ノウキンとともに
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/19 20:00



■オープニング本文

 神楽の都の開拓者ギルドの片隅で、一人の男が体を動かしていた。
「フンッ! フンフンッ、フンッ!!」
 両手を頭につけ、膝を折り曲げ、伸ばす。その動作を延々繰り返している。
 男の身の丈はおよそ2メートル20センチ。年齢は18、9。シャツから露出した腕の筋肉、汗をかいたその部分が窓から漏れる日光を反射していた。
 男はノウキン(脳筋)とあだ名される、泰拳士だ。
 彼の信条は――
「力こそ正義」「考える前に一撃!」「前進あるのみ!」「筋肉が全て」
 仲間との協調や作戦など考えず、前に出て相手を力任せに殴ればいい。
 脳みそまで筋肉じゃないのか、というような思考――故についたあだ名がノウキン。
 そのようなスタイルの彼と一緒に冒険をすると、折角立てた作戦が台なしになる。
 故に、ノウキンと組みたがる開拓者もおらず、ノウキンはほとんど依頼を受けたことがない。

 今日もノウキンは、ギルド内でスクワットや腹筋運動を繰り返し、自分と組みたがる者がいないのを知ると、去って行った。
 一人のギルド員がそんな彼の背中を見送り、溜息をついた。近くにいた他の開拓者に話しかける。
「……はぁ……これではいけないと思うのですよね。
 彼は能力的には他の開拓者と比べても、遜色ない実力の持ち主です。
 ……その彼がほとんど依頼に出ないと言うのは、ギルドにとってもいい事ではありません」
 ギルド員はしばらく腕を組んでいたが――やがてポンと手を打った。
「ねえ、あなたが彼と一緒に、遺跡にいって下さいませんか? そして、彼に『筋肉が全てではないこと』『開拓者として必要なこと』と教えてやって欲しいのです。
 丁度よさそうな遺跡がありますから」
 そこはすでに攻略された遺跡。
 だが、この遺跡のアヤカシは、倒されて数日経つと復活する。罠も元通りになる。開拓者がノウキンと訪れる頃には、罠もアヤカシも蘇っているだろう。

 遺跡は二階建て。
 まず、一階はアヤカシはいないが、多くの罠が仕掛けられている。
 たとえば、触ると爆発する宝箱。落とし穴の仕掛けられた床。半開きの扉をあけると上から、石の入ったバケツが落ちてくる罠……。
 そして、二階は長い通路になっている。
 道の先に、弓を持つ鬼たちがいて、開拓者たちを狙い撃ちしてくるらしい。
 天井には、小さなムカデやクモが這っており、ときどき、道を歩く開拓者のもとにふってきて、噛みついてくる。
 さらに道にはところどころに鳥もちがしかれている。

「一階の罠はどれも致命的ではありません。二階の鬼も強くありません。ムカデやクモに至っては素手で倒せるくらいですし
 ですが、ノウキン君を放っておけば、彼はなにも考えず行動しますから、一階では次々と罠にはまり続け、二階では鳥もちに足を取られている間に弓と虫たちにダメージを受け続けるでしょう。
 この遺跡での冒険を通じて、皆さんにはノウキン君に、開拓者にとって筋肉以上、猪突猛進以上に大切なことを、教えてあげて欲しいのです。
 報酬は遺跡の再調査ということで、ギルドからだしましょう。ノウキン君には私から声をかけておきますので」
 そして、ギルド員は開拓者に頭をさげる。
「後輩の育成も立派なお仕事……どうかよろしくお願いしますね!」


■参加者一覧
クロウ(ia1278
15歳・男・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
日依朶 美織(ib8043
13歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ラビ(ib9134
15歳・男・陰


■リプレイ本文

●筋肉が罠に挑む
 森の中。道なき道を進むと、そびえる岩壁につきあたる。岩の一か所に遺跡の入口はあった。
 中を覗くと、人工の壁の所々に宝珠が埋め込まれ、内を照らしている。
 七人の開拓者は、新米開拓者のノウキンをつれ、入口に立っていた。
 冒険の始まりに興奮してか大胸筋をひくつかせる、ノウキン。
 鍛え抜いた肉体をした女、巴 渓(ia1334)は彼の背に声をかけた。
「まずは、ノウキンには体験学習をしてもらおうか。なに、難しい話じゃねえ。先頭に立って、好きに動いてもらうだけさ」
 にやりと笑う。

