻を貫き、内部に傷を与える。 傷口から瘴気をまきちらし、体を震わせるサソリ。 蒼羅はサソリどもの脇を通り抜け、赤鬼に接敵していた。 「揺るがなき境地、澄み渡る水のごとく……」 蒼羅の手と2メートルの刀が消えた? 否。目視できぬ高速で動いている。 刃は鬼の腹を深く切り裂いた。 追撃をかけようとする蒼羅。だが彼の腕に、赤鬼の牽制の炎が飛んだ。蒼羅は炎に気を取られ、大きく空振りしてしまう。 『次ハ、俺ノ番ダ!』 赤鬼の拳が、蒼羅の腹を打ち据える。 氷那は、奔刃術を用い赤鬼の背後に回り込んでいた。 「加勢いたします」 忍刀を背に突き立てんとするが――体を捻った赤鬼にかわされてしまう。 氷那はそれでも止まらない。己の影を操り、鬼の体を縛り上げた。 『小癪ナァ』 縛られた赤鬼は憎々しげに氷那を睨む。 飛ぶハゲタカどもは、氷那や蒼羅を見ている。赤鬼を支援しようと口を開いた。 その瞬間を狙って、空は再び掌を上へ。 「余所見をすれば、その隙をつかれることもあるでしょう。例えば、今のように」 ブリザーストーム。ハゲタカ三体を巻き込む雪嵐を、引き起こす。 ハゲタカ一体が耐えきれず、砂上に落下。 ●決着 鳥どもは一斉に鳴く。 人を傷つける力を持つ鳴き声が、三四郎、空、フェルルを襲う。 「――くっ。……でもっ」 フェルルは、ダメージで地面に膝をつきそうになるのを、堪えた。 そして、祈る。精霊や、死者に。アヤカシを撃退する力をこいねがう。 「殺された人々にも、生きたかった、大切な想いを守りたかった……そんな想いがあったんですっ! だから、あなた達に惨劇は起こさせません! もう二度と!!」 鋭く叫びながら、雷の力を帯びた霊剣、その切っ先を天へと向ける。 そして、精霊砲!! 鳥の体を打ち抜く。 ハゲタカは断末魔をあげる暇もなく消滅。 残ったハゲタカが驚きの混じる声をあげた。 「狙い撃つ好機ですね」 空は小さく呟き、呪文の詠唱を開始。上空に氷の嵐を吹かせた。 氷がハゲタカの頭を打ち、雪が翼を覆う。また一体のハゲタカが地上に墜落した。 ハゲタカが墜落したのは、赤鬼のすぐそば。赤鬼はギリィ、と歯をかみしめた。 『ヤッテクレル……ダガ、ココマデ、ダ!』 口を開く。息を大きく吸い込んだ。喉の奥に揺れる光が現れた。 火球が赤鬼の口から飛び出した。 炎が支援を行っていたそよぎ、彼女の足元で爆発。意識を失いかけるそよぎ。 他の数人もハゲタカの声やサソリの針に少なくない傷を負っている。 勝ち誇った笑みを浮かべる赤鬼。 そよぎは片膝で立ちながら、赤鬼に指を突きつけた。 「何を笑ってるの? これ以上、人を傷つけさせたりはしないわ! あたしだって倒れないんだから!」 宣言。そして、そよぎは自分の体を光らせた。治癒の光で自分と仲間達を照らす。 開拓者全員の体から火傷や痛みが消えていく。 『ナ、ナンダト!?』 目を剥く赤鬼に、氷那は言葉をかける。彼の真横から囁くように。 「そよぎさんの言う通り、あなたがこれ以上人々を傷つけ殺めることはありません。――私たちが全滅させるから」 言葉と同時、忍刀を閃かす。赤鬼の肩を斬る。 首領の危機と見たか、サソリが氷那へ尾を伸ばす。 だが、その尾が氷那へ届くより早く、 蒼羅が、サソリと氷那の間に割り込んだ。 手は、鞘に入ったままの大刀の柄を握っていた。 「――斬竜刀、抜刀両断」 蒼羅が抜刀した次の瞬間――サソリの尾が千切れ、砂上に落ちた。居合の技「雪折」だ。 開拓者はその後も攻め続ける。 赤鬼の火球は、位置取りを工夫し、巻き込まれる人数を減らした。空やそよぎは精霊壁や閃癒を駆使して、戦線を維持。 一方で、サソリと鳥を分担し、攻撃。開拓者らは敵を屠り続け――。 残る敵は、赤鬼のみとなった。 「合戦の戦力を分散させる気だったのかもしれないけど、それももう終わり。たたみかかけるよ!」 雫は姿勢を低くし、相手の懐に潜り込んだ。鬼が牽制の炎を出すよりも早く、雫は大太刀を動かす。白梅香を纏わせた刃で下から上へ斬りあげる。 『ガアアアア!?』 絶叫する赤鬼。 『ブチ、ブチ、ブチ殺スウウウッ』 喚く。そして――限界まで口を開く。巨大な火の玉が雫に向かって飛ぶ。 爆発。飛ばされる雫の体。 『ヒャヒャヒャヒャ、ウケケケケ』 笑う赤鬼。その鬼を見ていた二人、浄炎と三四郎が目を見合わせた。 「三笠殿、ゆけるか?」 「了解です。一気に勝負ですね!」 二人は砂上を走り抜け、鬼を左右から挟む。 三四郎はしゃがむと槍を振る。鬼の足を痛打! 浄炎は体勢を崩した鬼の側頭部へ拳を叩きつける。気を宿した爆砕拳。 鬼は倒れ、砂が舞う。鬼は立ち上がらず、瘴気に還った。 ●今は亡き彼らへ 「終わったな……」 蒼羅は武器をおさめ、肩から力を抜く。激戦で乱れていた呼吸を整えた。 「ええ……他に伏兵もいないようです」 三四郎もしばらく、周囲を見回していたが、息をはき体から力を抜く。 集落跡は静まり返る。風の音だけが耳に入る。 それぞれの傷の手当て等を終えた後、 「ちょっと待っていてくれますか? この集落の方々の亡骸を探したいんです。ちゃんと埋葬できるように」 「でしたら、私もついていきます。供養したいですし……遺品を生き残った人達にお届けしたいですし」 雫が皆に言うと、フェルルが彼についていこうとする。二人の目には、死者を思う色が含まれていた。 「お手伝いさせて下さい」 と空も申し出る。静かな声で。 他の者も同行し、彼らは捜索を始める。家財道具だったと思しき残骸が転がる道を歩き、壁に穴をあけられた建物に入り……。 幾つかの遺品――無事だった衣服や装飾品等――と、そして遺体や遺骨の欠片を、開拓者たちは集めた。 地面に布をしき、集めたものたちをいったん、その上に置く。 「……」 浄炎は眼を閉じる。死者の為に黙祷しているのだ。 その隣では、 「この件に関わった者として、あなた達のことを、この集落の姿を……決して忘れません」 氷那がぽつりとつぶやいた。目を遺体たちから逸らさずに。 そよぎは、 「死んじゃった人は帰ってこない……けど、アヤカシは倒せたから、よかったのかな?」 小さく問いかける。そよぎは扇を広げ、手足を動かす。 ぎこちない、けれど懸命なそれは、鎮魂の舞。 照りつける太陽の下、開拓者たちの舞や祈りは、しばらく続いた。 |