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■オープニング本文 「遺跡を探索中に大事な指輪を落としてしまったの……」 ここは、神楽の都の開拓者ギルド。 その場にいる開拓者たちに、女が言葉を紡いでいる。 女は長身に着流しを纏っている。髪は腰のあたりまでまっすぐ伸び。年のころは10代後半。 彼女も開拓者。『ぼんやりや』のルコだ。 そこそこの剣技を使うサムライながら、いつも何かしら失敗をやらかす、称号通りのぼんやりや。 「ええっと、最初から話すね。おととい、仲間とある遺跡を探索してて……」 探索自体はうまくいき、宝もとりつくしたのだが、探索を終えた後、つけていた指輪を二つ落とした事に気付いたのだという。 「本当なら、自分で取りにいきたいんだけど……今から別の依頼に出発しないといけないの。 だから、皆に遺跡に入って指輪を拾ってきて欲しいの……」 そしてルコは二枚の紙を広げた。 遺跡周辺と遺跡内の地図だ。 「遺跡は、この辺り。入口までは何の問題もなく行けるの。 で、遺跡に入ってからの話なんだけど。 二つの指輪を、遺跡のどこに落としたかは心当たりがあるの。ただ……取るのが、少し大変そうで……」 一つ目の指輪は銀製。遺跡に入ってすぐの部屋の落とし穴の中で落としたらしい。 落とし穴は深さ2メートルほど。 この部屋には、アヤカシも存在する。 「コウモリのアヤカシがいるの。一匹だとすごく弱いんだけど」 数がやたらと多いらしい。不利になれば天井や部屋の隅に逃げ、再び攻撃する隙をうかがう。 二つ目の指輪を落としたのは、一つ目の部屋の隣の部屋。 この部屋は、一辺60メートルほどの正方形。 部屋には鬼のアヤカシ三体が現れる。 「三体とも、ぶよぶよって体つき。お相撲さんみたいなの。汗をいっぱいかいてて、気持ち悪かった」 思い出し、顔をしかめるルコ。 このアヤカシ達は、張り手や体当たりなどの格闘攻撃を仕掛けてくる。 なお、ルコがこの部屋に入った時は、アヤカシ達は部屋の中央に陣取っていたらしい。 「指輪は、この部屋の奥に落ちてるはず……。 ……この指輪はガラスで出来てるの。気をつけて……」 ルコは心配そうな顔をつくる。 ルコが用意した地図は詳細。地図を見れば、指輪のある部屋以外では、敵に遭遇せずに済みそうだ。 「ええっと……説明は……うん、おわり。 どちらも大事な指輪……。……落としてしまった私がいうのもなんだけど……本当に大事……。 ……お願い、どうか、力を貸して」 ルコは両手を合わせて懇願する。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●コウモリの羽音 山の中、切り立った崖の岩肌にその扉、遺跡の入口は存在していた。 扉をあけると、石畳の通路が伸びている。十数歩先に部屋が見えた。 その部屋の天井は黒い。 否。 コウモリがびっしりと張り付き、侵入者を待ち構えているのだ。 開拓者八人は恐れることなく遺跡に足を踏み入れ、部屋へと前進。 (ルコさん、任せて。わたしたちが大事な指輪を取ってくるから‥‥) 白髪の少女、水月(ia2566)は歩きながら、ゆっくり口を開いた。めったに動かぬ唇が夜の子守唄を紡ぎだす。 水月の声は、コウモリがいる部屋へ届く。コウモリの幾匹かが眠り床に落下した。 機を逃さず、開拓者は部屋の中に侵入する。 しかし、コウモリの多くは健在だ。開拓者らに飛びかかってくる。 三笠 三四郎(ia0163)はコウモリ数匹にまとわりつかれながらも、落ち着いた顔を崩さない。 「まずは、これで様子を見る事にしましょうか」 刀を一閃、二閃。刃がコウモリを両断し、切っ先が別の一体を刺し貫く。悲鳴をあげる間もなくコウモリ達は地に還る。 水鏡 絵梨乃(ia0191)はぼんやりとした表情。足元をふらつかせていた。 そんな彼女に、コウモリが体当たりを仕掛けてくる。が――絵梨乃は不意に体を大きく逸らす。コウモリの攻撃は外れ、勢い余って床に激突した。 「これがボクの酔拳だよ」 口の端を釣り上げる絵梨乃。 けれどまだコウモリどもは攻撃をやめない。 