二つの指輪
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/07 22:19



■オープニング本文

「遺跡を探索中に大事な指輪を落としてしまったの……」
 ここは、神楽の都の開拓者ギルド。
 その場にいる開拓者たちに、女が言葉を紡いでいる。
 女は長身に着流しを纏っている。髪は腰のあたりまでまっすぐ伸び。年のころは10代後半。
 彼女も開拓者。『ぼんやりや』のルコだ。
 そこそこの剣技を使うサムライながら、いつも何かしら失敗をやらかす、称号通りのぼんやりや。
「ええっと、最初から話すね。おととい、仲間とある遺跡を探索してて……」
 探索自体はうまくいき、宝もとりつくしたのだが、探索を終えた後、つけていた指輪を二つ落とした事に気付いたのだという。
「本当なら、自分で取りにいきたいんだけど……今から別の依頼に出発しないといけないの。
 だから、皆に遺跡に入って指輪を拾ってきて欲しいの……」

 そしてルコは二枚の紙を広げた。
 遺跡周辺と遺跡内の地図だ。
「遺跡は、この辺り。入口までは何の問題もなく行けるの。
 で、遺跡に入ってからの話なんだけど。
 二つの指輪を、遺跡のどこに落としたかは心当たりがあるの。ただ……取るのが、少し大変そうで……」
 一つ目の指輪は銀製。遺跡に入ってすぐの部屋の落とし穴の中で落としたらしい。
 落とし穴は深さ2メートルほど。
 この部屋には、アヤカシも存在する。
「コウモリのアヤカシがいるの。一匹だとすごく弱いんだけど」
 数がやたらと多いらしい。不利になれば天井や部屋の隅に逃げ、再び攻撃する隙をうかがう。
 二つ目の指輪を落としたのは、一つ目の部屋の隣の部屋。
 この部屋は、一辺60メートルほどの正方形。
 部屋には鬼のアヤカシ三体が現れる。
「三体とも、ぶよぶよって体つき。お相撲さんみたいなの。汗をいっぱいかいてて、気持ち悪かった」
 思い出し、顔をしかめるルコ。
 このアヤカシ達は、張り手や体当たりなどの格闘攻撃を仕掛けてくる。
 なお、ルコがこの部屋に入った時は、アヤカシ達は部屋の中央に陣取っていたらしい。
「指輪は、この部屋の奥に落ちてるはず……。
 ……この指輪はガラスで出来てるの。気をつけて……」
 ルコは心配そうな顔をつくる。
 ルコが用意した地図は詳細。地図を見れば、指輪のある部屋以外では、敵に遭遇せずに済みそうだ。

「ええっと……説明は……うん、おわり。
 どちらも大事な指輪……。……落としてしまった私がいうのもなんだけど……本当に大事……。
 ……お願い、どうか、力を貸して」
 ルコは両手を合わせて懇願する。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
利穏(ia9760
14歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
エルレーン(ib7455
18歳・女・志


■リプレイ本文

●コウモリの羽音
 山の中、切り立った崖の岩肌にその扉、遺跡の入口は存在していた。
 扉をあけると、石畳の通路が伸びている。十数歩先に部屋が見えた。
 その部屋の天井は黒い。
 否。
 コウモリがびっしりと張り付き、侵入者を待ち構えているのだ。
 開拓者八人は恐れることなく遺跡に足を踏み入れ、部屋へと前進。
(ルコさん、任せて。わたしたちが大事な指輪を取ってくるから‥‥)
 白髪の少女、水月(ia2566)は歩きながら、ゆっくり口を開いた。めったに動かぬ唇が夜の子守唄を紡ぎだす。
 水月の声は、コウモリがいる部屋へ届く。コウモリの幾匹かが眠り床に落下した。
 機を逃さず、開拓者は部屋の中に侵入する。
 しかし、コウモリの多くは健在だ。開拓者らに飛びかかってくる。
 三笠 三四郎(ia0163)はコウモリ数匹にまとわりつかれながらも、落ち着いた顔を崩さない。
「まずは、これで様子を見る事にしましょうか」
 刀を一閃、二閃。刃がコウモリを両断し、切っ先が別の一体を刺し貫く。悲鳴をあげる間もなくコウモリ達は地に還る。
 水鏡 絵梨乃(ia0191)はぼんやりとした表情。足元をふらつかせていた。
 そんな彼女に、コウモリが体当たりを仕掛けてくる。が――絵梨乃は不意に体を大きく逸らす。コウモリの攻撃は外れ、勢い余って床に激突した。
「これがボクの酔拳だよ」
 口の端を釣り上げる絵梨乃。
 けれどまだコウモリどもは攻撃をやめない。
 エルレーン(ib7455)はコウモリの牙に噛まれ、幾つかの傷を作っていた。
「私は剣にして盾。これくらいじゃ倒れないっ」
 エルレーンは痛みを顔に出さない。黒の瞳で敵を睨み、剣を持つ右腕を大きく振るった。
 青い刃が風を切り、コウモリが悲鳴をあげた。
 彼女を脅威と見たのか、頭上からコウモリ二匹が急降下する。
「させませんっ」
 利穏(ia9760)は隼人の動きで、そのコウモリより先手を取る。腕をしならせ苦無を投擲。彼の狙いは精密。コウモリの羽に穴をあける。
 コウモリの動きが鈍ったのを見て、鬼面を被る黒衣の男、トカキ=ウィンメルト(ib0323)は溜息をつく。
「‥‥はぁ‥‥かったるい」
 トカキはサンダーを行使する。コウモリ達は感電し、きぃぃ、と悲鳴を上げながら消滅。

