強きモノノフたれ
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/28 19:22



■オープニング本文

 武天はとある村の邸宅。その庭で。
 木の根もとに、延々と刀を振り続ける長い黒髪の少女が一人。
 年のころなら12歳。小柄ながら、引き締まった体をしている。

 彼女はカサガケ・アヤメ
 カサガケ家は代々多くの戦士を輩出してきた名家。家訓は「常に強きモノノフたれ」。
 アヤメはカサガケ家当主の一人娘。現当主は高齢で、近い将来はアヤメが当主を継ぐ事になるだろう。
 アヤメは今までサムライとしての訓練を積んできた。
 だが、まだ若いし、実戦経験もない。志体を持ち訓練を積んだと言っても、まだ駆け出し開拓者と互角に戦うだけの力しかない。
 親戚の中には、そんな彼女に当主候補の器があるのか、と危ぶむ声もある。
 だからこそ、がむしゃらになって特訓をしてはいるのだが……
 刀を幾度も素振りした後、汗まみれになった少女は歯噛みする。
「早く実戦を……っ。……今まで機会はあったのに、父上がまだ幼いと止めるから……っ」
 アヤメが訓練を再開しようと刀を振った後、家の中から声。使用人が父に切羽詰まった声で、何やら言っている
「旦那様! 大変でございます。村付近の森にアヤカシが」
 使用人の言うには、森の中を通る一本道に、アヤカシが陣取っていると言う。
 一体は、着物に身を包む、女の姿のアヤカシだ。杖を持っており、眠気を誘う術や、触手を召喚して相手の動きを阻害する術を、使ってくるようだ。
 二体は鬼。手斧で斬りかかってくる。
 さらに、樹上を枝から枝へ移動する小鬼も二匹、目撃されている。彼らは短剣を高い場所から投げてくる。
 四人が並んで戦えるくらいの道を、彼らアヤカシ達が塞いでいるのだと言う。

 使用人の言葉を聞き、アヤメの父は唸る。
 アヤメは駆けだした。家の中へ、そして二人の前へ。
「父上――アヤカシ退治は私にお任せ下さい!」
 気負って言うアヤメ。白髪頭の父は腕を組む、暫らく黙っていた。
 指を一本立てた。
「よかろう。しかし、条件が一つ。」
 開拓者を雇い、彼らと協力してアヤカシを退治する事。その中で、モノノフとはいかなるものか、いかにあるべきか……教わって参れ」

 半日後。開拓者ギルドをアヤメは訪れた。
 アヤメは事務員へ詳細を説明した後、
「……私と共に戦ってくれるものを、募集する。もちろん、報酬は我が家から不足なく支払おう。
 人数が集まり次第、速やかに森に向かうつもりだ。よろしく願う」
 張り詰めた声で言うと、アヤメは頭を下げたのだった。



■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
銀雨(ia2691
20歳・女・泰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
山奈 康平(ib6047
25歳・男・巫
破軍(ib8103
19歳・男・サ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文


