パンもよろしく
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/30 19:09



■オープニング本文

 武天は山間部の、とある城下町。
 町の中の一角、商店街にその店はあった。
 看板には『パンの店』と書いてある。
 営業中だが、店内には、客はいない。
 いるのは、エプロンをつけた男女――この店の主人、サスケとオトク。二人ははふぅ、と溜息をついた。
 彼らは、以前は農家だった。が、ジルベリアに旅行する機会があり、そこでパンの味を知る。初めて食べたその味に二人はとりことなり、独力でパンの作り方を学んだ。他の人にも味を知って貰いたいと、この町に空き店舗を見つけ、店を構える事にした。
 商品は、多くない。食パンやコッペパンなど、基本的なものが数種類。
 パンは、近くの農家から良質の小麦を仕入れ、自分たちで手作りした物。
 特に食パンはふわふわした触感が自慢の一品。
 だが、店を開けて五日。客はほとんど来ない。
 子供たちが面白半分で覗きに来るが、買い物はしていかない。

 この町の人々は、ジルベリアの文化になじみがない。だから、あまりパンを買おうと思わない。そもそも店の存在を知らない人も多い。サスケとオトクは商売に関しては素人同然で、宣伝などに気が回らなかったからだ。
 そして、今二人は店内で溜息をついている
「……どうしたらいいんでしょうね? 宣伝をするか、新しい商品を売ってみるか……」
「しかし、オトク、宣伝とか新しい商品といっても……具体的にどうすれば?」
 頭を悩ます二人。

 そして、数日後。此隅にある開拓者ギルドをサスケとオトクが訪れた。
「と言う訳で、知恵と経験豊富な開拓者に店を手伝ってもらおうと思ってね」
「お店のお手伝いをしながら、お店を盛り上げる工夫をしてほしいの。
 たとえば、お店に人がきてもらえるような宣伝とか、
 たとえば、お店に来てもらった人が満足してもらえるような新商品とか。
 もちろん、他にも出来る事があったらやってくれると嬉しいわ」
「期間は一週間。俺たちパンが好きでな、だから町の人たちにも美味しいパンを食べてもらいたいんだ。どうか頼む!」
 頭をさげる二人だった。


■参加者一覧
御神楽・月(ia0627
24歳・女・巫
和奏(ia8807
17歳・男・志
祇杏(ib0806
15歳・男・巫
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
扶桑 鈴(ib5920
17歳・女・巫
魚座(ib7012
22歳・男・魔


■リプレイ本文

●お店に到着
 昼間。武天はとある城下町を開拓者七人が歩いていた。
 和奏(ia8807)はただ歩くだけではない。辺りに注意深く視線を送っている。
 同じ道を走り回る子供たち。あちらの辻では、主婦たちが井戸端会議をしている。
「‥‥家事や買い物は、主婦が中心‥‥。それに、近くに山があるからか、子供が元気いっぱいですね‥‥」
 町の雰囲気を感じ取りつつ、和奏は独白する。観たことを今回の依頼に活かそうと、考察しているのだ。