 開拓者らは多少の傷を負うが、それ以上の傷をコウモリどもに与え――そして数十秒後。
 コウモリどもは攻撃するのをやめた。怯えた様子で、部屋の隅へと逃げていく。
 その動きは、開拓者らにとって予測済みのもの。
 不破 颯(ib0495)は目を細めつつ、漆黒の弓を引き絞る。
「ジークリンデ、いくよぉ‥‥アヤカシたちは、残念でしたぁっと」
「かしこまりました」
 颯の呑気な声に、ジークリンデ(ib0258)が返事した。彼女は、銀髪と千早の布を揺らしながら敵に接近し、術を発動させる。
 直後、衝撃波と猛吹雪が発生。コウモリの骨を砕き、凍えさせ――コウモリどもを滅していく。

 ジークリンデはコウモリがいなくなったのを確認すると、部屋の隅の落とし穴を作動させた。縄で中へ。
 上にいる仲間が魔法や松明で照らしてくれる。ジークリンデはその明かりを頼りに、捜索を開始。
「こんなところに大切な指輪を落としてしまうなんて、ついていませんね。ええっと‥‥ああ、これです」
 銀の指輪を発見し、慎重な手つきでそれを拾い上げた。

●肥満鬼の立てる地響き。
 ぶよん。ぶよん。たぷんたぷんでぬるぬるん。
 次の部屋への扉を開けた一行が目にしたのは、まさにそんな存在だった。
 黒いふんどしをつけた超肥満の鬼が三体、大量に汗を流しながら立っていたのだ。

 三四郎は、一つ目の部屋の中に下がりながら、口を開く。臍のやや下に力を溜め
「――ぉぉおおおオオオオッ!!」
 咆哮する。
 肥満鬼の一体が咆哮につられ、三四郎へと走ってくる。
 残りの二体は未だ二つ目の部屋の中央で立ちつくしていた。
「ふむ、にゅるにゅるしてるようだが、ぶっ刺してこっちに注意を向けてやろうかねぇ。利穏も頼めるかぁ?」
「――ええ、誘導しましょう」
 颯と利穏は短く会話を交わすと、それぞれ手を動かす。利穏の苦無が、肥満鬼の頬を傷つけ、颯の猟兵射が別の一体の腹を貫いた。
「ブオブオブオブオ!!」
 鬼たちは怒りの声をあげた。
 三体の鬼どもは床を揺らしながら、目論見通り一つ目の部屋に。

 戦闘が始まった。
 肥満鬼が駆ける。そして身をかがめ――三四郎の腹へ頭をめり込ます。
 さらにもう一体が、利隠の顔を張り手する。響く音。
 激痛に顔を歪める三四郎と利穏。
――ぶよぶよ汗かきさんになんて、負けないで。
 水月は両手を胸の前で組んだ。水月の体が輝き仲間を照らす。二人から痛みを取り払う。

 一方、絵梨乃は落とし穴を背に立っていた。手招きし、肥満鬼を挑発する。
「さあ、かかっておいで」
 はたして敵は誘いにのった。絵梨乃へ体の向きを変え、突進してくる。絵梨乃は乱酔拳の動きで避けようとするが――
「何っ?」
 敵は床を強く蹴って加速。予想外の早さ! このままでは回避が間に合わず、穴に落とされてしまう。
 敵の攻撃が絵梨乃に当たる直前、ジークリンデが術を発動させた。
 三連続のアムルリープ!
 鬼が足を止めた。ふぁ‥‥と大きく欠伸。立ったまま目を閉じる。
 ジークリンデは仲間に氷蒼色の瞳を移す。
「さあ、エルレーンさん。背中を!」
「う、うええ‥‥汗まみれの背中気持ち悪い‥‥でもっ」
 エルレーンは顔に嫌悪感を浮かべつつも、肥満鬼の背後に回る。絵梨乃が横にずれたのを確認してから、刀をフルスイング。刃の峰を肥満鬼に叩きつける!
 肥満鬼はふらつき‥‥
「ぶおお?!」穴の中に落下。
「穴に落ちたのは、俺が処理しておきますね」
 やる気なさげに、トカキが請け負う。
 トカキは自分の背より高い鎌を振り、雷を召喚。鬼のいる穴の中へ次々落としていく。底から情けない鬼の悲鳴。