 鎧を着込んだ少女の足音は大きい。その音が木々にぶつかり反響する。緊張した面持ちで歩く彼女は、依頼人にしてサムライのアヤメ。
 開拓者八人はアヤメと、森の中の道を歩いている。この道の先に陣取ると言うアヤカシを、退治するためだ。
 銀髪の巫女、山奈 康平(ib6047)が話を切り出した。
「アヤカシのいる場所まではもう少しの距離がある。今のうちに作戦を再確認しておこうか」
 作戦はこうだ。『治療役の康平をアヤメとラグナ・グラウシード(ib8459)で護衛。残りの六人がアヤカシを攻撃』
 アヤメは顔を険しくさせた。
「……役割を変更しては頂けないか? 私を前線に。私とて鍛錬は積んできたし――早く強くならねばならぬのだ」
 村雨 紫狼(ia9073)はアヤメの言葉にガッツポーズ。そして叫ぶ。
「ツンツン成分キターーッ! 12歳でツンツン! デレさせたい、デレさせたい! アヤメたんはぁはぁ☆」
「?!」
 紫狼の勢いやら荒い呼吸やらに沈黙するアヤメ。
 銀雨(ia2691)はゲラゲラと笑い、そしてアヤメへ告げる。
「前に出て戦えば強くなるってなら、俺だってかなり強くなってるさ。でも――強いってのは、人それぞれなんじゃねーの?」
 銀雨の言う通りじゃ――リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が頷く。
「人それぞれ、異なる強さを持つ。故に自らの役割を十二分にこなし、仲間全体で目的を達するが肝要。
 護衛も重要な役割。己が役割を無視し猪突するは、匹夫の勇ぞ」
 幼い姿から発せられる言葉。だが、重みがある。
「一番大切なのは、アヤメ君が強くなる事じゃない。アヤカシを滅ぼすことだ。人に害なすアヤカシは殲滅せねばならず、それは僕らにしか出来ないのだから」
 緋炎 龍牙(ia0190)の言葉は穏やか。だが――その声には暗いものが感じられた。
 銀雨とリンスガルト、龍牙の言に、アヤメは反論しない。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)は彼女の顔を覗き込み、そして、ゆっくり口を開く。
「アヤメ嬢。私も今回が初陣だから、貴女の気持ちは理解できる。けれど、開拓者に依頼したお父上の気持ちも分かる」
「父上の?」
 瞬きするアヤメ。ラグナはああ、と返事をして、続ける。
「不満はあるだろうが、共に戦おう。その中で、きっと何かが見つかる筈だ」
 同じ初陣を飾る者としての共感を籠めて。
 アヤメはしばらくの間沈黙する。開拓者らの言葉をゆっくりと咀嚼するように。
 そして、開拓者たちそれぞれを見て――首を縦に振った。

 開拓者らは歩き続け、やがて、アヤカシの姿を目撃する。
 前方に、赤い着物の女アヤカシが一体。傍らに鬼が二体。
 三笠 三四郎(ia0163)は、背負っていた三叉戟を前へ出し構える。
 破軍(ib8103)は紅い瞳に狂気じみた光を浮かべ、刀を抜き放った。
「行きましょう。アヤメさん、鍛錬の成果を発揮して下さい。けれど、鍛錬と実践とは違うので、その点はご注意を」
「アヤメ、仕事を覚えたきゃ、しっかりと見て『盗む』ことだな」
 アヤメに声をかける二人へ、鬼たちが迫る。
 飛び散る火花。鬼どもが振り落とした斧を、破軍の刀が受け止め、三四郎が槍で弾いたのだ。
 他の開拓者らも既に戦闘態勢をとっている。それぞれの役割を果たすべく動きだす。


 後衛に陣取ったアヤメ。彼女もすでに抜刀していた。だが、その切っ先が所在なさげに、震えている。緊張しているのだ。
 だから、彼女は気付かなかった。樹上で揺れる枝の音に。その音の主たる小鬼に。
 小鬼二匹は、枝から枝へと飛び移り、短剣を投擲する。
 短剣の一本がアヤメめがけて飛んだ。
「あああっ!」
 とっさに刀を振り回すアヤメ。かろうじて短剣を防いだものの、動きが力み過ぎ、体勢を大きく崩していた。
「アヤメ、落ちつけ。それでは自分の力を出し切れないだろう?」
 アヤメへ声をかけたのは、康平。康平はアヤメやラグナを淡い光で包んだ。加護結界だ。
 もう一匹の小鬼はラグナへ短剣を放っていた。
 その短剣をラグナはグレートソードで叩き落とす。
「そうだ。冷静になれ、アヤメ嬢! 貴女は一人で戦っているのではない!」
 康平とラグナ、二人の言葉にアヤメは我にかえり、姿勢を整えた。
 小鬼たちはさらに攻撃を仕掛けようと短剣を振りかぶっている。
 その小鬼を睨むはリンスガルト。彼女の両手には、それぞれ槍が一本ずつ。
 リンスガルトは右手の槍を投擲。小鬼がそれを避けるが――
「甘い、その動き予想通りじゃ」
 すかさず、もう一本の槍を放つ! 敵の動きを予測して放ったその一撃。小鬼の体を貫き、深刻なダメージを与えた。

