飛ぶものと地に潜むもの
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/22 19:46



■オープニング本文

 見渡す限り、足首よりやや高い程度の雑草が、生い茂った荒野。
 そこに二人の開拓者――どちらもサムライが立っていた。
 彼らが見ているのは、前方を飛ぶ鳥二匹。
 頭のやや上程度の高さを飛びながら、サムライ二人を見つめている。一匹が赤で、一匹が青。どちらもアヤカシだ。
 ここは、武天のある村の近く。開拓者二人は、村から村への移動中に、この荒野にアヤカシを発見。
 見過ごしておけぬと、戦いを挑むことにしたのだ。
「どうやら、奴らはあの高さまでしか飛べないらしい」
「なら……私達の武器も届く、わね」
 開拓者の一人、銀髪の青年がいうと、彼の仲間である青い着流し姿の少女が、コクと頷く。少女は抜刀し、鳥二匹へと突進する。
「いくよ……――っ?!」
 威勢良く突き進み――が、鳥に辿りつく前に。
 カチ、足元で音がした。
 次の瞬間。
 ――爆発! 彼女の体が吹き飛ばされる
 青年は前方の地面を、目を凝らして見つめる。草と草の合間に、ビー玉よりやや大きめの丸い石ころが、ところどころに転がっている
「あの石ころどもが怪しいな。踏むと爆発する? これは注意をしないと」
 仲間を案じつつも身構える青年。そんな彼をみながら、鳥の一匹、青い鳥がないた。クォォォォォォン。寂しげな声で。
 青年の目が、とろんとしたものになる。青年は、鳥が飛んでいる方向へふらふらと歩き出した。
 そして、再び石がカチっと音を立て、爆発。

 二日後。開拓者ギルドにて。
「というわけで、二人組はかなりの怪我をしつつ、なんとか逃げ帰ってきたようです」
 開拓者職員は、ギルド内にいる者たちに向けて説明をしていた。
「村の近くでもありますし、ギルドとしてはアヤカシの存在を許す訳にはいきません。
 報酬は村とギルドからお出ししますので、皆さんでアヤカシ退治に赴いていただけないでしょうか?」
 そしてギルド員は書類を取り出す。
「敵の情報については、こちらで調べてみました。
 爆発する石ころについては、アヤカシの類のようです。自爆石とでも名付けましょうか。
 普段は何もしないのですが、人に触られたり攻撃を受けたりすると、小規模の爆発を起こすようですね。
 幸い、爆発範囲は狭く、直接触れた人物にしかダメージを与えないようです。また、近づかなければ何もせず、基本的に移動もしてこないようです。
 ですが、戦場となる荒野には、たくさん転がっているようですから、油断は禁物でしょう。
 そして、鳥が二匹。
 二匹とも、人間の頭よりやや高い、武器が届く程度の高さしか飛べません。実力は強くはないようですが、特殊能力があるのでご注意ください。
 青の鳥は鳴き声で、敵一人を数十秒間、魅了してきます。
 また、赤い鳥は口から何かを吐き出して、攻撃する、という情報もあります」
 そこまで言うと、ギルド員は表情を和らげた。
「そうそう、近くの村ですが――最近、こたつ茶屋なるものができたそうでして。
 民家風の店の中、大きめの掘りごたつに座って、まったりお茶をすすったりみかんを食べたり。そう言う趣旨のお店だそうです。
 事件を解決して余裕があれば、いってみてはいかがでしょう? 村の皆さんは事件を解決すれば、茶屋でいくらでも飲み食いして貰って構わないとおっしゃってましたし
 ――でもまずは、敵の退治を。
 三種類の敵を、同時に相手をするのは大変かもしれませんが……
 村人の為、どうかお願いします」


■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
水野 清華(ib3296
13歳・女・魔
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
ヴェルナー・ガーランド(ib5424
24歳・男・砲
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
アイラ=エルシャ(ib6631
27歳・女・砂