 指示をうけ、ノウキンは先頭を歩く。否。走る。巨漢ゆえ、大きな足音を立てつつ。
「ぬぅおおおっ。遺跡など我が大腿筋の脚力で走破してくれる!」
 彼の隣を並走するのは、緑髪の騎士ラグナ・グラウシード(ib8459)。鎧からカチャカチャ音を立てつつ、疾走。
「ノウキン、その意気だ。急ぐぞ……はぅ?!」
 突然、足元の床が抜けた。その上に足を踏み出していたラグナは、見事落下!
 隣を駆けていたノウキンも落ちる。二人は落とし穴に嵌ったのだ。
 ラビ(ib9134)は二人にやや遅れて同行していたが、二人の落下を見て「ひぃっ?!」と声をあげた。おそるおそる穴を覗き込む。
「ぁ、ぁの……大丈夫ですか? そ、そうだ。い、今、皆さんから、ロープを、借りますので……」
 仲間から縄を借り、底へ垂らす。
 ラグナとノウキンは縄を登り、穴から脱出。
 ラグナはラビにすまん、と礼を言うと再び駆けだした。
 ラビは落とし穴をじっくりと観察している。
「ぇっと……お、落とし穴の、仕掛けられてる場所は、他の床石と、色が違うみたい、かな……だ、だから、床をよく見れば……」
 など、ラビが考察する間にも、ラグナは走りつづける。それを追いかけるのは、ノウキン。
「おお……こんな所に宝箱が。開けるぞ……ぐっ!?」
 通路の脇にあった宝箱――火薬の仕掛けられたそれに迷い無く触れ、爆風に巻き込まれて、吹っ飛んだ。近くにいたノウキンも負傷。
 その後もラグナはノウキンとともに、罠にはまり続ける。扉を開けたとたん、上から降ってきたバケツに頭をぶつけ、落とし穴にまたはまり……。

●筋肉な奴に見せつけろ!
 十数分後。傷だらけのずたぼろになったノウキンは呻く。
「何故だ。筋肉が……通用しない? 筋肉が足りないと言うのか? しかし……」
 そんなノウキンに淡い光が浴びせられる。それは、繊月 朔(ib3416)の閃癒。光は傷ついた者らを回復させていく。
「役割を交代しましょうか? ノウキンさんは後ろで見ていてくださいね? そして、なぜ失敗したのかよく考えください。見るのも勉強ですから」
 木刀を構えながら、朔は微笑んだ。

 今まで控えていた五人が前に立つ。ノウキン、ラビ、ラグナは五人の後ろへ。
 一番先頭を日依朶 美織(ib8043)が忍眼を使いながら歩き、彼の隣には、接近戦に秀でた渓が護衛役を務める。
 その後ろでは、朔が瘴索結界を展開し、アヤカシの出現を警戒。からす(ia6525)は藍染の弓に矢をつがえ、クロウ(ia1278)は鳥型の人形を持ちながら、それぞれ有事に備えていた。

 通路の一点で、美織は立ち止まる。腰に縄を結び付け、縄の片端をノウキンに手渡す。今からそこに仕掛けられている落とし穴を調べるので、もし穴に落ちたら引っ張って欲しいと。
 美織は落とし穴に近づき、そして『わざと』足を滑らせた。片足を穴につっこみ、体勢を崩す。
「きゃあああ?!」
 悲鳴をあげる美織。ノウキンは素早く縄を引き、美織の体勢を立て直させる。
「あ、ありがとうございますっ」
 美織はノウキンの体に抱きついた。胸筋や腹筋に、自らの華奢な体を衣越しに押し付け、間近で彼の顔を見つめる。
「無事で何より」ノウキンは表情を変えない。朴念仁のようだ。美織の頬は対照的に赤く染まる。