 前方では、女アヤカシが笑っていた。彼女の口は耳元まで裂ける。その口の端を釣り上げニィと……。
 次の瞬間――龍牙の足元に触手が発生。地面から生えたそれは龍牙の足に巻きついた。
 間髪いれず、鬼の一体が迫り、斧を振り回す。刃は確かに彼の肩に命中した。だが
「それでは僕には通じない」
 涼やかな龍牙の声。不動の力で斧の一撃を堪えたのだ。龍牙は忍刀を突きだし、反撃。

 アヤカシたちはなおも攻撃を続ける。
 破軍の足に、女アヤカシの生み出した触手が巻きつき――
 さらに、斧鬼の一匹の斧が、破軍の腹に傷をつけた。
 破軍は、刃に僅かに血を流しながら、けれど、動揺を見せない。
「この程度の傷を痛がっていては話にならんのでな……」
 言いながら、刃を一閃! 斧鬼に傷を刻む。
 鬼は怒りの声をあげる。怒りのために出来た隙を三四郎は見逃さない。鬼の脇腹を槍で一突き。
 鬼の動きが止まった。三四郎は仲間に顔を向ける。
「――村雨さん!」
 呼びかけた三四郎に、紫狼は親指を立ててみせる。紫狼の顔は普段とことなり真剣なもの。
「さあ、鬼ども。ひきつけてやる、こっちだ! ――ォォオオオオオッ」
 口を大きく開き――咆哮!
 斧鬼一匹が体の向きを紫狼へと変える。小鬼二匹も木から飛び降り、彼を目指して走りだす。

 咆哮によって、アヤカシ達の陣形が大きく崩れた。
『こ……これは』
 動揺を隠しきれない女アヤカシ。
 不意に女アヤカシは振り返る。そこには
「よお」
 銀雨がいた。仲間が戦っている間に道脇の木立の中を移動し、今、女アヤカシの背後を取ったのだ。
 銀雨は体から殺気を放つ。手甲を嵌めた右拳を鳩尾へ! 発勁で気を左拳に集中、体勢の崩れた女へ――さらにもう一撃!
 ぐげええ?! 女アヤカシは悲鳴を上げ、転倒。


 銀雨は女アヤカシを追撃しようとするが、その動きが急速に緩やかになり止まった。
「こ、こいつは……ね、ね……みぃ……」
 その場に座り込み目を閉じる銀雨。女アヤカシの力が銀雨を眠らせたのだ。
 立ちあがろうとする女アヤカシに三四郎が飛びこんだ
「あなたの術は厄介ですからね。これ以上使う余裕は与えません!」
 三四郎は女に気を浴びせて怯ませ、そして――一槍打通!
 槍の穂先は、女の肉を抉り瘴気を流させた。
 ギャアアアアアアッ
 女の絶叫。目から涙、口から唾液を零し喚く。

 斧鬼の一体は咆哮につられず、破軍と対していた。
 女アヤカシの声を聞き、斧鬼の表情が変わる。仲間の危機を知り焦っている?
 斧鬼は腕の筋肉を盛り上げ――渾身の一振り!
 破軍はかわしきれない。深手を負う。崩れそうになる膝。
 だが――
「破軍、援護させてもらうぞ!」
 康平が精霊の力を借りた。康平の吹かせた癒しの風が、仲間の傷をふさいでいく。
 体勢を立て直した破軍は、大きく踏み込んだ。大振りの刀の切っ先で敵顔面を貫く! 鬼は倒れ――そして消滅。
「ふん……少しは楽しめたか……」
 破軍は消えゆく鬼を一瞥すると、視線を動かした。

 鬼一体に小鬼二体は、未だ紫狼の咆哮の影響下にあった。
 鬼が斧を振りかぶっていたが――唐突に鬼の手から、斧が落ちた。
「悪いが、隙だらけだ」
 鬼の側面に回った緋炎が、鬼の腕を切ったのだ。黒き忍刀による直閃で。鬼の腕には巨大な傷。
「サンキュー、緋炎! ――いくぜ、アヤカシッ!」
 紫狼は高く跳んだ。落下と同時に朱色の刃を上から下へ! 大量の錬力を刃に籠めて――鬼切!
 斧鬼の体は二つに分かれ――消滅。