■リプレイ本文

●辿りつく前
「俺達の前にアヤカシと戦ったサムライコンビって、まさかラブラブ?
 ――だとしら、まさに! 爆発しやがったなリア充め〜!!」
「いやいや、鳥の名前が「李」と「亜獣」なんだよ、きっと。自爆石とあわせて、リア充爆発しろ! って感じでさ。うん、マチガイナイ!」
 茶髪の青年が言えば、帽子を被った少女が応える。
「「リア充爆発しろ〜〜」」と笑いあう二人は、村雨 紫狼(ia9073)と蒼井 御子(ib4444)。
 背の高い草々が風に揺れる荒野。その中を、彼ら八人の開拓者は歩いていた。鳥と石が陣取る地点に向かって。敵影はまだ見えない。
 紫狼と御子のやりとりに、マーリカ・メリ(ib3099)と水野 清華(ib3296)はくすり、と笑みをこぼす。
「ともあれ、終わったら、こたつ茶屋でまったりですよね! そのためにもアヤカシはきれいさっぱり退治しちゃいましょう!」
「うん、早く終わらせてコタツ茶屋いきたいねー。でも……変な力があるみたいだし、油断は禁物だよね」
 マーリカが鍋ブタ持つ手を振り上げ、檄を飛ばす。
 清華はマーリカに相槌をうっていたが、狐面を側面につけた顔、その顔を動かし、足元に目をやる。
「清華の言う通りだな。アヤカシに油断はいけない。それに……そろそろ、奴らのいる地点の筈だしな」
 銃剣をつけた銃を構えながら、ヴェルナー・ガーランド(ib5424)は言う。草の中と空中、その両方に注意を払いながら。

 トカキ=ウィンメルト(ib0323)は、巨大な鎌の柄を握る。近づきつつある筈の、敵の気配を探るべく、心眼「集」を実行。が、首を振った。
「……雑草が多く生え過ぎていて、生命を全て感知する俺の術では、うまく探れないようですね……やれやれ……」
 と、溜息をつく。
 あ、あのっ、とファムニス・ピサレット(ib5896)が遠慮がちに細くて白い手をあげる
「……では、私も術を使いますね……自爆石に迂闊に触れると大変ですし。アイラさんは遠くをお願いしても良いですか……?」
「ええ、任せてちょうだいっ!」
 ファムニスの依頼に、アイラ=エルシャ(ib6631)が快諾する。
 ファムニスは竜の装飾施された杖を掲げ、瘴索結界を展開。近くにアヤカシがいない、と皆に告げた。
 アイラの緑の瞳はいつになく大きく開いている。バダドサイトを使用しているのだ。
「いたわ――あそこよ」
 前方の一点を指差すアイラ。彼女の瞳は、そこに二体の存在を捉えていた。
 鳥の姿をしたそれらはアヤカシ。形は鶴に似ているものの、一体の羽毛が赤でもう一体は青。二体は翼を上下に動かし、宙に浮かんでいる。
 彼らの下の地面には草に混じって、不自然なほど多くの石。その石もまたアヤカシなのだ。

●石と鳥と
 開拓者らは互いに顔を見合わせると、前進。
 鳥たちも、開拓者に気がついたらしい。首をこちらに向け、近づく気配をみせた。
 遠距離攻撃が鳥に届く間合いまで来たところで、アイラが鋭く声を出した。
「気をつけて! ここから先は自爆石が落ちている筈よ。魔術師の皆は攻撃の準備を。村雨さんは前をお願いできるかしら?」
 二丁拳銃の銃口を敵に向けつつ、仲間に指示をだしていく。
 紫狼は皆の先頭に立ち、口を開いた。
「うおおおおおおーーーーっ! 御子たーん、2月15日のお誕生日おめでとーーーー!! これからも頑張ろうゼェェェェェェェェット!!!」
 腹の底からの――否、魂の奥からのシャウト!!
 次の瞬間、開拓者八人は聞く。
 ごろ。ごろごろごろ。地面を転がる複数の音を。
 石が、咆哮の主の元へ移動しているのだ。
 転がる石どもは、草の中に潜んでいた自爆石。石は、『基本的に動かないが、動けないわけではなかった』ようだ。咆哮につられ、早い速度でではないが近づいてきている。
 一番近くにいた石一つが、紫狼の足元で――爆発!
 地面に尻餅を突く紫狼。
 トカキは敵の動きにも仲間の負傷にも動じることなく、呟いた。
「動かれるのは困りますが、しかし向こうからくるなら、好都合でもありますね……」
 マーリカはくず鉄を投げようとしていた手をとめ、捻じれた剣を構えなおす。
「トカキさん、あわせて一掃しちゃいましょう。
 ……せーのっ!」
 マーリカとトカキは呼吸を合わせ、術を行使!
 吹雪が発生! 雪と氷のつぶてが寄ってきていた自爆石に降り注ぐ! 
 ちゅどどどどん! 石は動きを止め、次々爆発していった。