●快哉をあげるのは、どちら?
 鬼は二体に減った。だが、肥満鬼はタフでしかも怪力。開拓者らを脅かす。
「近寄らないんでよ、近寄らないで‥‥わ、私に触ったら、真っ二つに斬っちゃうんだからね!」
「ぶももももも!!!」
 エルレーンに制止の言葉をかけられ、しかし、肥満鬼は嬉しそうだ。今までいちばん甲高い声をあげながら、エルレーンの顎を掌で突きあげる。
 衝撃。鈍い痛みが走り、さらに、脳が揺れた。
 トカキはエルレーンに語りかけた。
「‥‥仲間が倒れては、厄介なことになりますからね」
 トカキはエルレーンの体を淡い光で包む。レ・リカルの術だ。
 エルレーンはトカキの力で体勢を立て直し、
「触ったら斬るっていったでしょう?」
 素早く足を踏み出す。刀に炎を宿し――斬!
 肥満鬼は体力を大きく消耗した。あぶら汗を今まで以上にかく。床に汗をこぼしながら、鬼は腕を闇雲に振り回す。
 当たれば、激痛をもたらす一撃。だが、三四郎は躊躇なく跳び込む。肥満鬼の腕を掻い潜り、懐に。
「どうやら倒せば増援がくる‥‥ということはなさそうですし、加減はいりませんね」
 不動明王剣の刀身で首を刺し、敵を終わらせる。

 最後に残った鬼は戦況を不利と見たか、元いた部屋へ逃げ出そうとする。
 だが、鬼と扉の間に、絵理乃が立ちはだかった。
「ぶもももっ! ぶもー!」
 邪魔だから退けとばかりに、突き出される鬼の腕を
「――その動きは、見切らせてもらったよ」
 絵梨乃は体を揺らす最小限の動きでかわした。そして、反撃。敵の膝をしたたかに蹴る!
 鬼は目を限界まで見開く。痛がっているのだ
(‥‥眠らせちゃうから、早く倒してなの〜〜)
 後方から戦況を見ていた水月は歌いだす。髪飾りを輝かせながら歌うのは、神秘的な子守唄。
 鬼は歯を食いしばり、かろうじて水月の唄に抗う。が、隙ができた。
「これで、決めさせていただきます」
「あっはっはは〜転がれ〜」
 仕掛けたのは、ジークリンデと颯。アークブラストで鬼を感電させ、猟兵射で鬼の太ももを射抜く。
 うつ伏せに倒れる肥満鬼。部屋が揺れた。
 鬼はまだ生きていた。床に両手を突き立ち上がろうとする。
 利穏は鬼の横に移動。侠剣を振り上げ――
 新陰流の刀技で、肥満鬼を葬った。

●静かになった遺跡で
 開拓者たちは敵のいなくなった部屋を調べだす。
 絵梨乃は赤の瞳に気力を籠めた。その瞳が、床の上で光る何かを捉えた。ガラスの指輪だ。
「見つかったよ。――ルコには大事なものならもう落とさないように、って言っておかないとね」
 依頼を達成できた、と絵梨乃は息を吐く。
 指輪は松明の光を反射し続けている。
 わぁ。エルレーンは指輪を見て声をあげる。
「いいなぁ、私もこういう指輪、欲しいな‥‥そうだ。都に帰ったら、今回の報酬で買おう」
 エルレーンは買い物が楽しみ、と無意識に笑う。

 水月は先ほど鬼がいた場所に顔を向け、顎に指をあてていた。
 アヤカシと遺跡と瘴気‥‥それらの関係について思いを巡らせているらしい。しかし、答えは出なかったようだ。
(世の中には難しいこといっぱいなの)水月は口の中で言い、首を左右に振った。
「それにしても、大切な物を二個も落とすってある意味すごいですよね‥‥紐にでも通して首にかけておくことを勧めるべきでしょうかね」
「そうだなぁ。アヤカシもいる遺跡で指輪を落としたら、割れたりしても不思議はないもんなぁ。今回は随分と幸運だったけど、次からは気をつけた方がいいよなぁ」
 トカキは依頼人のドジさ加減に肩をすくめ、颯もその通りだなぁと、頷いた。
 利穏は二人の話に相槌を打っていたが、ふと言葉を口にする。
「でも‥‥指輪の一つが、落とし穴にあったということは、ルコさん、穴にはまってしまったんでしょうか」
 聞いていたジークリンデは思わず、くすり。手の甲で口元を隠し、くすくす。落とし穴にはまったルコを想像したらしい。

「そろそろいきましょうか。ルコさんに指輪をお渡ししないと」
 促したのは、三四郎。出口を指差す。残りの七人も頷いた。
 八人は、ルコにどんなふうに注意をしようか、などと談笑しながら、遺跡を立ち去るのだった。