 緋炎は残りが小鬼と女アヤカシだけになったのを見、声を飛ばす。
「アヤメ君、見ているだけはつまらないだろう? 小鬼たちのトドメは任せるよ」
 ラグナもアヤメの隣から告げる。
「行こう、アヤメ。共に全力を尽くそう!」
 アヤメは返事をする代わりに前進――小鬼に一太刀を浴びせた。
 ラグナもまた前へ。オーラで体を光らせながら、グレートソードを小鬼に叩きつける。
 小鬼の体が宙を舞い、道端の木に激突! 木の葉が落ち――そして小鬼は絶命。

 もう一匹の小鬼もほどなく死亡。
 女アヤカシは、仲間の鬼や小鬼が全滅したのを知ると、一歩後ろに下がろうとする。
 彼女を追うのは、銀雨。銀雨は既に目覚めていたのだ。女へ笑いかけた。
「俺を眠らせるとはやるじゃないか? じゃ、遠慮はいらねぇなっ!」
 鬼がそれ以上下がる前に、拳で殴る、殴る――さらに殴る!!
 女アヤカシは再び地面に倒れ込んだ。それでもなお立ちあがるが――。
 リンスガルトは走る。金の髪を揺らしながら真直ぐに駆け抜ける。女アヤカシとの距離を一気につめ――
「汝に終焉をくれてやろう。――妾の槍技、とくと味わえ!」
 ――カラミティーチャージ!!
 リンスガルトが持つ黄金の槍が、女アヤカシを貫通っ。敵を消滅に追いやった。


 戦闘が終わった後も、破軍は周囲を探っていた。
「……アヤカシがなぜ出やがったのか……手がかりらしいものはない、か」
 いらだたしげに地面を蹴った。
 龍牙も油断なく辺りを見回し残党がいないのを確認してから、
「お疲れ様」と皆を労う。

 やがて、開拓者らは来た道を引き返す。
「今回は、突撃重視の戦法でしたが、これは相手によっては逆に突破される可能性もあり、多用できるものではありません。
 それは心に留めておいてくださいね?」
 三四郎は歩きながら、今回の戦いと戦法について解説を加えた。
 アヤメは神妙な顔つきで聞いている。手帳を取り出し、書き込みしたり。
「ま、俺は敵を殴れてスカッとしたかな。……アヤメはどうだ?」
「……いや、全然だ。私が弱いことを思い知らされた……」
 銀雨の問いに、アヤメはうなだれた。
 康平とリンスガルトが、うつむいた彼女に言葉をかける。
「己の今の力量が分かればいい。力が足りなければ、人の力を借りることもできる。大丈夫だ。大事なのは、器を作ることなのだから」
「そうじゃの。妾も汝も一人で戦うわけではない。皆と共に戦ううちに、武勲も強さもきっとついてくるであろう」
 康平の話し方は決して流暢ではないが、彼自身の想いが感じられる。リンスガルトの声は凛として力強い。
 アヤメは顔をあげ、二人の言葉を真剣に考え出す。
 アヤメたん、と紫狼が彼女の横に立ち話しかける。
「強さが何かって事は難しい事さ。強さってのはバトルの腕だけじゃねーし。実は、俺だって自分の事を弱いと思ってるし」
 意外そうな顔をするアヤメに、紫狼は続ける。
「――俺がいちばん欲しい強さはな、力に溺れず笑顔でいられる事だよ。その笑顔で、皆を笑顔に出来るって胸を張れる事。――ま、いつかわかるさ!」
 アヤメの背中をぽーんと、強く叩いた。
 ふらつくアヤメ。そんな彼女を見て、開拓者の何人かがくすりと笑う。
 ラグナもアヤメの横に並ぶ。手を差し出した。
「これからもともに強くなろう、アヤメ。強きものに……『仲間を守れる剣』に」
 数秒後、アヤメはラグナの手を握り返す。
 歩き続ける開拓者の前方に、森の出口が見えてきた。アヤメの村までもうすぐだ。
 日ざしが強い。小鳥がちゅん、ちゅちゅん……開拓者やアヤメに話しかけるように鳴いていた。