エルレーン(ib7455)はコウモリの牙に噛まれ、幾つかの傷を作っていた。 「私は剣にして盾。これくらいじゃ倒れないっ」 エルレーンは痛みを顔に出さない。黒の瞳で敵を睨み、剣を持つ右腕を大きく振るった。 青い刃が風を切り、コウモリが悲鳴をあげた。 彼女を脅威と見たのか、頭上からコウモリ二匹が急降下する。 「させませんっ」 利穏(ia9760)は隼人の動きで、そのコウモリより先手を取る。腕をしならせ苦無を投擲。彼の狙いは精密。コウモリの羽に穴をあける。 コウモリの動きが鈍ったのを見て、鬼面を被る黒衣の男、トカキ=ウィンメルト(ib0323)は溜息をつく。 「‥‥はぁ‥‥かったるい」 トカキはサンダーを行使する。コウモリ達は感電し、きぃぃ、と悲鳴を上げながら消滅。 開拓者らは多少の傷を負うが、それ以上の傷をコウモリどもに与え――そして数十秒後。 コウモリどもは攻撃するのをやめた。怯えた様子で、部屋の隅へと逃げていく。 その動きは、開拓者らにとって予測済みのもの。 不破 颯(ib0495)は目を細めつつ、漆黒の弓を引き絞る。 「ジークリンデ、いくよぉ‥‥アヤカシたちは、残念でしたぁっと」 「かしこまりました」 颯の呑気な声に、ジークリンデ(ib0258)が返事した。彼女は、銀髪と千早の布を揺らしながら敵に接近し、術を発動させる。 直後、衝撃波と猛吹雪が発生。コウモリの骨を砕き、凍えさせ――コウモリどもを滅していく。 ジークリンデはコウモリがいなくなったのを確認すると、部屋の隅の落とし穴を作動させた。縄で中へ。 上にいる仲間が魔法や松明で照らしてくれる。ジークリンデはその明かりを頼りに、捜索を開始。 「こんなところに大切な指輪を落としてしまうなんて、ついていませんね。ええっと‥‥ああ、これです」 銀の指輪を発見し、慎重な手つきでそれを拾い上げた。 ●肥満鬼の立てる地響き。 ぶよん。ぶよん。たぷんたぷんでぬるぬるん。 次の部屋への扉を開けた一行が目にしたのは、まさにそんな存在だった。 黒いふんどしをつけた超肥満の鬼が三体、大量に汗を流しながら立っていたのだ。 三四郎は、一つ目の部屋の中に下がりながら、口を開く。臍のやや下に力を溜め 「――ぉぉおおおオオオオッ!!」 咆哮する。 肥満鬼の一体が咆哮につられ、三四郎へと走ってくる。 残りの二体は未だ二つ目の部屋の中央で立ちつくしていた。 「ふむ、にゅるにゅるしてるようだが、ぶっ刺してこっちに注意を向けてやろうかねぇ。利穏も頼めるかぁ?」 「――ええ、誘導しましょう」 颯と利穏は短く会話を交わすと、それぞれ手を動かす。利穏の苦無が、肥満鬼の頬を傷つけ、颯の猟兵射が別の一体の腹を貫いた。 「ブオブオブオブオ!!」 鬼たちは怒りの声をあげた。 三体の鬼どもは床を揺らしながら、目論見通り一つ目の部屋に。 戦闘が始まった。 肥満鬼が駆ける。そして身をかがめ――三四郎の腹へ頭をめり込ます。 さらにもう一体が、利隠の顔を張り手する。響く音。 激痛に顔を歪める三四郎と利穏。 ――ぶよぶよ汗かきさんになんて、負けないで。 水月は両手を胸の前で組んだ。水月の体が輝き仲間を照らす。二人から痛みを取り払う。 一方、絵梨乃は落とし穴を背に立っていた。手招きし、肥満鬼を挑発する。 「さあ、かかっておいで」 はたして敵は誘いにのった。絵梨乃へ体の向きを変え、突進してくる。絵梨乃は乱酔拳の動きで避けようとするが―― 「何っ?」 敵は床を強く蹴って加速。予想外の早さ! このままでは回避が間に合わず、穴に落とされてしまう。 敵の攻撃が絵梨乃に当たる直前、ジークリンデが術を発動させた。 三連続のアムルリープ! 鬼が足を止めた。ふぁ‥‥と大きく欠伸。立ったまま目を閉じる。 ジークリンデは仲間に氷蒼色の瞳を移す。 「さあ、エルレーンさん。背中を!」 「う、うええ‥‥汗まみれの背中気持ち悪い‥‥でもっ」 エルレーンは顔に嫌悪感を浮かべつつも、肥満鬼の背後に回る。絵梨乃が横にずれたのを確認してから、刀をフルスイング。刃の峰を肥満鬼に叩きつける! 肥満鬼はふらつき‥‥ 「ぶおお?!」穴の中に落下。 「穴に落ちたのは、俺が処理しておきますね」 やる気なさげに、トカキが請け負う。 