 その後、美織は忍眼を駆使し、罠を看破していった。
 からすが弓を構えたまま、最後尾のノウキンに語りかける。
「遺跡の探索に必要なのは、警戒心さ。よく観察すれば、怪しい所がみえたはず。怪しいところには、迂闊に触らない、避ける、すぐ離れる……」
 ゆったりとした声で諭す。忍眼がなくても、注意深く観ればみつかる罠もある、と罠の仕掛けられた壁や床を指さし教えていく。
 ノウキンは神妙な顔でそれを聞いていた。

 そして一行は、二階に続く階段を発見。
 クロウは、人魂を召喚。小鳥の形をしたそれを飛ばし、階段の上を観察させる。
「ラビさん、人魂があると、こういう時に便利なんだぜー。ノウキンさん、力の強い人達だけじゃなく、こういう偵察役も大切だってわかってほしいなー」
 と、同じ陰陽師のラビやノウキンに説明しながら、式を操る。不意に、クロウの眉が動いた。
 二階に発見したのだ。――敵の存在を。

●筋肉よ、アヤカシに挑め
 クロウの観察した結果によれば、二階は長い一本道になっており、その道の奥に、弓を持った鬼たちが六匹ほどいる。
 クロウの報告を聞き、ノウキンの腕の筋肉がグイッと盛り上がった。
「ならば階段を駆け上がり、奥まで敵を追いかけ、ぶっと……いや」
 ノウキンの言葉が止まる。一階で罠にはまり続けた経験や、皆の言葉や行動が、脳裏をよぎったか。
「開拓者はチームだ。ノウキン殿だけでは出来ぬこともある。逆も然り。チーム内で何が出来るか考えてみよ」
 からすが淡々というと、ノウキンは太い腕を組んで唸る。使わない頭を使った故か、顔が赤く染まる。
「私から助言を……これを使えませんか? これを使ってどんな役割ができるか考えて下さい」
 美織は悩む後輩へ、矢盾を差し出した。ノウキンは盾をしばらく見つめていたが
「盾と肉体で、私が壁となろう。その間に罠の発見を、先輩方にお願いしてもよいだろうか?」
 と頭を下げた。
「まだまだ完璧じゃねぇが、それでも、とにかく突っ走るって言わなかったのは評価できるよな。――じゃあ、壁役まかせるぜ」
 渓はノウキンの肩をポンとたたく。

 大まかな作戦を決めた一行は、ノウキンを先頭に、二階へ上る。
 長く続く通路の奥……。毛むくじゃらの鬼どもが、八人を見て、弓に矢をつがえる。
 そして、ガサ……ガサ……何かが擦れるような音。音は天井から。天井には無数のクモやムカデ。
 それが天井を這いながら、開拓者たちに近づいてきている。
「こういう小さいのが沢山いるときは、この術が便利。――焼き払えー!!」
 クロウは犬よりも大きな鳥を召喚。その口が、クロウの命に従って開く。そして、炎を放射!
 天井にいた蟲の多くを焼き払う。

 鬼どもが弓の弦を引く。今にも矢を放たんとしたその瞬間、
 鬼の手に、からすの矢が刺さる。鬼の口から悲鳴。鬼の矢は壁にあたって落ちる。
 からすの顔に浮かぶは微かな笑み。
「この距離は、私の支配距離……さあ、私が牽制しているうちに、先へ」
 その言葉を聞き、ノウキンは盾を構え、前進を開始。他の者たちもノウキンの後ろをついていく。
 美織は傘を開きながら、ノウキンのすぐそばを走る。
「ノウキンさん……床に鳥もちが仕掛けられています、半歩左へ!」
 忍眼を活かし、的確に指示。
 ノウキンは美織の言に従い、鳥もちにかかることなく前へ前へ。

 鬼の数は少なくない。中には牽制されず、矢を放つ者もいる。
 その矢の一本が盾を貫通! ノウキンの腹に刺さる。
 朔は閃癒を放ち、ノウキンを癒す。
「回復は私に任せてください」
 ノウキンは広背筋をもりあげる。背後の朔に礼をしているのだろうか。

 はたして、一行は、鬼との距離を詰める。
「唸れ、我が上腕二等筋!!」
 ノウキンの拳が、鬼の顔面に突き刺さる!
 渓もまた、前線に躍り出ていた。
 鬼の一体が彼女の背後に回り込み、殴りかかるが――
「ノロいんだよっ!!」
 その拳を渓は難なく回避。裏拳気味の反撃で、敵の側頭部を痛打!
 タイミングと威力を兼ね備えた一撃。鬼の体を吹き飛ばし、壁に激突させる。

