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■オープニング本文 武天はとある村。その村の外れにある森。 その森の中の一軒家に彼女は一人で住んでいた。 森の草花を摘み薬を調合し、それを生業としている。 その薬師の少女、ランは、知識があり、また可愛い顔立ちをしている。村人からの人気も上々だ。 今、彼女の家の前に、二人の男が立っている。 「へへ……ここかよっ! その美人の薬師さまってのは」 「むっちゃ美少女だって話だぜ!」 「よっし、さっそくたずねてみっか」 扉をノックするが、反応はない。不審に思った男二人は、扉に手をかけた。鍵はかかってないようだ。そっと開けてみる。 中にいたのは―― 毛むくじゃらで猿顔の鬼――それも身長2メートルほどの。 鬼の隣には、ワシ、猫、カエル。猫とカエルはどちらも人間の子どもくらいの大きさだ。 「うほほほっ!!」 猿顔の鬼は男達を見て、雄叫びをあげる。 「「どこが美人の薬師だああ!!」」 男達は慌てて逃げ出したのだった。 二日後。藍色髪の少女――年齢は16歳ほど――が開拓者ギルドを訪れた。 「あのぉ……大変です大変です。たすけてくださいっ」 少女は両手をバタバタ振り回しながら、発言する。 「男の人が私の家で、私を訪ねたら猿顔の鬼でっ、実はその時、私は留守中!」 「おつちいて」 ギルド員につっこまれ、少女は深呼吸をひとつ。 彼女は、近くの村、その外れの森に住む薬師、ラン。 ランは用事で、家を留守にしていたのだが、その間に家にアヤカシが住み着いたと言う。 幸い、帰宅する前に、アヤカシの事を知ることが出来た。 そこで、ランは開拓者ギルドに、アヤカシ退治の依頼に来たらしい。 目撃情報によるとアヤカシは四体。 巨体の、猿顔をした鬼が一体。猫とワシ、カエルの姿をしたものがそれぞれ一体ずつ。 猫は素早い動きで敵を翻弄し、ワシは空を飛びくちばしで敵をつつく。カエルは口から長い舌を出し鞭のように操ったり、毒液を吐いたりする。 鬼は剣を持ち、サムライの地断撃やスマッシュに似た技を使うらしい。 家は一階建てで、部屋は二つ。 まず、入口の扉を開けると居間があり、その奥に薬の調合などを行う作業部屋がある。 目撃証言からすると、アヤカシは居間にいるらしい。 「お願いがありまして……作業部屋には、アヤカシを入れないようにしてほしいのです。できれば、で結構ですから」 奥に入れないように居間で闘うか、外に誘き寄せるか。 居間はアヤカシのほかに、四人が入って戦うのが精いっぱいだろう。居間で戦うなら、四人以外は外からサポートする形になるだろうか。 また、家は森の中の広場にある。開拓者全員とアヤカシが戦うのに十分な広さがある。 外で戦う場合は、広場から村に続く道や、広場を囲む木々の中へ逃げられないようにしなくてはいけないだろう。 「私は村で待機していますので、お仕事が無事終わったら呼びに来て下さいね? ……村人さんのお家のお台所をお借りして、美味しいクッキーを焼いて待ってますから! お茶か……お好みなら、とびきり苦い薬草茶もお出しします!」 お願いします。と、ランは頭を下げるのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
士(ia8785)
19歳・女・弓
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
御鏡 雫(ib3793)
25歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●森の中のお家 村から森の中の道を進むと、広場に出る。広場奥には木造の家が一軒。瓦屋根が陽を反射し眩しい。聞こえるのは、鳥の鳴く声、そして風と枝の立てる音。 広場の入口には一人の男と四人の女。彼らは開拓者。 柊沢 霞澄(ia0067)はゆっくりと口を開く。 「あの家が、薬師さんのお宅ですね……。薬師さんが無事なのは幸いでしたが……」 「ランさんが無事なのは良かったけど……、それにしても、薬師の家をねぐらに……なんて、はた迷惑に程があるってもんさ」 彼女の小さな声を、御鏡 雫(ib3793)がひきとった。 「ああ。家屋で仕事をする身には、そこを荒らされると言うのは厄介な事だ」 「近くの村の人にしてみれば、掛け替えのない診療所だしね。