 咆哮に惑わされたのは、自爆石だけではなった。鳥の片方、青の鳥が羽ばたき、紫狼に接近、くちばしで刺さんとしたが――
「悪いが――させない。さっさとカタをつけさせてもらおうか」
 ヴェルナーの銃弾が鳥の羽を撃ち抜いた! 錬力を使い瞬間的に再装填を行うとさらに射撃!
 青の鳥の悲鳴が戦場に響く。
 その声がやまぬうちに、清華は動く。外套を纏った体、その腕を大きく振って――
 真空の刃を二つ生成。
「これで落ちるかな? うまくいったら儲けものっと!」
 ―――斬! 清華の操る刃が、敵を切り刻む!! 青の鳥は落ちず、かろうじて空中でバランスを保つが――それでも傷口から瘴気を零す。
 皆の奮戦に、御子は張りきった声を出す。
「みんな、やるねっ! ボクもいっくよーっ!」
 竪琴の弦に指をかける。おっとりした調子で奏でられるその曲は、天使の影絵踏み。御子の力を皆に分け与えた。
 演奏を続ける御子。彼女を赤の鳥が睨む。
 赤の鳥の体が輝きだした。そして――開かれた口から火球が飛びだす。
 炎は、御子そして、マーリカに命中! 彼女らの体を焼いた。熱さと痛みが二人を襲うが――
「すぐに癒します」
 ファムニスは目を閉じた。精霊に祈りをささげた後、杖を振る。ファムニスが吹かせた温かな風が、御子とマーリカを包み、痛みを取り払っていく。

 戦闘は続く。開拓者らは探査と範囲攻撃、治癒、それぞれの術を駆使し、自爆石から身を守り、一方で鳥を傷つけていく。
 だが今。青の鳥は咆哮の影響からさめたようだ。クォォォンン、切なげに鳴く。その声は魅了の力持つ魔性の声。
「くっ……」
 声がヴェルナーの耳を心を冒していく。目から光が消え――だが、即座に戻る。ヴェルナーは、御子の力にも支えられ、鳥の声に抗いきったのだ。
 ヴェルナーは銃口を青の鳥へ向ける。先ほど声を出した鳥は、口を閉じ切ってない。
 ヴェルナーはその口を狙い、フェイントショット! 体内に弾丸を――叩き込むっ。
 青の鳥は墜落して消えた。

●赤の鳥の抵抗
 青の鳥は消えたが、赤の鳥はいまだ健在。
 いまもまた、複数の火の球を吹きだしていた。
 その一つがアイラを襲うが、アイラは高くジャンプし、回避。
「やってくれるじゃないの。お礼に二丁拳銃で応えてあげるわっ……なんてね」
 そして着地と同時に、射撃! サリックを使用し、弾丸二発で敵を射抜く!
 火の球は、トカキにも襲い掛かっていた。体を焼かれ、膝を突くトカキ。
 だが――トカキは痛みを顔に出さず、呪文を詠唱。
「そっちが焼くのなら、こっちは凍てつかせてあげましょうか」
 ブリザーストーム! 氷の欠片が赤の鳥に突き刺さり、また、地面に残っていた自爆石を消滅させていく。

 ファムニスは負傷者に神風恩寵を施しながら、紫狼に顔を向けた。
「村雨さん……村雨さんが立っている場所から、鳥のところまでは、石はいません……ですから……」
 ファムニスの声に、快活に応える紫狼。
「おっけー、ファムたん! ――鳥アヤカシめ、そろそろデストロイしてやるぜ!」
 二天一流の構えをとりながら前進。鳥の前へ移動すると、高く跳んで――鬼切!
 斬! 羽毛と瘴気が大量に散った。
「さあ、ここできめちゃってーっ! 魔法をアンコールするよっ!」
 御子は指を竪琴の弦に叩きつける! 熱く激しい音で、仲間――マリーカと清華の志体を刺激する!
 マーリカは体に力が溢れるのを感じつつ、術を行使!
「縛ってつかまえちゃいます!」
 地面からツタを生やし、鳥の体を絡めとる。そして――二射のホーリーアロー!! 鳥の体を貫通っ!!
 鳥は切羽詰まった声をあげると、強引に翼を動かす。ツタを振り解こうとしているが――。
「逃がさないよっ!」
 清華は言葉を飛ばすと精神を集中。
 吹雪と風の刃を発生させる。凍らせ――そして、両断!! 赤の鳥を終わらせる。