 仲間達が戦闘を続ける中、朔は治癒を続けていた。彼女の術の光に反応してか、天上から未だ焼かれていなかったムカデ数体が、彼女めがけて落ちる。
「あたりませんっ」
 朔は木刀を振る。一閃、二閃! 降り注ぐ蟲どもを叩き落としていく。
 その機敏な動きに合わせ、金色をした髪が揺れた。

『ウゴゴゴゴッ!』
 喚いたのは鬼の中でも、比較的大柄な一体。弓を投げ捨てると、腰にさげていた剣を抜き、斬りかかる。その標的となったのは、ラグナ。
 だが、ラグナは動じない。息を吸い込み、オーラドライブで身体能力を向上。敵の剣を、グレートソードで払いのける。
「一階では、思いのほかに疲れたのでな……一気に倒させてもらう!」
 返す刀で敵を袈裟斬りにし、さらに、突く! 敵をおおいに負傷させた。
『ガガガガガガ!』
 なおも剣を振りあげようとする鬼。
 クロウはその顔面めがけ、式を撃つ。鬼はふらつき、一歩二歩後退。
「ラビさん、今だー!」
「は、はいっ!」
 怖そうに体と黒兎の耳を震わせていたラビ。クロウの声を聞き、瞬時に震えを止める。符を持つそれぞれの手を動かし、吸心符を発動。
 現れた式は大柄の鬼から体力を奪う。鬼は床に倒れ、消滅。

●今後の筋肉のために!
 その後、開拓者らは残った鬼と蟲を難なく退治し、二階の探索も終えた。
 からすはいままで地図をつけていたが、二階通路の突きあたりまで来たところで、筆を置く。
「遺跡内の調査は終わったようだね……お疲れ様。少し休憩にしようか。茶などどうかな?」
 と茶の入った水筒を取り出した。
 からすの提案に従い、一行は休憩することに。その場に布をしいて座り、お茶をすする。

「一階はてめぇだけの力じゃ踏破できなかっただろ? 二階は皆の力で突き進めた。違いは何か……原因と結果をよく考えてみな?」
 茶を口にしながら、渓が言う。むぅ、とノウキンは眉を寄せた。
「二階に行く前に、ノウキンさん、ちゃんと作戦を考えようとしましたよね? ノウキンさんは考えるのを今まで嫌ってたかもしれません。
 でも、自分の得意分野以外のことも、やり方次第で役立つのですよ? ほら、巫女の私もカミナギ振るえますし」
 朔は銀の瞳で相手の目を見つめつつ、やんわりと述べた。
 依頼中は反面教師として、率先して罠にかかっていたラグナ。彼は疲労の汗をぬぐいながら、告げる。
「……お前も分かっただろう? 自分のやり方がずれていたこと、そして何より、お前が他の仲間を無視していたことに? ……これからは仲間の事も考えるのだな」
 言われて、巨大な体を縮こませるノウキン。反省し恐縮しているのだろう。
 クロウはそんなノウキンに明るく声をかける。
「でも、もうわかったよなー。いろんな仲間の大切さも、筋肉が全てじゃないってこともさ。な、ノウキンさん? おっと、もうノウキンじゃないよなー?」
 クロウは瞳で問いかける。ノウキンと呼ばれる開拓者の本名を。
 ノウキンは胸に手を当てた。
「我が名はキンタロウ。此度は非常に世話になった。この通りだ」
 そして、ノウキン、否、キンタロウは立ち上がる。深々と頭を下げた。
 ラビも座るのをやめた。
「ご指導ご鞭撻ありがとっ、ご、ございました!」
 緊張したそぶりをみせながら、深々とお辞儀。
 美織は目を細めて思う。
(キンタロウさんもラビさんも、作戦を立て仲間と連携して達成する、その喜びが分かってもらえたようで、嬉しいです♪)
 美織や他の仲間達は、それぞれの笑顔を、頭を下げる二人に送るのだった。