 町中を軽く見まわった後、開拓者らは依頼人の店『パンの店』についた。
 店の主人サスケとオトクは、
「よくきてくれた」「待ってたよ」と七人を歓迎する。
 開拓者たちは挨拶をした後、サスケ達との打ち合わせを始めた
 まず、魚座(ib7012)らの提案で、試食会が行われた。店の現状を知るためだ。
 テーブルに食パンやコッペパンなど数種類のパンが並べられ、開拓者らが食べ始める。
「美味しー♪」
 魚座も食パンをあむっと一口し、歓声。
 パンは、表面は香ばしく、中は柔らかくて口当たりがいい。噛むと、微かな麦の旨み。
 でも、と魚座は付け加えた。
「美味しくてもパンだけじゃ寂しいね。付け合わせが欲しいな。ジャムとか蜂蜜とか。サラダや目玉焼きもあうよね♪」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)がそこで、はいっ、と手をあげた。荷物から小瓶を取り出す。
「ジャムなら持って来たよっ。甘くておいしいの! 後で作り方も教えるねっ。近くの八百屋さんで材料も買ってくるよ」
 瓶には、淡い黄色の林檎ジャム。リィムナは続ける。
「そうだ。普通にパンに塗るのも美味しいけど、生地でジャムを包んで焼くのも美味しいと思うんだけど、どうかな?」
 美味しいものが大好きで、パンの美味しさをこの町の皆に伝えたいから、彼女の声には熱意が溢れてる。
 祇杏(ib0806)も試食に加わっていたが食べる手を止める。
「パンと何かを組み合わせるのは、俺も賛成です。パンの特徴を活かせればいいですね。例えば‥‥」
 祇杏は包丁を借り、コッペパンの真ん中に切れ目を入れた、
「コッペパンの形はこうやって具を挟むのに向いてます。だから、此処に色々なお惣菜を挟んで‥‥」
 陽月(ia0627)は、顎に指をあて考えていたが、口を開く。
「お惣菜を挟んで召し上がって頂くのは、よい案かもしれません。まずはお昼限定でされては如何でしょうか?」
 次々に出される開拓者の意見。
 サスケとオトクは頷きながらも、顔はどこか不安そう。新しい商品を出しても売れなければ――そんな想いに囚われているのだ。
 陽月は青の瞳で二人を見つめおっとりした口調で励ます
「大丈夫ですよ。お二人のパンは美味しゅうございました。ほんの少し工夫があれば、きっと受け入れられます」

 試食会を終えた後、今度は
「は、は、はい‥‥え、え、と。これ‥‥」
「はいなっ! コッペパンですねっ?」
 扶桑 鈴(ib5920)相手に、オトクが接客をしはじめる。オトク達の普段の接客態度を見るために、鈴が客役をオトクが店員役を、しているのだ。
「えと‥‥はい、これを‥‥ください。‥‥おいくら、です、か?」
「はい、‥‥文になります!」
 鈴は普段以上にわたわたしている。オトクの声が大きすぎるのだ。
「オトクは肩に力が入り過ぎ。相手も緊張しちまう。自然に対応できるよう、後でじっくり練習しねーとな?」
 様子を見ていた羽喰 琥珀(ib3263)が助言した。
 一通り、接客を見た後、琥珀は、今度は衛生管理について話し始める。
「二人とも知ってることもあるだろうけど、知ってるつもりってのが、一番こえーからさ。間違いがあったら洒落にならねーだろ?」
 例えば、小麦粉は湿度の低い所で保存する等の貯蔵法や、厨房や店舗内の清掃‥‥。琥珀は実演も交えて説明する。熱心に聞くサスケ達。

●お客様を迎えるために
 少しの時間が経過した。窓からは夕日。
 陽月、祇杏、琥珀、リィムナの四人とサスケは、厨房に入る。先ほどの試食会での話し合いを踏まえ、新商品の試作を開始する。
 陽月は鍋から、紐で縛った豚肉を取り出した。炙った肉を醤油ベースのタレで数時間煮込んだ、肉の醤油漬け。
「パンに挟むお惣菜として、これはどうでしょうか? お肉の臭みも取れていますし、日持ちもするんですよ?」
 説明しながら、陽月は細い手で肉を切り分けパンに挟む。皆でそれを試食。
 祇杏は一口食べ、いい味ですと頷く。
「シソ等の野菜や漬物を、一緒に挟むのはどうでしょうか? 味や食感にアクセントをつけれるのでは?」
 と案を出す。商品をよりよくするために。
 一方、琥珀は焼き窯から丸いパンを取り出した。
「さっきリィムナが言っていたジャムパンから思いついたんだ! ジルベリアに馴染みがない人にも親しみやすいようにってな!」
 彼が作ったのは、中に小豆餡の入った、アンパン。
 パンの素朴な味と餡の甘味の取り合わせは、一同に好評。
 その後も、試作品が作られ、それを皆で検討していく。
 ジルベリアや泰国原産のものなどは手に入りにくい。そのため、開拓者の考えたもの全ては作れない。が、それでも色々な新商品が出来そうだ。
 リィムナは、商品の売り方についても提案する。
「あと、食パンとかは、一斤丸ごとじゃなくて一食分に分けて売ったらどうかな? 値段も安くなるし」
 サスケはもっともだ、と手帳にリィムナの意見を書き留めた。