トカキは自分の背より高い鎌を振り、雷を召喚。鬼のいる穴の中へ次々落としていく。底から情けない鬼の悲鳴。 ●快哉をあげるのは、どちら? 鬼は二体に減った。だが、肥満鬼はタフでしかも怪力。開拓者らを脅かす。 「近寄らないんでよ、近寄らないで‥‥わ、私に触ったら、真っ二つに斬っちゃうんだからね!」 「ぶももももも!!!」 エルレーンに制止の言葉をかけられ、しかし、肥満鬼は嬉しそうだ。今までいちばん甲高い声をあげながら、エルレーンの顎を掌で突きあげる。 衝撃。鈍い痛みが走り、さらに、脳が揺れた。 トカキはエルレーンに語りかけた。 「‥‥仲間が倒れては、厄介なことになりますからね」 トカキはエルレーンの体を淡い光で包む。レ・リカルの術だ。 エルレーンはトカキの力で体勢を立て直し、 「触ったら斬るっていったでしょう?」 素早く足を踏み出す。刀に炎を宿し――斬! 肥満鬼は体力を大きく消耗した。あぶら汗を今まで以上にかく。床に汗をこぼしながら、鬼は腕を闇雲に振り回す。 当たれば、激痛をもたらす一撃。だが、三四郎は躊躇なく跳び込む。肥満鬼の腕を掻い潜り、懐に。 「どうやら倒せば増援がくる‥‥ということはなさそうですし、加減はいりませんね」 不動明王剣の刀身で首を刺し、敵を終わらせる。 最後に残った鬼は戦況を不利と見たか、元いた部屋へ逃げ出そうとする。 だが、鬼と扉の間に、絵理乃が立ちはだかった。 「ぶもももっ! ぶもー!」 邪魔だから退けとばかりに、突き出される鬼の腕を 「――その動きは、見切らせてもらったよ」 絵梨乃は体を揺らす最小限の動きでかわした。そして、反撃。敵の膝をしたたかに蹴る! 鬼は目を限界まで見開く。痛がっているのだ (‥‥眠らせちゃうから、早く倒してなの〜〜) 後方から戦況を見ていた水月は歌いだす。髪飾りを輝かせながら歌うのは、神秘的な子守唄。 鬼は歯を食いしばり、かろうじて水月の唄に抗う。が、隙ができた。 「これで、決めさせていただきます」 「あっはっはは〜転がれ〜」 仕掛けたのは、ジークリンデと颯。アークブラストで鬼を感電させ、猟兵射で鬼の太ももを射抜く。 うつ伏せに倒れる肥満鬼。部屋が揺れた。 鬼はまだ生きていた。床に両手を突き立ち上がろうとする。 利穏は鬼の横に移動。侠剣を振り上げ―― 新陰流の刀技で、肥満鬼を葬った。 ●静かになった遺跡で 開拓者たちは敵のいなくなった部屋を調べだす。 絵梨乃は赤の瞳に気力を籠めた。その瞳が、床の上で光る何かを捉えた。ガラスの指輪だ。 「見つかったよ。――ルコには大事なものならもう落とさないように、って言っておかないとね」 依頼を達成できた、と絵梨乃は息を吐く。 指輪は松明の光を反射し続けている。 わぁ。エルレーンは指輪を見て声をあげる。 「いいなぁ、私もこういう指輪、欲しいな‥‥そうだ。都に帰ったら、今回の報酬で買おう」 エルレーンは買い物が楽しみ、と無意識に笑う。 水月は先ほど鬼がいた場所に顔を向け、顎に指をあてていた。 アヤカシと遺跡と瘴気‥‥それらの関係について思いを巡らせているらしい。しかし、答えは出なかったようだ。 (世の中には難しいこといっぱいなの)水月は口の中で言い、首を左右に振った。 「それにしても、大切な物を二個も落とすってある意味すごいですよね‥‥紐にでも通して首にかけておくことを勧めるべきでしょうかね」 「そうだなぁ。アヤカシもいる遺跡で指輪を落としたら、割れたりしても不思議はないもんなぁ。今回は随分と幸運だったけど、次からは気をつけた方がいいよなぁ」 トカキは依頼人のドジさ加減に肩をすくめ、颯もその通りだなぁと、頷いた。 利穏は二人の話に相槌を打っていたが、ふと言葉を口にする。 「でも‥‥指輪の一つが、落とし穴にあったということは、ルコさん、穴にはまってしまったんでしょうか」 聞いていたジークリンデは思わず、くすり。手の甲で口元を隠し、くすくす。落とし穴にはまったルコを想像したらしい。 「そろそろいきましょうか。ルコさんに指輪をお渡ししないと」 促したのは、三四郎。出口を指差す。残りの七人も頷いた。 八人は、ルコにどんなふうに注意をしようか、などと談笑しながら、遺跡を立ち去るのだった。 |