薬師さんのためにも村の人たちの為にも、しっかりやらないとね」 同意を示す、士(ia8785)と十野間 月与(ib0343)。 士の言には家屋内で仕事をする者としての実感が、月与の声には使命感が、それぞれこもっている。 一行の間に漂う、真剣な雰囲気を、 「俺もモチのロンで本気を出すぜ、アミーゴ! 美人に涙は似合わねえしなっ」 喪越(ia1670)が軽い声で和らげた。 「さてっ、ランセニョリータの下着……じゃなくて、アヤカシの様子を探らねぇとな」 喪越は陰陽甲「六芒」嵌めた手を動かす。人魂の式を生成、家の窓へ近づけ、中を窺う。 ――家の中にいるアヤカシは、ギルドでの話通り、四体。外に出ているものはいない。 喪越の報告を受け、五人は視線を交わしあう。慎重に一歩二歩、アヤカシに占拠された家へと近づいていった。 ある程度まで家に近づいたところで、霞澄は足を止めて言う。 「……そろそろ、お願いします」 頷く雫。そして雫は声を張り上げる 「あんたらの相手はこっちだよ。さっさと出てきな。愚図ども!」 そして咆哮! 雄々しくかつ耳障りな声を、扉の向こうに叩きつける! 咆哮の直後、扉が荒々しく開いた。 「くるぞ。皆構えろ」 士は理穴弓に矢をつがえながら、皆に警告。 はたして家の中から現れたのは、長身の鬼。猿に似た顔を真っ赤にし、目を血走らせている。 ワシ、猫、カエルの三体が鬼に続く。 鬼は走り出す。地を揺らさんばかりの足音を立てつつ、咆哮の主の雫へ迫る。 雫と鬼との間に、月与が飛びこんだ。鬼が振り落とした刃を、盾の硬さと十字組受けの技術で受け止める。 「はっ! 力はあるようだけど、あたいには通じないよっ!」 猿顔の鬼を黒の瞳で見据える、月与。 ●猿顔の鬼たち 猫は尻尾を立てシャアッ! と威嚇してくる。カエルは舌を口から出し、ワシは翼を激しく上下させた。 ワシに視線を向けるのは、士と喪越。 「その羽で人里に行かれる訳には、いかない」 「そうそう。村のセニョリータたちには、指一本ふれさせられねぇっ」 士は凛とした口調で言い、弓の弦を力強く絞る。喪越はへらへら笑いつつも、体中の錬力を活性化させた。 「確実に撃ち落とす」 士は弦から指を放す。矢を放ち、さらに即射でもう一本を射撃する。 矢の一本がワシの翼、その付け根を貫いた。空中で大きく体勢を崩すワシ。 「悪ぃが往生してくれよ!」 喪越が言葉を放った直後、ワシは地面に墜落した。苦悶するようにのたうちまわる。それは喪越が召喚した『黄泉より這い出る者』の力。 仲間の二人がワシを追い詰めている間、月与と雫は、鬼や猫、カエルと相対していた。 鬼は刀を力任せに振り回す。その標的は雫。さらに、鬼と息を合わせ、猫が雫に飛びかかる。 雫は攻撃の幾つかを十字組受けで防ぐが、全ては防ぎきれない。鬼の刃に肩を切られ、さらに、足を猫の牙に噛まれてしまう。 「……くっ!」 「御鏡さんっ」 歯を食いしばり痛みを堪える雫。彼女を援護しようと、月与が動く。 その月与の足へ、カエルが舌を伸ばした。舌は鞭のごとく、月与の足をしたたかに打つ。前のめりに転びそうになるが、月与はかろうじて踏みとどまった 敵から与えられるダメージに、前衛二人の動きが止まりつつあった。 後衛の霞澄は、動じた様子もなく、術を行使する。 「大丈夫です、今回復しますから……」 霞澄は白い花にも似た精霊力の塊を、傷ついた二人へそっと投げる。精霊力が二人を包み、力を取り戻させた。 (私たちは絶対に負けません……) 霞澄の銀色の瞳には強い意志が宿っている。 雫は体勢を立て直していた。 「今度はこちらの番だよっ!」 不敵に笑うと、体を大きく捻った。 黒髪をなびかせながら、1メートルを超える剣を軽々と振る。回転切り!! 猫と鬼に、浅くない手傷を負わせた。 鬼はたまらず、片膝を地面に着く。 「力を持たない人々の為にも……あたいたちは勝ってみせる!」 隙を逃さずに、月与が攻める。霊刀の褐色の刀身に炎を纏わせ、鬼の胴を切る! 傷口から瘴気を吹きだしながら、鬼はなおも倒れない。 『グオオッ……オノレ、ダガ……マダマダッ』 憎しみをこめて立ち上がる。 ●反撃! 戦況は開拓者がやや有利。初撃に深手を負ったワシもすぐに倒れた。だが、敵の反撃は苛烈。 カエルが口を大きく開く。 『ゲコオオッ』 毒液を吐きだした。