 一方、和奏は売り場に新しい壁紙を張っていた。
「商品も大事ですが、まず入りたくなるような見た目も大事ですからね」
 壁紙の色は、淡い黄。清潔感と親しみやすさを演出する
 鈴は和奏と一緒に壁紙を張っていた。初めての仕事を頑張ろうと、一生懸命。
 作業が一段落すると、鈴は和奏に消え入りそうな声で頼んだ。
「和奏さん‥‥あの‥‥看板、を‥‥かけたい、ので‥‥手伝って‥‥くれません、か‥‥?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
 ふんわりと応じる和奏。
 鈴は作業をする前に、木の板で看板を作っていたのだ。
 パンの形をした看板。可愛らしい丸文字で「パンの店」と書かれている。
 鈴と和奏は協力し合いながら、店先に看板をかけたのだった。

 その頃、魚座はオトクと、チラシを作るために町の木版屋に来ていた。
 チラシを大量に作るには、木版に墨をつけ紙に印刷するのが一般的。その木版を彫って貰う必要がある。
 魚座が木版作りと印刷を依頼すると、木版屋は
「この値段でよければ引き受けるよ」と値段を提示。
 魚座はオトクへ視線を移す。
「どうする? 私はチラシを刷って配ったほうがいい、と思うんだけど。皆に知ってもらうために」
 オトクは少し迷っていたが魚座の言葉に後押しされたようだ、お願いするよ、と頷いた。

●味を知ってください
 翌朝、祇杏は店の表で縁台を設置していた。縁台は「実際に食べてる人を見てもらうのが、一番の宣伝ですから」と、祇杏がサスケに提案し、購入したもの。
 台を設置すると、上に赤い布をかける。
 魚座と琥珀は、祇杏を手伝っていたが、手を止めた。少し離れた位置で、子供数人が様子を窺っているのに、気付いたのだ。
 二人はいったん店へ入り、再び外へ顔を出す。手には皿。載っているのはアンパンや、肉を挟んだ総菜パン。試食用に一口大に切られている。
「おいでー。良い匂いだよー? 美味しいから、食べてみる?」
 魚座は子供たちに愛想よく手招き。
「パンつって、ジルベリアの食い物なんだー。食べてみろって」
 琥珀は尖った歯を見せ、人懐っこく笑う。
 二人の友好的な態度は子供らを安心させたようだ。近づいてくる。パンを手に取り、おそるおそる口に。
 うめーっと歓声。試食用のパンはたちまちになくなった。
 子供の声を聞いて、数名の大人もやってくる。
 厨房にいた陽月も、店の外へ。
「今できたところなので、よかったら試食していってくださいな?」
 きなこを砂糖をまぶした揚げパン。それをやはり一口大にして提供する。
 未知の食感となじみ深い甘味は、試食する町人たちを魅了した。
 試食した何人かはパンに興味をもってくれたようだ。店の中に入り、幾つか商品を買っていく。

●お客様へのご案内
 三日目にはチラシが刷り上がった。開拓者らは、本格的に宣伝活動を始める。
 チラシ配りにいく仲間に、陽月は籠を渡す。
「チラシと一緒にこれを配るのはどうでしょう?」
 籠の中にはカリカリに焼いたラスク。

 琥珀は籠とチラシを手に住宅街を目指した。井戸端会議する主婦をみつけ、彼女らにチラシとラスクと渡した。
「他にも色々種類があって、気軽に食べれるんです、奥様方。おぼっちゃまやご主人にも楽しんで頂けると思います」
 丁寧な口調で話す琥珀。婦人らはラスクを口にし、あら美味しいわーと、感心する。

 リィムナはサンドイッチガールになって宣伝。パンや店主の笑顔を描いた板を、体の両面に付けていたのだ。
 リィムナはトランペットを、ぽー! と吹いた。通行人の足を止める。そして、
「サスケとオトクのパン屋さん! ジルベリアの味覚! ふっくらおいしいよ!」
 よく通る声で口上あげつつ、チラシを配布。
 彼女のパフォーマンスは通行人の気を惹いた。多くの人がチラシを受け取る。