●事後処理とこたつ茶屋
 鳥二体は消滅したが――だが、開拓者らは警戒を解かない。
「一発一発撃つのも面倒だ――これならどうだ?」
 ヴェルナーは草々の中に、銃弾を投げつけた。
 爆発!! ヴェルナーは潜む爆弾石を全滅させるべく次々と、投擲し続ける。
 少し離れた位置では、トカキがブリザーストームを地面の石にぶつけていた。
「やれやれ、楽な仕事ではありませんが……」
 大儀そうに言いつつも、使う術は苛烈。残敵を確実に破壊。
 時間が経過して――。
 トカキは周囲を見回す。地面に石の気配は感じられない。ヴェルナーや、石の掃討に当たっていた仲間も、仕事を終えつつあるようだ。
 終わりですね、とトカキは小さく呟く。

 そして、開拓者たちは、荒野から近くの村へ移動した。
 敵の全滅を告げると、村人たちは安堵の息をもらす。そして、茶屋へと案内してくれた。
 茶屋の中には、大きめの掘りごたつ。
「開拓者さま、ありがとうございますう。どうぞどうぞ、おこたで温まっていって下さいなあ」
 茶屋の女将、どっしりした体格の婦人に誘われるまま、アイラはこたつ布団の中に、足を入れた。中の練炭がじんわり、足と体を温めていく。
「お、あったかい……こたつは初めてだけど、これはいいわねっ! おかみさん、お酒をおねがい。――ね、皆も飲まない?」
 アイラはすっかりご満悦。女将が持ってきた徳利を受け取り、天儀酒をおちょこに、こぽこぽと注ぐ。
 他の開拓者たちもこたつに座り、酒やお茶、みかん等を注文した。
 食べ始めるまえに、紫狼は薔薇の花束とピアス、そして持参したおかしを取り出した。
「あらためてお誕生日おめでとう、御子たん!」
 紫狼がプレゼントと言葉を御子に贈ると、皆もそれぞれに祝福の言葉を口にする。
 御子は目をぱちくり。そして、くすぐったそうに笑い、ありがとうとお礼。
「そだ! ボクからも皆にプレゼントがあるんだ! 女将さんにさっき頼んでおいたんだ。2月にちなんで黒くて甘いお菓子をね。ギリだケド、どうぞ!」
 そう。二月の半ば。二月の半ばといえば、あのイベントがある。それにちなんでの黒くて甘いお菓子といえば――。
 御子が差し出したお菓子は、黒くて甘くて、丸い――おはぎ。
 だって、村のお茶屋で頼んだものですもの。
 男性陣ががっくりきたかどうか――。
 清華は喜んで食べている。口をあけて、あむ。たっぷり使われたあんこと柔らかいもち米の味を堪能。お茶をずずっとすすり、更におはぎのおかわりを注文する清華。
「あんらまぁ、こちらの開拓者さまはよく食べられること」
 女将に指摘をされて清華は思わず、箸の動きを止めた。
「え、えーっと……ま、魔法の使用は体力をとっても使うし……そ、それに私今育ち盛りだし〜」
 ともじもじした口調で言い訳しだす。
 清華の隣では、マーリカが注文したおでんを食べている。「はふはふ」と息を吹きかけながら、おでんのあつあげをパクリ。じゅわっ、口の中に広がる出汁は、かつおの風味。
 幸せそうに眼を細めるマーリカ。
「ん〜〜おいしいですね〜。あ、おかみさん? デザートには汁粉とミカンをお願いします。ミカンはできれば、いよかんで。いよかんだけに、いいよかんが……」
 ……自分で言った台詞に顔を赤らめるマーリカ。
 ファムニスはお茶をのみながら、仲間達の様子を、目を細め見ていた。
 その目がとろんとなり……やがて、こたつにつっぷして………
「すぅ……すぅ…」
 小さな寝息を立て始めるファムニス。
 他の何人かも、お昼寝しようと目を閉じる。他の何人かは雑談したり、まだ食べたり。
 開拓者たちは自分たちが守ったその村で、穏やかな時間を楽しむのだった。