毒液は前衛の頭上を通り過ぎ、後衛の士の体へと降り注ぐ。毒が皮膚から体内へ侵入していく。毒の痛みに士の膝が小刻みに震えだす。 その彼女に歩み寄ったのは、霞澄。 「すぐに解毒しますから……」 霞澄は霊杖の先を士の背へ宛がい、解毒の術を行使。士の震えが止まった。 士は前進する。前衛の者たちと並び、カエルの正面に立った。カエルは再度、毒を吐こうと口を開くが、 「隙を見せた愚を知るがいい!」 士の動きが一瞬早い。指を動かし、カエルの口内に瞬速の矢を放つ。 至近距離から放たれた一撃は、カエルを消滅へ追いやる。 敵二体を倒した事により、敵の士気は確実に低下した。 猫が開拓者の脇をすり抜け、逃げ出そうとする。 「こんな良い女を放っていこうなんて、野暮な奴だね。その報いを受けて、思い知るといいさ」 雫は軽口をたたくと、再び咆哮する。轟音で、逃げようとする敵を再び自分に引きつけた。 猫は逃げる事を忘れ、雫を爪で引っ掻こうとするが、その手を雫は危なげのない動きで回避する。 「折角、俺が活躍するってのに『敵が逃げました』じゃあ、話にならねぇよな? 最後まで付き合ってもらうぜ、ネコアヤカシ?」 語りかけたのは、喪越。しゃべりながらも、彼は術を行使していた。彼の術に応じ、不可視の何者かが、猫の足元に出現。直後、猫の傷口から瘴気が吹きだす! 猫は完全に動きを止め、息絶えた。 『オノレエエエ! ミナゴロシニ、シテクレルウウ!!』 最後に残った鬼は、渾身の突きを目の前の月与へと放つ。 だが、月与は霊刀でその突きを弾く。攻撃を弾いた腕を、月与は止めない。 「そんなことさせやしない。これで終わりだよっ!」 返す刀で、焔影! ボウ! 鬼の肩に炎がともり、全身に広がっていく。鬼は断末魔の悲鳴をあげながら消えた。 ●にが〜いお茶。 そして、しばらく時間が経過して。 開拓者たちは薬師のランと共に、薬師の家にやってきていた。 幸い、アヤカシ達はあまり家の中に触れていなかったようだ。財産や薬の類にも被害はなく、掃除も無事に済んだ。 今は居間の机を皆で囲んでいる。机には人数分の湯呑みと、クッキーの載った大皿。 「皆様、ありがとうございます、ありがとうございますっ! これで、明日からまた薬師のお仕事が出来ますっ!」 そのお礼の一部と言っては何ですが……、とランはクッキーや茶を皆に勧めた。 「いやいや、礼にはおよばねぇぜ、ランセニョリータ?」 気取った口調で言う喪越。湯呑みに手を伸ばしながら、続ける。 「それにしてもランセニョリータも積極的だな。自宅デートがしたいとは。俺サマの魅力がおそろ……ぶはああああああ?!」 ふつうのお茶と間違えて、苦い薬草茶を飲んでしまい、お茶を口から吹き出す。喉を抑え、体をそらして悶絶。 「……そんなに苦いのか?」 士は喪越の様子に、薬草茶と喪越を見比べた。薬草茶は黒みがかった緑で、食欲をそそらない見た目だが。 士は湯呑みの縁をゆっくり口に近づけ、そして、一口。 「……飲みやすい。確かに苦いが、後味がすっきりしている。家人にも飲ませたいくらいだ。……これを買うことはできるだろうか?」 士が尋ねると、ランは恐縮した様子で手をパタパタと顔の前で振る。 「あら、お売りする様なものじゃないですよ? だって、これはタンポポの根を乾燥させたものに、ウコンとドクダミを……」 薬草茶の成分について説明していくラン。 それを月与は興味深げに聞いていた。なるほど、と相槌を打ちながら、自身もお茶を口にする。 「でも、このままじゃ苦すぎるし、……これに使った薬草を、お茶菓子に混ぜ込んで焼いてみると、美味しく食べてもらえるんじゃ?」 などと料理を作る者としての提案をしてみる。 雫や霞澄もそれぞれの職業がら、ランの仕事に関心を寄せているようだ。 「後で作業部屋を見せてもらっていいかな? 私も医者でね、勉強させてもらいたいんだ」 「あの……もしよろしければ私も見れますか……? 薬草の知識や技は、巫女としても参考になることが多いですから……」 と、申し出た。 「は、はい! 私の方こそ、皆さんに色々教えてもらえたいです!」 嬉しそうに笑う、ラン。 彼女が笑えているのも、開拓者たちの戦いと勝利の結果。 開拓者らはランの集めた薬草をみたり、医術について議論したり、たわいない話に興じたり……森の中の一軒家にしばらく賑やかな声を響かせた。 |