 鈴もチラシ配りを行っていた。不安そうな表情ながら懸命に。
 今は休憩中。公園に御座を引いて、昼食をとる。食べているのは、揚げパン。
「おねーちゃん、なに食べてるのー?」
 と遊んでいた子供たちが声をかけてくる。鈴はオコジョ尻尾を揺らし
「え、と‥‥これは、パン、で‥‥その‥‥此処、に‥‥お店‥‥が‥‥」
 と、説明しチラシを渡す。

 はたして宣伝の効果はあったようだ。昨日よりも確実に訪れる人々が増えた。
 主婦たちに受けているのは、甘いアンパンやジャムパン。
 子供たちには、安価なパンの耳揚げ砂糖まぶしが人気。揚げパンも好評だ。
 親をつれてきて、醤油漬け肉を挟んだものや、塩漬け肉サンドを買う育ち盛りの子もいる。

 夜が来て、閉店。
 魚座は厨房で明日の仕込みをしながら、サスケと世間話。
「私の故郷ではパン生地にコケモモを入れたり、シロップ、砂糖、ベリー類、それから麦汁をいれて甘いパンを焼くんだよ」
「生地に味をつけたパンか‥‥うちでもできるかな? 魚座さん、もっと詳しく頼む」
 魚座の話に、サスケの声が弾む。

 二人の声は、売り場で清掃をする和奏へも届いていた。
「お客様も、サスケさんもオトクさんも変わってきています‥‥きっといい結果を出せる筈」
 陳列台を布でふきつつ、和奏は共に作業する仲間に語った。

●ありがとうございます
 四日目の昼の厨房で。ジュウ。鍋から音。
 和奏が卵を焼いている。同時進行で、まな板上の野菜を刻む。出来上がった目玉焼きとサラダ、それからトーストを皿に盛り、牛乳と一緒にお盆に。
「出来上がりました。リィムナさんお願いします」
 と、リィムナに渡す。
 エプロンドレス姿のリィムナは、皿を受け取ると、表の縁台に座る客の元へ。
「お待たせ! トーストの定食だよっ」
 爽やかな笑顔とともに、お盆を渡す。客はありがとう、と笑顔を返してくれた。
 この日から「パンの店」で定食も始める事にしたのだ。需要は多くないが、偶には変わった昼ご飯を食べたいと言う人たちから、ときどき注文が入る。

 その頃、売り場では、主婦が興味深そうに商品を眺めていた。ふとパンが陳列されている傍に、張り紙があるのに気付く。
「へえ‥‥別売りのジャムを乗せるとおいしいのね。ためしに一食分買ってみようかしら?」
 張り紙には、パンの食べ方が挿絵つきで書かれている。
 張り紙は、祇杏が作成したもの。
 祇杏は売り場で接客をしていたが、婦人が張り紙を興味深く読んでいるのを見て、
(新しいものに踏み出すのは難しいものですが‥‥今回はどうやら興味を持ってもらえたようですね)
 満足そうに笑みを浮かべる。

 お客が増えだし、増えたお客の評判を聞いて別の客が来る。忙しさは増し、時間は過ぎる。
 そして――七日目の夕方になった。
 この日もパンの売れ行きは好調だ。
 今も、ガレットを一人の婦人が買っていく。
「あり、がとう‥‥ござい、ま‥‥す‥‥。お値段‥‥文に、なりま‥‥す‥‥」
 鈴はか細い声ながら、誠実に対応する
 婦人はお金を払い、嬉しそうに帰っていく。鈴はペコっとお辞儀してお見送り。
 そして時間と店内を確認した。もう店じまいの時間だ。今日の分の商品は、ほとんど売り切れている。

 閉店後の店内で、オトクとサスケは、開拓者七人みなにお辞儀する。
「みんな、ありがとうね!」
「これからも頑張っていけそうだ、ありがとよ!」
 二人の心からの声が、店内に大きく響いた。